JP4119276B2 - 端面接触形メカニカルシール - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体をシールする場合の他、相当時間の気中運転を行うことがある先行待機運転形ポンプ等の回転機器において、軸封手段として好適に使用される端面接触形メカニカルシールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、回転機器の軸封手段として使用されるメカニカルシールは、2つの密封環が接触した状態で相対回転するように構成された端面接触形のものと、2つの密封環がその間に動圧又は静圧を発生させることにより非接触の状態で相対回転するように構成された非接触形のものとに大別されるが、主として、密封環が接触状態にあり液体潤滑が必要となる端面接触形メカニカルシールはポンプ等の如く液体を扱う回転機器に使用され、密封環間が非接触の状態にあるため密封環間の潤滑を必要としない非接触形メカニカルシールはタービン等の如く気体を扱う回転機器に使用される。
【0003】
ところで、回転機器の用途や使用条件によっては、液体を扱うものでありながら密封環が接液しない状態で運転される場合や、逆に気体を扱うものでありながら液体をシールさせる必要が生じる場合がある。例えば、雨水排水用ポンプ等の如き先行待機運転形ポンプでは、揚水開始前において予めポンプ軸を駆動させておく(先行待機運転)が、かかる先行待機運転中においては密封環間が液体潤滑されないドライな状態にある。また、先行待機運転しないポンプにあっても、その構造(インペラ位置等)や使用条件等によっては、機内液体領域が負圧となる(機外大気領域が機内液体より高圧となる)状態で運転される場合があり、かかる場合には密封環がドライな状態となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、このように液中運転(密封環が接液状態にある場合)及び気中運転(気体をシールする場合や密封環がドライ状態にある場合)が行われる先行待機運転形ポンプ等の回転機器にあっては、軸封手段として端面接触形及び非接触形の何れのメカニカルシールを使用しても、以下に述べる如き問題があり、その対策に苦慮しているのが実情である。
【0005】
すなわち、非接触形メカニカルシールを使用した場合には、密封環間が非接触の状態にあるため、液中運転時における漏れが多くなり(例えば、或る程度の漏れを許容するポンプにあっても、その漏れが許容範囲を超えることになり)、良好なシール機能を発揮できない。したがって、非接触形メカニカルシールは、ポンプ等の液体を扱う回転機器には、それが気中運転を必要とし或いは気中運転を余儀なくされるものであっても、使用することは好ましくないものであり、一般にポンプ等の軸封手段としては実用されていない。
【0006】
一方、端面接触形メカニカルシールを使用した場合には、気中運転時に密封環間が液体潤滑されないために、密封環の発熱により密封環が異常摩耗したり熱損(熱割れ)したりする虞れがあり、長期に亘って良好なシール機能を発揮し得ず、耐久性に問題がある。従来からも、かかる問題を解決するために、
(A)一方の密封環をカーボン等の自己潤滑性に富む材料(自己潤滑性材)で構成しておくこと、
(B)スプリングによる密封環相互の接触圧を低減しておくこと(スプリング荷重を小さくしておくこと)、
(C)密封環の接触部に注水させること、
が行われているが、何れも効果的な解決策とはいい難い。
【0007】
すなわち、(A)のようにした場合、両密封環を自己潤滑性を有しない炭化珪素等で構成した場合に比しては密封環の発熱を或る程度抑制できるものの、上記した問題を生じることなく気中運転を行い得る程度までには密封環の発熱を抑制できない(密封環材料として最良の組み合わせであるカーボン製密封環と炭化珪素製密封環とからなるものにおいても、密封環の摺動面は200℃近くにまで上昇する)。また、(B)のようにすると、密封環の追従性が低下したり密封環の接触圧が不足して、大量漏れを生じる虞れがあるから、仮令密封環の発熱を抑制できたとしても良好なシール機能を発揮できなくなり、到底実用できない。一方、(C)のようにした場合には、気中運転においても密封環の液体潤滑を効果的に行うことができ、密封環の発熱を十分に抑制することができるが、注水設備に要するイニシャルコスト,ランニングコストが高くなり、コスト面で実用的でない。