JP4116425B2 - 重陽子発生ターゲット及び重陽子発生ターゲット装置 - Google Patents

重陽子発生ターゲット及び重陽子発生ターゲット装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度レーザーを照射して重陽子を発生させる重陽子発生ターゲットと、この重陽子発生ターゲットを構成要素として有する重陽子発生ターゲット装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
PET(Positron Emission Tomography:ポジトロン断層イメージング装置)は、ポジトロンを放出する短寿命放射性同位体を含む薬剤を体内に投与し、その薬剤の体内動態を撮影して画像化するものである。このPETに使用される短寿命放射性同位体は、高速の陽子や重陽子を別の原子に衝突させることにより生成される。このような短寿命放射性同位体を生成する核反応としては表1に示すような反応が知られている。
【0003】
【表1】
Figure 0004116425
表1に示される通り、短寿命放射性同位体を生成する核反応では、陽子を用いた場合よりも重陽子を用いた場合の方が反応のしきい値が低く、効率よく短寿命放射性同位体を生成することができる。
【0004】
従来、PET装置に付設されて高速の重陽子を得るための重陽子発生装置としては、サイクロトロンが用いられてきた。また、強化ポリエステル膜上に重水素化ポリスチレンを塗布した膜に高強度レーザーを照射して高エネルギーの重陽子を生成する手法も知られている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】
K.Nemoto et al.,「Laser-triggered ion acceleration and table top isotope production」,APPLIED PHYSICS LETTERS(US),American Instit ute of Physics,29.JANUARY.2001,VOL.78,No.5,p.595‐597
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、サイクロトロンは装置が大型であるという問題を有する。一方、高強度レーザーを用いる手法によれば重陽子を生成する装置を小型にすることができる。しかし、強化ポリエステル膜上に重水素化ポリスチレンを塗布した膜を用いた場合には、重陽子が効率良く放出されないという問題を有する。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、重陽子を効率よく発生することができる重陽子発生ターゲットと、これを用いた重陽子発生ターゲット装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題点につき鋭意検討を重ねた結果、従来の重陽子発生ターゲットでは下地の強化ポリエステルに水素が含まれており、高強度レーザーが照射された場合、重水素の原子核(重陽子)よりも軽い水素の原子核(陽子)が先に放出されるため、重陽子が効率良く放出され難くなっている、との知見を得た。
【0009】
そこで本発明に係る第1のタイプの重陽子発生ターゲットは、含ハロゲン有機化合物を主成分とする薄膜と、この薄膜に積層された重水素化された有機化合物を主成分とする層と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第1のタイプの重陽子発生ターゲットによれば、含ハロゲン有機化合物を主成分とする薄膜では水素がハロゲンに置換されているため、高強度レーザーが照射されたときに重水素の原子核(重陽子)より軽い水素の原子核(陽子)が先に放出されることが無く、重陽子を効率よく発生することができる。
【0011】
この場合、含ハロゲン有機化合物がフッ素置換炭化水素であることが好適である。このようにすれば、薄膜における水素がフッ素に置換されていることにより、高強度レーザーが照射されたときに重水素の原子核(重陽子)より軽い水素の原子核(陽子)が先に放出されることが無く、重陽子を効率よく発生することができる。
【0012】
本発明に係る第2のタイプの重陽子発生ターゲットは、含ハロゲン有機化合物を主成分とする多孔質膜を備え、この多孔質膜は、重水素化された有機化合物を含浸している、ことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る第2のタイプの重陽子発生ターゲットによれば、含ハロゲン有機化合物を主成分とする多孔質膜の内部に多量の重水素化された有機化合物を含浸させることができる。このため、高強度レーザーが照射されたときに重陽子より軽い陽子が先に放出されることが無く、重陽子を効率よく発生できる。
