JP4121641B2 - インクジェット捺染用水性インク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、布帛を染色するためのインクジェット捺染用水性インクに関し、更に詳しくは、布帛のインクジェット印写時におけるキャビテーションによる気泡発生を防止し、且つインクの溶解安定性をも向上させ得るインクジェット捺染用水性インクに関する。
【0002】
【従来の技術】
布帛を染色する技術として、近年、インクジェット印写による染色法が脚光を浴びてきている。
インクジェット印写を使った捺染は、ノズルからのインクを噴射する方式であることから、緻密な模様をも付与することができ、しかも規模的に大きな装置を必要としなく、且つ環境を汚さないため極めて利用価値が高い。
しかし、その反面、問題点も多く抱えている。
【0003】
その第1の問題点としてキャビテーションがある。
一般に、キャビテーションとは、温度一定の液体において、圧力低下が起こることによって液中に発生する気泡核の膨張や収縮を示す力学的現象である。
布帛のインクジェット印写装置においては、ステムメタイプのヘッドが主として使用されているが、このタイプのインクジェット印写装置を使用する場合、連続して噴射している状態の時、ヘッド圧力室内でキャビテーションが生じる。
このようなキャビテーションは、発生すると必然的に気泡の発生を伴うため、ノズルのエア詰まりの原因となり極力排除しなければならない。
そのため、従来から種々のキャビテーション対策が試みられてきた。
【0004】
インクジェット印写において、キャビテーション等による気泡発生を抑制する方法としては、インクを減圧下で脱気処理する方法がある。
つまり、前もって、インク中の溶存気体量を出来る限り減少させて印写時の気泡発生を防止する方法である。
しかしこの方法では、ステムメタイプのようなインクジェット印写装置を使って外気とインクが直接接するような開放系の環境で長時間連続噴射する場合、インク中の溶存気体量が経時的に増加して元に戻ってしまう欠点がある。
そのため脱気処理を行ってからの可使時間が限られ、それを防ぐためには、噴射直前に脱気処理を行うことが必要である。
【0005】
しかしインクジェット印写においては、インクの直前の脱気処理は、装置の収納空間や特性を考えると現実的に無理である。
このようなことから、ステムメタイプのヘッドでのインクジェット印写を長時間連続して安定的に行うことはできない。
脱気処理の他の気泡発生対策として、インクを密封容器に保管し、外気と触れさせない方法も考えられるが、容器が限定されることから実用的でない。
【0006】
一方、化学的な方法である、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素アンモニウム等の酸素吸収剤をインクに添加する方法も開発されているが、酸素吸収剤をインクに添加するとインクのpHがアルカリ性や酸性に極端に偏る弊害ある。
そのためインクがへッドを構成している材質に対して腐食性を高める等の悪作用を及ぼす。
結果的にヘッドの寿命が短くなったり、またインクの長期の保存安定性が無くなったり、染料の分解が進んだりして、悪影響が出る。
【0007】
さて、次に、第2の問題点として、インクの溶解安定性が悪いことがある。
溶解安定性とは、インクを保存しておくと沈澱物が析出したり一部の物性例えは粘度が変わったりして経時的な変化が現れることに対する安定性をいう。
この溶解安定性を向上させるものとしては、エチレングリコール類等をインク中に含有させる方法が知られている(特開平9−31379号公報、特開平5−78609号公報、特開平3−100080号公報、特開昭57−57760号公報等参照)。
いずれも染料の種類によって効果はまちまちであり、80℃程度の高温では安定して染料の溶解が可能であっても、常温にまで温度低下した状態での高濃度溶解液は長期間の保存安定性に欠ける。
【0008】
以上、従来から、キャビテーションによる気泡の発生を抑制する方法、又は溶解安定性を向上させる方法はあったが、それら両方を満足させる技術は未だ開発されていない。
インクジェット用インクにおいては、キャビテーションによる気泡発生を抑制できること、水溶性染料の溶解安定性が確実に向上できること、の二つの目的を同時に持ち合わせると極めて有用である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような技術的問題点を背景になされたものである。
