JP4121864B2 - 窒化シリコン膜、素子用の保護膜、エレクトロルミネッセンス装置およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化シリコン膜、素子用の保護膜、その保護膜を備えたエレクトロルミネッセンス装置およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、情報機器の多様化に伴い、一般に使用されているCRT(陰極線管)に比べて消費電力が少ない平面表示素子に対するニーズが高まってきている。このような平面表示素子の1つとして、高効率、薄型、軽量、低視野角依存性等の特徴を有するエレクトロルミネッセンス(以下、ELと略記する)素子が注目され、このEL素子を用いたディスプレイの研究開発が活発に行われている。このようなEL素子には、無機材料からなる発光層を有する無機EL素子と、有機材料からなる発光層を有する有機EL素子とがある。
【0003】
無機EL素子は、一般に発光部に高電界を作用させ、電子をこの高電界中で加速して発光中心に衝突させることにより、発光中心を励起させて発光させる自発光型の素子である。
【0004】
一方、有機EL素子は、電子注入電極とホール注入電極とからそれぞれ電子とホールとを発光部内へ注入し、注入された電子およびホールを発光中心で再結合させて有機分子を励起状態にし、この有機分子が励起状態から基底状態へと戻るときに蛍光を発生する自発光型の素子である。この有機EL素子は、発光材料である蛍光物質を選択することにより発光色を変化させることができ、マルチカラー、フルカラー等の表示装置への応用に対する期待が高まっている。
【0005】
有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と略記する)は、複数の有機EL素子を含み、各有機EL素子が画素を構成する。特に、各画素ごとにTFT(薄膜トランジスタ)をスイッチング素子として備えるアクティブ・マトリクス型有機EL装置は、各画素ごとに表示データを保持できるため、大画面化および高精細化が可能であり、次世代平面表示装置の主役として考えられている。
【0006】
通常の有機EL素子では、ガラス基板上に透明導電膜からなるホール注入電極、有機材料からなる発光層および電子注入電極を順に備える。それにより、発光層において発生された光が透明導電膜からなるホール注入電極を透過してガラス基板の裏面側から外部に取り出される。
【0007】
これに対して、各有機EL素子の上部の電子注入電極を透明導電膜を用いて形成することにより発光層において発生された光を上面側から取り出す構造が提案されている(例えば、特許文献1または2参照)。発光層において発生された光を上面側から取り出す構造をトップエミッション構造と呼ぶ。
【0008】
トップエミッション構造の有機EL装置では、カラーフィルタまたは色変換層を上部の電子注入電極上に配置することができるため、製造が容易になる。また、アクティブ・マトリクス型トップエミッション構造の有機EL装置では、発光層において発生された光がガラス基板上の複数のTFTにより妨げられることなく外部に取り出される。したがって、画素の開口率(発光部の面積が画素中に占める割合)が向上する。
【0009】
【特許文献1】
特開2001−43980号
【特許文献2】
特開2001−230086号
【非特許文献1】
OPTRONICS (2001) No.3,第122頁〜第126頁
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
通常の有機EL装置では、ガラス基板上に形成された複数の有機EL素子が中空のガラスまたは金属からなる中空のカンにより封止する構造が採用されている。それにより、ガラス、金属等の無機材料の持つ優れたガスバリア性により有機EL素子内部への酸素および水分の浸入を阻止することができる。
【0011】
しかしながら、上記のトップエミッション構造の有機EL装置においては、複数の有機EL素子の上面側に中空のガラスからなる中空のカンを被せると、画像が多重に見える現象が生じる。そのため、トップエミッション構造の有機EL装置では、複数の有機EL素子を平板で密封封止する必要がある。
【0012】
また、プラズマCVD法(化学的気相成長法)により形成される窒化シリコン膜を有機EL素子の保護膜として用いることが提案されている(非特許文献1参照)。しかしながら、プラズマCVD法により形成される窒化シリコン膜においても、十分な低透湿度特性(低い水蒸気透過率)および高光透過特性(高い光透過率)を確保するまでには至っていない。
【0013】