さらに、注水設備の故障がメカニカルシールの破損(密封環の熱損等)に直結する等、メカニカルシールの信頼性に乏しい。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、(B)のような特殊なメカニカルシール構造をなすことなく且つ(C)のような格別の補助設備(注水設備)を必要とすることなく、気中運転においても密封環の発熱を効果的に抑制することができ、液中運転及び気中運転が行われる先行待機運転形ポンプ等の回転機器において長期に亘って良好な軸封機能を発揮しうる端面接触形メカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、液中運転及び気中運転を行なう回転機器に装備されるメカニカルシールであって、第1密封環と第2密封環とを相対回転摺接させるように構成された端面接触形メカニカルシールにおいて、上記の目的を達成すべく、特に、第1密封環を自己潤滑性材であるカーボンで構成すると共に、第2密封環の端面であって第1密封環が摺接する環状面を、第1密封環の構成材より硬質の材料からなる多孔質膜である酸化クロムの溶射膜であって平均気孔径10〜60μm(より好ましくは、15〜40μm)の気孔が相互に連通する気孔率4〜20%(より好ましくは8〜12%)の多孔質膜で構成して、液中運転における当該気孔からの漏れを抑制しつつ気中運転において密封環(9,10)間で発生する摺動熱が当該気孔から放熱されるようにしたことを特徴とする端面接触形メカニカルシールを提案するものである。なお、気孔率はJIS R7212 6.1.5によって求めたものである。
【0010】
而して、かかる構成の端面接触形メカニカルシールは、両密封環の対向端面である密封端面(摺動面)の相対回転摺接作用により、その相対回転部分の内外周領域である被密封流体領域(回転機器の機内領域)と非密封流体領域(回転機器の機外領域であり、一般には大気領域)との間を遮蔽シールするものであるが、当該メカニカルシールが装備された回転機器が気中運転される場合(例えば、両密封流体領域が気体領域である場合、非密封流体領域が液体領域であるが、被密封流体領域が非密封流体領域より高圧の気体領域である場合、又は被密封流体領域が負圧(非密封流体領域は大気領域)となる場合)においては、密封端面がドライ摺動することになるが、主として以下に述べる(1)〜(3)の機能が発揮されることから、密封端面の摩擦抵抗ないし温度上昇を可及的に低減し得て、良好なシール機能(軸封機能)を発揮しうる。
【0011】
(1)摺動抵抗低減機能
第1密封環の密封端面(以下「第1密封端面」という)が低摩擦性である自己潤滑性材で構成されていること及び第2密封環の密封端面(以下「第2密封端面」という)が相手密封端面(第1密封端面)との接触面積の小さな多孔質膜で構成されていることから、両密封環の何れをも自己潤滑性材で構成しないものに比しては勿論、前述した(A)の如く一方の密封環を自己潤滑性材で構成したものに比しても、両密封端面間の摺動抵抗は小さくなる。
【0012】
(2)放熱機能
第2密封端面が、相互に独立した気孔(以下「独立気孔」という)でなく相互に連通する気孔(以下「連通気孔」という)を有する多孔質膜で構成されていることから、両密封端面間で発生する熱(摺動熱)連通気孔から速やかに排出(放熱)されることになる。すなわち、独立気孔である場合には、独立気孔中の空気が断熱層として機能し、密封端面からの放熱を妨げることになるが、連通気孔である場合には、連通気孔群により密封端面内から密封端面外へと至る一連の連通路が形成されることから、連通気孔中の空気は摺動熱による熱膨張によって相手密封端面(第1密封端面)によって閉塞されていない部分へと流動せしめられることになる。つまり、上記連通路内を密封端面外へと向かう空気流が形成される。かかる空気流は、被密封流体領域と非密封流体領域との間に差圧が生じる気中運転時には、当該差圧によっても生じることになる。なお、かかる差圧は気体をシールさせる通常の気中運転(被密封流体領域が非密封流体領域より高圧の気体領域となる)においては当然に生じるが、液体をシールさせる液中運転においても、被密封流体領域(液体領域)が負圧となる場合(例えば、揚水ポンプの運転においてポンプケーシング内が未だ満水されていない場合)には、当該差圧が生じるドライ摺動状態となる(本発明では、かかる状態は液中運転とせず、気中運転とする)。また、例えば、先行待機運転形ポンプにおいて揚水に先立って行われる気中運転では、機内領域(ポンプケーシング内)が大気圧であることから、両密封流体領域は大気圧となり、当該差圧は生じない。
