JP2004009269A - 硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル - Google Patents
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Abstract
【目的】ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成することのできる硬質皮膜被覆ラフィングエンドミルを提供することを目的とする。
【構成】Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
【選択図】なし
【構成】Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、金型や機械構造部品に代表される金属材料等の切削加工において、主に粗削り用として用いられるエンドミル(以下、ラフィングエンドミルと呼ぶ。)に関する。
【0002】
【従来の技術】
金型や機械構造部品に代表される金属材料等の粗加工用工具として、外周刃先部に連続して波状に形成された、波状切刃を有するラフィングエンドミルが使用されている。この波状切刃は、波状切刃のない直刃エンドミルと比べ切削加工時の切削応力が分散されるため、工具径に対する切込み量を大きくとることができ、荒削り加工に適する。このようにラフィングエンドミルは、通常の波状切刃を有しない直刃エンドミルによる切削加工よりも大きな衝撃力が刃先に加わると同時に、単位時間あたりの切屑排出量が多くなり、切屑が排出される波状切刃近傍の逃げ面側及びすくい面側は極めて高温にさらされる。そこで、ラフィングエンドミルの波状切刃近傍の工具摩耗を抑制するために、皮膜硬度がHV2000以上のTiN、TiCN等の硬質皮膜を被覆することも行なわれている。更に、例えば、特許第2576400号公報に代表される従来のTiNよりも皮膜硬度並びに耐酸化性の改善がなされたTiAlNを被覆したラフィングエンドミル等も提案されている。しかしながら、更に近年の切削加工の分野では、粗切削加工の長寿命化並びにコスト低減のため、高能率化を目的とした高速加工及び被加工物の高硬度化等が求められており、これらTiCN皮膜やTiAlN皮膜を被覆したラフィングエンドミルでは、これらの要求に対して満足される切削寿命は得られてはいない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、金属の粗加工におけるラフィングエンドミルの波状切刃近傍の逃げ面及びすくい面の損傷状態を注意深く解析した結果、工具逃げ面側では硬質皮膜内に酸素が拡散しており、皮膜最表面にTiとOが結合した強度の低い酸化物を形成し、この強度の低い酸化物を起点とした硬質皮膜の脱落が繰り返されている事実を突き止めた。また、切屑の排出部となる工具すくい面側では被加工物である鉄と酸素が皮膜内部に拡散しており、この鉄と酸素が硬質皮膜の酸化を助長し摩耗が進行していた。以上のように、波状切刃先端近傍では著しく温度が上昇し、硬質皮膜の酸化と被加工物からの鉄の拡散並びに波状切刃逃げ面のアブレッシブ摩耗等が総合的に影響し、その結果工具切刃の欠損もしくはチッピングが発生し、切削工具の短寿命を招いていることが明らかとなった。従って、ラフィングエンドミルにおける切削加工の高能率化においては、波状切刃表面に被覆する硬質皮膜が高温環境下でより高い硬度を維持する硬質皮膜の高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する硬質皮膜とする必要がある。また、工具母材としては、これら高硬度からなる硬質皮膜との密着性を維持するために靭性のある耐チッピング性に優れた母材とする必要がある。
【0004】
本発明はこうした事情に鑑み、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する必要があると考えた。また同時に、極めて高硬度である硬質皮膜を被覆するため、ラフィングエンドミル母材と硬質皮膜との密着性を維持するために靭性のある耐チッピング性に優れ、かつ耐熱性に優れた母材とする必要があると考えた。これらの改善により、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成することのできる硬質皮膜被覆ラフィングエンドミルの構成を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
これら課題を達成するための本発明は、Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルである。
【0006】
ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成する為には、上述した通り、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する必要がある。また同時に、極めて高硬度である硬質皮膜を被覆するため、ラフィングエンドミル母材と硬質皮膜との密着性を維持するために被覆母材が高靭性で耐チッピング性に優れ、且つ耐熱性に優れた母材とすることが重要である。その手段として、Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲にすることが極めて有効である。
