以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態による3次元能動消音装置を示す構成概略図である。図1に示すように、本発明の第1の実施の形態の3次元能動消音装置10は、筐体4内部に存在する騒音源であるエンジン1及び給排気ダクト2から発せられる騒音を消音するために設けられている。
エンジン1には発電機1mが接続され、自家発電装置を形成している。この自家発電装置は、筐体4によって取囲まれているが、エンジンの形式を変更することで、定格容量を数kVA〜千kVAまで変更可能である。本実施の形態の場合60kVAの自家発電装置を構成しているものとし、エンジン1は、4気筒4サイクル(3000rpm)のエンジンとする。この場合、エンジン騒音の基本周波数は100Hzである。実測では、103Hzと206Hzにピークが出現している。
3次元能動消音装置10は、騒音と相関のある信号、この場合エンジン1表面の加速度信号を検出する計測部5を備えている。また、騒音源であるエンジン1の周囲には、N個(図1では2個が図示されている)の付加音源、例えばスピーカ3が配置されている。また、筐体4内の所定の位置には、当該配置位置における音圧を検出する音圧評価用マイクロホン6が配置されている。
付加音源3、計測部5及び音圧評価用マイクロホン6には、制御回路7が接続されている。制御回路7は、音圧評価用マイクロホン6が検出する音圧が最小となるように、前記計測部5が計測する信号に基づいて、前記音源1の振幅と異なるように前記付加音源3の振幅を制御すると共に前記付加音源3の位相を制御するようになっている。
各付加音源3は、騒音源であるエンジン1及び給排気ダクト2の騒音中心位置をx
p、前記騒音源からの各相対位置をd
i(i=1,2,…,N)、前記騒音の波数をk、とした場合に、
を満たす位置関係で配置されている。
次に、このような構成よりなる本実施の形態の作用について説明する。
エンジン1が稼動すると、騒音(エンジン音)と相関のある信号が計測部5で検出され、制御回路7に入力される。制御回路7は、計測部5が計測する信号に基づいて付加音源3を稼動させ、評価用マイクロホン6が検出する音圧が最小になるまで、付加音源3の振幅及び位相を調整する。
評価用マイクロホン6は適宜の位置に固定されており、制御回路7による前述の制御方法だけでは、評価用マイクロホン6の設置位置における音圧は最小に制御できても、筐体4内部の全音響パワーが最小になることを担保することはできない。全音響パワーを最小にするには、付加音源3と評価用マイクロホン6の配置の仕方が重要である。本実施の形態では、各付加音源3の配置位置に特別の配慮をすることで、筐体4内部の全音響パワーの最小化を図っている。
筐体4内部の音響パワーを最小にするための、本実施の形態による付加音源3の配置条件について、以下に説明する。
本実施の形態の騒音は、エンジン1のシリンダ部分で局所的に音圧が高く、略同位相で放射されている。従って、騒音源1を点音源としてモデル化することが許される。従って、エンジン騒音の特性は、発電装置筐体4を閉空間とし、その中に1個の点音源が存在する音響モデルとして扱うことができる。
閉空間内部に1個の騒音源1とN個の付加音源3が存在する場合(音源はすべて点音源)、閉空間内部の全音響パワーは下式で表される。
式(1)において、x
pは騒音源の位置、θ
pは騒音源の位相、q
pは騒音源の振幅、x
siは付加音源の位置、θ
siは付加音源の位相、q
siは付加音源の振幅、を表している(i=1,2,…,N)。また、ωは角周波数、ρは密度、Cは音速、Vは閉空間の容積、M
rはモーダルマス、ξ
rはモーダルダンピング、ω
rは固有角周波数、φ
r() はモード関数、を表している。
式(1)から解るように、音響パワーは各付加音源3の位置xsi、振幅qsi及び位相θsiにより変化する。
この閉空間内部に1本の評価用マイクロホン6を設置し、制御回路7による適応制御(Filtered−X)によってマイク音圧を最小にした場合、その状態は下式のように表される。
式(2)において、Pは音圧、x
mは評価用マイクロホンの位置、を表している。また、Zは騒音源及び付加音源から評価用マイクロホンまでの伝播を示す項(関数)であり、qは音の強さ(振幅)を表し、それぞれの添え字p、siは、は、それぞれ騒音源1、i番目の付加音源3を表している。
