JP4117389B2 - 硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、機械構造部品に代表される金属材料等の切削加工に用いる、硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチに関する。
【0002】
【従来の技術】
機械構造部品に代表される金属材料等の切削加工に、多数の切刃からなるブローチが用いられる。これらブローチの切削寿命の延長もしくは被加工物の高精度化を目的とし、ブローチ表面に硬質皮膜を被覆した硬質皮膜被覆ブローチが用いられている。また被覆される硬質皮膜としては、皮膜硬度がHV2000以上からなる例えばTiN皮膜もしくはTi(CN)皮膜、更には特開平11−300518号公報に見られるTiN皮膜よりも耐酸化性に優れた(TiAl)N皮膜を被覆した被覆ブローチが提案されている。
【0003】
しかしながら、近年のブローチ加工では、被加工物を更に高能率、且つ、高精度な加工物に仕上げる要求が高まっていることに加え、熱処理後の高硬度材を直接加工する要求も高まっている。また、その切削環境においても、人体及び地球環境への配慮により、油剤を用いた切削加工から、切削液中に塩素等の有害な物質を含有しないドライ切削もしくはセミドライ切削の加工要求も高まっている。このように、ブローチ加工における切削環境は、より過酷な状況を強いられており、さらなる高性能ブローチの開発が望まれている。被加工物の高硬度化、高速切削加工及び切削工具の長寿命化の要求に加え、切削環境としては、クーラントのドライ化及びセミドライ化により、工具切刃近傍では、切削温度が高くなる傾向にあり、硬質皮膜が酸化すると同時に工具刃先に凝着現象が発生し、ブローチ表面に被覆される耐摩耗皮膜と被加工物との間に化学反応が生じ、工具の短寿命や被加工物の精度を劣化させる。このような場合、従来までの前記TiN皮膜、Ti(CN)皮膜、(TiAl)N皮膜では、凝着を抑制する効果と耐摩耗性のバランスが十分ではなく、摩擦抵抗の増加により、十分な切削寿命が得られてはいない。また、これら凝着物とともに硬質皮膜が剥離、脱落する現象も確認されており、このような場合は更に切削寿命は不安定で短くなる傾向にある。以上のように、これらの加工要求に対し、満足される切削特性は得られてはいない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、これら苛酷な切削環境下で使用したブローチの逃げ面及びすくい面の損傷状態を注意深く解析した結果、工具逃げ面側では硬質皮膜内に酸素が拡散しており、硬質皮膜最表面に強度の低い酸化物を形成し、この強度の低い酸化物を起点とした脱落が繰り返されている事実を突き止めた。また、切屑の排出部となる工具すくい面側では被加工物である鉄と酸素が皮膜内部に拡散しており、この鉄と酸素が硬質皮膜の酸化を助長し、摩耗が進行していた。以上のように、切刃先端近傍では著しく温度が上昇し、硬質皮膜の酸化による摩耗進行と同時に被覆母材の軟化を伴い、その結果として工具切刃の欠損もしくはチッピングが発生していることが明らかとなった。
【0005】
本発明はこうした事情に鑑み、ブローチの切刃部表面に被覆する硬質皮膜の高温硬度、耐酸化性の改善並びに被加工物から切削過程で硬質皮膜内部に拡散する鉄に対して、低い親和性を有し、更に摩擦抵抗の低い硬質皮膜を被覆し、切削温度上昇を抑制させるとともに、被覆ブローチ母材の耐熱性と硬質皮膜との密着性を維持するための母材強度を更に改善することにより、切削加工の高能率化並びに長寿命化を達成することのできる硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチの構成を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
これら課題を達成するための本発明は、金属成分としてCr及び/又はTi、B元素、非金属成分としてO元素及びN元素とを含む硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆してなる硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該硬質皮膜中に、X線光電子分光分析でBとNの結合エネルギーと、TiとOの結合エネルギー及び/又はCrとOの結合エネルギーとを含み、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で10≦(V+Co)≦20の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチである。
【0007】
【発明の実施の形態】