また、半導体素子の保護膜として窒化シリコン膜が用いられることがある。このような窒化シリコン膜をスパッタ法を用いて形成する場合には、一般に、窒化シリコンからなるターゲットをAr(アルゴン)ガスでスパッタすることにより、素子の表面に窒化シリコン膜を形成する。しかしながら、従来のスパッタ法により形成される窒化シリコン膜においても、十分な低透湿度特性および高光透過特性を確保することができない。
【0014】
本発明の目的は、十分な低透湿度特性および高光透過特性が確保された窒化シリコン膜、素子用の保護膜、その保護膜を備えたエレクトロルミネッセンス装置およびそれらの製造方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の本発明に係る窒化シリコン膜の製造方法は、Si3N4をターゲットとして用い、N2 を99.9%以上含むスパッタガスによりターゲットをスパッタすることにより窒化シリコン膜を形成するものである。
【0016】
本発明に係る窒化シリコン膜の製造方法によれば、化学量論的組成を有するSi3N4からなるターゲットを、N2を99.99%以上含むスパッタガスによりスパッタすることにより、窒化シリコン膜中に残留原子に起因する低密度部分が形成されない。それにより、低密度部分での不要な光吸収が防止されるとともに、低密度部分が水分の浸透経路となることが防止される。その結果、低透湿度特性および高光透過特性を有する窒化シリコン膜を得ることができる。
【0017】
本発明に係る窒化シリコン膜の製造方法によれば、JIS K7129−Bで規定された測定方法を用い、厚さ1000Åとして40℃90%RHで測定された窒化シリコン膜の水蒸気透過率が0.02g/m2・日以下となる。また、波長500nmの光について厚さ1000Å当りの窒化シリコン膜の透過率が85%以上となる。
【0018】
スパッタの際に磁場を印加してもよい。また、スパッタの際に1対のターゲットを対向するように配置してもよい。それにより、窒化シリコン膜へのイオンによる損傷が低減され、高品質の窒化シリコン膜が得られる。
【0019】
第2の発明に係る窒化シリコン膜は、JIS K7129−Bで規定された測定方法を用い、厚さ1000Åとして40℃90%RHで測定された水蒸気透過率が0.02g/m2・日以下であることを特徴とする。
【0020】
このような低透湿度特性を有する窒化シリコン膜は、耐湿用の保護膜として各種素子に用いることができる。
【0021】
第3の発明に係る窒化シリコン膜は、波長500nmの光について厚さ1000Å当りの透過率が85%以上であることを特徴とする。
【0022】
このような高光透過特性を有する窒化シリコン膜は、高い光透過性の保護膜として各種発光素子または受光素子に用いることができる。
【0023】
第4の発明に係る素子用の保護膜の製造方法は、Si3N4をターゲットとして用い、N2 を99.9%以上含むスパッタガスによりターゲットをスパッタすることにより素子の表面に保護膜として窒化シリコン膜を形成するものである。
【0024】
本発明に係る素子用の保護膜の製造方法によれば、残留原子に起因する低密度部分を有さない窒化シリコン膜を素子の表面に保護膜として形成することができる。その保護膜は、低透湿度特性および高光透過特性を有するので、素子の信頼性および光学特性が向上する。
【0025】
第5の発明に係るエレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、第1の電極、発光層および第2の電極を順に備える1または複数のエレクトロルミネッセンス素子を含むエレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、Si3N4をターゲットとして用い、N2 を99.9%以上含むスパッタガスによりターゲットをスパッタすることにより1または複数のエレクトロルミネッセンス素子の表面に保護膜として窒化シリコン膜を形成するものである。
【0026】
本発明に係るエレクトロルミネッセンス装置の製造方法によれば、残留原子に起因する低密度部分を有さない窒化シリコン膜を1または複数のエレクトロルミネッセンス素子の表面に保護膜として形成することができる。それにより、低密度部分での不要な光吸収が防止されるとともに、低密度部分が水分の浸透経路となることが防止される。その結果、エレクトロルミネッセンス装置の信頼性および輝度が向上する。
【0027】
第6の発明に係るエレクトロルミネッセンス装置は、第1の電極、発光層および第2の電極を順に備える1または複数のエレクトロルミネッセンス素子と、1または複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を被覆する保護膜とを備え、保護膜は、JIS K7129−Bで規定された測定方法を用い、厚さ1000Åとして40℃90%RHで測定された水蒸気透過率が0.02g/m2・日以下である窒化シリコン膜からなるものである。
