JP4106770B2 - マスタシリンダ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のブレーキ装置やクラッチ装置に利用されるマスタシリンダに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のマスタシリンダは、実開平01−171769号公報に開示されるように、
シリンダ孔を有するシリンダボデーと、
前記シリンダ孔に前進及び後退可能に挿入されると共にその前方側に圧力室を形成するピストンと、
前記圧力室に作動液を導入するための作動液供給室と、
前記圧力室と前記作動液供給室とを連通する連通路と、
前記連通路に配設されると共に前記圧力室と前記作動液供給室との連通を抑制するオリフィスと、
前記ピストンの前進に応じて前記連通路の前記圧力室側開口部を閉塞することにより前記圧力室と前記作動液供給室との連通を遮断し、前記ピストンの後退に応じて前記連通路の前記圧力室側開口部を開放することにより前記圧力室と前記作動液供給室とを連通させる弁機構と、
を備えるものである。
【0003】
このマスタシリンダは、ピストンがシリンダボデーに対して前進されると弁機構により連通路の圧力室側開口部が閉塞されて圧力室と作動液供給室との連通が遮断され、ピストンの前進により圧力室内の圧力が上昇されることになる。ピストンが前進されて圧力室の圧力が上昇された後、ピストンがシリンダボデーに対して後退されると、弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通路を介して連通され、圧力室内の作動液が作動液供給室に流入することにより圧力室の圧力が減少される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながらこの従来のマスタシリンダは連通路にオリフィスが配設されていることから、例えば、マスタシリンダの作動に伴って圧力室の作動液圧が所定圧よりも高くなる状況が生じる場合に、弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通されると、圧力室内の作動液が圧力室から作動液供給室へと流動する。このとき、作動液は連通路のオリフィスを介して圧力室から作動液供給室へと流動することから、作動液がオリフィスを通過する際に流動音が生じることがある。
【0005】
本発明は、流動音の発生を抑制可能とするマスタシリンダを提供することを、その技術的課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の手段として、シリンダ孔を有するシリンダボデーと、前記シリンダ孔に前進及び後退可能に挿入されると共にその前方側に圧力室を形成するピストンと、前記圧力室に作動液を導入するための作動液供給室と、前記圧力室と前記作動液供給室とを連通可能な連通路と、前記連通路に配設されると共に前記圧力室と前記作動液供給室との連通を抑制可能な絞り手段と、前記ピストンの前進に応じて前記連通路を遮断し、前記ピストンの後退に応じて前記連通路の遮断を解除する弁機構とを備えたマスタシリンダにおいて、前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力に応じて前記絞り手段の抑制効果が変化することを特徴とするマスタシリンダを構成した。
【0007】
又、第2の手段として、シリンダ孔を有するシリンダボデーと、前記シリンダ孔に前進及び後退可能に挿入されると共にその前方側に圧力室を形成するピストンと、前記圧力室に作動液を導入するための作動液供給室と、前記圧力室と前記作動液供給室とを連通可能な連通路と、前記連通路に配設されると共に前記圧力室と前記作動液供給室との連通を抑制可能な絞り手段と、前記ピストンの前進に応じて前記連通路を遮断し、前記ピストンの後退に応じて前記連通路の遮断を解除する弁機構とを備えたマスタシリンダにおいて、前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力に応じて前記絞り手段を介して前記圧力室から前記作動液供給室へ流入する前記作動液の量が変化することを特徴とするマスタシリンダを構成した。
【0008】
好ましくは、第3の手段として、前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力が所定圧以上の際には前記絞り手段の前記抑制効果が減少されることを特徴とする第1の手段のマスタシリンダが望ましい。
【0009】
好ましくは、第4の手段として、前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力が所定圧以上の際には前記絞り手段を介して前記圧力室から前記作動液供給室へ流入する前記作動液の量が減少されることを特徴とする第2の手段のマスタシリンダが望ましい。
【0010】
好ましくは、第5の手段として、前記連通路は前記圧力室から前記作動液供給室にかけて連続する第1連通路と前記第1連通路の径よりも大きな径を有する第2連通路とを備え、前記絞り手段は、前記第2連通路に前記第2連通路の延在方向に移動可能に配設されると共に第1連通路の径よりも大きな径を有し、前記圧力室の圧力が前記所定圧未満のときには前記第1連通路と第2連通路との段差部に当接し、前記圧力室の圧力が前記所定圧以上のときには前記段差部から離間することにより少なくとも前記段差部との間のクリアランスを介して前記第1連通路と前記第2連通路とを連通する可動体と、前記可動体に配設されると共に前記可動体の前記段差部への当接時に前記第1連通路と前記第2連通路とを連通するオリフィスとを備える第3の手段のマスタシリンダが望ましい。
【0011】
好ましくは、第6の手段として、前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室が前記所定圧以上のときに前記圧力室と前記作動液供給室とを連通可能とする補助連通路を備えていることを特徴とする第4の手段のマスタシリンダが望ましい。
【0012】
第1の手段のマスタシリンダは、ピストンの後退に伴って弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通される際に、圧力室の圧力に応じて絞り手段の抑制効果が変化する。
【0013】
第2の手段のマスタシリンダは、ピストンの後退に伴って弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通される際に、圧力室の圧力に応じて絞り手段を介して圧力室から作動液供給室へ流入する作動液の量が変化する。
【0014】