加工の高能率化並びに長寿命化を達成する為には、被覆する硬質皮膜が高温環境下でより高い硬度を維持する、硬質皮膜の高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有し、切削過程で被加工物から硬質皮膜内部へ拡散する鉄に対して、低い親和性を有し、更に摩擦抵抗の低い硬質皮膜を被覆することにより、切削温度上昇を抑制させる必要がある。また、工具母材としても高温環境下において母材の軟化を抑制する耐熱性と、これら硬質皮膜と高い密着性を有する母材強度を維持することが必要である。その手段として、該硬質皮膜の少なくとも1層が、金属成分としてCr及び/又はTi、B元素、非金属成分としてO元素及びN元素とを含む硬質皮膜であることが好ましい。金属成分として、Cr及び/又はTiとB元素より構成される場合、皮膜硬度、耐酸化性並びに摺動特性のバランスが最も優れ、更に好ましい。硬質皮膜中に、X線光電子分光分析でBとNの結合エネルギーを含み、更にTiとOの結合エネルギー及び/又はCrとOの結合エネルギーのどちらかを含む硬質皮膜であり、該硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチの母材中に含まれるV及びCoが、重量%で10≦(V+Co)≦20の範囲にすることが極めて有効である。上記該硬質皮膜は、高温環境下における皮膜硬度並びに耐酸化性に優れ、また被加工物中の鉄に対して、親和性が低く、潤滑作用を併せ持っているため、切削温度上昇を抑制する作用を有する。これは該硬質皮膜内のBがBNとして存在することにより,高温環境下で該硬質皮膜最表面のBN結合が、BとOの結合に変わり、緻密で強度の高いB酸化物を硬質皮膜最表面に形成し、この緻密で強度の高いB酸化物がその後の酸化防止層として作用する。また同時に、緻密で強度の高いB酸化物は動的な酸化環境下においても、該硬質皮膜と剥離し難く耐酸化性に優れる。
【0008】
更に、硬質皮膜の高温環境下における軟化は、酸素の拡散に起因するため、耐酸化性に著しく優れる本発明皮膜は高温硬度に関しても著しく改善された。更に、硬質皮膜内にBNとして存在する場合の利点として、鉄に対して極めて親和性が低いことである。このことにより、被加工物である鉄に対して優れた摩擦特性を示し、切削温度を抑制する作用も有する。更に、硬質皮膜の高硬度化に対しても、硬質皮膜内にBNとして存在する場合、硬質皮膜格子内の内部応力を高め、硬質皮膜を著しく高硬度化させる。しかしながら、高硬度化されると同時に、硬質皮膜内に残留する圧縮応力も高くなってしまうため、この残留圧縮応力に耐えうる強度を有する母材とすることが必要となる。そこで、母材中に含まれるV及びCoを、重量%で10≦(V+Co)≦20の範囲に限定する必要がある。この範囲であれば、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対しても、母材内部で緩和することが可能であり密着性に優れ、上記該硬質皮膜の優れた耐酸化性と高硬度である特性を充分に発揮することができる。また、母材中のVとCoが上記範囲を満足する場合、高速度鋼中のマトリックスの耐熱強度も優れる。これらの構成により、ブローチによる切削加工の高能率化並びに長寿命化を達成することが可能となる。
【0009】
より好ましい硬質皮膜としては、結晶質相とアモルファス相とを含み、該結晶質相内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合、0.5nm以上、50nm以下とし、更に、該硬質皮膜の該結晶質相は、X線回折における回折強度が(200)面で最大を示し、(200)面の半価幅が1.5度以上であることとする。更に好ましくは、該硬質皮膜とは別の少なくとも1層は金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含む硬質皮膜を用いることが、より好ましい。このような構成を採用することで、ブローチ切刃表面に被覆する硬質皮膜が高温環境下で、より高い硬度を維持することが可能となり、また優れた耐酸化性を有するとともに、切削過程で被加工物から硬質皮膜内部に拡散する鉄に対して、低い親和性を有し、更に摩擦抵抗の低い硬質皮膜を採用することにより、切削温度上昇を抑制し、更にブローチ母材の耐熱性と硬質皮膜との密着強度を改善することにより、ブローチによる切削加工の高速、高能率化並びに長寿命化が達成され、従来技術の課題を解決するに至った。
【0010】
