JP4115311B2 - 自転車用変速装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、駆動回転体と、自転車の駆動輪と常時連動して回転する出力軸に設けられる多段式被動回転体とに掛け渡される無端伝動帯を掛け換えることにより変速が行われる自転車用変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自転車には、下り坂などで運転者がペダルを漕ぐのを止めて、クランク軸が正転方向に回転しないときにも走行することができるように、駆動輪と常時連動して回転する出力軸に一方向クラッチが設けられる。例えば、特許文献1に開示された自転車では、ギヤクランクの大ギヤと後ハブに装着された複数の小ギヤとに巻き掛けられたチェーンと、後ハブに装着されたフリーホイールとを備える。フリーホイールは、前記小ギヤが相対回転不能に結合された外筒部と、外筒部の内側に相対回転可能に配置されると共に後ハブのハブ体に相対回転不能に結合された内筒部と、外筒部と内筒部との間に配置される一方向クラッチとを備える。
【0003】
一方向クラッチは、小ギヤに伝達されたギヤクランクからの駆動力を外筒部から内筒部に一回転方向にのみ伝達する。そのため、ペダルが前方に踏み込まれたときは、その駆動力が、大ギヤ、チェーンおよび小ギヤを介してフリーホイールの外筒部に伝達され、さらに一方向クラッチおよび内筒部を経てハブ体に伝達されて、後輪が回転する。また、下り坂などで、大ギヤが回転しない状態にあるときには、一方向クラッチにより、後輪に常時連動して回転する内筒部は空転するのみで、外筒部および小ギヤは回転せず、したがってチェーンが走行することもない。
【0004】
【特許文献1】
特開平9−89012号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来技術では、運転者がペダルを漕ぐのを止めたときなど、自転車が、ギヤクランク(クランク軸に相当)の正転方向での回転により駆動されていない状態で走行する惰性走行時には、チェーンが走行しないため、複数の小ギヤの間でチェーンを掛け換えることにより変速を行うことができず、自転車の走行性能の点で改善の余地があった。
【0006】
また、1つの大ギヤに巻き掛けられたチェーンは、変速のために、回転中心線方向に配列された複数の小ギヤの間で掛け換えられるが、大ギヤ(または小ギヤ)の回転中心線方向で異なる位置にある大ギヤと小ギヤとにチェーンが掛け渡される場合には、チェーンが、回転中心線と直交する平面に対して傾斜することになって、大ギヤまたは小ギヤから外れることがある。そして、大ギヤと小ギヤとの間の距離が小さいときには、前記直交平面に対するチェーンの傾斜が一層大きくなるので、チェーンは一層外れやすくなる。
【0007】
そのうえ、惰性運転時には、チェーンの張力が比較的小さくなっているため、チェーンが前記直交平面に対して傾斜していると、クランク軸が正転方向に回転している運転時に比べて、チェーンは大ギヤまたは小ギヤから外れやすい状態にある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、請求項1〜記載の発明は、自転車の惰性走行時においても変速が可能な自転車用変速装置を提供することおよび無端伝動帯が駆動回転体または被動回転体から外れることを防止することを目的とする。そして、請求項2記載の発明は、さらに、一方向クラッチの性能低下を招来することなく配置することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、クランク軸により回転駆動される駆動回転体と、自転車の駆動輪と常時連動して回転する出力軸に駆動連結された複数の回転体要素から構成される多段式被動回転体と、前記駆動回転体と前記被動回転体とに掛け渡された無端伝動帯と、前記複数の回転体要素の間で前記無端伝動帯を掛け換える変速切換機構とを備える自転車用変速装置において、前記被動回転体は、前記出力軸と常時一体に回転するように設けられ、前記クランク軸の正転方向での回転を前記駆動回転体へ伝達する一方向クラッチが、前記クランク軸から前記駆動回転体に至る動力伝達路中に設けられ、前記動力伝達経路中には、前記駆動回転体と一体に回転すると共に前記無端伝動帯が前記クランク軸の回転中心線に直交する平面に平行に前記駆動回転体と前記被動回転体とに掛け渡されるように前記駆動回転体を前記クランク軸の回転中心線方向に移動可能にするスライド機構が設けられ、前記スライド機構は、前記クランク軸に回転可能に支持された内筒と、前記内筒の径方向外方に同軸に配置されると共に前記駆動回転体が一体化された外筒と、前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に設けられて、前記内筒と前記駆動回転体および前記外筒とを一体に回転させると共に前記駆動回転体および前記外筒を前記内筒に対して前記回転中心線方向に移動可能にする係合機構とを備え、前記一方向クラッチは、前記クランク軸の一部から構成されるクラッチインナと、前記内筒の一部から構成されるクラッチアウタと、前記クラッチインナの外周面と前記クラッチアウタの内周面との間に配置されて前記クラッチインナおよび前記クラッチアウタの一体回転および互いの独立回転を可能とするクラッチ素子とを備え、前記内筒において前記係合機構が設けられている部分の内周面は、前記部分が設けられている前記回転中心線方向での範囲において、径方向で前記クラッチアウタの前記内周面よりも前記クランク軸に近い位置にある自転車用変速装置である。
【0010】
これによれば、自転車の走行中にクランク軸が停止されまたは逆転方向に回転される惰性運転時にも、駆動輪に常時連動して回転する出力軸と一体に回転する被動回転体と、該被動回転体に巻き掛けられて走行状態にある無端伝動帯を介して駆動連結された駆動回転体とは回転状態にあり、無端伝動帯も走行状態にあるため、変速切換機構による変速ができる。
また、被動回転体の複数の回転体要素のいずれに無端伝動帯が巻き掛けられる場合にも、駆動回転体は、無端伝動帯が回転中心線に対する直交平面に沿って駆動回転体と被動回転体とに掛け渡されるように回転中心線方向に移動するので、無端伝動帯が前記直交平面に対して傾斜することが防止される。
【0011】
この結果、請求項1記載の発明によれば、次の効果が奏される。すなわち、クランク軸の正転方向への回転時および自転車の惰性運転時に変速が可能になるので、自転車が走行状態にあれば所望のときにいつでも変速ができて、自転車の走行性能が向上する。
また、無端伝動帯が回転中心線に直交する平面に対して傾斜することが防止されるので、駆動回転体と被動回転体との間の距離とは無関係に、したがって該距離が小さいときにも、さらにチェーンが走行している惰性走行時においても、無端伝動帯が駆動回転体または被動回転体から外れることが防止される。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の自転車用変速装置において、前記駆動回転体および前記一方向クラッチは、前記クランク軸に同軸に、かつ前記クランク軸の回転中心線方向で互いに重ならない位置に配置されたものである。
