JP4128638B2 - 電解方法及び電解装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電解により発生する水素を使用し、水素添加反応や水素還元反応など活性な水素が関与する反応を連続的に行わせる電解方法及び電解装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
活性な水素が関与する水素反応、例えば有機物の水素化(水素添加)反応などは種々の化学分野で利用され、例えば石油のクラッキング反応では重質油からガソリンや灯油を得ている。またタール分を液状にしてより合目的的な使用条件に適合させるなどの反応が実際に行われている。また不飽和炭化水素を飽和炭化水素に転化することも行われている。
【0003】
一部の水素化反応などはしばしば均一系で進行させる。例えば接触触媒の存在の下、有機物に水素を添加する。パラジウムなどの貴金属は、不飽和有機化合物の水添反応に対する優れた触媒であることが知られている(S.Siegel, in Comprehensive Organic Synthesis, ed., B.M. Trost and I. Fleming, Pergamon Press, Oxford, 1991, vol. 8)。このような反応では高圧反応容器が必要なこと、また通常は比較的高い温度を必要とし、水素添加に使用する水素ガスの純度によっては爆発の危険性があることなどの問題点があった。また使用する触媒は、反応選択性が十分でないために副反応物を引き起こすという問題もあった。
【0004】
反応選択性を高め、しかもエネルギー消費を減少させるために不均一系反応である電解還元法が採られることがある[▲1▼ A. M. Couper, D. Pletcher and F. C. Walsh, Chem. Rev., 1990, 90, 837, ▲2▼ T. Nonaka, M. Takahashi and T. Fuchigami, Bull. Chem. Soc. Jpn., 183 56, 2584. ▲3▼ M. A. Casadei and D. Pletcher, Electrochim. Acta, 33, 117 (1988), ▲4▼ T. Yamada, T. Osa and T. Matsue, Chem. Lette., 1989 (1987), ▲5▼ L. Coche, B. Ehui, and J. C. Moutet, J. Org. Chem., 55, 5905 (1990), ▲6▼ J. C. Moutet, Y. Ouennoughi, A. Ourari and S. Hamar-Thibault, Electrochim. Acta, 40,1827(1995)]。ラネーニッケルなどの大表面積を有する電極触媒では、電気化学的に水素添加反応を行うことが可能であり、良好な電力効率が期待できるとともに、操作が安全かつ容易になるという特徴がある。しかし電解を行うためには、被処理物である有機物自身が導電性であるか、そうでない場合は添加物を加えて電解液を導電性にする必要があった。
水素化反応にはこのように均一系と不均一系とがある。そのいずれの場合でも、触媒上に生成した原子状水素には反応を促進するという機能があることが知られている。
【0005】
安全でしかも高い効率で水素化反応を行う他の方法の一つとして、パラジウムやその他の水素吸蔵金属に水素を保持させ、水素化しようとする反応物をこれに接触させる方法が知られている。パラジウムや水素吸蔵合金の多くは、こうした反応で触媒作用も有するため、よい性能を示すと言われている。しかしながらこの方法では、水素吸蔵金属合金やパラジウム中の吸蔵水素を一部の少量の反応物との反応で使い切ってしまえば、残りがなお未反応のまま残っていてもそれ以上に反応は進まなくなる。いわゆるバッチ式にしか作業ができないという問題がある。こうした方法は、実験室的にはよいが、工業的には極めて非能率になるという問題があった。
【0006】