本発明である硬質皮膜を被覆したブローチ母材として用いる高速度鋼は、母材中に含まれるV及びCoが、重量%で10≦(V+Co)≦20の範囲である必要があり、10≦(V+Co)≦17の範囲であることが更に好ましい。母材中のV、Coは高速度鋼の硬度及び耐熱強度を決定する添加元素であるが、10重量%未満の場合は、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対して、母材強度が十分ではなく、工具寿命は不安定であった。これは、硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力により、皮膜剥離が発生する場合があるためである。一方、17重量%を越える場合は母材が脆くなる傾向となり、20重量%を越える場合は、母材が脆くなり過ぎてしまい、切刃コーナーにチッピングや欠けが発生し、短寿命を招いた。以上より、本発明である該硬質皮膜の該ブローチ母材への密着強度に及ぼす影響を考慮した結果、本発明者は高速度鋼中のVとCoの含有量を上記範囲内に決定した。また、該硬質皮膜中にBとNの結合が確認されない場合、上述したように皮膜の高温硬度、耐酸化性並びに潤滑特性ともに十分ではなく、従来課題を解決するには至らなかった。また、BとNの結合エネルギーは認められるが、TiとOの結合エネルギーとCrとOの結合エネルギーの何れも認められない場合は、潤滑特性が十分ではなく、切削温度を抑制するには至らなかった。本発明皮膜である該硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチは、母材硬さがHRC66以上、HRC71未満であることが好ましい。母材硬度がHRC66未満となる場合、過酷な切削環境下において切刃が逃げ面側へ、塑性変形を伴った摩耗進行も確認され、刃先強度が十分ではない場合があり、好ましくない。また、HRC71を超える場合は、切刃コーナー部がチッピングや欠けを生じる場合があり、好ましくない。
【0011】
結晶質相とアモルファス相とを含み、該結晶質相内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合、0.5nm以上、50nm以下としたのは、結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下となる場合、皮膜硬度が高く、且つ、高温硬度も著しく改善され、更に耐摩耗性に優れ好ましい。また、同時にアモルファス相を含む場合は、結晶と結晶の界面である結晶粒界が著しく減少し、結晶粒界を介して進行する酸素の拡散抑制に効果的であり、より好ましい。更に、該硬質皮膜は、(200)面に強く配向した場合が最も皮膜内の格子欠陥が少なく、高密度であり耐酸化性に優れることより(200)面に最大のピーク強度をもつことが好ましい。更にその半価幅が1.5度以上の広がりを有する場合、皮膜硬度並びに耐酸化性改善への寄与が大きく好ましい。該硬質皮膜は該被覆母材との優れた密着性、皮膜硬度及び耐酸化性を有すものの、母材との密着性を更に改善し、切削寿命を安定化させるために、該硬質皮膜とは別の少なくとも1層は金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含む硬質皮膜と多層にすることも可能である。
【0012】
更に硬質皮膜の母材への密着性を改善し、切削寿命を延ばすために、被覆前後に切刃近傍のバリやカエリ、及び被覆中に付着したドロップレット等の欠陥をショットブラスト等の機械的処理により除去することも好ましい。以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、本発明主旨に基づき適宜変更を施すことは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0013】
【実施例】
本発明の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチは、その被覆方法については,特に限定されるものではないが、被覆母材への熱影響、工具の疲労強度、皮膜の密着性等を考慮した場合、比較的低温で被覆でき、被覆した皮膜に適度な圧縮応力が残留するアーク放電方式イオンプレーティング法による被覆処理を行なった。アークイオンプレーティング装置を用い、金属成分の蒸発源である各種合金製ターゲット、並びに反応ガスであるN2ガス、CH4ガス、Ar+O2混合ガス、B3N3H6から目的の皮膜が得られるものを選択し、被覆母材温度400℃、反応ガス圧力3.0Paの条件下にて、被覆母材である各種高速度工具鋼製のスプラインブローチにバイアス電圧−150Vを印加して、被覆処理を行った。この時の全硬質被複層の厚さはブローチ各部において0.2〜2.0μmの範囲であった。硬質皮膜へのB添加に関しては、金属ターゲット内に予め所定量添加した合金ターゲットを用いる場合と、被覆中にB含有気体を真空容器内に導入する場合においても可能である。更に必要に応じ予め、アークイオンプレーティング法により(TiAl)N系皮膜を被覆した後、該硬質皮膜を被覆した。表1において、組成の定量分析にはエネルギー分散型X線分光法、オージェ光電子分光法及び電子線エネルギーロス分光法により総合的に決定した。またX線光電子分光分析によるBとNの結合エネルギー、TiとOの結合エネルギー、CrとOの結合エネルギーの定性分析には、硬質皮膜表面を10分間Arイオンミーリング後(SiO2換算で表面から約20nm除去)に行なった。分析結果を表1に併記する。
