JP4139122B2 - 混合伝導体積層素子の製造方法および混合伝導体積層素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば燃料電池用の改質器のような用途に用いられる混合伝導体積層素子の製造方法および混合伝導体積層素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば燃料電池用の改質器で酸素を含有する多成分組成のガスから酸素を分離するための酸素透過膜として、酸素イオンおよび電子を互いに異なった方向に伝導する性質を有する緻密質固体セラミック膜を用いることが提案されている。
【0003】
この緻密質固体セラミック膜は、例えば有効酸素欠陥を人工的に発生させたセラミック材料からなるもので、膜で隔てられた2つの領域のガス中の酸素濃度が異なっていると、濃度の高い方の領域から低い方の領域へと酸素イオンが膜中を拡散移動して行くという機能を利用して、例えば空気のような酸素を含有しているガスから酸素を分離または取り出すことができる。
【0004】
その酸素イオンの単位時間あたりの移動量(移動能率;これをQとする)は、一般に、膜で隔てられた2つの領域どうしの酸素濃度の差または酸素分圧の差(これをΔPとする)と、その膜に固有のイオン透過能(これをρとする)と、膜厚(これをtとする)と、酸素を含有しているガスに接触する膜の面積(これをSとする)とに対応して定まるが、その定量的な関係は、Q=ΔP・ρ・S/tで表すことができる。
【0005】
ここで、酸素濃度の差が一定(ΔP=const.)およびイオン透過能が一定(ρ=const.)であると仮定すると、酸素イオンの移動能率Qは、S/tに比例することとなる。すなわち、イオン透過能ρは膜の性能として固有のものであるから、酸素イオンの移動能率Qを向上するためには、膜の面積Sを大きくすることと、膜厚tを薄くすることが有効であることに帰結される。
【0006】
しかし、そのように膜厚を薄くすると、緻密質固体セラミック膜のような緻密で脆い膜は機械的強度が著しく低下する傾向にある。そこで、このような膜の機械的強度の脆弱化に対応するために、多孔質支持体で膜を力学的に支持するという技術が、例えば特開2000−128545号公報にて提案されている。また、複数のガス流通孔が形成された金属補強板やガス流通溝が形成されたベース板で膜を支持するという技術が、例えば特開平9−255306号公報にて提案されている。
【0007】
これらはいずれも、材料力学的に必要十分な強度を有する支持板によって膜を機械的に支持して補強するというものであるが、金属補強板または多孔質支持体のような支持板と緻密質固体セラミック膜のようなイオン分離能を有する膜とでは熱膨張率が大幅に異なっているので、例えば高温環境に置かれた場合などには膜と支持板との間で強い熱応力が生じ、甚だしくは脆い緻密質固体セラミック膜が破損するといった虞がある。あるいは、支持板の上に緻密質固体セラミック膜のような分離膜の成膜プロセスの自由度が著しく制約されてしまい、所望の機能を有する膜の成膜が困難なものとなる場合もある。
【0008】
また、緻密質固体セラミック膜と支持板とでは、その各々の製造プロセスが著しく異なっているので、例えば両者を同じ一つの焼成プロセスで積層して所定のスタック(例えば改質器として用いられる混合伝導体素子)を形成することなどは極めて困難あるいは不可能である。このため、緻密質固体セラミック膜と支持板とを別個に作製しておき、それを積み重ねて貼り合わせるなどしてスタックを形成することを余儀なくされるが、その製造プロセスが煩雑なものとなり、またその機械的な構造も繁雑なものとなって、製造コストの低廉化の著しい妨げとなる。
【0009】
しかも、上記のような支持板を用いた構成では、実質的にイオン分離作用には何ら関与しない支持板の体積が膜の体積と比べて大きいので、素子(スタック)全体の体積に対して支持板が占める体積の割合が極めて大きくなり、素子全体の小型化あるいは薄型化の著しい妨げとなる。
【0010】
あるいは、上記のような板体状の緻密質固体セラミック膜を用いるという技術以外にも、例えば特開平13−104742号公報や特開2000−104742号公報では、複数の筒状の通気路を集合してなるハニカム型ガス分離膜構造体が提案されている。このような複数の筒状の通気路を有するハニカム型構造体は押し出し成形によって作製されるとしているが、しかし実際には、押し出し成形で正確な形状のハニカム型構造体を高い歩留りで作製することや、ハニカムの全開口部について隣り合った開口部を一つおきに確実に目封じすることは、極めて煩雑であり困難性も高く、延いてはそれが製造コストの低廉化に対する著しい妨げとなる。また、押し出し成形では直線的な通気路しか形成できないので、そのような製造可能な素子についての形状的な制約もある。しかも、膜面積を実質的に大きくするためには、ハニカム型構造体の外形形状を長手方向(通気路の延伸方向と平行な方向)に長くすることが必要となるが、そのように長くすると、例えば改質器としての使用時の加熱による熱膨張でハニカム型構造体の長手方向の寸法が大幅に変位しやすくなり、それに起因してハニカム型構造体を機械的に支持している部分に強い応力が掛かって、甚だしくはハニカム型構造体が破損しやすくなるといった虞もある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、従来の技術では、緻密質固体セラミック膜のような分離膜の移動能率を高めるために膜厚を薄くすると、その膜の機械的な強度が著しく低下するので、それを機械的に支持するために支持板を用いていたが、支持板はイオンの分離機能には何ら寄与しないので、改質器のような素子としての全体的な体積の小型化・薄型化が困難なものとなるという問題があった。また、支持板を用いることで、その構造や製造プロセスが煩雑なものとなって、製造コストの低廉化に対する著しい妨げとなっていた。
【0012】