第3の手段のマスタシリンダは、第1の手段の作用に加えて、ピストンの後退に伴って弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通される際に、圧力室の圧力が所定圧以上の際には絞り手段の抑制効果が減少される。
【0015】
第4の手段のマスタシリンダは、第2の手段の作用に加えて、ピストンの後退に伴って弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通される際に、圧力室の圧力が所定圧以上の際には絞り手段を介して圧力室から作動液供給室へ流入する作動液の量が減少される。
【0016】
第5の手段のマスタシリンダは、第3の手段の作用に加えて、ピストンの後退に伴って弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通される際に、圧力室の圧力が所定圧未満のときには第1連通路と第2連通路とはオリフィスを介して連通され、圧力室の圧力が所定圧以上のときには少なくとも可動体と第1連通路と第2連通路との段差部との間のクリアランスを介して連通される。
【0017】
第6の手段のマスタシリンダは、第4の手段の作用に加えて、ピストンの後退に伴って弁機構により圧力室と作動液供給室とが連通される際に、圧力室の圧力が所定圧未満のときには連通路を介して連通され、圧力室の圧力が所定圧以上のときには連通路と補助連通路とを介して連通される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施の形態により具体的に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1は本発明の一実施の形態であるマスタシリンダ3を用いた液圧ブレーキ装置1の断面である。図1に示すように、液圧ブレーキ装置1の液圧シリンダボデー1a内の車両前方側(図1中左側)には液圧レギュレータ2が構成され、後方側にはマスタシリンダ3が構成されており、ブレーキ操作部材たるブレーキペダル4が設けられている。
【0020】
このブレーキペダル4に加えられた踏力がプッシュロッド5及び入力部材6を介してブレーキ作動力として伝えられ、これに応じてマスタシリンダ3及び液圧レギュレータ2の出力液圧が、ABS(アンチロックブレーキシステム)、TRC(トラクションコントロール)及び制動操舵制御のアクチュエータ部40を介し、車両前方右側及び左側の車輪FR、FL、並びに後方右側及び左側の車輪RR、RLのホイールシリンダWfr、Wfl、Wrr、Wrlに出力される。尚、ホイールシリンダWfr、Wflは第1液圧系統に属し、ホイールシリンダWrr、Wrlは第2液圧系統に属する。
【0021】
シリンダボデー1aには、内径が異なる孔1ba、1bb、1bc等から成る段付シリンダ孔1bが形成されており、この中にマスタシリンダピストン7及び制御ピストン8とが収容され、マスタシリンダピストン7の前方でマスタシリンダピストン7と制御ピストン8との間に圧力室9が郭成されている。尚、孔1baはこれより大きい内径を有するパワー室10に連通しており、最も径が小さい孔1bbには制御ピストン8が液密的摺動自在に嵌合されている。
【0022】
図2は図1のマスタシリンダ3部分の拡大図である。図1及び図2に示すように、マスタシリンダピストン7は、第1ピストン7aと第2ピストン7bとから成り、孔1bbとこれより大径の孔1baとの両者に、それぞれ第1ピストン7aの両端部が収容され支持されている。
【0023】
第1ピストン7aの外周面には、前方端部に小径の前方ランド部7aaが形成されると共に、前後方向(図2中左右方向)に所定量隔てて後方側(図2中右方側)に大径の後方ランド部7abが形成されており、前者に環状カップ形状のシール部材11が配設されて孔1bbに液密的摺動自在に嵌合され、後者は孔1baに摺動自在に嵌合され第2ピストン7bに当接するように配置されている。
【0024】
第1ピストン7aの外周部と、孔1baの周壁部と、前方ランド部7aaと、後方ランド部7abとで囲まれる部分にはブレーキ液供給室14が区画されている。ブレーキ液供給室14は前方ランド部7aaとシールカップ11とにより圧力室9と液密的に区画されており、液圧路1c及びポート1dを介してブレーキ液リザーバ21に連通されている。
【0025】
第1ピストン7aの前端部には前方(図2中左方)に開口する前方凹部7acが形成され、その後端部には後方に開口する段付状の後方凹部7adが形成されている。又、第1ピストン7aには、第1ピストン7aの軸方向(図2中左右方向)に延在されると共に前方凹部7acの底面部にその前方側開口部が形成され、後方凹部7adの底面部にその後方側開口部が形成されて前方凹部7acと後方凹部7adとを連通する軸方向孔7ae(第1連通路)と、両ランド部7aa、7ab間で第1ピストン7aの径方向に貫通して後方凹部7adの小径孔部(第2連通路)とブレーキ液供給室14とを連通する貫通孔7afとが形成されている。図2から明らかなように、後方凹部7adの小径孔部は軸方向孔7aeの径よりも大きい径を有している。
【0026】
第1ピストン7aの前方凹部7ac内には弁機構13が配設されている。弁機構13は、前方凹部7ac内を前後方向に移動可能な弁体13aと、環状を呈すると共に前方凹部7acの底面部に配設される弁座13bとを備えている。弁座13bの中心孔と軸方向孔7aeとは連通されており、弁体13aが弁座13bに着座することにより弁座13aの中心孔、ひいては軸方向孔7aeの凹部7ac側開口を閉塞する。図2に示す初期状態においては、弁体13aと弁座13bとは所定距離で離間されている。
【0027】
第1ピストン7aの前方部分外周部にはリテーナ12が装着されている。このリテーナ12に弁体13aが係止されることにより弁体13aの制御ピストン8側(図1中左側)への移動が規制される。リテーナ12の底面部と弁体13aとの間には弁体13aを弁座13bに向けて付勢するスプリング13cが配設されている。
【0028】
更に、第1ピストン7aの前方外周部には、前方凹部7acと第1ピストン7aの前方外周部の外周側空間部、即ち、圧力室9とを連通するための孔7agが形成されており、リテーナ12には、孔7agに対向する部分に孔12aが形成されている。
【0029】
第1ピストン7aの後方凹部7adの小径孔部には可動体15が前後方向に移動可能に挿入されている。可動体15の前端面には可動体15の径方向に延在されるオリフィスとしての第1スリット15aが形成されており、可動体15のランド部の外周部には前後方向に延在される複数の第2スリット15bが形成されている。
【0030】