【0013】
(3)摩耗粉排出機能
第2密封端面を構成する多孔質膜が第1密封端面の構成材(自己潤滑性材)より硬質であることから、密封端面の摺動による摩耗は専ら第1密封端面において生じることになるが、その摩耗粉は、凹凸面である第2密封端面(多孔質膜の表面)の第1密封端面に対する相対移動(相対回転)に伴って、密封端面間から速やかに排出されることになる。したがって、密封端面が摩耗粉を介在した状態で相対回転摺接することによる異常摩耗が生じず、摩耗粉が密封端面間に付着,堆積して焼き付くようなことがない。
【0014】
一方、当該回転機器が液中運転される場合(例えば、両密封流体領域が液体領域である場合、非密封流体領域が気体領域であるが、被密封流体領域が非密封流体領域より高圧の液体領域である場合、又は非密封流体領域が液体領域であり、被密封流体領域が圧力変動により非密封流体領域より低圧となる場合)には、密封端面が接液状態にあり、密封端面間が液体潤滑されることから、第2密封端面を多孔質膜で構成しない一般的な端面接触形メカニカルシールと同様に、密封端面良好なシール機能が発揮される。すなわち、第2密封端面が連通気孔を有する多孔質膜で構成されているため、被密封流体である液体が連通気孔から漏れることになるが、かかる漏れは、多孔質膜の平均気孔径及び気孔率を後述する如く所定の範囲に設定しておくことにより、許容範囲内に抑えることができ、非接触形メカニカルシールを使用した場合のような大量漏れを生じることがない。なお、密封端面の液体による潤滑性は、多孔質膜表面の凹部(気孔)による液体保持機能(一種のオイルポット機能)により、大幅に向上する。
【0015】
ところで、多孔質膜の平均気孔径が10μm未満である場合又は気孔率が4%未満である場合には、(2)の放熱機能が十分に発揮されず、また第1密封端面との接触面積が第2密封端面を多孔質構造としない場合に比してさほど低減されず、第1密封環を自己潤滑性材で構成しても(1)の摺動抵抗低減機能が十分に発揮されない。さらに、平均気孔径が10μm未満であると、(3)の摩耗粉排出機能が十分に行なわれない。特に、これら(1)〜(3)の機能は平均気孔径が15μm以上である場合により効果的に発揮され、(1)(2)の機能は気孔率が8%以上である場合により効果的に発揮される。
【0016】
また、平均気孔径が60μmを超える場合又は気孔率が20%を超える場合には、多孔質膜の強度低下を招くと共に、前記した連通路(連通気孔群)からの漏れが多くなり、液中運転時における良好なシール機能を期待できない。さらに、平均気孔径が60μmを超えると、第1密封端面の摩耗粉が気孔内に侵入し易く、(3)の摩耗粉排出機能が発揮されない。特に、多孔質膜の強度維持及び摩耗粉排出機能を考慮した場合、平均気孔径を40μm以下とし、気孔率を12%以下としておくことがより好ましい。
【0017】
本発明においては、以上の理由から、多孔質膜の平均気孔径を10〜60μm(より好ましくは15〜40μm)とし、多孔質膜の気孔率を4〜20%(より好ましくは8〜12%)としたものである。また、多孔質膜の膜厚は、平均気孔径及び気孔率を上記した範囲とすることによって発揮される各機能を妨げることがないこと及び母材(多孔質膜を除く第2密封環の本体部分)から容易に剥離せず所定の強度を確保できることを条件として、適宜に設定されるが、一般には0.2〜1.0mmとしておくことが好ましい。
【0018】
