JP4102498B2 - コンクリート構造体の製造方法およびその運搬方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に地下室の施工に適したコンクリート構造体の製造方法およびその運搬方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、通常の宅地においても狭い敷地面積を有効に利用するため、地下室を設けることが盛んに行われるようになっている。従来、地下室は、建築現場でのコンクリート打設用の枠組み工事、枠組み後の枠内への配筋工事、配筋後の枠組み内へのコンクリート打設工事を行い、さらに長い養生期間を経て完成される。このように従来の地下室工事は非常に面倒であり、多くの人手と費用がかかるばかりか工期も長く、これらがネックになって地下室の普及を遅らせている。
【0003】
このような不都合を解消するものとして、特開平3−76933号公報、特開平8−92973号公報、特開平8−92974号公報等には、工場で大量に生産し得る、いわゆるユニット式の地下室が提案されている。このユニット式の地下室は、取り扱いおよび運搬が容易な程度の大きさに寸法設定された鉄筋コンクリート製の地下室構造体(コンクリートブロック)を工場で大量生産し、これらのコンクリートブロックを建築現場に運び込み、予め掘削された縦穴に継ぎ足しながら埋設することによって形成されるものであり、建築現場での一連のコンクリート打設工事等を省略することができるため、建設コストの低減および工期の短縮が実現する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特開平3−76933号公報に記載されたユニット式地下室にあっては、コンクリートブロックが、地下室を縦方向に切断して複数に分割した、いわゆる輪切り状態で形成されているため、隣接したコンクリートブロック同士の垂直面に沿う接合部分からの地下室内への地下水の侵入を防止することが困難であるという問題点を有している。
【0005】
このような問題点を解消するために、特開平3−76933号公報に記載のユニット式地下室においては、桝形の各コンクリートブロックの四隅部にワイヤを通す挿通孔を穿設し、コンクリートブロックをシール部材を介して並設した後、串刺し状態で各コンクリートブロックの挿通孔にワイヤを通して締結し、これによってコンクリートブロック間の当接部分における水漏れを防止するようになされている。
【0006】
しかしながら、複数のコンクリートブロックをワイヤによって締結するために、各コンクリートブロックにワイヤを通す挿通孔をわざわざ穿設しなければならず、その分製造コストが嵩むという新たな問題点が提起される。また、たとえワイヤで複数のコンクリートブロックを締結しても、長期間の内にワイヤが伸長したり腐食することによって締結力が弱まり、これによってコンクリートブロック間に隙間が形成されて地下水が侵入するという問題点を有している。
【0007】
また、上記特開平8−92973号公報および特開平8−92974号公報に記載されたユニット式地下室は、コンクリートブロックを上記特開平3−76933号公報に記載のものよりさらに細分化したものであり、各コンクリートブロック間の接合は、上記ワイヤに代えてコンクリートブロックに埋設された接合金具を介して行うようにしてあるが(特に特開平8−92973号公報)、地下水の侵入に関しては上記特開平3−76933号公報に記載のユニット式地下室の場合と同様の問題点を有している。
【0008】
さらに、特開平8−92973号公報および特開平8−92974号公報に記載されたユニット式地下室においては、床部は従来工法である現地でのコンクリート打設工法が採用されているため、工期の短縮化を図る上では不利である。
【0009】
加えて、上記各公報に記載された地下室ユニットは、いずれも一室を対象とした単一の構造体であり、複数の構造体を組み合わせて地下空間を変化に富んだものにするという考え方は存在しない。これに対し、特開平4−44526号公報には、プレキャストコンクリートパネルを工事現場で組み立てて複数の地下室を構築する工法が提案されているが、工事現場での組み立て作業が面倒であり、工期の短縮が図り難いという問題点を有している。
【0010】
そこで、複数の地下室ユニットを相互に隣接させた状態で埋設して複数の地下室を形成することが考えられるが、このようにすると、隣接した地下室間の出入口を通して雨水や地下水等が室内に侵入するという新たな問題点が提起される。このような問題点を解消するために、隣合った地下室ユニット間にシール部材を介設するとともに、地下室ユニット同士をロープを巻き付けてゆわえたり、ボルトやタイロッド等で締結して隣接したユニット間に隙間がないようにすることが考えられるが、たとえこのようにしても長期間の内にロープ等による締結状態が弛緩してユニット間に隙間が生じ、この隙間を通って地下室内に雨水等が侵入することが予想され、結局、長期的な観点から複数の地下室ユニットを埋設することができないという問題点を有している。
【0011】
かかる問題点を解消するために、出願人は、先に、底部と周壁とを備えた鉄筋コンクリート製の下部構造体に、平面視の形状が上記下部構造体と同一形状であり、かつ、少なくとも周壁を備えた鉄筋コンクリート製の上部構造体を、上縁面と下縁面とが互いに当接するように積み重ねることによって構造体本体を形成し、しかも各構造体の上縁面と下縁面との間にシール部材を介設するとともに、上下の鉄筋同士を溶接した地下室構造体を発明した(特願平10−295743号)。かかる地下室構造体においては、地下室内への雨水や地下水の侵入を確実に防止することができ、さらに地下室建設の工期短縮化を図ることができるとともに、上下の構造体同士が溶接で一体化されていることによって構造体自体が構造的に強固なものにすることができるという利点を備えており、上記各問題点を解消する上で有効である。
【0012】
しかしながらこの地下室構造体にあっては、現地に掘削された縦穴に地下室構造体を施工するに際し、予め上下の構造体を溶接止めで結合して一体化し、この一体化した構造体を大型のラフタークレーンを用いて縦穴に埋設することが行われるが、施工現場前面の道路が狭い場合や敷地が狭小の場合には大型のクレーンを使用することができず、構造体を用いた地下室設置をあきらめざるを得ないという不都合の生じることがある。また、上下の構造体を予め一体化してしまうと重量が過大になり、地業工事が不完全であることに起因して設置精度に狂いが生じた場合の調整が困難になるという問題点を有している。
【0013】
