JP4112814B2 - 靭性に優れた耐摩耗性鉄系皮膜及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は優れた靭性と耐摩耗性を兼ね備えた鉄系皮膜及びその製造方法に関し、詳細には輸送機,産業機械,レジャー用品などの分野において、高い耐摩耗性が要求される治工具,車軸,軸受け,等速ジョイント,レールガイド等の各種摺動,転動の要素を含んだ機械部品の靭性及び耐摩耗性向上に有用な鉄系皮膜、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の過酷な使用環境に対応すべく、摺動部材や転動部材などの各種機械部品には、硬度のみならず高い靭性が要求されている。この様な技術として例えば特開平5−78821号には、Co,Ni及びMoから選ばれる1種以上の金属と、Si,Ti,V,Cr,Fe,Zr,Nb及びWから選ばれる1種以上の金属の炭化物又は窒化物との混合組織からなる被膜をイオンプレーティング法によって母材表面に被覆することにより耐摩耗性,被膜靭性を向上させる技術が提案されている。また特開平5−125521号には、TiNとNiからなる被膜をイオンプレーティング法によって母材表面に被覆して密着性を向上させる技術が開示されている。更に特開平9−71856号にはAl,Si,Fe,Ti,V,Cr,Zr,Nb,Hf及びWよりなる群から選択される1種以上の金属の炭化物,窒化物または炭窒化物中にCo,Ni,Mo及びCuよりなる群から選択される1種以上の金属を含む被膜をイオンプレーティング法によって母材表面に被覆して靭性及び密着性を改善する方法が提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これら提案されている技術は十分な靭性を確保するためにNi,Co,Mo,Cu等の高価な金属を多量に添加する必要があり、高コストの要因となっていた。特に成膜にイオンプレーティング法などの気相コーティング法を用いる場合、特殊な組成のターゲット材を溶製したり、或いは複数種のターゲットを用いるような複雑な成膜操作が必要となり、製造コストが大幅に上昇するため、その適用は一部の高級品に限られていた。
【0004】
また従来技術の皮膜を施した耐摩耗部材は潤滑油存在下で使用されるため、潤滑油は鋼製部品への適用を前提に添加剤などの成分設計が行なわれている。しかしながら皮膜を構成する主成分がFe以外であると、潤滑油と膜との相性が悪く、潤滑油が劣化するという問題が生じていた。例えば皮膜にNiが多量に含有されているとNiは潤滑油中のS系極圧剤と反応し、Ni硫化物を生成して潤滑油を黒変させると共に、極圧剤を消費するため、潤滑油の寿命が著しく低下するという問題が生じている。
【0005】
本発明は上記問題を鑑みなされたものであって、その目的は優れた靭性と耐摩耗性を有する鉄系皮膜を提供すること、およびその成膜方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し得た本発明の皮膜とは、母材表面に形成される少なくともNi,Cr,Nを含有する鉄系皮膜において、該皮膜を厚さ方向に垂直に切断して鏡面研磨した断面を、電解放射型走査電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で反射電子像にて観察したとき、各反射電子像の皮膜部分に存在するマトリックスより輝度が高く、且つ面積が0.05μm2以上の不連続領域を合計した面積が、全面積の15%以下(但し、5視野を観察したときの平均値)であることに要旨する。また透過型電子顕微鏡を用いて倍率15000倍で前記断面の5視野(各5μm2)を観察したとき、マトリックスと不連続領域の境界に存在する空隙であって、その長さが0.1μm以上である空隙の数が平均3以下であることが推奨され、更に前記皮膜が窒化物を有するオーステナイト相を含むものであることが望ましい。
【0007】