【0014】
【表1】
【0015】
該硬質皮膜内のアモルファス相の定性分析及び結晶質相からなる結晶粒径の測定は、硬質皮膜断面を透過型電子顕微鏡によりランダムに選択した視野の断面写真より実測した。表1に透過型電子顕微鏡による断面写真から実測した結晶質相からなる結晶粒径を併記する。結晶粒径の実測方法は、断面写真から断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径により求めた。得られた硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチを用い、以下の条件で切削試験を行った。切削諸元を次に示す。被削材に1個当たりの切削長が50mmからなる、調質後の硬度がHB220のS45C材を用い、切削速度6m/min、エアブローを用いた乾式切削で切削試験を行った。切削個数2000個、即ち総切削長100m切削後のブローチ逃げ面摩耗量を比較した。同時に被加工物表面の面粗さを工具軸方向に測定した。その結果を表1に併記する。また、併せて同一切削条件で加工した比較例を表1、従来例を表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
表1に示す本発明例は、従来例に比して安定した切削寿命が得られている。以下本発明例の詳細について述べる。表1に示す本発明例である各組成の透過型電子顕微鏡による格子像観察結果から、本発明例15を除いた何れの該硬質皮膜内にもBを含有したアモルファス相が確認された。図1に本発明例1の硬質皮膜のX線光電子分光分析によるCrの2p軌道から得られた結合エネルギーを示し、少なくともCrとN、CrとOの結合エネルギーが確認された。図2に本発明例1の硬質皮膜のX線光電子分光分析によるBの1s軌道から得られた結合エネルギーをそれぞれ示し、少なくともBとNの結合エネルギーが確認された。本発明例1、2、3はそれぞれ母材の(V+Co)(重量%)の合計が異なる場合の本発明例であるが従来例に比べ、切削寿命が長い。一方比較例16、17に母材中の(V+Co)(重量%)の合計が9重量%の場合と20.3重量%の場合の比較例を示す。母材中の(V+Co)(重量%)の合計が9重量%の場合、本発明である硬質皮膜が微細な剥離を伴った、摩耗進行であり、本発明である高硬度を有する該硬質皮膜に発生する残留圧縮応力に対し、母材強度が充分ではなく、摩耗状態が不安定であった。母材中の(V+Co)(重量%)の合計が20.3重量%の場合は、切刃コーナー部に欠けが発生し、本発明である該硬質皮膜の特性を十分に発揮できなかった。従って、前記過酷なブローチによる切削加工においては、硬質皮膜によって、被覆母材の影響がかなり大きいこと明らかである。本発明例4は母材の硬度がHRC65.3であるが従来例に比べ、切削寿命が長い。本発明例5は本発明である該硬質皮膜の成分がTiであるTi(NOB)皮膜の場合であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例6は本発明である(TiSi)(NOB)の場合であるが、従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例7は本発明である該硬質皮膜の成分がCrである(CrSi)(CNOB)の場合であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例8は(CrTi)(NOB)の場合であるが、従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例9は本発明である該硬質皮膜と(TiAl)N皮膜と多層にした場合の事例であるが、従来例に比べ切削寿命が長く、(TiAl)N皮膜等と組み合わせた多層膜がより小さい摩耗量を示した。本発明例10はTi(CNO)皮膜との多層膜であるが、従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例11は本発明である該硬質皮膜の最強強度を示す面指数が(111)面の場合であるが従来例に比べては切削寿命に優れるものの、(200)面に最も強く配向する硬質皮膜がより好ましい。本発明例12は(CrAlSi)(NOB)皮膜との多層膜であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例13は本発明である該硬質皮膜内の結晶質相の最小結晶粒径が50nmを越える場合であるが、従来例に比べては切削寿命に優れるものの、50nm以下がより好ましいといえる。本発明例14は該硬質皮膜のX線回折から得られる(200)面の半価幅が1.5度未満の場合であるが従来例に比べて切削寿命が長いものの、1.5度以上がより好ましいといえる。本発明例15は、該硬質皮膜内に透過型電子顕微鏡による観察結果からアモルファス相が確認されなかった場合の例を示すが、従来例に比べ切削寿命が長い。