あるいはその他にも、分離膜をハニカム型構造体とするという技術なども提案されていたが、実際にはその製造プロセスが煩雑であり、またそれを低廉なコストで正確に製造することが困難であるという問題や、実際上の形状的な制約が多いという問題があった。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、膜厚の薄い緻密質固体セラミック膜のような分離膜を有して高能率な移動能率の実現、素子全体の小型化あるいは薄型化の達成、および素子全体の製造工程の簡易化・低コスト化の達成を可能とした混合伝導体積層素子の製造方法および混合伝導体積層素子を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明による混合伝導体積層素子の製造方法は、焼成されると酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を有する材質からなる未焼成の混合伝導体シートの表面に、熱処理または化学的処理によって消失させることが可能な材質からなる消失可能部材を所定の通気路の形状に印刷形成する工程と、混合伝導体シートの表面における消失可能部材が印刷形成されていない余白の部分のうち、少なくとも通気路の側壁となる部分に、混合伝導体シートと同じ材質または焼成後に混合伝導体シートと一体化して焼結される材質からなる未焼成の側壁兼スペーサ部材を印刷形成する工程と、消失可能部材と前記側壁兼スペーサ部材とが印刷形成された混合伝導体シートを複数枚積層して積層成形体を作製する工程と、積層成形体を焼成する工程と、混合伝導体シートの積層後から積層成形体の焼成の完了までの間に、消失可能部材を消失させて、その消失可能部材が消失した部分を細隙状の通気路にする工程とを含んでいる。
【0015】
また、本発明による混合伝導体積層素子は、酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を有する緻密質固体セラミック材料からなる薄板状または膜状の混合伝導体が、少なくとも2枚、間隙を有して対向配置されて焼成されており、混合伝導体と同じ材質または焼成後に一体化する材質からなる側壁と対向配置された混合伝導体の表面とによって、入口側および出口側の開口を除いて囲まれるようにして、少なくとも一つの連続した細隙状の通気路が設けられている。
【0016】
本発明による混合伝導体積層素子の製造方法または混合伝導体積層素子では、未焼成の混合伝導体シートの表面に、熱処理や化学的処理などによって完全燃焼や熱分解あるいは揮散(昇華)するなどして消失する材質からなる消失可能部材を通気路の形状に印刷形成し、通気路の側壁となる部分には未焼成の側壁兼スペーサ部材を印刷形成する。このとき、消失可能部材や側壁兼スペーサ部材を印刷形成しているので、それらは極めて簡易かつ確実に、所望の形状(平面的パターン)および所望の厚さに形成することが可能である。そして消失可能部材と未焼成の側壁兼スペーサ部材とが印刷された混合伝導体シートを複数枚積層して積層成形体を作製し、それを焼成して、混合伝導体積層素子を完成するが、その複数枚の混合伝導体シートの積層から積層成形体の焼成完了までの間に、消失可能部材を熱処理や化学的処理などによって消失させることで、その消失可能部材が消失したことによって生じた空間が細隙状の通気路となる。従って、少なくとも混合伝導体シートを複数枚積層して積層成形体を作製するまでは、通気路となる予定の空間には印刷形成された消失可能部材が存在しているので、その部分の混合伝導体シートが積層時に撓んだり歪曲したりすることが防止される。また、積層成形体の焼成が完了するまでには、消失可能部材を熱処理や化学的処理などによって消失させるようにしているので、破損や形状不良等を発生することなく極めて薄くてイオンや電子の伝導効率の高い混合伝導体膜を備えた混合伝導体積層素子が簡易かつ確実に製造される。
【0017】
ここで、上記の消失可能部材や側壁兼スペーサ部材の印刷形成に用いることが可能な印刷方式の、より具体的な態様としては、流動性を有する材料を所定のパターンに良好な再現性を保って転写することが可能なものであれば、どのようなものでもよい。例えば、スクリーン印刷法、オフセット転写印刷法、インクジェット法などのような種々の印刷方式が適用可能である。
【0018】
また、上記の「細隙状」とは、断面形状が三角形や四角形や円形などのいわゆる筒状のものなどとは異なり、幅方向(混合伝導体シートの表面に対して平行な方向)の寸法が高さ方向(混合伝導体シートの表面に対して垂直な方向)の寸法よりも明らかに広くて偏平な形状のものであることを、ここでは意味するものとする。
【0019】
なお、側壁兼スペーサ以外の所定位置に、消失可能部材を印刷形成しない余白部分をさらに設けて、その余白部分に側壁兼スペーサと同じ材質または焼成後に混合伝導体シートと一体化して焼結される材質からなる未焼成の支持体部材を印刷形成しておき、それを積層成形体の焼成の際に焼成して、通気路にて対向する混合伝導体シートどうしの間隙を支持するための支持体を、さらに形成するようにしてもよい。このようにすることにより、混合伝導体シートが極めて薄い膜のようなものであっても、通気路にて対向する混合伝導体シートどうしの表面の間隙を支持体によって力学的に支えるので、混合伝導体シートを焼成するまでの間に混合伝導体シートの撓みや歪曲が生じることが防止され、また混合伝導体シートを焼成した後に混合伝導体シート(イオン分離膜)が破損することなどが防止される。
【0020】
また、上記の消失可能部材を消失させる工程としては、混合伝導体シートを積層し外部からその積層方向に押圧して積層成形体を作製した後、積層成形体に熱処理または化学的処理を施して消失可能部材を消失させるようにしてもよい。
【0021】
すなわち、混合伝導体シートは一般にバインダーを含有する材料からなり、焼成前に数100[℃]程度の温度で脱バインダー工程が行われることが一般に多いので、そのような脱バインダーのための熱処理工程を、消失可能部材を消失させる工程としても兼用することなどが有効である。このようすることにより、脱バインダーのような熱処理工程とは別段に消失可能部材を消失させる工程を付加する必要がなくなるので、全体的な製造プロセスの煩雑化が回避される。但し、これのみには限定されず、この他にも、例えば積層成形体を焼成する際に、そのときの加熱によって消失可能部材を消失させることなども可能である。
【0022】
また、上記の側壁兼スペーサの印刷形成は省略して、混合伝導体シートの表面に消失可能部材を所定の通気路の形状に印刷形成し、その消失可能部材が印刷形成された混合伝導体シートを複数枚積層し、その積層方向に押圧して、重なり合った各混合伝導体シートの表面における消失可能部材が印刷形成されていない余白部分の表面どうしを密着させることで(その余白部分の混合伝導体シートが塑性変形するなどして)、混合伝導体シートの表面で消失可能部材を包囲する状態にした後、消失可能部材を消失させて、通気路を設けるようにしてもよい。このようにすることにより、通気路を必要十分な形状再現性で形成しながらも、上記のような側壁兼スペーサを印刷形成する工程が省かれるので、全体的な製造プロセスがさらに簡易化される。
【0023】
また、上記の混合伝導体シートの表面上における通気路の平面的パターン形状をL字型またはT字型に形成することで、通気路の入口側の開口と出口側の開口との位置関係が、直線的な形状の通気路の場合とは異なったものとなり、通気路の入口側の開口と出口側の開口とを当該混合伝導体シートの異なった端辺に設けられる。
