JP4131932B2 - アクリル樹脂成形体およびその製造方法 - Google Patents

アクリル樹脂成形体およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐候性、透明性、印刷性および耐水白化性に優れたアクリル樹脂成形体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴムを含有するアクリル樹脂からなるアクリル樹脂成形体は広く利用されている。特にアクリル樹脂フィルムは、透明性、耐候性、柔軟性、加工性に優れているという特長を生かし、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品の表面に積層される。その具体的用途としては、例えば、車輌内装、家具、ドア材、窓枠、巾木、浴室内装等の建材用途等の表皮材、マーキングフィルム、高輝度反射材被覆用フィルムなどが挙げられる。
上記用途に用いられるアクリル樹脂フィルム用原料としては、これまでに様々な樹脂組成物が提案され、実用化されている。このうち、特に耐候性、透明性に優れ、かつ耐折り曲げ白化性等の耐ストレス白化性に優れたアクリル樹脂フィルムを与える原料として、特許文献1や特許文献2等に記載されているアルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を重合体の構成成分とする特定構造の多層構造重合体が知られている。この多層構造重合体をフィルム用原料として使用したアクリル樹脂フィルムは、特に性能が優れることから、車輌内装、家具、ドア材、窓枠、巾木、浴室内装等の建材用途等の表皮材、マーキングフィルム、高輝度反射材被覆用フィルムとして特に好適に使用されている。
【0003】
このようなアクリル樹脂フィルムとしては、例えば、アクリル樹脂と界面活性剤とを含むアクリル樹脂ラテックスから製造され、抗酸化剤を添加したものが提案されている(特許文献3)。このアクリル樹脂フィルムは、抗酸化剤によってフィルム製造時のゲル化や夾雑物混入が抑制され、外観が良好であり、耐候性や熱安定性も優れている。
また、特許文献4には、アクリル樹脂と界面活性剤とを含むアクリル樹脂ラテックスから製造され、直径80μm以上で異物が1個/m 以下、厚さ300μm以下のアクリル樹脂フィルムが提案されている。このアクリル樹脂フィルムは、耐候性、印刷性に優れている。
【0004】
【特許文献1】
特公昭62−19309号公報
【特許文献2】
特公昭63−8983号公報
【特許文献3】
特開2000−212300号公報
【特許文献4】
特開平9−263614号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したアクリル樹脂フィルムを積層した部材を屋外建材や浴室内装材等として使用する場合、降雨などの水にさらされる上に、太陽光や熱などによって高温下にさらされることがあり、このような高温多湿の条件下では、アクリル樹脂フィルム表面が白化する現象が起こり、外観を損なう等の問題があった。例えば、特許文献3または特許文献4に記載されている発明のように界面活性剤を用いて、多層構造重合体を製造し、この多層構造重合体をフィルム状に成形すると、フィルム表面が白化する。そのため、工業的利用価値が十分に高くなく、屋外で使用されるサイディング材や、浴室、台所などの水周りで使用可能な耐水白化性の優れたアクリル樹脂フィルムの技術の開発が強く望まれていた。なお、本明細書において、高温多湿の条件下における白化のしにくさのことを耐水白化性という。
本発明の目的は、耐水白化性に優れ、水周りで使用可能なアクリル樹脂成形体およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、アクリル樹脂成形体の原料の製造方法、特に、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスを製造する際に使用する界面活性剤について検討したところ、特定の界面活性剤を使用することにより耐水白化性が改善されることを見出し、以下のアクリル樹脂成形体を発明した。
すなわち、本発明のアクリル樹脂成形体は、多層構造重合体と、界面活性剤として下記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩とを含有するアクリル樹脂ラテックスから得られた固形物を成形したアクリル樹脂成形体であって、
前記多層構造重合体は、内側から順に、最内重合体(A)と、架橋弾性重合体(B)と、中間重合体(C)と、最外層重合体(D)とを有し、
前記最内重合体(A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤とを重合体の構成成分として含有し、
前記架橋弾性重合体(B)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、グラフト交叉剤とを重合体の構成成分として含有し、
前記中間重合体(C)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤とを構成成分として含有し、かつ、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートの含有割合が架橋弾性重合体(B)から最外層重合体(D)に向かって単調減少しており、
最外層重合体(D)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを重合体の構成成分として含有することを特徴としている。
【化3】
Figure 0004131932
(一般式(I)において、Rは炭素数10〜18の直鎖または分岐アルキル基を示し、Rは炭素数2または3の直鎖あるいは分岐アルキレン基を示し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mは1〜20の整数であり、nは1または2であり、pは1または2であり、p+nは3である。)
ここで、多層構造重合体とは、アルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタクリレートを構成成分として含み、シェルが1層以上のコア−シェル構造を有する重合体のことである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のアクリル樹脂成形体は、多層構造重合体と、界面活性剤として上記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩とを含有するアクリル樹脂ラテックスから得られた固形物を成形したものである。
図1には、2段以上の乳化重合法により製造された、シェルが1層以上のコア−シェル構造を有する多層構造重合体の好ましい形態を示す。この多層構造重合体1は、内側から順に、最内重合体(A)(図中符号2)と、架橋弾性重合体(B)(図中符号3)と、中間重合体(C)(図中符号4)と、最外層重合体(D)(図中符号5)とを有している。
【0008】
以下、上述した好ましい形態の多層構造重合体の構成について具体的に説明する。以下の多層構造重合体をアクリル樹脂成形体の原料として用いると、アクリル樹脂成形体の特性をさらに向上させることができる。
[最内重合体(A)]
最内重合体(A)は、上記多層構造重合体の中心部分を構成するものであって、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)と、グラフト交叉剤(A2)を必須構成成分として含有し、必要に応じて、(A1)および(A2)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A3)と、多官能性単量体(A4)とを重合体の構成成分として含有するものである。
【0009】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上を混合して使用できる。
また、上記炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートとしては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)は、(A1)〜(A3)の成分の合計量100質量部に対し、80質量部以上の範囲で含まれることが好ましい。80質量部未満であると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の特性が損なわれる傾向にある。
【0010】
グラフト交叉剤(A2)は、その共役不飽和結合によって(A1),(A3),(A4)の成分と共重合した際にグラフト起点となる官能基を有するものである。グラフト起点となる官能基としては、アリル基、メタリル基またはクロチル基が挙げられる。すなわち、グラフト交叉剤(A2)では、主としてそのエステルの共役不飽和結合が、アリル基、メタリル基またはクロチル基よりはるかに早く反応し、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の大部分が残存する。そして、これらの官能基がグラフト起点となって、架橋弾性重合体(B)をグラフト結合させることができる。
最内重合体(A)を構成するグラフト交叉剤(A2)としては、共重合性のα、β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはフマル酸のアクリルエステルが好ましく、さらに、これらの中でもアリルメタクリレートが特に好ましい。アリルメタクリレートを用いると、グラフト起点として効果的である。また上記以外にも、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等もグラフト起点として効果的である。
【0011】
グラフト交叉剤(A2)の使用量は極めて重要であり、(A1)〜(A3)の成分の合計量100質量部に対し0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。グラフト交叉剤(A2)の使用量が0.1質量部未満の場合、グラフト起点が十分に得られない。逆に、5質量部を超えると、最内重合体(A)の外側に形成される架橋弾性重合体(B)との反応量が増し、最内重合体(A)と架橋弾性重合体(B)とからなる二層架橋ゴム弾性体の弾性が低下する傾向を示す。
【0012】
(A1)および(A2)の成分と共重合可能な他の単量体(A3)は、必要に応じて含有させればよい。その具体例としては、例えば、炭素数9以上のアルキル基を有する高級アルキルアクリレート、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート等のアクリレート単量体、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
(A1)および(A2)の成分と共重合可能な他の単量体(A3)の使用量は、(A1)〜(A3)の成分の合計量100質量部に対し、20質量部以下の範囲内で用いることが好ましい。20質量部を超えると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の特性が損なわれる傾向にある。
【0013】
多官能性単量体(A4)は、2つ以上の官能基を有し、(A1)〜(A3)の成分と共重合可能なものであれば制限されないが、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンなども使用可能である。
