JP4128845B2 - メガネレンズ、その製造方法およびその形成材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、界面活性剤を含有する無機親水性硬質層が表面に形成されたメガネレンズ、このメガネレンズの製造方法およびこの方法で用いられる無機親水性硬質層の形成材料に関する。さらに詳しくは本発明は、表面に曇りが生じにくいとともに、汚れを容易に除去することができるメガネレンズ、このメガネレンズの製造方法およびこの方法で用いられる無機親水性硬質層の形成材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、メガネのレンズに表面処理を施して、メガネレンズに防曇性を付与しようとする試みがなされている。
たとえば、WO96-29375号公報には、アナターゼ型酸化チタンの光触媒作用に基づく防曇レンズの発明が開示されている。また、この公報には、アナターゼ型酸化チタンとシリカとを融合させ光触媒活性を有して親水性を保持し、かつ表面の反射率を下げる方法が開示されている。一般にアナターゼ型酸化チタンは、優れた光触媒作用を有しており、このようなアナターゼ型酸化チタンからなる層を表面に形成することにより、アナターゼ型酸化チタンの有する光触媒作用によって表面が超親水性になることが知られている。
【0003】
上記のような光触媒活性を有するアナターゼ型酸化チタンからなる層をメガネレンズの表面に形成すると、このメガネレンズの表面は超親水性になるが、このような光触媒活性を有するアナターゼ型酸化チタンからなる層を表面に形成したメガネレンズは、少なくともその特性(超親水性)がメガネの仕様上不安定であり、表面に形成された層の機械的強度(具体的には硬度)および反射率の点においても、メガネレンズの仕様条件に適合しない。
【0004】
したがって、上記のような光触媒活性を有するアナターゼ型酸化チタンをメガネレンズの防曇材と使用することはできない。
また、メガネレンズに界面活性剤をスプレー塗布してメガネレンズに防曇性を付与する方法が採用されているが、ここで塗布される界面活性剤は、平滑なレンズ表面に付着しているだけであり、このような界面活性剤による防曇作用は持続性に乏しく、一過性である。このため常に界面活性剤のスプレーを携帯しなければならない。
【0005】
ところで、現在、メガネには、ガラス製のレンズおよびプラスチック製のレンズの両者が使用されており、特にプラスチックレンズは軽量で使用感に優れている。このようなプラスチックレンズは、プラスチック基材自体が硬質ではなく傷つきやすいことから、通常はその表面にシリカあるいは有機材料を用いて硬質層が形成されるのが一般的である。また、プラスチックレンズの反射率を低下させるために、プラスチックレンズの表面に反射防止膜を形成することがあるが、このような反射防止膜を形成した際にも、最外層には硬質層が形成される。
【0006】
この硬質層は通常はシリカを主成分として形成されており、このような硬質層が形成されたプラスチックレンズは、通常のプラスチックレンズよりも遥かに傷つきにくくなる。
しかしながら、メガネレンズは、一般に、メガネ拭き用の布あるいは紙でレンズ表面に付着して汚れをふき取るようにして清掃されることから、このふき取りの際に微細な砂粒等が付着していると、ふき取り布などでレンズ表面を擦ると比較的容易に傷がついてしまう。こうして一旦レンズについてしまった傷は修復することができないので著しくその寿命が短くなってしまう。
【0007】
このようにメガネレンズに付着した汚れを除去するのに、メガネレンズを水洗するのではなく、主としてふき取り布などを用いて、メガネレンズの汚れをふき取るのは、レンズの表面が疎水性であり、水洗いしてもレンズ表面が水をはじいてしまい、効率よくレンズを洗浄することができないためであり、さらに、レンズ表面が疎水性であるために、洗浄後レンズ表面の水分が水滴状になってレンズ表面に残るためである。すなわち、メガネレンズ表面は、また疎水性であるために洗浄効率が悪く、また、メガネレンズの表面に付着した汚れを除去するために使用した水がメガネレンズ表面では水滴となって残留し、このような水滴が残留したまま放置すると、水が蒸発して水滴状の新たな汚れが付着することがあるなどの理由により、水洗よりも拭き取り布などが広汎に使用されている。
【0008】
本発明者は、このような状況を鑑みて鋭意検討をかさねたところ、特定の成分を含有する無機親水性硬質層を基材に形成させ、これに界面活性剤を含浸させ、長期にわたって安定に残存させることで、メガネレンズ基材自体が優れた親水性および親媒性を示すようなり、メガネレンズ基材自体に曇り止め作用を付与することができ、かつ長期にわたって、その曇り止め作用を長期間を持続させることが可能となること、さらにこのような無機親水性硬質層が形成されたメガネレンズは、軽い拭き取りや水洗することにより、表面に付着した汚れを容易に除去できると共に、水滴などの残留に起因する新たな汚れの発生を有効に防止することができるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0009】
【特許文献1】
WO96-29375号公報
【0010】
【発明の目的】
本発明は、水蒸気などによって曇りにくいメガネレンズを提供すること、および従来一般に拭き取りによって表面を清浄化していたメガネレンズを水洗によっても清浄化するのに適するようにしたメガネレンズ、このメガネレンズを製造する方法およびこの方法で使用される材料を提供することを目的としている。
【0011】
さらに本発明は、良好な防曇性および水洗性を有するにもかかわらず、レンズの持つ表面性が変化しないメガネレンズ、このメガネレンズを製造する方法およびこの方法で使用される材料を提供することを目的としている。
【0012】
【発明の概要】
本発明のメガネレンズは、基材レンズと、該基材レンズ最表面に形成された平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層とを有し、該無機親水性硬質層が、フッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより該無機親水性硬質層における酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有することにより酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して酸化チタンの光触媒活性が実質的に発現しないように形成された酸化チタンを含有する金属酸化物からなり、該無機親水性硬質層には、平均厚さの5%以上の深さを有する微細な凹部が形成されており、該微細な凹部に、界面活性剤が含有されていることを特徴としている。
【0013】
上記のように親水性硬質層に形成された微細な凹部には、界面活性剤が安定に含有される。