【0024】
また、上記の混合伝導体シートの表面上における通気路の平面的パターン形状を、混合伝導体シートの一端側から他端側へと向かって延伸し、その他端側で方向転換して前記の一端側へと戻って来るような折り返しを有するものとし、かつ通気路の入口側の開口部と出口側の開口部との両方を、共に前記の一端側に配置するようにしてもよい。このようにすることにより、通気路の入口側の開口部に吸気ポートやそれに連なる配管を接続し、出口側の開口部には排気ポートやそれに連なる配管を接続しても、それらは共に混合伝導体シートの一端側に設けられているので、その一端側はポートや配管等で機械的(力学的)に束縛されて固定端(束縛端)となるが、他端側にはポートや配管等のような束縛要因となるものを設けなくともよいので、その他端側は機械的に自由端となる。従って、例えばこの混合伝導体積層素子が使用環境からの加熱やそれ自体の動作に伴う発熱、あるいは冷却などに起因して熱膨張したり冷却収縮したとしても、それに起因した伝導体積層素子の外形寸法的な変位(上記の一端から他端にかけての寸法の伸びまたは縮み等)は、自由端である他端側が解放して逃がしてくれるので、そのような熱膨張に伴ったいわゆる熱応力をこの混合伝導体積層素子が受けることが防止される。
【0025】
なお、ここでは、上記の「一端側」および「他端側」とは、混合伝導体シートの平面的な外形形状が例えば長方形である場合、そのシートの長手方向の両端のうちの一方を一端とし、反対側を他端とすると、そのシートの長手方向の中央から一端にかけての領域を「一端側」と呼び、中心線から他端にかけての領域を「他端側」と呼ぶものとする。
【0026】
また、上記の混合伝導体シートは曲面状に加工するようにしてもよい。この工程は、複数の混合伝導体シートを積層して積層成形体を作成した後に行うようにしてもよく、あるいは混合伝導体シートの表面に消失可能部材や側壁兼スペーサ部材を印刷形成した後であって複数の混合伝導体シートを積層する前に行うようにしてもよい。
【0027】
あるいは、消失可能部材や側壁兼スペーサ部材を印刷形成する前に曲面状に加工してもよいが、そのようにすると、消失可能部材や側壁兼スペーサ部材を曲面印刷法によって印刷しなければならなくなって、印刷技術的な困難さや煩雑さが増大する傾向にある。この観点からすると、混合伝導体シートを所定の曲面状に加工する工程は、全プロセス中で早くとも混合伝導体シートの表面に消失可能部材や側壁兼スペーサ部材を印刷形成した後に行うことが望ましい。
【0028】
また、上記の混合伝導体シートとしては、焼成されると酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を発揮する緻密質固体セラミック材料からなるものなどが好適である。但し、混合伝導体シートの材質は、そのようなセラミック材料のみには限定されないことは言うまでもない。
【0029】
また、本発明による混合伝導体積層素子は、通気路を少なくとも2つ備えており、そのうちの一方の通気路には被改質流体または燃料電池発電用の燃料を流し、他方の通気路には空気または二酸化炭素のような酸素含有ガスを流すように設定されて、実質的に燃料電池発電用の燃料などを改質するための改質器としての用途などに用いられるのに好適なものである。但し、本発明による混合伝導体積層素子の実質的な用途としては、そのような改質器のみには限定されないことは言うまでもない。なお、通気路が3つ以上の場合には、各混合伝導膜の表裏両面のうち一面には被改質流体が流れ、他面には酸素含有ガスが流れるように設定する。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る混合伝導体積層素子およびその混合伝導体積層素子の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の一実施の形態に係る混合伝導体積層素子の概要構成を表したものである。なお、この図1では、混合伝導体積層素子の内部の通気路の形状を示すために、最上層の一枚の混合伝導体(または天板)については、素子本体から切り離して、実際にはそれに覆われている通気路の形状が見えるように描いてある。また、図1では3つの通気路のみを描いてあるが、実際にはさらに多段に積層されたものとすることも可能であることは言うまでもない。
【0032】
この混合伝導体積層素子は、酸素イオンまたは酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を有する分離膜である混合伝導体1が、側壁兼スペーサ部材2によって、例えば数μm(ミクロン)〜数mm(ミリ)といった所定の間隙を保った状態で対向配置されて焼成されている。混合伝導体1は、極めて薄い酸素分離膜でありながら、形状再現性が極めて良好で、かつ後述するような製造プロセスによって極めて簡易に低コストで形成することが可能なものとなっている。
【0033】
混合伝導体1は、酸素イオンまたは酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を有する緻密質固体セラミック材料からなるものである。この混合伝導体1は、例えば主材料としてLa0.05Sr0.95CoO3 を用いると共にアクリル系バインダーを用いた材料をシート状に形成したものなどが好適である。この混合伝導体1の膜厚は、分離膜として要求されるイオン移動能率や機械的強度に対応して設定されるが、例えば焼き上げ寸法で数μmから数100μm、あるいは、それよりもさらに薄く、または厚くすることなども可能である。
【0034】
その対向配置された膜状の混合伝導体1どうしの間には、混合伝導体1と同じ材質で焼成後には一体化する材質からなる側壁兼スペーサ部材2の側壁と、混合伝導体1の表面とによって、入口側の開口3,4および出口側の開口5,6を除いて囲まれるようにして、一つの連続した細隙状の通気路7,8が設けられている。
【0035】
通気路7,8の平面的パターン形状は、例えばT字型に形成されている。通気路7,8は複数のそれぞれが独立した流路を形成するように形成されている。この通気路7,8の立体的な形状は、後述するような製造方法によって、極めて偏平で細隙状のものとなっている。その細隙の寸法としては、後述するような製造方法における消失可能部材の印刷形成可能な膜厚にもよるが、例えば数10[μm]〜数[mm]とすることが可能である。あるいは、消失可能部材の印刷方法を適宜に選択・変更することで、さらに薄く、または厚くすることなども可能である。
【0036】