【0007】
【発明の実施の形態】
上記該硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度に優れ、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する。これは該硬質皮膜内にSiNとして存在することにより、高温環境下で該硬質皮膜最表面のSiNが、SiとOの結合に変わり、緻密で強度の高いSi酸化物を硬質皮膜最表面に形成し、この緻密で強度の高いSi酸化物がその後の酸化防止層として作用する。また同時に、緻密で強度の高いSi酸化物は動的な酸化環境下においても、該硬質皮膜と剥離し難く耐酸化性に優れる。更に、硬質皮膜の高温環境下における軟化は、酸素の拡散に起因するため、耐酸化性に著しく優れる本発明皮膜は高温硬度においても著しく改善された。更に、硬質皮膜内にSiNとして存在する場合、硬質皮膜格子内の内部応力を高める作用をも有し、硬質皮膜が著しく高硬度化される。しかしながら、高硬度化されると同時に、硬質皮膜内に残留する圧縮応力も高くなってしまうため、硬質皮膜との密着性を維持するために靭性のある耐チッピング性に優れた母材とし、同時に耐熱性を付与することが必要である。そこで、母材中に含まれるV及びCoを、重量%で3≦V+Co≦11の範囲に限定する必要がある。この範囲であれば、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対しても、母材内部で緩和することが可能であり密着性に優れ、上記該硬質皮膜の優れた耐酸化性と高硬度である特性を充分に発揮することができる。また、母材中のVとCoが上記範囲を満足する場合、該硬質皮膜を被覆した場合の母材硬度と靭性のバランスが良く、また高速度鋼中のマトリックスの耐熱強度も優れる。これらの構成により、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成することが可能となる。
【0008】
該硬質皮膜としては、該硬質皮膜内に最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下である結晶質相と、アモルファス相を含み、更に、該硬質皮膜はX線回折における回折強度が200面で最大ピークを示し、その200面の回折線が2θの半価幅で1.5度以上であることとする。更に好ましくは、該硬質皮膜の少なくとも1層が、金属成分としてTi、Siを成分とし、更にC、N、O、Bの1種以上より選択される硬質皮膜であり、該硬質皮膜とは別の少なくとも1層は金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含む硬質皮膜を用いることがより好ましい。このような構成を採用することで、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する硬質皮膜となる。また同時にこれら硬質皮膜の改善とともに、ラフィングエンドミル母材中のV+Co重量%含有量に関しても最適化を行っているため、極めて高硬度を有する硬質皮膜を被覆した場合にも、硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力が母材内部で緩和され、高靭性であり耐チッピング性に優れ、また耐熱性をも併せ持った被覆ラフィングエンドミルが得られる。これらの改善により、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化が達成され、従来技術の課題を解決するに至った。
【0009】
本高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦V+Co≦11の範囲である必要がある。母材中のV及びCoは高速度鋼の硬度及び耐熱強度を決定する添加元素であると同時に靭性と耐摩耗性を決定する添加元素でもある。3重量%未満の場合は、高温環境下における母材強度が十分ではなく、工具寿命は不安定であった。これは、切削過程において波状切刃逃げ面側へ塑性変形を生じるためである。一方、11重量%を越える場合は、該硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力の緩和が不十分であり、密着性が十分ではなく、微細な皮膜剥離が発生する場合があり、波状切刃の山部にチッピングや欠けが発生してしまい短寿命を招いた。これらより、本発明である該硬質皮膜と該ラフィングエンドミル母材への密着強度を考慮した結果、高速度鋼中のVとCoの含有量を上記範囲内に決定した。また、該硬質皮膜中にSiとNの結合が確認されない場合、上述したように、極めて高温にさらされる波状切刃部表面部の硬質皮膜の高温環境下での硬度、耐酸化性が、工具摩耗を抑制するためには十分ではなく、従来課題を解決するには至らなかった。
【0010】