【0013】
これによれば、クランク軸に同軸に配置された駆動回転体および一方向クラッチは、その径方向の大きさがクランク軸および駆動回転体に制約されることがない。また、一方向クラッチを設けるためにクランク軸の軸径を小さくする必要もない。
【0014】
この結果、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、一方向クラッチの径方向の大きさがクランク軸および駆動回転体に制約されることがないので、クラッチ容量などのクラッチ性能の確保が容易になって、一方向クラッチの性能低下を招来することなく配置することができる。また、一方向クラッチを設けるためにクランク軸の軸径を小さくする必要もないので、クランク軸の所要の剛性を確保することが容易になる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の自転車用変速装置において、前記部分と前記クラッチアウタとの径方向での段差部は、前記係合機構の係合素子の、前記回転中心線方向での移動を規制するストッパを構成するものである。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項記載の自転車用変速装置において、前記係合機構は、前記内筒の前記外周面および前記外筒の前記内周面に形成された収容溝と、前記収容溝に跨って転動可能に収容されて前記内筒および前記外筒に係合する係合素子としてのボール列とから構成されるボールスプライン機構であるものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を、図1〜図8を参照して説明する。
図1,図2を参照すると、本発明に係る変速装置が使用された自転車Bは、ダウンヒル用の自転車であり、林道などに高速コーナやジャンプセクションを設けた未舗装のコースを下ることによりタイムを競う競技に使用される。
【0019】
自転車Bの車体フレームFは、下端部で前輪Wを軸支する左右1対のフロントフォーク5を操舵可能に支持するヘッドパイプ1と、ヘッドパイプ1から後方斜め下方に延びる左右1対のメインフレーム2と、両メインフレーム2の前端部からその下方において後方斜め下方に延びるダウンチューブ3と、各メインフレーム2の中央部から延びてサドル6を支持するサドルフレーム4とを備える。
【0020】
なお、この明細書において、「上下」、「前後」および「左右」は、自転車を基準としたもので、それぞれ自転車の「上下」、「前後」および「左右」と一致する。また、側面視とは、左右方向から見ることを意味する。
【0021】
両メインフレーム2の後部2aに設けられたピボット部としてのピボット軸7には、後端部に取り付けられた車軸9を介して後輪Wを軸支する左右1対のスイングアーム8の前端部8aが揺動可能に支持される。両スイングアーム8は、圧縮スプリング10aとダンパ10bとを有するサスペンション10を介して両メインフレーム2に連結されることで、後輪Wと共にピボット軸7を中心に上下方向に揺動可能である。
【0022】
クランク軸11と、変速装置Tおよび駆動力伝達機構を含む伝動装置とが、自転車Bに装備される。そして、図1に示されるように、車体フレームFの下部であって、両メインフレーム2の後部2aと該後部2aの前方に位置するダウンチューブ3の後部3aとの間に、クランク軸11の主軸11aおよびそれら後部2a,3aに固定される変速装置Tが配置され、上下方向から見て、すなわち平面視で、自転車Bの車幅方向(左右方向と一致する。)での車体の中心線である車体中心線L1(図2参照)および変速装置Tに対して一側方である右方に前記駆動力伝達機構が配置される。
【0023】
図3を併せて参照すると、変速装置Tは、周縁部に形成された多数のボルト締付け部21a,22aにおいてボルトB1により結合される左右1対の第1,第2ケース部分21,22と後述するキャップ25とから構成される金属製のケース20を有する。ケース20は、周縁部に形成された1対の取付部20aにおいて固定手段としてのボルトB2によりメインフレーム2およびダウンチューブ3に固定される。
【0024】
ペダル式クランク軸であるクランク軸11は、ケース20の下部を左右方向に貫通するように配置された主軸11aと、該主軸11aの、ケース20の外側に突出した左右の両端部にそれぞれ結合された1対のクランクアーム11bとを有する。そして、各クランクアーム11bには、ペダル12(図1参照)が回転可能に取り付けられる。
【0025】
クランク軸11の主軸11aの上方であって、ケース20の上部には、変速装置Tの出力軸24およびディレイラ軸61と、ピボット軸7とが、それらの回転中心線L4および中心軸線L5,L2が互いに平行になるように、かつ各線L4,L5,L2がクランク軸11の回転中心線L3に平行になるように、左右方向に延びて配置される。そして、クランク軸11、出力軸24、ディレイラ軸61およびピボット軸7は、左右方向において重なる位置を占めると共に、平面視で車体中心線L1と交差する。
【0026】
ピボット軸7は、各メインフレーム2の後部2aのピボットボス2bに形成された貫通孔2cと、第1,第2ケース部分21,22の筒状部21b,22bにより形成された貫通孔23にそれぞれ保持される1対の円筒状のブッシュ13の内側を貫通して延びて、各メインフレーム2の後部2aに固定される。そして、各スイングアーム8は、ケース20の左右の側方で、ケース20と各メインフレーム2の後部2aとの左右方向での間に位置する前端部8aがケース20の外側に突出するピボット軸7にカラー18および軸受14を介して支持されることで、ピボット軸7に揺動可能に支持される。
【0027】
図1を参照すると、出力軸24およびピボット軸7は、クランクアーム11bの回転軌跡内に収まるように配置される。そして、出力軸24およびピボット軸7は、出力軸24の回転中心線L4が両スイングアーム8の揺動中心線L2(ピボット軸7の中心軸線L2と一致する。)と後輪Wの回転中心線L6(車軸9の中心軸線と一致する。)とを含む仮想平面Hの仮想揺動範囲内に位置するように、車体フレームFに対して配置される。すなわち、仮想平面Hは、両スイングアーム8の揺動範囲に対応して揺動中心線L2を中心に前記仮想揺動範囲で揺動するが、出力軸24の回転中心線L4はこの仮想揺動範囲内に位置する。
【0028】
図2,図3を参照すると、ケース20内に収納された出力軸24は、第2ケース部分22から外部に突出した一端部である右端部24aを有し、右端部24aに出力用駆動回転体としての駆動スプロケット15が結合される。図1を併せて参照すると、駆動スプロケット15と後輪Wに駆動連結された出力用被動回転体としての被動スプロケット17との間には可撓性の出力用無端伝動帯としてのチェーン16が掛け渡される。ここで、駆動スプロケット15、チェーン16および被動スプロケット17は、駆動輪としての後輪Wを駆動する前記駆動力伝達機構を構成する。そして、出力軸24は後輪Wと常時連動して正転方向A0(自転車Bを前進させる回転方向である。以下、クランク軸11が正転方向A0に回転するときの各種の軸およびスプロケットの正転方向を符号A0で示す。)および正転方向A0とは逆の逆転方向に回転する。