また、第1密封環の構成材としては、カーボン,フッ素樹脂等の自己潤滑性に富むものが選択されるが、一般には、後述する溶射膜との組み合わせからカーボンを使用することが好ましい。また、多孔質膜は、一般に、カーボン等の自己潤滑性材より硬質の材料(溶射材)を第2密封環の本体部分(多孔質膜を除く第2密封環部分)に溶射させることにより形成されるが、溶射法としては、上記した性状の溶射膜(多孔質膜)を得るためにはプラズマ溶射によることが好ましい。また、溶射材(多孔質膜の構成材)としては、酸化クロム、アルミナ、タングステンカーバイト又はジルコニア等が使用されるが、連通気孔の溶射膜(多孔質膜)を容易に形成し得る等の点からして、一般に、酸化クロムを使用することが好ましい。また、第2密封環の本体部分の構成材(母材)としては、当該本体部分がシール機能に直接影響しない部分であることから、容易に剥離しない溶射膜を形成できるものであればよく、特に制限はないが、密封環の放熱性を高める上で熱伝導性に富む金属材を使用することが好ましい。また、第2密封環の加工容易性からしても金属材を使用することが好ましい(特に、第2密封環を周方向に分割された分割構造となす場合においては、炭化珪素等では当該分割構造となすための加工が困難であるが、金属材であれば、このような分割構造に容易に加工することができ、複雑な密封環形状も容易に得ることができる)。本体部分を構成する金属材としては、例えば、チタン,ハステロイ,ステンレス鋼,銅合金等を使用することができるが、特に、多孔質膜が酸化クロムの溶射膜(プラズマ溶射膜)である場合には、多孔質膜との熱膨張差(線膨張率差)が小さく多孔質膜が剥離し難いチタンを使用することが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成を図1〜図7に示す実施の形態に基づいて具体的に説明する。
【0020】
図1は先行待機運転される灌漑用ポンプ等の立軸斜流ポンプ(先行待機形ポンプ)1の一例を示したもので、このポンプ1は、上下端部に吐出エルボ(吐出口)2a及び吸込ベル(吸込口)2bを有する上下方向に長尺なポンプケーシング2と、吸込ベル2bの上方近傍部からポンプケーシング2の中心部を通過して上方に延びており、ポンプケーシング2の上方部に設置した原動機3に連結されたポンプ軸4と、吸込ベル2bの上方近傍部位に配してポンプ軸4の下端部に設けられたインペラ5と、吐出エルボ2aの周壁部分であってポンプ軸4が貫通する筒状の軸封部2cとポンプ軸4との間に介設された軸封装置たる端面接触形メカニカルシール6とを具備するものである。
【0021】
端面接触形メカニカルシール6は、本発明に従って、図2〜図4又は図4〜図7に示す如く構成されている。以下、図2〜図4に示す本発明に係る端面接触形メカニカルシール6を「第1シール6a」といい、図4〜図7に示す本発明に係る端面接触形メカニカルシール6を「第2シール6b」という。また、以下の説明においては、特に明示しない限り、各構成部材は両シール6a,6bの構成部材を意味するものとする。
【0022】
各シール6a,6bは、図2〜図4又は図4〜図7に示す如く、ポンプケーシング2の回転軸貫通部分たる軸封部2cに取り付けられたシールケース7と、シールケース7にスプリングリテーナ8を介して軸線方向(上下方向)に移動自在に且つ相対回転不能に保持された第1密封環たる静止密封環9と、静止密封環9の上方に配して回転軸たるポンプ軸4に固定された第2密封環たる回転密封環10と、シールケース7とスプリングリテーナ8との間に介装されて、静止密封環9を回転密封環10に押圧接触させるべく上方へと附勢するスプリング11とを具備して、両密封環9,10の摺動面たる第1及び第2密封端面9a,10aの相対回転摺接作用により、その相対回転摺接部分の内周側領域である被密封流体領域(ポンプケーシング2内に連通する領域)Sとその外周側領域である非密封流体領域(ポンプケーシング2外の大気領域)Aとを遮蔽シールするように構成されている。
【0023】
シールケース7は、図2又は図5に示す如く、ポンプ軸4より大径の内周部を有する断面L字状の円環状体であり、ポンプ軸4が同心状に貫通する状態で、軸封部2cの上端部にOリング12を介して取り付けられている。
【0024】
スプリングリテーナ8は、図2又は図5に示す如く、リテーナ本体8aと押え体8bとからなる。リテーナ本体8aはシールケース7の内周部にOリング13を介して上下方向に移動自在に嵌挿保持されており、シールケース7に対する相対回転を、シールケース7に突設したドライブピン14の係合作用により阻止されている。押え体8bは、リテーナ本体8aの上端部に適当数(1個のみ図示)のボルト15により取り付けられた円環状体であり、内周面を下窄まり円錐状のカム面に形成してある。
【0025】
