本発明は、希薄燃焼可能な内燃機関より排出される排気ガスから窒素酸化物(NOx)を浄化することができる排気浄化装置に係り、特にNOx触媒の熱劣化を検出することができるものに関する。
希薄燃焼可能な内燃機関より排出される排気ガスからNOxを浄化する排気浄化装置として、吸蔵還元型NOx触媒がある。吸蔵還元型NOx触媒(以下、単に触媒あるいはNOx触媒ということもある)は、流入排気ガスの空燃比がリーン(即ち、酸素過剰雰囲気下)のときにNOxを吸収し、流入排気ガスの酸素濃度が低下したときに吸収したNOxを放出しN2に還元する触媒である。
NOx触媒の構造、およびNOx浄化のメカニズムについて簡単に説明すると、NOx触媒は、アルミナなどの担体上に、白金(Pt)などの触媒物質とバリウム(Ba)などのNOx吸蔵剤を坦持してなり(以下の説明では、PtとBaが坦持されてなるNOx触媒の例で説明する)、NOx触媒にリーン空燃比の排気ガスが流入すると、排気ガス中のNOxはPtの表面で酸化されてNO2になり、このNO2がBa内に吸収されてBaOと結合し、硝酸イオンNO3ーの形で吸収される。このNOxの吸収はBaとPtとの界面において行われる。一方、NOx触媒にストイキ(理論空燃比)またはリッチ空燃比の排気ガスが流入して酸素濃度が低下すると、NOx触媒に吸収されていたNO3ーがNO2あるいはNOの形で放出され、さらに排気ガス中のHCやCOと反応してN2に還元せしめられる。
したがって、このNOx触媒を希薄燃焼可能な内燃機関の排気通路に配置し、リーン空燃比の排気ガスと、ストイキまたはリッチ空燃比の排気ガスを交互に流すと、排気ガス中のNOxを浄化することができる。
このNOx触媒を排気ガス浄化に長期に使用していると、このNOx触媒は経時劣化し、図5に示すようにNOx浄化能力が低下していくことが知られている。この劣化は(a)燃料中の硫黄と(b)熱に原因があると考えられており、燃料中の硫黄に起因する劣化を硫黄被毒劣化といい、熱に起因する劣化を熱劣化といって区別することもある。なお、硫黄被毒劣化はS被毒劣化あるいはSOx被毒劣化と表現することもあるが、以下の説明ではSOx被毒劣化という表現で統一する。
SOx被毒劣化について説明すると、一般に、内燃機関の燃料には硫黄分が含まれており、内燃機関で燃料を燃焼すると、燃料中の硫黄分が燃焼してSO2やSO3などの硫黄酸化物(SOx)が発生する。前記吸蔵還元型NOx触媒は、NOxの吸収作用を行うのと同じメカニズムで排気ガス中のSOxの吸収を行うので、内燃機関の排気通路にNOx触媒を配置すると、このNOx触媒にはNOxのみならずSOxも吸収される。
ところが、前記NOx触媒に吸収されたSOxは時間経過とともに安定な硫酸塩を形成するため、分解、放出されにくく触媒内に蓄積され易い傾向がある。NOx触媒に硫酸塩が蓄積されることをSOx被毒といい、SOx被毒が進行してNOx触媒内のSOx蓄積量が増大すると、触媒のNOx吸収容量が減少するためNOx浄化率が低下する。これがSOx被毒劣化である。
熱劣化について説明すると、前述したように、NOx触媒におけるNOxの吸収はPt(触媒物質)とBa(NOx吸収剤)との界面において行われるが、Ptは熱によってシン
タリングを起こし、成長して粒径が大きくなることが知られている。車両用内燃機関から排出される排気ガスの浄化においては、NOx触媒に加わる熱負荷が大きく、Ptのシンタリングを避けることはできない。このようにPtがシンタリングを起こすと、PtとBaの接触面積が少なくなり、即ち、PtとBaの界面が少なくなる。その結果、NOx触媒のNOx吸収能力が低下し、NOx浄化能力が低下する。これが熱劣化である。
図12は、触媒物質のシンタリング(触媒物質の粒径成長)がNOx浄化性能に与える影響を示しており、触媒物質のシンタリングが進んでいないとき(即ち、粒径が小さいとき)にはNOx浄化性能が高く、シンタリングが進むにしたがって(即ち、粒径が大きくなるにしたがって)NOx浄化性能が低下する。
特許2745985号公報
ところで、前記SOx被毒劣化については、特許番号第2745985号の特許公報等に開示されているように、所定の回復処理を施すことによって、NOx触媒に吸収されているSOxを放出させSO2に還元することができるので、NOx触媒をSOx被毒から回復させることが可能である。
これに対して、一度シンタリングを起こしたPtをシンタリングする前の状態に戻すことは不可能であり、したがって、NOx触媒を熱劣化から回復させることは不可能である。そのため、NOx触媒を管理する上で、NOx触媒の熱劣化の度合い(熱劣化レベル)を検出することは重要な意味がある。
しかしながら、現在のところ熱劣化度合いを検出する技術は確立されておらず、熱劣化の度合いを検出する技術の開発が切望されている。本発明はこのような従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いの検出技術を確立することにより、内燃機関の排気浄化技術の向上を図ることにある。
本発明は前記課題を解決するために、以下の手段を採用した。第1の発明にかかる内燃機関の排気浄化装置は、(イ)希薄燃焼可能な内燃機関の排気通路に設けられ、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにNOxを吸収し流入する排気ガスの酸素濃度が低いときに吸収したNOxを放出しN2に還元する吸蔵還元型NOx触媒と、(ロ)前記吸蔵還元型NOx触媒からSOxを放出させるSOx被毒回復処理を実行する時期か否かを判定する被毒回復実行時期判定手段と、(ハ)前記被毒回復実行時期判定手段により実行時期であると判定されたときに、前記吸蔵還元型NOx触媒に堆積しているSOxのほぼ全量を放出せしめて該吸蔵還元型NOx触媒をSOx 被毒から回復させる被毒回復手段と、(ニ)前記吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力を検出する吸蔵能力検出手段と、(ホ)前記被毒回復手段によりSOx被毒回復処理を実行した後に前記吸蔵能力検出手段によって検出された前記吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力と基準となるNOx吸蔵能力とを比較し、その比較値に基づいて該吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いを判定する熱劣化判定手段と、を備えることを特徴とする。
この内燃機関の排気浄化装置では、被毒回復実行時期判定手段が、吸蔵還元型NOx触媒に対してSOx被毒回復処理を実行すべき時期であると判定すると、被毒回復手段が、吸蔵還元型NOx触媒に対するSOx被毒回復処理を実行し、吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているSOxをほぼ完全に放出する。そして、SOx被毒回復処理の完了直後に、吸蔵能力検出手段は吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力を検出する。この後、熱劣化判定手
段が、吸蔵能力検出手段によって検出されたNOx吸蔵能力と基準となるNOx吸蔵能力とを比較し、その比較値に基づいて吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いを判定する。
熱劣化度合いの判定原理は次の通りである。吸蔵還元型NOx触媒の劣化には、燃料中の硫黄に起因するSOx被毒劣化と、熱に起因する熱劣化があるが、SOx被毒劣化は所定の被毒回復処理を実行すれば回復することができるのに対して、熱劣化は一旦生じてしまうと回復することができない。したがって、SOx被毒回復処理を実行してもなお性能回復不能な部分は熱劣化によるものとみなすことができる。これが本発明における熱劣化度合い判定の原理である。
第1の発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記熱劣化判定手段が基準とするNOx吸蔵能力は、SOx被毒劣化および熱劣化のいずれも受けていない新品の吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力とすることができる。
前記熱劣化判定手段が、前記吸蔵能力検出手段によって検出された前記吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力と基準となるNOx吸蔵能力とを比較して求める比較値は、両者の差としてもよいし、一方を他方で除した商としてもよい。