【0029】
以下、クランク軸11、変速装置Tを中心にさらに説明する。
図2,図3を参照すると、変速装置Tは、ケース20と、いずれもケース20内に収納される変速機構M1および変速切換機構M2とを備える。そして、クランク軸11はその一部がケース20内に収納されてケース20に保持され、ケース20に装着されて変速機構M1を所望の変速位置への切換を行う変速切換機構M2が、変速機構M1に作動連結される。また、変速機構M1は、後述する一方向クラッチ32、スライド機構S、駆動スプロケット30、被動スプロケット体40、チェーン48および出力軸24を備える。
【0030】
第1回転軸としてのクランク軸11は、左右1対の軸受26を介してケース20に回転可能に支持される。主軸11aの両端部寄りの部分に設けられる両軸受26は、ケース20内で両ケース部分21,22にそれぞれ保持される。主軸11aには、第1回転体または駆動回転体としての駆動スプロケット体30が、両軸受26の間に主軸11aと同軸に配置される。
【0031】
駆動スプロケット31は、主軸11aと同軸に配置された一方向クラッチ32およびスライド機構Sを介して主軸11aに駆動連結されて、クランク軸11により回転駆動される。そして、駆動スプロケット31と一方向クラッチ32とは、図2に示されるように、クランク軸11の回転中心線L3の方向A3で互いに重ならない位置に配置されている。
【0032】
図4を併せて参照すると、一方向クラッチ32は、クラッチ素子である1対のラチェット爪32cと、主軸11aの一部から構成されるクラッチインナ32aと、後述する内筒34の一部から構成されるクラッチアウタ32bと、クラッチインナ32aに保持されるリングバネ32dとを備える。基部32c1がクラッチインナ32aの外周面に形成された凹部からなる支持部32d1に揺動可能に支持される各ラチェット爪32cは、その先端部32c2がクラッチアウタ32bの内周面に形成された多数の爪部32b1と係合可能となるように、リングバネ32dにより付勢されている。
【0033】
そして、クラッチインナ32aがクラッチアウタ32bに対して相対的にクランク軸11の正転方向A0に回転するとき、各クラッチ爪32cの先端部32c2が爪部32b1に係合することにより、クラッチインナ32aとクラッチアウタ32bとは一体に回転し、クラッチインナ32aがクラッチアウタ32bに対して相対的に正転方向A0とは逆の逆転方向に回転するとき、各クラッチ爪32cの先端部32c2は爪部32b1に係合することなく、クラッチインナ32aがクラッチアウタ32bは互いに独立に回転可能である。それゆえ、一方向クラッチ32は、クランク軸11の正転方向A0での回転のみを駆動スプロケット31に伝達する。それゆえ、ラチェット爪 32c は、クラッチインナ 32a の外周面とクラッチアウタ 32b の内周面との間に配置されてクラッチインナ 32a およびクラッチアウタ 32b の一体回転および互いの独立回転を可能とする。
【0034】
図2,図3を参照すると、一方向クラッチ32と駆動スプロケット31との間には、駆動スプロケット31を主軸11aに対して回転中心線方向A3に移動可能にすると共に一方向クラッチ32のクラッチアウタ32bと一体に回転するスライド機構Sが設けられる。スライド機構Sは、その一部がクラッチアウタ32bを構成すると共に主軸11aの外周に1対の軸受33を介して回転可能に主軸11aと同軸に支持された内筒34と、内筒34の径方向外方に内筒34と同軸に配置された外筒35と、内筒34の外周面と外筒35の内周面との間に設けられた係合機構としてのボールスプライン機構36とを備える。そして、外筒35には駆動スプロケット31およびチェーンガイド37がボルトB3により結合されて一体化され、駆動スプロケット31およびチェーンガイド37と外筒35とが、一体に回転し、かつ主軸11aに沿って回転中心線方向A3に一体に移動する。
【0035】
内筒34と駆動スプロケット31および外筒35とを一体に回転させる、すなわちスライド機構Sと駆動スプロケット31とを一体に回転させると共に駆動スプロケット31および外筒35を内筒34および主軸11aに対して回転中心線方向A3に移動可能にするためのボールスプライン機構36は、内筒34の外周面および外筒35の内周面に周方向での等しい角度位置で、互いに径方向で対面するようにそれぞれ形成された半円形断面の1対の収容溝36a,36bと、1対の収容溝36a,36bに跨って転動可能に収容されて周方向で内筒34および外筒35に係合する係合素子としての複数のボール36cからなるボール列とから構成される。1対の収容溝36a,36bは、複数組、この実施例では5組設けられ、各収容溝36a,36bの回転中心線方向A3での幅は、前記ボール列の回転中心線方向A3での幅よりも大きく、かつ駆動スプロケット31が後述するディレイラ60のガイドプーリ63の切換移動範囲の並進移動範囲に等しい移動範囲で回転中心線方向A3に並進可能となるように設定される。そして、駆動スプロケット31および外筒35の前記移動範囲を規定するためおよびボール36cの脱落防止のために、内筒34および外筒35には、回転中心線方向A3での前記ボール列の移動を規制する第1ストッパ34a,35aおよび第2ストッパ34b,35bが設けられる。
そして、図2〜図4を参照すると、内筒 34 においてボールスプライン機構 36 が設けられている部分 34c の内周面は、該部分 34c が設けられている回転中心線方向 A3 での範囲において、径方向でクラッチアウタ 32b の内周面よりもクランク軸 11 の主軸 11a に近い位置にある。そして、部分 34c とクラッチアウタ 32b との径方向での段差部は、ボールスプライン機構 36 の前記ボール列の、回転中心線方向 A3 での移動を規制するストッパ 34a を構成する。
【0036】
図2,図3を参照すると、第2回転軸としての出力軸24は、ケース20内で両ケース部分21,22にそれぞれ保持される左右1対の軸受38を介してケース20に回転可能に支持される。それゆえ、ケース20は、車体フレームFに固定されて設けられた部材であり、クランク軸11および出力軸24を回転可能に支持すると共に、それら軸11,24を介して変速機構M1の他の構成部材を支持し、さらに変速切換機構M2を支持する支持部材である。
【0037】
出力軸24には、駆動スプロケット体30の回転体要素である駆動スプロケット31の数よりも多い複数である所定数の第2回転体要素から構成される第2回転体としての変速用の多段式被動回転体が、平面視で車体中心線L1と交差する位置で、両軸受38の間に出力軸24と常時一体に回転するように駆動連結される。この実施例では、前記多段式被動回転体は、前記所定数が7であって、外径(すなわち歯先円径)が異なる7種類の変速用の第2回転体要素としての変速スプロケット41〜47から構成される多段式被動スプロケット体40である。
【0038】
