JP4113741B2 - 上肢の機能回復訓練用具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脳卒中などで内側に変形した上肢の屈曲を矯正するための機能回復訓練用具に関する。
【0002】
【従来の技術】
上位の死亡原因疾患である脳卒中は、近年、医学の進歩に伴い死亡数が減少傾向にある。しかし、超高齢化社会の中で脳卒中の患者数は増加傾向にあり、何らかの介助を受けなければ通常の日常生活を送れないような重い後遺症(例えば上肢や下肢の片麻痺など)を残す原因疾患でもある。上肢の片麻痺は、肩甲骨の内転(両肩が背後に引け、上肢を挙げられない)、肘屈曲(肘が内側に屈曲し、上肢を外側に開けない)、手指屈曲(親指が小指側に屈曲し(親指が内転位に位置し)、指を開けない)など上肢の各部位が内側に屈曲変形することに特徴がある。
【0003】
ところで、支障なく日常生活を送れるよう脳卒中などによる上肢の屈曲変形を矯正するには、機能回復訓練用具を用いないと効果的に行えなかったため、従来より様々な機能回復訓練用具が提案されている。例えば、掌を伏せた状態で把手部を把手し、傾斜したボード上で把手部を押したり引いたりして移動させながら訓練する機能回復訓練用具がある。また、長形の板体に上肢を載置固定し、掌を伏せた状態で把手部を把手してボード上を移動させながら訓練する機能回復訓練用具がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記前者の機能回復訓練用具を用いる訓練は、掌を伏せた状態(親指の内転位に近い状態)で把手部を把手して押したり引いたりしてするという(肘が屈曲伸展する)脳卒中の患者に特徴的な上肢が内側に屈曲した状態での訓練を伴い、肩甲骨の内転は矯正できても手指の変形や肘の変形を十分に矯正することは難しいという問題があった。また、傾斜したボード上を把手部を押したり引いたりすることは上肢の片麻痺が著しい重症患者には困難であった。更に、上記後者の機能回復訓練用具を用いる訓練は、上肢を固定するものの前者と同様に掌を伏せた状態(親指の内転位に近い状態)で把手部を把手するため、上肢が内側に屈曲した状態での訓練が伴い、やはり肩甲骨の内転は矯正できても手指の変形や肘の変形を十分に矯正することが難しいという問題があった。このように従来より脳卒中などによる上肢の屈曲変形の矯正は、非常に困難を伴い、上記例示の機能回復訓練用具を含めこれまでに提案されるいずれの機能回復訓練用具を用いても、上肢の肩、肘、手指すべての部位の屈曲変形を効果的に矯正することは難しいというのが実情であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、脳卒中などにより内側に屈曲した上肢の肩、肘、手指すべての部位の変形を重症者を含めより効果的に矯正できる機能回復訓練用具を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、脳卒中などによる上肢の屈曲変形の特徴についてより詳細に検討すると共に従来の訓練用具について検証した結果、健常者にとっては容易でも脳卒中の患者にとっては苦手な正常な体勢(内側への屈曲変形と逆の体勢である肩甲骨を外転した際に肩関節が内転し肘が屈曲あるいは肩甲骨が内転した際に肩関節が外転し肘が伸展する体勢、親指が外転位に位置する体勢)で訓練を繰り返せば効果的に矯正できることを見出し本発明に想到した。
すなわち、第1の発明は、ボード上で上肢の移動を繰り返し、脳卒中などによる上肢の屈曲変形を矯正する機能回復訓練用具であって、基台と、該基台上に立設・対向配置される一対の板体からなり、上肢を伸ばして伏せた掌を小指を起点として略90度起立させた状態にて親指以外の4指で前記板体の長さ方向の一端縁を各々左右の手指で交互に把手する把手部と、該把手部の親指以外の4指で把手する部位より上方に設けられ、4指から離間した位置にて親指を載せる親指載置部と、を備えてなることを特徴とする上肢の機能回復訓練用具に関する。
【0007】
