JP4139582B2 - プロテアーゼ活性測定用薄膜 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プロテアーゼ活性を測定するための薄膜、及びプロテアーゼ活性の測定方法に関するものである。より具体的には、癌細胞の浸潤活性や転移活性などの癌の悪性度、歯周炎などの歯周病の進行度、リウマチ性関節炎、動脈硬化巣などにおける破壊性病変などの正確な診断を可能にするプロテアーゼ活性測定用の薄膜、及びプロテアーゼ活性測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
癌細胞の浸潤や転移、歯周炎などの歯周病の進行、リウマチ性関節炎などにおける組織破壊の進行、創傷治癒過程、個体発生過程などにおいて、マトリックスメタロプロテアーゼ、プラスミノーゲンアクティベーターなど種々のプロテアーゼが関与することが知られており、それらのプロテアーゼの検出及び定量方法として、抗体を用いたイミュノアッセイ法、イミュノブロッティング法、電気泳動ザイモグラフィー法などが知られている。また、組織中におけるプロテアーゼの活性を測定する方法として、The FASEB Journal, Vol.9, July, pp.974-980, 1995、WO97/32035、又は特願平11-365074号明細書に示されるいわゆるin situ zymography法が知られている。
【0003】
国際公開WO97/32035号公報にはプロテアーゼ基質と硬膜剤とを含み支持体上に形成された薄膜を用いてプロテアーゼを検出する方法が開示されている。この方法では、代表的なプロテアーゼ基質としてゼラチンを用い、プロテアーゼによりゼラチン薄膜上に形成される消化痕を測定することによって、プロテアーゼを測定できる。ゼラチン薄膜を用いた場合には、マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、「MMP」と略す場合がある)2、3、7、及び9や、セリンプロテアーゼ(トリプシン、プラスミン)などの複数のプロテアーゼが薄膜に対して消化活性を有していることから、それらの活性をすべて検出することができる。また特願2000−083176号明細書及び特願2000−187061号明細書にはプロテアーゼ基質としてトランスフェリン誘導体あるいはアルブミン誘導体を用い、主にMMP-7の活性を選択的に検出できる方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、プロテアーゼ活性を測定するための薄膜を提供することにある。より具体的には、医療現場での使用に適し、簡便な操作で特定のプロテアーゼにより選択的に消化痕が形成されるプロテアーゼ活性測定用の薄膜を提供することが本発明の課題である。また、該薄膜を用いたプロテアーゼ活性の簡便な測定方法を提供することも本発明の課題である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意努力した結果、色素で標識されたトランスフェリン誘導体又は色素で標識されたアルブミン誘導体を含む薄膜がゼラチンに比べてMMP7以外のMMP(例えば、MMP2,MMP3、MMP9など)による消化を受けにくく、MMP7などの特定のプロテアーゼが選択的に消化痕を形成することを見いだした。さらに、色素標識された、好ましくは蛍光色素標識されたトランスフェリン誘導体又はアルブミン誘導体を用いることにより、染色や水洗等の工程を省略することができ、簡便な操作で特定のプロテアーゼ活性を測定することが可能であることを見いだした。本発明はこれらの知見を基にして完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、プロテアーゼ活性を測定するための薄膜であって、プロテアーゼ基質として色素標識されたトランスフェリン誘導体又はアルブミン誘導体(以下、本明細書において「トランスフェリン誘導体又はアルブミン誘導体」を「プロテアーゼ基質」と呼ぶ場合がある。)と硬膜剤とを含み支持体上に形成された薄膜を提供するものである。また、本発明によれば、プロテアーゼ活性を測定するための薄膜であって、色素標識された上記プロテアーゼ基質、プロテアーゼ・インヒビター、及び硬膜剤を含み支持体上に形成された薄膜が提供される。プロテアーゼ・インヒビターとしては、マトリックスメタロプロテアーゼ・インヒビター、セリンプロテアーゼ・インヒビター、又はシステインプロテアーゼ・インヒビターが好ましい。上記薄膜は、単層又は重層のいずれでもよい。
【0007】
本発明のさらに好ましい態様によれば、色素での標識が上記プロテアーゼ基質にに存在するジスルフィド結合を還元的に開裂させて生成するスルフヒドリル基と色素との共有結合形成による標識である上記の薄膜;及び色素での標識が上記プロテアーゼ基質に存在するアミノ基と色素との共有結合形成による標識である上記の薄膜が提供される。上記薄膜は膜厚が0.5μmから10μmの間であることが好ましく、プラスチック又はガラス製の支持体の上に形成され乾燥されたものが好ましい。プロテアーゼとしては、マトリックスメタロプロテアーゼ7、トリプシン、又はエラスターゼが好ましい。
【0008】
標識する色素としては可視吸収を有する色素又は蛍光色素が好ましい。上記プロテアーゼ基質には標識として色素を一種類結合させてもよく、あるいは複数の色素を組み合わせて標識として結合してもよい。薄膜が複数の層から構成される場合には、各層に同じ色素で標識された上記プロテアーゼ基質を配合してもよく、あるいは各層に異なる色素が標識された上記プロテアーゼ基質を配合してもよい。蛍光色素を用いて標識する場合には、蛋白質一分子内に多数の蛍光色素を標識することにより、濃度消光を起こさせてもよい。
【0009】
また、本発明の別の観点によれば、プロテアーゼ活性の測定方法であって、
(1)プロテアーゼ活性を測定するための上記薄膜に対してプロテアーゼを含む試料を接触させる工程;及び
(2)プロテアーゼ活性により該薄膜に形成された消化痕を検出する工程
を含む方法が提供される。
【0010】
この方法の好ましい態様によれば、薄膜を洗浄した後に消化痕を検出する上記の方法;試料が組織切片又は細胞を含む生体試料である上記の方法;及び薄膜上の組織切片又は細胞の細胞核を薄膜と識別できる色の染料で染色する工程を含む上記の方法が提供される。生体組織としては、組織切片、細胞、体液などを用いることができる。例えば、試料を薄膜に接触させた後、室温から50℃の間の温度で例えば10分から30時間の間インキュベートしてプロテアーゼにより薄膜の一部を消化させ、細胞核を染料で染色した後、薄膜上の消化痕を検出することによりプロテアーゼ活性を測定することができる。