多官能性単量体(A4)は、多層構造重合体の安定性を向上させる場合に添加するが、最内重合体(A)中で全く作用しなくても、グラフト交叉剤(A2)が存在していれば、安定な多層構造重合体を得ることができるため、必要に応じて含有させればよい。例えば、熱間強度等を向上させる場合などに含有させればよい。
多官能性単量体(A4)の使用量は、(A1)〜(A3)の成分の合計量100質量部に対し、10質量部以下の範囲内で用いることが好ましい。10質量部を超えると、最内重合体(A)の弾性が低下し、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性を低下させるおそれがある。
【0014】
[架橋弾性重合体(B)]
架橋弾性重合体(B)は、多層構造重合体にゴム弾性を与える主要な成分であって、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(B1)と、グラフト交叉剤(B2)を必須構成成分として含有し、必要に応じて、(B1)および(B2)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(B3)と、多官能性単量体(B4)とを重合体の構成成分として含有するものである。
(B1)〜(B4)の具体例としては、最内重合体(A)を構成するそれぞれの成分(A1)〜(A4)で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0015】
また、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(B1)の使用量は、80質量部以上であることが好ましい。80質量部未満であると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の特性が損なわれるおそれがある。
また、グラフト交叉剤(B2)の使用量は、(B1)〜(B3)の成分の合計量100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。グラフト交叉剤(B2)の使用量が0.1質量部未満の場合、グラフト起点が十分に得られない。逆に、5質量部を超えると、三段目に重合形成される中間重合体(C)との反応量が増し、多層構造重合体の弾性が低下する傾向を示す。
【0016】
また、(B1)および(B2)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(B3)の使用量は、(B1)〜(B3)の成分の合計量100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。20質量部を超えると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の特性が損なわれることがある。
また、多官能性単量体(B4)の使用量は、(B1)〜(B3)の成分の合計量100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。10質量部を超えると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性が低下するおそれがある。
また、架橋弾性重合体(B)単独のTgは、0℃以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。Tgが0℃以下であると、さらに優れた弾性を示す。
【0017】
[中間重合体(C)]
中間重合体(C)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)と、グラフト交叉剤(C2)とを必須構成成分として含有し、必要に応じて、成分(C1)および(C2)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C3)と多官能性単量体(C4)とを重合体の構成成分として含有するものである。また、(C1)の成分中のアルキルアクリレート含有割合は、架橋弾性重合体(B)から最外層重合体(D)に向かって単調減少している。ここで、単調減少とは、架橋弾性重合体(B)から最外層重合体(D)に向かって連続的に減少すること、架橋弾性重合体(B)から最外層重合体(D)に向かって断続的に減少することを意味するだけでなく、架橋弾性重合体(B)と最外層重合体(D)との中間組成であることを、その意味として含む。
【0018】
(C1)〜(C4)の好ましい具体例は、最内重合体(A)を構成するそれぞれ成分(A1)〜(A4)で挙げたものと同様のもが挙げられる。
また、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)の使用量は、10〜90質量部であることが好ましい。その範囲外であると、架橋弾性重合体(B)と最外層重合体(D)とを密に結合させることができないことがある。
また、グラフト交叉剤(C2)は、架橋弾性重合体(B)と最外層重合体(D)とを密に結合させることができるので、アクリル樹脂成形体の物性の向上に非常に有効な成分である。グラフト交叉剤(C2)の使用量は、0.1〜5質量部であることが好ましい。その範囲外であると、架橋弾性重合体(B)と最外層重合体(D)とを密に結合させることができないことがある。
【0019】
また、(C1)および(C2)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C3)の使用量は、20質量部以下であることが好ましい。20質量部を超えると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の特性を損ねるおそれがある。
また、多官能性単量体(C4)の使用量は、10質量部以下であることが好ましい。10質量部を超えると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性を低下させるおそれがある。
【0020】
[最外層重合体(D)]
最外重合体(D)は、多層構造重合体の最外層を構成し、多層構造重合体の成形性、機械的性質等に関与するものであって、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(D1)を必須構成成分として含有し、必要に応じて、(D1)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(D3)とを重合体の構成成分として含有するものである。
(D1)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(D3)の好ましい具体例は、それぞれ最内重合体(A)の成分(A1)の炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、(A1)および(A2)の成分と共重合可能な他の単量体(A3)で挙げたものと同様のものが挙げられる。
また、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(D1)の使用量は、51質量部以上であることが好ましい。51質量部未満であると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性が低下するおそれがある。
【0021】
また、(D1)の成分と共重合可能な二重結合を有する他の単量体(D3)の使用量は、49質量部以下であることが好ましい。49質量部を超えると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の特性が損なわれるおそれがある。
最外重合体(D)単独のTgは、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。Tgが60℃以上であると、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性がさらに向上する。
【0022】
多層構造重合体において、最内重合体(A)で用いた成分(A1)と同一種類のものを、架橋弾性重合体(B)、中間重合体(C)、最外層重合体(D)にも含有させることが最も好ましい。その場合であっても、(A)〜(D)は、二種以上のアルキル(メタ)アクリレートが含まれたり、別種のアクリレートが含まれても構わない。ここで、「(メタ)アクリレート」とは、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを意味するものとする。
【0023】
また、多層構造重合体において、最内重合体(A)の含有量は、5〜35質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。最内重合体(A)が5〜35質量%含有されていれば、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性が向上する。
また、架橋弾性重合体(B)の含有量は、10〜45質量%であることが好ましい。さらに、架橋弾性重合体(B)の含有量は、最内重合体(A)の含有量よりも多いことが好ましい。架橋弾性重合体(B)が10〜45質量%含有されていれば、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性が向上する。また、架橋弾性重合体(B)の含有量が、最内重合体(A)の含有量より多ければ、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性を向上させることができる。
また、中間重合体(C)の含有量は、5〜35質量%であることが好ましい。中間重合体(C)の含有量が5〜35質量%であれば、優れた柔軟性、加工性を有するアクリル樹脂成形体を得ることができる。
また、最外層重合体(D)の含有量は、10〜80質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。最外層重合体(D)が10〜80質量%含有されていれば、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の物性が向上する。
【0024】
[アクリル樹脂成形体の製造方法]
次に、本発明のアクリル樹脂成形体の製造方法について説明する。
本発明のアクリル樹脂成形体の製造方法の概略は、多層構造重合体と、上述した一般式(I)で表されるリン酸エステル塩とを有するアクリル樹脂ラテックスを製造し、このアクリル樹脂ラテックスから多層構造重合体を含む固形物を分離回収し、この固形物を成形する方法である。
以下、この製造方法について具体的に説明する。
多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスの製造方法の一例では、まず、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)と、グラフト交叉剤(A2)とを含む第1の単量体混合物および界面活性剤を含む混合物を反応容器に供給し、乳化させるとともに重合させて最内重合体(A)を形成させる。
次いで、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(B1)と、グラフト交叉剤(B2)とを含む第2の単量体混合物を反応容器内に供給し、最内重合体(A)上にて第2の単量体混合物を重合させて架橋弾性重合体(B)を形成させる。