そこで、かかる不都合を解消するために、まず下部構造体を縦穴に吊り降ろし、この状態で設置精度を確認し、不具合の場合は調整した上で上部構造体を積み重ねることが考えられるが、このようにすると、上下の構造体同士の溶接作業や、溶接後のモルタルグラウトの作業を構造体の外側からも行わなければならない。しかし、縦穴の内周面と構造体の外周面との間の隙間は狭隘であり、作業がし辛く安全上および能率上の問題点が存在する。
【0014】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、安全性を確保した上で地下室建設の工期をより短縮化することができるとともに、構造体そのものの構造的な強度を向上させ得るコンクリート構造体の製造方法およびその運搬方法を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明(コンクリート構造体の製造方法)は、底部と周壁とを備えた鉄筋コンクリート製の下部構造体に、平面視の形状が上記下部構造体と同一形状の少なくとも周壁を備えた鉄筋コンクリート製の上部構造体を、上縁面と下縁面とが互いに当接するように積み重ねることによって構造体本体を形成するコンクリート構造体の製造方法において、上記下部構造体には上縁面に幅方向で高低が形成された段差を設け、上記上部構造体には下縁面に形成された上記段差に噛み合う段差を設け、上記各構造体の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部をそれぞれ周方向に複数組設け、各凹部内に露出した鉄筋同士を互いに結合するものであり、上記下部構造体の立体形状に沿う第1型枠内に配筋した後、第1型枠内に生コンクリートを流し込んで下部構造体を製造するとともに、上記上部構造体の立体形状に沿う第2型枠に配筋した後、第2型枠内に生コンクリートを流し込んで上部構造体を製造し、上記上下の構造体の凹部に該当する部分に延長配筋した状態で凹部の立体形状のダミー体を配することを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、構造体本体は、下部構造体と、上部構造体とに分割されているため、構造体本体を工場で容易に大量生産し得るようになり、地下室等の単位構築物を現地で施工する場合に比べて施工コストが安価になる。
【0017】
そして、型枠内に生コンクリートを流し込むことによって各構造体が製造される。特に下部構造体については、底部が上位に位置するような型枠を用いることによって型抜きが容易になる。そして、上下の構造体の凹部に該当する部分に延長配筋した状態で凹部の立体形状のダミー体を配したため、構造体を型抜きしたのちこのダミー体を取り外すことによって段差部分に凹部が形成される。従って、凹部を形成するための型枠の立体形状を複雑なものにする必要がなくなり、その分型枠のコストの低減化が実現する。
【0018】
請求項2記載の発明(コンクリート構造体の運搬方法)は、底部と周壁とを備えた鉄筋コンクリート製の下部構造体に、平面視の形状が上記下部構造体と同一形状の少なくとも周壁を備えた鉄筋コンクリート製の上部構造体を、上縁面と下縁面とが互いに当接するように積み重ねることによって構造体本体が形成されてなるコンクリート構造体において、上記下部構造体は、上縁面に幅方向で高低が形成された段差を有し、上記上部構造体は、下縁面に形成された上記段差に噛み合う段差を有し、上記各構造体の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部がそれぞれ周方向に複数組設けられ、各凹部内に露出した鉄筋同士が結合され、上記下部構造体および上部構造体は、幅寸法が2.5m〜3.5m、高さ寸法が0.8m〜1.6m、および長さ寸法が2.5m〜9.0mであるコンクリート構造体の運搬方法であって、上記下部構造体および上記上部構造体の各々について、長尺側の側面が水平になるように構造体を90°横転し、この横転した構造体を吊持して運送車両に積載し、搬送する方法であり、上記上部および下部構造体を運送車両から荷降ろしするに際し、予め荷降ろしする位置に砂土俵を施工するとともに、砂土俵の上に衝撃吸収マットを敷設し、長手方向の一稜線が略水平になるように運送車両上の構造体をワイヤを介して吊持したのちまず上記一稜線が上記マットに当接するように吊り降ろし、引き続き徐々に上記ワイヤを繰り出して上記一稜線回りに回動させることにより横転することを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、構造体本体は、下部構造体と、上部構造体とに分割されているため、構造体本体を工場で容易に大量生産し得るようになり、地下室等の単位構築物を現地で施工する場合に比べて施工コストが安価になる。
【0020】
また、従来の鉛直面に沿うように分割した構造体の場合、シール部材の押圧挟持を確実に行うべく、ワイヤ等によって複数の構造体が締結されているが、これによって施工コストが嵩むとともに、ワイヤの伸長や腐食等による締結力の低下によって確実なシール効果を得ることができなくなるという不都合が生じるのに対し、本発明においては、下部構造体の上縁面と上部構造体の下縁面とが上部構造体の重量によって常に押圧当接された状態になるため、従来のようなワイヤ等による締結操作は必要なく、施工コストの低減に貢献することができる。
【0021】
また、下部構造体の上縁面および上部構造体の下縁面にそれぞれ互いに噛み合う段差が設けられているため、上下の構造体の接合時の位置決めが確実に行われるとともに、上下の構造体の横ずれを有効に防止することができる。
【0022】
また、各構造体の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部がそれぞれ周方向に複数組設けられ、しかも各凹部内に露出した鉄筋同士が結合されているため、この鉄筋同士の結合によって上下の構造体の結合状態が確実、かつ、強固なものになり、耐震性が向上する。
【0023】
また、上記下部構造体および上部構造体は、幅寸法が2.5m〜3.5m、高さ寸法が0.8m〜1.6m、および長さ寸法が2.5m〜9.0mに設定されているため、各構造体が、生産、移送、取り扱いおよび搬送に適した寸法になる。特に、構造体を工場から地下室の施工現場に搬送するに際し、所定の運送車両を用いて公道を利用することが可能になる。
【0024】
また、上記下部構造体および上記上部構造体の各々について、長尺側の側面が水平になるように構造体を90°横転し、この横転した構造体を吊持して運送車両に積載し、搬送するようにしているため、構造体を90°横転させることにより、所定の運送車両への積載高さ寸法および幅寸法が法規による規制の範囲内に納めることが可能になり、構造体が公道を利用して搬送し得るようになる。
【0025】