【0018】
【発明の効果】
以上の如く、本発明の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチは、従来の硬質皮膜被覆ブローチに比べ、ブローチ切刃表面に被覆する硬質皮膜が高温環境下でより高い硬度を維持することができ、優れた耐酸化性を有し、切削過程で被加工物から硬質皮膜内部へ拡散する鉄に対して、低い親和性を有し、摩擦抵抗の低い硬質皮膜であるため切削温度上昇を抑制させる効果を有しており、また、工具母材としても最適な(V+Co)含有量に規定しているため、高温環境下において母材の軟化を抑制する耐熱性と、これらの硬質皮膜との密着強度に優れることより、切刃のコーナー部のチッピング、欠けもしくは皮膜剥離等に起因した異常摩耗を著しく抑制することが可能となり、ブローチによる切削加工の高能率化、高速化並びに長寿命化により、生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例1のX線光電子分光分析によるCrの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例1のX線光電子分光分析によるBの結合エネルギーを示す。
Claims (6)
- 金属成分としてCr及び/又はTi、B元素、非金属成分としてO元素及びN元素とを含む硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆してなる硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該硬質皮膜中に、X線光電子分光分析でBとNの結合エネルギーと、TiとOの結合エネルギー及び/又はCrとOの結合エネルギーとを含み、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で10≦(V+Co)≦20の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ。
- 請求項1に記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該硬質皮膜は、結晶質相とアモルファス相とを含み、該結晶質相内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合、0.5nm以上、50nm以下としたことを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ。
- 請求項2記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該結晶質相は、X線回折における回折強度が(200)面で最大を示し、(200)面の半価幅が1.5度以上であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ。
- 請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該硬質皮膜の金属成分の一部をSiで、該非金属成分の一部をC元素で置換したことを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ。
- 請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該硬質皮膜とは別の少なくとも1層は金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含むことを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ。
- 請求項1記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチにおいて、該硬質皮膜被覆高速度鋼ブローチの母材硬さがHRC66以上、HRC71未満であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ブローチ。
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