本高速度鋼は、母材硬さがHRC64以上、HRC68未満であることが好ましい。母材硬度がHRC64未満となる場合、過酷な切削環境下において波状切刃の山部が逃げ面側へ塑性変形を伴った摩耗進行も確認され、刃先強度が十分ではなく好ましくない。また、HRC68を超える場合は、該硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力の緩和が不十分であり、微細な皮膜剥離が発生する場合が確認され、好ましくない。本硬質皮膜は、該硬質皮膜内に最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下である結晶質相と、アモルファス相を含むことが望ましい。硬質皮膜内の最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下となる場合、皮膜硬度が高く、且つ高温硬度も著しく改善され、更に耐摩耗性に優れ好ましい。また、同時にアモルファス相を含む場合は、結晶と結晶の界面のような明瞭な結晶粒界がない為、結晶粒界を介して進行する酸素の拡散抑制に効果的であり、より好ましい。
【0011】
本硬質皮膜は、(200)面に強く配向した場合が最も皮膜内の格子欠陥が少なく、高密度であり耐酸化性に優れることより(200)面に最大のピーク強度をもつことが好ましい。更にその半価幅が1.5度以上の広がりを有する場合、皮膜硬度並びに耐酸化性改善への寄与が大きく好ましい。該硬質皮膜の少なくとも1層が、金属成分としてTi、Siを成分とし、更にC、N、O、Bの1種以上より選択される硬質皮膜であることが更に好ましい。金属成分として、TiとSi、更にC、N、O、Bの一種以上より構成される場合、皮膜硬度と耐酸化性のバランスが最も優れ、更に好ましい。上記、該硬質皮膜は該ラフィングエンドミル被覆母材と優れた密着性、皮膜硬度及び耐酸化性を有すものの、母材との密着性を更に改善し、切削寿命を安定化させるために、他層と組み合わせることも可能であり、好ましい。この特性を満足できる硬質皮膜として、金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含む硬質皮膜である。更に、硬質皮膜の母材への密着性を改善し、切削寿命を延ばすために、被覆前後に波状切刃近傍のバリやカエリ、及び被覆中に付着したドロップレット等の欠陥をショットブラスト等の機械的処理により除去することも好ましい。以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、本発明主旨に基づき適宜変更を施すことは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0012】
【実施例】
本発明の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルは、その被覆方法については,特に限定されるものではないが,被覆母材への熱影響、工具の疲労強度、皮膜の密着性等を考慮した場合、比較的低温で被覆でき、被覆した皮膜に適度な圧縮応力が残留するアーク放電方式イオンプレーティング法による被覆処理を行なった。アークイオンプレーティング装置を用い、金属成分の蒸発源である各種合金製ターゲット、並びに反応ガスであるN2ガス、CH4ガス、Ar+O2混合ガス、から目的の皮膜が得られるものを選択し,被覆母材温度400℃,反応ガス圧力3.0Paの条件下にて、被覆母材である各種高速度工具鋼製外径12mmの4刃ラフィングエンドミルにバイアス電圧−150Vを印加して、全皮膜の厚みが4μmとなるように被覆処理を行った。硬質皮膜中へのSi添加に関しては、金属ターゲット内に予め所定量添加した合金ターゲットを用いた。更に必要に応じ予め、アークイオンプレーティング法によりTiAlN系皮膜を被覆した後、該硬質皮膜を被覆した。
【0013】
【表1】
【0014】
表1において、組成の定量分析にはエネルギー分散型X線分光法、オージェ光電子分光法及び電子線エネルギーロス分光法により総合的に決定した。また、X線光電子分光分析によるSiとNの結合エネルギーの定性分析には、硬質皮膜表面を10分間Arイオンミーリング後SiO2換算で表面から約20nm除去に行なった。分析結果を表1に併記する。該硬質皮膜内のアモルファス相の定性分析及び結晶質相からなる最小結晶粒径の測定は、硬質皮膜断面を透過型電子顕微鏡によりランダムに選択した視野の断面写真より行なった。表1に透過型電子顕微鏡による断面写真から実測した結晶質相からなる最小結晶粒径を併記する。結晶粒径の実測方法は、断面写真から断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径により求めた。
【0015】
得られた硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルを用い、次に示す切削条件にて、刃先の欠けないしは摩耗等により工具が切削不能となるまで加工を行い、その時の切削長を工具寿命とした。
工具:4枚刃ラフィングエンドミル、外径12mm
切削方法:側面切削ダウンカット
被削材:SKD61HRC20
切込み:Ad18mm×Rd10mm
切削速度:80m/min
送り:0.1mm/tooth
切削油:エアーブロー
表1に本発明例及び比較例の詳細及びその切削結果を示す。また、併せて同一切削条件で加工した従来例についても表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