このような問題点を解決するため、本発明者等は次のような方法並びに装置を提案している。すなわち、板状の水素吸蔵金属の一方の面を陰極として電解液中で電解を行い、水素を発生させる。その陰極である一方の面から水素を吸蔵させて、内部を拡散させ、他方の面にそれを送り込み、水素化しようとする反応物を該他方の面に接触させ、そこで水添反応または水素による還元反応などを連続的に行う。この方法並びに装置は、工業的に広い範囲で応用でき、水素化物を効率よく得ることができるという優れた効果のあることが分かっている。
【0007】
しかし、こうした反応方法においては、水素化反応はしばしば律速段階となる。本発明者らが鋭意研究したところ、電流密度を上げていって電解水素の発生速度を加速していくと、遅くない時期にその速度は水素化反応で可能な最高速度を上回る。水素は余剰になっても吸蔵金属はその相当量を吸収し続け、かつ保持する。したがって発生水素が無駄になることは少ない。しかしそれにも限界がある。一定以上に電流密度を上げればその分で電流効率は下がる。すなわち、水素化物の生産効率を一定値以上に高めることはできないという問題のあることを、本発明者らは研究の結果発見した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、叙上の問題点を解決するためになされたものであり、電解速度を高めて水素の発生速度を高めれば、水素反応室でもそれに見合う水素反応速度を得ることができ、水素を発生させる電解電流との関係で電流効率を常に高い値で保つことができる電解方法及び装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以下の手段により上記の課題を解決した。
(1)水素吸蔵金属部材で電解室と反応室とを区画し、前記電解室で前記水素吸蔵金属部材の片面を陰極として陽極との間で電解液の電解を行い、電解で発生した水素を前記水素吸蔵金属部材中に吸蔵させ、前記反応室の前記水素吸蔵金属部材の反対面において連続して吸蔵水素と被処理物とを接触反応させて水素添加又は吸蔵水素による還元反応を行わせる電解方法において、該水素吸蔵金属部材の接触反応面に、前記水素吸蔵金属部材に該水素反応触媒成分を含む無電解メッキ液を接触させ、前記水素吸蔵金属部材に吸蔵された水素により無電解メッキして形成した多孔質触媒層を設けた電解装置を使用することを特徴とする電解方法。
(2)電解室と反応室とを水素吸蔵金属部材により区画し、前記電解室に電解液を収容し、前記電解室内の前記水素吸蔵金属部材を陰極とし、これに対向して陽極を設けてなる電解装置において、反応室内の前記水素吸蔵金属部材の反応化合物と接触している面の少なくとも一部には、水素反応に関与する触媒の多孔質層を、前記水素吸蔵金属部材に該触媒成分を含む無電解メッキ液を接触させ、前記水素吸蔵金属部材に吸蔵された水素により無電解メッキして形成したものであることを特徴とする電解装置。
【0010】
(3)前記水素吸蔵金属はパラジウムまたはパラジウム合金であり、多孔質の前記触媒層は白金族金属黒又は金であって、その触媒が関与する水素反応は不飽和炭化水素に水素添加を行う還元反応であることを特徴とする前記(2)記載の電解装置。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明で水素反応とは、活性な水素を関与させる反応であって、例えば水素化反応、具体的には水素添加反応、水素還元反応などを挙げることができる。メチルスチレンをエチルトルエンに転化する反応、石油のクラッキング反応、重油質からガソリンや灯油を得る反応など多くの例を挙げることができる。
【0012】
図1は、本発明の電解方法に用いる電解セルの断面概略図、図2は本発明の電解方法に用いる本発明の電解装置の一例を示す概略図である。
図1、図2に示す電解セル1は、被反応物を水素化反応するためのものであり、内側はテフロン加工してある。図1に示すように、電解セル1は、薄肉プレート状又は箔状等の水素吸蔵金属板2により、電解室3と水素化反応室4とに区画されている。該水素吸蔵金属板2は、水素化反応室4に面する側の表面に多孔質触媒層10を有する。該電解室3には水酸化カリウム水溶液等が電解液として収容され、前記水素吸蔵金属板2は電源9に接続されて、その電解室側が陰極を構成しており、また前記陰極2と反対側の側面近傍にはプレート状の陽極5が設置されている。陽極5はニッケルを使用しているが、ニッケルでなくてステンレススチールでもよい。6は陽極ガス取出口であって、電解液の供給口を設けてもよい。