さらに、上記上部および下部構造体を運送車両から荷降ろしするに際し、予め荷降ろしする位置に砂土俵を施工するとともに、砂土俵の上に衝撃吸収マットを敷設し、長手方向の一稜線が略水平になるように運送車両上の構造体をワイヤを介して吊持したのちまず上記一稜線が上記マットに当接するように吊り降ろし、引き続き徐々に上記ワイヤを繰り出して上記一稜線回りに回動させることにより横転するようにしているため、クレーン等のワイヤに吊持された構造体は、ワイヤを徐々に繰り出すことによって衝撃吸収マット上に向けて緩やかに吊り降ろされ、まず最下位レベルの稜線部分がマット上に当接する。引き続きワイヤを繰り出すことによって構造体は稜線部分回りに緩やかに回動してマット上に横転された状態になり、荷降ろしが完了する。そして、荷降ろし位置には、予め砂土俵が敷設されているとともに、この砂土俵の上に衝撃吸収マットが敷かれているため、構造体が着地したときの衝撃がマットと砂土俵とで二重に吸収され、これによって構造体が損傷するような不都合が有効に防止される。
【0026】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、上記凹部内にモルタル施工が施されていることを特徴とするものである。
【0027】
この発明によれば、構造体本体の内部壁面がモルタル施工で面一状態になるため、壁面が凹んでいることによる見苦しさが解消されるとともに、モルタルによる止水作用によって地下水等の侵入が防止される。
【0028】
請求項4記載の発明は、請求項2または3記載の発明において、上記上縁面と下縁面との間に弾性部材製のシール部材が介設されていることを特徴とするものである。
【0029】
この発明によれば、上下の構造体間にシール部材を介設することによってシール部材は上部の構造体の重量によって常に押圧された状態になり、地下水の地下室内への侵入が確実に防止される。
【0030】
請求項5記載の発明は、2乃至4のいずれかに記載の発明において、上記構造体本体の内壁面および外壁面のいずれか一方または双方に防水処理が施されていることを特徴とするものである。
【0031】
この発明によれば、壁面の防水処理によって地下水等の構造体内への侵入が防止される。
【0032】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係るコンクリート構造体の一実施形態を示す一部切欠き分解斜視図であり、図2はその組立て斜視図である。これらの図に示すように、構造体本体10は、地下室の下半分を形成する下部構造体1と、同上半分を形成する上部構造体2とを備えた基本構成を有している。上記下部構造体1は、平面視で長方形状に形成され、底部に形成された基礎床(底部)11と、この基礎床11の周縁部から上方に向かって延設された周壁12とからなっている。
【0033】
上記基礎床11は平面視で長方形状に形状設定され、これによって周壁12は、基礎床11の短辺側に互いに対向するように立設された一対の短辺側壁13と、同長辺側に互いに対向するように立設された一対の長辺側壁14とを備えた状態になっている。また、下部構造体1の周壁12は、その上縁部に外方が高くレベル設定された高縁部15aと、この高縁部15aの内方に高縁部15aより低くレベル設定された低縁部15bとからなる段差縁部15を有している。
【0034】
上記上部構造体2は、下部構造体1に対応して同一平面形状に形成され、上記下部構造体1の短辺側壁13に対応した短辺側壁23と、同長辺側壁14に対応した長辺側壁24とからなる周壁22を有している。上部構造体2の周壁22の下縁部には、外方に形成された、下部構造体1の周壁12の高縁部15aに対応する高縁部25aと、内方に形成された下部構造体1の周壁12の低縁部15bに対応する低縁部25bとを備えた段差縁部25が形成されている。
【0035】
また、上部構造体2の上部には、周壁22に支持された天井壁21が設けられている。この天井壁21の適所には、矩形状の出入口21aが設けられ、上部構造体2が下部構造体1上に積み重ねられた状態(図2)で、この出入口21aを介して構造体本体10内に対して出入りし得るようになっている。そして、下部構造体1の段差縁部15に、上部構造体2の段差縁部25を当接させるように上部構造体2を下部構造体1上に積み重ねることによって、段差縁部15,25同士が互いに噛合し、これによって下部構造体1と上部構造体2とが合体した構造体本体10(図2)が得られるようになっている。
【0036】
図3は、各段差縁部15,25を説明するための部分斜視図であり、(イ)は各段差縁部15,25が離間した状態、(ロ)は各段差縁部15,25が互いに噛合した状態をそれぞれ示している。また、図4は、図3の(ロ)の断面図であり、(イ)はA−A線断面図、(ロ)はB−B線断面図である。これらの図に示すように、下部構造体1の段差縁部15に、上部構造体2の段差縁部25を対向させた状態で、上部構造体2の高縁部25aが下部構造体1の高縁部15aに対向しているとともに、上部構造体2の低縁部25bが下部構造体1の低縁部15bに対向し、これによって上部構造体2を下降させて上部構造体2の段差縁部25を下部構造体1の段差縁部15に当接させた状態で、図3の(ロ)に示すように、下部構造体1の段差縁部15と上部構造体2の段差縁部25とが互いに嵌まり合うように各高縁部15a,25aおよび各低縁部15b,25bの幅寸法が設定されている。従って、積み重ねられた構造体1,2間の相互の横ずれは確実に阻止される。
【0037】
このような各構造体1,2は、縦横に配筋された鉄筋Fの周りがコンクリートで囲われた、いわゆる鉄筋コンクリート製で形成されている。鉄筋Fは、周壁12,22内の室内側に配筋された主縦筋F1と、屋外側に配筋された副縦筋F2と、これら主副縦筋F1,F2に直交するように配筋された横筋F3とが採用され、これらの鉄筋Fで各構造体1,2は構造的に丈夫で強固になっている。
【0038】
そして、下部構造体1の段差縁部15には、図3の(イ)に示すように、上部構造体2が積み重ねられる前にゴム等の柔軟性および防水性を備えた材料からなるシール部材3が配設され、これによって上部構造体2が下部構造体1上に積み重ねられた状態で、図4に示すように、両段差縁部15,25間にシール部材3が上部構造体2の自重で押圧挟持され、これによって構造体本体10が地下に埋設された状態で、段差縁部15,25の当接部分からの地下水の地下室内への侵入を防止するようにしている。
【0039】
また、下部構造体1の段差縁部15には、低縁部15bの角部が切り欠かれて形成した下部構造体側凹部16が凹設されている一方、上部構造体2の段差縁部25には、下部構造体側凹部16に対向し、かつ、低縁部25bの角部が切りかかれて形成した上部構造体側凹部26が凹設されている。そして、各凹部16,26内には上下方向に延びる鉄筋Fの先端部が露出され、上下の段差縁部15,25が噛合された状態で上下の鉄筋Fが添筋F4を介して溶接止めされ、これによって積み重ねられた下部構造体1と上部構造体2とは強固に結合され、耐震姓が向上するようになっている。