【0011】
この発明の好ましい態様によれば、生体試料が、ヒトを含む哺乳類動物、好ましくは患者、疾患が疑われる哺乳動物、実験動物などから分離・採取した生体試料である上記方法が提供される。生体試料として、組織片などの固形試料のほか、組織から吸引により採取した細胞又は組織片を含む試料、血液、リンパ液、唾液などの非固形試料などを用いることができる。例えば、生体試料が癌組織、リンパ節、歯周病組織、歯肉溝滲出液、破壊性病変組織又は液(例えばリウマチ性病変の関節液又は歯槽膿漏組織抽出液)、胸水、腹水、脳脊髄液、乳腺異常分泌液、卵巣嚢胞液、腎臓嚢胞液、膵液、喀痰、血液あるいは血球である上記方法は本発明の好ましい態様である。連続した切片を用いる方法では生体試料として組織切片を用いることができる。
【0012】
消化痕の検出を顕微鏡下又は目視により行う上記方法;又は画像処理装置を用いて消化痕の定量あるいは数値化を行う上記方法は本発明の好ましい態様である。また、薄膜の洗浄を行う場合は水、メタノール、エタノール、界面活性剤溶液、あるいはそれらの混合物により行うことが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本明細書において用いられる測定という用語は、定性及び定量を含めて最も広義に解釈されるべきである。本発明のプロテアーゼ活性の測定方法では、薄膜中にプロテアーゼ基質としてトランスフェリン誘導体又はアルブミン誘導体を含み、かつ該プロテアーゼ基質が色素で標識されていることを特徴としている。
【0014】
プロテアーゼを含む試料を上記薄膜に接触させると、薄膜中の該プロテアーゼ基質が消化され(本明細書において「消化」とはプロテアーゼによる該プロテアーゼ基質の酵素的分解を意味する。)、薄膜に消化痕が形成される。その後、例えば、薄膜を水洗することにより消化された部分の基質や色素が洗い流され、消化痕は光学濃度あるいは蛍光強度の低い部分として顕微鏡下で検出することができ、試料中のプロテアーゼ活性の存在を検出することができる。また、蛍光標識されたプロテアーゼ基質を含む薄膜が濃度消光している場合には、消化を受けた部分のみが蛍光を発するので、該部分を顕微鏡下で検出することができる。また、薄膜を洗浄することによって、消化痕の検出が容易になる。
【0015】
本発明の対象となるプロテアーゼとしては、例えば、マトリックス・メタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ 及びシステインプロテアーゼを挙げることができ、これらの酵素については、鶴尾隆編「癌転移の分子機構」、pp.92-107 、メジカルビュー社、1993年発行に詳細に説明されている。本発明の方法に特に好適なプロテアーゼとして、例えば、MMP−7などのマトリックス・メタロプロテアーゼ、及びトリプシン、エラスターゼなどのセリンプロテアーゼを挙げることができる。これらのうち、MMP−7は本発明の方法に最も好適な測定対象である。
【0016】
本発明で用いる色素標識されたトランスフェリン誘導体を製造するためのトランスフェリン誘導体としては、ヒト、牛、豚、あるいはその他の動物由来のトランスフェリンのほか、それらと相同のアミノ酸配列を持ち、遺伝子工学的に製造されたものを好ましく用いることができる。ホロあるいはアポ型のトランスフェリンは、いずれも好ましく用いることができる。本発明の薄膜の製造には、トランスフェリン誘導体の1種又は2種以上を用いてもよい。
【0017】
本発明で用いる色素標識されたアルブミン誘導体を製造するためのアルブミン誘導体としては、ヒト、牛、豚、鶏、ウサギ、ラット、モルモット、マウス、ウマあるいはその他の動物由来のアルブミン、及びコンアルブミンあるいはそれらと相同のアミノ酸配列を持ち、遺伝子工学的に製造されたものを好ましく用いることができる。本発明の薄膜の製造には、アルブミン誘導体の1種又は2種以上を用いてもよい。なお、トランスフェリン誘導体とアルブミン誘導体とを適宜組み合わせて薄膜中に配合してもよい。
【0018】
色素を上記プロテアーゼ基質の反応性官能基、例えばアミノ基、水酸基、又はスルフヒドリル基などに導入する場合には、原料となる上記プロテアーゼ基質としては、ジスルフィド結合の過ギ酸酸化物、ジスルフィドの亜硫酸分解によるS−スルホシステイン誘導体、還元剤によりジスルフィドを切断し生成したメルカプタンをアルキル化剤によりアルキル化したものなどを好ましく用いることができる。アルキル化剤としてはヨード酢酸、ヨード酢酸アミドのほか、以下に示す化合物を好ましく用いることができる。
【0019】
酢酸 2-ブロモエチルエステル、(S)-(+)-2-アミノ-4-ブロモ酪酸ヒドロブロミド、ブロモアセトアルデヒドジエチルアセタール、2-ブロモアセトアミド、ブロモ酢酸 t-ブチルエステル、ブロモ酢酸メチルエステル、ブロモアセトニトリル、アリルブロミド、2,2-ビス(ブロモメチル)-1,3-プロパンジオール、ブロモアセトアルデヒドジメチルアセタール、ブロモ酢酸、ブロモ酢酸エチルエステル、ブロモアセトン、4-(ブロモアセチルアミノ)安息香酸、4-(ブロモアセチル)モルホリン、4-ブロモ-2-ブタンスルホン酸ナトリウム塩、4-ブロモ-1-ブタノール、4-ブロモ-1-ブテン、2-ブロモ-N-tert-ブチル-3,3-ジメチルブチルアミド、4-ブロモ-n-酪酸、3-ブロモブチロニトリル、3-ブロモ-2-(ブロモメチル)プロピオン酸、1-ブロモ-2-ブタノール、1-ブロモ-2-ブタノン、4-ブロモブチルアセテート、2-ブロモ-n-酪酸、α-ブロモ-γ-ブチロラクトン、4-ブロモブチロニトリル、((1R)-(endo, anti))-(+)-3-ブロモカンファー-8-スルホン酸アンモニウム塩、(1S)-(+)-3-ブロモカンファー-10-スルホン酸水和物、2-ブロモ-2-シアノ-N,N-ジメチルアセトアミド、2-ブロモエタンスルホン酸ナトリウム塩、2-ブロモエチルアミンヒドロブロミド、4-(2-ブロモエチル)安息香酸、2-ブロモエチルメチルエステル、(+)-3-ブロモカンファー-8-スルホン酸アンモニウム塩、ブロモコリンブロミド、1-ブロモ-2,2-ジメトキシプロパン、2-ブロモエタノール、4-(2-ブロモエチル)