すなわち、本発明の目的は、ヘッド圧力室内でのキャビテーションによる気泡の発生を抑制し、且つインクの溶解安定性を確実に向上させることができるインクジェット捺染用水性インクを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の問題点を解決するために鋭意研究した結果、多くの界面活性剤から特殊なものを選ぶことで、問題が解決することを見出し、この知見により本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、(1)、水性染料及び下記一般式(1)で示される界面活性剤とを含むインクジェット捺染用水性インクに存する。
【0012】
【化4】
【0013】
(式中,R1 〜R3 はC2 H5 ,CH2 C6 H5 ,CH2 CH2 C6 H5 ,CH(CH3 )C6 H5 の中からの何れかを表し,
Xは、
【0014】
【化5】
【0015】
または、
【0016】
【化6】
【0017】
を表し、
Mは、K,Na,NH4 ,H及び炭素数5以下のアルキル基,アルカノール基を有するアルキルアミン,アルカノールアミンを表し、nは9〜30の整数を表す。)
【0018】
そして、(2)、前記インクジェット捺染用水性インクに対して、水性染料が1〜30重量%である上記(1)のインクジェット捺染用水性インクに存する。
【0019】
そしてまた、(3)、前記インクジェット捺染用水性インクに対して、界面活性剤が0.1〜15重量%である上記(1)のインクジェット捺染用水性インクに存する。
【0020】
そしてまた、(4)、前記水性染料が、酸性染料である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用水性インクに存する。
【0021】
そしてまた、(5)、前記インクジェット捺染用水性インクに対して、酸性染料が1〜30重量%、界面活性剤が0.1〜15重量%である上記(4)記載のインクジェット捺染用水性インクに存する。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のインクは、ヘッドの圧力室内でのキャビテーションによる気泡発生を抑制する効果があり、またインクジェット印写される常温にてインク中の染料の溶解状態は変化せず、粘度も低く安定し、加えるに表面張力、pH、電気伝導度等の物性変化もない。
従って、長時間連続してインクジェット印写することが可能となる。
本発明の上記一般式(1)で表される界面活性剤は、公知の方法、例えば、特公昭46ー27791号公報、特開平7ー22863号公報に開示される方法やそれに準ずる方法にて製造される。
【0023】
本発明のインク、すわなわちインクジェット捺染用水性インクは、上記一般式(1)で示される界面活性剤から選ばれた単独あるいは2種以上の組み合わせで使用される。
本発明のインクジェット捺染用水性インクに対する界面活性剤の含有量は0.1〜15重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。
界面活性剤が0.1重量%より少ないと目的のキャビテーション防止効果や長期保存効果が十分得られず、15重量%より多いと染料の布帛への浸透が大きくなり滲みや裏抜け等の欠点が多くなる。
【0024】
本発明のインクジェット捺染用水性インクに対する水性染料の含有量は、0.01〜40重量%、望ましくは0.01〜30重量%、更に望ましくは0.01〜20重量%である。
水性染料が0.01重量%より少ないと溶解安定性の問題が起こりにくく、40重量%より多くなると、染料の溶解限度を越えインクそのものの調製が困難となる。
本発明で使用される水溶性染料は、特に特定されるものではなく、公知の反応染料、酸性染料、1:1型金属錯塩染料、1:2型金属錯塩染料、直接染料等いずれも使用できるが、酸性染料が特に好ましい。
【0025】
そして、反応染料色素別としては、ピラゾロンアゾ系、ベンゼンアゾ系、ナフタレンアゾ系、ピリドンアゾ系、J酸アゾ系、H酸アゾ系、K酸アゾ系、アントラキノン系、金属錯塩型モノアゾ系、ホルマザン系、フタロシアニン系、ジスアゾ系、アジン系、ジオキサジン系等が、また反応染料反応期別としては、ビニルスルホン型、ジクロロトリアジン型、モノクロロトリアジン型、モノフロロトリアジン型、トリクロロピリミジン型、ビニルスルホン+モノクロロトリアジン型等が挙げられる。
【0026】
酸性染料色素別としては、ベンゼンアゾやピラゾロンアゾといったモノアゾ系、キニザリンやブロマミンといったといったアントラキノン系の他に、ポリアゾ系、トリアリルメタン系、キサンテン系、ニトロ系が挙げられる。
その他に、クロム染料、塩基性染料、蛍光染料等も使用できる。
以上の水溶性染料は単独、あるいは2種以上の組み合わせで使用できる。
【0027】