表1に示す本発明例は、従来例に比して安定した切削寿命が得られている。以下本発明例の詳細について述べる。表1に示す各組成の透過型電子顕微鏡による格子像観察結果から、本発明例の硬質皮膜内には何れも皮膜全体のB含有量よりもB含有量が多いアモルファス相が確認された。図1に本発明例1の硬質皮膜のX線光電子分光分析によるTiの2p軌道から得られる結合エネルギーを示し、少なくともTiとNの結合エネルギーが確認された。図2に本発明例1の硬質皮膜のX線光電子分光分析によるSiの2p軌道から得られる結合エネルギーを示し、少なくともSiとO、SiとNの結合エネルギーが確認された。
本発明例1、2、3はそれぞれ母材の(V+Co)重量%の合計が異なる場合の本発明例であるが従来例に比べ、切削寿命が長い。一方比較例14、15に母材中の(V+Co)重量%の合計が2.5重量%の場合と12.1重量%の場合の比較例を示す。母材中の(V+Co)重量%の合計が2.5重量%の場合、波状切刃の逃げ面側へ塑性変形を生じ、母材強度が十分ではなく、チッピングが多発した。母材中の(V+Co)重量%の合計が12.1重量%の場合は、微小な硬質皮膜剥離が観察され、高硬度を有する該硬質皮膜との密着性が悪く、不安定な摩耗状態であり、本発明である該硬質皮膜の特性を十分に発揮できなかった。従って、ラフィングエンドミルによる粗切削加工においては硬質皮膜により、被覆母材の影響がかなり大きいことが明らかである。
【0018】
本発明例5は本発明であるSi含有硬質皮膜内にBを添加しない場合であるが、従来例に比べ切削寿命が長いことを示しており、好ましくはBを添加したほうがよい。本発明例6は本発明である該硬質皮膜の成分がCrの場合であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例7は本発明である該硬質皮膜の成分がAlの場合であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例8は本発明である該硬質皮膜単一層の場合であるが、従来例に比べ切削寿命が長いものの、(TiAl)N皮膜等と組み合わせた多層膜がより好ましいと言える。本発明例9はTi(CN)皮膜との多層膜であるが、従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例10は本発明である該硬質皮膜の最強強度を示す面指数が(111)面の場合であるが従来例に比べては切削寿命に優れるものの、(200)面に最も強く配向する硬質皮膜がより好ましい。本発明例11は(CrAlSi)(NOB)皮膜との多層膜であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例12は本発明である該硬質皮膜内の結晶質相の最小結晶粒径が52nmの場合であるが、従来例に比べては切削寿命に優れるものの、50nm以下がより好ましいといえる。本発明例13は該硬質皮膜のX線回折から得られる(200)面の半価幅が1.5度未満の場合であるが従来例に比べて切削寿命が長いが、1.5度以上であることがより好ましいと言える。
【0019】
【発明の効果】
以上の如く、本発明の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルは、従来の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルに比べ、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜が、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度に優れ、また高温環境下で優れた耐酸化性を有するため、極めて高温にさらされる波状切刃表面部の摩耗抑制に効果を発揮する。またこれらの効果を維持するために、ラフィングエンドミル母材の最適なV+Co含有量に規定しており、高靭性で耐チッピング性に優れた母材とし、高硬度硬質皮膜の残留圧縮応力を母材内部で緩和し、密着性に優れる。これらの改善により、波状切刃の山部のチッピング、欠けもしくは皮膜剥離等に起因した異常摩耗を著しく抑制することが可能となり、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化により、生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、発明例1のX線光電子分光分析によるTiの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例1のX線光電子分光分析によるSiの結合エネルギーを示す。
【発明が属する技術分野】
本発明は、金型や機械構造部品に代表される金属材料等の切削加工において、主に粗削り用として用いられるエンドミル(以下、ラフィングエンドミルと呼ぶ。)に関する。
【0002】
【従来の技術】