後方凹部7adの大径孔部内には小径孔部の開口を閉塞するプラグ16が配設されている。可動体15とプラグ16との間には可動体15を前方に付勢するスプリング42が配設されており、図2に示す初期状態において可動体15の前端面は後方凹部7adの底部、即ち、軸方向孔7aeと後方凹部7adの小径孔部との段差部に当接されている。
【0031】
従って、図2に示す初期状態においては、圧力室9は、リテーナ12の孔12aと、第1ピストン7aの孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとの間のクリアランスと、軸方向孔7aeと、可動体15の第1スリット15aと、第2スリット15bと、後方凹部7adの小径孔部と、貫通孔7afとを介してブレーキ液供給室14に連通されている。
【0032】
即ち、孔12aと、孔7agと、前方凹部7acと、軸方向孔7aeと、後方凹部7adと、貫通孔7afとは圧力室9とブレーキ液供給室14とを連通する連通路を構成しているものである。
【0033】
シリンダボデー1a内において、第1ピストン7aの後方側には第2ピストン7bが収容されている。第2ピストン7bは、その前方外周部にランド部7baが形成され、これに環状のシール部材が装着されて孔1baに液密的摺動自在に嵌合されており、シール部材によってブレーキ液供給室14とパワー室10とが液密的に分離されている。
【0034】
第2ピストン7bの後方部には後方に開口する凹部7bbが形成されており、この凹部7bbには入力部材6が収容され、前方で当接部材41と螺合されている。第2ピストン7bは、その前方端面が第1ピストン7aの後方端面に対向し、入力部材6及び当接部材41を介してブレーキペダル4からの押圧力が第1ピストン7aに伝達されるように構成されている。
【0035】
第2ピストン7bの本体部は円筒状のスリーブ17によって支持されている。このスリーブ17の内周面及び外周面には環状の溝が形成されている。これらの溝にはそれぞれシール部材が収容されており、パワー室10からシリンダボデー1a外部へのブレーキ液漏れが防止されている。
【0036】
図3は図1の液圧レギュレータ2部分の拡大図である。図1及び図3に示すように、液圧レギュレータ2には補助液圧源18が接続され、その出力パワー液圧が適宜制御されて出力される。補助液圧源18は電気モータ19によって駆動される液圧ポンプ20を備え、入力側がリザーバ21に接続され出力側がアキュムレータ22に接続され、このアキュムレータ22から液圧経路1eを介して連通孔27aにパワー液圧が供給される様に構成されている。
【0037】
孔1bb内に収容される制御ピストン8には、前後方向(図3中左右方向)に所定距離隔てて一対のランド部8a、8bが形成されているが、前方ランド部8aのみ環状のシール部材が装着され、後方ランド部8bの前側と後側とは連通している。従って、前方ランド部8aに配設されたシール部材によって圧力室9と後述するレギュレータ室22とが分離されており、前方ランド部8aとマスタシリンダピストン7の第1ピストン7aの前方ランド部7aaとの間に圧力室9が郭成されてる。
【0038】
制御ピストン8には、その後方(図3中右方)で開口する後方凹部8cと、径方向に貫通して後方凹部8cと圧力室9とを連通する貫通孔8dとが形成されている。前方ランド部8aの後端側に設置されて孔1bbの径方向に延在するように係止ピン23がシリンダボデー1aに固定されている。これによって制御ピストン8の前進は許容されるが、後退(マスタシリンダピストン7方向への移動)は規制される。
【0039】
後方凹部8c内には、弁体13a(図2中)の係止部13aaが収容されている。制御ピストン8の後方側外周部にはリテーナ24が装着され、このリテーナ24に係止部13aaが係止され、弁体13aのマスタシリンダピストン7方向への移動が規制されている。
【0040】
リテーナ24とマスタシリンダピストン7のリテーナ12との間にスプリング25が配設され、ブレーキペダル4の非操作時にはスプリング25によりマスタシリンダピストン7と制御ピストン8とが、マスタシリンダピストン7に対する弁体13の前方への移動がリテーナ12と弁体13aとの当接により規制され、且つ係止部13aaに対する制御ピストン8の前方への移動がリテーナ25と係止部13aaとの当接によって規制されるまで軸方向に離間され、弁体13aが弁座部材13bから離間し軸方向孔7ae(図2中)と圧力室9とが連通する。又、制御ピストン8の前端部には前方に開口する前方凹部8eが形成されており、この前方凹部8eには後述するスプール26の後端部が保持されている。
【0041】
孔1bb内において制御ピストン8の前方(図3中左方)には円筒状のスリーブ27が嵌着されており、孔1bc内には調整部材28が嵌着されている。スリーブ27と制御ピストン8との間にはレギュレータ室22が形成されている。
【0042】
スリーブ27の外周部には複数の環状溝が形成されており、それぞれに環状のシール部材が嵌合されている。これらの隣接するシール部材間にはスリーブ27の径方向に延在される連通孔27a、27bが形成されており、スリーブ形状の調整部材28にはその径方向に連通孔28a及び連通孔28bが形成されている。
【0043】
スリーブ27の中空部内にはスプール26が前後方向に摺動自在に収容されており、スプール26の前進移動により連通孔27bの開口部が遮蔽される様に配置されている。
【0044】
スリーブ27には、軸方向(図3中左右方向)に延在されると共に一端が連通孔27bに連通し、他端がレギュレータ室22に連通する連通孔27cが形成されており、連通孔27bが開口しているときにはレギュレータ室22が連通孔27c、27b、及び連通孔27eを介して液圧路1fに連通し得る様に構成されている。
【0045】
連通孔27aは、液圧路1eを介して補助液圧源18に連通接続されているが、図3に示す初期位置ではスプール26の外周面によって遮蔽されている。更に、スリーブ27の内周面で連通孔27aより後方側の部分には環状の溝27dが形成されている。調整部材28の連通孔28aは液圧路1gに連通接続され、連通孔28bは液圧路1hに連通接続されている。
【0046】
スプール26の前端にはプランジャ29が軸方向に突出するように嵌着されており、スプール26の後端はレギュレータ室22内に位置し、制御ピストン8に係止されている。
【0047】
制御ピストン8の前方凹部8e内にはリテーナ30が支承されており、これとスリーブ27との間にはスプリング25の力よりは弱いが、マスタシリンダピストン7、制御ピストン8、及びスプール26をそれらの摺動抵抗に打ち勝って後退させ得る力を有したスプリング31が配設されている。
【0048】