上記構成の機能回復訓練用具によれば、肩を肩内外旋中間位、肘を伸展位、手指を親指外転位に維持し、上肢の内側への屈曲変形とは逆の正常な体勢で訓練を行えるので、肩、肘、手指のすべてをより効果的に同時に矯正できる。このことは、本発明の機能回復訓練用具を用いないで、上肢を伸ばし伏せた掌を小指を起点として略90度起立させ親指以外の4指を握り、さらに親指を4指の上方に離間させてみれば分かるように、この体勢においては、肩関節が脳卒中の変形の一である内旋することのないいわゆる肩内外旋中間位にあり、肘は緊張した伸展位にあり、また親指は外転位にある。従って、このような体勢で本発明の機能回復訓練用具を用いて訓練を行えば、機能回復訓練用具の重みの負荷がさらに加わり、正常な体勢にて筋力を十分に高められ、ひいては効果的に上肢のすべての屈曲を矯正できるのである。また、把手部が一対の板体から構成されるので、機能回復訓練用具自体が重くなると共に嵩高くなり、患者に対する負荷を高めて訓練を行うことができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、対向配置される一対の板体間の幅寸法が、手指の厚さ幅より僅かに大きく形成されてなることを特徴とする上肢の機能回復訓練用具に関する。板体間の幅寸法が手指の厚さ幅に近く構成されるので、手指を板体間で固定し易くなる。
【0009】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、対向配置される一対の板体間に天板が設けられてなることを特徴とする上肢の機能回復訓練用具に関する。対向配置される一対の板体間に天板が設けられるので、機能回復訓練用具の上部にも重みが加わることにより機能回復訓練用具自体のバランスが良くなり、訓練がし易くなる。
【0010】
第4の発明は、第3に発明において、天板に重り収容部が設けられてなることを特徴とする上肢の機能回復訓練用具に関する。重り収容部が設けられるので、機能回復訓練用具により一層の負荷が加わり患者の屈曲変形の程度に応じた訓練が可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
本実施形態に係る上肢の機能回復訓練用具100は、図1と図2に示すように、基台10と、前記基台10に立設される対向する一対の板体からなる把手部20と、該把手部20に付設される親指載置部30とから構成されている。
【0012】
基台10は、合成樹脂、金属、木質材など剛性のある素材で形成された矩形平板状の板体で、その下面側には4個のキャスター11が2個づつ並列して各々着脱自在に設けられている。キャスター11は、基台10下側の穿孔13の内側に形成された雌ねじとキャスターの車輪支持部に延設される取り付け部12に形成された雄ねじとが螺合することにより着脱自在となっている。なお、キャスター11は、雄ねじと雌ねじが螺合する前記構成のものに限定されるものではなく、着脱自在な構成であればどのような構成でも良い。
【0013】
把手部20は、合成樹脂、金属、木質材など剛性のある素材で形成された矩形平板状の一対の板体で構成される。一対の板体は、対向して配置され、板体間には天板22が形成されている。対向配置される一対の板体間の幅寸法は、手指の厚さ幅より僅かに大きく形成されている。また、各板体の長さ方向の一端縁の下方側には、指の形態に対応した指保持凹部21が形成され、親指以外の4指で把手できるようになっている。なお、把手部20と天板22とをコ字状に一体に形成し、開放端側を基台に立設する構成としても良い。
また、指保持凹部21を形成せず、把手部20の少なくとも親指以外の4指で把手する部位を円弧状など丸みのあるように形成しても良い。更に、板体が平板状に形成されない場合、少なくとも掌が接する面側は平坦面であることが好ましい。
【0014】
指保持凹部21の上方には、合成樹脂、金属、木質材など剛性のある素材で形成された親指載置部30が付設されている。親指載置部30は、丸棒状をなし、その両端は基台10と平行になるように板体の一端縁に形成された凹部に固定されており、親指を親指以外の4指から離間した位置で載せられるようになっている。なお、親指が4指で把手する部位より上方に位置し4指から離間する限り、親指載置部30は板体の一端縁より前方に位置するように形成しても、後方に位置するように形成しても(図1では板体間の内側に形成)、あるいは板体の一端縁と面一に形成しても良い。また、親指載置部30は、把手部20に付設するのではなく、把手部20前方位置の基台10に別途立設する構成としても良い。この場合、親指載置部30をコ字状に形成して開放端側を基台19に立設し、該親指載置部30に指保持凹部21を形成して板体と共に把手するように構成しても良い。あるいは親指載置部30に指保持凹部21を形成しないで円弧状など丸みのあるように形成し、板体と共に把手する構成としても良い。
【0015】