インクジェット捺染用水性インクに対する添加剤として、必要に応じて、湿潤剤、pH調整剤、キレート剤、電気伝導度調整剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等が添加される。
通常、添加剤の含有量は、0.1重量%〜10重量%程度である。
【0028】
湿潤剤としては、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、トリメチロ−ルエタン、トリメチロ−ルプロパン、カプロラクタム、尿素等の他にペントース、ヘキトース等の単糖類、二糖類、三糖類といった多糖類、あるいはこれらの誘導体である糖アルコール、デキオシ酸といった還元誘導体、アルドン酸、ウロン酸といった酸化誘導体、脱水誘導体、アミノ酸、チオ糖類等の固体湿潤剤とエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の高沸点低揮発性の多価アルコール化合物等の液体湿潤剤が挙げられる。
【0029】
pH調整剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素カリウム等の無機塩基、酒石酸、乳酸、フタル酸、酢酸、ギ酸等の有機酸や硫酸、ショウ酸等の鉱酸が挙げられる。
【0030】
防腐剤としては、O−フェニルフェノールナトリウム、ホルマリン、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、Na−2−ピリジンチオール−1−オキシド、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−s−トリアジン、テトラクロルイソフタロニトリル、Zn−2−ピリジンチオール−1−オキシドの他に、5−クロル−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−オクチル−4−イソチアゾ−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン等のイソチアゾリン系化合物等が挙げられる。
【0031】
キレート剤としては、EDTA、アクリル酸系化合物、ポリカルボン酸系化合物、リン系化合物等が挙げられる。
【0032】
本発明のインクジェット捺染用水性インクは、上記の水性染料及び上記一般式(1)で示される界面活性剤とを混合させ、通常、60℃以上の純水を添加し30分間攪拌した後、25℃(室温)まで冷却しその水溶液を濾過することにより得られる。
本発明のインクを使ったインクジェット印写装置で使用されるステムメタイプのヘッドは、既に周知のもであり、図1に示すような(インク供給路Aからインク溜まりB、圧力室Cにインクを満たし、圧電素子Dに任意の電力を加え振動板Eを変形させ、圧力室Cの体積を縮小させ加圧することによって、ノズルFからインクを飛翔させるもの)である。
因みに、上記ヘッドにおけるキャビテーションとは前記圧力室内の微小な気泡が、気泡周りの圧力変化によって、膨張することである。
【0033】
このように圧力室内に膨張した気泡が発生した場合、圧電素子に電圧を加え、振動板を変形させても気泡が収縮するために、ノズルからインクが吐出されない現象、いわゆるキャビテーションによるノズルのエア詰まりが生ずるのである。
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は、必ずしもその実施例に限定されるものではない。
【0034】
【実施例】
実施例及び比較例におけるインクの各種物性の試験方法、及びその捺染された布帛の図柄の濃度、鮮明さなどの品位の評価方法は、以下の通りである。
〔使用したインク〕
〔実施例1〕〜〔実施例4〕及び〔比較例1〕〜〔比較例4〕において使用したインクの組成は、別途〔表1〕に示された通りである。
【0035】
【表1】
【0036】
また、〔実施例5〕〜〔実施例8〕及び〔比較例5〕〜〔比較例8〕において使用したインクの組成は、〔表2〕に示された通りである。
【0037】
【表2】
【0038】
いずれのインクも表の成分を配合し80℃にて30分間攪拌混合し、室温25℃まで液温を低下させた後、フィルター(東洋濾紙No5A)にて濾過してインクを調製した。
【0039】
尚、表1,表2における界面活性剤は、下記の式(I)〜(IV)の通りである。
ここで、R1 はC2 H5 ,R2 はCH2 C6 H5 ,R3 はCH(CH3 )C6 H5 である。
【0040】
【化7】
【0041】
【化8】
【0042】
【化9】
【0043】
【化10】
【0044】
〔試験及び評価方法〕
(1)キャビテーションによる気泡発生の確認法
先述したステムメタイプのヘッドにインクを注入し、下記の印写条件を与えてインクを連続噴射した。