【0014】
この場合、含ハロゲン有機化合物がフッ素置換炭化水素であることが好適である。このようにすれば、多孔質膜における水素がフッ素に置換されていることにより、高強度レーザーが照射されたときに重水素の原子核(重陽子)より軽い水素の原子核(陽子)が先に放出されることが無く、重陽子を効率よく発生することができる。
【0015】
更に本発明者らは、第1または第2のタイプの重陽子発生ターゲットを構成要素として有する重陽子発生ターゲット装置の改良につき、鋭意検討を重ねた結果、強化ポリエステル膜上に重水素化ポリスチレンを塗布した膜に高強度レーザーが照射された場合、膜に穴が開き再度使用することが出来ないという問題を有する事を見出した。
【0016】
そこで本発明に係る重陽子発生ターゲット装置は、第1または第2のタイプの重陽子発生ターゲットと、重陽子発生ターゲットを所定の平面上に保持する保持手段と、この保持手段を駆動することにより重陽子発生ターゲットを所定の平面に沿う方向に移動させる移動手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る重陽子発生ターゲット装置によれば、重陽子発生ターゲットが保持手段により保持され移動手段により移動されので、重陽子発生ターゲットにおける高強度レーザーの照射領域が種々の態様(同心円状あるいは螺旋状等の態様)で移動される。よって、同一の重陽子発生ターゲットを連続して複数回にわたり使用することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る重陽子発生ターゲット1の構成を、図1を用いて説明する。
【0020】
重陽子発生ターゲット1は、含ハロゲン有機化合物を主成分とする薄膜10を基材とし、この薄膜10に重水素化された有機化合物の層20が積層されることにより構成される。本実施形態において、重陽子発生ターゲット1は薄い略円盤形状(または円形フィルム形状)であり、基材(薄膜10)を構成する含ハロゲン有機化合物はフッ素置換炭化水素である。
【0021】
薄膜10の主成分をなす含ハロゲン有機化合物とは、フッ素、臭素及び塩素等のハロゲン元素を含む有機化合物をいう。また、フッ素置換炭化水素とは、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された炭化水素をいう。ここで、含ハロゲン有機化合物(フッ素置換炭化水素)としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(商品名ポリフロンTFE、テフロンTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)(商品名ダイフロンCTFE、Kel−F)、テトラフルオロエチレン・エキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)(商品名ネオフロンFEP、テフロンFEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)(商品名KFポリマー、Kynar)及びテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキビニルエーテル共重合体(PFA)(商品名テフロンPFA、ネオフロンPFA)等が挙げられる。
【0022】
また、薄膜10に積層される層20には、重水素化された有機化合物として、例えば、重水素化したポリスチレン等が用いられる。
【0023】
このように、重陽子発生ターゲット1は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(商品名ポリフロンTFE、テフロンTFE)の薄膜10を下地に用いて、その薄膜10上に重水素化したポリスチレン等を塗布して層20を積層したものである。重水素化ポリスチレンの薄膜のみで重陽子発生ターゲットを作成した場合には、ポリスチレンの重合が不十分であると機械的強度の高い薄膜を得ることができないため、機械的強度の高い重陽子発生ターゲットを得ることが困難である。しかし、ポリテトラフルオロエチレンの薄膜10を下地に用いてその薄膜10上に重水素化したポリスチレン等を塗布することによって、機械的強度の高い重陽子発生ターゲット1を得ることができる。