以下、上記にように構成される上肢の機能回復訓練用具100の使用方法について説明する。図2に示すように、左上肢の屈曲変形を訓練する場合、上肢を伸ばして伏せた掌を小指を起点として略90度起立させた状態で基台10に載せ、さらにテーブルなど水平なボード上に載せられた機能回復訓練用具100の一対の板体間に挿入し、把手部20の指保持凹部21を親指h2以外の4指h1で把手すると共に親指h2を親指載置部30に載せる。一対の板体間の幅寸法は、手指の厚さ幅より僅かに大きく形成されているので、挿入された手指を挟み込むように把手部20で固定することができる。そして、このような体勢で、ボード上の機能回復訓練用具100を左右、あるいはX字状などに移動を繰り返すことにより訓練を行う。
【0016】
上記のように、上肢を伸ばして伏せた掌を小指を起点として略90度起立させ、親指h2以外の4指h1で把手部20を把手すると共に親指h2を把手部20の上方に形成された親指載置部30に載せることにより、親指h2が小指側に屈曲する(親指が内転位にある)脳卒中などの手指屈曲を患者が苦手な正常な体勢(親指が外転位の状態)で訓練することができるので、手指の筋力を親指h2の外転位において高めることができ、より効果的に手指屈曲を矯正できる。また、前記と同様の患者が苦手な体勢(内側への屈曲変形と逆の正常な体勢)の肘の伸展と肩の内外旋中間位を維持しながら上肢の筋力を高めることができるので、脳卒中などによる肩甲骨の内転により上肢を挙げられないとか、あるいは肘の内側への屈曲をより効果的に矯正することができる。
【0017】
上肢の屈曲変形が重症の場合、機能回復訓練用具100に上肢を挿入し、把手部20を把手する作業は、介助を受けながら行うことができる。また、特に重症者は、上肢の筋力の衰えが強いので、手指の固定具及び/又は肘の固定具と組み合わせて訓練を行うこともできる。手指の固定具は、把手部を把手した手指が把手部から外れないように固定できれば、どのような構成でも良く、市販されるものを用いることもできる。このような手指の固定具40として、例えばエラストマーやゴムなど可撓性と伸縮性のある素材により形成された図3に示すようなベルト41で4指を覆い、ベルト41の両端に貼付された面ファスナー42を図1に示す把手部20の両側面に取り付けられた面ファスナー43と係合する構成としても良い。あるいは、前記と同じように両端に面ファスナーを備えた長いベルト(図示省略)の中心部を肘に巻き付けた後、一端を板体間に通し、他端の面ファスナーと係合させても良い。また、肘の固定具は、伸ばされた上肢を肘で屈曲しないように固定できれば、どのような構成でも良く、市販されるものを用いることもできる。このような肘の固定具50として、例えばエラストマーやゴムなど可撓性と伸縮性のある素材により形成された図4に示すような肘を内側から固定する固定板52が布製のサポーター51に取り付けられた構成としても良い。また、後記第3実施形態の固定具収容部に収容して用いる場合は図5に示すような板体のみからなる肘の固定具55としても良い。
【0018】
キャスター11は、基台10に着脱自在に設けられるので、患者の屈曲変形の程度に応じ取り外して訓練することもできる。このようにキャスター11を取り外すことでボードと基台10間の摩擦抵抗が大きくなるため、機能回復訓練用具100を移動させる際の負荷が高くなり、矯正が進んだ患者に使用することができる。
【0019】
また、矯正が進んだ患者に対し負荷を高めて訓練するために、傾斜面を有するボード(図示省略)と組み合わせて用いることもできる。
【0020】
なお、本実施形態に係る機能回復訓練用具100を屈曲変形が軽症から重症に至る様々な患者に試験的に使用を繰り返したところ、軽症の患者は勿論のこと、従来矯正が難しかった重症の患者の矯正にも有効であった。
【0021】
〔第2実施形態〕
第2実施形態に係る機能回復訓練用具110は、第1実施形態の機能回復訓練100において、天板に重り収容部23を形成したものである。図6に示すように、重り収容部23は天板22に形成された凹嵌部により構成され、この中に重りを収容できるようになっている。また、収容された重りが、機能回復訓練用具110をボード上を移動させる際に落下しないように蓋24が設けられている。このように機能回復訓練用具110に重りを収容させれば、機能回復訓練用具110自体を重くして変形が少しずつ矯正された患者の訓練時における負荷を高めることにより上肢の屈曲変形をより効果的に矯正することが可能となる。なお、図6において、第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を用いたが、下記の各実施形態についても同様とした。