本発明のメガネレンズは、水性媒体溶液に含有されるフッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有させて酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して酸化チタンの光触媒活性が実質的に発現しないようにされた酸化チタンを含有する金属酸化物、および表面に、平均厚さの5%以上の深さを有する微細な凹部が形成されるように、フッ化金属塩を含有する水性媒体溶液から金属酸化物を基材レンズ最表面に析出させて平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層を形成した後、基材レンズ表面に形成された無機親水性硬質層を界面活性剤の存在下にソフト研磨して、該無機親水性硬質層全体から見て特に突出した凸部を研削して該レンズの表面を均質化すると共に、該微細な凹部に界面活性剤を含有させることにより製造することができる。
【0014】
ここで、無機親水性層を形成するために、フッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有させて酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して、該酸化チタンの有する光触媒活性が実質的に発現しないようにされた酸化チタンを含有する金属酸化物からなり、かつ表面に、平均厚さの5%以上の深さを有する微細凹部が形成されるように、フッ化金属塩を含有する水性媒体溶液から金属酸化物を基材レンズ表面に析出させて平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層を形成する無機親水性硬質層形成材料であり、
該無機親水性硬質層形成材料が、フッ化金属塩である6フッ化ケイ素アンモニウムと6フッ化チタンアンモニウムと6フッ化ジルコニウムアンモニウムとの合計100モル%中に、6フッ化ケイ素アンモニウムを0.1〜99.8モル%の範囲内の量、6フッ化チタンアンモニウムを0.1〜40.0モル%の範囲内の量、6フッ化ジルコニウムアンモニウムを0.1〜99.8モル%の範囲内の量で含有する無機親水性硬質層形成材料を使用する。
【0015】
本発明において、前記無機親水性硬質層は、ケイ素、ジルコニウムおよびチタンの単純酸化物あるいは複合酸化物を含有する金属酸化物で形成されていることが好ましい。一般に酸化チタンは、光触媒活性を有しているが、本発明において無機親水性硬質層を形成する酸化チタンは、チタン酸化物の有する光触媒活性が発現しないよう状態で無機親水性硬質層に含有され、この無機親水性硬質層を形成している。
【0016】
本発明では、このように酸化チタンに光触媒活性を発現させないようにするために、無機親水性硬質層に酸化チタンの光触媒活性を抑制する成分を配合しており、本発明では、このような酸化チタンの光触媒活性を抑制する成分として、酸化ジルコニウムを用いている。さらに、この無機親水性硬質層の硬度を確保し、またこの無機親水性硬質層の屈折率を調整するために、酸化ケイ素を配合している。
【0017】
そして、この無機親水性硬質層において、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンは、これらの合計量100モル%中に、酸化ケイ素が0.1〜99.8モル%、酸化チタンが0.1〜60.0モル%、酸化ジルコニウムが0.1〜99.8モル%の量で含有されていることが好ましい。
このような量比で、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンを含有する無機親水性硬質層は、表面に形成された微細な凹部に界面活性剤が含有されても、この界面活性剤が酸化チタンの光触媒活性によって分解されることなく、安定に存在し、この無機親水性硬質層と水とが接触した際に、接触した水が水滴を形成しないように溶出して、このメガネレンズの表面を親水性に保持する。このようにメガネレンズに無機親水性硬質層を形成することにより、メガネレンズの表面に水が水滴の状態では付着しにくくなり、本発明のメガネレンズは、優れた防曇性を有するようになる。
【0018】
【発明の具体的説明】
以下、本発明のメガネレンズおよびこのメガネレンズの製造方法、さらにこの方法で好適に使用される無機親水性硬質層形成材料ついて具体的に説明する。
本発明のメガネレンズは、基材レンズと、この表面に形成された無機親水性硬質層とからなり、この無機親水性硬質層には微細な凹部が形成されている。この無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に、界面活性剤を含有させることにより、本発明のメガネレンズは、優れた新媒性および親水性を示すようになる。
【0019】
本発明のメガネレンズにおいて、基材レンズは、ガラス製基材レンズおよびプラスチック製基材レンズのいずれであってもよい。プラスチック製基材レンズは、 ガラス製基材レンズよりも軟質であり、傷つきやすいのが一般的であり、無機親水性硬質層を形成することによる耐傷性の向上という効果は、プラスチック製基 材レンズに無機親水性硬質層を形成した場合に、より顕著に現れる。従って、本発明において、基材レンズとして、プラスチック製基材レンズを用いた場合に効果的である。
【0020】
このような基材レンズには、表面に硬質層を形成することができる。このような硬質層は、通常は酸化ケイ素を用いて形成することができる。
本発明のメガネレンズにおいて、上記のような基材レンズの表面には無機親水性硬質層が形成されている。
この無機親水性硬質層は、金属酸化物から形成されている。ここで使用する金属酸化物中には酸化チタンが含有されており、しかもこの無機親水性硬質層において、酸化チタンは、光触媒活性が実質的に発現しないように無機親水性硬質層に含有されている。
【0021】
本発明において無機親水性硬質層を形成する金属酸化物としては、酸化チタンのほかに、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。すなわち、この無機親水性硬質層には酸化チタンが含有されているにも拘わらず、実質的に光触媒作用が発現しないようにするためには、フッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有させて酸化チタンの有する光触媒作用を抑制する成分を用いることが必要であり、このような酸化チタンの有する光触媒作用を抑制する成分としては、酸化ジルコニウムが好適である。また、この無機親水性硬質層は、基材レンズの耐傷性を向上させるために、硬質であることが好ましく、この酸化ジルコニウムを用いることにより無機親水性硬質層が硬質になる。本発明のメガネレンズを形成する無機親水性硬質層中の酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計100モル%中に、酸化ケイ素は0.1〜99.8モル%、好ましくは5.0〜60モル%の範囲内の量で含有されており、酸化チタンは0.1〜60.0モル%、好ましくは1.0〜30.0モル%の量で含有されており、酸化ジルコニウムは0.1〜99.8モル%、好ましくは5.0〜90.0モル%の範囲内の量で含有されている。
【0022】