次いで、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)と、グラフト交叉剤(C2)とを含む第3の単量体混合物を反応容器内に供給し、架橋弾性重合体(B)上にて第3の単量体混合物を重合させて中間重合体(C)を形成させる。
次いで、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(D1)を含む第4の単量体混合物を反応容器内に供給し、中間重合体(C)上にて第4の単量体混合物を重合させて最外層重合体(D)を形成させてアクリル樹脂ラテックスを得る。
【0025】
また、アクリル樹脂ラテックスの他の製造方法では、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)と、グラフト交叉剤(A2)とを含む第1の単量体混合物に水、及び界面活性剤と混合して乳化液を調製する。次いで、この乳化液を反応容器に供給し、重合して最内重合体(A)を形成させる。
次いで、上述したアクリル樹脂ラテックスの製造方法と同様にして、架橋弾性重合体(B)、中間重合体(C)、最外重合体(D)を順に形成させ、アクリル樹脂ラテックスを得る。
【0026】
この製造方法において、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)と、グラフト交叉剤(A2)とを含む第1の単量体混合物に水、及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応容器に供給する際、その供給速度は特に限定されないが、最大供給速度/平均供給速度が2未満であることが好ましく、1.8未満であることが更に好ましい。最大供給速度/平均供給速度が2以上の場合、得られるアクリル樹脂ラテックスの粘度が高くなり、後述の濾過装置で濾過する際、目詰まりが起こりやすくなり濾過しにくくなる傾向にある。
【0027】
上述したアクリル樹脂ラテックスの製造方法における、乳化液を調製する方法としては、攪拌翼を備えた攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置、膜乳化装置等の混合装置に、水と単量体混合物を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、上記混合装置に水と界面活性剤を仕込んだ後、単量体混合物を投入する方法、混合装置に単量体混合物と界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。
乳化液を調製する際の単量体混合物と水との質量比としては、単量体混合物100質量部に対して水10〜500質量部が好ましく、単量体混合物100質量部に対し水100〜300質量部であることがより好ましい。単量体混合物100質量部に対し水10〜500質量部であると、アクリル樹脂ラテックスの製造が効率的となる。
【0028】
また、乳化液は、W/O型、O/W型のいずれの分散構造でも使用することができるが、特に水中に単量体混合物の油滴が分散したO/W型で、かつ分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。さらに好ましい分散相の油滴の直径は50μm以下であり、特に好ましくは15μm以下である。分散相の油滴の直径が100μmを超えると、得られるアクリル樹脂ラテックス中に1〜200μmの範囲に分布する巨大なポリマー粒子の数が増加する傾向にあり、それらがフィッシュアイの原因となって最終的に得られるアクリル樹脂成形体の外観を損なうことがある。
【0029】
アクリル樹脂ラテックスの製造で使用される界面活性剤には、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩を含む。
【0030】
【化4】
Figure 0004131932
【0031】
一般式(I)において、R1 は炭素数10〜18の直鎖または分岐アルキル基を示す。アルキル基の炭素数は12以上であることが好ましく、また、16以下であることがさらに好ましい。具体的には、R1 としては、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、イソトリデシル基が好ましい。
2 は炭素数2または3の直鎖あるいは分岐アルキレン基を示し、具体的には、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。mが2以上の場合にはR2 として複数の異なる基を含むことがあり、例えば、エチレン基とプロピレン基との両方を有することもある。
Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、具体的には、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはカルシウム、バリウム、マグネシウム、ストロンチウム等が挙げられる。中でも、Mとしては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムが好ましく、耐水白化性の点でカリウムが特に好ましい。
mは1〜20の整数であり、3以上の整数であることが好ましく、また、10以下の整数であることが好ましい。
nは1または2であり、pは1または2であり、p+nは3である。つまり、(n,p)=(1,2)または(2,1)である。
【0032】
上記一般式(I)で表される化合物としては、例えば、モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−n−デシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−n−デシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、ジ−n−デシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシペンタオキシエチレンリン酸、モノ−n−デシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−n−デシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−n−デシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−n−デシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸等の直鎖アルキルオキシポリオキシエチレンリン酸のアルカリ金属(Na、K等)塩あるいはアルカリ土類金属(Ca、Ba等)塩や、モノ−イソデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−イソデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−イソドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−イソドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−イソテトラデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−イソテトラデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−イソヘキサデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−イソヘキサデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−イソオクタデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、ジ−イソオクタデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸、モノ−イソデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−イソデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−イソドデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−イソドデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−イソトリデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−イソトリデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−イソテトラデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−イソテトラデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−イソヘキサデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−イソヘキサデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−イソオクタデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、ジ−イソオクタデシルオキシヘキサオキシエチレンリン酸、モノ−イソデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−イソデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−イソドデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−イソドデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−イソトリデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−イソトリデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−イソテトラデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−イソテトラデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−イソヘキサデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−イソヘキサデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、モノ−イソオクタデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸、ジ−イソオクタデシルオキシオクタオキシエチレンリン酸等の分岐アルキルオキシポリオキシエチレンリン酸のアルカリ金属(Na、K等)塩あるいはアルカリ土類金属(Ca、Ba等)塩が挙げられる。
【0033】