【0040】
また、上下の鉄筋Fが添筋F4を介して溶接止めされた状態で、図4の(イ)に示すように、上下の凹部16,26内に無収縮モルタル5が施工され、これによって構造体本体10の内壁面を見苦しくないようにしている。
【0041】
そして、本実施形態においては、各構造体1,2の周壁12,21、上部構造体2の天井壁21および下部構造体1の基礎床11の厚み寸法は、それぞれ少なくとも150mmを越えるように寸法設定され、これによって構造体本体10が埋設された状態で、地上に露出している上部構造体2の天井壁21が、地上建造物の基礎として利用し得るようにしている。
【0042】
上記鉄筋Fは、本実施形態においては、直径13mmのものが使用されている。この鉄筋Fが、柱軸方向に延びるように配筋される軸方向主鉄筋、およびこれに直交するように配筋される背力鉄筋の双方に用いられ、これらが常法によって縦横に組み合わされている。そして、軸方向主鉄筋および背力鉄筋の双方は、構造体本体10の用途(例えば地下室としてのみ使用されるのか、あるいは地上建造物の基礎として兼用されるのか等)に応じて配置間隔が設定されている。
【0043】
また、上記下部構造体側凹部16および上部構造体側凹部26は、いずれも周方向に略当ピッチで複数設けられている。ピッチ寸法は150mm以上に設定されている。
【0044】
ところで、基礎床11が地表から1.8〜2.0mの深さになるように下部構造体1を地下に埋設した状態で、底から0.6mの位置の下部構造体1の周壁12に作用する土圧は、裏込め土が水分飽和の通常の普通土である場合、内部摩擦角が30°、地震時の水平震度kが0.3と仮定して、周壁12に加わる外力は常時で1.0tf/mであり、地震時で1.7〜2.0tf/mであることから、上記直径(13mm)の鉄筋Fを用い、かつ、配筋を適切に施すことにより、下部構造体1は、普段は勿論のこと、地震時にも十分に対応し得るものになる。
【0045】
また、特に各構造体1,2の段差縁部15,25については、図4に示すように、各高縁部15a,25aに副縦筋F2が配筋されているとともに、各低縁部15b,25bに主縦筋F1が配筋され、これによって段差縁部15,25の強度を大きくして下部構造体1と上部構造体2との結合部分の脆弱性を補うようにしている。
【0046】
上記構造体本体10の幅寸法(各構造体1,2の短辺側壁13,23の水平方向の寸法)および長さ寸法(長辺側壁14,24の水平方向の寸法)は、日本家屋の実情に合うように、外寸法が0.9mの倍数になるように寸法設定されている。また、各構造体1,2の高さ寸法は1.2mまたは1.3mに設定され、従って各構造体1,2が合体された構造体本体10の高さ寸法は2.4mまたは2.6mになっている。本実施形態においては、構造体本体10は、4畳半用、6畳用、8畳用および10畳用のものをユニット製品として工場生産するようにしている。表1に、本実施形態の構造体本体10の寸法を地下室の規模別に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
そして、本実施例において、上記のようなサイズの構造体本体10を採用したのは、このようなサイズが日本家屋の実情に合うことや、工場生産が容易なことの他、構造体本体10を二分割した状態の下部構造体1および上部構造体2を横転させることにより、道路運送車両法等の交通法規に抵触することなく構造体1,2を公道を利用して運送車両で搬送することができるからである。
【0049】
以下図5および図6を基に下部構造体1の製造方法について、また、図7および図8を基に上部構造体2の製造方法について説明する。
【0050】
図5は、下部構造体用の型枠の一実施形態を示す平面図であり、また図6は配筋された型枠内に生コンクリートが充填された状態を示す図であり、(イ)は図5のC−C線断面図、(ロ)は同D−D線断面図である。下部構造体1を製造するには、図5の(イ)に示すような第1型枠41を使用する。この第1型枠41は、天地を180°逆転させた下部構造体1の立体形状に沿うキャビティ41aを有している。上記下部構造体側凹部16に相当する部分には、ダミー空間41bが形成され、この部分には発砲スチロール製のダミー体43が装着される。ついでダミー体43の装着されたキャビティ41a内に鉄筋F(主縦筋F1、副縦筋F2および横筋F3)を配筋する。このとき主縦筋F1の先端部をダミー体43に突き刺すようにする。
【0051】
また、鉄筋Fの適所にはU字形状の吊り金具F5が溶接止めで突設されている一方、第1型枠41には上記吊り金具F5に対応した金具嵌装穴44が凹設され、キャビティ41a内への配筋時に吊り金具F5を金具嵌装穴44に嵌装するようにしている。そして、鉄筋Fの配筋されたキャビティ41a内に生コンクリートを流し込み、図略の振動手段の駆動によるキャビティ41aへの振動付与によってキャビティ41a内の生コンクリートの締め固めを行い、その後、生コンクリートが固化するまで放置(養生)され、生コンクリートが固まってからキャビティ41a内から抜き出されて下部構造体1が得られる。なお、生コンクリートの養生中に第1型枠41に蒸気等を供給して加熱し、これによって生コンクリートの固化を促進させることもある。
【0052】
図7は、上部構造体用の型枠の一実施形態を示す平面図であり、また図8は配筋された型枠内に生コンクリートが充填された状態を示す図であり、(イ)は図7のE−E線断面図、(ロ)は同F−F線断面図である。上部構造体2も、下部構造体1と同様に製造される。すなわち、図7に示すような天地逆転させない状態の上部構造体2の立体形状に沿うキャビティ42aを備えた第2型枠42が使用される。この第2型枠42にも、上部構造体側凹部26に対応したダミー空間42bおよび適所に金具嵌装穴44が設けられ、かかるキャビティ42a内に配筋した後、生コンクリートを流し込んで上部構造体2が製造される。生コンクリートを流し込んでからの処理は、先の下部構造体1の場合と同様である。
【0053】
このようにして製造された上下の構造体1,2は、型抜きされ、凹部16,26のダミー空間41b,42bに装着された状態になっているダミー体43が取り除かれた後、図9の(イ)および(ロ)に示すように、90°横転され、これによってL字形状の吊持部材Hを用いて以後の工場内での取り扱いや移送を容易にするとともに、運送車両による搬送に適した姿勢になるようにしている。各構造体1,2の横転については、図略の横転機の対向した回転腕間に各構造体1,2の両短辺側壁13,23を押圧挟持させ、ついで上記回転腕を90°回転させることによって行われる。
【0054】