静止密封環9は、図2〜図4又は図4〜図6に示す如く、周方向に2分割された円環状体であり、押え体8bのカム面による緊縛作用により分割面(分割部分の周方向端面)9b,9bが衝合された形態(円環状形態)で、スプリングリテーナ8に固定されている。静止密封環9の緊縛及びスプリングリテーナ8への固定は、押え体8bをボルト14によりリテーナ本体8aに締付けることにより行われ、ボルト14を取り外すことにより静止密封環9の脱着を容易に行いうるようになっている。而して、静止密封環9は、カーボン等の自己潤滑性材で構成されており、その上端面(押え体8bから上方に突出する円環状部分9bの先端面)は軸線に直交する平滑な環状面である第1密封端面9aに形成されている。なお、リテーナ本体8aの上端部には、これと静止密封環9との間を二次シールするOリング16が係合保持されている。また、押え体8bには、図2又は図5に示す如く、両密封端面9a,10aの外周部を囲繞する円筒状の蒸気漏れ拡散防止体26が取り付けられている。
【0026】
第1シール6aの回転密封環10は、図2に示す如く、非分割構造の円環状体であり、固定リング17及びリテーナ18を介して、ポンプ軸4に固定保持されている。固定リング17は周方向に2分割されたもので、ポンプ軸4を抱持するリング状に締結すると共に固定ネジ19を締付けることにより、ポンプ軸4に取り外し自在に固定されている。リテーナ18は、ポンプ軸4にOリング20を介して嵌合保持すると共に固定リング17に設けた係合ピン21を係合させることにより、ポンプ軸4に固定されている。回転密封環10は、リテーナ18の下端部に形成した環状凹部にOリング22,23を介して嵌合保持させると共にリテーナ18に設けた係合ピン24を係合させることにより、ポンプ軸4に固定保持されている。
【0027】
第2シール6bの回転密封環10は、図5及び図7に示す如く、静止密封環9と同様に周方向に2分割された円環状体であり、分割部分10b,10bを、ボルト10dにより分割端面10c,10cが衝合する状態に締結すると共に、固定リング17aに連結することにより、ポンプ軸4に固定されている。固定リング17aは、図5に示す如く、回転密封環10の上位に配してポンプ軸4に固定されたもので、この固定リング17aに設けたドライブピン21aにより回転密封環10のポンプ軸4への固定(相対回転の阻止)を確実ならしめてある。なお、固定リング17aは、第1シール6aの固定リング17と同様に、周方向に2分割されたもので、分割部分をポンプ軸4を抱持するリング状に締結すると共に固定ネジ19aを締付けることにより、ポンプ軸4に取り外し自在に固定されている。また、回転密封環10の内周部には、ポンプ軸4との間を二次シールするためのOリング20aが設けられている。
【0028】
而して、回転密封環10は、図2及び図3又は図5及び図6に示す如く、その下端面に軸線に直交する平滑な環状面であって第1密封端面9aが摺接する第2密封端面10aを形成したものであり、第2密封端面10aは、静止密封環9の構成材(カーボン等の自己潤滑性材)より硬質の多孔質膜101で構成されており、多孔質膜101を除く第2密封環10の本体部分102はチタン等の金属材で構成されている。
【0029】
多孔質膜101は、本体部分102の下端面に形成した凹部(セレーション加工が施されている)に酸化クロム等を溶射(プラズマ溶射が好ましい)することによって形成される。多孔質膜101は相互に連通する気孔(連通気孔)を有するものであり、前述した如く、当該膜101における平均気孔径、気孔率及び膜厚は、夫々、10〜60μm(より好ましくは、15〜40μm)、4〜20%(より好ましくは8〜12%)及び0.2〜1.0mmとされている。なお、多孔質膜101は、図3又は図6に示す如く、第1密封端面9aの内外端縁から径方向に若干食み出すように形成されている。
【0030】
而して、先行待機運転形ポンプ1にあっては、揚水開始前において先行待機運転が行われる。すなわち、吸込口2b又はインペラ5aにまで水位が達しない状態で、予め、ポンプ軸4を駆動しておき、大水等の揚水(排水)が必要となった場合にこれに直ちに対応できるようにしておく。かかる先行待機運転にあっては、ポンプケーシング2が満水されておらず、密封端面9a,10aは接液しないドライな状態で相対回転摺接されることになる。
【0031】