そして、7つの変速スプロケット41〜47は、最小外径を有する最高速の7速用の変速スプロケット47から最大外径をする最低速の1速用の変速スプロケット41まで、駆動スプロケット15側から順次低速になるよう被動スプロケット体40の回転中心線でもある回転中心線L4の方向A4に並んで配列されて、出力軸24と同軸にその外周面でスプライン結合されて、該出力軸24に駆動連結される。
【0039】
駆動スプロケット体30と被動スプロケット体40とには、可撓性の変速用無端伝動帯としての変速用チェーン48が掛け渡され、該チェーン48によりクランク軸11および出力軸24の間で回転が伝達される。具体的には、変速切換機構M2は一群の変速スプロケット41〜47の間でチェーン48を掛け換えることにより、駆動スプロケット31と、変速スプロケット41〜47のなかから変速切換機構M2により択一的に選択されてチェーン48が巻き掛けられる一つの変速スプロケットである作動回転体としての作動スプロケット(図2では変速スプロケット47である。)との間にチェーン48が掛け渡される。それゆえ、出力軸24は、駆動スプロケット31とチェーン48を介して駆動連結された前記作動スプロケットとにより決定される変速比で、クランク軸11により回転駆動される。そして、出力軸24の動力は、駆動スプロケット15、チェーン16および被動スプロケット17(図1参照)を介して後輪Wに伝達される。
【0040】
図3,図5,図6を参照すると、変速操作機構50により作動される変速切換機構M2は、ガイドプーリ63を有するディレイラ60と、テンションプーリ72を有するテンショナ70とを備える。そして、チェーン48は、駆動スプロケット31と前記作動スプロケットと、さらにチェーン48の弛み側に配置されるガイドプーリ63とテンションプーリ72とに巻き掛けられる。
【0041】
図1を併せて参照すると、変速操作機構50は、運転者により操作される変速レバーなどで構成される変速操作部材51と、変速操作部材51の動作をディレイラ60に伝達するために変速操作部材51とディレイラ60とを作動連結するワイヤ52と、ワイヤ52を覆うアウタチューブ53とを備える。そして、アウタチューブ53よりも長く延びるワイヤ52の、ケース20寄りの部分は、防水用および防塵用の蛇腹57で覆われる。
【0042】
図2,図3,図5〜図7を参照すると、ディレイラ60は、ケース20に回転可能に支持されるディレイラ軸61と、基端部62a1,62b1がディレイラ軸61に回転移動および中心軸線方向に並進移動が可能となるように摺動可能に嵌合して支持されるディレイラアーム62と、ディレイラアーム62の先端部62a2,62b2に回転可能に支持されるガイド回転体としてのガイドプーリ63と、変速操作機構50による変速操作に応じてディレイラアーム62をディレイラ軸61に対して移動させる操作素子としてのピン65と、ディレイラアーム62からディレイラ軸61に作用するトルクTaと釣り合う釣合トルクTbをディレイラ軸61に作用させる釣合ばね66と、ディレイラアーム62を後述する第1位置に復帰させるための戻しばね64とを備える。
【0043】
ディレイラ軸61は、その中心軸線L5がガイドプーリ63の回転中心線L7および従動スプロケット体40の回転中心線L4に平行になるようにケース20に支持される。具体的には、ディレイラ軸61の一端部61aは、第1ケース部分21にボルトB4により結合されたキャップ25の筒部25aの保持孔25cに嵌合することでキャップ25を介して第1ケース部分21に支持され、その他端部61bは、第2ケース部分22の保持孔22cに嵌合して第2ケース部分22に支持される。
【0044】
そして、中心軸線方向A5での一方(図2,5で左方)へのディレイラ軸61の移動は、ディレイラ軸61の外周面に形成された段部に嵌合されたワッシャ67がキャップ25において保持孔25cが形成された筒部25aの先端部に当接することにより、また中心軸線方向A5での他方(図2,5で右方)への移動は、一端部61aでキャップ25から突出した部分の外周面に嵌合されたワッシャ68に、外周面に形成された環状溝に嵌められた止め輪69が当接することにより、ディレイラ軸61の回転を許容する状態で、それぞれ規制される。
【0045】
ワイヤ52を案内するガイド管56が固着されると共に、ワイヤ52が挿入される挿入孔61cが形成される一端部61aには、一端部66aがキャップ25に係止された捩りコイルばねからなる釣合ばね66の他端部66bが係止される。そして、ディレイラ軸61には、ディレイラアーム62の回転に伴うディレイラ軸61の回転により釣合ばね66に生じるばね力に基づく釣合トルクTbが作用することにより、ディレイラ軸61の回転方向での位置が規定されて、変速操作機構M2での変速操作に応じて、外径が異なる変速スプロケット41〜47間でのチェーン48の掛け換えが可能となるように、ケース20に回転可能に支持されるディレイラ軸61上で、ディレイラアーム62およびガイドプーリ63が回転する。
【0046】
ディレイラ軸61には、ワイヤ52を締め付ける止めネジ55によりワイヤ52と結合された円柱状の作動素子54を中心軸線L5の方向A5に移動可能に収容する収容孔61dと、作動素子54と係合することにより該作動素子54により移動させられるピン65を案内するための案内部である案内孔61eとが形成される。収容孔61dは、ディレイラ軸61の中心軸線L5を中心軸線とする円柱状の孔である。案内孔61eは、収容孔61dに開放すると共に、ディレイラ軸61の直径方向で対向して位置する1対の長孔から構成される。前記各長孔は、中心軸線方向A5に延びると共に周方向に変位する螺旋状に形成される。
【0047】
ピン65は、案内孔61eに挿入されてディレイラ軸61と係合し(図2,図6参照)、変速操作機構M2による変速操作に応じて案内孔61eに案内されつつ移動することにより、ディレイラアーム62およびガイドプーリ63を、後述する切換移動範囲内で、ディレイラ軸61に対して回転させると共にディレイラ軸61の中心軸線方向A5へ並進させる。
【0048】
ディレイラアーム62は、ディレイラ軸61の外周に中心軸線方向A5に並進および回転するように摺動可能に嵌合する円筒状のボス62cと、基端部62a1,62b1がボス62cの外周に圧入されて固定される1対の第1,第2アーム部分62a,62bと、両アーム部分62a,62bの先端部に設けられて両アーム部分62a,62bの間隔を規定するカラー62dの内側に挿入されて該カラー62dを挟んで両アーム部分62a,62bを結合する結合部材としてのリベット62eと、リベット62eの外周に嵌合されたカラー62dの外周に回転可能に支持されると共に第1,第2アーム部分62a,62bの間でガイドプーリ63を回転可能に支持する支持軸62fとを有する。
【0049】
そして、チェーン48が巻き掛けられたガイドプーリ63は、従動スプロケット体40および出力軸24の回転中心線L4に平行な中心線を回転中心線L7として、支持軸62fの周りで回転する。
【0050】