その一つ一つの通気路7,8は、例えば図1では、最下層の通気路7にはメタンのような被改質材として燃料が流され、その上の層の通気路8には改質材として例えば空気のような酸素含有ガスが流され、さらにその上の層の通気路(図示省略)には燃料が流され、さらにその上の層の通気路(図示省略)には空気が流される…というように、図1に示した混合伝導体積層素子の下から上へと、燃料の通気路7と空気の通気路8(図1では図示省略)とが交互に順番に配列されている。これにより、燃料が流される通気路7と空気が流される通気路8との間に存在して両者を仕切っている混合伝導体1が酸素分離膜(酸素透過膜)として機能して、この混合伝導体積層素子は実質的にメタンのような燃料電池発電用の改質器として機能するものとなっている。
【0037】
通気路7,8における混合伝導体1の表面は、その混合伝導体1以外の多孔質支持板や補強用金属支持板などの異質な部材等で機械的に支持されたり被覆されたりしておらず、その混合伝導体1と組み合わせて用いられる触媒を除いては、通気路7,8に対して直接的に露出している。これにより、通気路7,8を流れる燃料や空気を直接的に混合伝導体1の表面に接触させることができる。
【0038】
図1に示した概要構成では、燃料の通気路7の開口3,5は、入口側の開口3が正面に設けられており、出口側の開口5が左右両側面の背面寄りに設けられている。また、空気の通気路8の開口4,6は、燃料の通気路7と段違いで(一層おきに交互に)、入口側の開口(図1では背面側に隠れているので正面からは見えない)4が背面に設けられており、出口側の開口6が左右両側面の正面寄りに設けられている。
【0039】
従って、燃料は正面の開口3から通気路7へと流入し、その通気路7を通って改質されて、側面の背面寄りの開口5から外部へと流出する。また、空気は背面の開口4から通気路8へと流入し、その通気路8を通って酸素が分離されて、側面の正面寄りの開口6から外部へと流出する。
【0040】
このように設定されていることにより、燃料の流路の入口および出口の位置と空気の流路の入口および出口の位置とを、対称的に分けることができ、延いては燃料の流路に対する配管(図示省略)と空気の流路に対する配管(図示省略)とが、互いに位置的に干渉したり繁雑な配管形状となることを防いで、それらの配管構成の簡易化を実現することができる。しかも、上記のような開口3,4,5,6および通気路7,8は、後述するような製造方法によって、自在な形状および位置に、極めて簡易な製造プロセスで設けることが可能である。
【0041】
この混合伝導体積層素子では、上記のように通気路7,8が細隙状に形成されており、その通気路7,8を流れる燃料または空気に対して混合伝導体1の表面が接触する面積が極めて広くなっており、しかもその接触は、混合伝導体1の表面に設けられる触媒(本実施の形態の場合には別体の触媒は不要であるためその図示は省略)を除いては、混合伝導体1の表面に対して直接的に成されるので、混合伝導体1による酸素イオンの移動能率(換言すれば酸素分離の機能)をさらに高いものとすることができる。
【0042】
また、混合伝導体1の膜厚を極めて薄くすることができるので、その混合伝導体1におけるイオンの移動能率を高いものとすることができる。その結果、燃料(被改質材)に対する改質能力が極めて高いものとなっている。
【0043】
ここで、通気路7,8の平面的パターン形状としては、上記のようなT字型の他にも、図2に示したようなL字型にすることなども可能である。
【0044】
あるいは、図3、図4,図5に示したように、混合伝導体1の一端側から他端側へと向かって延伸し、その他端側で方向転換して前述の一端側へと戻って来る、というような折り返しを有して、通気路7,8の入口側と出口側の両方の開口3,4,5,6が全て前述の一端側に配置されているような平面的パターン形状とすることなども望ましい。
【0045】
図1に示した構成で通気路7,8として示した通気路は、例えば図3に示した一例では、混合伝導体1の長手方向の一端側(正面側;図の手前側)から他端側(背面側;図の奥側)へと向かって延伸し、その他端側(背面側)で方向転換して前述の一端側(正面側)へと戻って来るという折り返しのパターンとなっており、その通気路の入口側の開口3,4と出口側の開口5,6との両方が共に一端側(正面側)に設けられている。これは、言うなれば、U字型の形状となっている。
【0046】
また、図4に示した一例では、通気路7,8は図3とほぼ同様のU字型であるが、その通気路7,8の出口側および入口側の開口3,4,5,6に近い部分でL字型に進路を曲げられており、その入口側と出口側との開口3,4,5,6がそれぞれ、正面側ではなく左右両面側に位置する形状となっている。但しその左右両面側に設けられた開口3,4,5,6は、どちらも正面寄り(図4で手前寄り)の一端側に位置している。
【0047】
また、図3や図4に示した通気路7,8の場合は、その平面的パターンが折り返しを一つだけ有するものとなっているが、図5に示した一例では、折り返しを2つ有するものとなっている。これは言うなればW字型のもので、同じ面積あたりに形成可能な通気路7,8の入口から出口までの総距離を、上記のT字型などの場合よりもさらに長くすることができる。
【0048】
このように、通気路7,8が折り返しを有する形状に形成され、その通気路7,8の入口側と出口側との両方の開口3,4,5,6が同じ一端側(例えば正面寄りの位置)に片寄せて配置されているので、通気路7,8の入口側の開口3,4には吸気ポートやそれに連なる配管(いずれも図示省略)を接続し出口側の開口5,6には排気ポートやそれに連なる配管を接続すると、その一端側については機械的(力学的)に束縛されて束縛状態になるとしても、その他端側(背面寄りの位置)は自由端となる。
【0049】
従って、例えばこの混合伝導体積層素子が使用環境からの加熱やそれ自体の発熱あるいは冷却などに起因して熱膨張したり冷却収縮したとしても、それに起因した混合伝導体積層素子の外形寸法的な熱伸縮等の変位は、自由端である他端側が解放して逃がしてくれるので、そのような熱膨張に伴った熱応力やその他の外力に起因した破損等を防ぐことができる。
【0050】
ここで、図6に一例を示したように、通気路7,8にて対向する混合伝導体1の表面どうしの細隙を支持するための支柱のような支持体9を、さらに設けるようにしてもよい。この支持体9の形状については、種々のものが可能であるが、通気路7,8中の燃料や空気の流れに対して妨げとなることをできるだけ回避することが可能な形状にすることが望ましい。ここで、図3、図4、図5に示したような折り返しを有するパターンの通気路7,8の側壁を構成する部材である側壁兼スペーサ部材2のうち、混合伝導体1の中央の部分などは、実質的に図6に示した支持体9と同様に通気路7,8にて対向する混合伝導体1の表面どうしの細隙を支持する支持体9の作用を兼ね備えたものとなっている。この点も、通気路7,8を図3、図4、図5に示したような折り返しを有する形状にすることの利点である。