ここでN個の付加音源3が、1つの制御系によって同一の強さの付加音を発生すると仮定すると、その仮定は下式のように表される。
この時、騒音源1と付加音源3の音の強さの比q
s/q
pは、下式のように記述できる。
この関係を式(1)に代入すれば、適応制御時の音響パワーを求めることができる。
さて、付加音源3が同振幅逆相の場合、すなわち、付加音源3がN個の場合に
の関係を満たす場合(振幅が1/Nで、逆位相。e
jπは−1を意味している)、騒音が200Hz以下の低周波数領域であれば、音響パワーをかなり低減できることが知られている。
そこで、式(4)に式(5)の関係を導入することにより、下式の関係を得ることができる。
ここで、本実施の形態の場合、筐体4内部のモード関数(固有モード)は、
とおける。
さらに、N個の付加音源3は、どれも同相同振幅であることから、騒音源1(点音源としてモデル化)に対して相対位置d
i(i=1,2,…,N)に配置されるとすれば、式(6)と式(7)とから、
の関係式を得ることができる。この関係式は、例えば|d
i|≦1/k=λ/2π(i=1,2,…,N)なるd
iによって満たされることが確認された。
以上の説明から解るように、式(8)の関係を満たすようにN個の付加音源3を配置すれば、筐体4内の全音響パワーを最小化することができる。すなわち、本実施の形態によれば、全音響パワーを最小化することができ、結果的に3次元空間全体で機器の騒音を低減することが可能となる。
なお、2m個の付加音源3を騒音源1(点音源と仮定)から等距離の球面上に略均一な分布で配置すると仮定すると、式(8)の関係は、
のように変形でき、
なる関係が得られる。この関係式は、付加音源3を騒音源1にできるだけ近い位置に配置すべきことを意味している。
さらに計測部5は、騒音と相関のある信号として、エンジン1の表面の加速度信号を計測する他、エンジン1の回転パルス信号や、発電機1mによる交流出力信号等を計測してもよい。発電機1mによる交流出力信号を計測する場合には、完全に電気的な処理のみで信号が得られるため、加速度信号の計測に比べて装置の耐久性において優れる。
次に、本発明の第2の実施の形態の3次元能動消音装置について図2乃至図4を用いて説明する。図2は、第2の実施の形態の3次元能動消音装置の概略図である。
図2に示すように、本実施の形態の3次元能動消音装置は、筐体4に収容されていない小型発電装置に対して設けられている。また、各付加音源3は、騒音源であるエンジン1の位置をx
p、騒音源からの各相対位置をd
i(i=1,2,…,N)、騒音の波数をk、とした場合に、
を満たす位置関係で配置されている。
また、計測部5’は、発電機1mによる交流出力信号を計測し、騒音参照信号を作成するようになっている。
その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態の3次元能動消音装置1と略同様の構成である。第2の実施の形態において、図1に示す第1の実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図2の小型発電装置によるエンジン騒音は、図3に示すように、25Hzから25Hz間隔で11箇所のピークが出現しているものとする。
次に、このような構成よりなる本実施の形態の作用について説明する。
エンジン1が稼動すると、騒音(エンジン音)と相関のある信号が計測部5’で検出され、制御回路7に入力される。制御回路7は、計測部5’が計測する信号に基づいて付加音源3を稼動させ、評価用マイクロホン6が検出する音圧が最小になるまで、付加音源3の振幅及び位相を調整する。
本実施の形態の計測部5’は、発電機1mによる交流出力信号を計測する。計測信号は、例えば図4に示すようになる。図4は、発電機1mが作った交流出力信号100Vを計測部5’内の変圧器(図示せず)で2Vにまで変換した信号のスペクトルである。
図4に示すように、計測部5’が計測する交流出力信号は、基本周波数25Hzでのピークは識別可能であるが、騒音の他のピーク(図3参照)は識別が困難である。従って、図4の信号を制御回路7による制御にそのまま用いることは好ましくない。