図8を併せて参照すると、ディレイラアーム62が、変速操作部材51(図1参照)の操作に基づく変速操作に応じて移動するピン65に駆動されて、ディレイラ軸61上で、中心軸線方向A5の並進およびディレイラ軸61の周方向に回転するように、案内孔61eに挿入されたピン65がディレイラアーム62に固定される。そのために、案内孔61eおよびボス62cの1対の貫通孔62c1を貫通して延びるピン65の両端部が、第2アーム部分62bの基端部62b1に形成された1対の貫通孔62b1に圧入されて固定される。また、第2アーム部分62bの先端部には、後述するテンショナ70のテンションばね73を収容するばね収容部62b2が形成され、該収容部62b2内でテンションばね73がリベット62eを囲むように配置される。
【0051】
図5を参照すると、圧縮コイルばねからなる戻しばね64は、その一端部がキャップ25のばね受け部に当接し、その他端部が第1アーム部分62aの基端部62a1に当接するようにケース20内に配置される。そして、戻しばね64は、チェーン48が変速スプロケット47に巻き掛けられる最高速の変速位置である第1位置をディレイラアーム62が占めるとき、第2アーム部分62bの基端部62b1が第2ケース22に形成されて保持孔22cが形成されたストッパ22dに当接するように、ディレイラアーム62を付勢する。このとき、ピン65が案内孔61eの一端部に位置してその一方の縁部61fとの間に僅かな隙間が形成される。
【0052】
図3,図を参照すると、テンショナ70は、第1,第2アーム部分62a,62bの間でディレイラアーム62のカラー62dに回転可能に支持されるホルダ71と、ホルダ71に回転可能に支持されるテンション回転体としてのテンションプーリ72と、テンションばね73とを備える。ホルダ71は、基端部が支持軸62fの外周に圧入されて固定された1対の第1,第2アーム71a,71bと、両アーム71a,71bの先端部に設けられて両アーム71a,71bの間隔を規定すると共にテンションプーリ72の支持軸としてのカラー71cと、カラー71cの内側に挿入されてカラー71cを挟んで両アーム71a,71bを結合する結合部材としてのリベット71dと、カラー71cの外周に嵌合される軸受71eとを備える。
【0053】
テンションプーリ72は、第1,第2アーム71a,71bの間でカラー71cに軸受71eを介して回転可能に支持される。そして、第1,第2アーム71a,71bをチェーンガイドとして、チェーン48が、ガイドプーリ63およびテンションプーリ72に巻き掛けられる。
【0054】
捩りコイルばねからなるテンションばね73は、図3に示されるように、その一端部73aが第2アーム部分62bに係止され、その他端部73bがテンショナ70の第2アーム71bに係止されて、そのばね力によりホルダ71、ひいてはテンションプーリ72を付勢して、チェーン48に適度な大きさの張力を付与して、チェーン48のたるみを防止する。
【0055】
ここで、図2,図3,図5を参照して、ガイドプーリ63により案内されるチェーン48の、各変速スプロケット41〜47への掛け換えを可能とするための、ガイドプーリ63の切換移動範囲と該切換移動範囲内でのガイドプーリ63の移動経路とについて説明する。
【0056】
変速操作機構50の変速操作によるガイドプーリ63の前記切換移動範囲は、戻しばね64のばね力によりディレイラアーム62がストッパ22dに当接する第1位置と、ピン65が一方向(図2,5で左方)に移動して、ディレイラアーム62がキャップ25の筒部25aにより中心軸線方向A5での位置が設定されるストッパとしてのワッシャ67に当接する第2位置とにより規定される。
【0057】
前記切換移動範囲のうち、中心軸線方向A5での移動範囲である並進移動範囲は、ガイドプーリ63が、従動スプロケット体40の中心軸線方向A4での両端部に位置する変速スプロケットである最小外径の変速スプロケット47および最大外径の変速スプロケット41と同じ中心軸線方向A5での位置を占めることができるように設定され、ここでは、前記第1位置でのストッパ22dの位置と、前記第2位置でのワッシャ67の中心軸線方向A5での位置とにより決められる。
【0058】
一方、前記切換移動範囲のうち、回転方向での移動範囲である回転移動範囲は、最小外径の変速スプロケット47および最大外径の変速スプロケット41に対応して、ガイドプーリ63がそれら変速スプロケット47,41から径方向で外方に所定距離をおいた位置を占めるように設定される。
【0059】
ここで、ディレイラ軸61は、ケース20に対して、回転可能である一方で、中心軸線方向A5での移動が実質的に阻止された状態で支持されているために、前記回転移動範囲は、案内孔61eの形状と、ディレイラアーム62に作用するテンションばね73のばね力により生じて、ピン65を介してディレイラ軸61に作用するトルクTaと、釣合ばね66のばね力により生じてトルクTaと釣り合うようにディレイラ軸61に作用する釣合トルクTbとに依存して、前記第1位置および前記第2位置において、トルクTaと釣合トルクTbとが釣り合うときの回転方向でのディレイラ軸61の位置である釣合位置より決められる。
【0060】
これらトルクTa,Tbの向きおよび大きさには、テンションばね73のばね定数、釣合ばね66のばね定数、各ばね73,66のばね力の作用位置、そしてディレイラ軸61、ディレイラアーム62および案内孔61eのそれぞれの形状などの要因が関与する。そこで、以下では、一例として、テンションばね73および釣合ばね66のばね力により前記回転移動範囲および前記移動経路を設定する場合を説明する。
【0061】
図2,図3に実線で示されるように、ディレイラアーム62、したがってガイドプーリ63が前記第1位置を占めるとき、ディレイラ軸61に作用する両トルクTa,Tb、すなわち一端部73aが第2アーム部分62bに係止されるテンションばね73のばね力により生じるトルクTaと、釣合トルクTbとが釣り合った状態にある。ガイドプーリ63が設定された前記第1位置を占めるようにするための前記釣合位置の調整は、前記第1位置での釣合ばね66のばね力である初期荷重を調整することにより行われる。具体的には、図7に示されるように、キャップ25には、1対のボルトB4がそれぞれ挿通される円弧状の長孔からなる1対の挿通孔25bが形成されており、これら挿通孔25bに沿ってキャップ25の周方向での位置を調整することにより、釣合ばね66の初期荷重が調整される。
【0062】
また、図2,図3に二点鎖線で示されるように、ディレイラアーム62、したがってガイドプーリ63が前記第2位置を占めるときも、ディレイラ軸61に作用するトルクTaと釣合トルクTbとは釣り合った状態にある。そして、ガイドプーリ63が設定された前記第2位置を占めるようにするために、釣合ばね66のばね定数が設定される。具体的には、変速操作機構50を通じてピン65に作用する操作力により、図3に示されるように、ディレイラアーム62が前記第1位置に対して時計方向に回転した前記第2位置を占めるときは、ディレイラアーム62とテンショナ70のホルダ71とで挟まれる角度が大きくなることにより、テンションばね73のばね力が大きくなって、ディレイラ軸61に作用するトルクTaも大きくなる。このようにディレイラアーム62の回転に伴って増大したトルクTaにより、ディレイラ軸61は、前記第1位置での回転方向での位置から反時計方向に所定角度だけ回転するため、釣合ばね66は、前記所定角度に比例して大きくなったばね力を発生する。そして、そのばね力に基づく増大した釣合トルクTbと増大したトルクTaとが、ガイドプーリ63が設定された前記第2位置を占めるような前記釣合位置で釣り合うように釣合ばね66のばね定数が設定される。