反応室4には、被反応物溶液供給口7、還流口8を設け、図1に示すように電解セル1につながる循環タンク11、ローラーポンプ12を設けて、被反応物を循環するようにする。電解セル1と循環タンク11との間はフッ素ゴム製の連通管でつながっている。
【0013】
電解セル1の水素化反応室4中に、スチレン等の有機化合物の有機溶媒溶液をローラーポンプ12により循環タンク11から供給し、かつ電解室3には前述した水酸化カリウム水溶液等の電解液を満たし、陽極5及び水素吸蔵金属板2の陰極との間に電源9を使用して通電すると、電解室3で電解生成する水素が水素吸蔵金属板(陰極)2に吸蔵され、厚さ方向に透過して水素化反応室4側に達し、有機化合物と接触して該有機化合物例えばスチレンを水素化してエチルベンゼンを生成する。その際、水素吸蔵金属板2の水素化反応室4側の表面上の多孔質触媒層10が水素化反応を促進する。
水素化処理された被反応物を含む液は還流口8から前記循環タンク11に循環させる。必要があれば再度電解セル1で水素化処理を行う。
【0014】
水素吸蔵金属板2は導電性であり、電解時に陰極として安定であることが必要である。また水素添加反応などに対して触媒活性があると好ましい。可能であれば水素吸蔵時と放出時の体積変化の小さいこと、また水素の吸蔵と放出を繰り返しても脆化しにくいことなどが要件となる。このような材料として代表的には、白金族金属であるパラジウム並びにパラジウム合金などを挙げることができる。パラジウムは水素の透過能が極めて高いことが知られており、しかも触媒活性があるので最も好ましい金属の一つである。パラジウムに少量の金やアルミニウムを合金化させたものは脆化に強く、多くの場合の使用目的にかなう。ランタン・ニッケル合金やいわゆるミッシュメタルに代表される稀土類を含む合金、そのほか、チタンやジルコニウム合金なども本発明では水素吸蔵金属板として有効である。
【0015】
水素吸蔵金属板の厚さは、水素化反応を能率よく進めようとする観点では通常、十分に薄いことが望ましい。通電して陰極として電解するためには、ある程度の厚さが必要である。通常は0.01〜2ミリ程度が望ましいが、この数値に限定されなければならない理由はない。電解条件にしたがって適宜に決めればよい。水素吸蔵金属板は水素を吸蔵・透過し、しかも給電体でもあることから、工業設備の一部として使用する場合は金属箔で形成し、裏側に金属メッシュなどを張りつけるとよい。
【0016】
本発明においては、この電解装置で使用する水素吸蔵金属部材について、水素化反応を進めるために、その反応室側である接触反応面に多孔質触媒層10を設けたことを特徴とするものである。
すなわち、水素化反応室4の反応化合物と接触している面の少なくとも一部に、多孔質の触媒層10を形成して設けてある。触媒というのは、水素反応、例えばスチレンを水素化してエチルベンゼンに転化するような水素化反応などに関与し、促進する触媒である。多孔質層であることによって、触媒は、水素吸蔵金属板の水素吸脱着機能を損なわず、水素吸蔵金属板表面の吸蔵水素の脱着サイトを残している。
【0017】
水素吸蔵金属板の触媒層に使用する触媒は、水素反応に関与する触媒であって、具体的には例えば白金族金属、その中でもパラジウム、白金、イリジウム、ルテニウムなどを挙げることができ、その他にも貴金属である金や銀、更にニッケル、銅、鉛なども挙げることができる。これ以外の中からでも、触媒を使用しようとする水素反応の種類に応じ、適宜に選択すればよい。選択にあたっては触媒機能のみを有する金属を選んでもよいが、被反応物との接触の可能性を大きくする大表面積を容易に形成できる触媒であることが望ましい。そうした観点では、白金族金属黒又は金、特にパラジウム黒、とりわけ光沢の出ないパラジウム黒が最も好ましい場合が多い。パラジウム黒は大表面積を有し、有機物の水素添加触媒としても極めて優れた能力を有する触媒層を形成するからである。しかもパラジウムはこうした性質の他、水素吸蔵、脱着機能を有しているので好ましい。
【0018】