酸化ケイ素の量を上記範囲内にすることにより無機親水性硬質層が充分な硬度を有すると共に、無機親水性硬質層の屈折率をメガネレンズとして好適な範囲に調整することができる。また、酸化チタンの量を上記範囲内にすることにより、この無機親水性硬質層に優れた新媒性(ここでは界面活性剤分子を保持する性質)を有するようになり、さらに他の金属酸化物との組み合わせによって、この無機親水性硬質層の屈折率がメガネレンズとして適切な範囲内になり、メガネレンズ表面が鏡面にならない。さらに、酸化ジルコニウムの量を上記範囲内にすることにより、この無機親水性硬質層に酸化チタンが含有されているにも拘らず、この無機親水性硬質層が酸化チタンが本質的に有している光触媒活性が有効な表在化しない。従って、この無機親水性硬質層に界面活性剤を含有させたとしても、この界面活性剤が酸化チタンの光触媒活性によって分解されることがなく、無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に界面活性剤が安定に長期間保持される。このような本発明のメガネレンズにおける酸化ケイ素、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムの含有率の範囲を図1に示す。
【0023】
また、本発明のメガネレンズにおける無機親水性硬質層は、上記のように酸化ケイ素、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムを含有するが、さらに、この無機親水性硬質層には、酸化チタンの一部を置換する形態で、他の金属酸化物が含有されていてもよい。このような他の金属酸化物の例としては、酸化スズ、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化インジウムおよび酸化ガリウムを挙げることができる。これらの他の金属酸化物は単独である組み合わせて使用することができる。このような他の金属酸化物は、酸化チタンの一部を置換するようにして無機親水性硬質層中に含有されており、これらの他の金属酸化物は、この無機親水性硬質層を形成する金属酸化物100モル%中に、通常は0.1〜40モル%の範囲内の量、好ましく0.1〜30.0モル%の範囲内の量で含有されている。
【0024】
このような他の金属酸化物は、無機親水性硬質層において、酸化チタンの光触媒活性を低下させると共に、この無機親水性硬質層の反射率を低下させ、さらにこの無機親水性硬質層の機械的強度、特に硬度を向上させることができる。
本発明のメガネレンズにおいて、無機親水性硬質層中に酸化チタンが含有されているが、この酸化チタンが本質的に有する光触媒活性は、実質的に表在化しないように配合されており、このような金属酸化物からなる表面層が形成され、この表在層である無機親水性硬質層においては、酸化チタンが本質的に有する光触媒活性は実質的に表在化していないので、光触媒活性による超親水性は発現しない。
【0025】
本発明のメガネレンズにおいては、上記の無機親水性硬質層の表面には非常に微細な凹部が形成されている。すなわち、本発明では、無機親水性硬質層の表面に 微細な凹部を形成して、この微細な凹部に界面活性剤を含有させることにより、無機親水性硬質層に優れた親水性を付与しているのである。
この無機親水性硬質層の平均厚さは、通常は10Å〜0.5μm、好ましくは500Å〜0.3μmの範囲内にあり、この無機親水性硬質層に形成される微細な 凹部は、上記のような厚さの無機親水性硬質層の表面からこの無機親水性硬質層の平均厚さの5%以上の深さ、好ましくは5〜100%の深さを有している。従って、本発明のメガネレンズにおいて、無機親水性硬質層は基材レンズの表面に均一な層を形成しているわけではなく、この無機親水性硬質層は上述の金属の単独酸化物あるいは複合酸化物からなる微細粒子が集合して基材レンズの表面に不均質膜を形成しているのであり、これらの微細粒子の集合体の間隙が微細な凹部を形成する。従って、本発明の無機親水性硬質層が基材レンズの表面を均質に被覆しているわけではなく、基材レンズの少なくとも一部は、上記のような無機親水性硬質層を形成する微細粒子が析出せずに凹部を形成している部分も存在することがある。そして、本発明のメガネレンズにおいて、基材レンズの表面の5%以上、好ましくは40%以上に上記無機親水性硬質層が形成されていれば、このような無機親水性硬質層の微細な凹部に界面活性剤が含有されることにより、良好な親水性が発現し、本発明のメガネレンズが長期間にわたって、優れた防曇性を有するようになる。
【0026】
このように無機親水性硬質層は、上記のような構成を採ることにより、そのモース硬度が、通常は5〜9、好ましくは6〜8の範囲内になり、優れた耐傷性を有するようになる。
このような無機親水性硬質層は、蒸着法、CVDなどの乾式の蒸着法で形成することもできるが、基材レンズに無機親水性硬質層を良好に析出させ、しかも、この無機親水性硬質層に上記のような微細な凹部を形成するためには、上記金属酸化物を析出可能な水溶液を形成し、この水溶液から所望の金属酸化物を基材レンズ上に析出させ、乾燥させる方法により形成することが好ましい。このような水溶液から基材表面に金属酸化物を析出させる方法自体は、LPD法(水溶液析出法)として知られており、本発明ではLPD法を利用して無機親水性硬質層を形成することが好ましい。
【0027】
LPD法を利用して無機親水性硬質膜を形成する場合に、上記のような金属酸化物を析出させるためには、フッ化金属塩を使用することができる。ここで使用されるフルオロ金属塩としては、フッ化金属のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などを用いることもできるが、特に本発明ではフッ化金属のアンモニウム塩を使用すること好ましい。特に本発明において、無機親水性硬質層が、酸化ケイ素、酸化チタンおよび酸化ジルコニウムを含有する場合には、具体的には、6フッ化ケイ素アンモニウム[(NH4)2SiF6]、6フッ化チタンアンモニウム[(NH4)2TiF6]、および6フッ化ジルコニウムアンモニウム[(NH4)2ZrF6]を所定の割合で含有する無機親水性硬質層形成材料を使用することが好ましい。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0028】
ここで無機親水性硬質層を形成するために使用される無機親水性硬質層形成材料は、フッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有させて酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して、該酸化チタンの有する光触媒活性が実質的に発現しないようにされた酸化チタンを含有する金属酸化物からなり、かつ表面に、平均厚さの5%以上の深さを有する微細凹部が形成されるように、フッ化金属塩を含有する水性媒体溶液から金属酸化物を基材レンズ表面に析出させて平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層を形成する無機親水性硬質層形成材料である。
【0029】