【0028】
本発明に係るエレクトロルミネッセンス装置においては、エレクトロルミネッセンス素子の表面に十分な低透湿度特性を有する保護膜が形成されているので、エレクトロルミネッセンス素子の内部への水分の浸入が確実に防止される。それにより、エレクトロルミネッセンス装置の信頼性が向上する。
【0029】
第7の発明に係るエレクトロルミネッセンス装置は、第1の電極、発光層および第2の電極を順に備える1または複数のエレクトロルミネッセンス素子と、1または複数のエレクトロルミネッセンス素子を被覆する保護膜とを備え、保護膜は、波長500nmの光について厚さ1000Å当りの透過率が85%以上である窒化シリコン膜からなるものである。
【0030】
本発明に係るエレクトロルミネッセンス装置においては、エレクトロルミネッセンス素子の表面に十分な高光透過特性を有する保護膜が形成されているので、発光層において発生された光を外部に十分に取り出すことができる。それにより、エレクトロルミネッセンス装置の輝度が向上する。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造方法を説明する。
【0032】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造に用いるRF(高周波)マグネトロン型スパッタ装置の概略図である。
【0033】
図1において、チャンバ(成膜室)内に基板100とSi3N4により形成されたターゲット101とが対向するように配置される。チャンバ内を10-3Pa以下の真空に排気する。チャンバ内にスパッタガスとしてN2 ガスのみを導入し、チャンバ内の圧力を1Pa程度に調整する。N2ガスの純度は、例えば99.99%である。チャンバ内に導入するN2 ガスの流量は、例えば毎分20ccとする。
【0034】
この場合、N2ガス以外のガスはチャンバ内に意図的には導入しないので、チャンバ内に残存するN2ガス以外のガスは、0.1%を超えない。したがって、チャンバ内のスパッタガスは99.9%以上のN2ガスを含む。
【0035】
この状態で、基板100とターゲット101との間に例えば13.56MHzの高周波電力を印加するとともにマグネトロンによる磁場を印加することによりN2ガスでSi3N4からなるターゲット101をスパッタする。それにより、基板100上に窒化シリコン膜が堆積する。投入電力は例えば200Wである。また、スパッタ速度は、例えば毎秒1Åである。
【0036】
このようにして形成された窒化シリコン膜中に残留するAr、He、Xe等の希ガス元素の量は、例えば二次イオン質量分析(SIMS)による検出限界以下となる。
【0037】
このように、本実施の形態に係る製造方法により形成された窒化シリコン膜にはAr等の残留原子が存在しないので、残留原子に起因する低密度部分が形成されない。それにより、低密度部分による不要な光吸収および水分の浸透経路の形成が抑制される。その結果、40℃90%RHでの水蒸気透過率は、JIS K7129−Bで規定された測定方法により厚さ1000Åとして測定した場合、0.02g/m2・日以下となる。また、波長500nmの光に対する厚さ1000Å当りの窒化シリコン膜の透過率は85%以上となる。
【0038】
このように、十分な低透湿度特性および高光透過特性が確保された窒化シリコン膜を得ることができる。
【0039】
図2は本発明の第2の実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造に用いる対向ターゲット型スパッタ装置の概略図である。
【0040】
図2において、チャンバ内に基板100が設置され、基板100の上方にSi3N4により形成された1対のターゲット101が互いに対向するように配置される。ターゲット101の裏面には、図示しないが、一方のターゲット101がN極になり、もう一方のターゲット101がS極になるように、マグネットが配置されている。チャンバ内を10-3Pa以下の真空に排気する。チャンバ内にスパッタガスとしてN2 ガスのみを導入し、チャンバ内の圧力を1Pa程度に調整する。N2ガスの純度は、例えば99.99%である。チャンバ内に導入するN2 ガスの流量は、例えば毎分20ccとする。
【0041】
この場合にも、N2ガス以外のガスはチャンバ内に意図的には導入しないので、チャンバ内に残存するN2ガス以外のガスは、0.1%を超えない。したがって、チャンバ内のスパッタガスは99.9%以上のN2ガスを含む。
【0042】
この状態で、1対のターゲット101の間に例えば1kWの直流電力を印加することによりN2ガスでSi3N4からなるターゲット101をスパッタする。それにより、基板100上に窒化シリコン膜が堆積する。対向ターゲット型スパッタ装置では、基板100の表面へのイオンによる損傷が軽減される。