【0024】
また、このように機械的強度の高い下地の上にターゲットを作成しているので、切断等によって容易に重陽子発生ターゲット1の形状を変えることができる。
【0025】
重陽子発生ターゲット1において、ポリテトラフルオロエチレンの薄膜10の膜厚は約6μm、塗布するポリスチレンの厚みは約1μmとすることができる。ここで、ポリテトラフルオロエチレンは、CF2=CF2の重合体であり、強化ポリエステルで問題となった水素原子を含まない。よって、高強度レーザーが照射されたときに、重水素の原子核(重陽子)より軽い水素の原子核(陽子)が先に放出されることが無く、重陽子を効率良く発生させることができる。
【0026】
次に、図1に示す重陽子発生ターゲット1の製造方法について説明する。なお、これは薄膜10をポリテトラフルオロエチレン、それに積層する層20を重水素化ポリスチレンで構成する場合の製造方法である。
【0027】
重水素化したスチレンは、例えば、シグマアルドリッチジャパン株式会社から購入することができる。そして、この重水素化したスチレンをラジカル重合等によって重合し、重水素化ポリスチレンを得る。
【0028】
次に、例えばポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、デュポン社の商品名テフロン)の薄膜10上に、上記の重水素化ポリスチレンをスピンコート等によって塗布する。これにより、ポリテトラフルオロエチレンの薄膜10上に重水素化ポリスチレンの層20が積層された構造を有し、機械的強度の高い重陽子発生ターゲット1を得ることができる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る重陽子発生ターゲット2の構成を、図2を用いて説明する。
【0030】
重陽子発生ターゲット2は、含ハロゲン有機化合物を主成分とする多孔質膜30を基材としており、この多孔質膜30には重水素化された有機化合物が含浸されている。これにより、多孔質膜30の上面の全面がターゲット領域40とされている。本実施形態においても基材は薄い略円盤形状(または円形のフィルム形状)であり、含ハロゲン有機化合物はフッ素置換炭化水素である。
【0031】
含ハロゲン有機化合物を主成分とする多孔質膜30としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを多孔質の薄いフィルタ(膜厚約70μm)状に加工したもの等が挙げられる。また、この多孔質膜30に含浸される重水素化された有機化合物としては、例えば、重水素化したポリスチレン等が用いられる。このような多孔質の薄膜状フィルタは、PTFEメンブランフィルタとして市販されているもの(例えば、ADVANTEC製PTFEタイプメンブランフィルター等)を用いても良い。このような多孔質フィルタでは、多孔度が70%以上であるので多量のターゲット材料を染み込ませることができる。
【0032】
次に、図2に示す重陽子発生ターゲット2の製造方法について説明する。なお、これは多孔質膜30をポリテトラフルオロエチレン、含浸剤を重水素化ポリスチレンとした場合の製造方法である。
【0033】
まず、図1の場合と同様にして得た重水素化したポリスチレンを溶媒に溶かす。具体的には、重水素化ポリスチレン50mgにトルエン1mlを加え、良く振って完全に溶かす。
【0034】
次に、シャーレにこの重水素化ポリスチレン溶液を入れて均一になるように広げる。そして、ポリテトラフルオロエチレンの多孔質薄膜状フィルタ(ADVANTEC製PTFEタイプメンブランフィルター)をシャーレに入れて、この重水素化ポリスチレン溶液を染み込ませる。この時、シャーレを良く振り溶液を均一に染み込ませる。
【0035】
次に、フィルタをシャーレから取り出してポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)シート上に広げて溶媒のトルエンを気化させる。シートにポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)を用いると、フィルタが貼り付かないので容易に剥がす事ができる。そして、薬包紙やポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)処理された紙に上記フィルタを挟んでプレス機で圧縮し、しわを伸ばして平らにする。
【0036】
以上により、ポリテトラフルオロエチレンの多孔質膜30と、この多孔質膜30に含浸された重水素化ポリスチレンとを備える重陽子発生ターゲット2を製造することができる。