この連続噴射の直後、ヘッドの各ノズルから同様の印写条件で1ドットを市販のインクジェット専用紙に噴射し、キャビテーションによる気泡発生を原因とするノズル詰まりや液滴の飛翔方向不良を確認した。
尚、キャビテーションによる悪影響を見る現象として、ノズル詰まりや液滴の飛翔方向不良があり、通常、この現象を観察することによりキャビテーション状態が判断可能である。
【0045】
印写条件;
イ)印加電圧 : 150(V)
ロ)パルス幅 : 10(μs)
ハ)駆動周波数:5000(Hz)
ニ)印写時間 : 60(min)
【0046】
ここで評価は下記3段階で評価した。
○:ノズルの詰まりや飛翔方向不良の問題がない。
△:ノズルの詰まりはないが、飛翔方向不良のノズルがある。
×:ノズルの詰まりがある。
【0047】
(2)溶解安定性
調製したインク500gを一週間放置した後、このインク100gを吸引濾過(600Torr)にて、フィルター〔東洋濾紙No.5A(7ミクロン)、ワットマン社製GF−F(0.8ミクロン)〕の通過が可能かどうかを判定した。
【0048】
評価;
ここで評価は下記3段階で評価した。
【0049】
(3)粘度
下記の装置を用いて粘度を測定した。
装置 :BL型粘度計〔(株)東京計測器製〕
測定温度 :25℃
使用ロータ :No.1タイプ
ロータ回転数:60rpm
【0050】
(4)インクジェット印写方法及び印写された捺染布の品位の評価方法
a)インクジェット印写方法
オンデマンド方式シリアル走査型インクジェット印写装置を使用し、印写条件はノズル径100μm、駆動電圧107V、周波数5KHz、解像度360dpi、4×4マトリックスとした。
【0051】
このようなインクジェット印写装置を使って、径糸・緯糸ともにナイロン糸(30d)使用して織った試験布(タフタ)面上に、下記の図柄を印刷し、60℃で10分間乾燥した。
次に、これを102℃で20分間湿熱処理を行って染料を発色固着した後、通常の洗浄処理、乾燥を行い捺染布を得た。
図柄は、(イ)50×50mmの四角形、(ロ)幅0.5mm、長さ50mmの径緯方向の細線による十字形の2パターンとした。
【0052】
b)捺染布の品位の評価方法
前記a)で得られた捺染布を下記項目について観察評価した。
表面濃度;色差計により(イ)の図柄の表面反射率を測定し、表面濃度をCIE1976Lab表色系のL値で示した。
にじみ;目視により(ロ)の図柄のにじみの程度を下記の通り評価した。
【0053】
【0054】
以上の1)〜4)の結果を別途〔表3〕に一覧で示す。
【0055】
【表3】
【0056】
〔表3〕より、本発明のインクは、特定の界面活性剤が添加されたことで、キャビテーションによる気泡の発生が十分抑制されたことが解かる。
また、本発明の界面活性剤を少量添加することで、インクの溶解度が向上し、常温にまで温度低下しても安定した溶解状態を保持でき、しかも低粘度であることが解る。
従って、本発明のインクでは、キャビテーションによる気泡の発生を抑制することと、更に染料の溶解安定性をも向上させることの両方が可能である。
【0057】
【発明の効果】
本発明のインクジェット捺染用水性インクによれば、キャビテーションによる気泡の発生を抑制し、且つ染料の溶解安定性が良くなる。
更にまた低粘度であるため、吐出安定性が極めて良好である。
結果的に、このようにインクジェット印写装置の生産効率が良くなった。
しかも滲み等の発生も無く、高品位の捺染布帛が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、インクジェット印写装置におけるステムメタイプのヘッドを概略的に示す図である。
【符号の説明】
A…インク供給路
B…インク溜まり
C…圧力室
D…圧電素子
E…振動板
F…ノズル
Claims (5)
- 前記インクジェット捺染用水性インクに対して、水性染料が1〜30重量%であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染用水性インク。
- 前記インクジェット捺染用水性インクに対して、界面活性剤が0.1〜15重量%であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット捺染用水性インク。
- 前記水性染料が、酸性染料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット捺染用水性インク。
- 前記インクジェット捺染用水性インクに対して、酸性染料が1〜30重量%、界面活性剤が0.1〜15重量%であることを特徴とする請求項4記載のインクジェット捺染用水性インク。
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