【0043】
第2の実施の形態に係る方法においても、第1の実施の形態と同様に、十分な低透湿度特性および高光透過特性が確保された窒化シリコン膜を得ることができる。
【0044】
図3は本発明の第3の実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造に用いるECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタ装置の概略図である。
【0045】
図3において、チャンバ内に、マイクロ波電源104およびコイル103を備えたイオン源102が設けられている。イオン源102のイオン発生部にSi3N4により形成された円筒状ターゲットの101が配置される。イオン源102に対向する基板支持部105に基板100が取り付けられる。
【0046】
チャンバ内を10-3Pa以下の真空に排気する。チャンバ内にスパッタガスとしてN2 ガスのみを導入し、チャンバ内の圧力を1Pa程度に調整する。N2ガスの純度は、例えば99.99%である。チャンバ内に導入するN2 ガスの流量は、例えば毎分20ccとする。
【0047】
この場合にも、N2ガス以外のガスはチャンバ内に意図的には導入しないので、チャンバ内に残存するN2ガス以外のガスは、0.1%を超えない。したがって、チャンバ内のスパッタガスは99.9%以上のN2ガスを含む。
【0048】
この状態で、イオン源102から供給されるN2ガスでSi3N4からなるターゲット101をスパッタする。マイクロ波電力を2.45GHz、300Wに設定し、コイル磁場をターゲット101付近で875ガウス(Gauss)に設定し、ターゲット101にかけるRFバイアスを13.56MHz、300Wに設定することにより、電子サイクロトロン共鳴が誘発され、基板100上に窒化シリコン膜が堆積する。
【0049】
第3の実施の形態に係る方法においても、第1の実施の形態と同様に、十分な低透湿度特性および高光透過特性が確保された窒化シリコン膜を得ることができる。
【0050】
なお、スパッタ時の投入電力、スパッタ圧力、スパッタ速度等のスパッタ条件は、上記の例に限定されず、他の適切な条件を用いることができる。
【0051】
次に、本発明の実施の形態に係る窒化シリコン膜を用いた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と呼ぶ)について説明する。
【0052】
図4は本発明の実施の形態に係る窒化シリコン膜を用いた有機EL装置の模式的断面図である。
【0053】
図4の有機EL装置は、マトリクス状に配置された複数の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と呼ぶ)により構成される。各有機EL素子が画素を構成する。
【0054】
ここで、互いに直交する3方向をX方向、Y方向およびZ方向とする。X方向およびY方向は、ガラス基板1の表面に平行な方向であり、Z方向はガラス基板1の表面に垂直な方向である。複数の画素はX方向およびY方向に沿って配列される。
【0055】
ガラス基板1上に多結晶シリコン等からなる能動層2が形成され、能動層2上にゲート酸化膜およびゲート電極を有するTFT(薄膜トランジスタ)3が形成されている。また、能動層2上にはAlからなる複数の配線層5a,5b,5cが形成されている。TFT3のドレイン電極は配線層5aに接続され、TFT3のソース電極は配線層5bに接続されている。
【0056】
また、能動層2上のTFT3を除く領域には層間絶縁膜4が形成され、TFT3および層間絶縁膜4を覆うようにポリイミド樹脂等からなる平坦化層7が形成されている。このように、複数のTFT3および平坦化層7を有するガラス基板1をTFT基板8と呼ぶ。
【0057】
TFT基板8の平坦化層7上にAg(銀)等の金属からなるホール注入電極(陽極)9が各画素ごとに形成されている。各ホール注入電極9は配線層5aに接続されている。
【0058】
ホール注入電極9上には、Y方向に沿ってストライプ状に延びる有機層10が形成されている。有機層10は、例えばホール注入層、ホール輸送層、発光層および電子注入層の積層構造からなる。この場合、発光層は電子輸送性を備えている。
【0059】
また、各画素の有機層10間の平坦化層7上にY方向に沿ってストライプ状に延びる絶縁性の画素分離膜11が形成されている。
【0060】
有機層10および画素分離膜11上には、X方向に沿ってストライプ状に延びる透明導電膜からなる電子注入電極(陰極)12が形成されている。電子注入電極12の材料としては、例えばMgAg(マグネシウム銀)等の金属または合金からなる金属薄膜が用いられる。