本発明において、無機親水性硬質層を形成するためにフッ化金属塩である無機親水性硬質層形成材料を使用する場合、使用するフッ化金属塩である6フッ化ケイ 素アンモニウムと6フッ化チタンアンモニウムと6フッ化ジルコニウムアンモニウムとの合計100モル%中に、6フッ化ケイ素アンモニウムを通常は0.1〜99.8モル%、好ましくは5.0〜60モル%の範囲内の量で使用され、6フッ化チタンアンモニウムは、通常は0.1〜40.0モル%、好ましくは1.0〜20.0モル%の範囲内の量で使用され、6フッ化ジルコニウムアンモニウムは、通常は0.1〜99.8モル%、好ましくは5.0〜90.0モル%の範囲内の量で使用される。本発明で採用することができる上記のようなフッ化金属塩の好適な組成を図2に示す。
【0030】
また、本発明のメガネレンズにおける無機親水性硬質層を製造する際には、上記のように6フッ化ケイ素アンモニウム、6フッ化チタンアンモニウムおよび6フッ化ジルコニウムアンモニウムを使用するが、この6フッ化ケイ素アンモニウムの一部を置換する形態で、他のフッ化金属塩が含有されていてもよい。このような他のフッ化金属塩の例としては、6フッ化スズアンモニウム((NH4)2SnF6)、7フッ化タンタルアンモニウム((NH4)2TaF7)、7フッ化ニオビウムアンモニウム((NH4)2NbF7)、6フッ化インジウムアンモニウム((NH4)2InF6)および6フッ化ガリウムアンモニウム((NH4)2GaF6)のうちの少なくとも一種類のフルオロ金属塩を使用することができる。
【0031】
このような他のフッ化金属塩は、上記6フッ化チタンアンモニウムを置き換える形で、6フッ化金属塩100モル%中に0.1〜40モル%、好ましくは1.0〜20.0モル%の範囲内の量で配合することができる。
このようなフッ化金属塩を水性媒体中に溶解させ、この水性媒体中に溶存するフッ素原子を捕捉することにより、水性媒体中から金属を酸化物として析出させることができる。
【0032】
このようにして金属酸化物を析出させる際に、水性媒体中におけるフッ化金属塩は、水あるいは水-アルコールなどの水性媒体中に0.0001〜1モル/リットル、好ましくは0.001〜0.5モル/リットルの量で溶解して使用する。
このようなフッ化金属塩の水性媒体溶液から金属酸化物を析出させるために使用されるフッ素捕捉剤としては、ホウ素化合物(例えば酸化ホウ素、ホウ酸、四ホウ化ナトリウムなど)を用いることができる。特に本発明においては酸化ホウ素を使用することが好ましい。酸化ホウ素は、フッ化金属塩の水性媒体溶液中に含有されるフッ素原子1モルに対して、ホウ素原子が、通常は1〜50モル、好ましくは1〜25モルになるような量で使用される。この酸化ホウ素は、水などに溶解した溶液を調製し、この溶液をフッ化金属塩の水性媒体溶液中に添加することが好ましい。
【0033】
このようなフッ化金属塩の水性媒体溶液からの金属酸化物の析出反応は、通常は20〜60℃、好ましくは25〜55℃の温度で行うことができる。
フッ化金属塩の水性媒体溶液に上記のようなフッ素捕捉剤の溶液を添加すると、フッ化金属塩の水性媒体溶液から金属酸化物が析出し始め、この析出反応は、一般には数時間〜24時間に及ぶ。
【0034】
上記のようにして水性媒体中に基材レンズを浸漬して基材レンズ表面に金属酸化物を析出させた後、この基材レンズを水性媒体から取り出し、乾燥させることにより、基材レンズ表面に無機親水性硬質層を形成することができる。
このようにして形成される無機親水性硬質層の平均厚さは、前述のように、通常は10Å〜0.5μm、好ましくは500Å〜0.3μmの範囲内にある。この無機親水性硬質層を、たとえば上記のようにLPD法により形成した場合、金属酸化物が粒子状に析出することから、無機親水性硬質層の表面は、微視的に見て平滑な平面ではなく、析出粒子に起因した非常に微細な凹凸が形成されている。このような凹凸を有する無機親水性硬質層が形成されたメガネレンズを、たとえば界面活性剤を含有する研磨布などでソフト研磨することにより、無機親水性硬質層全体から見て特に突出した突部を研削することが好ましい。このようにソフト研磨することにより、凸部を研削することにより実質的に平坦な面をもたらすことで界面活性剤分子が規則正しく親水基を並べて配列することが出来、好適な防曇特性が実現できるようになる。しかしながら、このようなソフト研磨によっても無機親水性硬質層に形成された微細な凹部は消滅しないよう制御しなければならない。
【0035】
本発明のメガネレンズでは、上記のようにして形成された無機親水性硬質層に界面活性剤を含有させることが好ましい。このような界面活性剤は、ソフト研磨された無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に滲入するように無機親水性硬質に含有されることが好ましい。
この無機親水性硬質層に含浸させる界面活性剤は、なるべく陰イオン界面活性剤が望ましいが陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤のいずれでもよく、具体的には、ジオクチルスルフォサクシネート、アルキルエーテルサルフェート、ジメチルアルキルアミンオキシド、アルキルエーテルサルフェート、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸メチルグルカミド、α-オレフィンスルフォン酸ナトリウム、アルキルアミンオキシド、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。このような界面活性剤を、無機親水性硬質層中に50重量%以下の量で、好ましくは30重量%以下の量で、特に好ましくは20重量%以下の量で含浸させる。このような量で界面活性剤を含浸させるために、本発明では直径80mmのメガネレンズに、10-2〜200mg、好ましくは10-1〜50mgの範囲内の量の界面活性剤を塗布する。このような量の界面活性剤を塗布した後、水分を除去することによりこの界面活性剤はメガネレンズに形成された無機親水性硬質層に含有される。また、この界面活性剤は、ソフト研磨する際に研磨布(あるいは拭き布)に界面活性剤を含有させて、ソフト研磨する際に、研磨布(あるいは拭き布)に含有される界面活性剤であってもよい。
【0036】
本発明のメガネレンズに形成された無機親水性硬質層には、微細な凹部が形成されており、上記のような界面活性剤は、大部分が無機親水性硬質層に形成された微細な凹部中に取り込まれる。特に界面活性剤を塗布しながら研磨布などでメガネレンズ表面をソフト研磨することにより、この界面活性剤は、無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に充填される。
【0037】
このようにして一旦微細な凹部に充填された界面活性剤は、微細な凹部に侵入することによって物理的に除去されにくくなると共に、無機親水性硬質層の有する親媒性によって流出もしにくくなる。
しかしながら、メガネレンズが水と接触すると、この界面活性剤が微量に溶出し、メガネレンズ表面で水が水滴として存在できない程度にその表面張力を低下さ せる。このためにメガネレンズ表面に接触した水は、水膜となってメガネレンズ表面に広がるために、水滴によって光が散乱されることがないので、メガネレン ズに曇りが生じにくくなる。また、メガネレンズ全体に水膜が形成されることから、この水が蒸発しても水滴状の残痕が生じにくくなり、従って、本発明のメガネレンズに付着した汚れは、水洗により容易に除去することができ、しかも水洗した場合であっても、メガネレンズ表面に水滴状の残痕が生じないので、水分のふき取りなど特別の処置を施さなくとも、メガネレンズに付着した汚れを容易に除去することができる。