金型や機械構造部品に代表される金属材料等の粗加工用工具として、外周刃先部に連続して波状に形成された、波状切刃を有するラフィングエンドミルが使用されている。この波状切刃は、波状切刃のない直刃エンドミルと比べ切削加工時の切削応力が分散されるため、工具径に対する切込み量を大きくとることができ、荒削り加工に適する。このようにラフィングエンドミルは、通常の波状切刃を有しない直刃エンドミルによる切削加工よりも大きな衝撃力が刃先に加わると同時に、単位時間あたりの切屑排出量が多くなり、切屑が排出される波状切刃近傍の逃げ面側及びすくい面側は極めて高温にさらされる。そこで、ラフィングエンドミルの波状切刃近傍の工具摩耗を抑制するために、皮膜硬度がHV2000以上のTiN、TiCN等の硬質皮膜を被覆することも行なわれている。更に、例えば、特許第2576400号公報に代表される従来のTiNよりも皮膜硬度並びに耐酸化性の改善がなされたTiAlNを被覆したラフィングエンドミル等も提案されている。しかしながら、更に近年の切削加工の分野では、粗切削加工の長寿命化並びにコスト低減のため、高能率化を目的とした高速加工及び被加工物の高硬度化等が求められており、これらTiCN皮膜やTiAlN皮膜を被覆したラフィングエンドミルでは、これらの要求に対して満足される切削寿命は得られてはいない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、金属の粗加工におけるラフィングエンドミルの波状切刃近傍の逃げ面及びすくい面の損傷状態を注意深く解析した結果、工具逃げ面側では硬質皮膜内に酸素が拡散しており、皮膜最表面にTiとOが結合した強度の低い酸化物を形成し、この強度の低い酸化物を起点とした硬質皮膜の脱落が繰り返されている事実を突き止めた。また、切屑の排出部となる工具すくい面側では被加工物である鉄と酸素が皮膜内部に拡散しており、この鉄と酸素が硬質皮膜の酸化を助長し摩耗が進行していた。以上のように、波状切刃先端近傍では著しく温度が上昇し、硬質皮膜の酸化と被加工物からの鉄の拡散並びに波状切刃逃げ面のアブレッシブ摩耗等が総合的に影響し、その結果工具切刃の欠損もしくはチッピングが発生し、切削工具の短寿命を招いていることが明らかとなった。従って、ラフィングエンドミルにおける切削加工の高能率化においては、波状切刃表面に被覆する硬質皮膜が高温環境下でより高い硬度を維持する硬質皮膜の高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する硬質皮膜とする必要がある。また、工具母材としては、これら高硬度からなる硬質皮膜との密着性を維持するために靭性のある耐チッピング性に優れた母材とする必要がある。
【0004】
本発明はこうした事情に鑑み、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する必要があると考えた。また同時に、極めて高硬度である硬質皮膜を被覆するため、ラフィングエンドミル母材と硬質皮膜との密着性を維持するために靭性のある耐チッピング性に優れ、かつ耐熱性に優れた母材とする必要があると考えた。これらの改善により、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成することのできる硬質皮膜被覆ラフィングエンドミルの構成を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
これら課題を達成するための本発明は、Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルである。
【0006】
ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成する為には、上述した通り、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する必要がある。また同時に、極めて高硬度である硬質皮膜を被覆するため、ラフィングエンドミル母材と硬質皮膜との密着性を維持するために被覆母材が高靭性で耐チッピング性に優れ、且つ耐熱性に優れた母材とすることが重要である。その手段として、Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲にすることが極めて有効である。
【0007】
【発明の実施の形態】
上記該硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度に優れ、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する。これは該硬質皮膜内にSiNとして存在することにより、高温環境下で該硬質皮膜最表面のSiNが、SiとOの結合に変わり、緻密で強度の高いSi酸化物を硬質皮膜最表面に形成し、この緻密で強度の高いSi酸化物がその後の酸化防止層として作用する。また同時に、緻密で強度の高いSi酸化物は動的な酸化環境下においても、該硬質皮膜と剥離し難く耐酸化性に優れる。更に、硬質皮膜の高温環境下における軟化は、酸素の拡散に起因するため、耐酸化性に著しく優れる本発明皮膜は高温硬度においても著しく改善された。更に、硬質皮膜内にSiNとして存在する場合、硬質皮膜格子内の内部応力を高める作用をも有し、硬質皮膜が著しく高硬度化される。しかしながら、高硬度化されると同時に、硬質皮膜内に残留する圧縮応力も高くなってしまうため、硬質皮膜との密着性を維持するために靭性のある耐チッピング性に優れた母材とし、同時に耐熱性を付与することが必要である。そこで、母材中に含まれるV及びCoを、重量%で3≦V+Co≦11の範囲に限定する必要がある。この範囲であれば、上記硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力に対しても、母材内部で緩和することが可能であり密着性に優れ、上記該硬質皮膜の優れた耐酸化性と高硬度である特性を充分に発揮することができる。また、母材中のVとCoが上記範囲を満足する場合、該硬質皮膜を被覆した場合の母材硬度と靭性のバランスが良く、また高速度鋼中のマトリックスの耐熱強度も優れる。これらの構成により、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化を達成することが可能となる。