【0063】
それゆえ、前記第2位置での前記釣合位置において、前記第1位置からのガイドプーリ63の回転角度は、ディレイラ軸61が回転しないと仮定した場合の案内孔61eの形状により決定される回転角度(例えば40°)から前記所定角度(例えば10°)だけ小さい角度となる。
【0064】
そして、このようなテンションばね73および釣合ばね66のばね力の設定により、前記第1位置と前記第2位置を除く前記切換移動範囲内で、ガイドプーリ63は、ディレイラ軸61が前記釣合位置を占めるときに、各変速位置において、各変速スプロケット42〜46に対して中心軸線方向A5で同じ位置を占め、径方向外方で所定距離をおいた位置を占めるように前記移動経路上を移動する。
【0065】
それゆえ、変速操作部材51が操作されて、低速側への掛け換えを行うために、ワイヤ52に結合された操作素子54が収容孔61d内で一端部61aに向かうように中心軸線方向A5の一方(図2,5の左方)に移動すると、ディレイラアーム62は、移動する作動素子54を通じて作用する操作力により、案内孔61eにより案内されるピン65と一緒に、前記切換移動範囲内で、釣合ばね66のばね力に抗して回転するディレイラ軸61上で、戻しばね64のばね力に抗して中心軸線方向A5に並進すると同時に、ディレイラ軸61を中心にして回転する。
【0066】
そして、変速操作部材51の操作量により決定される変速位置を占めるディレイラアーム62と共に移動するガイドプーリ63に案内されたチェーン48が、変速位置に応じて、一群の変速スプロケット41〜47のなかから択一的に選択された前記作動スプロケットに巻き掛けられ、チェーン48により駆動スプロケット31と前記作動スプロケットとが駆動連結される。
【0067】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
図2,図3に示されるように、前記第1位置にあるディレイラアーム62を有するディレイラ60により、一群の変速スプロケット41〜47のなかから前記作動スプロケットとして変速スプロケット47が選択されている状態、すなわち変速位置として7速位置が選択されている状態において、運転者がペダル12を漕ぐことにより正転方向A0に回転するクランク軸11は、一方向クラッチ32およびスライド機構Sを介して駆動スプロケット31を回転駆動する。それゆえ、一方向クラッチ32およびスライド機構Sは、クランク軸11から駆動スプロケット31に至る動力伝達経路中に設けられている。
【0068】
駆動スプロケット31はチェーン48を介して変速スプロケット47、出力軸24および駆動スプロケット15を、両スプロケット31,47により決定される変速比で回転駆動する。駆動スプロケット15は、チェーン16を介して被動スプロケット17(図1参照)および後輪Wを回転駆動する。このようにして、運転者により回転駆動されるクランク軸11の動力は、駆動スプロケット31、チェーン48および変速スプロケット47を介して出力軸24に伝達され、出力軸24の動力が、前記駆動力伝達機構を介して後輪Wに伝達されて、自転車Bが7速位置で走行する。
【0069】
前記第1位置にある状態から、ディレイラ60により変速位置を切り換えるために、前記作動スプロケットとして、より低速側の変速スプロケット41〜46、例えば変速スプロケット41を選択するように変速操作部材51が操作されると、ワイヤ52により図2で中心軸線方向A5で左方に移動する作動素子54が、ピン65を押圧して、案内孔61eに案内されたピン65を案内孔61eの他方の縁部61gに向けて移動させる。このとき、ピン65と一体に移動するディレイラアーム62およびガイドプーリ63は、ディレイラ軸61上を中心軸線方向A5で図2において左方に並進すると共にディレイラ軸61を中心に図3において時計方向に回転して、ディレイラアーム62がワッシャ67に当接した時点で、図2,図3に二点鎖線で示される変速位置である1速位置(この1速位置は、前記第2位置でもある。)を占める。このときのピン61pの状態が図5に二点鎖線で示されている。
【0070】
そして、ガイドプーリ63と共に図2で左方に移動するチェーン48が、変速スプロケット47から変速スプロケット41に掛け換えられて、チェーン48を介して駆動スプロケット31と駆動連結される。このとき、スライド機構Sにより回転中心線方向A3に移動可能な駆動スプロケット31は、チェーン48の張力の回転中心線方向A3の分力により、主軸11a上で回転中心線方向A3に移動して、図2に二点鎖線で示される位置を占める。また、テンションプーリ72は、テンションばね73によりチェーン48に適度な大きさの張力を付与する位置を占める。
【0071】
また、前記作動スプロケットが、変速スプロケット41よりも、より高速側の変速スプロケット42〜47から選択されるように変速操作部材51が操作されてワイヤ52が緩められると、戻しばね64がディレイラアーム62を前記第1位置に向けて移動させて、ガイドプーリ63が前記作動スプロケットとしてより高速側の変速スプロケット42〜47を選択し、チェーン48が該作動スプロケットに掛け換えられる。このときも、ディレイラアーム62の移動と同時に、チェーン48が駆動スプロケット31を、新たな変速位置に対応する位置まで回転中心線方向A3に移動させる。そして、新たな変速位置での変速比で自転車Bが走行する。
【0072】
同様にして、変速位置を切り換える際には、変速操作部材51の操作に応じて、ディレイラアーム62、ガイドプーリ63およびテンションプーリ72が所望の変速位置に向けて移動すると同時に、駆動スプロケット31がチェーン48の張力の回転中心線方向A3の分力により主軸11a上を回転中心線方向A3に移動する。そして、ディレイラ60により、一群のスプロケット41〜47のなかから所望に変速位置に対応する1つの前記作動スプロケットが選択されて、駆動スプロケット31と該作動スプロケットとがチェーン48を介して駆動連結される。
【0073】
このように、変速位置を切り換えるためのディレイラアーム62の移動に追随して、駆動スプロケット31が、前記切換移動範囲においてディレイラアーム62の並進する方向と同じ方向に移動するため、チェーン48はクランク軸11の回転中心線L3に直交する平面(この直交平面は、図2においては、車体中心線L1と平行になる。)に沿って、すなわち該直交平面と平行に、駆動スプロケット31と被動スプロケット体40の前記作動スプロケットとに掛け渡される。
【0074】