ベンゼンスルホン酸、2-(2-ブロモエチル)-1,3-ジオキサン、2-ブロモエチルホスホン酸ジエチルエステル、2-ブロモイソ酪酸、2-ブロモマロンアミド、2-(ブロモメチル)アクリル酸、2-ブロモメチル-1,3-ジオキソラン、2-(ブロモメチル)-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ブロモニトロメタン、α-ブロモフェニル酢酸、2-ブロモイソ吉草酸、ブロモマロン酸ジエチルエステル、4-(ブロモメチル)安息香酸、5-ブロモ-1-メチルヒダントイン、4-ブロモメチルフェニル酢酸、2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、3-ブロモ-1,2-プロパンジオール、3-ブロモプロパンスルホン酸、1-ブロモ-2-プロパノール、3-ブロモプロピオンアルデヒドジエチルアセタール、2-ブロモプロピオンアミド、2-ブロモプロピオン酸、2-ブロモプロピオニトリル、3-ブロモプロピルアミンヒドロブロミド、3-ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム塩、3-ブロモ-1-プロパノール、3-ブロモプロピオンアルデヒドジメチルアセタール、3-ブロモプロピオンアミド、3-ブロモプロピオン酸、3-ブロモプロピオニトリル、(3-ブロモプロピル)ホスホン酸、(3-ブロモプロピル)トリメチルアンモニウムブロミド、3-ブロモピルビン酸水和物、2-ブロモ-1,1,1-トリエトキシプロパン、2-ブロモ-n-吉草酸、ジブロモアセトニトリル、エピブロモヒドリン、N-メチルスルホニル-3-ブロモプロピオンアミド、3-ブロモピルビン酸、ブロモ琥珀酸、11-ブロモウンデカン酸、ブロモバレリルウレア、2,3-ジブロモ-1-プロパノール、ブロモピルビン酸エチル、テトラヒドロフルフリルブロミド、N-(3-カルボキシエチル)マレアミド酸、cis-アコニット酸、アクリル酸 2-カルボキシエチルエステル、フマル酸モノエチルエステル、マレイン酸、マレイン酸モノアミド、マレイン酸モノメチルエステル、N-(3-カルボキシプロピル)マレアミド酸、アクリル酸、アクリロニトリル、2-(アクリロイルアミノ)イソ酪酸、イタコン酸、マレイン酸2ナトリウム塩、マレイン酸モノエチルエステル、N-メチルマレイン酸モノアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、硫酸水素2-アミノエチル、(2-ブロモエチル)メチルサルフェート、1,4-ブタンスルトン、1,2:5,6-ジ-O-イソプロピリデン-3-O-(メチルスルホニル)-α-D-グルコフラノース、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イルメチル p-トルエンスルホネート、メタクリル酸 3-スルホプロピルエステルカリウム塩、(2-(アクリルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ベンゼンスルホン酸 2-メトキシエチルエステル、1,3-ブタンジオールサイクリックスルフェート、シアノメチルベンゼンスルホネート、ジメチル(4S,5S)-1,3,2-ジオキサチオラン-4,5-ジカルボキシレート 2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン 2,2-ジオキシド、(2-(メタクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、N-(2-ヨードエチル)-トリフルオロアセトアミド、ヨードメタン、2-ヨードアセトアミド、ヨードアセトニトリル、2-ヨードエタノール、3-ヨードプロピオン酸、ヨード酢酸ナトリウム、ヨード酢酸、4-ヨード酪酸、3-ヨードプロパンスルホン酸ナトリウム塩、リチウムヨード酢酸、メタンスルホン酸エトキシカルボニルメチルエステル、2-メチルプロパンスルトン、1,3-プロパンジオールサイクリックスルフェート、プロパルギルベンゼンスルホネート、テトラエチレングリコールモノオクチルエーテルメタンスルホネート、p-トルエンスルホン酸ペンタフルオロベンジルエステル、p-トルエンスルホン酸 2-(2-n-プロポキシエトキシ)エチルエステル、メタンスルホン酸 2-メトキシエチルエステル、メチルプロパンスルトン、プロパンスルトン、3-スルホプロピルアクリレートカリウム塩、p-トルエンスルホン酸 2-エトキシエチルエステル、p-トルエンスルホン酸プロパルギルエステル、2-(p-トルエンスルホニル)エタノール、5'-トシルアデノシン、アジリジン-2-カルボン酸メチルエステル、エチレンイミン、プロピレンイミン、1-(2-ヒドロキシエチル)エチレンイミン、4-ビニルピリジン、ビニルスルホン酸ナトリウム塩、モノエチルフマル酸カリウム塩、プロピオル酸, trans,trans-ムコン酸、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-ヒドロキシマレイミド、N-カルバモイルマレイミド、及び3-マレイミドプロピオン酸。
【0020】
トランスフェリン誘導体及びアルブミン誘導体の作製方法としては、例えば「新生化学実験講座1、タンパク質II、一次構造、p.75−80」及び「新生化学実験講座3、糖質II、プロテオグリカンとグルコサミノグリカン、p.249−250」、Methods in enzymologyのVol.11(1967)P.199−255、315−317、541−548に記載されている方法を用いることができる。還元カルボキシメチル化によるカルボキシメチルトランスフェリンあるいはカルボキシメチル牛血清アルブミンの代表的な製造方法としては、例えば、トランスフェリ又はアルブミンンを7 Mグアニジン塩酸塩及び10 mM EDTAを含む0.5 Mトリス-塩酸緩衝液(pH8.5)に溶解し、pHを8.3以上に調整して窒素置換した後、ジチオスレイトールを加え、ジスルフィド結合を還元し、さらにヨード酢酸を加え遮光下で反応させてS−アルキル化を行った後、透析あるいはゲル濾過により脱塩して目的物を得る方法を挙げることができる。ヨード酢酸の換わりに他のS−アルキル化剤を用いるとそれぞれ対応の誘導体を得ることができる。また、過ギ酸酸化法及び亜硫酸分解法については、前記の「新生化学実験講座1、タンパク質II、一次構造」p.76に記載されている方法を用いることができる。
【0021】