また、上記一般式(I)で表される化合物としては、他に、モノ−n−デシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−n−デシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−n−デシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−デシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシペンタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−デシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−n−デシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−n−デシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−デシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ドデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ドデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−テトラデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−テトラデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−ヘキサデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−ヘキサデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−n−オクタデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−n−オクタデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸等の直鎖アルキルオキシポリオキシプロピレンリン酸のアルカリ金属(Na、K等)塩あるいはアルカリ土類金属(Ca、Ba等)塩や、モノ−イソデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−イソデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−イソドデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−イソドデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−イソテトラデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−イソテトラデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−イソヘキサデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−イソヘキサデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−イソオクタデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、ジ−イソオクタデシルオキシテトラオキシプロピレンリン酸、モノ−イソデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−イソデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−イソドデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−イソドデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−イソトリデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−イソトリデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−イソテトラデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−イソテトラデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−イソヘキサデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−イソヘキサデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−イソオクタデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、ジ−イソオクタデシルオキシヘキサオキシプロピレンリン酸、モノ−イソデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−イソデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−イソドデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−イソドデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−イソトリデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−イソトリデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−イソテトラデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−イソテトラデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−イソヘキサデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−イソヘキサデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、モノ−イソオクタデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸、ジ−イソオクタデシルオキシオクタオキシプロピレンリン酸等の分岐アルキルオキシポリオキシプロピレンリン酸のアルカリ金属(Na、K等)塩あるいはアルカリ土類金属(Ca、Ba等)塩が挙げられる。
これらのリン酸エステル塩類は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
また、単量体混合物を乳化重合する過程で、リン酸エステルにアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を添加し、中和して、所望のリン酸エステル塩としてもよい。
【0034】
また、このリン酸エステル塩は、モノアルキルエステル、ジアルキルエステルの混合物であってもよい。その場合、モノアルキルエステル、ジアルキルエステルの混合量比は特に限定されない。また、非リン酸エステルの界面活性剤が含まれていてもよい。
このような、リン酸エステル塩を含む界面活性剤の好ましい具体例としては、三洋化成工業(株)製のNC−718、東邦化学工業(株)製のフォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA、花王(株)製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407等が挙げられる。
【0035】
乳化液中の単量体混合物を重合するには、例えば、反応容器に重合開始剤を投入して、重合温度まで昇温した後、乳化液を供給して重合する。
重合開始剤としては、公知のものが使用できるが、その具体例としては、過酸化物、アゾ系開始剤、又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。また、これらの中でもレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0036】
このようにして得られた多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスの粘度は、0.1〜1500mPa・sであることが好ましく、0.1〜1000mPa・sであることがさらに好ましい。アクリル樹脂ラテックスの粘度が1500mPa・sを超えると、アクリル樹脂ラテックスを濾過する際に目詰まりが生じやすくなる傾向にある。
また、アクリル樹脂ラテックス中の多層構造重合体の平均粒子径としては、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の機械特性、透明性がともに優れることから、0.08〜0.2μmであることが好ましい。
また、アクリル樹脂ラテックスの固形分は、特に限定されないが、アクリル樹脂ラテックスの濾過性、生産効率が高いことから、20〜50質量%の範囲が好ましい。
【0037】
上述したアクリル樹脂ラテックスの製造方法で得られたアクリル樹脂ラテックスは、主に粒子径が0.03〜1μmの粒子からなるものであるが、凝集物や浮遊物の他に重合時における微細凝集物の発生などにより、粒子径が1〜200μmの範囲に分布する巨大なポリマー粒子をも含有している。これらの凝集物、浮遊物および巨大なポリマー粒子は、フィルム状にした際にフィッシュアイ等の原因となり、最終的に得られるアクリル樹脂成形体の外観を損なうため、除去する必要がある。巨大ポリマー粒子を除去する装置としては、例えば、円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置、水平に設置された濾材が、該濾材の表面を基準として水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動する濾過装置等が挙げられる。以下、上記2つの濾過装置について説明する。
【0038】
図2は、円筒型濾過体内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置の断面を模式的に示す図である。この濾過装置24は、円筒型濾過体11と、円筒型濾過体11内に設けられ、リボン翼13が取り付けられた中心回転軸15と、中心回転軸15を回転させるモータ16とを有して概略構成される。また、円筒型濾過体11の中心回転軸15は、水平面に対し5〜85度、好ましくは10〜50度の傾きを有している。
この濾過装置24で濾過するには、まず、濾過前のアクリル樹脂ラテックスを、制御弁20、流量検出端子21および流量制御装置22によって適当な流量に調整し、濾過前のアクリル樹脂ラテックスを受け入れる受入口17より円筒型濾過体11内に供給する。円筒型濾過体11内では、適当な回転数で回転させたモータ16によって中心回転軸15が回転しており、それを通してリボン翼13および回転羽根14が回転する。液状のアクリル樹脂ラテックスは、濾材12を通過し、アクリル樹脂ラテックス払出口18より払い出され、一方、濾過中のアクリル樹脂ラテックス23中に含まれる凝集物および浮遊物はリボン翼13によって液面上に掻き出され、払出口19から払い出される。