【0061】
各画素におけるホール注入電極9、有機層10および電子注入電極12が有機EL素子を構成する。
【0062】
このように構成される複数の有機EL素子の表面を被覆するように上記実施の形態に係る製造方法により窒化シリコン膜からなる保護膜20が形成される。
【0063】
保護膜20は、上記のように十分な低透湿度特性および高光透過特性が確保された窒化シリコン膜からなるので、有機EL素子への水分の浸入が十分に阻止されるとともに十分な光量を保護膜20を通して外部に取り出すことができる。
【0064】
次に、図4の有機EL装置の製造方法について説明する。
図4のTFT基板8上にスパッタ法およびフォトリソグラフィにより各画素ごとに複数のホール注入電極9を形成する。
【0065】
次に、TFT基板8上およびホール注入電極9上に感光性のポリイミド樹脂を塗布することによりポリイミド膜を形成した後、露光および現像を行うことによりY方向に沿ってストライプ状に延びる画素分離膜11を形成する。
【0066】
その後、画素分離膜11間のホール注入電極9上に、例えばホール注入層、ホール輸送層および発光層の積層構造からなる有機層10を通電加熱による真空蒸着法を用いて形成する。
【0067】
その後、有機層10上および画素分離膜11上にX方向に沿ってストライプ状に延びる電子注入電極12を通電加熱による真空蒸着法により形成する。
【0068】
ホール注入層は、例えばトリフェニルアミン誘導体からなる。ホール輸送層は、例えばジアミン誘導体からなる。発光層は、例えばアルミニウムキノリノール錯体にキナクリドンをドープしたものからなる。
【0069】
本実施の形態では、ホール注入電極9が第1の電極に相当し、有機層10の発光層が発光層に相当し、電子注入電極12が第2の電極に相当する。
【0070】
なお、有機EL素子の有機層10の材料としては、種々の公知の有機材料を用いることができる。
【0071】
また、有機EL素子の構造は、上記の構造に限定されず、種々の構造を用いることができる。例えば、発光層と電子注入電極との間に電子注入層または電子輸送層を設けてもよい。また、ホール輸送層を設けなくてもよい。
【0072】
上記実施の形態では、TFT基板8上にホール注入電極9、有機層10および電子注入電極12が順に形成されているが、TFT基板8上に電子注入電極、有機層およびホール注入電極が順に形成されてもよい。
【0073】
また、上記実施の形態では、本発明をアクティブ・マトリクス型有機EL装置に適用した場合を説明したが、本発明は、アクティブ型に限定されず、TFTを有さない単純マトリクス型(パッシブ型)の有機EL装置にも同様に適用することができる。
【0074】
なお、本発明に係る製造方法により形成される窒化シリコン膜は、発光部として耐熱性および耐湿性に劣る有機材料を用いた有機EL装置の保護膜として使用することが有用であり、特に、光を上面側から取り出すトップエミッション構造の有機EL装置の保護膜として用いることが有用である。
【0075】
また、本発明に係る製造方法により形成された窒化シリコン膜は、基板の裏面側から光を取り出すバックエミッション構造の有機EL装置の基板側の保護膜としても用いることができる。
【0076】
また、本発明に係る製造方法により形成された窒化シリコン膜は、単一の有機EL素子からなる有機EL装置の保護膜として用いた場合にも有用である。このような単一の有機EL素子からなる有機EL装置は、液晶表示装置用のバックライト等に用いられる。
【0077】
また、本発明に係る製造方法により形成された窒化シリコン膜は、発光部の材料を除いて有機EL装置と同様の構造を有する無機EL装置の保護膜として用いた場合にも有用である。
【0078】
さらに、本発明に係る製造方法により形成された窒化シリコン膜は、液晶表示装置の片面または両面に耐湿用の表面保護膜として用いた場合にも有用である。
【0079】
また、本発明に係る製造方法により形成された窒化シリコン膜は、発光素子、受光素子、トランジスタ等の種々の素子の保護膜として用いた場合にも有用である。
【0080】
【実施例】
(実施例1)
実施例1では、図1のマグネトロン型スパッタ装置を用いて次のスパッタ条件でガラス基板上に膜厚1000Åの窒化シリコン膜を形成し、光の透過率および水蒸気透過率を測定した。実施例1におけるスパッタ条件を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
(比較例1)
比較例1では、図1のマグネトロン型スパッタ装置を用いて次のスパッタ条件でガラス基板上に膜厚1000Åの窒化シリコン膜を形成し、光の透過率および水蒸気透過率を測定した。比較例1におけるスパッタ条件を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