図3に示す初期状態においては、スリーブ27の連通孔27bの開口部はスプール26によって遮蔽されておらず、レギュレータ室22はスリーブ27の連通孔27c、27b、27e、液圧経路1f、及びポート1kを介してブレーキ液リザーバ21に連通し、大気圧のブレーキ液が充満されている。又、スプール26の外周面には、その後退位置でスリーブ27の後端を中心とする軸方向の所定範囲に亘って環状の溝が26aが形成されると共に、その前方に所定距離隔ててスリーブ27の溝27dと対向する位置に環状の溝26bが形成されている。
【0049】
従って、図3に示す初期状態においては、レギュレータ室22は、スリーブ27の連通孔27c、27b、27eを介してブレーキ液リザーバ21に連通しており大気圧となっているが、スプリング25の力及び圧力室9のマスタシリンダ液圧による制御ピストン8の前進移動に伴ってスプール26が前方に移動すると、スリーブ27の連通孔27bが遮断され、代って連通孔27aがスプール26の溝26bと対向すると共に、スリーブ27の溝27dとスプール26の溝26aとが対向し、従ってレギュレータ室22は補助液圧源18と連通する。これにより、補助液圧源18のパワー液圧がレギュレータ室22内に供給されてレギュレータ室22内の液圧が昇圧する。
【0050】
調整部材28の中空部は段付孔形状に形成され、その小径部分に伝達部材32が前後方向に摺動自在に収容され、その後端面がプランジャ29の前端面と対向するように配置されている。更に、調整部材28の大径部分にはゴム製の弾性部材33が嵌着されており、これに伝達部材32の前端部が当接するように配置されている。調整部材28の中空部の前端にはプラグ34が嵌着されている。このプラグ34と弾性部材33との間にレギュレータ室35が形成されている。
【0051】
レギュレータ室35は、連通孔28a及び液圧路1gを介してレギュレータ室22に連通接続されると共に、連通孔28b及び液圧路1hを介してパワー室10に連通接続されている。
【0052】
即ち、スリーブ27とスプール26とは、補助液圧源18とパワー室10との連通を開閉する常閉の増圧バルブを構成すると共に、パワー室10とブレーキ液リザーバ21との連通を開閉する常開の減圧バルブをしている。
【0053】
圧力室9は液圧路1i及びアクチュエータ部40を介してホイールシリンダWfr、Wflに連通接続され、パワー室10は液圧路1j及びアクチュエータ部40を介してホイールシリンダWrr、Wrlに連通接続されている。
【0054】
次いで作動を説明する。図1〜図3に示すように、運転者によりブレーキペダル4が踏み込み操作されると、プッシュロッド5、入力部材6及び当接部材41を介して第2ピストン7bがシリンダボデー1aに対して前進される。第2ピストン7bが前進されると、当接部材41にプラグ16の後端部で当接している第1ピストン7aが第2ピストン7bにより前方に押圧され、第1ピストン7aも前進される。即ち、マスタシリンダピストン7がシリンダボデー1a、ひいては制御ピストン8及び弁体13aに対して前進されることになる。
【0055】
このマスタシリンダピストン7の前進に際し、可動体15に形成されている第1スリット15aにより圧力室9とブレーキ液供給室14との連通が抑制されていることから、マスタシリンダ7の前進に伴う弁機構13の弁体13aと弁座13bとの当接以前において、圧力室9の液圧が昇圧され始める。
【0056】
マスタシリンダピストン7の更なる前進によりやがて弁体13aが弁座13bに当接し、弁座13bの中心孔、ひいては軸方向孔7aeの圧力室9側開口が閉塞され、圧力室9とブレーキ液供給室14との連通が遮断される。従って、マスタシリンダピストン7の前進に伴って圧力室9の液圧が更に昇圧されることになる。
【0057】
圧力室9の液圧が昇圧されることにより制御ピストン8及びスプール26がシリンダボデー1aに対して前進される。スプール26が前進されることによって連通孔27bが閉塞され、レギュレータ室22とブレーキ液リザーバ21との連通が遮断される。
【0058】
同時に、補助液圧源18からのパワー液圧が液圧路1eから、連通路27a、環状溝26b、環状溝27d、そして環状溝27dを介してレギュレータ室22に流入し、レギュレータ液圧として液圧路1gを介してレギュレータ室35に供給され、更に液圧路1hを介してパワー室10に供給される。
【0059】
これによって、マスタシリンダピストン7が助勢されて更に前進し、圧力室9内の液圧が更に昇圧され、マスタシリンダ液圧が液圧路1iを介してホイールシリンダWfr、Wflに出力されると共に、レギュレータ液圧がパワー室10から液圧路1jを介してホイールシリンダWrr、Wrlに出力される。
【0060】
この間、レギュレータ室22内のレギュレータ液圧によって制御ピストン8に付与される力が圧力室9内のマスタシリンダ液圧によって制御ピストン8に付与される力より大であれば制御ピストン8は後方に移動し、連通孔27bが開口してレギュレータ室22がブレーキ液リザーバ21と連通されてレギュレータ室22の液圧が減圧される。制御ピストン8に付与される力の関係が上記と逆になると、制御ピストン8は前方に移動し、連通孔27bが遮断され、代ってレギュレータ室22が連通孔27aを介して補助液圧源18と連通するので、レギュレータ室22内の液圧が増圧される。
【0061】
このような制御ピストン8の移動に伴うスプール26の移動の繰り返しによって、制御ピストン22に付与されるレギュレータ液圧による力とマスタシリンダ液圧による力とが等しくなるように制御される。そして、レギュレータ室35内のレギュレータ液圧による力が弾性部材33及び伝達部材32を介してプランジャ29に伝達されるまでは、マスタシリンダ液圧に略比例したレギュレータ液圧が出力され、ブレーキ液圧特性が得られる。
【0062】
更にレギュレータ液圧が増圧され、レギュレータ室35に供給されるレギュレータ液圧によって弾性部材33の中央部が後方に変位し、伝達部材32がプランジャ29に当接してスプール26が後方に押圧されると、連通孔27bの開口面積が増大する。これにより、レギュレータ室22内のレギュレータ液圧が減圧され、マスタシリンダ液圧に略比例するがブレーキ液圧特性の増圧勾配より緩やかな増圧勾配を有するブレーキ液圧特性が得られる。
【0063】
尚、上述したように、ブレーキペダル4の踏み込み操作によるマスタシリンダピストン7の前進に際し、弁機構13の弁体13aと弁座13bとの当接以前において第1スリット15aの絞り効果により圧力室9の液圧が昇圧され始めていることから、圧力室9の液圧の昇圧に伴って制御ピストン8及びスプール26が前進されると共にレギュレータ室22と補助液圧源18とが連通され、ひいては、マスタシリンダ液圧が液圧路1iを介してホイールシリンダWfr、Wflに出力され、レギュレータ液圧がパワー室10から液圧路1jを介してホイールシリンダWrr、Wrlに出力されているものである。