図10は、工場内における各構造体1,2の移送の一例を説明する説明図であり、(イ)は構造体1,2が吊持部材Hによって吊持された状態、(ロ)は構造体1,2がコンベアCによって移送されつつある状態をそれぞれ示している。まず、型枠41,42(図4)から外された構造体1,2は、型抜き現場において上記横転機によって90°横転された後、図10の(イ)に示すように、天井クレーン等の移送手段に付設された吊持部材Hの水平腕が構造体1,2内に差し入れられ、天井クレーン等の駆動で吊り揚げられてコンベアCに移送される。
【0055】
ついで、コンベアCの上方に移送された構造体1,2は、図10の(ロ)に示すように、吊持部材Hの下降でコンベアC上に配置された支持プレート61上に載置され、以後、コンベアCの駆動で運送車両への積み込み現場に運ばれ、支持プレート61を残して吊り揚げられたのち吊り降ろされて所定の運送車両に搭載される。
【0056】
図11は、工事現場に運搬された構造体1,2の荷降ろし作業の一実施形態を示す説明図であり、(イ)は構造体1,2を吊り降ろしつつある状態、(ロ)は吊り降ろした構造体1,2を横転させた状態をそれぞれ示している。構造体1,2を運送車両から荷降しするに際しては、予め現場の所定の敷地G内に、図11の(イ)に示すように、砂を敷き詰めた砂土俵G1が設けられ、この砂土俵G1の表面にゴムマット(衝撃吸収マット)G3が敷設される。そして、運送車両上の構造体1,2は、ゴムマットG3の上方に位置するようにクレーン等の荷役マシンの吊持アームにロープG4を介して吊下げられる。このとき、構造体1,2は、その長手方向の一稜線が最下位レベルで水平にように側面視で傾いた状態の吊持姿勢に調整される。
【0057】
かかる状態の構造体1,2は、吊り降ろされることによって図11の(ロ)に二点鎖線で示すように、上記稜線がまずゴムマットG3上に着地する。ついでロープG4が徐々に繰り出されることによって、構造体1,2は稜線回りに時計方向に回動し、図11の(ロ)に実線で示すように、所定の敷地G内に荷降ろしされた状態になる。一旦荷降ろしされた構造体1,2は、再度クレーン等で順次吊り揚げられ、所定の施工位置に吊り降ろされて構造体本体10が構築される。
【0058】
因に、構造体1,2をロープG4で吊持するときは、ロープG4の先端に設けられた所定の連結金具が構造体1,2の適所に植設された吊り金具F5に連結されるが、この吊り金具F5は構造体1,2の施工後に溶断等によって取り除かれる。
【0059】
図12〜図14は、本発明に係る施工方法を説明するための説明図であり、図12は下部構造体1が縦穴U2に吊り降ろされた状態、図13は縦穴U2内の下部構造体1に上部構造体2が積み重ねられた状態、図14は、上下の構造体1,2が連結固定された状態をそれぞれ示している。
【0060】
縦穴U2内に構造体本体10を構築するに際しては、予め穴底部分に基礎工事が施される。具体的には、まず穴底に砕石U3が所定厚みに敷き詰められ、この砕石層の上に基礎盤100が形成される。この基礎盤100は、コンクリート製で所定厚み寸法を有する平板状に形成され、平面寸法は構造体本体10の平面寸法よりも若干大きく寸法設定されている。このような基礎盤100の表面に、弾性体としての耐圧性ゴムからなる多数のスペーサー101が基礎盤100上で均等に分布するように配置されているとともに、基礎盤100上にスペーサー101の頂部が僅かに隠れる程度の層厚みに設定された空練りモルタル102(図10〜図14に点描で表示)が散布された状態とされ、このような状態の基礎盤100上に下部構造体1が吊り降ろされ、引き続き上部構造体2が吊り降ろされて下部構造体1上に積み重ねられることによって構造体本体10がスペーサー101および空練りモルタル102を介して基礎盤100に支持されるようになっている。
【0061】
上記スペーサー101は、構造体本体10を支持するのに十分な強度を有するように支持断面の大きさや重量や形状が設定されており、複数のスペーサー101を所定の密度分布で基礎盤100上に配置することにより、構造体本体10が安定した状態で基礎盤100上に据え付けられることになる。
【0062】
上記空練りモルタル102は、水を加えないでセメントと砂とを混練したものである。かかる空練りモルタル102を構造体本体10と基礎盤100との間に介在させることにより、構造体本体10をスペーサー101上に据え付けた直後には、空練りモルタル102が基礎盤100の表面および構造体本体10の底面の凹凸に追随して層厚みが上記凹凸に対応したものになるとともに、時間の経過に伴って空練りモルタル102は地中の水分を吸収し、これによる化学反応の進行によって固化するため、構造体本体10の重量が固化した空練りモルタル102を介して均等に基礎盤100に加わることになり、基礎盤100による構造体本体10の支持状態が安定したものになる。
【0063】
そして、基礎盤100上にスペーサー101および空練りモルタル102が施工された後、図12に示すように、まず下部構造体1がスペーサー101上に吊り降ろされる。このとき下部構造体1の基礎床11に突設されている吊り金具F5に吊持用のロープG4が結合されるが、下部構造体1がスペーサー101上に載置され、位置決めの微調整が行われたのち吊り金具F5は溶断その他によって取り除かれる。また、下部構造体1の高縁部15aには全周に亘ってシール部材3が配置される。
【0064】
このようにして下部構造体1が縦穴U2内に施工された後、今度は図13に示すように、上部構造体2が下部構造体1上に吊り降ろされる。そして、上部構造体2が下部構造体1上に積み重ねられた状態では、下部構造体1の段差縁部15と上部構造体2の段差縁部25とが互いに噛合することによって両構造体1,2の横ずれが阻止された状態になっている。またこの状態では、下部構造体側凹部16と上部構造体側凹部26とが上下で互いに対向するとともに、各凹部16,26内に露出した上下の主縦筋F1の先端部が互いに対向している。
【0065】
この状態で、図14に示すように、まず、上下の主縦筋F1に添筋F4が添えられて溶接止めされ、これによって下部構造体1と上部構造体2とが確実強固に結合されることになる。ついで凹部16,26内に無収縮モルタル5が充填され、無収縮モルタル5が流れ出さないようにグラウト枠パネル51で仮抑えが行われる。このグラウト枠パネル51は、無収縮モルタル5が固化した後に取り除かれる。
【0066】
本発明は、以上詳述した通り、底部11と周壁12とを備えた鉄筋コンクリート製の下部構造体1に、平面視の形状が下部構造体1と同一形状の鉄筋コンクリート製の上部構造体2を、上縁面と下縁面とが互いに当接するように積み重ねることによって構造体本体が形成されてなるコンクリート構造体であり、下部構造体1には上縁面に幅方向で高低が形成された段差縁部15を設け、上部構造体2には下部構造体1の上縁面の段差縁部15に噛合するように下縁面に形成された段差縁部25を設け、各構造体1,2の段差縁部15,25には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部16,26をそれぞれ周方向に複数組設け、各凹部16,26内に露出した主縦筋F1同士を溶接等で互いに結合するものである。従って、大容量の構造体本体10は、まず、下部構造体1と、上部構造体2とに分割されているため、容量が半分になった各構造体1,2を工場で容易に大量生産し得るようになり、地下室等の単位構築物を現地で施工する場合に比べて施工コストを安価にすることができる。