(評価1)
実施例1および比較例1の窒化シリコン膜の光の透過率の波長依存性を測定した。図5は実施例1および比較例1の窒化シリコン膜の光の透過率の波長依存性の測定結果を示す図である。
【0085】
図5に示すように、比較例1の窒化シリコン膜では、波長500nmでの光の透過率が60%程度であった。また、比較例1の窒化シリコン膜では、波長が600nmより短くなると、光の透過率が低下している。これは、比較例1の窒化シリコン膜中にはAr原子が残留し、残留Ar原子に起因する低密度部分により光の吸収が起こるためであると考えられる。
【0086】
これに対して、実施例1の窒化シリコン膜では、波長500nmでの光の透過率が85%程度まで改善された。また、実施例1の窒化シリコン膜では、波長400nm〜800nmの可視光領域で光の透過率が80%〜90%と高くなった。これは、実施例1の窒化シリコン膜中には、残留原子に起因する低密度部分が存在しないためであると考えられる。
【0087】
このように、実施例1の窒化シリコン膜は、比較例1の窒化シリコン膜に比べて高い光の透過率を有する。
【0088】
(評価2)
実施例1の窒化シリコン膜および比較例1の窒化シリコン膜の水蒸気透過率をJIS K7126−Bで規定された測定方法により測定した。
【0089】
図6は実施例1の窒化シリコン膜の40℃90%RHの環境下での水蒸気透過率の測定結果を示す。窒化シリコン膜の膜厚は1000Åである。
【0090】
図6に示すように、実施例1の窒化シリコン膜では、水蒸気透過率が測定限界である0.01g/m2 ・日に近い0.018g/m2 ・日に達した。これは、実施例1の窒化シリコン膜中には、残留原子に起因する低密度部分が存在しないためであると考えられる。
【0091】
一方、比較例1の窒化シリコン膜では、水蒸気透過率が0.1g/m2 ・日程度であった。これは、比較例1の窒化シリコン膜では、残留Ar原子に起因する低密度部分が水分の浸入経路になるためであると考えられる。
【0092】
このように、実施例1の窒化シリコン膜では、比較例1の窒化シリコン膜に比べて水蒸気透過率が大きく改善されている。
【0093】
(実施例2)
実施例2では、ガラス基板上に単体の有機EL素子を作製し、実施例1と同じスパッタ条件で窒化シリコン膜を有機EL素子の表面に形成した。
【0094】
図7は実施例2の有機EL素子の構造を示す模式的断面図である。
図7に示すように、ガラス基板301上に、ホール注入電極302、有機層303および電子注入電極304を順に形成し、有機EL素子を作製した。その後、有機EL素子の表面に図1のマグネトロン型スパッタ装置を用いて窒化シリコン膜305を形成した。
【0095】
本実施例では、ホール注入電極302は膜厚800ÅのAg(銀)からなる。有機層303は、膜厚1000Åのトリフェニルアミン誘導体からなるホール注入層、膜厚200Åのジアミン誘導体からなるホール輸送層および膜厚200Åのアルミニウムキノリノール錯体にキナクリドンをドープした発光層の積層構造を有する。電子注入電極304は、膜厚200ÅのMgAgからなる。
【0096】
ホール注入電極302、有機層303および電子注入電極304は、抵抗加熱ボートを用いた真空蒸着法により形成した。チャンバ内の到達圧力は10-4Pa以下である。窒化シリコン膜305の形成時のスパッタ条件は実施例1の表1に示した条件と同じである。
【0097】
(比較例2)
比較例2では、ガラス基板301上に実施例2と同様の方法で図7の構造を有する有機EL素子を形成し、比較例1の表2と同じ条件で有機EL素子の表面に窒化シリコン膜305を形成した。
【0098】
(評価3)
実施例2および比較例2の有機EL素子において、ホール注入電極302と電子注入電極304との間に5〜10Vの駆動電圧を印加することにより、発光層が100〜300cd/m2 の輝度で発光した。
【0099】
実施例2および比較例2の有機EL素子の高温高湿試験を実施し、初期状態から700時間経過後までの点灯状況を観測した。
【0100】
図8は比較例2の有機EL素子の初期状態および700時間経過後の点灯状況を示す写真であり、(a)は60℃95%RHの環境下での高温高湿試験の結果を示し、(b)は80℃95%RHの環境下での高温高湿試験の結果を示す。また、図9は実施例2の有機EL素子の初期状態および700時間経過後の点灯状況を示す写真であり、(a)は60℃95%RHの環境下での高温高湿試験の結果を示し、(b)は80℃95%RHの環境下での高温高湿試験の結果を示す。なお、実施例2および比較例2の有機EL素子の発光部は3mm角である。
【0101】