そこで、本実施の形態の計測部5’は、図5に示すように、基本周波数25Hzの整数倍のピークを持つ電気信号を人工的に作成して、この信号と図4に示す信号とを同期させて(位相特性を合わせて)これを騒音参照信号とする。この信号は、図3に示す実際の騒音信号に極めて近似しており、制御回路7による制御に用いるのに適している。その結果、図6に示すように25Hzから25Hz間隔で11本のピークはすべて良好に低減した。このような信号処理は、電気的な処理のみによって行われるため、コストがかからず、装置の特別な耐久性を考慮する必要もない。
さて、制御回路7による前述の制御方法だけでは、評価用マイクロホン6の設置位置における音圧は最小に制御できても、小型発電装置周囲の全音響パワーが最小になることを担保することはできない。全音響パワーを最小にするには、付加音源3と評価用マイクロホン6の配置の仕方が重要である。
小型発電装置周囲の音響パワーを最小にするための、本実施の形態による付加音源3の配置条件について、以下に説明する。
本実施の形態の騒音は、エンジン1のシリンダ部分(エンジン1の略中心位置)で局所的に音圧が高く、略同位相で放射されている。従って、騒音源であるエンジン1を点音源としてモデル化することが許される。従って、エンジン騒音の特性は、開放空間の中に1個の点音源が存在する音響モデルとして扱うことができる。
開放空間に1個の騒音源1とN個の付加音源3が存在し(音源はすべて点音源)、各付加音源3が騒音源1から等距離の球面上にあって、各付加音源3の振幅及び位相が等しい場合、付加音源3があるときとないときの音響パワーの比rは、下式で表される。
式(12)において、θ
pは騒音源の位相、q
pは騒音源の振幅、θ
sは付加音源の位相、q
sは付加音源の振幅、d
si-sjは2つの付加音源間の距離、d
p-sjは騒音源と付加音源との間の距離、を表している(i、j=1,2,…,N)。
式(12)から解るように、音響パワーは付加音源3の位置、振幅qs及び位相θsにより変化する。
この開放空間に1本の評価用マイクロホン6を設置し、制御回路7による適応制御(Filtered−X)によってマイク音圧を最小にした場合、その状態は下式のように表される。
式(2)において、Pは音圧、x
mは評価用マイクロホンの位置、を表している。また、Zは騒音源及び付加音源から評価用マイクロホンまでの伝播を示す項(関数)であり、qは音の強さ(振幅)を表し、それぞれの添え字p、siは、それぞれ騒音源1、i番目の付加音源3を表している。
ここでN個の付加音源3が、1つの制御系によって付加音を発生すると仮定すると、騒音源1と付加音源3の音の強さの比qs/qpは、下式のように記述できる。
式(13)において、h
pは騒音源1から評価用マイクロホン6までの距離、h
siはi番目の付加音源3から評価用マイクロホン6までの距離、を表している。この関係を式(1)に代入すれば、適応制御時の音響パワーを求めることができる。
さて、付加音源3が同振幅逆相の場合、すなわち、付加音源3がN個の場合に
の関係を満たす場合(振幅が1/Nで、逆位相。e
jπは−1を意味している)、騒音が200Hz以下の低周波数領域であれば、音響パワーをかなり低減できることが知られている。従って、式(5)の振幅比を1/Nとする条件を考えると、h
p≒h
siなる関係が得られる。
hp≒hsiなる関係を満たす付加音源3及び評価用マイクロホン6の配置例を、図7(a)及び図7(b)に示す。図7(a)に示す配置例(dp-si=d)におけるパラメータkdと全音響パワー(低下量)との関係について、付加音源3の数(N)を1〜4とした結果を、図8に示す。この結果、本実施の形態のようにkdp-si(=k|di|)≦π/2(i=1,2,…,N)を満たせば、全音響パワーを低減できることが解る。
なお、付加音源3及び評価用マイクロホン6を騒音源1と同一平面に配置する場合には、図9に示す配置例が最適となることが知見されている。
以上の説明から解るように、式(11)の関係を満たすようにN個の付加音源3を配置すれば、小型発電装置周囲の全音響パワーを最小化することができる。すなわち、本実施の形態によれば、全音響パワーを最小化することができ、結果的に3次元空間全体で機器の騒音を低減することが可能となる。
次に、本発明の第3の実施の形態の3次元能動消音装置について図10を用いて説明する。図10は、第3の実施の形態の3次元能動消音装置の構成概略図である。