しかし、第1密封端面9aがカーボン等の自己潤滑性材で構成されており且つ第2密封端面10aが上記した形態(平均気孔径,気孔率)の連通気孔を有する多孔質膜101で構成されていることから、密封端面9a,10aが液体潤滑されない気中運転(先行待機運転)においても、前記(1)〜(3)の摺動抵抗低減機能、放熱機能及び摩耗粉排出機能により、密封端面9a,10aの温度上昇が可及的に抑制される。さらに、第1密封端面9aが摩耗するも、密封端面9a,10aがピッチング現象(いわゆる毟れ現象)を生じず、密封端面9a,10aの寿命が向上する。その結果、第1シール6a又は第2シール6bは、それが気中運転に適しない端面接触形メカニカルシールであるにも拘わらず、相当時間(例えば1時間)に亘って気中運転が行われる先行待機運転形ポンプ1の軸封手段として好適に使用することができる。
【0032】
また、先行待機運転から揚水運転に移行すると、つまりポンプケーシング2内が満水されて密封端面9a,10aが揚水による液体潤滑が行われる液中運転が開始されると、第2密封端面10aが連通気孔を有する多孔質膜101で構成されているにも拘わらず、多孔質膜101の平均気孔径及び気孔率を上記した範囲としておくことにより、前述した如く、密封端面9a,10aからの漏れを許容範囲(特に、ポンプは本来的に相当量の漏れが許容されるものであり、その許容範囲は大きい)に抑制することができ、良好な軸封機能を発揮することができる。
【0033】
なお、本発明は上記した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において、適宜に改良,変更することができる。例えば、回転密封環10をカーボン等の自己潤滑性材で構成される第1密封環とし、静止密封環9を多孔質膜102が形成される第2密封環とすることも可能である。また、第1及び第2密封環は共に非分割構造とすることもできる。また、本発明に係る端面接触形メカニカルシールは、先行待機運転形ポンプの他、液中運転及び気中運転(ドライ条件下又は負圧条件下)の何れをも行なうことが要求される各種回転機器の軸封手段として好適に使用することができる。
【0034】
【実施例】
実施例として、第1シール6aであって、115mm径のポンプ軸4に有する立軸斜流ポンプ1に装着しうる寸法をなす端面接触形メカニカルシール(以下「実施例シール」という)を製作した。実施例シールは、静止密封環(第1密封環)9をカーボンで構成し、回転密封環(第2密封環)10の本体部分102をチタンで構成すると共に、多孔質膜101を本体部分102に酸化クロムをプラズマ溶射してなる酸化クロム溶射膜(膜厚:0.4mm)に構成したものである。
【0035】
また、比較例として、回転密封環10を多孔質膜102を有しない単一材構成物とした点、つまり回転密封環10を緻密質の炭化珪素焼結材(密度:3.13g/cm)で構成した点を除いて、実施例シールと同一構造をなす端面接触形シール(以下「比較例シール」という)を製作した。
【0036】
そして、実施例シール及び比較例シールを使用して、次のような第1〜第4シール試験を行なった。なお、以下の説明において、圧力は全て大気圧を基準とするゲージ圧を意味する。
【0037】
すなわち、第1シール試験では、ポンプ4を無負荷状態で気中運転することにより行なったものであり、ポンプケーシング2内を大気に開放させた状態(被密封流体領域Sを0MPaに保持させた状態)でポンプ軸4を駆動した。また、第2〜第4シール試験は、ポンプケーシング2内にその吐出口2a及び吸込口2bを閉塞した上で窒素ガスを充填して、ポンプケーシング2内の圧力(被密封流体領域Sの圧力)を一定圧に保持させた状態でポンプ1を気中運転(ポンプ軸4の回転数は第1シール試験と同じ)することにより行なったものであり、ポンプケーシング2内の圧力は、第2シール試験では0.1MPaに、第3シール試験では0.2MPaに、また第4シール試験では0.3MPaに、夫々保持した。そして、各シール試験において、ポンプ軸4の駆動開始時点から180分経過する間において摺動面温度を一定時間毎に測定して、摺動面温度と経過時間との関係を求めた。その結果は、実施例シールについては図8に示す通りであり、比較例シールについては図9に示す通りであった。なお、図8及び図9においては、ポンプケーシング2内の圧力が0Mpaである場合を「□」で、0.1MPaの場合を「◇」で、0.2MPaの場合を「◆」で、0.3MPaの場合を「△」で示してある。