また第2の発明にかかる内燃機関の排気浄化装置は、(イ)希薄燃焼可能な内燃機関の排気通路に設けられ、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにNOxを吸収し流入する排気ガスの酸素濃度が低いときに吸収したNOxを放出しN2に還元する吸蔵還元型NOx触媒と、(ロ)前記吸蔵還元型NOx触媒からSOxを放出させるSOx被毒回復処理を実行する時期か否かを判定する被毒回復実行時期判定手段と、(ハ)前記被毒回復実行時期判定手段により実行時期であると判定されたときに、前記吸蔵還元型NOx触媒に堆積しているSOxのほぼ全量を放出せしめて該吸蔵還元型NOx触媒をSOx 被毒から回復させる被毒回復手段と、(ニ)前記吸蔵還元型NOx触媒のNOx浄化率を測定する浄化率測定手段と、(ホ)前記被毒回復手段によりSOx被毒回復処理を実行した後に前記浄化率測定によって測定された前記吸蔵還元型NOx触媒のNOx浄化率基準となるNOx浄化率を比較し、その比較値に基づいて該吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いを判定する熱劣化判定手段と、を備えることを特徴とする。
第2の発明では、前記NOx浄化率測定手段は、NOx触媒に流入する排気ガス中のNOx量と、NOx触媒の下流に設置したNOx検出手段による排気ガス中のNOx量に基づいてNOx浄化率を測定することができる。第2の発明の内燃機関の排気浄化装置では、被毒回復実行時期判定手段が、吸蔵還元型NOx触媒に対してSOx被毒回復処理を実行すべき時期であると判定すると、被毒回復手段が、吸蔵還元型NOx触媒に対するSOx被毒回復処理を実行し、吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているSOxをほぼ完全に放出する。そして、SOx被毒回復処理の完了直後に、浄化率測定手段は吸蔵還元型NOx触媒のNOx浄化率を測定する。この後、熱劣化判定手段が、浄化率測定手段によって測定されたNOx浄化率と基準となるNOx浄化率とを比較し、その比較値に基づいて吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いを判定する。
熱劣化度合いの判定原理は次の通りである。吸蔵還元型NOx触媒の劣化には、燃料中の硫黄に起因するSOx被毒劣化と、熱に起因する熱劣化があるが、SOx被毒劣化は所定の被毒回復処理を実行すれば回復することができるのに対して、熱劣化は一旦生じてしまうと回復することができない。したがって、SOx被毒回復処理を実行してもなお性能回復不能な部分は熱劣化によるものとみなすことができる。これが本発明における熱劣化度合い判定の原理である。
第2の発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記熱劣化判定手段が基準とす
るNOx浄化率は、SOx被毒劣化および熱劣化のいずれも受けていない新品の吸蔵還元型NOx触媒のNOx浄化率とすることができる。
前記熱劣化判定手段が、前記浄化率測定手段によって測定された前記吸蔵還元型NOx触媒のNOx浄化率と基準となるNOx浄化率とを比較して求める比較値は、両者の差としてもよいし、一方を他方で除した商としてもよい。
第1及び第2の発明(以下、本発明)における希薄燃焼可能な内燃機関としては、筒内直接噴射式のリーンバーンガソリンエンジンやディーゼルエンジンを例示することができる。排気ガスの空燃比とは、機関吸気通路及び吸蔵還元型NOx触媒よりも上流での排気通路内に供給された空気及び燃料(炭化水素)の比をいう。
内燃機関がリーンバーンガソリンエンジンの場合には、排気空燃比制御手段は、燃焼室に供給される混合気の空燃比を制御することにより排気ガスの空燃比を制御することができる。また、内燃機関がディーゼルエンジンの場合には、吸気行程または膨張行程または排気行程で燃料を噴射する所謂副噴射により、あるいは、吸蔵還元型NOx触媒よりも上流の排気通路内に還元剤を供給することにより排気ガスの空燃比を制御することができる。
吸蔵還元型NOx触媒は、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにNOxを吸収し、流入する排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOxを放出し、N2に還元する触媒である。この吸蔵還元型NOx触媒は、例えばアルミナを担体とし、この担体上に例えばカリウムK、ナトリウムNa、リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つと、白金Ptのような貴金属とが担持されてなる。
また前記吸蔵能力検出手段は、吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵状態を飽和状態にした後、該吸蔵還元型NOx触媒へ流入する排気ガスの空燃比をリーンからリッチに切り替えてリッチに維持し、この空燃比の切り替えから該吸蔵還元型NOx触媒の出口の排気ガスの空燃比がリッチになるまでの所要時間をNOx吸蔵能力のバロメータとして検出することができる。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記被毒回復実行時期判定手段は、前記吸蔵能力検出手段によって検出された吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力が所定の下限値を下回ったときにSOx被毒回復処理の実行時期であると判定することができる。この場合には、例えば、一定の燃料消費量毎あるいは一定の走行距離毎に吸蔵能力検出手段によって吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力を検出するのが好ましい。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記吸蔵還元型NOx触媒に流入する排気ガスのSOx濃度を検出する入ガスSOx濃度検出手段を備えた場合、前記入ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度と前記内燃機関の吸入空気量とに基づいて、吸蔵還元型NOx触媒に流入するSOx量を算出し、この吸蔵還元型NOx触媒に流入するSOx量が所定量を超えたときに、前記被毒回復実行時期判定手段は、SOx被毒回復処理の実行時期であると判定することができる。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記吸蔵還元型NOx触媒に流入する排気ガスのSOx濃度を検出する入ガスSOx濃度検出手段をさらに備えた場合、前記入ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度から推定した前記内燃機関の燃料の硫黄濃度と、燃料消費量または走行距離と、に基づいて、前記吸蔵還元型NOx触媒に流入するSOx量を算出し、前記吸蔵還元型NOx触媒に流入するSOx量が所定量を越えたと
きに、前記被毒回復実行時期判定手段は、SOx被毒回復処理の実行時期であると判定することができる。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記吸蔵還元型NOx触媒に流入する排気ガスのSOx濃度を検出する入ガスSOx濃度検出手段と、前記吸蔵還元型NOx触媒から流出する排気ガスのSOx濃度を検出する出ガスSOx濃度検出手段と、をさらに備えた場合、前記入ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度と前記出ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度との濃度差と、前記内燃機関の吸入空気量あるいは排気ガス量と、に基づいてSOx吸蔵量を推定し、このSOx吸蔵量が所定量を越えたときに、前記被毒回復実行時期判定手段が、SOx被毒回復処理の実行時期であると判定することができる。吸蔵還元型NOx触媒の上流のSOx濃度が吸蔵還元型NOx触媒の下流のSOx濃度よりも大きい場合、その濃度差分が吸蔵還元型NOx触媒に吸収されると考えることができるからである。