図10に示すように、本実施の形態の3次元能動消音装置は、制御回路7が、制御係数算出部7aと制御係数積和演算部7bとを有するデジタル制御部7dを有し、時々刻々に制御係数を更新するようになっている。
その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態の3次元能動消音装置10と略同様の構成である。第3の実施の形態において、図1に示す第1の実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
本実施の形態によれば、時々刻々適応的に制御係数を更新することにより、発電機筐体4内部あるいは外部の温度変化や、エンジンlの脈動、負荷変動による音圧変化などの経時変化等に対して、制御を効果的に追従させることができる。結果的に、評価用マイクロホン6が検出する音圧を最小にする制御及び全音響パワーを最小にする制御が安定する。
なお、本実施の形態の特徴は、第2の実施の形態の3次元消音装置10においても採用可能である。
次に、本発明の第4の実施の形態の3次元能動消音装置について図11を用いて説明する。図11は、第4の実施の形態の3次元能動消音装置の構成概略図である。
図11に示すように、本実施の形態の3次元能動消音装置は、制御回路7が、第1バンドパスフィルタ21と位相調整部22と振幅調整部23とを有するアナログ制御部7gと、第2バンドパスフィルタ24と信号切替部25とAD/DA変換部26とデジタル回路27とを有する音圧モニタ計測部7hと、を有している。
その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態の3次元能動消音装置10と略同様の構成である。第4の実施の形態において、図1に示す第1の実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
本実施の形態の制御回路7は、計測部5からの出力信号を第1バンドパスフィルタ21によってフィルタ処理し、位相調整部22で位相を0から180度まで進ませ、あるいは、位相を0から180度まで遅らせる。
一方、制御回路7は、評価用マイクロホン6の音圧信号を常にモニタし、第2バンドパスフィルタ24によってフィルタ処理し、信号切替部25及びAD/DA変換部26を介してデジタル回路27に送る。
デジタル回路27は、モニタするマイクロホン音圧が低下しきるまで位相を調整するよう、位相調整部22に指令信号を送る。最小音圧が確認されると、位相が固定され、さらに音圧が低下するまで振幅調整部23が振幅レベル調整を行う。デジタル回路27は、モニタするマイクロホン音圧がさらに低下しきるまで振幅を調整するよう、振幅調整部23に指令信号を送る。
制御回路7は、対象とする周波数毎にこの調整を繰り返し、最後に最適位相及び最適振幅の音を合成して、付加音源3から出力する。
本実施の形態によれば、制御回路7が、アナログ制御部7gと音圧モニタ計測部7hを有し、最適出力となるまで付加音源3の振幅及び位相の調整を自動的に継続するため、発電機筐体4内部あるいは外部の温度変化や、エンジンの脈動、負荷変動による音圧変化等の経時変化等に対して、制御を効果的に追従させることができる。結果的に、評価用マイクロホン6が検出する音圧を最小にする制御及び全音響パワーを最小にする制御が安定する。
なお、本実施の形態の特徴は、第2の実施の形態の3次元消音装置10においても採用可能である。
次に、本発明の第5の実施の形態の3次元能動消音装置について図12を用いて説明する。図12は、第5の実施の形態の3次元能動消音装置の音圧評価用マイクロホン6の配置位置を示す図である。
図12に示すように、本実施の形態の3次元能動消音装置は、音圧評価用マイクロホン6が、騒音源であるエンジン1から生じる騒音による筐体内部の音圧の節以外の領域であって、かつ、付加音源3によって生じる付加音による筐体内部の音圧の節以外の領域に配置されている。
その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態の3次元能動消音装置10と略同様の構成である。第5の実施の形態において、図1に示す第1の実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