本発明に使用する色素は、可視域に吸収を有するものであれば特に制限はなく、公知の物質を含む種々の化合物を使用することができる。例えば、アゾ色素、アゾメチン色素、インドアニリン色素、ベンゾキノン色素、ナフトキノン色素、アントラキノン色素、ジフェニルメタン色素、トリフェニルメタン色素、キサンテン色素、アクリジン色素、アジン色素、オキサジン色素、チアジン色素、オキソノール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、アリーリデン色素、スチリル色素、フタロシアニン色素、ペリノン色素、インジゴ色素、チオインジゴ色素、キノリン色素、ニトロ色素、ニトロソ色素などを挙げることができるがこれらの色素に限定されることはない。具体的な化合物については「新版染料便覧」(有機合成化学協会編;丸善,1970)、「カラーインデックス」(The Society of Dyers and colourists)、「色材工学ハンドブック」(色材協会編;朝倉書店、1989)、「改訂新版顔料便覧」などに記載されている。
【0022】
標識に用いる色素は発光性の色素であってもよく、色素を2種以上組み合わせて標識に用いてもよい。色素は蛋白質に結合させることから、難溶性の色素又は疎水性が極めて高い色素は好ましくなく、水などの極性溶媒に対して適度の溶解性を有しているものが好ましい。
【0023】
上記プロテアーゼ基質と色素との結合は共有結合、イオン結合、水素結合やこれらの組合せのいずれであってもよいが、色素を共有結合により結合することが好ましい。標識に際して共有結合を形成する場合、以下の表に示す部分構造の組合せによる共有結合形成によって上記プロテアーゼ基質を色素標識することが好ましい。
【0024】
【表1】
Figure 0004139582
【0025】
以上の例以外にも、ディールス・アルダー反応として知られる反応対の組合せ、1,3−双極子付加として知られる反応対の組合せやパラジウムなどの遷移金属を触媒とした有機ハライドとボロン酸のカップリング反応、有機ハライドと末端アルキンの反応などを用いることもできる。
【0026】
特に好ましく用いられる共有結合の形成反応としては、例えば、アミンとカルボン酸(又はその活性エステル)の組合せ、アミンとイソチオシアナートの組合せ、アミンとスルホニルハライド(又はその活性エステル、活性アミド)の組合せ、アミンと活性ヘテロアリールハライド(又は活性アリールスルホナート)、メルカプタンとアルキルハライド(又はアルキルスルホナート)の組合せ、メルカプタンとα,β−不飽和スルホン、メルカプタンとα,β−不飽和エステル、メルカプタンとα,β−不飽和カルボアミド又はイミドが挙げられる。この中で最も好ましいのはアミンとカルボン酸(又はその活性エステル)との組合せ、メルカプタンとアルキルハライド(又はアルキルスルホナート)との組み合わせ、メルカプタンとα,β−不飽和スルホンとの組み合わせ、メルカプタンとα,β−不飽和カルボアミド又はα,β−不飽和環状イミドとの組合せなどを挙げることができる。これらの結合反応については既知の有機反応を用いることで極めて容易に行うことができる。
【0027】
好ましい例として挙げた組合せによる共有結合は、単に両者の成分を混合するか、あるいは混合して塩基を添加するか、又は若干の加熱を行うなどの簡単な操作で形成可能である。また、アミンとカルボン酸を縮合する際には各種の縮合剤を用いることができる。好ましい縮合剤の例としては、例えば、水溶性カルボジイミド(塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド メチオジド、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド)、アミジニウム塩系縮合剤(O−(N−スクシンイミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルチウロニウム テトラフルオロボレート、フルオロ−N,N,N’,N’−テトラメチルフォルムアミジニウム ヘキサフルオロホスフェート、1−(クロロ−1−ピロリジニルメチレン)ピロリジニウム テトラフルオロボレート、2−クロロ−1,3−ジメチル−2−イミダゾリニウム テトラフルオロボレート)、ホスホニウム塩系縮合剤(Bates'試薬、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、ピリジニウム塩系縮合剤(2−ヨード−1−メチルピリジニウムヨージド、2−フルオロ−1−メチルピリジニウムパラトルエンスルホネート、2−クロロ−1−メチルピリジニウムヨージド)、活性エステル化又は活性アミド化剤(炭酸N,N’−ジスクシンイミジル、1,1’−カルボニルビス(2−メチルイミダゾール)、1,1’−カルボニルビスイミダゾール)などが挙げられ、反応液の液性は中性から弱塩基性が好ましい。
【0028】
以下に好ましい色素の具体例を示す。好ましい結合例となるように、色素側からカルボキシル基、スルホ基、ビニルスルホニル基、アルキルハライドなどの官能基が提供される場合について例示するが、本発明の範囲はこれらの色素又は結合用官能基あるいは結合様式に限定されることはない。
【0029】
【化1】
Figure 0004139582
【0030】
【化2】
Figure 0004139582
【0031】
【化3】
Figure 0004139582
【0032】
【化4】
Figure 0004139582
【0033】
【化5】
Figure 0004139582
【0034】
例えば、フルオレセインイソチオシアネートなどの蛍光色素を蛋白質に多量に結合させると、濃度消光により蛍光が観測されなくなる現象が知られている。この現象を利用して、プロテアーゼにより基質が分解された部分だけが蛍光を発するように薄膜を設計することが可能である。従って、蛍光色素を用いる場合には、濃度消光が生じない程度の少量の色素を結合させてもよいし、あるいは濃度消光が生じる程度の多量の色素を結合させてもよい。このような蛍光色素の量は問う業者が容易に選択可能である。
【0035】
上記の標識化反応において用いられる溶媒としては、水又は緩衝液のほか、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリンなど)、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、スルホラン、テトラヒドロフランなどの水と混和しうる溶媒が好ましい。水と混和しない酢酸エチルやトルエンなどを用いて2相系の反応も行うこともできる。溶媒は以上の中から適当なものを単独であるいは混合溶液で用いることもできる。