それゆえ、クランク軸11に駆動連結された駆動スプロケット体30と、クランク軸11に平行に配置された出力軸24に駆動連結されると共に回転中心線方向A4に配列されて駆動スプロケット31よりも多い所定数の変速スプロケット41〜47から構成される被動スプロケット体とに掛け渡されたチェーン48が、変速切換機構M2により掛け換えられる変速装置Tにおいて、駆動スプロケット体30の駆動スプロケット31は、チェーン48が回転中心線L3に直交する前記直交平面に沿って駆動スプロケット体30の駆動スプロケット31と被動スプロケット体40の各変速スプロケット41〜47、すなわち前記作動スプロケットとに掛け渡されるように、クランク軸11に回転中心線方向A3に移動可能に支持されることにより、変速スプロケット41〜47のいずれにチェーン48が巻き掛けられる場合にも、駆動スプロケット体30は、チェーン48が回転中心線L3に対する前記直交平面に沿って駆動スプロケット体30と被動スプロケット体40とに掛け渡されるように回転中心線方向A3に移動するので、チェーン48が前記直交平面に対して傾斜することが防止され、クランク軸11と出力軸24との軸間距離(この軸間距離は、回転中心線L3と回転中心線L4との間の距離に対応する。)とは無関係に、したがって該軸間距離が小さいときにも、チェーン48が駆動スプロケット31または変速スプロケット41〜47から外れることが防止される。さらにチェーン48が走行している惰性走行時、自転車Bの走行中に運転者がペダル12を漕ぐのを止めてクランク軸11が停止されまたは逆転方向に回転されている状態での走行時においても、チェーン48が駆動スプロケット31または変速スプロケット41〜4から外れることが防止される。
【0075】
さらに、駆動スプロケット体30は1つの駆動スプロケット31から構成され、駆動スプロケット体30は、クランク軸11と駆動スプロケット体30との間に設けられるスライド機構Sにより回転中心線方向A3に移動可能にされると共にクランク軸11に駆動連結されたことにより、駆動スプロケット体30の回転中心線方向A3での幅が最小化されるので、駆動スプロケット体30の回転中心線方向A3での移動範囲が最小化されて、変速装置Tが回転中心線方向A3で小型化される。
【0076】
前記動力伝達経路中に設けられる一方向クラッチ32およびスライド機構Sにおいて、スライド機構Sは、一方向クラッチ32と駆動スプロケット体30との間に配置されることにより、スライド機構Sと駆動スプロケット体30との間に中間部材、例えば一方向クラッチが介在する場合に比べて、駆動スプロケット体30が回転中心線方向A3に移動するときの慣性が小さくなるので、変速時の駆動スプロケット体30の移動が迅速化されて、チェーン48の外れ防止効果が一層向上する。
【0077】
駆動スプロケット体30と複数の変速スプロケット41〜47から構成される多段式被動スプロケット体40とに掛け渡されたチェーン48が、変速切換機構M2により複数の変速スプロケット41〜47の間で掛け換える変速装置Tにおいて、後輪Wと常時連動して回転する出力軸24に駆動連結された被動スプロケット体40は、出力軸24と常時一体に回転するように設けられ、クランク軸11の正転方向A0での回転を駆動スプロケット体30へ伝達する一方向クラッチ32が、クランク軸11から駆動スプロケット体30に至る前記動力伝達路中に設けられることにより、自転車Bの惰性運転時にも、後輪Wに常時連動して回転する出力軸24と一体に回転する被動スプロケット体40と、被動スプロケット体40に巻き掛けられて走行状態にあるチェーン48を介して駆動連結された駆動スプロケット体30とは回転状態にあり、チェーン48も走行状態にあるため、変速切換機構M2による変速ができるので、自転車Bが走行状態にあれば所望のときにいつでも変速ができて、自転車Bの走行性能が向上する。
【0078】
駆動スプロケット体30および一方向クラッチ32は、クランク軸11に同軸に、かつクランク軸11の回転中心線方向A3で互いに重ならない位置に配置されたことにより、クランク軸11に同軸に配置された駆動スプロケット体30および一方向クラッチ32は、その径方向の大きさがクランク軸11および駆動スプロケット体30に制約されることがないので、クラッチ容量などのクラッチ性能の確保が容易になって、一方向クラッチ32の性能低下を招来することなく配置することができる。また、一方向クラッチ32を設けるためにクランク軸11の軸部11aの軸径を小さくする必要もないので、クランク軸11の所要の剛性を確保することが容易になる。
【0079】
被動スプロケット体40を構成する複数の変速スプロケット41〜47の間で掛け換えられるチェーン48が巻き掛けられたガイドプーリ63を回転可能に支持するディレイラアーム62を、回転可能および中心軸線方向A5へ並進可能に支持するディレイラ軸61は、その中心軸線L5がガイドプーリ63の回転中心線L7および被動スプロケット体40の回転中心線L4に平行になるようにケース20に支持されることにより、ディレイラアーム62は、被動スプロケット体40およびガイドプーリ63の回転中心線L7と平行な中心軸線L4を中心にして回転するので、ディレイラアーム62を支持するディレイラ軸61以外に、ガイドプーリ63の回転中心線L7と被動スプロケット体40の回転中心線L4と平行関係を維持するための特別な部材は不要である。この結果、ディレイラ60の構造が簡単化されるうえ部品点数が削減され、ひいてはコストが削減される。
【0080】
さらに、ディレイラ軸61はケース20に回転可能に支持され、ディレイラ60には、ディレイラアーム62からピン65を介してディレイラ軸61に作用するトルクTaと釣り合うように、変速操作機構50の変速操作に応じて案内孔61eに案内されつつ移動するピン65によるディレイラアーム62の回転に伴うディレイラ軸61の回転により生じるばね力に基づてディレイラ軸61に作用する釣合トルクTbを発生させる釣合ばね66が設けられることにより、複数の変速スプロケット41〜47の間でのチェーン48の掛け換えの際に、ピン65によりディレイラアーム62がディレイラ軸61に対して回転および並進すると同時に、ディレイラ軸61は、ディレイラアーム62からピン65を介してディレイラ軸61に作用するトルクTaにより回転するものの、該回転に対応して発生する釣合ばね66のばね力により生じる釣合トルクTbが該トルクTaと釣り合うことで、ガイドプーリ63が所定の掛け換え位置を占める。このとき、ディレイラ軸61は、ケース20に固定されることなく、釣合ばね66により回転が規制されているだけであるので、通常、ディレイラアーム62に作用する外力を越える過大な外力、例えば、降車した状態で自転車Bをバックさせている途中に変速操作を行った際にチェーン48が噛み込まれてロック状態のまま被動スプロケット体40と共に回転するときに発生する過大な張力により、ディレイラアーム62に過大トルクが生じて、該過大トルクがピン61eおよびディレイラ軸61に作用するとき、ディレイラ軸61は釣合ばね66を変形させて回転するため、過大トルクが緩和されるので、ディレイラアーム62、ピン65およびディレイラ軸61に作用する過大トルクが小さくなって、過大トルクによりそれら部材に変形が生じることが防止されて、ディレイラ60、ひいては変速装置Tの耐久性が向上する。
【0081】