前記吸蔵還元型NOx触媒に流入する排気ガスのSOx濃度を検出する入ガスSOx濃度検出手段と、該吸蔵還元型NOx触媒から流出する排気ガスのSOx濃度を検出する出ガスSOx濃度検出手段とを備え、前記被毒回復実行時期判定手段は、前記出ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度が前記入ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度に対して所定レベルまで接近したときに、SOx被毒回復処理の実行時期であると判定することができる。吸蔵還元型NOx触媒のSOx蓄積量が飽和状態に近付くにしたがって、吸蔵還元型NOx触媒の下流のSOx濃度が吸蔵還元型NOx触媒の上流のSOx濃度に近付いていくからである。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記入ガスSOx濃度検出手段と出ガスSOx濃度検出手段とを備えた場合には、前記被毒回復手段によりSOx 被毒回復処理を実行しているときにおける、前記出ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度と前記入ガスSOx濃度検出手段により検出されたSOx濃度との濃度差と、前記内燃機関の吸入空気量あるいは排気ガス量と、に基づいて、前記吸蔵還元型NOx触媒から放出される放出SOx量を推定し、この放出SOx量を、前記吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されたと推定されるSOx吸蔵量から減算することで、前記吸蔵還元型NOx触媒に残存するSOx残存量を推定し、このSOx残存量が所定量まで減少したときに、前記被毒回復手段によるSOx 被毒回復処理を終了することができる。吸蔵還元型NOx触媒の下流のSOx濃度が吸蔵還元型NOx触媒の上流のSOx濃度よりも大きい場合、その濃度差分が吸蔵還元型NOx触媒から放出したSOxである考えることができ、これと吸入空気量あるいは排気ガス量とに基づいて放出SOx量を算出推定することができるからである。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置においては、前記吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化を抑制する熱劣化抑制手段を備え、この熱劣化抑制手段は、前記熱劣化判定手段により判定された熱劣化度合いが所定レベル以下のときには作動されず、前記所定レベルを超えたときに作動されるようにすることができる。これにより、それ以上に熱劣化が進行するのを抑制することができ、吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸蔵能力の低下を抑制することができる。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記熱劣化抑制手段は、内燃機関の高温運転域でのフューエルカットを禁止するフューエルカット禁止制御とすることができる。高温運転域でフューエルカットを行うと、高温の吸蔵還元型NOx触媒が高温状態にあるときに酸素濃度の高い排気ガスを流すことになり、熱劣化の原因である触媒物質のシンタリングを促進させてしまう。高温運転域でのフューエルカットを禁止すれば、これを防止することができる。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置において、前記熱劣化抑制手段は、内燃機関の高温運転域におけるリーン運転領域を減少するリーン運転領域減少制御とすることができる。高温運転域におけるリーン運転領域を減少させることにより、高温運転域で酸素濃度の高い排気ガスが吸蔵還元型NOx触媒に流れるのを減少させることができ、その結果、吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化を抑制することができる。さらに前記熱劣化抑制手段は、熱劣化の度合いに応じてNOx触媒に流入するリッチまたはストイキの排気ガス量を増大させ、または/及びリッチまたはストイキの排気ガスをNOx触媒に流入させる周期を短くするリッチスパイク制御とすることができる。このようにして熱劣化の程度に応じてNOxの放出、還元をさせるための還元剤の量を多くして、吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化による作用低下を抑制することができる。
本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置によれば、吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いを判定する熱劣化判定手段を備えることにより、吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いを判定することができる。したがってNOx浄化性能が低下してこれが回復できないものであることを知ることができ、触媒の交換等によって排気ガス中のNOxが浄化されなくなる状況を回避できる。
また本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置は、前記吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化を抑制する熱劣化抑制手段を備え、この熱劣化抑制手段は、前記熱劣化判定手段により判定された熱劣化度合いが所定レベル以下のときには作動せず、前記所定レベルを超えたときに作動するようにした場合には、吸蔵還元型NOx触媒の熱劣化度合いが前記所定レベルに達した以後の熱劣化の進行を抑制することができる。
以下、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の実施例を図1から図11の図面に基いて説明する。
図1は本発明を希薄燃焼可能な車両用ガソリンエンジンに適用した場合の概略構成を示す図である。この図において、符号1は機関本体、符号2はピストン、符号3は燃焼室、符号4は点火栓、符号5は吸気弁、符号6は吸気ポート、符号7は排気弁、符号8は排気ポートを夫々示す。
吸気ポート6は対応する枝管9を介してサージタンク10に連結され、各枝管9には夫々吸気ポート6内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁11が取り付けられている。サージタンク10は吸気ダクト12およびエアフロメータ21を介してエアクリーナ13に連結され、吸気ダクト12内にはスロットル弁14が配置されている。
一方、排気ポート8は排気マニホルド15および排気管16を介して吸蔵還元型NOx触媒17(以下の説明では、NOx触媒と略す場合もある)を内蔵したケーシング18に接続され、ケーシング18は排気管19を介して図示しないマフラーに接続されている。
エンジンコントロール用の電子制御ユニット(ECU)30はデジタルコンピュータからなり、双方向バス31によって相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(セントラルプロセッサユニット)34、入力ポート35、出力ポート36を具備する。エアフロメータ21は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧がAD変換器38を介して入力ポート35に入力される。
ケーシング18の上流の排気管16には、NOx触媒17に流入する排気ガス(以下、これを入ガスという)のSOx濃度に比例した出力電圧を発生する入ガスSOxセンサ(入ガスSOx濃度検出手段)23が設けられている。一方、ケーシング18の下流の排気管19には、NOx触媒17から流出する排気ガス(以下、これを出ガスという)のSOx濃度に比例した出力電圧を発生する出ガスSOxセンサ(出ガスSOx濃度検出手段)24と、出ガスの温度に比例した出力電圧を発生する温度センサ25と、出ガスの空燃比を表す出力電圧を発生する空燃比センサ27とが取り付けられている。これらSOxセンサ23,24、温度センサ25、空燃比センサ27の出力電圧はそれぞれ対応するAD変換器38を介して入力ポート35に入力される。
また、入力ポート35には機関回転数を表す出力パルスを発生する回転数センサ26が接続されている。出力ポート36は対応する駆動回路39を介して夫々点火栓4および燃料噴射弁11に接続されている。
このガソリンエンジンでは、例えば次式に基づいて燃料噴射時間TAUが算出される。TAU=TP・K