【0008】
該硬質皮膜としては、該硬質皮膜内に最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下である結晶質相と、アモルファス相を含み、更に、該硬質皮膜はX線回折における回折強度が200面で最大ピークを示し、その200面の回折線が2θの半価幅で1.5度以上であることとする。更に好ましくは、該硬質皮膜の少なくとも1層が、金属成分としてTi、Siを成分とし、更にC、N、O、Bの1種以上より選択される硬質皮膜であり、該硬質皮膜とは別の少なくとも1層は金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含む硬質皮膜を用いることがより好ましい。このような構成を採用することで、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜は、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度、また高温環境下で優れた耐酸化性を有する硬質皮膜となる。また同時にこれら硬質皮膜の改善とともに、ラフィングエンドミル母材中のV+Co重量%含有量に関しても最適化を行っているため、極めて高硬度を有する硬質皮膜を被覆した場合にも、硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力が母材内部で緩和され、高靭性であり耐チッピング性に優れ、また耐熱性をも併せ持った被覆ラフィングエンドミルが得られる。これらの改善により、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化が達成され、従来技術の課題を解決するに至った。
【0009】
本高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦V+Co≦11の範囲である必要がある。母材中のV及びCoは高速度鋼の硬度及び耐熱強度を決定する添加元素であると同時に靭性と耐摩耗性を決定する添加元素でもある。3重量%未満の場合は、高温環境下における母材強度が十分ではなく、工具寿命は不安定であった。これは、切削過程において波状切刃逃げ面側へ塑性変形を生じるためである。一方、11重量%を越える場合は、該硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力の緩和が不十分であり、密着性が十分ではなく、微細な皮膜剥離が発生する場合があり、波状切刃の山部にチッピングや欠けが発生してしまい短寿命を招いた。これらより、本発明である該硬質皮膜と該ラフィングエンドミル母材への密着強度を考慮した結果、高速度鋼中のVとCoの含有量を上記範囲内に決定した。また、該硬質皮膜中にSiとNの結合が確認されない場合、上述したように、極めて高温にさらされる波状切刃部表面部の硬質皮膜の高温環境下での硬度、耐酸化性が、工具摩耗を抑制するためには十分ではなく、従来課題を解決するには至らなかった。
【0010】
本高速度鋼は、母材硬さがHRC64以上、HRC68未満であることが好ましい。母材硬度がHRC64未満となる場合、過酷な切削環境下において波状切刃の山部が逃げ面側へ塑性変形を伴った摩耗進行も確認され、刃先強度が十分ではなく好ましくない。また、HRC68を超える場合は、該硬質皮膜内に発生する残留圧縮応力の緩和が不十分であり、微細な皮膜剥離が発生する場合が確認され、好ましくない。本硬質皮膜は、該硬質皮膜内に最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下である結晶質相と、アモルファス相を含むことが望ましい。硬質皮膜内の最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下となる場合、皮膜硬度が高く、且つ高温硬度も著しく改善され、更に耐摩耗性に優れ好ましい。また、同時にアモルファス相を含む場合は、結晶と結晶の界面のような明瞭な結晶粒界がない為、結晶粒界を介して進行する酸素の拡散抑制に効果的であり、より好ましい。
【0011】
本硬質皮膜は、(200)面に強く配向した場合が最も皮膜内の格子欠陥が少なく、高密度であり耐酸化性に優れることより(200)面に最大のピーク強度をもつことが好ましい。更にその半価幅が1.5度以上の広がりを有する場合、皮膜硬度並びに耐酸化性改善への寄与が大きく好ましい。該硬質皮膜の少なくとも1層が、金属成分としてTi、Siを成分とし、更にC、N、O、Bの1種以上より選択される硬質皮膜であることが更に好ましい。金属成分として、TiとSi、更にC、N、O、Bの一種以上より構成される場合、皮膜硬度と耐酸化性のバランスが最も優れ、更に好ましい。上記、該硬質皮膜は該ラフィングエンドミル被覆母材と優れた密着性、皮膜硬度及び耐酸化性を有すものの、母材との密着性を更に改善し、切削寿命を安定化させるために、他層と組み合わせることも可能であり、好ましい。この特性を満足できる硬質皮膜として、金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含む硬質皮膜である。更に、硬質皮膜の母材への密着性を改善し、切削寿命を延ばすために、被覆前後に波状切刃近傍のバリやカエリ、及び被覆中に付着したドロップレット等の欠陥をショットブラスト等の機械的処理により除去することも好ましい。以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではなく、本発明主旨に基づき適宜変更を施すことは何れも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0012】