【0037】
(第3および第4実施形態)
次に、第3および第4実施形態に係る重陽子発生ターゲット3および4の構成を、図3および図4を用いて説明する。
【0038】
いずれの実施形態においても、重陽子発生ターゲット3および4は、フッ素置換炭化水素のような含ハロゲン有機化合物を主成分とする帯状の多孔質膜50を基材としている。この帯状の多孔質膜50の中央部には長手方向に沿って重水素化された有機化合物が含浸されているが、第3および第4実施形態ではその含浸エリアが異なる。すなわち、図3に示す第3実施形態ではストライプ状に含浸させられており、これによりターゲット領域60がストライプ状に形成されている。一方、図4に示す第4実施形態では一定間隔を空けた連続スポット状に含浸させられており、これによりターゲット領域70が連続スポット状に形成されている。
【0039】
含ハロゲン有機化合物を主成分とする多孔質膜50としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを多孔質の薄膜状のフィルタ(膜厚約70μm)に加工したもの等が挙げられる。また、この多孔質の薄膜状フィルタが含浸している重水素化された有機化合物としては、例えば、重水素化したポリスチレン等が用いられる。このような多孔質の薄膜状フィルタは、PTFEメンブランフィルタとして市販されているもの(例えば、ADVANTEC製PTFEタイプメンブランフィルター等)を用いても良い。このような多孔質フィルタでは、多孔度が70%以上であるので多量のターゲット材料を染み込ませることができる。
【0040】
次に、図5を参照して、重陽子発生ターゲット3の製造方法を説明する。図5は、重陽子発生ターゲット3の製造に用いられる装置を示す。
【0041】
帯状の多孔質薄膜フィルタ50は繰り出し側の回転軸120に巻き付けられており、多孔質薄膜フィルタ50の他端は引き込み側の回転軸110に固定される。この状態で、図示しない駆動機構により回転軸110を矢印A1方向に回転駆動させると、回転軸120は矢印A2方向に従動して回転し、多孔質薄膜フィルタ50は回転軸120から回転軸110方向に順次巻き取られていく。このとき、両回転軸110,120の中間部上方に設置したピペット100より含浸剤を滴下すれば、多孔質薄膜フィルタ50の移動速度と含浸剤の滴下量および滴下タイミングに応じた態様のターゲット領域を形成できる。なお、破線L1は、重水素化ポリスチレンが滴下される経路を表す。
【0042】
なお、帯状の多孔質薄膜フィルタ50としてはポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)、滴下させる含浸剤としてはトルエン等の溶媒に溶かした重水素化ポリスチレンを用い得る。図5は含浸剤を連続して滴下することにより、図3に示すストライプ状のターゲット領域60を有する重陽子発生ターゲット3を製造するプロセスを示している。この滴下のタイミングを間歇的とすれば、連続するスポット状にターゲット領域70を有する図4の重陽子発生ターゲット4を製造できる。
【0043】
このように、第3及び第4実施形態に係る重陽子発生ターゲット3及び4によれば、レーザー光を照射する部分のみに重水素化ポリスチレンを塗布することにより、無駄な重水素化ポリスチレンの消費を抑えることができるため、ターゲット材料を効率良く使用することが可能となる。
【0044】
以上、重陽子発生ターゲット1〜4によれば、ポリテトラフルオロエチレン等の含ハロゲン有機化合物を主成分とする基材(薄膜10や多孔質膜50)は、素材を構成する水素がハロゲンに置換されているので、高強度レーザーが照射されたときに重水素の原子核(重陽子)より軽い水素の原子核(陽子)が先に放出されることが無く、重陽子を効率良く発生させることができる。
【0045】
(重陽子発生ターゲット装置の実施形態)
図6は、回転式重陽子発生ターゲット装置5の構成を示す図であり、ここでは第1又は第2実施形態に係る円盤状の重陽子発生ターゲットが適用される。回転式重陽子発生ターゲット装置5は、例えば図1に示す重陽子発生ターゲット1と、これを所定の平面(この実施形態では回転軸と直交する平面)で保持する支持部材210及び重陽子発生ターゲット押え220と、この保持手段を回転させる回転手段として、図示しない回転機構とこれに連結された回転ロッド230を備えている。さらに保持手段を直線方向に移動させる移動手段として、移動機構240及びシャフト250を備えている。
【0046】