本発明の皮膜を母材に形成する方法としては、Fe,Ni,Crを含む合金ターゲットを用い、窒素を含むプラズマ雰囲気中で磁場誘導型フィルタードアーク法にて成膜するか、あるいは皮膜を母材に形成するにあたり、Fe,Ni,Crを含む合金ターゲットを用い、窒素を含むプラズマ雰囲気中でスパッタリング法にて成膜することが推奨される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、皮膜組織に不連続部分が存在すると、使用中における外部応力に対して該不連続部分とマトリックスとの界面部分が起点となってクラックが生じてしまうことを見出した。そしてFe−Cr−Ni系窒素皮膜における微細構造を特定することによって皮膜の靭性及び密着性を著しく向上できることを知得し、本発明の皮膜を完成するに至った。以下本発明について詳述する。
【0009】
本発明の対象とする皮膜は母材に形成する皮膜であって、Cr,Ni,N,及び残部は実質的にFeからなる皮膜であるが、残部が「実質的にFe」とはFe系合金中に通常含まれているC,B,P,Si,S,Nb等やその他金属元素等が皮膜の特性に大きな影響を与えない範囲で含まれていても良い趣旨であり、また酸化物や硼化物などを混入させる場合も同様の趣旨であれば本発明の範囲内とする意味である。
【0010】
尚、皮膜を構成するCr,Ni,N,Feの成分比については特に限定されないが、Feの含有量が多いほど皮膜と潤滑油との相性を向上させることができるので皮膜中のFe含有率は少なくとも50質量%とすることが推奨される。Cr,Ni,Nは皮膜靭性・耐摩耗性を向上させるのに有効な成分であるが、これらの含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜調節すればよい。例えばNiは高価な元素であるため多量に添加するとコスト上昇の要因となり、また添加効果も飽和する傾向にあるので、上限は30質量%とすることが好ましい。この際、潤滑油劣化を防止しつつ、十分なNi添加効果を発揮させるという観点からNi含有量上限を10質量%としてもよい。Crが多量に含有されると膜自体が脆くなることがあるので好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下とすることが望ましい。またNは皮膜特性劣化防止の観点から好ましくは20質量%以下,より好ましくは15質量%以下とすることが望ましい。
【0011】
本発明は上記した様な少なくともNi,Cr,Nを含有する鉄系皮膜において、該皮膜を厚さ方向に垂直に切断して鏡面研磨した断面を、電解放射型走査電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で反射電子像にて5視野観察したとき、各反射電子像の皮膜部分に存在するマトリックスより輝度が高く、且つ面積が0.05μm2以上の不連続領域を合計した面積が、全面積の15%以下(5視野の平均値)であることに要旨を有する皮膜である。
【0012】
本発明において「不連続領域」とは、母材に形成した皮膜を厚さ方向に垂直に切断して鏡面研磨した断面を、電解放射型走査電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で反射電子像にて観察したときに、該反射電子像の皮膜部分に存在するマトリックスと明度が異なる粒子部分をいう。図3bは本発明に係る皮膜の反射電子像(1000倍)である。マトリックスと明度が異なる粒子部分とは該写真1に示される如く、明度の異なる粒子状の部分(例えば図3bにおける数字が付与された白抜き部分)であって、マトリックスよりも輝度が高い部分が組織的に不連続な領域である。
【0013】
尚、不連続領域の構造は必ずしも明確ではないが、不連続領域はマトリックスよりも窒素の固溶度が小さく、マトリックスと機械的特性(硬度,ヤング率など)が異なるα相、あるいはマトリックスと比較して窒素量の少ないγ相などの相を含む組織であって、マトリックスと機械的特性が異なる構造を有する領域である。
【0014】