【0064】
即ち、第1スリット15aが配設されていることにより、ブレーキペダル4の操作に際して車輪FR、FL、RR、RLに制動力が生じるまでのアイドルストロークを低減可能としている。
【0065】
ブレーキペダル4の踏み込み操作が解除されると、スプリング25とスプリング31との付勢力によりマスタシリンダピストン7及び制御ピストン8が後方へ復帰移動される。この復帰移動において、制御ピストン8においては、制御ピストン8とスプール26とがシリンダボデー1aに対して一体的に後退され、スプール26の後退により連通孔27bのスプール26による遮蔽状態が解除される。
【0066】
従って、レギュレータ室22と補助液圧源18との連通が遮断されると共にレギュレータ室22がブレーキ液リザーバ21に連通され、レギュレータ室22、ひいてはパワー室10及び圧力室9の液圧が減圧されて車輪FR、FL、RR、RLへの制動力も減少される。制御ピストン8の後退はその前方ランド部8aがピン23に当接することにより終了される。
【0067】
マスタシリンダピストン7においては弁体13aがスプリング13cによって後方へ付勢されていることから、マスタシリンダピストン7の後退当初は弁体13aと弁座13bとは当接した状態を維持することになる。
【0068】
マスタシリンダピストン7の後退によりやがて弁体13aの係止部13aaが制御ピストン8のリテーナ24に係止することによって、弁体13aのシリンダボデー1aに対する復帰移動はマスタシリンダピストン7の復帰移動よりも先に終了することになる。従って、マスタシリンダピストン7のランド部7baがスリーブ17に当接するまでは弁体13aに対してマスタシリンダピストン7は後方に移動することから、弁体13aが弁座13bから離間され、軸方向孔7aeの弁体13aによる遮蔽状態が解除される。
【0069】
即ち、軸方向孔7aeの連通が回復され、圧力室9が、リテーナ12の孔12a、第1ピストン7aの孔7ag、前方凹部7ac、弁体13aと弁座13bとのクリアランス、軸方向孔7ae、第1スリット15a、第2スリット15b、後方凹部7adの小径孔部、及び貫通孔7afを介してブレーキ液供給室14に連通されることになる。
【0070】
圧力室9とブレーキ液供給室14とが連通されることから圧力室9内の液圧が減圧され、マスタシリンダピストン7はランド部7baがスリーブ17に当接することによりその後退を終了する。
【0071】
例えば、ブレーキペダル4が踏み込み操作されて各車輪FR、FL、RR、RLに制動力が付与され且つアクチュエータ部40の作動により周知のABS制御が行われた後、ブレーキペダル4の踏み込み操作が解除される場合において、ブレーキペダル4の踏み込み操作に伴って圧力室9からアクチュエータ部40及び各車輪FR、FLへ送り出したブレーキ液量以上のブレーキ液が、アクチュエータ部40及び各車輪FR、FLから圧力室9及びブレーキ液供給室14を介してブレーキ液リザーバ21に流動しようとする状況が生じることがある。
【0072】
このような状況が生じると圧力室9の液圧が所定圧以上となり、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動に際し、スプリング42の付勢力に抗して可動体15が第1ピストン7aに対して後退される。可動体15が後退されることからそれまでの可動体15の前面部と後方凹部7adの底面部との当接状態が解除されることになる。
【0073】
可動体15が後方凹部7adの底面部から離間することにより、可動体15の前方端面と後方凹部7adの底面部との間には第1スリット15aの流路面積よりも大きい流路面積を有する流路、即ち、クリアランスが形成される。
【0074】
このクリアランスの形成により、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、第1スリット15aを通過するブレーキ液の量が減少し、主として可動体15の前方端面と後方凹部7adの底面部との間のクリアランスを介して為されるようになる。従って、可動体15及び第1スリット15aによる軸方向孔7aeと後方凹部7adの小径孔部との連通の抑制効果、ひいては、圧力室9とブレーキ液供給室14との連通の抑制効果が減少し、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において流動音を低減することが可能となる。
【0075】
更に、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、第1スリット15aを通過するブレーキ液の量が減少し、主として可動体15の前方端面と後方凹部7adの底面部との間のクリアランスを介して為されるようになることから、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動が円滑に行われ、ブレーキ操作の応答性の向上を図ることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態のマスタシリンダ3によれば、通常状態においては、圧力室9とブレーキ液供給室14とは、孔12a、孔7ag、前方凹部7ac、弁体13aと弁座13bとのクリアランス、軸方向孔7ae、第1スリット15a、第2スリット15b、後方凹部7adの小径孔部、及び貫通孔7afを介して連通されているが、圧力室9が所定圧以上になる場合には、圧力室9とブレーキ液供給室14とは、孔12a、孔7ag、前方凹部7ac、弁体13aと弁座13bとのクリアランス、軸方向孔7ae、可動体15と後方凹部7adの底面部との間のクリアランス、第1スリット15a、第2スリット15b、後方凹部7adの小径孔部、及び貫通孔7afを介して連通されるように構成されている。
【0077】
即ち、圧力室9とブレーキ液供給室14とを連通する連通路の第1スリット15aにおいて、圧力室9が所定圧未満のときの流入量に比して圧力室9が所定圧以上のときの流路量が減少され、可動体15及び第1スリット15aとにおいて圧力室9が所定圧未満のときの絞り効果に比して圧力室9が所定圧以上のときの絞り効果の方が減少されることから、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において流動音を低減することが可能となる。
【0078】
更に、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、圧力室9の圧力が所定圧以上となる際に、第1スリット15aを通過するブレーキ液の量が減少し、主として第1スリット15aよりも流路面積の大きい可動体15の前方端面と後方凹部7adの底面部との間のクリアランスを介して為されるようになることから、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動が円滑に行われ、ブレーキ操作の応答性の向上を図ることができる。