ここで、TPは基本燃料噴射時間を示しており、Kは補正係数を示している。基本燃料噴射時間TPは機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比を理論空燃比とするのに必要な燃料噴射時間を示している。この基本燃料噴射時間TPは予め実験により求められ、機関負荷Q/N(吸入空気量Q/機関回転数N)および機関回転数Nの関数として図2に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されている。補正係数Kは機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比を制御するための係数であって、K=1.0であれば機関シリンダ内に供給される混合気は理論空燃比となる。これに対してK<1.0になれば機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比は理論空燃比よりも大きくなり、即ちリーンとなり、K>1.0になれば機関シリンダ内に供給される混合気の空燃比は理論空燃比よりも小さくなり、即ちリッチとなる。
そして、この実施例のガソリンエンジンでは、機関低中負荷運転領域では補正係数Kの値が1.0よりも小さい値とされてリーン空燃比制御が行われ、機関高負荷運転領域、エンジン始動時の暖機運転時、加速時、高速の定速運転時では補正係数Kの値が1.0とされてストイキ制御が行われ、機関全負荷運転領域では補正係数Kの値は1.0よりも大きな値とされてリッチ空燃比制御が行われるように設定してある。
内燃機関では通常、低中負荷運転される頻度が最も高く、したがって運転期間中の大部分において補正係数Kの値が1.0よりも小さくされて、リーン混合気が燃焼せしめられることになる。
図3は燃焼室3から排出される排気ガス中の代表的な成分の濃度を概略的に示している。この図からわかるように、燃焼室3から排出される排気ガス中の未燃HC,COの濃度は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比がリッチになるほど増大し、燃焼室3から排出される排気ガス中の酸素O2の濃度は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比がリーンになるほど増大する。
ケーシング18内に収容されているNOx触媒(吸蔵還元型NOx触媒)17は、例えばアルミナを担体とし、この担体上に例えばカリウムK、ナトリウムNa、リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つと、白金Ptのような貴金属とが担持されてなる。
このNOx触媒17を機関の排気通路に配置すると、NOx触媒17は、流入する排気ガ
スの空燃比(以下、排気空燃比ということもある)がリーンのときにはNOxを吸収し、流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOxを放出するNOxの吸放出作用を行う。ここで、排気空燃比とは、機関吸気通路およびNOx触媒17より上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比をいう。
なお、NOx触媒17より上流の排気通路内に燃料(炭化水素)あるいは空気が供給されない場合には、排気空燃比は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比に一致し、したがってこの場合には、NOx触媒17は燃焼室3内に供給される混合気の空燃比がリーンのときにはNOxを吸収し、燃焼室3内に供給される混合気中の酸素濃度が低下すると吸収したNOxを放出することになる。
NOx触媒17によるNOxの吸放出作用は図4に示すようなメカニズムで行われているものと考えられる。以下、このメカニズムについて担体上に白金PtおよびバリウムBaを担持させた場合を例にとって説明するが、他の貴金属,アルカリ金属,アルカリ土類,希土類を用いても同様なメカニズムとなる。
まず、流入排気ガスがかなりリーンになると流入排気ガス中の酸素濃度が大巾に増大し、図4(A)に示されるように酸素O2 がO2 -又はO2-の形で白金Ptの表面に付着する。一方、流入排気ガスに含まれるNOは、白金Ptの表面上でO2 -又はO2-と反応し、NO2となる(2NO+O2 →2NO2 )。
次いで、生成されたNO2の一部は、白金Pt上で酸化されつつBa内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合しながら、図4(A)に示されるように硝酸イオンNO3 -の形でBa内に拡散する。このようにしてNOxがNOx触媒17内に吸収される。
流入排気ガス中の酸素濃度が高い限り白金Ptの表面でNO2が生成され、NOx触媒17のNOx 吸収能力が飽和しない限り、NO2がNOx触媒17内に吸収されて硝酸イオンNO3 -が生成される。
これに対して、流入排気ガス中の酸素濃度が低下してNO2の生成量が低下すると反応が逆方向(NO3 -→NO2)に進み、Ba内の硝酸イオンNO3 -がNO2またはNOの形でBaから放出される。即ち、流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると、NOx触媒17からNOxが放出されることになる。図3に示されるように、流入排気ガスのリーンの度合いが低くなれば流入排気ガス中の酸素濃度が低下し、したがって流入排気ガスのリーンの度合いを低くすればNOx触媒17からNOxが放出されることとなる。
一方、このとき、燃焼室3内に供給される混合気がストイキまたはリッチ空燃比になると、図3に示されるように機関からは多量の未燃HC,COが排出され、これら未燃HC,COは、白金Pt上の酸素O2 -又はO2-と反応して酸化せしめられる。
また、排気空燃比が理論空燃比またはリッチ空燃比になると流入排気ガス中の酸素濃度が極度に低下するためにNOx触媒17からNO2またはNOが放出され、このNO2またはNOは、図4(B)に示されるように未燃HC、COと反応して還元せしめられてN2となる。
即ち、流入排気ガス中のHC,COは、まず白金Pt上の酸素O2 -又はO2-とただちに反応して酸化せしめられ、次いで白金Pt上の酸素O2 -又はO2-が消費されてもまだHC,COが残っていれば、このHC,COによってNOx触媒17から放出されたNOxおよび流入排気ガス中のNOxがN2に還元せしめられる。
このようにして白金Ptの表面上にNO2またはNOが存在しなくなると、NOx触媒17から次から次へとNO2またはNOが放出され、さらにN2に還元せしめられる。したがって、排気空燃比を理論空燃比またはリッチにすると短時間の内にNOx触媒17からNOxが放出されることになる。
このように、排気空燃比がリーンになるとNOxがNOx触媒17に吸収され、排気空燃比を理論空燃比あるいはリッチにするとNOxがNOx触媒17から短時間のうちに放出され、N2に還元される。したがって、大気中へのNOxの排出を阻止することができる。
ところで、この実施例では前述したように、全負荷運転時には燃焼室3内に供給される混合気がリッチとされ、また高負荷運転時等には混合気が理論空燃比とされ、低中負荷運転時には混合気がリーンとされるので、低中負荷運転時に排気ガス中のNOxがNOx触媒17に吸収され、全負荷運転時及び高負荷運転時等にNOx触媒17からNOxが放出され還元されることになる。しかしながら、全負荷運転あるいは高負荷運転等の頻度が少なく、低中負荷運転の頻度が多くその運転時間が長ければ、NOxの放出・還元が間に合わなくなり、NOx触媒17のNOxの吸収能力が飽和してNOxを吸収できなくなってしまう。
そこで、この実施例では、リーン混合気の燃焼が行われている場合、即ち中低負荷運転を行っているときには、比較的に短い周期でスパイク的(短時間)にストイキまたはリッチ混合気の燃焼が行われるように混合気の空燃比を制御し、短周期的にNOxの放出・還元を行っている。このようにNOxの吸放出のために、排気空燃比(この実施例では混合気の空燃比)が比較的に短い周期で「リーン」と「スパイク的な理論空燃比またはリッチ空燃比(リッチスパイク)」を交互に繰り返されるように制御することを、リーン・リッチスパイク制御と称している。尚、この出願においては、リーン・リッチスパイク制御はリーン空燃比制御に含まれるものとする。
一方、燃料には硫黄(S)が含まれており、燃料中の硫黄が燃焼するとSO2やSO3などの硫黄酸化物(SOx)が発生し、NOx触媒17は排気ガス中のこれらSOxも吸収する。NOx触媒17のSOx吸収メカニズムはNOx吸収メカニズムと同じであると考えられる。即ち、NOxの吸収メカニズムを説明したときと同様に担体上に白金PtおよびバリウムBaを坦持させた場合を例にとって説明すると、前述したように、排気空燃比がリーンのときには、酸素O2がO2 -又はO2-の形でNOx触媒17の白金Ptの表面に付着しており、流入排気ガス中のSOx(例えばSO2)は白金Ptの表面上で酸化されてSO3となる。