本実施の形態は、評価用マイクロホン6の配置位置について特別な配慮を行っている。これは、評価用マイクロホン6を、付加音源3だけを鳴らしたときにできる節(音圧最小領域)に置くと式(4)の分母が零となって制御が発散し、騒音源1だけを鳴らしたときにできる節に置くと式(4)の分子が零となって制御しない状態となることを考慮したものである。
本実施の形態において、式(1)による全音響パワーWを最小にする付加音源3の位相θsi及び振幅qsiは、理論的には下式を満たしているはずである。
従って式(14)からq
si/q
pを求め、これを式(1)に代入することで最小の全音響パワーが得られる。全音響パワーの理論上の最小解を、図13に示す。
図13の値は、理論上の最小値であり、制御回路7による適応制御によって全ての周波数でパワー最小化を実現させることはできない。しかし、ある特定の周波数だけを対象にすれば、図13の理論値に近づけることが可能である。
例えば、本実施の形態における騒音は、103Hzの周期音成分にピークがあるため、この周波数を消音対象とすることでオーバーオールの低騒音化が図れる。この周波数を消音対象として制御した場合の周波数と音響パワーとの関係を、図14に示す。
以上のように、本実施の形態によれば、所定の騒音周波数に対して、全音響パワーWを理論上の最小値に近づけることが可能である。
なお、評価用マイクロホン6の位置を前記条件を満たす配置領域内で変えて音響パワーWを計算していくと、評価用マイクロホン6を筐体4の角部、特に角からの距離dが騒音波長λに対して
となる領域に配置する場合に音響パワーWが効果的に最小値に近づくことが知見された。
ところで、以上の各実施の形態において、消音対象とした発電装置は、いずれも給排気ダクト2による騒音よりもエンジン1による騒音の方が顕著に卓越しているとして、騒音源をエンジン中心の点音源として扱っている。もし給排気ダクト2の騒音が大きく、無視できない場合には、あらたに音源を追加させたモデルにおいて、音響パワーを最小とする最適配置問題を解くことで、目的を達成することができる。
次に、本発明の第6の実施の形態の3次元能動消音装置について図15を用いて説明する。
本実施の形態の3次元能動消音装置は、付加音源3の配置が、第2の実施の形態に関して説明した
の範囲内の
なる関係を満たすと共に、図15に示すように、騒音源1及び各付加音源3が同一平面内に配置され、駆動源1から延びる当該平面に対する垂線上に評価用マイクロホン6が配置されているものとする。
図15に示すように、音圧評価用マイクロホン6と騒音源1との間の距離をhpとし、音圧評価用マイクロホン6と各付加音源3との間の距離をhsとすると、騒音源1に対する付加音源3の位相差θは、下式のように表せる。
本実施の形態においては、式(17)から解るように、hp=d=λ/4とした場合には、音響パワー最小条件の180度より37度ずれ、hp=d/2=λ/8とした場合は、55度ずれる。しかし、200Hz以下の低周波数領域では、音響パワーの低下の度合は下がるものの低下することから、評価用マイクロホン6を付加音源3同様に騒音源1からλ/4以内に置くことによって音響パワーを低減させることができる。
具体的な実験結果を、図16(a)乃至図16(c)に示す。図16(a)乃至図16(c)から、d=0.10m、d=0.20m、d=0.25mの各場合において、十分に音響パワー低減効果が得られることが解る。なお、200Hzの周波数は、λ=1.7mに相当するため、λ/4=0.425mである。
次に、本発明の第7の実施の形態について、図17を用いて説明する。本実施の形態は、第1音源31及び第2音源32からの音圧を低減させる3次元能動消音装置30である。
図17に示すように、第1音源31の周囲には、第1付加音源41が配置されている。また、第1音圧評価用マイクロホン33が、例えば第1音源31の近傍に配置されている。さらに第1音源31には、当該音源31と相関のある信号を検出して第1制御回路35への入力信号とするためのセンサ37、例えば加速度センサ等が設けられている。