【0051】
なお、混合伝導体1の形状あるいは積層成形体の外形形状は、上記のような平坦状のみには限定されない。その他にも、凹曲面状、凸曲面状、截断球面状、円筒状のような所定の曲面状に形成することなども可能である。さらに具体的には、平坦な混合伝導体シートを積層して積層成形体を作製した後に、その積層成形体を例えば湾曲させるなどして曲面状に形成することなども可能である。このように混合伝導体1を曲面状に形成することにより、混合伝導体積層素子の全体的な外形形状を例えば半円柱状などにすることなども可能となり、延いては、例えば一層ごとの面積の広い混合伝導体を備えていながら狭隘な位置に設置することが可能な形状の改質器を実現することができる。
【0052】
また、混合伝導体積層素子の最上層の天板の部分および最下層の底板の部分は、混合伝導体からなるものとしてもよいが、これらの部分については、酸素イオンの分離機能に関しては実質的にそれほど寄与しないので、必ずしも混合伝導体のみに限定する必要はない。例えば図1に示したような構造の混合伝導体積層素子の場合、最上層の天板の部分および最下層の底板の部分のうち少なくとも最上層の天板20の部分について、この部分も焼成前に積層する場合には、焼成後に混合伝導体1と一体化する材質からなる気密性を有する蓋体状または板体状のものとすることなども可能である。あるいは、焼成したときに混合伝導体1と一体化しない材質や焼成温度に耐えられない材質のものを混合伝導体1と一体焼成される天板20や底板として用いる場合には、混合伝導体1の焼成後に、いわゆる後付けで、最上層や最下層に貼り付けるようにすることなども可能である。
【0053】
次に、本発明の一実施の形態に係る混合伝導体積層素子の製造方法について説明する。
【0054】
まず、焼成されると酸素イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質および気密性が生じる、例えばLa0.05Sr0.95CoO3 を用いると共にアクリル系バインダーを用いた材料を、例えば焼き上げ寸法が2〜500[μm]となるような厚さのシート状に加工して、未焼成の混合伝導体シート1を作製する。
【0055】
その未焼成の混合伝導体シート1の表面に、図7に一例を示したように、例えばポリエチレンやカーボンブラックのような熱処理または化学的処理による完全燃焼や熱分解あるいは揮散(昇華)などによって消失させることが可能な材質からなる消失可能部材10を、例えばT字型のような通気路7,8の形状に印刷形成する。支持体9を設ける場合には、その支持体9を形成する位置には消失可能部材10は印刷形成せずに、その部分は支持体9の平面的パターンに則した形状の、いわゆる「抜きパターン」にする。
【0056】
消失可能部材10は、製造工程中で遅くとも混合伝導体1の焼成完了までには消失して通気路7,8を形成するためのものであるから、その膜厚は、細隙状の通気路7,8の高さ(細隙の寸法)に対応して設定されることになる。膜厚の具体的な寸法としては、印刷方式ごとで実現可能な範囲は異なるが、例えばスクリーン印刷法の場合の一例を述べると、1〜1000[μm]の範囲のなかから自由に選択することができる。但し、これはスクリーン印刷法の場合の一例であって、他の印刷方式によれば、さらに薄い膜厚や、さらに厚い膜厚のものなども可能であることは言うまでもない。
【0057】
この消失可能部材10の印刷形成は、所定の流動性を有する材料を所定の再現性を保ってパターンに転写することが可能なものであれば、どのようなものでもよい。例えば、スクリーン印刷法、オフセット転写印刷法、インクジェット法などのような種々の印刷方式が適用可能である。それらのなかでも、特にスクリーン印刷法は、例えばメッシュスクリーンとスキージと原版とを用いた極めて簡易で低コストな印刷方式でありながら、印刷可能な消失可能部材10の形状や材質や膜厚の自由度が極めて高く、かつそのパターン再現性(印刷精度)および印刷能率も十分に良好であることから、本実施の形態に係る製造方法に好適なものである。
【0058】
この工程では、いずれの印刷方式を採用するにしても、消失可能部材10を印刷によって混合伝導体シート1の表面に形成するようにしているので、その印刷方式で可能なパターン再現性の範囲内で、上記のようなT字型、U字型、W字型、L型をはじめとして、ほとんどどのような形状のパターンであっても、またその膜厚も、極めて高い自由度で選ぶことができ、かつ消失可能部材10のパターン形成を極めて良好なスループットで低コストに行うことができる。
【0059】
続いて、図8に示したように、混合伝導体シート1の表面における消失可能部材10が印刷形成されていない余白の部分に、混合伝導体シート1と同じ材質で焼成後には混合伝導体シート1と一体化して焼結される未焼成の側壁兼スペーサ部材2を印刷形成する。この側壁兼スペーサ部材2は消失可能部材10と同じ膜厚にして、印刷形成された側壁兼スペーサ部材2の表面の高さと消失可能部材10の高さとを混合伝導体シート1上で一律に揃うようにすることが望ましい。
【0060】
続いて、図9に模式的に示したように、上記のようにして側壁兼スペーサ部材2および消失可能部材10が表裏のうち片方の表面上に印刷形成された混合伝導体シート1を所定の枚数、積層する。この積層枚数は、混合伝導体積層素子として要求される酸素分離能率のような性能を必要十分に具現化できるように適宜設定する。その最上層には、消失可能部材10等が印刷されていない混合伝導体シート1または焼成後に混合伝導体シート1と一体化する材質からなる天板20を載置する。
【0061】
続いて、図10に示したように積層された混合伝導体シート1に対して、外部から押圧力を印加して積層された各混合伝導体シート1どうしの接合面をよく密着させて、積層成形体を作製する。そしてその積層成形体に対して、焼成前に300〜900[℃]程度の温度で脱バインダ工程を施す。このとき、脱バインダ工程での数100[℃]の加熱によって、消失可能部材10を消失させる。その消失可能部材10が消失したことによって生じた空間が細隙状の通気路7,8となる。混合伝導体シート1は一般にバインダを含有する材料からなり、焼成前300〜900[℃]程度の温度で数時間〜数10時間に亘る脱バインダ工程が行われるので、その脱バインダのための熱処理工程を、消失可能部材10を消失させる工程としても兼用するようにしてもよい。あるいは、それだけでは消失可能部材10を完全に消失させることが不十分である場合には、それに引き続いて、例えば300[℃]〜1000[℃]程度の温度で熱処理を継続して、より確実に消失可能部材10を完全に消失させることなども可能である。