【0038】
また、本発明のメガネレンズの無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に浸入した界面活性剤は、物理的なふき取りなどによっては除去されにくく、メガネレンズが水と接触した場合に微量溶出するので、長期間にわたって、メガネレンズ表面に残存する。そして、このような界面活性剤が残存している限り、本発明のメガネレンズは、良好な防曇性を維持することができる。また、この界面活性剤は、上述のような界面活性剤をたとえばスプレーなどによりメガネレンズ表面に供給するか、および/または、界面活性剤を含浸させた拭き布でメガネレンズ表面を拭くことにより、無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に追加供給することができる。このようにしてメガネレンズ表面に新たに供給された界面活性剤は、たとえば拭き布で拭きのばすことにより、無機親水性硬質層の表面にある微細な凹部に充填される。
【0039】
このようにして界面活性剤を適宜供給しながら本発明のメガネレンズを使用することにより、本発明のメガネレンズの有する防曇性は半永久的に保持される。また、この無機親水性硬質層は、酸化チタンを含有しているけれども、この酸化チタンは光触媒活性が実質的に発現しないようにこの無機親水性硬質層中に含有されているので、上記のようにこの無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に含有される界面活性剤が光触媒作用によって分解されることこともなく、長期間安定に無機親水性硬質層に含有されることができる。この点、従来の酸化チタンを含有する表面層では、光の照射によって酸化チタンに光触媒活性が発現し、この表面層が超親水性になるものの、この酸化チタンと接触する有機化合物は、光触媒活性により光分解されてしまう。従って、たとえば建築物壁面などにおいては、付着した汚れを光触媒活性により分解しながら、超親水性を利用して溶解除去させることが可能であった。このような酸化チタンの光触媒活性を利用する場合には、表面に含浸させた界面活性剤も酸化チタンの光触媒活性により光分解されるので、表面に長期間安定に保持することはできない。
【0040】
しかしながら、本発明のメガネレンズのように、酸化チタンは使用するものの、酸化チタンが本質的に有している光触媒活性が発現しないように無機親水性硬質層に含有させ、このような無機親水性硬質層を形成する際に生ずる微細な凹部に界面活性剤を充填して、この微細な凹部に充填された界面活性剤を水が接触した場合に微量溶出させ、この微量に溶出した界面活性剤を無機親水性硬質層の有する表面形状と共同させて、無機親水性硬質層の表面に水滴を形成させずに、水を水膜として存在させることにより、このメガネレンズに非常に良好な防曇性を付与することができる。しかも、この防曇性は、界面活性剤が光分解を受けることがないので、長期間安定に保持され続けることができる。
【0041】
さらに、この無機親水性硬質層は、主として光触媒活性を実質的に示さないようにされた酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムを含有する金属酸化物からなり、このような金属酸化物からなる無機親水性硬質層は、硬質であり、日常におけるメガネレンズのふき取り清掃によっては、この無機親水性硬質層が磨耗することはなく、さらにふき取り布を用いた通常のふき取り清掃によってもこの無機親水性硬質層に傷がつきにくい。
【0042】
また、本発明のメガネレンズに汚れが付着した場合には、ふき取り布などを用いて除去することも可能であるが、本発明のメガネレンズは、水との接触によって水が水滴状にならず、メガネレンズの表面に水膜を形成し、さらにこの水膜は、乾燥する際にも水滴にはならないので、汚れを水洗により容易に除去することができる。
【0043】
また、本発明のメガネレンズにおいては、こうした水洗による除去を行った後にも、特に水滴の除去などの操作を行わなくても水洗に起因した新たな汚れの付着は生ずることがない。
しかも、このような無機親水性硬質層は、一般にプラスチックレンズなどに形成される硬質層と同等あるいはそれ以上の硬度を有することから、本発明のメガネレンズの通常の使用形態においては、メガネレンズの表面に傷がつきにくく、ある程度の硬度を有するたとえば表面硬質処理されたガラスレンズと同等に使用することが可能である。このような優れた特性を有するにも拘らず、ガラス製のメガネレンズよりも軽量であり、従来のプラスチック製のメガネレンズと比較して同等もしくはそれ以上に硬質であり、耐傷性に大変優れている。
【0044】
また、本発明のメガネレンズは、酸化チタンを含有する無機親水性硬質層を有しているにも拘らず、酸化チタン以外の金属酸化物を含有するとともに、本製膜法〔水溶液法〕のより膜厚を数十ナノメートル以下にすることが可能となるため、その表面が鏡面にならず、通常の着色されていないメガネレンズと同等の外観 を有する。従ってサングラスなどの特別の用途に使用されるメガネのレンズとしてだけではなく、一般に使用されるメガネのレンズとして使用することができ、このメガネレンズを用いたメガネは、通常使用されるメガネとして使用することができる。しかも、このメガネレンズは、メガネに要求される厳しい仕様条件をすべてクリヤーしており、従来から使用されているメガネレンズとしてメガネ枠体に組み込んで使用することが可能である。
【0045】
【発明の効果】
本発明のメガネレンズにおいては、基材レンズの表面に、光触媒活性が発現しない状態で酸化チタンが含有されている金属酸化物からなる無機親水性硬質層が形成されており、さらにこの無機親水性硬質層は、表面に微細な凹部が形成されており、この微細な凹部に界面活性剤を充填することにより、この無機親水性硬質層は、非常に優れた親水性および新媒性を有するようになり、この無機親水性硬質層に水が接触しても、接触した水が水滴を形成する程度に高い表面張力は示さず、接触した水は無機親水性硬質層の表面に水膜を形成する。従って、付着した水滴の屈折率に起因するメガネレンズの曇りは生じない。
【0046】
この無機親水性硬質層に微細な凹部に含有される界面活性剤は、必要に応じてたとえばスプレーなどによりメガネレンズ表面に供給し、拭き布などでメガネレンズ表面にひきのばすことにより、微細な凹部内に滲入してこの微細な凹部内に安定に保持され、本発明のメガネレンズにおいては、この界面活性剤が酸化チタンの光触媒作用によって、分解されることはない。しかも、この界面活性剤は、随時補充が可能であり、従って、メガネレンズの防曇性が低下し始めたらメガネレンズに界面活性剤を補充することにより、本発明のメガネレンズにおいては半永久的に良好な防曇性が維持される。
【0047】