【0036】
本発明の薄膜における色素の添加量は、上記プロテアーゼ基質にに結合した色素質量として0.001g/m2〜1g/m2の範囲であり、より好ましくは、0.005g/m2〜0.5g/m2の範囲である。同一層に2種以上の複数の色素を結合させた上記プロテアーゼ基質を含有させてもよく、1種の色素を結合させた上記プロテアーゼ基質を複数の層に配合してもよい。さらに本発明の薄膜には、上記プロテアーゼ基質に実質的に結合していない色素を1種又は2種以上配合することも可能である。
【0037】
本発明の薄膜は、平面支持体上に形成されるか、あるいは96穴プレートの様な容器の底面を支持体として形成されることが好ましい。支持体の材質や形状は特に限定されないが、薄膜上の表面変化を顕微鏡下で観察するような場合や、吸光度測定や蛍光測定などの分光学的手段により表面変化を検出する場合には、例えば、薄膜は透明又は半透明の支持体上に形成されることが好ましい。このような透明又は半透明の高分子支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリスルフォン、ポリアリレート、ポリエチレン等からなる透明又は半透明プラスチックフイルムなどを用いることができる。また、このようなプラスチックをラミネートした紙を用いることもできる。特に好ましいのはポリエチレンテレフタレート、シンジオタクティックポリスチレン、ポリアリレートであり、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましい。また、用いる支持体に着色が施されていてもよい。
【0038】
支持体の厚さは特に限定されないが、フィルム状の平面支持体を用いる場合、50μm以上、300μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以上、200μm以下である。特に好ましくは175μm程度のものを用いることができる。該支持体上の薄膜は単層又は重層で形成することができるが、薄膜はできる限り均一な表面を与えるように調製すべきである。例えば、乾燥後の膜厚が0.5〜10μm、好ましくは0.5〜7μm程度になるように調製することが好ましい。
【0039】
薄膜の調製には、色素標識した上記プロテアーゼ基質の水溶液に、硬膜剤及び必要に応じてプロテアーゼ・インヒビターの所定量を加えて均一に混合し、得られた溶液を支持体表面に塗布して乾燥すればよい。塗布方法としては、例えば、ディップ塗布法、ローラー塗布法、カーテン塗布法、押し出し塗布法などを採用することができる。もっとも、薄膜の調製方法はこれらに限定されることはなく、例えば、写真用フイルムの技術分野などにおいて汎用されている薄膜形成方法などを適宜採用することが可能である。
【0040】
薄膜を支持体上に形成するにあたり、薄膜と支持体との接着を改善するために、薄膜と支持体表面との間に下塗り層を設けてもよい。例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、スチレン、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸等から選ばれるモノマーの1種又は2種以上を重合させて得られる重合体又は共重合体、ポリエチレンイミン、エポキシ樹脂、グラフト化ゼラチン、又はニトロセルロースなどの重合体を下塗り層として形成することができる。また、ポリエステル系支持体を用いる場合には、下塗り層に替えて、支持体表面をコロナ処理、紫外線処理、又はグロー処理することによっても、支持体と薄膜との接着力を改善できる場合がある。コロナ処理、紫外線処理、又はグロー処理を行った後下塗り層を塗布する方法も支持体と薄膜との接着力を改善できる。
【0041】
本明細書において用いられる「支持体表面上に形成した薄膜」という用語又はその同義語については、1又は2以上の下塗り層及び/又は支持体表面の処理を排除するものと解釈してはならない。もっとも、薄膜と支持体との接着を改善するための手段は上記のものに限定されることはなく、例えば、写真用フイルムの技術分野などにおいて汎用されている手段を適宜採用することができる。また、薄膜が複数の層を重層してなる場合には、重層される2つの層の間にさらに中間層を設けてもよく、本明細書において用いられる「重層」という用語は、2つの層が直接接触している場合に限定して解釈してはならない。このような中間層を適宜配置する手段は、例えば、写真用フイルムの技術分野などにおいて汎用されている。また、支持体表面上に形成された膜の表面に保護層を設けることも好ましく、その技術は写真用フイルムの技術分野などにおいて汎用されている。
【0042】
薄膜中には色素標識した上記プロテアーゼ基質及び硬膜剤のほか、必要に応じてプロテアーゼ・インヒビターを配合できるが、その他の各種の添加物を加えてもよい。添加物としては、例えば薄膜の塗布を容易にするための界面活性剤、膜質を改良するためのグリセリン、エチレングリコール等の可塑剤、防腐剤、防かび剤、pHを調節するための酸又は塩基、酵素活性を調節するためのCa++等の無機イオンがあげられるが、これらに限定されることはない。また、本発明の薄膜には帯電防止の手段が施されていてもよい。例えば、色素標識された上記プロテアーゼ基質含む層の側又はその反対側の層の表面電気抵抗が1012Ω以下であるものを好ましく用いることができる。膜の表面電気抵抗を低下させるための手段としては、例えば特願2000-24011号明細書に記載されている方法を用いることができ、あるいは写真用フイルムに利用されている技術を採用することができる。
【0043】
例えば、本発明の薄膜の製造には、以下に示すような添加剤を必要に応じて使用することができる。硬膜剤(リサーチ・ディスクロージャー(RD)17643:26頁;RD18716:651頁左欄;RD307105:874〜875頁)、バインダー(RD17643:26頁;RD18716:651頁左欄;RD307105:873〜874頁)、可塑剤又は潤滑剤(RD17643:27頁;RD18716:650頁右欄;RD307105:876頁)、塗布助剤又は界面活性剤(RD17643:26〜27頁;RD18716:650頁右欄;RD307105:875〜876頁)、帯電防止剤(RD17643:27頁;RD18716:650頁右欄;RD307105:876〜877頁)、マット剤(RD307105:878〜879頁)。これらの添加剤はいずれも写真用フイルムの技術分野において汎用されており、本発明の薄膜の製造に同様に利用できる。