【0062】
このようすることにより、脱バインダのような熱処理工程とは別段に消失可能部材10を消失させる工程を行わなくとも、消失可能部材10を消失させて細隙状の通気路7,8を形成することができ、延いては全体的な製造プロセスの簡潔化を図ることができる。あるいは、焼成工程では1000[℃]〜1600[℃]の高温で焼き上げることになるので、遅くとも焼成工程では消失可能部材10を完全に消失させることができる。
【0063】
また、混合伝導体シート1を複数枚積層して積層成形体を作製するまでは、通気路7,8となる予定の空間には印刷形成された消失可能部材10が存在しているので、その部分の混合伝導体シート1が積層時や積層方向に押圧力を加えられた時などに撓んだり歪曲んだりすることを防いで、極めて薄い膜厚の混合伝導体1を焼成することができる。
【0064】
但しここで、消失可能部材10を消失させる工程は、上記のような積層成形体の作製後の脱バインダ工程中にその加熱によって行うことのみには限定されない。その他にも、例えば積層成形体を焼成する際の加熱によって消失可能部材10を消失させるようにしてもよく、あるいは熱分解や焼却以外にも、消失可能部材10を化学的に溶解または分解可能な材質のものとし、積層成形体を焼成する工程の前に、化学処理によって消失可能部材10を溶解させるようにすることなども可能である。
【0065】
上記の脱バインダおよび消失可能部材10を消失させるための熱処理工程は、アルゴンガスや窒素ガスなどを用いた作業雰囲気中で行うようにしてもよい。
【0066】
続いて、脱バインダを施され、消失可能部材10を消失させて図1に示したような通気路7,8を形成した積層成形体を焼成する。このときの焼成条件は、積層成形体を構成している混合伝導体シート1を中心とする主な材料に好適な設定とすればよい。例えば、一般的な空気雰囲気中での常圧焼成を適用することなどが可能である。
【0067】
なお、上記のような本実施の形態に係る混合伝導体積層素子およびその製造方法では、混合伝導体シート1の材質を緻密質固体セラミック材料からなるものとしたが、そのようなセラミック材料のみには限定されないことは言うまでもない。
【0068】
また、図11に示したように、上記の側壁兼スペーサ部材2の印刷形成は省略して、混合伝導体シート1の表面に消失可能部材10を所定の通気路7,8の形状に印刷形成し、その消失可能部材10が印刷形成された混合伝導体シート1を複数枚積層し、それを積層方向に押圧して、各混合伝導体シート1の表面における消失可能部材10が印刷形成されていない余白部分の重なり合った表面どうしを密着させることで、その余白部分の混合伝導体シート1が塑性変形するなどして、混合伝導体シート1の表面で消失可能部材10を包囲する状態にした後、消失可能部材10を消失させて、通気路7,8を設けるようにしてもよい。このようにすることにより、通気路7,8を必要十分な形状再現性で形成しながらも、上記のような側壁兼スペーサを印刷形成する工程を省略することができるので、全体的な製造プロセスのさらなる簡易化および低コスト化を達成することが可能となる。
【0069】
また、混合伝導体シート1を所定の曲面状に加工するようにしてもよい。そのような曲面状に加工する工程は、混合伝導体シート1の表面に消失可能部材10や側壁兼スペーサ部材2を印刷形成した後であって複数の混合伝導体シート1を積層する前に行うようにしてもよく、あるいは消失可能部材10や側壁兼スペーサ部材2が印刷形成された複数の混合伝導体シート1を積層した後に行うようにしてもよい。但し、消失可能部材10や側壁兼スペーサ部材2を印刷形成する前に所定の曲面状に加工する場合には、消失可能部材10や側壁兼スペーサ部材2を曲面印刷法によって印刷しなければならなくなって、印刷技術的な困難さや煩雑さが増大する傾向にある。この観点からすれば、混合伝導体シート1を所定の曲面状に加工する工程は、混合伝導体シート1の表面に消失可能部材10や側壁兼スペーサ部材2を印刷形成した後に行うことが、より望ましい。
【0070】
また、本実施の形態に係る混合伝導体積層素子は、実質的に燃料電池発電用の燃料などを改質するための改質器としての用途などに好適なものである。但し、用途はそのような改質器のみには限定されないことは言うまでもない。
【0071】
[実施例]
アクリル系バインダーを使用してLa0.05Sr0.95CoO3 の混合伝導体シート1を作製した。混合伝導体シート1の厚みは焼き上げで10μmとなるように調整した。
【0072】
その混合伝導体シート1の表面に、アクリル系バインダーで作製したカーボンブラックペーストからなる消失可能部材10をT字型に印刷した。印刷厚みは、焼き上げ後の通気路7,8の細隙(高さ)が40[μm]になるように逆算して調整した。
【0073】
T字型の通気路7,8における胴体部の幅(図1で横方向の寸法)は30[mm]、通気路7,8の長手方向の寸法(図1で手前から奥行き方向の長さ)は72[mm]、通気路7,8としての実効長は60[mm]、T字型の張り出し部分の長さは焼き上げで5[mm]となるように逆算して調整した。
【0074】
消失可能部材10が印刷形成されていない余白部分に、アクリル系バインダーでペースト化したLa0.05Sr0.95CoO3 を、シート全体の厚みが均一となるように印刷した。
【0075】
続いて、La0.05Sr0.95CoO3 のシートにカーボンブラックペーストを印刷し、さらに全体を均一厚みにした混合伝導体シート1を266枚積層した。この266枚の積層は、T字型の通気路7,8(消失可能部材10)が交互に逆向きになるようにした。このようにすることで、酸素含有ガス(空気等)と酸素受容ガス(燃料等)との開口を互いに長手方向の反対側に位置させるようにした。これは換言すれば、酸素含有ガスと酸素受容ガスとを互いに向かい合う方向に流すようにするということである。
【0076】
混合伝導体シート1を266枚積層してなる積層成形体を、その焼き上げ厚が3[mm]となるように逆算して、50[℃]で30分間に亘って圧力98[MPa]の熱プレスを施した。
【0077】
こうして熱プレス成形してなる積層成形体を、800[℃]の空気雰囲気中で20時間に亘って保持することにより、カーボンブラックを除去して酸素含有ガスと酸素受容ガスとの通気路7,8を確保できる。昇温速度は1[℃/min]とした。
【0078】
上記のようにして熱処理を施した積層成形体を、1150[℃]の空気雰囲気中で5時間に亘って焼成した。昇降温速度は3[℃/min]とした。