水素吸蔵金属板に上記の触媒を多孔質層をもって設けるには、例えば次のように行う。触媒金属成分の陽イオンを溶解した無電解メッキ液を調製し、水素を吸蔵させた水素吸蔵金属板をその無電解メッキ液に接触させ、脱着する吸蔵水素で触媒金属成分の陽イオンを必要量還元する。こうすれば還元した触媒成分は、吸蔵水素の脱着サイトを残し、必要にして十分な厚さのメッキ層となって水素吸蔵金属板に付着する。
【0019】
このような手法で触媒層を形成すると、水素吸蔵金属板から脱着して水素反応例えば水素化反応に関与する活性な水素は、触媒の近傍から供給されるような構造が得られる。そのため、他の方法で作成した触媒層よりも遙かに効率よく、目的の生成物が得られるようになる。
【0020】
無電解メッキ液に特別な制限はない。白金やパラジウムなどを触媒として水素吸蔵金属板にメッキしようとするならば、単に塩酸や硫酸にそのような元素を含む塩を溶解したものでよい。塩濃度としては1〜100g/リットルが好ましく、酸濃度としては1〜100g/リットルが好ましい。例えばHCl:36.5g/リットル、PdCl2 :5g/リットルのような組成にすると光沢でない黒メッキが生じやすくなって好ましい。微量の鉛イオンを溶解させるとパラジウム黒を形成するのに好ましい。
【0021】
上記の方法で触媒層を形成するにあたっては、例えば、図1に示した電解セル1を用いると連続処理が可能になってよい。
水素化反応室4に無電解メッキ液を充填し、電解室3には電解液を満たす。その上で、陽極5と水素吸蔵金属板(陰極)2との間で通電させ、水素吸蔵金属板(陰極)2に水素を発生させる。
【0022】
電解室3に注入する電解水溶液は、電極となる水素吸蔵金属板2と導電板3とを腐食しない性質を有していることが望ましい。例えば水酸化カリウム水溶液等がよい。触媒を設ける水素吸蔵金属板2は、その表面が十分に荒れているとよい。メッキ反応をスムーズに進めるには、水素吸蔵金属板とメッキ液との接触面積が十分大きいとよいからである。メッキする水素化反応室4側の水素吸蔵金属板2の表面は、ブラスト処理を行ったり、エッチング処理を行うことが望ましい。処理程度は特に指定はされないが、ブラスト処理は15〜20メッシュ程度のアルミナグリットを使用するとよい。ブラスト処理をすると実質表面積は2〜3倍程度増加する。
【0023】
メッキに当たって通電する電解電流密度は、水素吸蔵金属板2の表面に水素ガスの発生が認められない程度がよく、具体的には0.1〜10A/dm2 、特に1〜5A/dm2 程度が望ましい。0.1A/dm2 未満の場合、電流密度が低すぎてメッキ処理に時間がかかり過ぎて好ましくない。特に、白金などの水素透過性の無い金属を触媒として設ける場合、電流密度が付着したメッキの密度が緻密になり、水素吸蔵金属板の脱着サイトを塞いで原子状水素によるメッキ反応が抑制されやすくなって好ましくない。10A/dm2 を越えると金属の変形を促進し、また電解セルが放出する水素ガスの量が増大する。メッキ金属のデントライト状の析出が多くなり、メッキ強度も乏しくなって好ましくない。
パラジウムやパラジウム合金などの水素吸蔵金属を水素と接触させると水素吸蔵金属は水素を表面に吸着し、金属内部に吸蔵していく。
【0024】
水素吸蔵金属板2を陰極とし、陽極との間でアルカリ溶液などの電解水溶液を電解室3内で電気分解すると、水素吸蔵金属板(陰極)2上で水素が発生し、そこで原子状水素が発生する。
2 O + e → Had + OH- (1)
発生した原子状水素は、活性水素として電解室3側から水素吸蔵金属板2の表面に吸着し、脱着することなく内奥に吸蔵される。
ad→ Hab (2)
【0025】
なお、Hadは吸着水素、Habは吸蔵水素を表す。水素吸蔵金属板2の内奥に吸蔵された活性水素は、水素吸蔵金属板2内で拡散し、水素化反応室4の内側面で脱着可能な吸着状態になる。
原子状水素が吸着、吸蔵した水素吸蔵金属板2を、陽イオンを含むメッキ液に接触させると陽イオンは原子状水素で還元され、電荷を失った還元体は水素吸蔵金属板2の表面に析出する。原子状水素は水素イオンとなって水素吸蔵金属板2から脱着する。
【0026】
パラジウムを例として表すと次のようになる。
Pd2++2Hab → Pd+2H+ (3)