その後、生成されたSO3は、白金Ptの表面で更に酸化されながらBa内に吸収されて酸化バリウムBaOと結合し、硫酸イオンSO4 2-の形でBa内に拡散し硫酸塩BaSO4を形成する。このBaSO4は結晶が粗大化し易く、比較的安定し易いため、一旦生成されると分解・放出されにくい。そして、NOx触媒17中のBaSO4の生成量が増大するとNOx触媒17の吸収に関与できるBaOの量が減少してNOxの吸収能力が低下してしまう。これが即ちSOx被毒である。したがって、NOx触媒17のNOx吸収能力を高く維持するためには、適宜のタイミングでNOx触媒17に吸収されたSOxを放出させるためのSOx被毒回復処理を実行する必要がある。
NOx触媒17からSOxを放出させるためには、流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比またはリッチ空燃比にする必要があり、また、NOx触媒17の触媒温度が高いほど放出し易いことがわかっている。そこで、SOx被毒回復処理は、NOx触媒17の触媒温度をSOxが放出され易い所定の高温(以下、これをSOx放出温度という)にし、理論空燃比またはリッチ空燃比の排気ガスをNOx触媒17に流すことにより実行する。
そして、この実施例では、SOx被毒回復処理のために排気ガスの空燃比を理論空燃比またはリッチ空燃比にする場合も、燃料噴射弁11から噴射される燃料量をECU30により制御して燃焼室3に供給される混合気の空燃比を理論空燃比またはリッチ空燃比に制御することにより行う。よって、ECU30と燃料噴射弁11は被毒回復手段の一部を構成する。
次に、この実施例における排気浄化装置のNOx触媒17の熱劣化度合い検出方法について説明する。図5は、NOx触媒17のSOx被毒が所定レベルに達するたびに、NOx触媒17に吸蔵されていたSOxが完全に放出されるまでSOx被毒回復処理を実行し、そのSOx被毒回復直後のNOx触媒17のNOx浄化性能を測定した一実験結果をグラフにしたものである。NOx触媒17のNOx浄化性能は、SOx被毒回復処理を実行する毎に低下している。
前述したように、NOx触媒17のSOx被毒劣化はSOx被毒回復処理を実行することにより回復可能であるが、NOx触媒17の熱劣化については被毒回復が不可能であることから、SOx被毒回復処理直後の性能回復部分はSOx被毒に起因した性能低下ということができ、性能回復不能部分は熱劣化に起因する性能低下ということができる。
したがって、NOx触媒17の新品時のNOx吸蔵能力と、SOx被毒回復処理直後のNOx触媒17のNOx吸蔵能力を検出することができれば、これらのNOx吸蔵能力の差から熱劣化の度合いを検知することができる。
この実施例では、次のようにしてNOx吸蔵能力を検出する。まず、NOx触媒17にリーン空燃比の排気ガスを流し続けてNOx触媒17のNOx吸蔵能力を飽和させ、これ以上NOxを吸蔵できない状態にする。次に、NOx触媒17に流入する排気ガス、すなわち入ガスの空燃比をリーンからリッチに切り替え、リッチ空燃比の排気ガスをNOx触媒17に流し続けて、NOx触媒17に吸蔵されていたNOxの全量を放出・還元させる。このとき、入ガスの空燃比をリーンからリッチに切り替えても、NOx触媒17の出口の排気ガス、すなわち出ガスの空燃比は直ぐにはリッチに切り替わらず、しばらくの間は理論空燃比近傍になる。これは、NOx触媒17に吸蔵されていたNOxの還元に入ガス中のHCやCOが還元剤として消費されるためである。そして、NOx触媒17に吸蔵されていたNOxの総てが放出・還元されて、入ガス中のHCやCOが還元剤として消費されなくなったときに、出ガスの空燃比がリッチに変わる。
したがって、このようにNOx触媒17のNOx吸蔵能力を飽和させた後にNOxの放出・還元処理(以下、この処理のことを飽和NOx放出処理という)を実行し、そのときの出ガスの空燃比を空燃比センサ27で検出し、飽和NOx放出処理を開始してから出ガスの空燃比が理論空燃比を保持する時間、換言すれば出ガスの空燃比が理論空燃比からリッチに切り替わるまでの時間を計測すれば、その所要時間(以下、この所要時間をリッチ切り替わり時間という)はNOx触媒17のNOx吸蔵能力を表すバロメータになり、すなわちNOx触媒17の浄化性能のバロメータになる。
図6は、飽和NOx放出処理時における入ガスの空燃比と出ガスの空燃比の時間的変化の一例を示しており、新品のNOx触媒17ではリッチ切り替わり時間がt1であるのに対して、熱劣化がある程度進行したNOx触媒17のリッチ切り替わり時間はt1よりも短いt2になる。
また、この実施例では、NOx触媒17に対してSOx被毒回復処理を実行する時期の判定にも、リッチ切り替わり時間を用いて判定する。詳述すると、この実施例の排気浄化装
置では、例えば一定の走行距離毎あるいは一定の燃料消費量毎などの適宜のタイミングでNOx触媒17に対して飽和NOx放出処理を実行し、そのときのリッチ切り替わり時間を計測する。そして、計測されたリッチ切り替わり時間が図6に示す所定時間t3よりも短くなったときは、NOx触媒17のNOx浄化性能が所定レベルまで低下したものとみなすことができるので、このときをSOx被毒回復処理を実行すべき時期であると判定する。
さらに、この実施例の排気浄化装置では、SOx被毒回復処理の完了後に飽和NOx放出処理を実行してリッチ切り替わり時間を計測し、計測されたリッチ切り替わり時間t2と新品のNOx触媒17のリッチ切り替わり時間t1との差を算出し、その差が所定時間t4よりも長くなったときには、NOx触媒17の熱劣化が所定の度合いまで進んだと判断して、熱劣化を抑制すべく熱劣化抑制手段を作動する。なお、新品のNOx触媒17のリッチ切り替わり時間t1は予め実験的に求めてECU30のROM32に記憶しておき、また、熱劣化抑制手段を作動させるべきと判定するときの閾値t4も予め設定してECU30のROMに記憶しておく。
次に、熱劣化の抑制方法について説明すると、たとえば、一般にエンジンでは減速運転になったときにはフューエルカットを実行しているが、熱劣化が所定度合いまで進行したときには、エンジンが高温運転域にあるときに減速運転となったときにはフューエルカットを禁止することにより熱劣化を抑制することができる。これは、エンジンが高温運転域にあるとNOx触媒17も高温状態になっており、このときにフューエルカットを行うと酸素濃度が高い排気ガスがNOx触媒17に流入することになる。NOx触媒17における触媒物質(Pt)のシンタリングは、触媒温度が同じ場合、酸素濃度が高いほどシンタリングの進行速度が速いことが知られている。したがって、高温運転域の減速時にフューエルカットを行うと、触媒温度が高温のときに酸素濃度の高い排気ガスが流れることとなってシンタリングを促進させてしまう。そこで、高温運転域にあるときに減速運転になったときにはフューエルカットを禁止すれば、NOx触媒17のシンタリングを抑制し熱劣化を抑制することができる。この場合、高温運転域でのフューエルカットを禁止するフューエルカット禁止制御が熱劣化抑制手段を構成する。
また、別の熱劣化の抑制方法としては、熱劣化が所定度合いまで進行したときには、それ以前(すなわち、熱劣化が前記所定度合いまで進行していないとき)よりも、エンジンの高温運転域におけるリーン運転領域を減少せしめる方法がある。これも、前述と同じ理由であり、NOx触媒17の触媒温度が高いときには入ガスの酸素濃度を低くした方がNOx触媒17の熱劣化を抑制することができるからである。具体的な制御方法としては、熱劣化が所定度合いまで進行する以前に高温運転域で且つリーン運転領域であった領域の一部または全部を、熱劣化が所定度合いまで進行したとき以降はストイキ(理論空燃比)運転領域に変更する。この場合、高温運転域におけるリーン運転領域を減少するリーン運転領域減少制御が熱劣化抑制手段を構成する。
次に、図7を参照して、この実施例におけるNOx触媒17の熱劣化判定処理ルーチンを説明する。この制御ルーチンを構成する各ステップからなるフローチャートはECU30のROM32に記憶されており、この制御ルーチンは一定時間毎にCPU34によって実行される。
<ステップ101>まず、ECU100は、ステップ101において、NOx触媒17に対してSOx被毒回復処理を実行すべき時期か否か判定する。前述したように、この実施例では、SOx被毒回復処理実行時期か否かの判定は、所定期間毎に飽和NOx放出処理を行い、そのときに計測したリッチ切り替わり時間が閾値t3よりも小さくなったときをSOx被毒回復処理を実行すべき時期であると判定する。ステップ101で否定判定した場合には、ECU30は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