皮膜ミクロ組織に不連続領域が存在すると、使用中における外部応力に対して該不連続領域とマトリックスとの界面部分が起点となってクラックが生じるが、皮膜マトリックス中の不連続領域が占める割合(面積総計比率)を15%以下とすれば、不連続領域に起因するクラックの発生を抑止することができる。したがって同一の成分組成を有する皮膜と比べても不連続領域が15%以下である皮膜は、不連続領域が15%を超える皮膜と比べて密着性,靭性に優れている。
【0015】
尚、1個の不連続領域の面積が0.05μm2未満である場合は、靭性や密着性などの各種皮膜特性への影響が小さいことから、本発明における「不連続領域」とは、1個の不連続領域の面積が0.05μm2以上である領域を意味する。本発明においては、皮膜を厚さ方向に垂直に切断し、更に切断面を鏡面研磨して得られた断面を電解放射型示差電子顕微鏡(日立製作所製,電解放射型走査電子顕微鏡S4500)を用いて該断面の反射電子像(1000倍)を5視野観察したときの皮膜部分に存在するマトリックスより輝度が高く、且つ面積が0.05μm2以上の不連続領域を合計した面積が、全面積の15%以下(但し、5視野を観察したときの平均値)であることが推奨され、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。特に使用条件が過酷な部材においては3%以下であることが望ましい。
【0016】
また該不連続領域とマトリックスとの境界部分に空隙(図4参照)が存在していると、該空隙部分が起点となって皮膜クラックの原因となることがあり、上記不連続領域の面積が15%以下であっても空隙が存在するとクラックが発生することがある。特に1個の空隙の長さ(空隙の長さとは、空隙2点間の最大長さである。)が0.1μm以上とクラック発生に与える影響も大きいため、本発明においてはマトリックスと不連続領域の境界部分に存在する空隙の長さは0.1μm未満であることが皮膜膜靭性劣化抑止の観点からも望ましい。また空隙の長さが0.1μm未満であれば、靭性や密着性などの各種皮膜特性への影響が小さく、またクラック発生に与える影響も小さい。
【0017】
したがって本発明においては、不連続領域の面積比率を小さくすると共に空隙が少ないことが推奨され、透過型電子顕微鏡(日立製作所製HF2000)を用いて倍率15000倍にて皮膜を厚さ方向に切断した断面(鏡面研磨せず)の5視野(各5μm2)を観察したとき、マトリックスと不連続領域の境界に存在する0.1μm以上の長さを有する空隙の数が平均3以下であれば、空隙がクラック,靭性,密着性へ及ぼす影響がほとんどないので好ましい。より好ましくは1以下であって、最も好ましくは0である。
【0018】
上記した様な組織を有する皮膜であれば、皮膜のFe組織については特に限定されず、例えばフェライト相(以下、「α相」ということがある。)主体であってもよく、あるいはオーステナイト相(以下、「γ相」ということがある。)主体であってもよいが、皮膜が窒化物を有するγ相で構成されていると、皮膜の靭性が更に改善されるので望ましい。特に皮膜中に含まれる窒化物を有するγ相の割合(体積率(%)、以下同じ)が好ましくは10%以上であれば優れた靭性を示す。より好ましくは20%以上、最も好ましくは100%である。この様なγ相を有する皮膜とするためには、例えばNi,N,Cr含有量を適宜調節すればよく、Niはγ相の生成を促進させると共に、靭性を確保するという観点から好ましくは2.5質量%以上含有させることが望ましい。Nはγ相の生成を促進させると共に、皮膜硬度,靭性を向上させるという観点から好ましくは4質量%以上含有させることが望ましく、Crはγ相の生成を阻害させずに皮膜硬度,耐摩耗性,皮膜靭性などの皮膜特性を向上させるという観点から好ましくは5質量%以上含有させることが望ましい。γ相,窒化物の有無並びに体積比率はリートベルト法を用いたX線回折(XRD)により皮膜中に含まれるγ相、α相及び窒化物の比率により測定することができる。
【0019】
本発明において皮膜の硬度は少なくともHv900を有することが好ましい。Hv900以上であれば、耐摩耗性部材として窒化処理鋼や浸炭窒化処理鋼を用いた場合、母材硬度として同程度の硬度を有する皮膜を施すことができ、広範な用途に用いることができる。より優れた耐摩耗性が要求される分野に適用するためには皮膜の硬度はHv1000以上であることが好ましい。この様な硬度を有する皮膜とするためには皮膜の組成を適宜調節すればよい。