【0079】
従って、ブレーキ液の流動音の発生を抑制可能とするマスタシリンダ3を提供することを可能としている。
【0080】
本実施の形態においては、液圧ブレーキ装置1内に組み込まれるマスタシリンダ3を構成したが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、通常のシングル型、或いはタンデム型の本発明のマスタシリンダにおいても同様の作用効果が得られる。
【0081】
又、本実施の形態においては、可動体15にはオリフィスとして第1スリット15aが形成されているが、特にこの構成に限定されるものではなく、ブレーキ液の流動を抑制可能なものであれば良い。
【0082】
(実施の形態2)
図4は、本発明の一実施の形態のマスタシリンダを用いた液圧ブレーキ装置におけるマスタシリンダピストン7の第1ピストン7aの断面図である。実施の形態1と同様の部材には同符号が付してある。第1ピストン7a以外の構成は実施の形態1と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0083】
図4に示すように、第1ピストン7aの前端部には前方(図4中左方)に開口する前方凹部7acが形成され、その後端部には後方に開口する段付状の後方凹部7adが形成されている。又、第1ピストン7aには、第1ピストン7aの軸方向(図4中左右方向)に延在されると共に前方凹部7acの底面部にその前方側開口部が形成され、後方凹部7adの底面部にその後方側開口部が形成されて前方凹部7acと後方凹部7adとを連通する軸方向孔7aeと、両ランド部7aa、7ab間で第1ピストン7aの径方向に貫通して後方凹部7adの小径孔部とブレーキ液供給室14とを連通する貫通孔7afと、両ランド部7aa、7ab間で第1ピストン7aの径方向に貫通して軸方向孔7aeとブレーキ液供給室14とを連通する貫通孔7ahとが形成されている。
【0084】
貫通孔7ahはオリフィス7ai(絞り手段)を有している。又、図4から明らかなように、後方凹部7adの小径孔部は軸方向孔7aeの径よりも大きい径を有している。
【0085】
第1ピストン7aの前方凹部7ac内には弁機構13が配設されている。弁機構13は、前方凹部7ac内を前後方向に移動可能な弁体13aと、環状を呈すると共に前方凹部7acの底面部に配設される弁座13bとを備えている。弁座13bの中心孔と軸方向孔7aeとは連通されており、弁体13aが弁座13bに着座することにより弁座13aの中心孔、ひいては軸方向孔7aeの凹部7ac側開口を閉塞する。図4に示す初期状態においては、弁体13aと弁座13bとは所定距離で離間されている。
【0086】
第1ピストン7aの前方部分外周部にはリテーナ12が装着されている。このリテーナ12に弁体13aが係止されることにより弁体13aの後方(図4中右方)側への移動が規制される。リテーナ12の底面部と弁体13aとの間には弁体13aを弁座13bに向けて付勢するスプリング13cが配設されている。
【0087】
更に、第1ピストン7aの前方外周部には、前方凹部7acと第1ピストン7aの前方外周部の外周側空間部、即ち、圧力室9とを連通するための孔7agが形成されており、リテーナ12には、孔7agに対向する部分に孔12aが形成されている。
【0088】
第1ピストン7aの後方凹部7adの小径孔部には可動体43が前後方向に移動可能に挿入されている。可動体43のランド部の外周部には前後方向に延在される複数のスリット43aが形成されている。
【0089】
後方凹部7adの大径孔部内には小径孔部の開口を閉塞するプラグ16が配設されている。可動体43とプラグ16との間には可動体43を前方に付勢するスプリング42が配設されており、図4に示す初期状態において可動体43の前端面は後方凹部7adの底部、即ち、軸方向孔7aeと後方凹部7adの小径孔部との段差部に当接されている。
【0090】
従って、図4に示す初期状態においては、圧力室9は、リテーナ12の孔12aと、第1ピストン7aの孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとの間のクリアランスと、軸方向孔7aeと、オリフィス7ai及び貫通孔7ahとを介してブレーキ液供給室14に連通されている。
【0091】
次いで作動を説明する。第1ピストン7aの構成以外は実施の形態1と同様であるので便宜的に図1〜図3を用いることにする。図1〜図4に示すように、運転者によりブレーキペダル4が踏み込み操作されると、プッシュロッド5、入力部材6及び当接部材41を介して第2ピストン7bがシリンダボデー1aに対して前進される。第2ピストン7bが前進されると、当接部材41にプラグ16の後端部で当接している第1ピストン7aが第2ピストン7bにより押圧され、第1ピストン7aも前進される。即ち、マスタシリンダピストン7がシリンダボデー1a、ひいては制御ピストン8及び弁体13aに対して前進されることになる。
【0092】
このマスタシリンダピストン7の前進に際し、貫通孔7ahのオリフィス7aiにより圧力室9とブレーキ液供給室14との連通が抑制されていることから、マスタシリンダ7の前進に伴う弁機構13の弁体13aと弁座13bとの当接以前において、圧力室9の液圧が昇圧され始めることになる。
【0093】
これ以降のブレーキペダル4の踏み込み操作に伴う通常作動は実施の形態1と同様であるので説明は省略する。
【0094】
本実施の形態のマスタシリンダ3においては、オリフィス7aiが配設されていることにより、ブレーキペダル4の操作に際して車輪FR、FL、RR、RLに制動力が生じるまでのアイドルストロークを低減可能としている。
【0095】
ブレーキペダル4の踏み込み操作が解除されると、スプリング25とスプリング31との付勢力によりマスタシリンダピストン7及び制御ピストン8が後方へ復帰移動される。この復帰移動において、マスタシリンダピストン7においては弁体13aがスプリング13cによって後方へ付勢されていることから、マスタシリンダピストン7の後退当初は弁体13aと弁座13bとは当接した状態を維持することになる。
【0096】
マスタシリンダピストン7の後退によりやがて弁体13aの係止部13aaが制御ピストン8のリテーナ24に係止することにより、弁体13aのシリンダボデー1aに対する復帰移動はマスタシリンダピストン7の復帰移動よりも先に終了することになる。従って、マスタシリンダピストン7のフランジ部7baがスリーブ17に当接するまでは弁体13aに対してマスタシリンダピストン7は後方に移動することから、弁体13aが弁座13bから離間され、軸方向孔7aeの弁体13aによる遮蔽状態が解除される。