【0038】
図8及び図9から理解されるように、実施例シールでは、気中運転及び液中運転の何れにおいても、摺動面温度が比較例シールより大幅に低下している。また、各シール試験の終了後、第2密封端面(回転密封環10の密封端面)10aにおける環状痕を目視観察したが、実施例シールにおいては目視できるような環状痕及び擦過傷は全く認められなかった。一方、比較例シールでは、明瞭に目視されるレコード溝状の環状痕が形成されているか、環状痕が明瞭に目視される程度には形成されていない場合でも、明瞭な擦過傷が認められた。また、第2密封端面10aを軽く布で一回拭き取った後において当該密封端面10aに摩耗粉(主としてカーボン粉)が付着しているかどうかについても確認したところ、実施例シールでは摩耗粉の付着が全く認められないか、付着していても極く僅かであったが、比較例シールでは摩耗粉が顕著に付着していた。
【0039】
【発明の効果】
以上の説明から容易に理解されるように、本発明によれば、前記した(B)のようなシール構造の好ましからざる変更や前記した(C)のようなコスト面及びシール信頼性の面で問題のある設備を必要とすることなく、気中運転及び液中運転の何れをも行なう先行待機運転形ポンプ等の回転機器において良好且つ安定したシール機能を発揮でき且つ耐久性に富む端面接触形メカニカルシールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1シール又は第2シールを装備した立軸斜流ポンプ(先行待機運転形ポンプ)の一例を示す縦断正面図である。
【図2】図1の要部の拡大詳細図であって、第1シールを示す縦断正面図である。
【図3】図2の要部の拡大図である。
【図4】図2又は図5のIV−IV線に沿う横断平面図である。
【図5】図1の要部の拡大詳細図であって、第2シールを示す縦断正面図である。
【図6】図5の要部の拡大図である。
【図7】図5のVII−VII線に沿う横断底面図である。
【図8】実施例シールにおける摺動面温度と経過時間との関係を示すグラフである。
【図9】比較例シールにおける摺動面温度と経過時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…先行待機形ポンプ(液中運転及び気中運転を行う回転機器)、4…ポンプ軸(回転軸)、6,6a,6b…端面接触形メカニカルシール、7…シールケース、9…静止密封環(第1密封環)、9a…第1密封端面(静止密封環の密封端面)、10…回転密封環(第2密封環)、10a…第2密封端面(回転密封環の密封端面であって、第2密封環が摺接する環状面)、101…多孔質膜(溶射膜)、102…回転密封環の本体部分(多孔質膜を除く第2密封環の本体部分)。

Claims (4)

  1. 液中運転及び気中運転を行なう回転機器(1)に装備されるメカニカルシールであって、第1密封環(9)と第2密封環(10)とを相対回転摺接させるように構成された端面接触形メカニカルシールにおいて、
    第1密封環(9)を自己潤滑性材であるカーボンで構成すると共に、
    第2密封環(10)の端面であって第1密封環(9)が摺接する環状面(10a)を、第1密封環(9)の構成材より硬質の材料からなる多孔質膜である酸化クロムの溶射膜であって平均気孔径10〜60μmの気孔が相互に連通する気孔率4〜20%の多孔質膜(101)で構成して、液中運転における当該気孔からの漏れを抑制しつつ気中運転において密封環(9,10)間で発生する摺動熱が当該気孔から放熱されるようにしたことを特徴とする端面接触形メカニカルシール。
  2. 前記平均気孔径が15〜40μmであることを特徴とする、請求項1に記載する端面接触形メカニカルシール。
  3. 前記気孔率が8〜12%であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載する端面接触形メカニカルシール。
  4. 多孔質膜(101)を除く第2密封環(10)の本体部分(102)がチタンで構成されていることを特徴とする、請求項1、請求項2又は請求項3に記載する端面接触形メカニカルシール。
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