【0020】
本発明に係る皮膜が被覆される母材の種類は特に限定されず、Ti合金,Al合金,Mg合金などの軽量材料;機械構造用鋼、工具用鋼,軸受け鋼などのFe基合金;超硬材料;セラミックスなどを用いることができる。これらのうち高い硬度を有する素材が好ましく、高い硬度を有していれば局部的な面圧がかかる環境下で使用しても、皮膜及び母材自身の変形量を軽減し、母材の変形に伴う皮膜の破壊,剥離を防止することができる。特にFe基合金は耐摩耗部品としても優れており、しかも本発明の皮膜とのヤング率差が小さくFe基合金であれば皮膜/母材界面に生じる剪断応力を抑えることができると共に、密着性を維持することができる。この様な観点から硬度の高いFe基合金が好ましく、Hv600以上を有するものがより好ましく、より好ましくはHv900以上、最も好ましくは1000Hv以上を有するFe基合金である。
【0021】
本発明に係る皮膜の膜厚は特に限定されず、使用環境,適用部材,要求される寸法精度等の種々の要因に基づいて必要な膜厚を選定すればよい。極端に膜厚が薄い場合や逆に厚い場合は、皮膜の十分な効果が得られなくなることがある。したがって膜厚は通常、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上であって、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲で用いることが推奨される。
【0022】
上記皮膜を母材に形成するにあたり、Fe,Ni,Crを含む合金ターゲットを用いて、窒素を含むプラズマ雰囲気中で磁場誘導型フィルタードアーク法、あるいはスパッタリング法にて成膜することが推奨される。また成膜時のプロセスガスとして窒素以外にも窒素−メタン混合ガスなどの窒素含有ガスを用いてもよい。該プロセスガス雰囲気中でプラズマを発生させ、母材に向って蒸発もしくは飛散させたターゲット材料とプラズマを反応させながら磁場誘導型フィルタードアーク(図1参照,尚、図中1は電磁コイル,2はプラズマ,3は母材,4はターゲット,MPはマクロパーティクルである)、或いはスパッタリング法によって成膜すれば、ターゲット材に起因する不連続領域の発生、及びマトリックスと不連続領域との界面における空隙の発生を抑制することができると共に、マトリックスをγ相+窒化物とすることができる。
【0023】
本発明で採用している磁場誘導型フィルタードアーク法とは図1に例示される様な直線型フィルタードアーク法、或いは90°偏向型フィルタードアーク法のいずれであってもよいが、カソード型アークイオンプレーティング法の様にフィルターを用いないで成膜すると、皮膜組織中に不可避的に不連続領域が混入してしまうと共に、マトリックスと不連続領域との界面に空隙が形成されてしまい本発明の上記皮膜が得られないので好ましくない。
【0024】
成膜時のバイアス電圧としては十分な皮膜硬度を得るために好ましくは10V以上、より好ましくは30V以上とすることが望ましいが、電圧上昇に伴って温度が上昇し過ぎると所望のγ層等が得られなくなることがあるので好ましくは200V以下、より好ましくは100V以下とすることが望ましい。
母材の温度はターゲット合金の組成や成膜条件によって異なるが、温度が高くなりすぎると皮膜特性が劣化することがあるので成膜時の最高温度を好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下とすることが望ましいが、十分な皮膜−母材間の密着性を得るためには好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上である。
【0025】
また成膜時のカソード電流は効率的に所望の皮膜を成膜するためには好ましくは40A以上、より好ましくは50A以上とすることが望ましく、温度上昇に伴う皮膜特性劣化抑止の観点から好ましくは200A以下、より好ましくは100A以下である。
【0026】