【0097】
即ち、軸方向孔7aeの連通が回復され、圧力室9が、リテーナ12の孔12aと、第1ピストン7aの孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとのクリアランスと、軸方向孔7aeと、オリフィス7ai及び貫通孔7ahとを介してブレーキ液供給室14に連通されることになる。
【0098】
圧力室9とブレーキ液供給室14とが連通されることから圧力室9内の液圧が減圧され、マスタシリンダピストン7はランド部7baがスリーブ17に当接することによりその後退を終了する。
【0099】
これ以降のブレーキペダルの踏み込み解除操作に伴う通常作動は、実施の形態1と同様であるので説明は省略する。
【0100】
例えば、ブレーキペダル4が踏み込み操作されて各車輪FR、FL、RR、RLに制動力が付与され且つアクチュエータ部40の作動により周知のABS制御が行われた後、ブレーキペダル4の踏み込み操作が解除される場合において、ブレーキペダル4の踏み込み操作に伴って圧力室9からアクチュエータ部40及び各車輪FR、FL、RR、RLへ送り出したブレーキ液量以上のブレーキ液が、アクチュエータ部40及び各車輪FR、FL、RR、RLから圧力室9及びブレーキ液供給室14を介してブレーキ液リザーバ21に流動しようとする状況が生じることがある。
【0101】
このような状況が生じると圧力室9の液圧が所定圧以上となり、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動に際してスプリング42の付勢力に抗して可動体43が第1ピストン7aに対して後退される。可動体43が後退されることからそれまでの可動体43の前面部と後方凹部7adの底面部との当接状態が解除されることになる。
【0102】
可動体43が後方凹部7adの底面部から離間することにより、可動体43の前方部と後方凹部7adの底面部との間にはオリフィス7aiの流路面積よりも大きい流路面積を有する流路、即ち、クリアランスが形成される。即ち、圧力室9は、孔12aと、孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとのクリアランスと、軸方向孔7aeと、オリフィス7ai及び貫通孔7ahとを介したブレーキ液供給室14との連通に加えて、孔12aと、孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとのクリアランスと、軸方向孔7aeと、可動体43と後方凹部7adの底面部とのクリアランスと、スリット43aと、後方凹部7adと、貫通孔7afとを介してもブレーキ液供給室14と連通することになる。
【0103】
可動体43と後方凹部7adの底面部との間のクリアランスの流路面積は、オリフィス7aiの流路面積よりも大きいことから、圧力室9からブレーキ液供給室14への流動は主として可動体43と後方凹部7adの底面部との間を介して行われるようになる。
【0104】
従って、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、オリフィス7aiを通過するブレーキ液の流量が減少されることから流動音を低減することが可能となる。
【0105】
更に、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、オリフィス7ai第1スリット15aを通過するブレーキ液の量が減少し、主として可動体43の前方端面と後方凹部7adの底面部との間のクリアランスを介して為されるようになることから、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動が円滑に行われ、ブレーキ操作の応答性の向上を図ることができる。
【0106】
本実施の形態においては、リテーナ12の孔12aと、第1ピストン7aの孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとの間のクリアランスと、軸方向孔7aeと、オリフィス7ai及び貫通孔7ahとは、圧力室9とブレーキ液供給室14とを連通する連通路を構成しており、可動体43と後方凹部7adの底面部とのクリアランスと、スリット43aと、後方凹部7adと、貫通孔7afとは圧力室9が所定圧力以上のときに圧力室9とブレーキ液供給室14とを連通する補助連通路を構成しているものである。
【0107】
以上説明したように、本実施の形態のマスタシリンダ3によれば、通常状態においては、圧力室9とブレーキ液供給室14とは、孔12aと、孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとのクリアランスと、軸方向孔7aeと、オリフィス7ai及び貫通孔7ahとを介して連通されているが、圧力室9が所定圧以上になる場合には、圧力室9とブレーキ液供給室14とは、孔12aと、孔7agと、前方凹部7acと、弁体13aと弁座13bとのクリアランスと、軸方向孔7aeと、オリフィス7ai及び貫通孔7ahとを介した連通以外に、孔12aと、孔7agと、前方凹部7ac、弁体13aと弁座13bとのクリアランス、軸方向孔7ae、可動体43と後方凹部7adの底面部との間のクリアランス、スリット43a、後方凹部7adの小径孔部、及び貫通孔7afを介しても連通されるように構成されている。
【0108】
即ち、圧力室9とブレーキ液供給室14とを連通する連通路のオリフィス7aiにおいて、圧力室9が所定圧未満のときの流入量に比して圧力室9が所定圧以上のときの流路量が減少されることから、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、動音を低減することが可能となる。
【0109】
更に、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動において、圧力室9の圧力が所定圧以上となる際に、オリフィス7aiを通過するブレーキ液の量が減少し、主としてオリフィス7aiよりも流路面積の大きい可動体43の前方端面と後方凹部7adの底面部との間のクリアランスを介して為されるようになることから、圧力室9からブレーキ液供給室14へのブレーキ液の流動が円滑に行われ、ブレーキ操作の応答性の向上を図ることができる。
【0110】
従って、ブレーキ液の流動音の発生を抑制可能とするマスタシリンダ3を提供することを可能としている。
【0111】