<ステップ102>ステップ101で肯定判定した場合には、ECU30は、ステップ102に進み、SOx被毒回復処理を実行する。SOx被毒回復処理は、NOx触媒17がSOx放出温度に達していない場合には、所定の昇温処理を実行してNOx触媒17の触媒温度をSOx放出温度以上にし、且つ、NOx触媒17の入ガスの空燃比をストイキよりも若干リッチにすることにより行う。
<ステップ103>次に、ECU30は、ステップ103に進み、SOx被毒回復処理が完了したか否か判定する。ここで、SOx被毒回復処理は、NOx触媒17に吸収されていたSOxをほぼ完全に放出するまで実行する。SOx被毒回復処理の完了の判定については後述する。ステップ103で否定判定した場合には、ECU30は、ステップ102に戻り、SOx被毒回復処理の実行を続行する。
<ステップ104,105>ステップ103で肯定判定した場合には、ECU30は、ステップ104に進み、飽和NOx放出処理を実行し、さらに、ステップ105に進み、リッチ切り替わり時間tを計測する。
<ステップ106>次に、ECU30は、ステップ106に進み、予めECU30のROM32に記憶されている新品のNOx触媒17のリッチ切り替わり時間t1と、ステップ105で計測したリッチ切り替わり時間tとの差を算出する。すなわち、現時点のNOx触媒17の熱劣化度合いを算出する。
<ステップ107>次に、ECU30は、ステップ107に進み、ステップ106で算出したリッチ切り替わり時間の差(熱劣化度合い)が予め設定した閾値t4以上か否か判定する。ステップ107で否定判定した場合には、ECU30は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
<ステップ108>ステップ107で肯定判定した場合には、NOx触媒17の熱劣化度合いが所定レベルまで達したと判定して、ECU30は、ステップ108に進み熱劣化抑制手段を作動して、本ルーチンの実行を一旦終了する。熱劣化抑制手段の作動により、すなわち、前述した高温運転域におけるフューエルカット禁止制御の実行、あるいは、高温運転域におけるリーン運転領域減少制御の実行により、以後のNOx触媒17の熱劣化の進行が抑制される。
なお、この実施例においては、熱劣化判定処理ルーチンのうちECU30がステップ101を実行することにより本発明における被毒回復実行時期判定手段が実現され、また、ECU30がステップ102を実行することにより本発明における被毒回復手段が実現され、また、ECU30がステップ104およびステップ105を実行することにより本発明における吸蔵能力検出手段が実現され、また、ECU30がステップ106およびステップ107を実行することにより本発明における熱劣化判定手段が実現される。
次に、この実施例におけるSOx被毒回復処理について図8を参照して説明する。図8は、この実施例におけるSOx被毒回復処理時のNOx触媒17の入ガスの空燃比と、入ガスSOxセンサ23で検出された入ガスのSOx濃度と、出ガスSOxセンサ24で検出された出ガスのSOx濃度の経時変化を示した図である。なお、SOx被毒回復処理実行期間中、NOx触媒17の触媒温度はSOx放出温度以上になっているものとする。
まず、SOx被毒回復処理実行指令により入ガスの空燃比をリーン空燃比から理論空燃比に変更し、さらに入ガスの空燃比のリッチ度を漸次増大していく。そして、出ガスSOxセンサ24で検出された出ガスSOx濃度が入ガスSOxセンサ23で検出された入ガス
SOx濃度に一致したとき、入ガスの空燃比を一致したときのリッチ空燃比で一定に保持する。出ガスSOx濃度が入ガスSOx濃度に一致した後は、実質的にNOx触媒17からSOxが放出されるため、出ガスSOx濃度の方が入ガスSOx濃度よりも大きくなり、所定濃度で出ガスSOx濃度がほぼ一定となる。さらにその後、NOx触媒17からのSOxの放出が続くと、NOx触媒17からのSOx放出量が減少するため、出ガスSOx濃度が低下していき、NOx触媒17に残留するSOxがなくなると、出ガスSOx濃度は入ガスSOx濃度よりも低くなっていく。したがって、出ガスSOx濃度が入ガスSOx濃度よりも所定値だけ低くなるまでSOx被毒回復処理を続行すれば、NOx触媒17をSOx被毒からほぼ完全に回復させたとみなすことができる。この実施例では、出ガスSOx濃度が図8において被毒回復完了レベル以下になるまでSOx被毒回復処理を続行することにした。
この実施例では、排気浄化装置のNOx触媒17の熱劣化度合いを、NOx触媒のNOx浄化率の変化に基づいて検出する場合について説明する。図13はこの実施例における排気浄化装置の概略図であり、機関本体40には4個の気筒41が設けられ、各気筒41に接続される吸気ポートには燃料噴射弁42が取り付けられている。吸気マニホールド43は、吸気ダクト44を介してエアクリーナ45に連結されている。 また吸気ダクト44内には、スロットル弁46が設けられている。
一方、排気マニホールド47及び排気管48を介して、吸蔵還元型NOx触媒50を内蔵したケーシング49に接続され、ケーシング49は排気管51を介して図示しないマフラーに接続されている。その他のECU30、NOx触媒17等の構成については、第1の実施例における排気浄化装置と同様であるので、同一の符号を付して説明を省略する。
ケーシング49の下流には、NOx触媒17から流出する出ガスのNOx濃度に比例した出力電圧を発生する出ガスNOxセンサ50が設けられ、この出力電圧はECU30の入力ポート35に入力される。図14は、NOx触媒17によるNOx浄化率の一例を示す図である。ここで入NOxとは、NOx触媒17に流入する排気ガス中の単位時間あたりのNOx濃度を示し、出NOxとは、NOx触媒17から流出する排気ガス中の単位時間あたりのNOx濃度を示す。ここではNOx触媒17から排出される排気ガス中の単位時間あたりのNOx濃度が閾値Xに到達すると、排気ガスをストイキまたはリッチにしてNOx触媒17に吸蔵されているNOxを放出、還元させてNOx触媒17のNOx吸蔵能力を回復させる。しかし排気ガスがリーンの状態での運転が継続して排気ガス中のNOxがNOx触媒17に吸蔵されると、再び飽和状態に達して、出NOxの濃度が閾値Xに達する。そこで再びリッチスパイクを実行することでNOxを放出、還元する。
しかしこれを繰り返すと、第1の実施例において詳説したように、NOx触媒17のSOx被毒が所定レベルに達するので、SOx被毒回復処理を実行することになる。そしてNOx触媒17のSOx被毒はSOx被毒回復処理を実行することで回復可能であるが、NOx触媒17の熱劣化は回復することができないので、SOx被毒回復処理直後の性能回復不能部分は、熱劣化に起因する性能低下であるとすることができる。
したがってNOx触媒17の新品時のNOx浄化率と、そのSOx被毒回復処理直後のNOx浄化率とを測定し、これを比較すればそのNOx浄化性能の差から熱劣化の度合いを知ることができる。ここでNOx浄化率とは、NOx触媒に流入する排気ガス中のNOx量(入NOx量)と、NOx触媒の下流に設置したNOx検出手段による排気ガス中のNOx量(出NOx量)に基づいて求められる。このとき前記入NOxの量は、NOx触媒17の上流の排気通路にNOxセンサを取り付けることで、その出力値から単位時間あたりのNOx濃度と排気ガス量の積算値から算出することができる。また入NOxの量は次のような方法
によっても求められる。
すなわち、リーン混合気が燃焼しているときは機関負荷が高くなるほど単位時間あたり機関から排出されるNOx量が増大し、また機関回転数が高くなるほど単位時間あたりの機関から排出されるNOx量が増大する。したがって単位時間あたりのNOx量は機関負荷と機関回転数の関数となる。この場合、機関負荷はサージタンク内の絶対圧によって代表することができるので、単位時間あたりの出NOxの量NOXAは、サージタンク内の絶対圧PMと機関回転数Nの関数となる。よってこの実施例では、単位時間あたりのNOx量を絶対圧PM及び機関回転数Nの関数として予め実験により求め、これを図16に示すようなマップの形でECU30のRAM内に記憶しておく。
一方、NOx触媒17の下流の排気通路にNOxセンサを取り付けることで、その出力値から単位時間あたりのNOx濃度が検出されるので、出NOxの量は、このNOx濃度と排気ガス量の積算値に基づいて算出することができる。このようにして、NOx触媒17のNOx浄化率を測定し、これを初期の新品の場合の浄化率または必要浄化率と比較することで、SOx被毒再生の時期を判断することができる。