メッキ金属がパラジウムである場合、それ自身が原子状水素を透過させるため、析出層を厚くすることができる。水素吸蔵能がない白金や金、銅などの金属成分のイオンで水素吸蔵金属をメッキする場合でも、原子状水素を一方の面から他方の面に移動させながら他方の面にメッキを行うと、メッキ金属の析出する厚さは水素元素の移動路で不均一になり、水素吸蔵金属が移動路で部分的に露出する。これによって多孔質でしかも厚みが厚く、実質表面積の非常に広いメッキ層が得られる。水素吸蔵金属への無電解メッキは、電解による水素吸蔵、透過反応を電解室3で行いながら、水素化反応室4で並行させることができる。
白金や金の場合も、そのメカニズムは明らかではないが、パラジウムに近い特性を示す。
【0027】
水素吸蔵金属へいったんある特定の触媒をメッキした上に、更に他の触媒金属をメッキすることもできる。金属板の表面に他の金属層を形成するには、通常は電解メッキ法が採られる。電解メッキ法は水素吸蔵金属表面全体を均質に覆ってしまう可能性があり、本発明では原則として好ましくない。ただし、下層にパラジウム黒などをメッキして表面積を十分に大きくした場合、上層のメッキは電気メッキで行ってもよく、無電解メッキで行ってもよい。
【0028】
電気メッキによりメッキ層を形成する場合には、目的のメッキ液である電解液に前記無電解メッキされた電極を浸漬し、電流を流す。白金を例として化学式を示す。
Pt4++4e → Pt (4)
【0029】
電解による水素発生反応は、電流密度の大きな選択幅の中で適宜に調整できる。また、水素吸蔵金属内へ吸蔵させることができる水素の量は、条件にもよるが、例えばパラジウムなどの場合には極めて大きい。予め金属内に水素の吸蔵がなく、10A/dm2 以上の高い電流密度で電解して水素を発生させた場合、ガスの発生はほとんど認められない。発生した水素のほぼ全量がただちに完全に金属内に吸蔵される。水素吸蔵金属板に一方の面から水素を吸蔵させると、反応側では例えばスチレンの水添反応がこの水素発生速度に見合う速度で進む。しかし一般に水素添加反応や水素による還元反応は、電気化学反応に比べて速度が遅い。本発明は、水素添加反応や還元反応の速度を、水素発生速度に見合う速度に加速させようと鋭意検討し、完成に至ったものである。
【0030】
【実施例】
以下、実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されないことは言うまでもない。
(実施例1)
図2に記載したような電解装置で、水素吸蔵金属であるパラジウム板の表面にパラジウム黒をメッキした。
電解セル1の中央に陰極として厚さ0.1mmのパラジウム板を挟み込み、電解室3にはこの陰極に向かい合わせて陽極として厚さ0.5mmの白金板を装着し、電解液として6Mの苛性カリ水溶液を入れた。陰極板の陰極面積は1cm2 であった。
【0031】
反応室4側に塩化パラジウム水溶液を反応液(メッキ液、ここでは「反応液」という))として入れて、以下の条件で反応室4側に塩化パラジウムの無電解メッキ液を入れ、電解室3に通電してパラジウム板のメッキ室側にパラジウムの無電解メッキを行った。
反応液 : PdCl2 5g/dm3 +HCl 1 mol/dm3
電流密度 : 1A/dm2 (10mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 5C(クーロン)
反応式 : Pd2+ + 2H・ → Pd + 2H+
電流効率30%で、膜厚0.5μmのパラジウム黒が析出した。SEM写真では1μm規模の粒状の析出物が確認され、触媒のメッキが完了した。
【0032】
その後、電解セル1の反応室4に前記の反応液に代えて4−メチルスチレンを導入し、還元反応を行ってみた。導入はフッ素ゴムチューブとローラーポンプを用いて行った。反応室4での反応条件は以下の通りとした。
反応基質 :4−メチルスチレン
温度 :室温
流量 :2.5ミリリットル/min
処理量 :6ミリリットル
電流密度 :5A/dm2 (50mA)
電解時間 :5時間
上記した条件で電解を行い、電流効率30%で4−エチルトルエンが得られた。
【0033】
(比較例1)
パラジウム板にパラジウム黒を析出させなかったこと以外は実施例1と同様にして還元反応を行った。電流効率は約0.1%以下で4−エチルトルエンが得られた。