【0044】
本発明に用いる硬膜剤としては有機又は無機の硬膜剤を用いることができる。このような硬膜剤は、例えばゼラチンなどの硬化促進のために利用可能な硬膜剤から適宜選択すればよいが、測定の対象となるプロテアーゼの活性に影響を与えないものを選択する必要がある。例えば、活性ハロゲン化合物(2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン及びそのナトリウム塩など)及び活性ビニル化合物(1,3−ビスビニルスルホニル−2−プロパノール、1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテル、及びビニルスルホニル基を側鎖に有するビニル系ポリマーなど)を用いることができ、1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンを用いることが好ましい。
【0045】
本発明に用いられるプロテアーゼ・インヒビターは、マトリックスメタロプロテアーゼを阻害することが知られている各種のキレート剤、特にEDTAあるいはo−フェナントロリンを用いることができる。またマトリックスプロテアーゼ特異的な阻害剤としてティッシューインヒビターオブメタロプロテアーゼ(TIMP)類や、Batimastat, Marimastat, CGS27023A等の阻害剤を用いることができ、これらについては、例えば細胞工学1998年、第17巻、p.561に記載されている。また、セリンプロテアーゼ阻害剤としてはフェニルメタンスルホニルフルオリド、プラスミノーゲンアクティベーターインヒビター1、アプロチニン、ロイペプチン、エラスタチナール、キモスタチン、メシル酸ガベキサート等の阻害剤を用いることができ、これらの一部については例えばプロテアーゼと生体機能(現代化学増刊22)P.224, 1993に記載されている。もっとも、プロテアーゼ・インヒビターはこれらの化合物に限定されることはない。
【0046】
本発明の方法に用いる試料として好ましくは生体試料を用いることができる。生体試料としては、ヒトを含む哺乳類動物から分離・採取された生体試料を用いることができ、例えば、罹患した哺乳類動物、疾患の存在が疑われる哺乳動物、又は実験動物などから分離・採取した生体試料を用いることができる。生体試料の形態は特に限定されないが、組織切片などの固形試料や体液などの非固形試料を用いることができる。非固形試料としては、例えば、組織から吸引により採取した細胞又は組織片を含む試料、血液、リンパ液、唾液などの体液を用いることができる。例えば、肺癌、胃癌、食道癌、大腸癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌、肝臓癌、口腔癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌などの癌組織から手術や組織検査などにより分離・採取した癌組織、リンパ節、歯周病組織、リウマチ性関節炎の滑膜や骨組織などの組織から手術や組織検査などにより分離・採取した組織、歯肉溝滲出液、破壊性病変組織に含まれる液(例えばリウマチ性病変の関節液又は歯槽膿漏組織抽出液)、胸水、腹水、脳脊髄液、乳腺異常分泌液、卵巣嚢胞液、腎臓嚢胞液、喀痰、血液あるいは血球などを用いることができる。
【0047】
試料が組織の場合には、例えば、液体窒素で急速凍結した試料から凍結切片作成装置を用いて厚さ1〜10μm 、好ましくは4〜6μmの切片を調製し、この切片を薄膜に貼付することによって試料と薄膜とを接触させることができる。穿刺吸引により採取した細胞又は組織片を含む非固形試料についても、コンパウンドなどの成形材料と混合して液体窒素で急速凍結し、同様に切片を作製して用いることができる。また、組織から穿刺吸引により採取した細胞又は組織片を含む非固形試料をそのまま用いる場合には、吸引した試料を薄膜上に吐出させ、細胞を分散状態で薄膜に接着させればよい。組織から穿刺吸引により採取した細胞をサイトスピン装置を用いて薄膜に接着させることもできる。さらに、生体試料が組織片の場合は、採取した組織の水分を軽く拭った後、本発明の薄膜の上に1分間から30分間程度静置することで試料と薄膜とを接触させることができる。
【0048】
また、リウマチ性関節炎の患者から採取した滑膜液の様な非固形試料を用いる場合には、試料を適当な濃度に希釈し、及び/又は必要な前処理を行った後に、約1〜50 μL、好ましくは1〜20 μL程度を薄膜上に滴下すればよい。歯周病の歯肉溝滲出液を試料として用いる場合には、歯肉溝内に濾紙を挿入して約5〜10μL程度の歯肉溝滲出液を採取し、該濾紙を薄膜に貼付する方法を採用することができる。歯肉溝滲出液の採取後、必要に応じて蒸留水や適宜の緩衝液(例えば、50 mM Tris-HCl, pH 7.5, 10 mM CaCl2, 0.2 M NaClなど)を用いて濾紙から歯肉溝滲出液を抽出し、抽出液を薄膜上に滴下してもよい。より多量に採取できる体液試料(嚢胞液など)の場合には、試料を入れた容器の中に薄膜の一部を浸漬する方法により再現性のよい結果が得られる。
【0049】
プロテアーゼを含む組織切片を薄膜に貼付するか、あるいは液体試料を滴下するなどの手段によって薄膜とプロテアーゼを含む試料を接触させた後、プロテアーゼ活性の発現に適した温度、例えば室温から50℃の間の温度、さらに好ましくは37〜47℃の飽和湿度条件下でトランスフェリン誘導体の消化に必要な時間、例えば10分から30時間程度薄膜をインキュベートする。必要な時間は試料や薄膜の種類によって異なるが、好ましくは、組織切片又は吸引により得た細胞若しくは組織片を含む非固形試料については37℃で10分間〜48時間、さらに好ましくは10分間〜24時間、滲出液などの液状の試料については10分間〜24時間、好ましくは10分間〜6時間インキュベートし、試料中のプロテアーゼによって薄膜中に消化痕を形成させる。
【0050】