このような遠心分離型濾過装置24でアクリル樹脂ラテックスを濾過すると、濾材12の目詰まりが解消されて濾材12の寿命がのび、また濾過効率が向上する。
【0039】
上述した濾過装置24において、リボン翼13、回転羽根14が付されている中心回転軸15の回転数は特に限定されないが、リボン翼13、回転羽根14等との衝撃等によるアクリル樹脂ラテックスの崩壊、濾過効率等を考慮すると、100〜1000r.p.m.の範囲にすることが好ましい。
また、濾過装置24に用いる濾材12は、特に限定されず、濾布、織り金属、パンチングメタル、あるいは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエステルまたはそれらの複合物からなる高分子多孔質膜等を使用することができる。
さらに、濾材12の目の大きさは100メッシュ以上750メッシュ以下の範囲にすることが好ましい。目の大きさが100メッシュ未満であると、目開きが大きすぎるので、フィルムにした際に印刷抜けの原因となる、アクリル樹脂ラテックス中に含まれる数十μm以上のミクロカレットが混入しやすくなる。そのため、アクリル樹脂ラテックスから分離したポリマーをフィルムにしたときにフィッシュアイが増加し外観が悪化するとともに、フィルムに印刷した際の印刷抜けが増加する傾向にある。一方、目の大きさが750メッシュを超えると、目開きが小さすぎるので、濾材12の目詰まりがしやすくなり、濾過効率が低下する傾向にある。フィルムの印刷抜けと濾材12の目詰まりの両方を考慮すると、より好ましい濾材12の目の大きさは100メッシュ以上650メッシュ以下である。
【0040】
図3は水平に設置された濾材が、該濾材の表面を基準として水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動する濾過装置30を模式的に示す図である。
濾過装置30は円形構造を基本とし、濾材31と、ボトムボウル32とを備えた装置本体33と、装置本体33の下方に設けられた振動モータ34と、振動モータ34の下部に設けられたフライウエイト35とを有して概略構成されている。
また、濾材31の上部外周の一部には排出口36が設けられ、ボトムボウル32の上部外周の一部にはラテックス排出口37が設けられている。さらに、濾材31の上方には、ラテックス供給管38が、その吐出口39が濾材31の中央部に位置するように設けられている。なお、装置本体33はスプリング40により取り付けられている。
【0041】
濾過前のアクリル樹脂ラテックスは、制御弁、流量制御装置(図示略)によって適当な流量に調整され、ラテックス供給管38の端部にある吐出口39から、濾材31のほぼ中央に供給され濾過される。濾材31を透過したアクリル樹脂ラテックスは、ボトムボウル32に受けられ、ラテックス排出口37から濾過装置30外に排出され回収される。この際、上記フライウエイト35を適度に調整することによって、濾材31が濾材31面に対して水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動をする。
一方、濾材31上に残った凝縮物や浮遊物等は、後述する濾材31による円運動及び振幅運動により、濾材31上をらせん状に移動して、連続的に排出口36から排出される。このとき、図4に示すように、ラテックス堰き止めガード41によって、排出口36にラテックスが流入しないようにされている。
【0042】
上述した濾過装置30は、濾材31がその濾材面に対して、水平方向の円運動、及び垂直方向の振幅運動をするものであり、濾材31の円運動及び振幅運動により、濾材31上に残った凝集物に50m/s2 以上の加速度を与えることができる。濾材31上に残った凝集物にかかる加速度を50m/s2 以上にすることで、凝集物を円滑に排出することができる。逆に、加速度が50m/s2 未満の場合は、濾材31上に残った凝集物等の排出が困難になり、目詰まりを起こしやすくなる傾向がある。
なお、濾材31上に残った凝集物にかかる加速度は下記の計算式で与えられる。
K=rω=r×(2π×N/60)
ここで、K;最大加速度(m/s2)、r;スクリーン振幅(m)、ω;角速度(rad/s)、N;モータ回転数(rpm)である。
例えば、スクリーン振幅3.5mm、モータ回転数1800rpmの場合は、
K= 3.5×10-3×(2π × 1800/60) = 124m/s2
となる。
【0043】
また、濾過装置30は、直径をXとする円形の濾材31を有し、この濾材31面に対する垂直方向の振幅長がX/200〜X/60であることが望ましい。垂直方向の振幅長がX/200未満の場合は、濾材31上に残った凝集物の排出がされにくく、目詰まりを起こしやすくなる傾向にある。また、振幅がX/60より大きいと濾材31に対する負荷が大きく、耐久性が短くなりやすい。
濾材31は、ステンレス鋼、あるいはポリエステル製の繊維で形成されていることが好ましく、特にステンレス鋼が好ましい。それは、後述する水洗装置による濾材31の洗浄において、ステンレス鋼材では比較的水圧を高くでき、目詰まりの防止効果を上げることができるためである。
また、濾材31の線径は10〜70μmであることが好ましい。線径が10μmより小さい場合は、濾材31の強度が弱いため破れやすい。一方、70μmより太いと、開口度が小さくなり濾過面積が狭くなるため、濾過効率が悪くなる傾向がある。
【0044】
濾材31は、その目の大きさが100から600メッシュであることが好ましく、より好ましくは150〜400メッシュである。目の大きさが100メッシュ未満であると、目開きが大きすぎるので、アクリル樹脂ラテックス中に含まれる凝集物及び浮遊物等の固形物が混入しやすくなる。そのため、アクリル樹脂ラテックスから分離したポリマーを用いた樹脂成型板やフィルムに、ブツやフィッシュアイが発生しやすくなる傾向にある。一方、目の大きさが600メッシュを超えると、目開きが小さすぎるので、濾材31の目詰まりが起こりやすくなる傾向にある。
【0045】
また、濾過装置には、図5および図6に示すように、水流により濾材31の表面を洗浄できる水洗装置51が付設されていることが望ましい。なお、図5に示した例の濾過装置52は、上述した濾過装置30と基本的な構造は同じであるため、水洗装置51のみについて説明する。
水洗装置51は、濾材31を洗浄する水(洗浄水)を濾材31に対して吹き付けるノズル53と、このノズル53が設けられている円形導水管54と、水洗装置51を固定するための接合部55と、円形導水管54と接合部55を連結している連結部56と、水洗装置51外部から水を導入する導水管57とを有して概略構成されている。
【0046】
この水洗装置51では、装置外部から導水管57に導入された水が、接合部55内に設けられた導管(図示略)を通り、連結部56内に設けられた導管(図示略)を通って、円形導水管54内に供給され、ノズル53から濾材31に吹き付けられるようされている。また、水洗装置51から濾材31に対して水を吹き付ける間、濾材31を円運動及び振幅運動させておけば、濾材31の全面にまんべんなく水を吹き付けることができるので、洗浄効果がさらに向上する。
上記ノズル53から噴射される水は、0.01〜2.0MPaの圧力で濾材31に対して吹き出され、これにより濾材31の細部にある異物を除去でき、安定的に目詰まりを防止できる。ノズル53から噴射される水の圧力が0.01MPa未満の場合、圧力が低く、目詰まりの防止効果が少ない。また、2.0MPaを超えると、濾材31の耐久性を損なうおそれがある。
【0047】
このような濾過装置30,52を用いて濾過を行うことにより、濾材31上に残った凝集物等の除去作業の必要がなくなり、濾材31が破損して交換する頻度を少なくすることができるため、多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスの濾過を連続的に行うことが可能となる。
また、水洗装置51により、濾材31の微細な網目構造の目の中に残留した凝集物を除去できるため、継続的に濾材31の目詰まりを防止することができる。
【0048】
この濾過の効果を確認するには、アクリル樹脂ラテックスから多層構造重合体を回収し、この多層構造重合体をアセトン中に分散させたアセトン分散液中に含まれる直径55μm以上の粒子の数を測定する。この測定において、アセトン分散液中に含まれる直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり50個以下であることが好ましい。さらに好ましくは、多層構造重合体100gあたり30個以下であり、特に好ましくは20個以下のものである。このアセトン分散液中に含まれる直径55μm以上の粒子の数は、成形体の印刷性あるいは光学歪の大きさに影響を及ぼす。したがって、分散液中に含まれる直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり50個を超えた場合には、最終的に得られるアクリル樹脂成形体のフィッシュアイ数が多くなり、成形体の印刷性の低下あるいは光学歪の増大を招き、工業的価値が低くなる。
【0049】
なお、アセトン分散液中に含まれる直径55μm以上の粒子の数は、次のように測定される。まず、秤量した粉状の多層構造重合体を含む固形物をアセトン中に、濃度5〜10質量%の範囲で分散させてアセトン分散液を調製し、このアセトン分散液を試料として、JIS B9921に準拠する光散乱式のパーティクルカウンター等を用いて測定できる。アセトン分散液を調製する際には、アセトンを多層構造重合体粒子間に十分に浸透させるために、多層構造重合体を含む固形物を予め55μmより小さい目開きのメッシュ上で多層構造重合体の良溶媒にて超音波洗浄させた後、メッシュ上の残存物を再度アセトン中に分散させることが好ましい。この方法によれば、アセトン分散液中に含まれる直径55μm以上の粒子の数をより正確に測定できる。
【0050】
アクリル樹脂ラテックス中から多層構造重合体を含む固形物を分離回収する方法としては、特に限定されないが、塩析、酸析凝固、噴霧乾燥、又は凍結乾燥等が挙げられる。これらの方法によれば、多層構造重合体を含む固形物を、粉状で回収できる。
上述した分離回収方法の中でも、好ましい分離回収方法としては、例えば、線速度0.5m/秒以下となるように攪拌され、濃度1.8〜20質量%の酢酸カルシウムを含む水溶液からなる凝固剤溶液中に、アクリル樹脂ラテックスを流し込んで凝固させる方法が挙げられる。その際、凝固粉を得るための凝固剤溶液の温度は、ポリマーを形成し得る単量体の種類、量あるいは攪拌による剪断力などの凝固条件の影響を受けるため一概には決定できないが、一般には80℃以上、好ましくは80〜100℃の範囲である。凝固液温度が80℃未満では、凝固粉の含水量が高くなり、また微粉量が多くなるので、生産性が悪化する傾向にあり、一方、100℃以上にするには耐圧仕様にしなければならないので、コストが高くなることがある。また、酢酸カルシウム水溶液の濃度は、一般には1.8〜20質量%、好ましくは1.8〜5質量%である。1.8質量%未満では、安定してポリマーを回収できなかったり、凝固粉の含水率が高くなることがあり、一方、20質量%を超えると、酢酸カルシウム溶液の温度変化により酢酸カルシウムが析出することがある。
【0051】