また、この無機親水性硬質層は、主として酸化チタン、酸化ケイ素および酸化ジルコニウムからなる金属酸化物から形成されており、このような組成を有する無機親水性硬質層は良好な硬度を有し、従って、本発明のこの無機親水性硬質層は大変優れた耐擦傷性を示す。
さらに、この無機親水性硬質層は、好適には光触媒活性を示さない状態で酸化チタンを含む金属酸化物から形成されており、このような金属酸化物からなる無機親水性硬質層は、反射率が基材レンズと比較してそれほど高くなることはなく、メガネレンズとしての仕様基準を満たすものである。
【0048】
【実施例】
次に本発明の実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定的に解されるべきではない。
【0049】
【実施例1】
ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム(6フッ化ケイ素酸アンモニウム:(NH4)2SiF6):4g、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム(6フッ化チタンアンモニウム:(NH4)2TiF6):2g、および、ヘキサフルオロジルコニウム酸アンモニウム(6フッ化ジルコニウムアンモニウム:(NH4)2ZrF6):30gを秤量し、これらを30〜45℃に加温されている純水1500mlに投入して撹拌混合した。
【0050】
このように作成した処理液に酸化ホウ素30gを添加した。処理液全体を強く撹拌し、酸化ホウ素を処理液中に完全に溶解した。
酸化ホウ素を溶解した後、しばらくすると液全体が白濁し始めたので、予め用意していた硬質層を施したこの処理液中にハードコートプラスチック製基材レンズを浸漬した。
【0051】
処理液を40℃に保った状態で20時間継続した時点で浸漬を終了し、ハードコートプラスチック製基材レンズを引き上げた。そして、このハードコートプラスチック製基材レンズを取り出し、水で軽く洗浄した後、乾燥させた。
以上のようにして作成した処理レンズの表面を、皮革製のポリッシャーを使い少量の界面活性剤を用いながら表面をソフト研磨してレンズ表面を平滑にした。
【0052】
こうして形成された無機親水性硬質層の平均厚さは約1000Åであり、また、こうして形成された無機親水性硬質層中には、Si、Ti、Zrの金属原子が存在することが蛍光X線分析装置(XRD、日本電子(株)製)によって確認することができた。このように形成された無機親水性硬質層には、表面から平均深さが300Åの微細な凹部が形成されており、この微細な凹部には、上記メガネレンズの平滑化の際に用いた界面活性剤が充填されていた。
【0053】
こうして得られた無機親水性硬質層に含有される酸化チタンに起因する光触媒活性は認められなかった。
この表面処理レンズを眼鏡に装着し、使用しながら汚れた際は、乾いたティシュペーパーで軽く拭き取る方法や水であらい流す方法で約2年間クリーニングすることができた。
【0054】
この表面の無機親水性硬質層に形成された微細な凹部に界面活性剤が充填されたメガネレンズをメガネレンズとの温度差を20℃、湿度差を70%に設定した高温多湿容器内に入れてメガネレンズの防曇性を調べたが、このメガネレンズに曇りは発生しなかった。
【0055】
【実施例2】
実施例1において、6フッ化ケイ素アンモニウム((NH4)2SiF6):37g、6フッ化ジルコニウムアンモニウム((NH4)2ZrF6):0.5gおよび6フッ化チタンアンモニウム((NH4)2TiF6):12.5gを秤量し、これを純水に35〜40℃で混合溶解し1500mlとして処理液を調製した以外は同様にして無機親水性硬質層を形成した。
【0056】
即ち、このように作成した処理液1500mlに酸化ホウ素30g添加して、同様に強く撹拌し、溶解させた。
溶解後しばらくすると液全体が透明な状態になったので、予め用意していた表面にシリカ膜をコートした反射防止用マルチコート膜を施したプラスチックレンズ基材を浸漬した。
【0057】
処理液を30〜40℃に保った状態で24時間継続した後に浸漬を終了した。そこでプラスチック基材を取り出し、洗浄乾燥させ、基材レンズへの表面処理を終了した。
こうして形成された無機親水性硬質層についてその平均厚さを測定したところ、約1000Åであった。また、こうして形成された無機親水性硬質層中には、Si、Ti、Zrの金属原子が存在することが蛍光X線分析装置(XRD、日本電子(株)製)によって確認することができた。このように形成された無機親水性硬質層には、表面から平均深さが350Åの微細な凹部が形成されており、この微細な凹部には、上記メガネレンズの平滑化の際に用いた界面活性剤が充填されていた。
【0058】
こうして得られた無機親水性硬質層には酸化チタンが含有されているにも拘らず、光触媒活性は認められなかった。
このように処理したレンズを、実際の使用によって汚れたレンズ表面を、定期的に水洗しクリーニングした。
その結果、水がレンズ表面に水滴は形成されず、メガネレンズ表面に水膜を形成して表面全体が濡れた状態になり、これを乾燥しても、メガネレンズ表面に水滴の痕跡は形成されなかった。
【0059】
この界面活性剤を含有するメガネレンズを、メガネレンズとの温度差を20℃、湿度差を70%に設定した高温多湿容器内入れてこのメガネレンズの防曇性を調べたところ、このメガネレンズに曇りは発生しなかった。
【0060】
【実施例3】
SiO2:10gおよびTiO2:4.5g、ZrO2:25gの混合物を、46%HF水溶液2mlを400mlの純水に溶解した水溶液に投入し、強く撹拌しながら約25℃で24時間反応させた。その後、この未反応粉末の残留する水溶液を静置して、その上澄液を分取した。
【0061】
この上澄液に、ピペットによって、アンモニア水を滴下した。
このようにアンモニア水を少しずつ添加し、溶液全体がやや白濁し、その後、全体が透明になった状態で、アンモニア水の滴下を終了して、処理液とした。
この処理液400ml(40℃)に酸化ホウ素B2O3を20g添加し、静置し、そのまま約12時間放置した。
【0062】
12時間経過後、液全体を強く撹拌し、沈殿物を完全に溶解させた。溶解後、しばらくすると、液全体が白濁し始めたので予め用意した硬質層を施したハードコートプラスチックレンズ基材をこの液の中に浸漬した。
処理液を40℃に保持し、この処理液に硬質層を有するハードコートプラスチック製基材レンズを15時間浸漬した。
【0063】
所定時間経過後レンズを取り出して、その表面を観察したところ、その表面は水溶液析出物法により形成した層に特有の凹凸を有する無機親水性硬質層が形成されていた。
上記のようにして製造したレンズを、ソフト研磨した。ソフト研磨は、研磨材として皮革製のポリッシャーを使い、親水性研磨媒体として界面活性剤を用いて、レンズ表面に0.5kg/cm2の圧力付与下で2時間かけて50rpmの速度でレンズ表面を穏やかに研削した。
【0064】
こうして得られた無機親水性硬質層は、酸化チタンに起因する光触媒活性は認められなかった。
上記のようにしてソフト研磨したレンズを高湿度環境下に置いて、その曇り状態を観察したところ、通常の無コート(未処理)レンズが曇る条件においても、上記のようにして処理したレンズには曇り発生せず、代わりにレンズ表面に非常に薄い水膜が形成され、レンズの透明性が維持された。