【0079】
そして焼結完了した積層成形体の各通気路7,8の開口に、それぞれニッケル製の導入管及び排出管(いずれも図示省略)を、各々活性銀ロウ付けにて接続して、改質器として好適に用いられる本実施例の混合伝導体積層素子の主要部を完成した。このような製造工程の主要部をまとめて示すと図12のようになる。
【0080】
導入管に酸素含有ガスとして空気を、もう一方の導入管に酸素受容ガスとしてメタンを導入し、実際に改質器としての運転を行った。このときの各ガスの導入時の圧力は0.49[Pa]とした。
【0081】
メタンは膜を透過した酸素と部分酸化反応して、水素と一酸化炭素とになったことをガスクロマトグラフによって確認した。さらに、水蒸気によってシフト反応、未反応の一酸化炭素を酸化除去した後、それをPEFC(Polymer Electrolyte Fuel Cell ;固体高分子型燃料電池;図示省略)に導入して、実際に発電を行った。
【0082】
その結果、14[kW]の出力が得られた。このとき、14[kW]の出力に達するまでの所要時間(起動時間)は、3分間となった。これは、同じ電池に対して従来の水蒸気方式の改質器を用いてガスを供給した場合の出力14[kW]に達するまでの平均的な所要時間である40分間程度と比較して、1/13以下であり、本発明によれば起動開始に到達するまでの大幅な時間短縮を実現できることが確認された。
【0083】
また、カーボンブラックを粒径2[μm]のポリエチレンパウダーとし、T字型の通気路7,8を図5に示したような2つの折り返しパターンの通気路7,8に変更し、それ以外は上記と同様の構成および製造方法で混合伝導体積層素子を作製し、それを用いて上記と同様の実験を行った。
【0084】
その結果、電池が14[kW]に達するまでの時間は18秒となった。これは従来の水蒸気改質の起動時間である40分程度と比較して、1/133以下であり、2桁違いという、起動時間の飛躍的な時間短縮を達成できることが確認された。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1ないし7のいずれかに記載の混合伝導体積層素子の製造方法または請求項8ないし14のいずれかに記載の混合伝導体積層素子によれば、未焼成の混合伝導体シートの表面に、熱処理や化学的処理などによって完全燃焼や熱分解あるいは揮散するなどして消失させることが可能な材質からなる消失可能部材を通気路の形状に印刷形成し、通気路の側壁となる部分には未焼成の側壁兼スペーサ部材を印刷形成するようにしたので、消失可能部材や側壁兼スペーサ部材を極めて簡易かつ確実に、所望の形状および所望の厚さに形成することが可能となる。そして、消失可能部材と未焼成の側壁兼スペーサ部材とが印刷された混合伝導体シートを複数枚積層して積層成形体を作製し、それを焼成して、混合伝導体積層素子を完成するが、その複数枚の混合伝導体シートの積層から積層成形体の焼成完了までの間に、消失可能部材を熱処理や化学的処理などによって消失させるようにしたので、その消失可能部材が消失したことによって生じた空間が細隙状の通気路となり、しかも消失可能部材が消失するまでの工程で混合伝導体シートに破損や形状不良等が発生することを防いで、極めて薄くてイオンや電子の伝導効率の高い混合伝導体膜(イオン分離膜)を簡易かつ確実に実現することができる。
【0086】
また、特に請求項2記載の混合伝導体積層素子の製造方法または請求項9記載の混合伝導体積層素子によれば、通気路にて対向する前記混合伝導体シートどうしの間隙を支持するための支持体を、さらに設けるようにしたので、混合伝導体シートが極めて薄い膜のようなものであっても、通気路にて対向する混合伝導体シートどうしの表面の間隙を支持体によって力学的に支えて、混合伝導体シートを焼成するまでの間に混合伝導体シートに撓みや歪曲が生じることを防止することができ、また混合伝導体シートを焼成した後に混合伝導体シート(酸素分離膜)が破損することを防止することができる。また、従来の金属補強板や多孔質支持体のような体積の嵩む支持板を省略して、素子のさらなる小型化・薄型化を達成することができる。
【0087】
また、特に請求項5記載の混合伝導体積層素子の製造方法または請求項11記載の混合伝導体積層素子によれば、混合伝導体シートの表面上における通気路の平面的パターン形状を、混合伝導体シートの一端側から他端側へと向かって延伸し、その他端側で方向転換して前記の一端側へと戻って来るような折り返しを有するものとし、かつ通気路の入口側の開口部と出口側の開口部との両方を、共に前記の一端側に配置するようにしたので、例えば通気路の入口側の開口部に導入用配管を接続し、出口側の開口部には排気用配管を接続しても、それらは共に混合伝導体シートの一端側に設けられているので、その一端側は配管等で機械的に束縛されて束縛端となるが、他端側には配管等のような束縛要因となるものを設ける必要がなくなって、その他端側は機械的に自由端となる。従って、例えばこの混合伝導体積層素子が使用環境からの加熱やそれ自体の動作に伴う発熱あるいは冷却などに起因して熱膨張したり冷却収縮したとしても、それに起因した伝導体積層素子の外形寸法的な変位を自由端である他端側が解放して逃がしてくれるので、そのような熱膨張に伴ったいわゆる熱応力を受けて混合伝導体積層素子が破損することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る混合伝導体積層素子の概要構成を表した図である。
【図2】通気路の平面的パターン形状をL字型にした場合の一例を表した図である。
【図3】通気路の平面的パターン形状をU字型にした場合の一例を表した図である。
【図4】通気路の平面的パターン形状を、出口側と入口側との両方の開口に近い部分でL字型に進路を曲げられた変形U字型にした場合の一例を表した図である。
【図5】通気路の平面的パターン形状を、折り返しを2つ有するものとした場合の一例を表した図である。
【図6】通気路にて対向する混合伝導体の表面どうしの細隙を支持するための支持体をさらに設けた場合の一例を表した図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る混合伝導体積層素子の製造方法における消失可能部材を形成する工程を表した図である。
【図8】混合伝導体シートの表面における消失可能部材が印刷形成されていない余白の部分に、未焼成の側壁兼スペーサ部材を印刷形成する工程を表した図である。
【図9】側壁兼スペーサ部材および消失可能部材が表面上に印刷形成された混合伝導体シートを所定の枚数積層する工程を表した図である。
【図10】積層成形されて焼成される積層成形体を表した図である。