アクリル樹脂ラテックスを凝固して得られた多層構造重合体を含む固形物(湿潤状ポリマー)は、通常、固形物質量に対して1〜100倍程度の水で水洗される。その後、遠心脱水機やデカンタ脱水機により脱水後、圧搾脱水機や流動乾燥機などを用いて乾燥させる。このときの乾燥は、凝固粉の含水量が低いほど乾燥速度が速くなり、効率的である。
多層構造重合体を含む固形物の残存金属含有量は500ppm以下であることが好ましい。残存金属含有量が500ppm以下であると、さらに耐水白化性が向上する傾向にあり、また、微量であるほど耐水白化性は向上する。
【0052】
多層構造重合体を含む固形物からアクリル樹脂成形体を成形する方法としては、特に限定されるものではないが、押出成形法、射出成形法、真空成形法、ブロー成形法、圧縮成形法などが挙げられる。
アクリル樹脂成形体には、必要に応じて、一般の配合剤を含有させることができる。配合剤としては、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、艶消剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体等を挙げることができる。特にアクリル樹脂成形体の耐熱性、成形体表面の傷付き性等を向上させるために、熱可塑性重合体を添加することが好ましく、熱可塑性重合体としては、例えば、メチルメタクリレート50質量%以上と、これと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種50質量%未満とを含有し、還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mlに溶解し、25℃で測定)が0.2l/g以上のものが挙げられる。このような熱可塑性重合体との具体例としては、例えば、三菱レイヨン(株)製のアクリペットVH、アクリペットMD等が挙げられる。
【0053】
なお、配合剤を含有させる方法としては、成形品を得るための成形機に、多層構造重合体を含む固形物とともに供給する方法、予め多層構造重合体を含む固形物に配合剤を添加した原料混合物を各種混練機にて混練混合する方法が挙げられる。後者の方法で使用される混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0054】
また、アクリル樹脂成形体の中でも、工業的利用価値が特に高いことから、フィルム状のアクリル樹脂フィルムが好ましい。フィルム状に成形する方法としては、公知の溶液流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等が挙げられ、これらの中でも、Tダイ法が経済性の点で最も好ましい。その際、アクリル樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは15〜200μmであり、さらに好ましくは40〜200μmである。10〜500μmであると、得られるアクリル樹脂フィルムは適度な剛性を有し、また、ラミネート性、二次加工性等が良好になる。
【0055】
また、アクリル樹脂フィルムが積層される基材を保護する点では、耐候性を付与するために、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤を添加する場合は、紫外線吸収剤の分子量は300以上であることが好ましく、特に好ましくは400以上である。分子量が300より小さい紫外線吸収剤を使用すると、例えば、フィルムを製造する際に転写ロール等に付着して、ロール汚れを発生させることがある。紫外線吸収剤の種類としては、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系または分子量400以上のトリアジン系のものが特に好ましく使用でき、前者の具体例としては、チバスペシャリティケミカルズ社のチヌビン234、旭電化工業社のアデカスタブLA−31、後者の具体例としては、チバスペシャリティケミカルズ社のチヌビン1577等が挙げられる。
【0056】
また、アクリル樹脂フィルムには、必要に応じて、各種機能付与のための表面処理を施すことができる。機能付与のための表面処理としては、シルク印刷、インクジェットプリント等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着、スパッタリング、湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止、あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、反射防止層形成、防眩処理等が挙げられる。
上述した処理の中でも、印刷処理を施す場合には、アクリル樹脂フィルムに片側印刷処理が好ましく、中でも、印刷面を基材樹脂との接着面に配した裏面印刷が、印刷面の保護や高級感の付与の点から特に好ましい。
【0057】
また、アクリル樹脂フィルムは、基材に積層することができる。例えば、アクリル樹脂フィルムを透明のまま使用し、基材上に積層すれば、クリアな塗装の代替として用いることができ、基材の色調を生かすことができる。このように基材の色調を生かす用途においては、アクリル樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニルフィルムやポリエステルフィルムに比べ、透明性、深み感や高級感の点で優れている。
【0058】
アクリル樹脂フィルムを積層する基材としては、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品が挙げられる。また、樹脂成形品のうち、本発明のアクリル樹脂フィルムと溶融接着可能な熱可塑性樹脂成形品として、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。これらの中でも、接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂あるいはこれらの樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂等の溶融接着しづらい基材樹脂でも接着層を用いることでアクリル樹脂フィルムと基材を接着させることは可能である。
【0059】
2次元形状の基材にアクリル樹脂フィルムを積層する場合、熱融着できる基材に対しては熱ラミネーション等の公知の方法により貼り合わせることができる。また、熱融着しない基材に対しては、接着剤を用いたり、アクリル樹脂フィルムの片面を粘着加工するなどして貼り合わせることができる。
また、3次元形状の基材にアクリル樹脂フィルムを積層する場合、予め形状加工したアクリル樹脂フィルムを射出成形用金型に挿入するインサート成形法、金型内で真空成形後、射出成形を行うインモールド成形法等の公知の成形方法により貼り合わせることができる。これらの中でも、インモールド成形法が好ましい。インモールド成形法では、アクリル樹脂フィルムを真空成形により、三次元形状に成形した後、その成形品の中に、射出成形により基材樹脂を流し込み一体化させるので、表層にアクリル樹脂フィルムを有するアクリル積層成形品を容易に得ることができる。また、フィルムの成形と射出成形とを一工程で行えるので、作業性、経済性に優れている。
インモールド成形法における加熱温度としては、アクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上で、通常70〜170℃であることが好ましい。70℃未満であると、成形が困難になることがあり、170℃を超えると、表面外観が悪化したり、離型性が悪くなる。
【0060】
以上のように、上述したアクリル樹脂成形体は、多層構造重合体と、界面活性剤として上記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩とを含有するアクリル樹脂ラテックスから得られた固形物を成形したものであり、アクリル樹脂である多層構造重合体を含有するので、耐候性、透明性、印刷性に優れている。
【0061】
このように、上述したアクリル樹脂成形体は、耐候性、透明性、印刷性、耐水白化性に優れているので、特に浴室、台所などの水周り部材やサイディング材等の屋外建材部品の保護フィルムとして非常に有用であり、工業的価値が高い。
また、アクリル樹脂成形体は、浴室、台所等の水周り部材および外壁材、サイディング材等の外装建材部品の保護フィルム以外の用途にも使用できる。特に、アクリル樹脂フィルムは、例えば、液晶ディスプレイ等の偏光板に使用される偏光膜保護フィルム、あるいは視野角補償、位相差補償のための位相差板に使用される位相差フィルムなどにも使用できる。
【0062】
また、アクリル樹脂フィルムを積層した積層体の工業的利用分野としては、例えば、道路標識、表示板あるいは視認性を目的とした安全器具に使用される高輝度反射材が挙げられる。高輝度反射材の種類としては、アルミニウム蒸着を施したガラスビーズを基材に埋め込んだカプセル型反射材、プリズム加工した樹脂シートを反射体として使用したプリズム型反射材等があり、いずれのタイプにおいても、上述したアクリル樹脂フィルムは、反射材の表面に積層して使用する保護フィルムとして好適に用いることができる。即ち、上述したアクリル樹脂フィルムを表面に有する高輝度反射材は、雨水等の白化による高輝度反射材の視認性の低下が少ないため、高輝度反射材の保護フィルムとして工業的利用価値が極めて高い。
【0063】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明する。
なお、実施例および比較例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。また、参考例中の略号は以下のとおりである。
メチルメタクリレート:MMA
ブチルアクリレート:BA
アリルメタクリレート:AMA
1,3-ブチレングリコールジメタクリレート:BD
t−ブチルハイドロパーオキサイド:tBH
クメンハイドロパーオキサイド:CHP
n−オクチルメルカプタン:n−OM
乳化剤(1):高級アルコールエトキシレートリン酸エステルカリウム塩とポリオキシエチレンアルキルエーテルの混合物[商品名NC−718、三洋化成工業(株)製]
乳化剤(2):ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウムとポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの混合物[商品名フォスファノールLO529、東邦化学(株)製]
乳化剤(3):モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム[商品名フォスファノールRS−610NA、東邦化学(株)製]
【0064】
また、実施例および比較例において、調製した多層構造重合体の評価、アクリル樹脂フィルムの諸物性の測定は以下の試験法により実施した。
1)乳化液中の分散相(多層構造重合体)の平均粒子径測定
ガラス板上に乳化液を1滴滴下し、光学顕微鏡にて乳化液中の分散相20個の直径を計測し、これらの平均値より平均粒子径を求めた。
2)多層構造重合体の質量平均粒子径
乳化重合にて得られた多層構造重合体のポリマーラテックスを大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700を用い、動的光散乱法で測定し求めた。
3)スケール量
乳化重合後、重合槽および攪拌機に付着したスケールおよびラテックス中に浮遊しているスケールを500μmの目開きのメッシュにて回収して水洗、乾燥後その質量を測定した。この質量を重合槽に仕込んだ単量体混合物の総量により除してスケール量の割合を百分率で示した。