チェーン16が駆動連結された出力軸24に駆動連結された前記作動スプロケットと駆動スプロケット31とを駆動連結するためにチェーン48が使用されるので、車体フレームFやピボット軸7の位置などの変更に対応させるために、変速装置Tにおける出力軸24の配置の変更が容易であり、しかもその配置の自由度も大きくなる。
【0082】
以下、前述した実施例の一部の構成を変更した実施例について、変更した構成に関して説明する。
変速装置Tのケース20は合成樹脂製であってもよい。さらに、変速装置Tはケース20を備えていなくてもよく、その場合は、クランク軸11、出力軸24およびディレイラ60は、車体フレームFに取り付けられるかまたは車体フレームFに一体成形されるブラケットなどの支持部材を介して車体フレームFに支持される。
【0083】
変速用無端伝動帯としてベルトが使用され、駆動回転体および被動回転体としてプーリが使用されてもよい。また、後輪Wへの出力用無端伝動帯としての無端ベルトが使用され、出力用駆動回転体および出力用被動回転体としてプーリが使用されてもよい。
【0084】
駆動スプロケット30は、前記実施例では、1つの回転体要素である駆動スプロケット31から構成されたが、回転中心線方向A3に配列されると共に歯先円径が異なる複数の駆動スプロケットから構成されてもよい。
【0085】
スライド機構Sに設けられる前記係合機構は、内筒34の外周面および外筒35の内周面に形成される多数条の突条およびそれら突条がそれぞれ嵌合する多数条の溝から構成されるスプラインであってもよい。
【0086】
駆動スプロケット体が、クランク軸11とは別体であり伝動機構を介してクランク軸11により回転駆動される中間回転軸に同軸に配置される場合には、一方向クラッチ32は、クランク軸11から前記駆動スプロケット体に至る動力伝達経路中、例えば前記中間軸と駆動スプロケット体との間に設けられもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示し、本発明が適用された自転車の概略の左側面図である。
【図2】図1の自転車に装備された変速装置における図3のII−II矢視での断面図である。
【図3】図1の自転車に装備された変速装置の第2ケース部分を外した状態での、図2のIII−III矢視での矢視図および断面図である。
【図4】図1のIV−IV矢視での断面図である。
【図5】図3のV−V矢視での断面図である。
【図6】図3のVI−VI矢視でのディレイラおよびテンショナの断面図である。
【図7】図5のVII矢視図である。
【図8】図2のVIII−VIII矢視での断面図である。
【符号の説明】
1…ヘッドパイプ、2…メインフレーム、3…ダウンチューブ、4…サドルフレーム、5…フロントフォーク、6…サドル、7…ピボット軸、8…スイングアーム、9…車軸、10…サスペンション、11…クランク軸、12…ペダル、13…ブッシュ、14…軸受、15…駆動スプロケット、16…被動スプロケット、17…チェーン、18…カラー、
20…ケース、21,22…ケース部分、23…貫通孔、24…出力軸、25…キャップ、
30…駆動スプロケット体、31…駆動スプロケット、32…一方向クラッチ、33…軸受、34…内筒、35…外筒、36…係合機構、37…チェーンガイド、40…被動スプロケット体、41〜47…変速スプロケット、48…チェーン、
50…変速操作機構、51…変速操作部材、52…ワイヤ、53…アウタチューブ、54…作動素子、55…止めネジ、56…ガイド管、57…蛇腹、
60…ディレイラ、61…ディレイラ軸、62…ディレイラアーム、63…ガイドプーリ、64…戻しばね、65…ピン、66…釣合ばね、67,68…ワッシャ、69…止め輪、70…テンショナ、71…ホルダ、72…テンションプーリ、73…テンションばね、
B…自転車、F…車体フレーム、W…前輪、W…後輪、T…変速装置、L1…車体中心線、A0…正転方向、A3,A4,A5…方向、L2…中心軸線(揺動中心線)L3,L4,L6,L7…回転中心線、L5…中心軸線、B1〜B4…ボルト、H…仮想平面、M1…変速機構、M2…変速切換機構、S…スライド機構,Ta…トルク、Tb…釣合トルク。

Claims (4)

  1. クランク軸により回転駆動される駆動回転体と、自転車の駆動輪と常時連動して回転する出力軸に駆動連結された複数の回転体要素から構成される多段式被動回転体と、前記駆動回転体と前記被動回転体とに掛け渡された無端伝動帯と、前記複数の回転体要素の間で前記無端伝動帯を掛け換える変速切換機構とを備える自転車用変速装置において、
    前記被動回転体は、前記出力軸と常時一体に回転するように設けられ、
    前記クランク軸の正転方向での回転を前記駆動回転体へ伝達する一方向クラッチが、前記クランク軸から前記駆動回転体に至る動力伝達路中に設けられ
    前記動力伝達経路中には、前記駆動回転体と一体に回転すると共に前記無端伝動帯が前記クランク軸の回転中心線に直交する平面に平行に前記駆動回転体と前記被動回転体とに掛け渡されるように前記駆動回転体を前記クランク軸の回転中心線方向に移動可能にするスライド機構が設けられ、
    前記スライド機構は、前記クランク軸に回転可能に支持された内筒と、前記内筒の径方向外方に同軸に配置されると共に前記駆動回転体が一体化された外筒と、前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に設けられて、前記内筒と前記駆動回転体および前記外筒とを一体に回転させると共に前記駆動回転体および前記外筒を前記内筒に対して前記回転中心線方向に移動可能にする係合機構とを備え、
    前記一方向クラッチは、前記クランク軸の一部から構成されるクラッチインナと、前記内筒の一部から構成されるクラッチアウタと、前記クラッチインナの外周面と前記クラッチアウタの内周面との間に配置されて前記クラッチインナおよび前記クラッチアウタの一体回転および互いの独立回転を可能とするクラッチ素子とを備え、
    前記内筒において前記係合機構が設けられている部分の内周面は、前記部分が設けられている前記回転中心線方向での範囲において、径方向で前記クラッチアウタの前記内周面よりも前記クランク軸に近い位置にあることを特徴とする自転車用変速装置。
  2. 前記駆動回転体および前記一方向クラッチは、前記クランク軸に同軸に、かつ前記クランク軸の回転中心線方向で互いに重ならない位置に配置されたことを特徴とする請求項1記載の自転車用変速装置。
  3. 前記部分と前記クラッチアウタとの径方向での段差部は、前記係合機構の係合素子の、前記回転中心線方向での移動を規制するストッパを構成することを特徴とする請求項1または請求項2記載の自転車用変速装置。
  4. 前記係合機構は、前記内筒の前記外周面および前記外筒の前記内周面に形成された収容溝と、前記収容溝に跨って転動可能に収容されて前記内筒および前記外筒に係合する係合素子としてのボール列とから構成されるボールスプライン機構であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の自転車用変速装置。
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