その後、可視吸収を持つ色素又は少量の蛍光色素で標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜の場合には水で洗浄し、消化されたプロテアーゼ基質を除去する。さらに、ヘマトキシリンやメチルグリーンにより薄膜上の生体試料に含まれる細胞核を染色する工程を追加すると、消化痕の部位を詳細に特定することができる。また、蛍光色素で高濃度に標識して濃度消光したプロテアーゼ基質を含む薄膜を用いる場合には、薄膜と試料とを接触させた後インキュベートするだけで蛍光観察により消化痕の検出ができる。
【0051】
生体試料中の実質的に連続した2以上の切片のうちの一つをプロテアーゼ・インヒビターを含まない薄膜に貼付し、他の切片の1つをプロテアーゼ・インヒビターを含む薄膜に貼付して、両者の薄膜の消化痕を比較することにより、プロテアーゼの種類を特定することが可能になる。プロテアーゼ・インヒビターの種類は特に限定されないが、例えば、キレート剤、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、又はセリンプロテアーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、及びそれらの混合物などを好適に用いることができる。
【0052】
また、色素標識された上記プロテアーゼ基質及び硬膜剤を含む薄膜が重層塗布されており、各層に異なる色の色素で標識された上記プロテアーゼ基質が配合されている場合には、試料中のプロテアーゼにより薄膜が消化されるに従って、薄膜の色相が変化する。このような薄膜を用いると、消化の強さを視覚的に判定することが容易である。
【0053】
本発明の方法で生体試料に含まれるプロテアーゼ活性を測定することにより、試料が由来した生体の状況、例えば癌の転移やリウマチの進行度などを調べることができる。消化痕における消化の強さの判定には、光学顕微鏡又は蛍光顕微鏡下で目視で判定する方法、共焦点光学顕微鏡により膜の三次元的な形態又は蛍光を観察する方法、分光器により消化痕の光学濃度又は蛍光強度を測定する方法、光学顕微鏡又は蛍光顕微鏡で得られる画像をデジタルカメラあるいはスキャナーによりコンピューターに取り込み、画像解析の方法により消化痕における各種の数値化を行う方法などのいずれを採用してもよい。画像解析を行う場合には種々のデータ処理法を用いることができ、その種類は特に限定されないが、消化痕の面積、あるいは消化痕部分の光学濃度又は蛍光強度と面積の積分を用いて消化の程度を数値化することが好ましい。
【0054】
なお、プロテアーゼ基質を含む薄膜を用いたプロテアーゼ活性の測定方法に関する技術は、例えば、特開平9-832035号公報、特願平11-174826号明細書、特願平11-192130号明細書、特願平11-365074号明細書、及び特願2000-24011号明細書などに記載されているので、必要に応じてこれらの明細書を参照することにより、本発明を容易に実施できる場合がある。これらの明細書の開示を参照として本明細書の開示に含める。
【0055】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。実施例中、色素(5)などの色素番号は、上記の好ましい色素として示した色素の番号と対応させてある。
【0056】
例1:カルボキシメチルトランスフェリンの作製
牛血清トランスフェリン 10 gを7M尿素と10 mM EDTA 2ナトリウムを含む0.5Mトリス-塩酸バッファー(pH8.5)3リットルに溶解した。容器内を窒素ガスで置換した後、ジチオスレイトール(Dithiothreitol) 10 gを加えた。室温で2時間撹拌した後、直射光の当たらないところで秤量したヨード酢酸25 gを加え、遮光下で室温30分間反応させた。反応終了後、カットオフ分子量7,000の透析膜を用いて透析し、脱塩した。得られた反応物をSDSポリアクリルアミド電気泳動により調べたところ、反応原料のトランスフェリンが分子量約8,2000のバンドを示したのに対し、反応物は分子量が約8,8000と増加した位置にバンドを示した。
【0057】
例2:N−エチルスクシンイミド化牛血清アルブミンの作製
牛血清アルブミン 10 gを7M尿素水溶液2リットルに溶解した。pHを6.5に調整し、容器内を窒素ガスで置換した後ジチオスレイトール 10 gを加えた。室温で2時間撹拌した後N-エチルマレイミド 19 gを加えた。室温で4時間反応させた後、カットオフ分子量7,000の透析膜を用いて透析し、脱塩した。得られた反応物をSDSポリアクリルアミド電気泳動により調べたところ、反応原料の牛血清アルブミンより高分子量側にバンドを示した。
【0058】
例3:色素標識(その1)
牛血清トランスフェリン 3 gを、7M尿素と10 mM EDTA 2ナトリウムを含む0.5Mトリス-塩酸バッファー(pH8.5)0.15リットルに溶解した。容器内を窒素ガスで置換した後、ジチオスレイトール1 gを加えた。室温で2時間撹拌した後、セファデックスG-25カラムを用いて脱塩した。直射光の当たらないところで秤量した色素(19)あるいは色素(22)を1.5 mmol添加し室温で1時間撹拌して反応させた。カットオフ分子量7,000の透析膜を用いて透析し、色素標識トランスフェリンを得た。同様にして、牛血清アルブミンを用いて色素標識牛血清アルブミンを作製した。また、色素(5)を用いて同様に反応させ、蛍光標識トランスフェリン及び蛍光標識血清アルブミンを作製した。
【0059】
例4:色素標識(その2)
カルボキシメチルトランスフェリン3gを水0.15リットルに溶解し、水酸化ナトリウムを用いて中性付近に調整した。色素(18)あるいは色素(20)を1.5 mmol添加し室温で1時間撹拌して反応させた。カットオフ分子量7,000の透析膜を用いて透析し、色素標識カルボキシメチルトランスフェリンを得た。同様にして、N−エチルスクシンイミド化牛血清アルブミンを用いて色素標識した。また、色素(8)を用いて同様に反応させ、蛍光標識カルボキシメチルトランスフェリン及び蛍光標識N−エチルスクシンイミド化血清アルブミンを作製した。
【0060】
例5:薄膜の作製
(支持体の作成)
175 μmのPETクリアーフイルムの表面をコロナ放電処理したのち、以下の組成の下塗りを施した支持体を作成した。なお、裏面の電気抵抗を測定したところ、1×108Ωであった。
1.おもて面
ゼラチン 0.3g/m2
硬膜剤(1) 0.001g/m2
2.裏面
ゼラチン 0.05g/m2
酸化アンチモンをドープした
二酸化スズの水分散物 0.04g/m2
メチルセルロース 0.01g/m2
マット剤