4)多層構造重合体中の粗大粒子数測定
多層構造重合体214.3gを25μmの目開きのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mlに投入し、続いて3時間攪拌して多層構造重合体のアセトン分散液を調製した。次いで、このアセトン分散液を目開き32μmのナイロンメッシュにて濾過した後、メッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄してメッシュ上の補足物をクロロホルム洗浄した。次いで、25μmの目開きのナイロンメッシュで濾過したアセトン150ml中に上記超音波洗浄後の補足物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理後、ナイロンメッシュを除去し、メッシュ補足物のアセトン分散液150mlを調製した。次いでこの分散液70mlをリオン株式会社製自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めた。
【0065】
5)多層構造重合体のゲル含有率
秤量した多層構造重合体をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、この抽出処理液を遠心分離により分別した。次いで、得られた固形分を乾燥後、質量測定(抽出後質量)し、以下の式にて求めた。
ゲル含有率(%)=(抽出前質量(g)−抽出後質量(g))/抽出前質量(g)
6)フィルムの全光線透過率および曇価
JIS K6714に準拠して評価した。
7)フィルムの表面光沢
フィルムの表面光沢はグロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製 GM−26D型)を用い、60゜での表面光沢を測定した。
8)フィルムの耐水白化性評価後の白度(WI)
フィルムを100℃の純水中に30分間浸漬し、取り出した後、フィルムに付着した純水を拭き取り、一昼夜放置後、フィルムの白度(WI)をスガ試験機(株)製のSMカラーコンピューター(型式:SMC(2光路照度可変・8/d、8/D方式))を用いて測定した。
9)アクリル樹脂ラテックスの濾過性
アクリル樹脂ラテックスの濾過を12時間連続して実施し、その運転安定性から判断した。
○:濾材の状態が、濾過開始直後と変化なく、極めて良好
△:濾過はできたが濾材の目詰まりが激しかった
×:濾過不能
【0066】
(実施例1)多層構造重合体(H−1)の製造
冷却器付き反応容器内にイオン交換水195部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、MMA0.3部、BA4.5部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる第1の単量体混合物および乳化剤(1)1.3部からなる混合物を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させて最内重合体(A−1)を得た。
続いて、反応容器内に、MMA1.5部、BA22.5部、BD1.0部、AMA0.25部からなる第2の単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間で添加した後、60分間反応を継続させて架橋弾性重合体(B−1)を含む二層架橋ゴム弾性体を得た。
続いて、反応容器内に、MMA6部、BA4部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の第3の単量体混合物を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて中間重合体(C−1)を形成させた。
次いで、反応容器内に、MMA55.2部、BA4.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部からなる第4の単量体混合物を140分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて最外層重合体(D−1)を形成させ、多層構造重合体(H−1)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
【0067】
得られた多層構造重合体(H−1)のアクリル樹脂ラテックスを、酢酸カルシウム3部含有する水溶液中に投入して塩析させ、水洗し、分離回収後、乾燥して粉体状の多層構造重合体(H−1)を得た。多層構造重合体(H−1)のゲル含有率は、60%であった。
次に、多層構造重合体(H−1)100部、配合剤として旭電化(株)製「アデカスタブLA−31RG」2.1部、旭電化(株)製「アデカスタブAO−50」0.1部、旭電化(株)製「アデカスタブLA−57」0.3部を添加した後ヘンシェルミキサーを用いて混合し、得られた混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練してペレットを得た。
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、この乾燥ペレットを、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)に供給して50μm厚みのフィルムを製膜した。その際の条件は、シリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度70℃であった。
多層構造重合体(H−1)中の粗大粒子数、製膜したアクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)多層構造重合体(H−2)の製造
攪拌機を備えた容器にイオン交換水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、BA4.5部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる第1の単量体混合物を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤(1)1.3部を攪拌しながら上記容器に投入し、再度20分間攪拌を継続し、乳化液(N−1)を調製した。得られた乳化液中の分散相の平均粒子径は、10μmであった。
次に、冷却器付き反応容器内にイオン交換水186.5部を投入し、これを70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、乳化液(N−1)を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させて最内重合体(A−2)を得た。このときの乳化液(N−1)滴下時の最大供給速度/平均供給速度は1.1であった。
続いて、MMA1.5部、BA22.5部、BD1.0部、AMA0.25部からなる第2の単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間かけて反応容器に添加した後、60分間反応を継続させて架橋弾性重合体(B−2)を含む二層架橋ゴム弾性体を得た。
【0069】
続いて、MMA6部、BA4部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の第3の単量体混合物を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて中間重合体(C−2)を形成させた。
次いで、MMA55.2部、BA4.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部からなる第4の単量体混合物を140分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて最外層重合体(D−2)を形成して多層構造重合体(H−2)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.001%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
そして、多層構造重合体(H−2)を含有するアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥して多層構造重合体(H−2)を得た。得られた多層構造重合体(H−2)のゲル含有率は60%であった。また、多層構造重合体(H−2)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(H−2)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)多層構造重合体(H−3)の製造
実施例1の多層構造重合体(H−1)の製造において、最外層重合体(D−1)を形成させるのに使用した第4の単量体混合物を、MMA58.2部、BA1.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部に変更した以外は実施例1と同様の方法で乳化重合を実施して多層構造重合体(H−3)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
そして、多層構造重合体(H−3)を含有するアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥し、多層構造重合体(H−3)を得た。多層構造重合体(H−3)のゲル含有率は、61%であった。また、多層構造重合体(H−3)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(H−3)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)多層構造重合体(H−4)の製造
実施例2の多層構造重合体(H−2)の製造で使用した乳化剤(1)の代わりに乳化剤(3)を界面活性剤として使用したこと以外は実施例2と同様にして乳化液(N−4)を調製した。そして、乳化液(N−4)を滴下するときの最大供給速度/平均供給速度を2.2にしたこと以外は実施例2と同様の方法で多層構造重合体(H−4)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。重合後測定したスケール量は0.001%であり、質量平均粒子径は、0.09μmであった。
得られたアクリル樹脂ラテックスを、濾材としてステンレス鋼製のメッシュ(線径 50μm、235メッシュ)を取り付けた図3に示す構成を有する濾過装置(濾材直径:600mm)を用い、12時間、流速3m/Hで濾過して、凝集物や浮遊物および巨大なポリマー粒子を除去したアクリル樹脂ラテックスを得た。濾過の際には、振幅長5.0mmの振幅運動、回転数1000rpmの円運動により、濾材上に残った凝集物に与える加速度が55m/sになるように調整した。
そして、多層構造重合体(H−4)を含有するアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥し、多層構造重合体(H−4)を得た。得られた多層構造重合体(H−4)のゲル含有率は、60%であった。また、多層構造重合体(H−4)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(H−4)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0072】