【0067】
また、従来の鉛直面に沿うように分割した構造体の場合、シール部材の押圧挟持を確実に行うべく、ワイヤ等によって複数の構造体が締結されているが、これによって施工コストが嵩むとともに、ワイヤの伸長や腐食等による締結力の低下によって確実なシール効果を得ることができなくなるという不都合が生じるのに対し、本発明においては、下部構造体1の上縁面と上部構造体2の下縁面とが上部構造体2の重量によって常に押圧当接された状態になるため、従来のようなワイヤ等による締結操作は必要がなくなり、施工コストの低減化に貢献することができる。
【0068】
また、下部構造体1の上縁面および上部構造体2の下縁面にそれぞれ互いに噛み合う段差縁部15.25が設けられているため、上下の構造体1,2の接合時の位置決めが確実に行われるとともに、上下の構造体1,2の横ずれを有効に防止することができる。
【0069】
さらに、各構造体1,2の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体10の内側に臨んだ凹部16,26がそれぞれ周方向に複数組設けられ、しかも各凹部16,26内に露出した主縦筋F1同士が結合されているため、この主縦筋F1同士の結合によって上下の構造体1,2の結合状態が確実、かつ、強固なものになり、耐震性を向上させることができる。
【0070】
また、凹部16,26内にモルタル施工を施すことにより、構造体本体10の内部壁面が面一状態になるため、壁面が凹んでいることによる見苦しさが解消されるとともに、モルタルによる止水作用によって室内への地下水等の侵入を防止することができる。
【0071】
そして、下部構造体1の段差縁部15の上縁面と上部構造体2の段差縁部25の下縁面との間に弾性部材製のシール部材3を介設することによって、シール部材3は上部の構造体の重量によって常に押圧された状態になり、地下水の地下室内への侵入を確実に防止することができる。さらに、構造体本体10の内壁面および外壁面のいずれか一方または双方に防水処理を施すことにより、地下水等の構造体内への滲み込みをも有効に防止することができる。
【0072】
また、下部構造体1および上部構造体2を、幅寸法が2.5m〜3.5m、高さ寸法が0.8m〜1.6m、および長さ寸法が2.5m〜9.0mに寸法設定することにより、各構造体1,2を、生産、移送、取り扱いおよび搬送に適した寸法にすることができる。特に、構造体1,2を工場から地下室の施工現場に搬送するに際し、従来非常に困難とされていた、運送車両を用いて公道を利用することが可能になる。
【0073】
そして、構造体1,2を製造するに際しては、下部構造体1の立体形状に沿う第1型枠41内に配筋した後、第1型枠41内に生コンクリートを流し込んで下部構造体1を製造するとともに、上部構造体2の立体形状に沿う第2型枠42に配筋した後、第2型枠42内に生コンクリートを流し込んで上部構造体2を製造するようにしたため、型枠41,42内に生コンクリートを流し込むことによって各構造体1,2を容易に製造することができる。特に下部構造体1については、底部が上位に位置するような型枠41,42を用いることによって型抜きが容易になる。そして、上下の構造体1,2の凹部16,26に該当する部分に延長配筋した状態で凹部16,26の立体形状のダミー体43を配したため、構造体1,2を型抜きしたのちこのダミー体43を取り外すことによって段差部分に凹部16,26を形成することができる。従って、凹部16,26を形成するための型枠41,42の立体形状を複雑なものにする必要がなくなり、その分型枠41,42のコストの低減化を実現することができる。
【0074】
また、下部構造体1および上部構造体2の各々について、長尺側の側面が水平になるように構造体1,2を90°横転し、この横転した構造体1,2を吊持して運送車両に積載し、搬送する搬送方法を採用したため、所定の運送車両への積載高さ寸法および幅寸法が法規による規制の範囲内に納めることが可能になり、構造体1,2を公道を利用して搬送し得るものにすることができる。
【0075】
また、上部および下部構造体1を運送車両から荷降ろしするに際し、予め荷降ろしする位置に砂土俵G1を施工するとともに、砂土俵G1の上に衝撃吸収のゴムマットG3を敷設し、長手方向の一稜線が略水平になるように運送車両上の構造体1,2をロープG4を介して吊持したのちまず一稜線がゴムマットG3に当接するように吊り降ろし、引き続き徐々にロープG4を繰り出して一稜線回りに回動させることにより横転するようにしたため、クレーン等のロープG4に吊持された構造体1,2は、ロープG4を徐々に繰り出すことによって衝撃吸収マットG3上に向けて緩やかに吊り降ろされ、まず最下位レベルの稜線部分がゴムマットG3上に当接し、引き続きロープG4を繰り出すことによって構造体1,2を稜線部分回りに緩やかに回動してゴムマットG3上に横転された状態にすることができる。そして、荷降ろし位置には、予め砂土俵G1が敷設されているとともに、この砂土俵G1の上にゴムマットG3が敷かれているため、構造体1,2が着地したときの衝撃がゴムマットG3と砂土俵G1とで二重に吸収され、これによって構造体1,2が損傷するような不都合を確実に防止することができる。
【0076】
また、下部構造体1の上縁面と、上部構造体2の下縁面との間にシール部材3を介在させた状態で上部構造体2を下部構造体1の上に吊り降ろし、上下の構造体1,2の凹部16,26内に露出した主縦筋F1同士を結合することにより、上下の構造体1,2の凹部16,26内に露出した主縦筋F1同士の溶接等による結合を、構造体本体10内から実施することができ、これによって従来行われていたような縦穴U2の内周面と構造体1,2の外周面との間の狭隘な空間での作業をなくすことが可能になり、現場施工の作業性を向上させることができる。
【0077】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下の内容をも包含するものである。
【0078】
(1)上記の実施形態においては、下部構造体1の上縁面および上部構造体2の下縁面には、両者が接合した状態で互いに噛合する階段状縁部15,25が設けられているが、本発明は、上記両縁面にそれぞれ階段状縁部15,25を設けることに限定されるものではなく、各構造体1,2に凹部16,26が形成されているかぎり、下部構造体1の上縁面および上部構造体2の下縁面のいずれか一方に長手方向に延びる凹溝を設け、同他方に上記凹溝に嵌まり込む突条が設けるようにしたり、特に階段状縁部15,25や凹溝・突条を設けずにフラットであってもよい。