(平均粒径3μのPMMAポリマー粒子)0.005g/m2
硬膜剤(2) 0.002g/m2
【0061】
【化6】
Figure 0004139582
【0062】
(塗布液の調製及び塗布)
例1から4の操作により得られた色素標識又は蛍光色素標識されたプロテアーゼ基質各 3 gをそれぞれ 100 mLの純水に溶解し、塩酸又はNaOHによりpHを7.0から7.5の間に調整した。硬膜剤として1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンを45 mgずつ添加した。前記支持体に各トランスフェリン誘導体あるいはアルブミン誘導体を、膜厚約3 μmになるよう塗布した。蛍光標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜は、いずれも乾燥膜の状態では蛍光を発せず、濃度消光していた。
【0063】
例6:キレート剤を含む薄膜の作製
上記例1から4の操作により得られた色素又は蛍光色素標識されたプロテアーゼ基質各 3 gを100 mLの純水に溶解し、塩酸又はNaOHによりpHを7.0から7.5の間に調整した。硬膜剤として1,2−ビス(ビニルスルホニルアセトアミド)エタンを45 mg、及びキレート剤としてo−フェナントロリンを0.38 g添加した。例5に示した支持体に各プロテアーゼ基質を膜厚約3 μmになるよう塗布した。蛍光標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜は、いずれも乾燥膜の状態では蛍光を発せず、濃度消光していた。
【0064】
例7:大腸癌凍結切片のプロテアーゼ活性の測定
外科手術により摘出し凍結した大腸癌検体を急速凍結した後、凍結切片作製装置を用いて−25℃で厚さ4μmに薄切し、例5及び例6に従って作製した24種の薄膜に接着させた。これらの膜を37℃、相対湿度100%で8時間インキュベートし自然乾燥させたのち、色素で標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜については10分間水洗した。さらにマイヤーのヘマトキシリン液に2分間浸漬して核染色を行い、10分間水洗後、20秒間エタノールに浸漬して脱水し自然乾燥させた。蛍光色素で標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜については、インキュベート終了後そのまま自然乾燥させた。
【0065】
すべてのフィルムについて、乾燥後、組織切片を覆うようにカバーエイドフィルム(サクラ精機製)を水溶性のアパチ封入剤を用いて貼り付け大腸癌切片を封入した。このフィルムをプラスチック製のホルダーに保持し、光学顕微鏡あるいは蛍光顕微鏡を用いて観察すると、例5に従って作製したいずれの薄膜においても大腸癌組織切片中、核の形態より癌細胞が存在すると考えられる部位に薄膜の消化が認められ、プロテアーゼ活性があることが明らかとなった。すなわち、色素標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜の場合には、消化した部位は色の薄い領域として観察され、蛍光標識したプロテアーゼ基質を含む薄膜の場合には、消化した部位は蛍光の強い領域として観察された。また、例6に従って作製した薄膜においてはプロテアーゼ活性が抑制されていた。
【0066】
【発明の効果】
本発明の薄膜は、測定に要する操作が簡便であり特定のプロテアーゼにより選択的に消化痕が形成されるので、特定のプロテアーゼ活性の測定に有用である。

Claims (13)

  1. マトリックスメタロプロテアーゼ7、トリプシン、又はエラスターゼのプロテアーゼ活性を測定するための薄膜であって、プロテアーゼ基質として色素で標識されたトランスフェリン誘導体と硬膜剤とを含み支持体上に形成された薄膜。
  2. マトリックスメタロプロテアーゼ7、トリプシン、又はエラスターゼのプロテアーゼ活性を測定するための薄膜であって、色素で標識されたトランスフェリン誘導体、プロテアーゼ・インヒビター、及び硬膜剤を含み支持体上に形成された薄膜。
  3. マトリックスメタロプロテアーゼ7、トリプシン、又はエラスターゼのプロテアーゼ活性を測定するための薄膜であって、プロテアーゼ基質として色素で標識されたアルブミン誘導体と硬膜剤とを含み支持体上に形成された薄膜。
  4. マトリックスメタロプロテアーゼ7、トリプシン、又はエラスターゼのプロテアーゼ活性を測定するための薄膜であって、色素で標識されたアルブミン誘導体、プロテアーゼ・インヒビター、及び硬膜剤を含み支持体上に形成された薄膜。
  5. 色素での標識が共有結合形成による標識である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薄膜。
  6. 色素での標識が、トランスフェリン誘導体又はアルブミン誘導体に存在するジスルフィド結合を還元的に開裂させて生成するスルフヒドリル基と色素との共有結合形成による標識である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薄膜。
  7. 色素での標識が、トランスフェリン誘導体又はアルブミン誘導体に存在するアミノ基と色素との共有結合形成による標識である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薄膜。
  8. 色素で標識されたトランスフェリン誘導体又は色素で標識されたアルブミン誘導体を含む2以上の層が支持体上に形成された請求項1ないし7のいずれか1項に記載の薄膜。
  9. 色素が蛍光色素である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の薄膜。
  10. 濃度消光により乾燥膜状態で蛍光が実質的に消光している請求項9に記載の薄膜。
  11. プロテアーゼ活性の測定方法であって、(1)請求項1ないし10のいずれか1項に記載の薄膜に対してプロテアーゼを含む試料を接触させる工程;及び(2)プロテアーゼ活性により該薄膜に形成された消化痕を検出する工程を含む方法。
  12. 試料が組織切片又は細胞を含む生体試料である請求項11に記載の方法。
  13. 薄膜上の組織切片又は細胞の細胞核を薄膜と識別可能な色の色素で染色する工程を含む請求項12に記載の方法。
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