【0022】
〔第3実施形態〕
第3実施形態に係る機能回復訓練用具120は、第1実施形態の機能回復訓練用具100において、矩形平板状の板体からなる把手部20の長手方向に肘の固定具を収容する固定具収容部25を設けたものである。図7に示すように、対向する各板体の一部に中空部を形成し、その中に図5に示すような板状の肘の固定具55を収容するものである。このような構成により、肘の固定を簡単に行うことができる。
【0023】
〔第4実施形態〕
第4実施形態に係る機能回復訓練用具130は、図8に示すように把手部20が一の板体から構成されるものである。基台10は、第1実施例で説明した機能回復訓練用具100と同様に構成できるので、以下、把手部20及び親指載置部30の構成を中心に説明する。
【0024】
基台10に立設される把手部20は、合成樹脂、金属、木質材など剛性のある素材で形成された矩形平板状の板体で構成される。該板体の長さ方向の一端縁の下方には、指の形態に対応した指保持凹部21が形成され、親指以外の4指で把手できるようになっている。
【0025】
また、指保持凹部21の上方には、合成樹脂、金属、木質材など剛性のある素材で形成された親指載置部30が設けられている。親指載置部30は、丸棒状をなし、その中心部は把手部20に基台10と平行になるように板体の一端縁に形成された凹部に固定され、親指載置部30の両側は把手部20の両側から各々左右に突出している。
【0026】
上記のように構成される機能回復訓練用具130は、第1実施形態で説明した機能回復訓練用具100と同様に使用し得るものであるが、左右の上肢を各々訓練する場合、板体の両側から交互に把手し、また親指は親指載置部30の突出した部位に載せて使用する。
【0027】
【発明の効果】
本発明の機能回復訓練用具によれば、上肢を伸ばし伏せた掌を小指を起点として略90度起立させ親指以外の4指で把手部を把手し、親指が4指の上方に離間した位置で訓練するので、肩を肩内外旋中間位、肘を伸展位、手指を親指外転位に維持しながら上肢の内側への屈曲変形とは逆の正常な体勢で上肢の筋力を高めることができ、軽症重症を問わず脳卒中などによる手指、肘、肩のすべての屈曲変形を効果的に矯正でき、ひいては医療上あるいは介護上に大きな福音をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係る機能回復訓練用具の斜視図である。
【図2】手指を挿入した状態の第1実施形態に係る機能回復訓練用具の正面図である。
【図3】手指の固定具の斜視図である。
【図4】肘の固定具の斜視図である。
【図5】別形態の肘の固定具の斜視図である。
【図6】第2実施形態に係る機能回復訓練用具の斜視図である。
【図7】第3実施形態に係る機能回復訓練用具の正面図である。
【図8】第4実施形態に係る機能回復訓練用具の斜視図である。
【符号の説明】
10 基台
11 キャスター
20 把手部
21 指保持凹部
22 天板
23 重り収容部
25 固定具収容部
30 親指載置部
40 手指の固定具
50 肘の固定具
55 肘の固定具
h1 親指以外の4指
h2 親指
100 機能回復訓練用具
110 機能回復訓練用具
120 機能回復訓練用具
130 機能回復訓練用具
Claims (4)
- ボード上で上肢の移動を繰り返し、脳卒中などによる上肢の屈曲変形を矯正する機能回復訓練用具であって、
基台と、
該基台上に立設・対向配置される一対の板体からなり、上肢を伸ばして伏せた掌を小指を起点として略90度起立させた状態にて親指以外の4指で前記板体の長さ方向の一端縁を各々左右の手指で交互に把手する把手部と、
該把手部の親指以外の4指で把手する部位より上方に設けられ、4指から離間した位置にて親指を載せる親指載置部と、
を備えてなることを特徴とする上肢の機能回復訓練用具。 - 対向配置される一対の板体間の幅寸法が、手指の厚さ幅より僅かに大きく形成されてなることを特徴とする請求項1記載の上肢の機能回復訓練用具。
- 対向配置される一対の板体間に天板が設けられてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の上肢の機能回復訓練用具。
- 天板に重り収容部が設けられてなることを特徴とする請求項3記載の上肢の機能回復訓練用具。
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