【図11】側壁兼スペーサ部材の印刷形成は省略して消失可能部材が印刷形成されていない余白部分の重なり合った表面どうしを密着させて混合伝導体シートを積層する場合の一例を表した断面図である。
【図12】本発明の一実施例に係る混合伝導体積層素子の製造工程の主要な流れを表した図である。
【符号の説明】
1…混合伝導体シート、2…側壁兼スペーサ部材、3,4,5,6…開口、7,8…通気路、9…支持体、10…消失可能部材
Claims (14)
- 焼成されると酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を有する緻密質固体セラミック材料からなる未焼成の混合伝導体シートの表面に熱処理または化学的処理によって消失させることが可能な材質からなる消失可能部材を所定の通気路の形状に印刷形成する工程と、
前記混合伝導体シートの表面における消失可能部材が印刷形成されていない余白の部分のうち、少なくとも前記通気路の側壁となる部分に、前記混合伝導体シートと同じ材質または焼成後に前記混合伝導体シートと一体化して焼結される材質からなる未焼成の側壁兼スペーサ部材を印刷形成する工程と、
前記消失可能部材と前記側壁兼スペーサ部材とが印刷形成された混合伝導体シートを複数枚積層して積層成形体を作製する工程と、
前記混合伝導体シート積層して積層成形体を作製した後に、前記消失可能部材を消失させてその消失可能部材が消失した部分を細隙状の通気路にする工程と、
前記積層成形体を焼成する工程と、
を含むことを特徴とする混合伝導体積層素子の製造方法。 - 前記側壁兼スペーサ以外の所定位置に、前記消失可能部材を印刷形成しない余白部分をさらに設けて、その余白部分に前記側壁兼スペーサと同じ材質または焼成後に前記混合伝導体シートと一体化して焼結される材質からなる未焼成の支持体部材を印刷形成しておき、それを前記積層成形体の焼成の際に焼成して、前記通気路にて対向する前記混合伝導体シートどうしの間隙を支持するための支持体を、さらに形成する
ことを特徴とする請求項1記載の混合伝導体積層素子の製造方法。 - 前記消失可能部材を消失させる工程が、前記混合伝導体シートを積層し外部から積層方向に押圧して前記積層成形体を作製した後、前記積層成形体に熱処理または化学的処理を施して、前記消失可能部材を消失させるものである
ことを特徴とする請求項1または2記載の混合伝導体積層素子の製造方法。 - 前記混合伝導体シートの表面上における前記通気路の平面的パターン形状を、L字型またはT字型に形成して、前記通気路の入口側の開口と出口側の開口とを当該混合伝導体シートの異なった端辺に設ける
ことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子の製造方法。 - 前記混合伝導体シートの表面上における前記通気路の平面的パターン形状を、前記混合伝導体シートの一端側から他端側へと向かって延伸し、前記他端側で方向転換して前記一端側へと戻って来るような折り返しを少なくとも一つ有するものとし、前記通気路の入口側の開口部と出口側の開口部との両方を共に前記一端側に配置する
ことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子の製造方法。 - 前記積層成形体または前記混合伝導体シートを曲面状に加工する工程を、さらに含む
ことを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子の製造方法。 - 前記側壁兼スペーサの印刷形成を省略して、前記混合伝導体シートの表面に前記消失可能部材を所定の通気路の形状に印刷形成し、その消失可能部材が印刷形成された混合伝導体シートを複数枚積層し、その積層方向に押圧して、重なり合った各混合伝導体シートの表面における前記消失可能部材が印刷形成されていない余白部分どうしを密着させることで、前記消失可能部材を前記混合伝導体シートの表面で包囲した状態にした後、前記消失可能部材を消失させて、前記通気路を設ける
ことを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子の製造方法。 - 酸化物イオンを伝導する性質および電子を伝導する性質を有する緻密質固体セラミック材料からなる薄板状または膜状の混合伝導体が、少なくとも2枚、間隙を有して対向配置されて焼成されており、
前記混合伝導体と同じ材質または焼成後に一体化する材質からなる側壁と前記対向配置された混合伝導体の表面とによって、入口側および出口側の開口を除いて囲まれるようにして、少なくとも一つの連続した細隙状の通気路が設けられている
ことを特徴とする混合伝導体積層素子。 - 前記通気路にて対向する前記混合伝導体の表面どうしの間隙を支持するための支持体を、さらに備えた
ことを特徴とする請求項8記載の混合伝導体積層素子。 - 前記混合伝導体の表面上における前記通気路の平面的パターン形状が、L字型またはT字型に形成されており、前記通気路の入口側の開口と出口側の開口とが当該混合伝導体シートの異なった端辺に設けられている
ことを特徴とする請求項8または9記載の混合伝導体積層素子。 - 前記混合伝導体の表面上における前記通気路の平面的パターン形状が、前記混合伝導体の一端側から他端側へと向かって延伸し、前記他端側で方向転換して前記一端側へと戻って来るような折り返しを有するものとなっており、前記通気路の入口側の開口部と出口側の開口部との両方が、共に前記一端側に配置されている
ことを特徴とする請求項8ないし10のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子。 - 前記混合伝導体が曲面状である
ことを特徴とする請求項8ないし11のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子。 - 前記通気路を少なくとも2つ備えており、そのうちの一方の通気路には被改質流体または燃料電池発電用の燃料を流し、他方の通気路には酸素含有ガスを流されて改質器として機能するように設定されている
ことを特徴とする請求項8ないし12のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子。 - 前記通気路における混合伝導体の表面が、その混合伝導体以外の多孔質支持板または補強用金属支持板で被覆されておらず、その混合伝導体と組み合わせて用いられる触媒を除いては、前記通気路に対して直接に露出している
ことを特徴とする請求項8ないし13のうちいずれか1つの項に記載の混合伝導体積層素子。
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