【実施例】
本発明の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルは、その被覆方法については,特に限定されるものではないが,被覆母材への熱影響、工具の疲労強度、皮膜の密着性等を考慮した場合、比較的低温で被覆でき、被覆した皮膜に適度な圧縮応力が残留するアーク放電方式イオンプレーティング法による被覆処理を行なった。アークイオンプレーティング装置を用い、金属成分の蒸発源である各種合金製ターゲット、並びに反応ガスであるN2ガス、CH4ガス、Ar+O2混合ガス、から目的の皮膜が得られるものを選択し,被覆母材温度400℃,反応ガス圧力3.0Paの条件下にて、被覆母材である各種高速度工具鋼製外径12mmの4刃ラフィングエンドミルにバイアス電圧−150Vを印加して、全皮膜の厚みが4μmとなるように被覆処理を行った。硬質皮膜中へのSi添加に関しては、金属ターゲット内に予め所定量添加した合金ターゲットを用いた。更に必要に応じ予め、アークイオンプレーティング法によりTiAlN系皮膜を被覆した後、該硬質皮膜を被覆した。
【0013】
【表1】
【0014】
表1において、組成の定量分析にはエネルギー分散型X線分光法、オージェ光電子分光法及び電子線エネルギーロス分光法により総合的に決定した。また、X線光電子分光分析によるSiとNの結合エネルギーの定性分析には、硬質皮膜表面を10分間Arイオンミーリング後SiO2換算で表面から約20nm除去に行なった。分析結果を表1に併記する。該硬質皮膜内のアモルファス相の定性分析及び結晶質相からなる最小結晶粒径の測定は、硬質皮膜断面を透過型電子顕微鏡によりランダムに選択した視野の断面写真より行なった。表1に透過型電子顕微鏡による断面写真から実測した結晶質相からなる最小結晶粒径を併記する。結晶粒径の実測方法は、断面写真から断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径により求めた。
【0015】
得られた硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルを用い、次に示す切削条件にて、刃先の欠けないしは摩耗等により工具が切削不能となるまで加工を行い、その時の切削長を工具寿命とした。
工具:4枚刃ラフィングエンドミル、外径12mm
切削方法:側面切削ダウンカット
被削材:SKD61HRC20
切込み:Ad18mm×Rd10mm
切削速度:80m/min
送り:0.1mm/tooth
切削油:エアーブロー
表1に本発明例及び比較例の詳細及びその切削結果を示す。また、併せて同一切削条件で加工した従来例についても表2に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
表1に示す本発明例は、従来例に比して安定した切削寿命が得られている。以下本発明例の詳細について述べる。表1に示す各組成の透過型電子顕微鏡による格子像観察結果から、本発明例の硬質皮膜内には何れも皮膜全体のB含有量よりもB含有量が多いアモルファス相が確認された。図1に本発明例1の硬質皮膜のX線光電子分光分析によるTiの2p軌道から得られる結合エネルギーを示し、少なくともTiとNの結合エネルギーが確認された。図2に本発明例1の硬質皮膜のX線光電子分光分析によるSiの2p軌道から得られる結合エネルギーを示し、少なくともSiとO、SiとNの結合エネルギーが確認された。
本発明例1、2、3はそれぞれ母材の(V+Co)重量%の合計が異なる場合の本発明例であるが従来例に比べ、切削寿命が長い。一方比較例14、15に母材中の(V+Co)重量%の合計が2.5重量%の場合と12.1重量%の場合の比較例を示す。母材中の(V+Co)重量%の合計が2.5重量%の場合、波状切刃の逃げ面側へ塑性変形を生じ、母材強度が十分ではなく、チッピングが多発した。母材中の(V+Co)重量%の合計が12.1重量%の場合は、微小な硬質皮膜剥離が観察され、高硬度を有する該硬質皮膜との密着性が悪く、不安定な摩耗状態であり、本発明である該硬質皮膜の特性を十分に発揮できなかった。従って、ラフィングエンドミルによる粗切削加工においては硬質皮膜により、被覆母材の影響がかなり大きいことが明らかである。
【0018】