これを具体的に説明すると、厚い円筒状の支持部材210にはリング状の重陽子発生ターゲット押え220が同軸で付設されており、支持部材210と重陽子発生ターゲット押え220との間には薄い円形のフィルム状の重陽子発生ターゲット1が同軸に挟まれて保持される。重陽子発生ターゲット1に対しては、垂直方向(図面の右方向)から高強度のレーザー光300(詳細は後述)が照射される。
【0047】
図示しない回転機構により矢印A3方向に回転させられる回転ロッド230は、二股の軸受け機構260により回転自在に支持されており、回転ロッド230の先端には支持部材210が固定されている。よって、支持部材210と重陽子発生ターゲット押え220とに挟まれて保持された重陽子発生ターゲット1は、回転機構により矢印A3の方向に回転される。
【0048】
二股の軸受け機構260の基部は、矢印A4方向に往復直線移動が可能なステージ270に固定されている。ステージ270を駆動する移動機構240にはシャフト250が取り付けられており、これを矢印A5方向へ回動駆動することにより、支持部材210及び重陽子発生ターゲット押え220がその中心軸に対して垂直な方向A4に移動させられる。
【0049】
次に、回転式重陽子発生ターゲット装置5の動作について説明する。
【0050】
重陽子発生ターゲット1に照射される高強度レーザー光300は、例えば、パルスエネルギー120J、パルス幅0.9〜1.2ps、波長1.053μmであり、図示されていない軸はずし放物面鏡(例えば、直径1800mm、焦点距離450mm)により真空中(約10-5Torr)でスポット径6μm、光密度1020W/cm2に集光されて形成される。重陽子発生ターゲット1に高強度レーザー光300が照射されると、その進行方向前方と後方へ高速重陽子が放出される。この高速重陽子が放出される方向に核反応物質(例えば、10B)が配置されていることにより、核反応(10B(d,n)11C)によって放射性同位体(11C)が生成される。ここで、10Bに変えて14Nが配置されている場合には、14N(d,n)15O反応によってポジトロン放出核15Oが生成される。
【0051】
このように重陽子発生ターゲット1に高強度レーザー光300が照射された場合、重陽子発生ターゲット1における高強度レーザー光300の照射領域には穴H1が開き、同じ照射領域は再度使用することができない。よって、次に、図示しない回転機構により重陽子発生ターゲット1を所定の角度(10度/秒)だけ矢印A3方向に回転し、また、必要に応じて移動機構240によりステージ270を矢印A4方向に所定の距離(1mm/秒)だけ移動させる。これにより重陽子発生ターゲット1における高強度レーザー光300の照射領域が同心円状あるいは螺旋状に移動する。このように重陽子発生ターゲット1における高強度レーザー光300の照射領域を同心円状又は螺旋状に移動することにより、同一の重陽子発生ターゲット1を連続して複数回にわたり使用することができる。
【0052】
図7は、巻き取り式重陽子発生ターゲット装置6の構成を示す図であり、ここでは第3又は第4実施形態に係る帯状の重陽子発生ターゲットが適用される。巻き取り式重陽子発生ターゲット装置6は、例えば図3に示す重陽子発生ターゲット3と、これを所定の平面上(この実施形態ではガイド部430の長手方向に平行な平面)に保持するガイド部430を備えている。また、この重陽子発生ターゲット3を移動させる移動手段として、重陽子発生ターゲット3を巻き取る巻き取り機構410と、この巻き取り機構410に連結されこれを回転させるモーター400と、重陽子発生ターゲット3を送り出す送り出し機構420とを備えている。
【0053】
これを具体的に説明すると、四角い枠組みを有するフレーム440の上面内側及び下面内側それぞれの略中央部に互いに対向するようにV字型の溝部を有するガイド部430が取り付けられており、この双方のV字型の溝部により重陽子発生ターゲット3が移動可能に保持される。重陽子発生ターゲット3に対しては、垂直方向から図示しない高強度のレーザー光が照射される。
【0054】
巻き取り機構410は、円筒状のシャフトを有し、このシャフトはその一端がフレーム440に回転自在に取り付けられており、他端がモーター400の回転軸に同軸に連結されている。また、このシャフトには帯状の重陽子発生ターゲット3の一方の短辺が固定されており、モーター400が駆動されることにより巻き取り機構410が矢印A6方向に回転されて重陽子発生ターゲット3が巻き取られる。これによって、重陽子発生ターゲット3におけるレーザー光300の照射領域は、矢印A8方向に移動させられる。
【0055】