プロセスガス導入後の圧力は窒素を十分含有させると共に、所望の皮膜硬度を得るためには少なくとも0.5Paとなる様に制御することが好ましく、より好ましくは1Pa以上であることが望ましい。上限については特に限定されないが、ある程度の高圧で効果も飽和することから生産性の観点から好ましくは5Pa以下、より好ましくは3Pa以下である。
【0027】
本発明で用いることのできるターゲット材としては、Fe,Ni,Crを含有するものであればよく、例えば市販のオーステナイト系ステンレス若しくはニッケルクロムモリブデン鋼等の合金鋼をターゲットとして用いることができる。本発明では市販の鉄系合金をターゲット材料として用いることができるので、特殊な合金の溶製を必要とせず、また複数種のターゲットを用いた複雑な成膜操作を必要としないので経済性にも優れている。
【0028】
以下実施例に基づいて本発明を詳述する。尚、下記実施例は本発明を限定する趣旨のものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更を加えて実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0029】
【実施例】
母材としてクロムモリブデン浸炭窒化鋼を用い、この母材表面に図2(図中1,2,3,4,MPは図1と同じ)に示す様な90°偏向型フィルタードアーク法(No.1〜4)、スパッタリング法(No.5〜7)、或いはカソード型アークイオンプレーティング法(No.8〜12)を用いて下記表1に示す条件で被覆(膜厚については全試験材共に同一)した。この際、導入ガスとして窒素を用いるとともに圧力調整用にArガスを必要に応じて適宜混入させた。また成膜温度を抑えるために必要に応じて間欠成膜を行なった。
【0030】
<90°偏向型フィルタードアーク法成膜条件>
ガス導入前真空度 :1×10-3〜5×10-5Pa
スパッタクリーニング:−500×―800V
ガス導入後圧力 :0.5〜3Pa
成膜時カソード電流 :100〜200A
成膜時バイアス電圧 :−5〜−100V
成膜前温度 :100〜150℃
<スパッタリング成膜条件>
ガス導入前真空度 :5×10-4〜5×10-5Pa
スパッタクリーニング:−700V,2min(間欠)
ガス導入後圧力 :0.1〜0.5Pa
成膜時バイアス電圧 :−50〜−200V
RF出力 :500〜2000W
成膜前温度 :100〜150℃
<カソード型アークイオンプレーティング成膜条件>
ガス導入前真空度 :5×10-3〜1×10-2Pa
スパッタクリーニング:400V,5min(間欠)
ガス導入後圧力 :1〜3Pa
成膜時バイアス電圧 :10〜100V
成膜前温度 :100〜300℃
皮膜組織における不連続領域面積比率及び空隙部の評価方法を以下に示す。
【0031】
<膜中粒状部面積比測定方法>
皮膜厚み :10μm
切断研磨 :基板面に対して垂直に切断,鏡面研磨
観察方法 :日立製作所製電解放射型走査電子顕微鏡S4500(加速電圧20kV)
観察像 :反射電子像
観察倍率 :10000倍(5視野で粒状部の面積を測定)
その他 :反射電子像観察時に不連続領域と周辺部(マトリックス)のコントラストが最大となる様に観察条件を設定し、得られた像に対して画像処理を行い、周囲より輝度の高い部分を粒状部として面積比率を計算した。
【0032】
<空隙部測定方法>
皮膜厚み :4μm
切断研磨 :基板面に対して垂直に切断,TEM試料用に薄片化
観察方法 :電解放射型透過電子顕微鏡(日立製作所製HF2000)
観察倍率 :15000倍
観察視野 :5μm角
観察視野数 :5視野
膜の靭性は異化のスクラッチ試験機を用いて試験した。
【0033】
<靭性評価方法>
圧子 :ダイヤモンド,先端径100μmR
速度 :10nm/min
荷重 :100N/min
評価基準 :靭性 → チッピング発生荷重
<硬度評価方法>
装置 :マイクロビッカース硬度計
荷重 :25gf
採用値 :3点測定平均
【0034】
γ相および析出相以外に同定された相は主にα相である。その他同定不能相が見られる場合があったが、量的にはわずかであるために定量する際は無視した。また相対感度係数はリートベルト法によるシュミレーションで分離ピークにフィットする値を計算して求めた。