また、NOx触媒17の新品時のNOx浄化率と、SOx被毒回復処理直後のNOx触媒17のNOx浄化率を検出し、これらを比較することができれば、それらの浄化率の差からNOx触媒17の熱劣化の度合いを検知することができる。なお、新品のNOx触媒17のNOx浄化率及び必要浄化率は、予め実験的に求めてECU30のROM32に記憶しておき、また、熱劣化抑制手段を作動させるべきと判定するときの必要浄化率も予め設定してECU30のROMに記憶しておく。
この実施例では、以下のようにしてNOx浄化性能を検出する。まず、NOx触媒17にリーン空燃比の排気ガスを流し続けてNOx触媒17のNOx吸蔵能力を飽和させ、これ以上NOxを吸蔵できない状態にする。このとき、NOx触媒の浄化性能を温度ウインドウを考慮して測定する。
次に、NOx触媒17に流入する排気ガス、すなわち入ガスの空燃比をリーンからリッチに切り替え、リッチ空燃比の排気ガスをNOx触媒17に流し続けて、NOx触媒17に吸蔵されていたNOxの全量を放出・還元させる。このとき、入ガスの空燃比をリーンからリッチに切り替えても、NOx触媒17の出口の排気ガス、すなわち出ガスの空燃比は直ぐにはリッチに切り替わらず、しばらくの間は理論空燃比近傍になる。これは、NOx触媒17に吸蔵されていたNOxの還元に入ガス中のHCやCOが還元剤として消費されるためである。そして、NOx触媒17に吸蔵されていたNOxの総てが放出、還元されて、入ガス中のHCやCOが還元剤として消費されなくなったときに、出ガスの空燃比がリッチに変わる。
また、この実施例では、NOx触媒17に対してSOx被毒回復処理を実行する時期の判定には、NOx浄化率が所定値以下になったか否かにより判断する。詳述すると、この実施例の排気浄化装置では、例えば一定の走行距離毎あるいは一定の燃料消費量毎などの適宜のタイミングでNOx触媒17に対して飽和NOx放出処理を実行し、そのときのNOx浄化率を測定する。この測定は出側NOxセンサ50により、各負荷、温度条件でのNOx触媒の浄化性能を把握する。
そして、測定されたNOx浄化率が図14に示す閾値xよりも低下したときは、NOx触媒17のNOx浄化性能が所定レベルまで低下したものとみなす。またこのときをSOx被毒回復処理を実行すべき時期であると判定する。
SOx被毒回復処理が完了したらNOx浄化率を測定し、NOx触媒の性能が回復したか否かを判断する。これは図15に示すように、NOx浄化率が、所定温度(例えば、300℃〜420℃程度)の範囲において、必要浄化率を上回ったか否かにより判断する。図15では、(1)がNOx触媒が新品時であるときのNOx浄化率を示し、(2)はSOx被毒時のNOx浄化率を示す。(2)の状態ではSOx被毒回復が必要な状態であり、(3)はSOx被毒回復後の浄化率を示している。
必要浄化率が確保されない場合は、次に、NOx触媒の熱劣化の度合いに応じたリッチスパイクを実行する。これは内燃機関においてリーン混合気の燃焼が行われている場合、即ち中低負荷運転を行っているときには、比較的に短い周期でスパイク的(短時間)にストイキまたはリッチ混合気の燃焼が行われるように混合気の空燃比を制御し、短周期的にNOxの放出・還元を行っているが、性能低下の回復が不十分であれば、リッチスパイクを増加させる。これはリッチスパイクの量の増大、またはリッチスパイクの回数の増大、すなわちリッチスパイクの周期の短縮化の両方があり、いずれか一方、または両方を、熱劣化の度合いに比例するようにして実行する。
次に、この実施例の排気浄化装置では、前記リッチスパイク制御を実施した後、NOx浄化率を測定し、その浄化率が所定レベル以下のときは、NOx触媒17の熱劣化が性能回復が不可能な程度まで進んだと判断して、熱劣化を抑制すべく熱劣化抑制手段を作動する。すなわちこのような制御を実施しても十分なNOx浄化率が確保できない場合である。
先ず、性能不足の温度領域でのリーン運転を禁止する。これは熱劣化が所定度合いまで進行していないときよりも、リーン運転領域を減少させて、NOx触媒17の入ガス酸素濃度を低くすることでNOx触媒17の熱劣化を抑制するものである。具体的には図15に示すように、NOx触媒の性能が必要浄化率以下になる温度領域(回復しても戻らない領域)において、リーン運転を禁止してこの領域をストイキ運転領域に変更するものである。
次に、これとは別の熱劣化の抑制方法として、または前記と併せて実行する熱劣化の抑制方法として、実施例1において説明したように、エンジンが高温運転域にあるときに減速運転となったときでも、フューエルカットを禁止することにより熱劣化を抑制する。また熱劣化の抑制方法として、熱劣化が所定度合いまで進行していないときよりも、エンジンの高温運転域におけるリーン運転領域を減少させる方法を採用する。これは上述した性能不足の温度領域でのリーン運転の禁止の範囲と重複するが、所定温度以上の高温運転領域では全てリーン運転を禁止するものである。
以下、図17を参照して、この実施例におけるNOx触媒17の熱劣化判定処理ルーチンを説明する。この制御ルーチンを構成する各ステップからなるフローチャートはECU30のROM32に記憶されており、この制御ルーチンは一定時間毎にCPU34によって実行される。
<ステップ201>まず、ECU100は、ステップ201において、NOx触媒17に対してSOx被毒回復処理を実行すべき時期か否か判定する。SOx被毒回復処理実行時期か否かの判定は、所定期間毎に飽和NOx放出処理を行い、放出処理の完了後にNOx浄化率を測定する。これは出側のNOxセンサ50の出力値に基づいて算出する。この値が必要浄化率よりも低くなったときをSOx被毒回復処理を実行すべき時期であると判定する。ステップ201で否定判定した場合には、ECU30は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
<ステップ202>ステップ201で肯定判定した場合には、ECU30は、ステップ202に進み、SOx被毒回復処理を実行する。SOx被毒回復処理は、NOx触媒17がSOx放出温度に達していない場合には、所定の昇温処理を実行してNOx触媒17の触媒温度をSOx放出温度以上にし、且つ、NOx触媒17の入ガスの空燃比をストイキよりも若干リッチにすることにより行う。
<ステップ203>次に、ECU30は、ステップ203に進み、SOx被毒回復処理が完了したか否か判定する。ここで、SOx被毒回復処理は、NOx触媒17に吸収されていたSOxをほぼ完全に放出するまで実行する。ステップ203で否定判定した場合には、ECU30は、ステップ202に戻り、SOx被毒回復処理の実行を続行する。
<ステップ204>ステップ203で肯定判定した場合には、ECU30は、ステップ204に進み、飽和NOx放出処理を実行し、さらに、ステップ205に進み、NOx浄化率を測定する。
<ステップ205>次に、ECU30は、ステップ205に進み、NOx触媒17のNOx浄化率を測定する。
<ステップ206>ステップ206に進み、ECU30は、ステップ206で測定したNOx浄化率が予め設定した必要浄化率以上となり、NOx触媒機能が回復したか否かを判定する。ステップ206で肯定判定した場合には、ECU30は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
<ステップ207>ステップ206で否定判定した場合には、リッチスパイク制御を実行して、NOx触媒17の性能を試みる。
<ステップ208>ステップ207で実行されたリッチスパイク制御によって、NOx触媒のNOx浄化率が回復したか否かを判断する。これは所定の温度範囲におけるNOx浄化率が必要浄化率よりも低いか否かによって判断される。浄化率が必要浄化率以上であればECU30は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
<ステップ209>ステップ208においてNOx浄化率が必要浄化率以下であれば、性能が不足する温度領域におけるリーン運転を禁止する。NOx浄化率が必要浄化率以下でるときは、性能回復は不可能とされ、熱劣化が大きいものと判断される。
<ステップ210>さらに他の熱劣化抑制制御を実施する。これは高温運転領域でのリーン運転領域の減少及び高温運転域でのフェールカット禁止の制御である。これにより以後のNOx触媒17の熱劣化の進行が抑制される。
なお、この実施例においては、熱劣化判定処理ルーチンのうちECU30がステップ201を実行することにより第2の発明における被毒回復実行時期判定手段が実現され、また、ECU30がステップ202を実行することにより被毒回復手段が実現され、また、ECU30がステップ204およびステップ205を実行することによりNOx浄化率測定手段が実現される。