【0079】
(2)上記の実施形態においては、シール部材3として板状のゴム製品が採用されているが、本発明はシール部材3がゴム製品に限定されるものではなく、柔軟性および耐水性に優れた合成樹脂を採用することも可能であり、さらに高粘度を有したゴムや合成樹脂を主成分にするエマルジョンを塗布することでシール部材3を形成させるようにしてもよい。さらに例えばエポキシ系等の接着剤をシール部材3として用いることも可能である。
【0080】
(3)上記の実施形態において、構造体本体10の内壁面および外壁面のいずれか一方または双方に防水処理を施すようにしてもよい。こうすることによって周壁12,21を通した地下水の地下室内への侵入がさらに確実に防止される。
【0081】
(4)上記の実施形態においては、構造体本体10は、下部構造体1と上部構造体2との2層構造で形成されているが、本発明は、構造体本体10が2層構造であることに限定されるものではなく、3層構造以上であってもよい。
【0082】
(5)上記の実施形態においては、衝撃吸収マットとしてゴムマットG3が採用されているが、本発明は、衝撃吸収マットがゴムマットG3であることに限定されるものではなく、柔軟性を備えた合成樹脂製のマットであってもよいし、麻マット等の織製品であってもよい。
【0083】
(6)上記の実施形態においては、コンクリート構造体は、地下室用に適用されているが、本発明は、コンクリート構造体が地下室用であることに限定されるものではなく、半地下室用や、地上設置用としても適用することができる。
【0084】
【実施例】
以下、本発明が実際に適用された実施例について説明する。なお、この実施例は、縦穴の底部に基礎盤100に代えて砕石を敷設した場合のものである。図15は、本発明のコンクリート構造体が適用された家屋の南側の側面図であり、図16は、図15に示す家屋の1階の間取り図である。また、図17は、図15に示す地下室の一部断面斜視図である。これらの図に示すように、本実施例では地下室Uは、本発明に係る6畳タイプの構造体本体10(表1参照)が南に面した8畳の居間の地下に適用されて形成されている。居間Lの南側には略1.8mの幅寸法を有するガラス戸が設けられているとともに、地下室に出入りするための階段U1が設けられ、地下室Uの採光の一助となるように配慮されている。
【0085】
本実施例では、構造体本体10を構成するセメントは、早強ポルトランドセメント(JISR5710)が用いられている。このセメントに混合剤としてのAE減水剤およびシリカヒュームと、軽量骨材としての細骨材および粗骨材(MA317)とが混合され、これによってコンクリートの水密性および軽量性が良好に発揮されるようにしている。また、構造体1,2(図1)内に配筋される鉄筋Fとして、直径9mmおよび13mmのものを採用した。さらに、下部構造体1と上部構造体2との接続部分に介設されるシール部材3(図3)として、ゴムアスファルトエマルジョンからなるペーストタイプのものを使用した。上記各材料の諸元を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示すような材料を用いたことにより、各構造体1,2を構成するコンクリートの圧縮強度を210kgf/cm2以上にすることができるとともに、水密性の指標である拡散係数を10×104cm2/sec以下にすることが可能になる。また、本実施例では、各構造体1,2を工場で製造するに際し、上記材料を混合してなる生コンクリートを型枠41,42に流し込み、3時間が経過してから蒸気を型枠に通して内部の生コンクリートを20℃/hrで65℃にまで昇温し、この温度を4時間継続して養生した。ついで生コンクリートが常温になるまで自然放冷してから構造体1,2を型枠41,42から取り出した。本実施例では、このようにして得られた構造体1,2を使用している。構造体1,2の諸元を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
つぎに、本実施例における基礎工事および各構造体1,2の埋設工事について説明する。図18は、基礎および埋設工事を説明するための側面断面視の説明図であり、図19は同平面図である。本実施例においては、図18に示すように、居間L(図16)の北側に設けられた東西に延びる建屋基礎Xの南側(図18の右方)に、まず、居間Lに対応した直方体状の縦穴U2がトレンチ工法等の適当な工法で掘削される。この縦穴U2は、深さ寸法が1.9m、東西寸法が4.5m、および南北寸法が3.5mに設定されている。
【0090】
ついで、この縦穴U2の底部に断面寸法が30cm角で長さ寸法が6mのコンクリート製摩擦杭U1の4本を、図19に示すように、頂部を土中から10cmだけ突出させた状態にまで杭打ちする。その後、縦穴U2の底部に、厚さ寸法が10cmになるように平均粒径が略40mmの砕石U3を敷き積めて押し固める。上記摩擦杭U1の支持力は、1本当り略7.2tfであるため、4本で合計28.8tfになり、本実施例の構造体本体10の重量である11.7tfの2倍以上になり、これによって構造体本体10の不等沈下が確実に防止される。
【0091】
このような基礎工事を行った後に、まず、下部構造体1をクレーン等で吊り揚げてから縦穴U2内に吊り降ろし、ついで下部構造体1の階段状上縁部15に上記シール部材3を30mmの厚さに塗布する。このシール部材3が乾燥してから、図18に示すように上部構造体2がクレーンによって下部構造体1の上に吊り降ろされ、これによって二点鎖線で示すように、縦穴U2内には下部構造体1の上に上部構造体2が積み重ねられた構造体本体10が形成される。
【0092】
そして、縦穴U2内に構造体本体10が形成された状態では、上部構造体2が縦穴U2の上縁部から略60cm上方に突出している。ついで縦穴U2の内周面と、構造体本体10の外周面との間に上記同様の砕石U3が充填され、これによって縦穴U2内に構造体本体10が埋設された状態になる。その後、この構造体本体10の上部開口が天井パネルで覆われるとともに、昇降用の階段が付設され、さらに内装工事が施されることによって図17に示すような地下室が完成した。本実施例においては、構造体本体10の地上に突出した部分が上部の居間Lの基礎として利用されている。
【0093】
本実施例においては、第1および上部構造体1,2の縦穴U2への埋め込み開始から天井パネルの設置完了までの工期は1.5日であった。この工期は、従来工法であるコンクリートの現地打設方式に比べて1/10〜1/20であり、格段の工期短縮が実現するとともに、その分施工コストを大幅に削減できることが確認された。