比較例2の有機EL素子では、図8(a)に示すように、60℃95%RHの環境下で、700時間経過後にダークスポット(非点灯部)が現われている。また、図8(b)に示すように、80℃95%RHの環境下では、700時間経過後にダークスポットが現われるとともに、水分による周辺部の非点灯領域(いわゆるエッジグロース)の面積が拡大している。
【0102】
一方、図9(a)に示すように、実施例2の有機EL素子では、60℃95%RHの環境下で、700時間経過後もダークスポットが現われず、周辺部の非点灯領域も拡大していない。また、図9(b)に示すように、80℃95%RHの環境下においても、700時間経過後にダークスポットが現われず、かつ周辺部の非点灯領域の面積も拡大していない。
【0103】
表3に実施例2および比較例2の有機EL素子における初期状態の点灯領域の面積に対する時間経過後の非点灯領域の面積の比の算出結果を示す。点灯領域の面積に対する非点灯領域の面積の比は透湿度に対応する。
【0104】
【表3】
【0105】
表3に示すように、比較例2の有機EL素子では、60℃95%RHおよび80℃95%RHの環境下で時間の経過とともに非点灯領域の面積が拡大し、700時間経過後には面積比がそれぞれ3%および25%に達している。これに対して、実施例2の有機EL素子では、700時間経過後も60℃95%RHおよび80℃95%RHの環境下で非点灯領域の面積が0となっている。
【0106】
このように実施例2の有機EL素子では、窒化シリコン膜305に水分による有機層303の劣化が全く生じていないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造に用いるRFマグネトロン型スパッタ装置の概略図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造に用いる対向ターゲット型スパッタ装置の概略図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る窒化シリコン膜の製造に用いるECRスパッタ装置の概略図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る窒化シリコン膜を用いた有機EL装置の模式的断面図である。
【図5】実施例1および比較例1の窒化シリコン膜の光の透過率の波長依存性の測定結果を示す図である。
【図6】実施例1の窒化シリコン膜の40℃90%RHの環境下での水蒸気透過率の測定結果を示す。
【図7】実施例2の有機EL素子の構造を示す模式的断面図である。
【図8】比較例2の有機EL素子の初期状態および700時間経過後の点灯状況を示す写真である。
【図9】実施例2の有機EL素子の初期状態および700時間経過後の点灯状況を示す写真である。
【符号の説明】
100 基板
101 ターゲット
1 ガラス基板
2 能動層
3 TFT
4 層間絶縁膜
5a,5b,5c 配線層
7 平坦化層
8 TFT基板
9 ホール注入電極
10 有機層
11 画素分離膜
12 電子注入電極
20 保護膜
301 ガラス基板
302 ホール注入電極
303 有機層
304 電子注入電極
305 窒化シリコン膜
Claims (2)
- 第1の電極、発光層および第2の電極を順に備える1または複数のエレクトロルミネッセンス素子を含むエレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、Si3N4をターゲットとして用い、N2 を99.9%以上含むスパッタガスにより前記ターゲットをスパッタすることにより前記1または複数のエレクトロルミネッセンス素子の表面に保護膜として窒化シリコン膜を形成することによって、JIS K7129−Bで規定された測定方法を用い、厚さ1000Åとして40℃90%RHで測定された水蒸気透過率が0.02g/m2・日以下であることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
- 第1の電極、発光層および第2の電極を順に備える1または複数のエレクトロルミネッセンス素子と、前記1または複数のエレクトロルミネッセンス素子を被覆する保護膜とを備え、Si3N4をターゲットとして用い、N2 を99.9%以上含むスパッタガスにより前記ターゲットをスパッタすることにより前記1または複数のエレクトロルミネッセンス素子の表面に保護膜として窒化シリコン膜を形成することによって、前記保護膜は、JIS K7129−Bで規定された測定方法を用い、厚さ1000Åとして40℃90%RHで測定された水蒸気透過率が0.02g/m2・日以下である窒化シリコン膜からなることを特徴とするエレクトロルミネッセンス装置。
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