【0065】
また、このように水膜が形成されたレンズと、水膜が形成されていないレンズを用いて、像の鮮明さを調べたが、両者の間に実質的な相違はなかった。
【0066】
【実施例4】
6フッ化ケイ素アンモニウム((NH4)2SiF6)を30gおよび6フッ化チタンアンモニウム((NH4)2TiF6)を2g、6フッ化ジルコニウムアンモニウム((NH4)2ZrF6)を1g秤量し、これを400mlの純水に40℃で混合溶解させ、処理液とした。
【0067】
このようにして作成した処理液に、酸化ホウ素を30g添加し、撹拌せずに処理液容器(直径150mm×深さ200mm)の底に沈殿させた。
放置後、処理液全体を強く撹拌して、沈殿物を完全に溶解させた。溶解後しばらくすると液全体が白濁し始めたので、予め用意した硬質層を施したハードコートプラスチックレンズを浸漬した。
【0068】
処理液を40℃に保った状態で20時間継続した後に浸漬を終了した。
その後、ハードコートプラスチックレンズを取り出し、洗浄し、乾燥させた。
以上と同じプロセスによって作成した既処理レンズを複数枚製造した。
こうして得られた無機親水性硬質層は、酸化チタンを含有しているにも拘らず、酸化チタンに起因する光触媒活性は認められなかった。
【0069】
上記のようにして無機親水性硬質層を形成した後、皮革性のポリシャーを用い、研磨媒体として界面活性剤(中性洗剤)を用いながら、ソフト研磨を行った。こうしてソフト研磨したメガネレンズは、親水性を示すと共に、レンズを通した像も鮮明で、メガネレンズとして使用するのに問題のないものであった。また、このようにしてソフト研磨した後、乾燥させたメガネレンズは、乾燥後も優れた防曇性が維持され、その後数回の水洗をおこなっても、この優れた防曇性は全く変化しなかった。
【0070】
上記のようなメガネレンズを2週間おきに界面活性剤を染み込ませた布で拭く程度で継続して2年間使用したが、表面に主だった傷も生じることなく防曇性が維持され、使用上の問題は生じなかった。
さらに、このレンズでは、表面に形成した無機親水性硬質層が、耐久性に優れており、メガネレンズとしての仕様条件を全て満していた。
【0071】
なお、上記研磨の際にバフがけ用ワックスタイプの研磨剤を用い、綿布を用いて研磨を行ったが、無機親水性硬質層がほとんど剥離してしまい、メガネレンズに全く親水性は表れなかった。しかし、ポリッシャーとしてセーム皮を用い、研磨媒体として中性洗剤(界面活性剤)を用いてソフト研磨を行うと、形成した無機親水性硬質層に親水性が表れ、レンズを通してみた像は充分鮮明で問題はなかった。
【0072】
【実施例5】
SiO2:4g、TiO2:2gおよびZrO2:30gを混合した混合粉末を、46%のHF水溶液3mlを600mlの純水に溶解した水溶液に投入し、強く撹拌しながら約25℃で24時間反応させた。
その後、この未反応粉末の残存する水溶液を静置して、その上澄み液を分取した。この上澄み液にピペットを用いて、NH4OH水を滴下した。
【0073】
こうしてNH4OH水溶液を滴下するに従って、水溶液全体がやや白濁した状態となり、その後、液全体が透明になったところでNH4OH水溶液の添加を停止して処理液の製造作業を終了した。
この処理液600ml(40℃)に酸化ホウ素(B2O3)20gを添加し、溶液全体を強く撹拌して、沈殿物を完全に溶解した。
【0074】
溶解後、しばらくすると、液全体が白濁し始めたので、予め用意していた硬質層を設けたプラスチックレンズを浸漬した。
処理液を40℃に保った状態で、硬質層を設けたプラスチックレンズを浸漬し、20時間保持した。
上記時間経過後、レンズを処理液から取り出し、表面を洗浄、乾燥した。
【0075】
以上のようにして、作成した処理レンズの表面を皮革製のポリッシャーを使用してソフトな研磨を行い、レンズ表面の平滑化し、さらに中性洗剤で洗浄し、乾燥させ、レンズの表面処理を終了した。
こうして得られた無機親水性硬質層における酸化チタンは、実質的に光触媒活性は示さなかった。
【0076】
このように表面処理したレンズ基材を高湿度環境に設置したところ、通常の無コート(未処理)レンズが曇ったのに対し、処理レンズ表面には干渉色を呈する水膜が形成され透明性が保持できた。
この透明性は、メガネレンズとしての仕様条件を満たしており、メガネ用のレンズとして実用上問題なく使用することができた。
【0077】
レンズ表面に形成された薄膜を、蛍光X線分析装置(XRD:日本電子(株)製)により組成分析したところ、表1に示すような組成の化合物であることが判明した。
【0078】
【表1】
【0079】
【実施例6】
6フッ化ケイ素アンモニウム(NH4)2SiF6)3.5g、6フッ化ジルコニウムアンモニウム(NH4)2ZrF6)20gおよび6フッ化チタンアンモニウム((NH4)2TiF6)1.5gを秤量し、これを600mlの純水に40℃で混合溶解した。こうして作成した処理液に酸化ホウ素20gを添加し、処理液全体を強く撹拌して、沈澱物を完全に溶解した。溶解後しばらくすると液全体が白濁しはじめたので、予め用意していた硬質層を設けたプラスチックレンズを浸漬した。
【0080】
処理液を40℃に保った状態で25時間継続した後に浸漬を終了した。
その後、レンズを処理液から取り出し、表面を洗浄、乾燥した。
こうして得られた無機親水性硬質層においては、酸化チタンに起因する光触媒活性は認められなかった。
次に、このようにして作成した処理レンズの表面を皮革製ポリッシャーを用いてレンズ表面を平滑化処理し、さらに界面活性剤を用いて洗浄し、乾燥させ、レンズ表面の処理を終了した。
【0081】
このように表面処理したレンズを高湿度環境中で用いたが、このメガネレンズの透明性は維持され、優れた防曇性を示した。レンズ表面に形成された薄膜を、蛍光X線分析装置(XRD:日本電子(株)製)により組成分析したところ、表2に示すような組成の化合物であることが判明した。
【0082】
【表2】
【0083】
【実施例7】
上記のようにして基材レンズ表面に無機親水性硬質層を形成し、この無機親水性硬質層の表面にある微細な凹部に界面活性剤を充填したメガネレンズを暗室内にそれぞれ1週間、2週間、1ヶ月間、3ヶ月間、放置した後、このメガネレンズを暗室内から取り出し、防曇効果を発現するかどうかを図3に示した高湿チェンバーにより確認した。なお、ここで使用したレンズの表面に形成された薄膜について実施例5と同様にしてその成分組成を測定した。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
暗室内から取り出したレンズを図3に示すチェンバーに設置し、サンプルごとに、光量測定装置による測定を実施した。
その結果、いずれのサンプルも高い透過光量を示し、曇りに起因する光量低下は観察されなかった。
従って、本発明による防曇効果は、光触媒によって生ずる超親水性に基づくものではないことが判明した。すなわち、光触媒によって超親水性が生ずるのであれば、放置時間に応じて透過光量の変化が生じるが、この実施例においては、放置時間に応じて透過光量は変化しなかった。
【0086】
【表4】
【0087】