【0034】
(実施例2)
実施例1と同様の電解セル1を用いて、以下のような条件でパラジウム板にパラジウム黒を析出させた。
反応液 : PdCl2 5g/dm3 +HCl 1 mol/dm3
電流密度 : 1A/dm2 (10mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 36C
【0035】
電流効率30%で、膜厚2.5μmのパラジウム黒が析出した。BET法による比表面積の値を測定したところ、約500m2 /m2 であった。
4−メチルスチレンについて同様の還元反応を行ったところ、電流効率は100%で4−エチルトルエンが得られた。
【0036】
図3は、電解によるパラジウム黒の累積析出量を時間ごとに重量法によって測定した値を示す図である。電流効率は24%である。
図4は、パラジウム黒を析出させた時間がそれぞれ違う水素吸蔵金属を使用し、電流密度は5A/dm2 とし、ガルバノ静電気電解装置で4−エチルトルエンを生成した際におけるその生成累積量と、還元反応時間との関係を示すグラフ図である。図中それぞれ、□はパラジウム黒の析出時間が60分、▲はパラジウム黒の析出時間が40分、△はパラジウム黒の析出時間が20分、●はパラジウム黒の析出時間が10分、○はパラジウム黒の析出時間が0分、の水素吸蔵金属による測定値を示している。
図5はパラジウム黒を析出させた析出時間と4−エチルトルエンの反応効率の関係を示すグラフ図である
【0037】
(実施例3)
実施例1と同様の電解セル1を用いて活性水素による白金黒を析出させた。
反応液 : H2 PtCl6 ・6H2 O 0.1 mol/リットル
電解液 : 6M KOH
電流密度 : 5A/dm2 (50mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 6C
反応式 : PtCl4 2- +2H・ → Pt+4Cl- +2H+
電流効率20%で、膜厚1μmの白金黒が析出した。
この白金黒が析出したパラジウム板を用いて電解し、実施例1と同様に4−メチルスチレンの同様の還元反応を行ったところ、電流効率30%で4−エチルトルエンが得られた。
【0038】
(実施例4)
実施例1と同様の電解セル1を用いて活性水素によるパラジウム黒を析出させた後、その上に重層的に白金黒を生成させた。
パラジウム黒の析出条件
反応液 : PdCl2 5g/dm3 +HCl 1 mol/dm3
電流密度 : 1A/dm2 (10mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 5C
白金黒の析出条件
反応液 : H2 PtCl6 ・6H2 O 0.1 mol/リットル
電流密度 : 5A/dm2 (50mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 6C
反応式 : PtCl4 2- +2H・ → Pt+4Cl- +2H+
【0039】
上記のようにして得たパラジウム板を用いて4−メチルスチレンの同様の還元反応を行ったところ、電流効率80%で4−エチルトルエンが得られた。
白金触媒がパラジウム黒の上で展開された構造であるため、表面積の拡大と触媒活性が相乗されて効果が発現されたと推定される。
【0040】
(実施例5)
実施例1と同様の電解セル1を用いてパラジウム板に活性水素によるパラジウム黒を析出させた後、その上に電気メッキによって重層的に白金黒を析出させた。その際、パラジウム黒を析出させたパラジウム板を電解室3の内側に向けて陰極とし、室内にメッキ液を入れて通電する。
パラジウム黒の析出条件(無電解メッキ)
反応液 : PdCl2 5g/dm3 +HCl 1 mol/dm3
電流密度 : 1A/dm2 (10mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 5C
白金黒の析出条件(電気メッキ)
電解液 : H2 PtCl6 ・6H2 O 0.1 mol/リットル
電流密度 : 5A/dm2 (50mA)
撹拌 : 無し
電気量 : 6C