送り出し機構420は、円筒状のシャフトを有し、このシャフトはその両端がフレーム440に回転自在に取り付けられている。また、このシャフトには帯状の重陽子発生ターゲット3の他方の短辺が固定されており、モーター400の駆動によって巻き取り機構410が回転させられ重陽子発生ターゲット3が巻き取られることに従いシャフトが矢印A7方向に回転させられる。これによって、重陽子発生ターゲット3が矢印A8方向に送り出される。
【0056】
図7に示す巻き取り式重陽子発生ターゲット装置6を用いた場合でも、図6の回転式重陽子発生ターゲット装置5を用いた場合と同様の作用、効果を奏することができる。
【0057】
すなわち、図7において重陽子発生ターゲット3に高強度のレーザー光300が照射されたとき、その照射領域には穴が開き、同じ照射領域は再度使用することができない。そこで、モーター400を駆動し、巻き取り機構410を矢印A6の方向に回転することにより、重陽子発生ターゲット3を所定の長さ(1mm/秒)矢印A8方向に移動させる。これにより新しい照射領域がセットされる。このように重陽子発生ターゲット3を巻き取ることにより同一の重陽子発生ターゲット3を連続して使用することができる。
【0058】
さらに、ターゲット領域70が連続するスポット状となっている重陽子発生ターゲット4を用いた場合も、同様の作用と効果を奏する。
【0059】
高強度レーザーを、例えば、繰返し周波数10Hzで繰返し動作をさせ、この繰返し動作の一周期の間に、連続したターゲット領域70の中心間の長さだけ重陽子発生ターゲット4を巻き取る。このように、重陽子発生ターゲット4の巻き取り速度と高強度レーザーの繰返し周波数との同期を取ることによって、重水素化ポリスチレンを含浸したスポット状のターゲット領域70のみに高強度レーザー光300を照射することができる。この場合、高強度のレーザー光300の照射が行われない部分にターゲット材料を塗布する必要が無いので、ターゲット材料を効率よく使用することができる格別の効果がある。
【0060】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したとおり、本発明によれば、重陽子を効率よく発生することができる重陽子発生ターゲットと、これを用いた重陽子発生ターゲット装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係る重陽子発生ターゲットの構成を示す模式図である。
【図2】第2実施形態に係る重陽子発生ターゲットの構成を示す模式図である。
【図3】第3実施形態に係る重陽子発生ターゲットの構成を示す模式図である。
【図4】第4実施形態に係る重陽子発生ターゲットの構成を示す模式図である。
【図5】第3実施形態に係る重陽子発生ターゲットの製造に用いられる装置を示す図である。
【図6】回転式重陽子発生ターゲット装置の構成を示す図である。
【図7】巻き取り式重陽子発生ターゲット装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
1,2,3,4…重陽子発生ターゲット、5…回転式重陽子発生ターゲット装置、6…巻き取り式重陽子発生ターゲット装置、10…含ハロゲン有機化合物薄膜、20…重水素化有機化合物層、30,50…多孔質膜、40,60,70…ターゲット領域。

Claims (4)

  1. 含ハロゲン有機化合物を主成分とする薄膜と、
    前記薄膜に積層された重水素化された有機化合物を主成分とする層と、
    を備える、
    ことを特徴とする重陽子発生ターゲット。
  2. 含ハロゲン有機化合物を主成分とする多孔質膜を備え、
    前記多孔質膜は、重水素化された有機化合物を含浸している、
    ことを特徴とする重陽子発生ターゲット。
  3. 前記含ハロゲン有機化合物は、フッ素置換炭化水素である、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の重陽子発生ターゲット。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の重陽子発生ターゲットと、
    前記重陽子発生ターゲットを所定の平面上に保持する保持手段と、
    前記保持手段を駆動することにより前記重陽子発生ターゲットを前記所定の平面に沿う方向に移動させる移動手段と、
    を備えることを特徴とする重陽子発生ターゲット装置。
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