また、この実施例においてリッチスパイク制御によってNOx浄化率が確保されない場合、NOx触媒17の熱劣化が大きいと判断して、触媒の交換を促すようにすることができる。
〔他の実施例〕SOx被毒回復処理実行完了の判定は、SOx被毒回復処理実行時間が予
め設定した所定時間を超えたか否かで判定することができる。この場合には、NOx触媒17に吸蔵されたSOxをほぼ完全に放出するために必要な被毒回復処理時間を予め実験的に求め、これをECU30のROM32に記憶させておく。
SOx被毒回復処理実行時期か否かの判定は、NOx触媒17を通過する硫黄量が所定量(以下、許容硫黄量という)を越えたときがSOx被毒回復処理実行時期であると判定してもよい。
その場合、入ガスSOxセンサ23で検出された入ガスのSOx濃度から燃料中の硫黄濃度を推定し、この燃料中の推定硫黄濃度に基づいて前記許容硫黄量に対応する燃料消費量あるいは走行距離を算出して、その燃料消費量あるいは走行距離に達したときをSOx被毒回復処理実行時期であると判定することができる。さらに、この場合には、燃料中の推定硫黄濃度を運転席前のパネル等に表示して、SOx被毒回復処理の頻度がおおよそ判別できるようにしてもよい。
あるいは、入ガスSOxセンサ23で検出された入ガスのSOx濃度とエンジンの吸入空気量に基づいて、NOx触媒17に流入するSOx量を算出し、その積算値が所定量を越えたときを、SOx被毒回復処理実行時期であると判定することができる。
このようにNOx触媒17を通過する硫黄量が許容硫黄量を越えたときをSOx被毒回復処理実行時期であると判定し、且つ、前述の如くSOx被毒回復処理実行完了の判定をSOx被毒回復処理実行時間で行う場合には、出ガスSOxセンサ24を省略することができる。
また、SOx被毒回復処理実行時期か否かの判定は、NOx触媒17に吸蔵されたSOx量を推定し、この推定吸蔵SOx量が所定量を越えたときがSOx被毒回復処理実行時期であると判定してもよい。なお、吸蔵SOx量の推定は、図9に示すように、入ガスSOxセンサ23で検出された入ガスのSOx濃度と出ガスSOxセンサ24で検出された出ガスのSOx濃度の濃度差分がNOx触媒17に吸蔵されるものとして、このSOx濃度差(入ガスSOx濃度−出ガスSOx濃度)とエンジンの吸入空気量に基づいて算出することができる。そして、このようにして算出推定した吸蔵SOx量をSOx堆積カウンタで積算して、SOx堆積カウンタのカウント値が所定値を越えたときをSOx被毒回復処理実行時期であると判定することができる。
また、このようにSOx堆積カウンタを備えた場合には、SOx被毒回復処理の完了の判定を次のようにすることもできる。SOx被毒回復処理実行期間中であって出ガスSOx濃度が入ガスSOx濃度より大きい期間においては、出ガスSOx濃度と入ガスSOx濃度の濃度差分がNOx触媒17から放出されるSOxであると推定することができるので、このSOx濃度差(出ガスSOx濃度−入ガスSOx濃度)とエンジンの吸入空気量に基づいてNOx触媒17から放出されたSOx量を算出し、算出推定したSOx放出量を前記SOx堆積カウンタで減算し、図10に示すようにSOx堆積カウンタのカウント値が所定値(被毒回復完了レベル)まで低下したときに、SOx被毒回復処理が完了したものとしてSOx被毒回復処理の実行を終了することができる。
さらに、SOx被毒回復処理実行時期か否かの判定は、出ガスのSOx濃度が入ガスのSOx濃度に所定レベルまで接近したときをSOx被毒回復処理実行時期であると判定してもよい。図11に示すように、NOx触媒17の出ガスのSOx濃度は、SOx被毒が進行するにしたがって入ガスのSOx濃度に接近してくる。したがって、出ガスのSOx濃度の入ガスのSOx濃度への接近の程度は、SOx被毒の度合いに対応していると言うことができる。そこで、予め出ガスのSOx濃度がどの程度まで入ガスのSOx濃度に接近したときに
SOx被毒回復処理を実行するかを設定しておき、出ガスSOxセンサ24で検出された出ガスのSOx濃度が前記設定したSOx濃度を超えたときをSOx被毒回復処理実行時期であると判定することができる。
前述の各実施例では、NOx触媒17の上流に入ガスSOxセンサ23を設け、この入ガスSOxセンサ23によりNOx触媒17に流入する排気ガスのSOx濃度を検出しているが、NOx触媒17に流入する排気ガスのSOx濃度は燃料中の硫黄濃度と燃料量と排気ガス量に依存するので、燃料中の硫黄濃度が既知である場合には、エンジン運転状態(燃料噴射量、空燃比、吸入空気量、エンジン回転数など)から推定することが可能である。したがって、その場合には、入ガスSOxセンサ23を設ける代わりに、エンジン運転状態からECU30により触媒入ガスのSOx濃度を算出し、推定するようにしてもよい。
前述した実施例では本発明をガソリンエンジンに適用した例で説明したが、本発明をディーゼルエンジンに適用することができることは勿論である。ディーゼルエンジンの場合は、燃焼室での燃焼がストイキよりもはるかにリーン域で行われるので、通常の機関運転状態ではNOx触媒17に流入する排気ガスの空燃比は非常にリーンであり、NOx及びSOxの吸収は行われるものの、NOx及びSOxの放出が行われることは殆どない。
また、ガソリンエンジンの場合には、前述したように燃焼室3に供給する混合気をストイキあるいはリッチにすることにより排気空燃比をストイキあるいはリッチにし、排気ガス中の酸素濃度を低下させて、NOx触媒17に吸収されているNOxやSOxを放出させることができるが、ディーゼルエンジンの場合には、燃焼室に供給する混合気をストイキあるいはリッチにすると燃焼の際に煤が発生するなどの問題があり採用することはできない。
したがって、本発明をディーゼルエンジンに適用する場合、排気空燃比をストイキあるいはリッチにするためには、機関出力を得るために燃料を燃焼するのとは別に、還元剤(例えば燃料である軽油)を排気ガス中に供給する必要がある。排気ガスへの還元剤の供給は、吸気行程や膨張行程や排気行程において気筒内に燃料を副噴射することによっても可能であるし、あるいは、NOx触媒17の上流の排気通路内に還元剤を供給することによっても可能である。
尚、ディーゼルエンジンであっても排気再循環装置(所謂、EGR装置)を備えている場合には、排気再循環ガスを多量に燃焼室に導入することによって、排気ガスの空燃比を理論空燃比またはリッチ空燃比にすることが可能である。
本発明の実施例1にかかる内燃機関の排気浄化装置の概略構成図である。
基本燃料噴射時間のマップの一例を示す図である。
機関から排出される排気ガス中の未燃HC,COおよび酸素の濃度を概略的に示す線図である。
吸蔵還元型NOx触媒のNOx吸放出作用を説明するための図である。
吸蔵還元型NOx触媒の劣化の進み具合を示す図である。
本発明の実施例1における飽和NOx放出処理時の出ガスの空燃比の経時変化を示す図である。
本発明の実施例1における熱劣化判定処理ルーチンを示すフローチャートである。
本発明の実施例1におけるSOx被毒回復処理時の入ガスの空燃比と出ガスのSOx濃度の経時変化を示す図である。
本発明の実施例にかかる内燃機関の排気浄化装置におけるSOx被毒回復処理の実行時期を判定する方法を説明する図である。
本発明の実施例にかかる内燃機関の排気浄化装置におけるSOx被毒回復処理の完了を判定する方法を説明する図である。
本発明の実施例にかかる内燃機関の排気浄化装置におけるSOx被毒回復処理の実行時期を判定する方法を説明する図である。
触媒物質のシンタリングと吸蔵還元型NOx触媒のNOx浄化性能との関係を示す図である。
本発明の実施例2にかかる内燃機関の排気浄化装置の概略図である。
本発明の実施例にかかる内燃機関の排気浄化装置におけるNOx浄化率の変化を示す図である。
本発明の実施例にかかる内燃機関の排気浄化装置における吸蔵還元型NOx触媒のSOx被毒回復処理を説明するための図である。
入NOx量の決定に使用する数値テーブルを示す図である。
本発明の実施例2における熱劣化判定処理ルーチンを示すフローチャートである。
符号の説明
1、40・・エンジン本体(内燃機関)
3・・・燃焼室
4・・・点火栓
11、42・・燃料噴射弁(被毒回復手段)
16、48・・排気管(排気通路)
17・・吸蔵還元型NOx触媒
18、49・・ケーシング
19、51・・排気管(排気通路)
21、45・・エアフロメータ
23・・入ガスSOxセンサ(入ガスSOx濃度検出手段)
24・・出ガスSOxセンサ(出ガスSOx濃度検出手段)
25・・温度センサ
27・・空燃比センサ
30・・ECU
50・・出ガスNOxセンサ(出ガスNOx濃度検出手段)