作製した陰極をその裏面と表面を反対にして、白金黒が析出した面が反応室側にくるように、再び同様のセルに組み、4−メチルスチレンの還元反応を行ったところ、電流効率70%で4−エチルトルエンが得られた。
【0041】
(実施例6)
実施例1で触媒をメッキして作製したメッキ電極を使用し、実施例1で使用した電解セル1の反応室にアセチレンガスを入れ、還元反応を行った。反応条件としては以下の通り。
反応基質:アセチレン
温度 :室温
流量 :2.5ミリリットル/min
処理量 :5 ミリリットル(1atm )
電流密度:5A/dm2 (50mA)
電解時間 5時間
電流効率60%でプロピレン、30%でプロパンが得られた。
【0042】
(比較例2)
パラジウム黒を析出させなかったこと以外は実施例6と同様の還元反応を行ったところ、電流効率40%でプロピレン、5%でプロパンが得られた。
【0043】
【発明の効果】
本発明は、水素吸蔵金属部材を陰極として電解を行って水素を発生させ、その陰極面から水素を吸蔵させて水素吸蔵金属部材の反対の面の少なくとも一部に移動させ、移動先で脱着させて連続して水素反応を行わせる方法及び装置において、該水素吸蔵金属部材の表面には多孔質触媒層を設けたことにより、吸蔵水素が脱着して反応物質との反応をその触媒により促進させることができ、さらに多孔質であることにより、反応物質が水素と接触する面の面積が広くなっているので、反応速度を大きくすることができる。このため、大きな電流密度で電解して高速度で水素を発生させても、水素反応速度はそれに見合うことから、高い電流効率を得ることができる。
本発明は、表面積の大きい水素化反応用電極を有する電解装置を用いることにより、今まで実用的に得られなかった反応物の還元も容易に起こることが確認され、あらたな合成プロセスの開発も容易になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電解方法に用いる電解セルの断面概略図である。
【図2】本発明の電解方法に用いる電解装置の一例を示す概略図である。
【図3】電解に伴うパラジウム黒の累積析出量を示すグラフ図である。
【図4】4−エチルトルエンの生成累積量と、還元反応時間との関係を示すグラフ図である。
【図5】パラジウム黒の析出時間と4−エチルトルエンの反応効率との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 電解セル
2 水素吸蔵金属板(陰極)
3 電解室
4 水素化反応室
5 陽極
6 陽極ガス取出口
7 被反応物溶液供給口
8 還流口
9 電源
10 多孔質触媒層
11 循環タンク
12 ローラーポンプ

Claims (3)

  1. 水素吸蔵金属部材で電解室と反応室とを区画し、前記電解室で前記水素吸蔵金属部材の片面を陰極として陽極との間で電解液の電解を行い、電解で発生した水素を前記水素吸蔵金属部材中に吸蔵させ、前記反応室の前記水素吸蔵金属部材の反対面において連続して吸蔵水素と被処理物とを接触反応させて水素添加又は吸蔵水素による還元反応を行わせる電解方法において、該水素吸蔵金属部材の接触反応面に、前記水素吸蔵金属部材に該水素反応触媒成分を含む無電解メッキ液を接触させ、前記水素吸蔵金属部材に吸蔵された水素により無電解メッキして形成した多孔質触媒層を設けた電解装置を使用することを特徴とする電解方法。
  2. 電解室と反応室とを水素吸蔵金属部材により区画し、前記電解室に電解液を収容し、前記電解室内の前記水素吸蔵金属部材を陰極とし、これに対向して陽極を設けてなる電解装置において、反応室内の前記水素吸蔵金属部材の反応化合物と接触している面の少なくとも一部には、水素反応に関与する触媒の多孔質層を、前記水素吸蔵金属部材に該触媒成分を含む無電解メッキ液を接触させ、前記水素吸蔵金属部材に吸蔵された水素により無電解メッキして形成したものであることを特徴とする電解装置。
  3. 前記水素吸蔵金属はパラジウムまたはパラジウム合金であり、多孔質の前記触媒層は白金族金属黒又は金であって、その触媒が関与する水素反応は不飽和炭化水素に水素添加を行う還元反応であることを特徴とする請求項2記載の電解装置。
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