本実施の形態においては、液圧ブレーキ装置1内に組み込まれるマスタシリンダ3を構成したが、特にこの構成に限定されるものではなく、例えば、通常のシングル型、或いはタンデム型の本発明のマスタシリンダにおいても同様の作用効果が得られる。
【0112】
又、本実施の形態においては、絞り手段としてオリフィス7aiが配設されているが、特にこの構成に限定されるものではなく、圧力室9とブレーキ液供給室14との連通を抑制可能なものであれば良い。
【0113】
以上、本発明を上記実施の態様に則して説明したが、本発明は上記態様にのみ限定されるものではなく、本発明の原理に準ずる各種態様を含むものである。
【0114】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、絞り手段において圧力室が所定圧未満のときの絞り効果に比して圧力室が所定圧以上のときの絞り効果の方が変化されることから、圧力室から作動液液供給室へのブレーキ液の流動において流動音を低減することが可能となる。
【0115】
従って、ブレーキ液の流動音の発生を抑制可能とするマスタシリンダを提供することを可能としている。
【0116】
請求項2の発明によれば、圧力室と作動液供給室とを連通する連通路の絞り手段において、圧力室が所定圧未満のときの絞り手段を介した流入量に比して圧力室が所定圧以上のときの絞り手段を介した流路量が変化されることから、圧力室から作動液液供給室へのブレーキ液の流動において流動音を低減することが可能となる。
【0117】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、絞り手段において圧力室が所定圧未満のときの絞り効果に比して圧力室が所定圧以上のときの絞り効果の方が減少されることから、圧力室から作動液液供給室へのブレーキ液の流動において流動音を低減することができる。
【0118】
請求項4の発明によれば、請求項2の発明の効果に加えて、圧力室と作動液供給室とを連通する連通路の絞り手段において、圧力室が所定圧未満のときの絞り手段を介した流入量に比して圧力室が所定圧以上のときの絞り手段を介した流路量が減少されることから、圧力室から作動液液供給室へのブレーキ液の流動において流動音を低減することができる。
【0119】
請求項5の発明によれば、請求項3の発明の効果に加えて、絞り手段のより良い形態を示しており、可動体を配設する簡素な構成とすることができ、コストの低減及び組付け作業能率の向上を可能としている。
【0120】
請求項6の発明によれば、請求項4の発明の効果に加えて、補助連通路を配設する簡素な構成とすることができ、コストの低減及び組付け作業能率の向上を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1の液圧ブレーキ装置1の断面図。
【図2】図1のマスタシリンダ3部分の拡大図。
【図3】図2の液圧レギュレータ2部分の拡大図。
【図4】実施の形態2の液圧ブレーキ装置におけるマスタシリンダのマスタシリンダピストンの第1ピストン部分の断面図。
【符号の説明】
1a シリンダボデー 1b シリンダ孔
3 マスタシリンダ
7 マスタシリンダピストン
7ac 前方凹部 7ad 後方凹部
7ae 軸方向孔 7af 貫通孔
7ag 孔 7ah 貫通孔
7ai オリフィス
9 圧力室
12a 孔
13 弁機構
14 ブレーキ液供給室
15 可動体
15a 第1スリット
43 可動体
Claims (6)
- シリンダ孔を有するシリンダボデーと、
前記シリンダ孔に前進及び後退可能に挿入されると共にその前方側に圧力室を形成するピストンと、
前記圧力室に作動液を導入するための作動液供給室と、
前記圧力室と前記作動液供給室とを連通可能な連通路と、
前記連通路に配設されると共に前記圧力室と前記作動液供給室との連通を抑制可能な絞り手段と、
前記ピストンの前進に応じて前記連通路を遮断し、前記ピストンの後退に応じて前記連通路の遮断を解除する弁機構と、
を備えたマスタシリンダにおいて、
前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力に応じて前記絞り手段の抑制効果が変化することを特徴とするマスタシリンダ。 - シリンダ孔を有するシリンダボデーと、
前記シリンダ孔に前進及び後退可能に挿入されると共にその前方側に圧力室を形成するピストンと、
前記圧力室に作動液を導入するための作動液供給室と、
前記圧力室と前記作動液供給室とを連通可能な連通路と、
前記連通路に配設されると共に前記圧力室と前記作動液供給室との連通を抑制可能な絞り手段と、
前記ピストンの前進に応じて前記連通路を遮断し、前記ピストンの後退に応じて前記連通路の遮断を解除する弁機構と、
を備えたマスタシリンダにおいて、
前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力に応じて前記絞り手段を介して前記圧力室から前記作動液供給室へ流入する前記作動液の量が変化することを特徴とするマスタシリンダ。 - 前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力が所定圧以上の際には前記絞り手段の前記抑制効果が減少されることを特徴とする請求項1のマスタシリンダ。
- 前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室の圧力が所定圧以上の際には前記絞り手段を介して前記圧力室から前記作動液供給室へ流入する前記作動液の量が減少されることを特徴とする請求項2のマスタシリンダ。
- 前記連通路は前記圧力室から前記作動液供給室にかけて連続する第1連通路と前記第1連通路の径よりも大きな径を有する第2連通路とを備え、前記絞り手段は、前記第2連通路に前記第2連通路の延在方向に移動可能に配設されると共に第1連通路の径よりも大きな径を有し、前記圧力室の圧力が前記所定圧未満のときには前記第1連通路と第2連通路との段差部に当接し、前記圧力室の圧力が前記所定圧以上のときには前記段差部から離間することにより少なくとも前記段差部との間のクリアランスを介して前記第1連通路と前記第2連通路とを連通する可動体と、前記可動体に配設されると共に前記可動体の前記段差部への当接時に前記第1連通路と前記第2連通路とを連通するオリフィスとを備える請求項3のマスタシリンダ。
- 前記ピストンの後退に伴って前記弁機構により前記圧力室と前記作動液供給室とが連通される際に、前記圧力室が前記所定圧以上のときに前記圧力室と前記作動液供給室とを連通可能とする補助連通路を備えていることを特徴とする請求項4のマスタシリンダ。
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