第1制御回路35は、制御係数を時時刻刻適応的に算出する制御係数算出部35aと、この制御係数算出部35aで算出された制御係数と入力信号との積和演算を行い、その結果を出力する制御係数積和演算部35bと、を有している。第1制御回路35は、制御係数積和演算部35bの出力を用いて、第1音圧評価用マイクロホン33が検出する音圧が最小となるように、第1付加音源41の振幅と位相とを制御するようになっている。
第1付加音源41は、スピーカ等を有しており、制御係数積和演算部35bの出力を入力信号として、対象とする騒音に対して消音のためのエネルギーを供給する。
第1音圧評価用マイクロホン33は、第1音源31からの音と第1付加音源41からの音との和を検出し、この検出信号を誤差信号とみなすための誤差信号検出部として機能する。
同様に、第2音源32の周囲には、第2付加音源42が配置されている。また、第2音圧評価用マイクロホン34が、例えば第2音源32の近傍に配置されている。さらに第2音源32には、当該音源32と相関のある信号を検出して第2制御回路36への入力信号とするためのセンサ38、例えば加速度センサ等が設けられている。
第2制御回路36は、制御係数を時時刻刻適応的に算出する制御係数算出部36aと、この制御係数算出部36aで算出された制御係数と入力信号との積和演算を行い、その結果を出力する制御係数積和演算部36bと、を有している。第2制御回路36は、制御係数積和演算部36bの出力を用いて、第2音圧評価用マイクロホン34が検出する音圧が最小となるように、第2付加音源42の振幅と位相とを制御するようになっている。
第2付加音源42は、スピーカ等を有しており、制御係数積和演算部108aの出力を入力信号として、対象とする騒音に対して消音のためのエネルギーを供給する。
第2音圧評価用マイクロホン34は、第2音源32からの音と第2付加音源42からの音との和を検出し、この検出信号を誤差信号とみなすための誤差信号検出部として機能する。
ここで、第2付加音源42の影響を無視したモデルと考える。図18に示すように、第1音源31と第1音圧評価用マイクロホン33との間の距離をh1、第1付加音源41と第1音圧評価用マイクロホン33との間の距離をh2、第2音源32と第1音圧評価用マイクロホン33との間の距離をh3とし、第1音源31の振幅をA1、第1付加音源41の振幅をA2、位相(第1音源31に対する)をθ、第2音源32の振幅をA3とすると、第1音圧評価用マイクロホン33で検出する音圧は、式(18)のように表せる。
従って、適応制御によって第1音圧評価用マイクロホン33で検出する音圧を最小にした場合に得られる第1付加音源41の最適振幅及び位相条件は、以下の式(19)において式(20)を満たすものであるから、式(21)及び式(22)である。
ここで、αは第1音源31の振幅に対する第2音源32の振幅(振幅比)である(式(23))。
この振幅比αが0の場合(第2音源32が音を発生していない場合)は、h
1=h
2の時に式(24)となる。すなわち、h
1=h
2が、第1音源31の音響パワーを最小とする最適条件である。
実際には、振幅比αは0ではない。従って、第2音源32の影響で、第1付加音源41の振幅及び位相は、最適値(式(24))からずれてしまう。特に、振幅比αが一定ならば、式(21),式(22)よりα分だけ振幅及び位相を補正する形で対応できるが、振幅比が時間的に変動する場合はそれも難しい。
そこで、まず第2音源32からの音(音響パワー)を消音することを考えた。
図19に示すように、第2付加音源42と第1音圧評価用マイクロホン33との距離をh4とする。第2音源32に対して第2付加音源42を近接させてh3=h4とし、第1音圧評価用マイクロホン33をh1<h3なる関係に配置した場合に、第1音圧評価用マイクロホン33が検知する音圧が式(25)のようになる。すなわち、この場合に、第1音圧評価用マイクロホン33は第1音源31からの音だけを拾う状態となる。
なお、第2付加音源42への最適条件の与え方は、第2音源32及び第2付加音源42の体積速度がそれぞれ等しくなる位置に第2音圧評価用マイクロホン34を設置することで実現する。つまり、第2音源32に対して、逆位相で同振幅の第2付加音源42を与えたときにできる音圧最小領域が前記最適位置に相当する。具体例として、1個の第2音源32に対して1個の第2付加音源42を用いる場合を考えると、両者から等距離であって、かつ、第2音源32の近傍の点、特に好ましくは第2音源と第2付加音源との略中間の点が、第2評価用マイクロホン34の最適な配置位置となる。このような配置位置では、たとえ両音源31及び32が同時に鳴っていても、第2評価用マイクロホン34は、相対的に第2音源32からの音をより多く拾う。このため、適用制御により、第2評価用マイクロホン34の設置位置での音圧を最小にすると、第2付加音源42の最適条件が得られる。