本発明例5は本発明であるSi含有硬質皮膜内にBを添加しない場合であるが、従来例に比べ切削寿命が長いことを示しており、好ましくはBを添加したほうがよい。本発明例6は本発明である該硬質皮膜の成分がCrの場合であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例7は本発明である該硬質皮膜の成分がAlの場合であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例8は本発明である該硬質皮膜単一層の場合であるが、従来例に比べ切削寿命が長いものの、(TiAl)N皮膜等と組み合わせた多層膜がより好ましいと言える。本発明例9はTi(CN)皮膜との多層膜であるが、従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例10は本発明である該硬質皮膜の最強強度を示す面指数が(111)面の場合であるが従来例に比べては切削寿命に優れるものの、(200)面に最も強く配向する硬質皮膜がより好ましい。本発明例11は(CrAlSi)(NOB)皮膜との多層膜であるが従来例に比べ切削寿命が長い。本発明例12は本発明である該硬質皮膜内の結晶質相の最小結晶粒径が52nmの場合であるが、従来例に比べては切削寿命に優れるものの、50nm以下がより好ましいといえる。本発明例13は該硬質皮膜のX線回折から得られる(200)面の半価幅が1.5度未満の場合であるが従来例に比べて切削寿命が長いが、1.5度以上であることがより好ましいと言える。
【0019】
【発明の効果】
以上の如く、本発明の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルは、従来の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルに比べ、ラフィングエンドミルの波状切刃部表面に被覆する硬質皮膜が、高温環境下でより高い硬度を維持する高温硬度に優れ、また高温環境下で優れた耐酸化性を有するため、極めて高温にさらされる波状切刃表面部の摩耗抑制に効果を発揮する。またこれらの効果を維持するために、ラフィングエンドミル母材の最適なV+Co含有量に規定しており、高靭性で耐チッピング性に優れた母材とし、高硬度硬質皮膜の残留圧縮応力を母材内部で緩和し、密着性に優れる。これらの改善により、波状切刃の山部のチッピング、欠けもしくは皮膜剥離等に起因した異常摩耗を著しく抑制することが可能となり、ラフィングエンドミルによる粗切削加工の高速化並びに長寿命化により、生産性向上並びにコスト低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、発明例1のX線光電子分光分析によるTiの結合エネルギーを示す。
【図2】図2は、本発明例1のX線光電子分光分析によるSiの結合エネルギーを示す。
Claims (6)
- Siと周期律表4a、5a、6a族の元素及びAlから選ばれる1種以上の成分と、C、N、O、Bより選ばれる1種以上の成分から選ばれる硬質皮膜を少なくとも1層以上被覆した硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層は、X線光電子分光分析でSiとNの結合エネルギーが認知される硬質皮膜であり、該高速度鋼の母材中に含まれるV及びCoが、重量%で3≦(V+Co)≦11の範囲であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
- 請求項1記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜内に含まれる結晶粒子の粒径を、粒子断面の面積を円の面積として置き換えた場合の直径である等価円直径として求めた場合に、最小結晶粒径が0.5nm以上、50nm以下である結晶質相と、アモルファス相を含むことを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
- 請求項1乃至請求項2記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜はX線回折における回折強度が(200)面で最大ピークを示し、その(200)面の回折線が2θの半価幅で1.5度以上であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
- 請求項1乃至請求項3記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜の少なくとも1層が、金属成分としてTi、Siを、非金属成分としてC、N、O、Bの1種以上より選択される硬質皮膜であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
- 請求項1乃至請求項4記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該硬質皮膜と、別の少なくとも1層は金属元素として少なくともAlとTiを含み、非金属元素として少なくともNを含むことを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
- 請求項1記載の硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミルにおいて、該高速度鋼の硬さがHRC64以上、HRC68未満であることを特徴とする硬質皮膜被覆高速度鋼製ラフィングエンドミル。
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