【0094】
【発明の効果】
本発明によれば、下部構造体の上縁面に幅方向で高低が形成された段差を設け、上部構造体の下縁面に上記段差に噛み合う段差を設け、各構造体の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部をそれぞれ周方向に複数組設け、各凹部内に露出した鉄筋同士を溶接止め等によって結合したため、この鉄筋同士の結合によって上下の構造体の結合状態が確実、かつ、強固なものになり、耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るコンクリート構造体の一実施形態を示す一部切欠き分解斜視図である。
【図2】 図1のコンクリート構造体の組立て斜視図である。
【図3】 各段差縁部を説明するための部分斜視図であり、(イ)は各段差縁部が離間した状態、(ロ)は各段差縁部が互いに噛合した状態をそれぞれ示している。
【図4】 図3の(ロ)の断面図であり、(イ)はA−A線断面図、(ロ)はB−B線断面図である。
【図5】 下部構造体用の型枠の一実施形態を示す平面図である。
【図6】 配筋された型枠内に生コンクリートが充填された状態を示す図であり、(イ)は図5のC−C線断面図、(ロ)は同D−D線断面図である。
【図7】 上部構造体用の型枠の一実施形態を示す平面図である。
【図8】配筋された型枠内に生コンクリートが充填された状態を示す図であり、(イ)は図7のE−E断面図、(ロ)は同F−F線断面図である。
【図9】 横転された構造体を示す斜視図であり、(イ)は下部構造体、(ロ)は上部構造体をそれぞれ示している。
【図10】 工場内における各構造体の移送の一例を説明する説明図であり、(イ)は構造体が吊持部材によって吊持された状態、(ロ)は構造体がコンベアCによって移送されつつある状態をそれぞれ示している。
【図11】 工事現場に運搬された構造体の荷降ろし作業の一実施形態を示す説明図であり、(イ)は構造体を吊り降ろしつつある状態、(ロ)は吊り降ろした構造体を横転させた状態をそれぞれ示している。
【図12】 本発明に係る施工方法を説明するための説明図であり、下部構造体1が縦穴に吊り降ろされた状態を示している。
【図13】 本発明に係る施工方法を説明するための説明図であり、縦穴内の下部構造体に上部構造体が積み重ねられた状態を示している。
【図14】 本発明に係る施工方法を説明するための説明図であり、上下の構造体が連結固定された状態を示している。
【図15】 本発明のコンクリート構造体が適用された家屋の南側の側面図である。
【図16】 図15に示す家屋の1階の間取り図である。
【図17】 図15に示す地下室の一部断面斜視図である。
【図18】 基礎および埋設工事を説明するための側面断面視の説明図である。
【図19】 基礎および埋設工事を説明するための平面視の説明図である。
【符号の説明】
10 構造体本体 1 下部構造体
11 基礎床 12 周壁
13 短辺側壁 14 長辺側壁
15 段差縁部 16 下部構造体側凹部
2 上部構造体 21 天井壁
22 周壁 23 短辺側壁
24 長辺側壁 25 段差縁部
26 上部構造体側凹部 3 シール部材
41 第1型枠 41a キャビティ
41b ダミー空間 42 第2型枠
42a キャビティ 42b ダミー空間
43 ダミー体 44 金具嵌装穴
F 鉄筋 F1 主縦筋
F2 副縦筋 F3 横筋
F4 添筋 F5 吊り金具
G 敷地 G1 砂土俵
G3 ゴムマット G4 ロープ
Claims (5)
- 底部と周壁とを備えた鉄筋コンクリート製の下部構造体に、平面視の形状が上記下部構造体と同一形状の少なくとも周壁を備えた鉄筋コンクリート製の上部構造体を、上縁面と下縁面とが互いに当接するように積み重ねることによって構造体本体を形成するコンクリート構造体の製造方法において、上記下部構造体には上縁面に幅方向で高低が形成された段差を設け、上記上部構造体には下縁面に形成された上記段差に噛み合う段差を設け、上記各構造体の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部をそれぞれ周方向に複数組設け、各凹部内に露出した鉄筋同士を互いに結合するものであり、上記下部構造体の立体形状に沿う第1型枠内に配筋した後、第1型枠内に生コンクリートを流し込んで下部構造体を製造するとともに、上記上部構造体の立体形状に沿う第2型枠に配筋した後、第2型枠内に生コンクリートを流し込んで上部構造体を製造し、上記上下の構造体の凹部に該当する部分に延長配筋した状態で凹部の立体形状のダミー体を配することを特徴とするコンクリート構造体の製造方法。
- 底部と周壁とを備えた鉄筋コンクリート製の下部構造体に、平面視の形状が上記下部構造体と同一形状の少なくとも周壁を備えた鉄筋コンクリート製の上部構造体を、上縁面と下縁面とが互いに当接するように積み重ねることによって構造体本体が形成されてなるコンクリート構造体において、上記下部構造体は、上縁面に幅方向で高低が形成された段差を有し、上記上部構造体は、下縁面に形成された上記段差に噛み合う段差を有し、上記各構造体の上縁面および下縁面には対向面の開口が互いに対向するとともに、側部の開口が構造体本体の内側に臨んだ凹部がそれぞれ周方向に複数組設けられ、各凹部内に露出した鉄筋同士が結合され、上記下部構造体および上部構造体は、幅寸法が2.5m〜3.5m、高さ寸法が0.8m〜1.6m、および長さ寸法が2.5m〜9.0mであるコンクリート構造体の運搬方法であって、上記下部構造体および上記上部構造体の各々について、長尺側の側面が水平になるように構造体を90°横転し、この横転した構造体を吊持して運送車両に積載し、搬送する方法であり、上記上部および下部構造体を運送車両から荷降ろしするに際し、予め荷降ろしする位置に砂土俵を施工するとともに、砂土俵の上に衝撃吸収マットを敷設し、長手方向の一稜線が略水平になるように運送車両上の構造体をワイヤを介して吊持したのちまず上記一稜線が上記マットに当接するように吊り降ろし、引き続き徐々に上記ワイヤを繰り出して上記一稜線回りに回動させることにより横転することを特徴とするコンクリート構造体の運搬方法。
- 上記凹部内にモルタル施工が施されていることを特徴とする請求項2記載のコンクリート構造体の運搬方法。
- 上記上縁面と下縁面との間に弾性部材製のシール部材が介設されていることを特徴とする請求項2または3記載のコンクリート構造体の運搬方法。
- 上記構造体本体の内壁面および外壁面のいずれか一方または双方に防水処理が施されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のコンクリート構造体の運搬方法。
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