なお、第2付加音源は、第2音源32の周囲に複数個が配置され得る。この場合も、第2音源32の吹き出し体積速度と第2付加音源の吸い込み体積速度の総和とが、略等しくなっていることが好ましい。
また、本実施の形態は、第2音源32の音が、第1音源31の音に対して、略同一周波数であって振幅及び位相が時間変動する関係にある場合に好適である。例えば、第2音源32は、第1音源31に対して近接配置され、第1音源31の騒音が固体伝搬する補機等であり得る。この場合の第2音源32は、「二次音源」と呼ばれる。
次に、前述の第7の実施の形態の効果を検証するための基礎実験結果を示す。
実験では、図20に示すように、第1音源31及び第2音源32として、それぞれスピーカを用いた。そして、本発明のシステム構成に従い、第1付加音源41及び第2付加音源42を、第1音源31及び第2音源32にそれぞれ対向させて設置した。
第1音圧評価用マイクロホン33は、第2音源32からの音も十分拾うように、第1音源31及び第2音源32から略等距離の位置であって、かつ、第1音源31及び第1付加音源41から略等距離の位置(第2音源32がない時に第1音源31の音響パワーを最小化する位置)に設置された。
一方、第2音圧評価用マイクロホン34は、第1音源31からの音を拾わないように、第2音源32に近接配置した。
以上のような配置条件の下で、各音源31及び32から200Hzの周期音を発生させ、各音源31及び32から各評価用マイクロホン33及び34までの各伝達関数C11、C12、C21、C22のゲイン及び位相を調べることで、音の寄与を確かめた。その結果を表1に示す。
また、第1音源31のみを鳴らした場合、第1付加音源41のみを用いて消音制御がなされた場合の効果について、表2に示す。
表2に示すように、第1音圧評価用マイクロホン33が検出する音圧は、75.0dBから48.3dBまで低減し、第2音圧評価用マイクロホン34が検出する音圧も、75.0dBから47.7dBに低減する。さらに、図20に示す位置に配置された第3音圧評価用マイクロホン150が検出する音圧も、78.7dBから69.4dBまで低下した。また、実験者の聴感によっても、消音を確認することができた。
次に、第1音源31及び第2音源32を鳴らした場合、第1付加音源41のみを用いて消音制御がなされた場合の効果について、表3に示す。
表3に示すように、第1音圧評価用マイクロホン33が検出する音圧は、81.7dBから61.7dBまで低減したが、第2音圧評価用マイクロホン34が検出する音圧は、97.2dBから97.7dBに上昇した。さらに、図20に示す位置に配置された第3音圧評価用マイクロホン150が検出する音圧も、77.7dBから82.0dBまで上昇した。また、実験者の聴感によっても、消音を確認することはできなかった。
このことは、理論どおり、第2音源32からの音が第1評価用マイクロホン33に重畳し、位相及び振幅が最適値からずれてしまったことに起因すると考えられる。
そして、第1音源31及び第2音源32を鳴らした場合、まず第2付加音源42を用いて、更に加えて第1付加音源41を用いて消音制御がなされた場合の効果について、表4に示す。
表4に示すように、第2付加音源42による制御によって、第1音圧評価用マイクロホン33が検出する音圧は、81.7dBから72.0dBまで低減し、第2音圧評価用マイクロホン34が検出する音圧も、97.2dBから82.5dBに低下した。しかし、図20に示す位置に配置された第3音圧評価用マイクロホン150が検出する音圧は、78.0dBから77.6dBと、ほとんど変化しなかった。
しかし、第1付加音源41による制御を加えることによって、第1音圧評価用マイクロホン33が検出する音圧は、更に48.0dBまで低減し、第3音圧評価用マイクロホン150が検出する音圧も、67.8dBまで低減した。一方、第2音圧評価用マイクロホン34が検出する音圧も、84.2dBに抑えられ、実験者の聴感によっても消音を確認することができた。