γ相中N量:使用ピークγ(111),(220)より格子定数を算出した平均N(質量%)=−116.252+32.618×平均格子定数(Å)
<皮膜中N含有量測定>
面分析 :100μmφ領域の表面から分析
定量 :SUS304合金を使用して感度微調整
【0035】
【表1】
【0036】
90°偏向型フィルタードアーク法及びスパッタリングで成膜したNo.1〜7は、皮膜の靭性と硬度(耐摩耗性)に特に優れている。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた靭性と耐摩耗性に優れた皮膜を提供することができる。また本発明の成膜方法によれば優れた耐摩耗性を有する表面処理膜を安価で簡便な方法によって施すことが可能であり、結果として実用性に優れた耐摩耗性部品を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いることができる直線型フィルタードアーク法を示す一概念図である。
【図2】本発明で用いることができる90°偏向型フィルタードアーク法を示す一概念図である。
【図3】電解放射型走査電子顕微鏡を用いた皮膜断面の反射電子像である。
【図4】電解放射型透過電子顕微鏡を用いた皮膜写真である。
【符号の説明】
1.電磁コイル
2.プラズマ
3.母材
4.ターゲット
MP.マクロパーティクル
Claims (5)
- 母材表面に形成される少なくともNi,Cr,Nを含有する鉄系皮膜において、
該皮膜は、磁場誘導型フィルタードアーク法、又は、スパッタリング法によりSUS304、SUS304L、SUS316、又は、Fe−8Ni−20Crのターゲットを用いて得られた皮膜であり、
Ni:30質量%以下、
Cr:25質量%以下、
N :20質量%以下、
Fe:少なくとも50質量%を含有すると共に、
該皮膜を厚さ方向に垂直に切断して鏡面研磨した断面を、電解放射型走査電子顕微鏡を用いて倍率1000倍で反射電子像にて観察したとき、
各反射電子像の皮膜部分に存在するマトリックスより輝度が高く、且つ面積が0.05μm2以上の不連続領域を合計した面積が、全面積の15%以下(但し、5視野を観察したときの平均値)であることを特徴とする靭性に優れた耐摩耗性鉄系皮膜。 - 透過型電子顕微鏡を用いて倍率15000倍で前記断面の5視野(各5μm2)を観察したとき、
マトリックスと不連続領域の境界に存在する空隙であって、その長さが0.1μm以上である空隙の数が平均3以下である請求項1に記載の耐摩耗性鉄系皮膜。 - 前記皮膜が窒化物を有するオーステナイト相を含むものである請求項1または2に記載の耐摩耗性鉄系皮膜。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の皮膜を母材に形成するにあたり、
Fe,Ni,Crを含む合金ターゲットとしてSUS304、SUS304L、SUS316、又は、Fe−8Ni−20Crのターゲットを用い、
窒素を含むプラズマ雰囲気中で磁場誘導型フィルタードアーク法にて、プロセスガス導入後の圧力を0.5〜3Pa、成膜時のカソード電流を40〜200A、成膜時のバイアス電圧を−5〜−100V、成膜前の温度を100〜150℃として成膜することを特徴とする耐摩耗性鉄系皮膜の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の皮膜を母材に形成するにあたり、
Fe,Ni,Crを含む合金ターゲットとしてSUS304、SUS304L、SUS316、又は、Fe−8Ni−20Crのターゲットを用い、
窒素を含むプラズマ雰囲気中でスパッタリング法にて、プロセスガス導入後の圧力を0.1〜0.5Pa、成膜時のバイアス電圧を−50〜−200V、RF出力を500〜2000W、成膜前の温度を100〜150℃として成膜することを特徴とする耐摩耗性鉄系皮膜の製造方法。
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