上記表4に示した光の透過量から明らかなように、この本発明のメガネレンズは、暗室に保管してあり紫外線および可視光線に晒されていないにもかかわらず、良好な防曇作用を示し、メガネレンズ表面に付着した水分は、薄水膜層を形成した。従って、本発明のレンズ用無機親水性硬質層形成材料を用いたレンズ表面の無機親水性硬質層の形成には、紫外線および可視光線は関与していない。
【0088】
【実施例8】
6フッ化ケイ素アンモニウム2g、6フッ化ジルコニウムアンモニウム10gおよび6フッ化チタンアンモニウム1gを純水600ml中に溶解させ、混合撹拌した。混合撹拌が充分行われた後、酸化ホウ素を20g添加し、撹拌混合しながら完全に溶解した。この段階では処理液は無色透明の状態であった。
さらに、その後、この溶液に、硬質層を設けた径70mmのマルチコートプラスチックレンズ基材を浸漬し、処理液を40℃に保って24時間放置した。
【0089】
処理液は、5〜6時間を超えたあたりから白濁し始め、析出反応が徐々に進行し始めた。
24時間経過後、レンズ基材を処理液の中から取り出し、簡単に純水によって洗浄した後、さらに予め作成しておいた6フッ化ケイ素アンモニウム4g、6フッ化ジルコニウムアンモニウム2gおよび6フッ化チタンアンモニウム30gを純水600ml中に混合溶解し、さらに酸化ホウ素30gを添加し、完全に溶解した処理液中に、再度浸漬した。浸漬は、処理液温度を40℃に保ち、約10時間放置することで行った。
【0090】
10時間経過後、レンズ基材を取り出し、ぬるま湯で軽く洗浄後、乾燥させた。
こうして得られた無機親水性硬質層には酸化チタンに起因する光触媒活性は認められなかった。
このレンズは、乾燥後、表面をセム皮でポリッシュして、純水中に浸漬したところ、高い親水性を示した。
【0091】
さらに、このレンズの表面にジオクチルスルフォサクシネート系化合物を主成分とする43重量%界面活性剤を薄くコートしたところ、2〜3週間経過後も防曇効果が維持され、高湿度環境下でレンズ表面に劣化の兆候として現れるスクラッチ様痕は、ほとんど形成されなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明のレンズに形成される親水性部における金属化合物の組成の例を示す組成図である。
【図2】 図2は、本発明のレンズを製造する際に使用されるフッ化金属塩の好適な使用量の例を示す組成図である。
【図3】 図3は、本発明の実施例7で行った防曇試験に用いた装置を模式的に示す図である。
Claims (6)
- 基材レンズと、該基材レンズ最表面に、平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層とを有し、該無機親水性硬質層が、フッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより該無機親水性硬質層における酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有することにより酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して酸化チタンの光触媒活性が実質的に発現しないように形成された酸化チタンを含有する金属酸化物からなり、該無機親水性硬質層には、平均厚さの5%以上の深さを有する微細な凹部が形成されており、該微細な凹部に、界面活性剤が含有されていることを特徴とするメガネレンズ。
- 前記無機親水性硬質層が、少なくとも、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンを含有する金属酸化物から形成されており、該無機親水性硬質層における酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ケイ素が0.1〜99.8モル%、酸化チタンが0.1〜60.0モル%、 酸化ジルコニウムが0.1〜99.8モル%の量で含有されていることを特徴とする請求項第1項記載のメガネレンズ。
- 前記無機親水性硬質層の平均厚さが、500Å〜0.3μmの範囲内にあるとともに、該無機親水性硬質層に形成されている微細な凹部の表面からの平均深さが、該無機親水性硬質層の平均厚の5〜100%の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載のメガネレンズ。
- 水性媒体溶液に含有されるフッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有させて酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して酸化チタンの光触媒活性が実質的に発現しないようにされた酸化チタンを含有する金属酸化物、および表面に、平均厚さの5%以上の深さを有する微細な凹部が形成されるように、フッ化金属塩を含有する水性媒体溶液から金属酸化物を基材レンズ最表面に析出させて平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層を形成した後、基材レンズ表面に形成された無機親水性硬質層を界面活性剤の存在下にソフト研磨して、該無機親水性硬質層全体から見て特に突出した凸部を研削して該レンズの表面を均質化すると共に、該微細な凹部に界面活性剤を含有させることを特徴とするメガネレンズの製造方法。
- 前記無機親水性硬質層を形成するフッ化金属塩が、該フッ化金属塩である6フッ化ケイ素アンモニウムと6フッ化チタンアンモニウムと6フッ化ジルコニウムアンモニウムとの合計100モル%中に、6フッ化ケイ素アンモニウムを0.1〜99.8モル%の範囲内の量、6フッ化チタンアンモニウムを0.1〜40.0 モル%の範囲内の量、6フッ化ジルコニウムアンモニウムを0.1〜99.8モル%の範囲内の量で含有することを特徴とする請求項第4項記載のメガネレンズ の製造方法。
- フッ化金属塩中のフッ素原子の少なくとも一部を捕捉することにより、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよび酸化チタンの合計量100モル%中に、酸化ジルコニウムを0.1〜99.8モル%の量で含有させて酸化チタンの有する光触媒活性を抑制して、該酸化チタンの有する光触媒活性が実質的に発現しないようにされた酸化チタンを含有する金属酸化物からなり、かつ表面に、平均厚さの5%以上の深さを有する微細凹部が形成されるように、フッ化金属塩を含有する水性媒体溶液から金属酸化物を基材レンズ表面に析出させて平均厚さが、10Å〜0.5μmの範囲内にある無機親水性硬質層を形成する無機親水性硬質層形成材料であり、
該無機親水性硬質層形成材料が、フッ化金属塩である6フッ化ケイ素アンモニウムと6フッ化チタンアンモニウムと6フッ化ジルコニウムアンモニウムとの合計100モル%中に、6フッ化ケイ素アンモニウムを0.1〜99.8モル%の範囲内の量、6フッ化チタンアンモニウムを0.1〜40.0モル%の範囲内の量、6フッ化ジルコニウムアンモニウムを0.1〜99.8モル%の範囲内の量で含有することを特徴とする無機親水性硬質層形成材料。
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