(実施例5)
実施例1の多層構造重合体(H−1)の製造で使用した乳化剤(1)の代わりに乳化剤(3)を界面活性剤として使用したこと以外は実施例1と同様の方法で乳化重合して多層構造重合体(H−5)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
得られたアクリル樹脂ラテックスを実施例4と同様の方法で濾過して、凝集物や浮遊物および巨大なポリマー粒子を除去したアクリル樹脂ラテックスを得た。
そして、このアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥して多層構造重合体(H−5)を得た。得られた多層構造重合体(H−5)のゲル含有率は60%であった。また、多層構造重合体(H−5)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(H−5)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0073】
(実施例6)多層構造重合体(H−6)の製造
実施例2の多層構造重合体(H−2)の製造で使用した乳化剤(1)の代わりに乳化剤(3)を界面活性剤として使用したこと以外は実施例2と同様の方法で乳化重合して多層構造重合体(H−6)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.001%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
得られたアクリル樹脂ラテックスを実施例4と同様の方法で濾過し、凝集物や浮遊物および巨大なポリマー粒子を除去したアクリル樹脂ラテックスを得た。
そして、このアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥して多層構造重合体(H−6)を得た。得られた多層構造重合体(H−6)のゲル含有率は60%であった。また、多層構造重合体(H−6)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(H−6)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)多層構造重合体(L−1)の製造
実施例1の多層構造重合体(H−1)の製造で使用した界面活性剤に乳化剤(2)を使用した以外は実施例1と同様の方法で乳化重合を実施して多層構造重合体(L−1)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
そして、多層構造重合体(L−1)を含有するアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥し、多層構造重合体(L−1)を得た。多層構造重合体(L−1)のゲル含有率は、60%であった。また、多層構造重合体(L−1)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(L−1)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)多層構造重合体(L−2)の製造
実施例2の多層構造重合体(H−2)の製造で使用した界面活性剤に乳化剤(2)を使用した以外は実施例2と同様の方法で乳化重合を実施し、多層構造重合体(L−2)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.001%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
そして、多層構造重合体(L−2)を含有するアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で塩析、洗浄回収後、乾燥し、多層構造重合体(L−2)を得た。多層構造重合体(L−2)のゲル含有率は、60%であった。また、多層構造重合体(L−2)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(L−2)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0076】
(比較例3)多層構造重合体(L−3)の製造
実施例3の多層構造重合体(H−3)の製造で使用した界面活性剤に乳化剤(2)を使用した以外は実施例3と同様の方法で乳化重合を実施し、多層構造重合体(L−3)を含有するアクリル樹脂ラテックスを得た。
重合後測定したスケール量は0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
また、多層構造重合体(L−3)を含有するアクリル樹脂ラテックスを実施例1と同様の方法で、塩析、洗浄回収および乾燥し、多層構造重合体(H−3)を得た。多層構造重合体(L−3)のゲル含有率は、61%であった。また、多層構造重合体(L−3)を使用して、実施例1と同様にしてアクリル樹脂フィルムを得た。
多層構造重合体(L−3)中の粗大粒子数、アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢および耐水白化性試験を行った後のWI測定結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
Figure 0004131932
【0078】
実施例および比較例より、次のことが明らかとなった。
実施例1〜6において、多層構造重合体(H−1〜6)を原料としたアクリル樹脂フィルムはいずれも透明性、表面光沢に優れ、かつ良好な耐水白化性を示した。このように耐水白化性に優れたアクリル樹脂フィルムは、水などによるフィルム表面の白化が抑制されているので、サイディングなどの屋外用途、浴槽や台所などの水周りで使用でき、工業的利用価値が高い。
一方、比較例1〜3において、多層構造重合体(L−1〜3)を原料とするアクリル樹脂フィルムは、いずれも良好な透明性、表面光沢を示すものの、耐水白化性が不十分であった。このような耐水白化性が不十分なアクリル樹脂フィルムは、高いレベルの耐水白化性が必要となる用途に使用することができないため、工業的利用価値が低い。
【0079】
【発明の効果】
本発明のアクリル樹脂成形体は、多層構造重合体と、界面活性剤として上記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩とを含有するアクリル樹脂ラテックスから得られた固形物を成形したものであり、アクリル樹脂である多層構造重合体を含有するので、耐候性、透明性、印刷性に優れている。また、界面活性剤として、リン酸エステル塩を使用しているので、雨水、温水あるいは熱水に晒された際の耐水白化性が優れている。したがって、水周りで使用可能となるので、工業的利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 多層構造重合体を二等分に切断したときの断面図である。
【図2】 アクリル樹脂ラテックスを濾過する際に使用される濾過装置の一例示す断面模式図である。
【図3】 アクリル樹脂ラテックスを濾過する際に使用される濾過装置の一例を示す側面図である。
【図4】 アクリル樹脂ラテックスを濾過する際に使用される濾過装置の一例を示す上面図である。
【図5】 アクリル樹脂ラテックスを濾過する際に使用される濾過装置の他の例を示す側面図である。
【図6】 アクリル樹脂ラテックスを濾過する際に使用される濾過装置の他の例を示す上面図である。
【符号の説明】
1 多層構造重合体
2 最内重合体
3 架橋弾性重合体
4 中間重合体
5 最外層重合体

Claims (3)

  1. 多層構造重合体と、界面活性剤として下記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩とを含有するアクリル樹脂ラテックスから得られた固形物を成形したアクリル樹脂成形体であって、
    前記多層構造重合体は、内側から順に、最内重合体(A)と、架橋弾性重合体(B)と、中間重合体(C)と、最外層重合体(D)とを有し、
    前記最内重合体(A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤とを重合体の構成成分として含有し、
    前記架橋弾性重合体(B)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、グラフト交叉剤とを重合体の構成成分として含有し、
    前記中間重合体(C)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤とを構成成分として含有し、かつ、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートの含有割合が架橋弾性重合体(B)から最外層重合体(D)に向かって単調減少しており、
    最外層重合体(D)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを重合体の構成成分として含有することを特徴とするアクリル樹脂成形体。
    Figure 0004131932
    (一般式(I)において、Rは炭素数10〜18の直鎖または分岐アルキル基を示し、Rは炭素数2または3の直鎖あるいは分岐アルキレン基を示し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、mは1〜20の整数であり、nは1または2であり、pは1または2であり、p+nは3である。)
  2. 炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤とを含む第1の単量体混合物に、水および下記一般式(I)で表されるリン酸エステル塩の界面活性剤を混合して乳化液を調製し、該乳化液中の前記第1の単量体混合物を重合させて最内重合体(A)を形成させ、
    該最内重合体(A)上にて、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、グラフト交叉剤とを含む第2の単量体混合物を重合させて架橋弾性重合体(B)を形成させ、
    該架橋弾性重合体(B)上にて、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートと、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと、グラフト交叉剤とを含む第3の単量体混合物を重合させて中間重合体(C)を形成させ、
    該中間重合体(C)上にて、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含む第4の単量体混合物を重合させて最外層重合体(D)を形成させて多層構造重合体を含有するアクリル樹脂ラテックスを製造し、
    該アクリル樹脂ラテックスから、多層構造重合体を含有する固形物を分離し、該固形物を成形することを特徴とするアクリル樹脂成形体の製造方法。
    Figure 0004131932
  3. フィルム状であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル樹脂成形体。
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