JP4098857B2 - 豚の疾病の予防及び治療剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、豚のマイコプラズマ性肺炎(以下、「MPS」という)、アクチノバシラス症(以下、「APP」という)又は繁殖・呼吸障害症候群(以下、「PRRS」という)の予防及び治療剤並びに予防及び治療方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
MPSは、豚流行性肺炎とも呼ばれる疾患で、病原菌はマイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopenumoniae)である。本病の発生率は、例えば日本のサーベイ記録によると30.7%と極めて高率であり、主な症状は発育不良、から咳である。
【0003】
一方、APPは、胸膜肺炎とも呼ばれる疾患で、病原菌はアクチノバシラス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)である。主な症状は、急性期においては発熱、食欲不振、嘔吐、呼吸促迫などであり、耐過した慢性期には喀痰を伴う咳である。
【0004】
また、PRRSは、生殖器・呼吸器症候群、ヘコヘコ病とも呼ばれる疾患で、病原菌はPRRSウイルスである。主な症状は早産や死産、哺乳豚の死亡等の繁殖障害、発育不良並びに呼吸の促迫、鼻炎、腹式呼吸等の呼吸器症状である。
【0005】
これらの豚特有の疾患はいずれも流行性であり、一度発生すると経済的損失が大きくなるという問題がある。
【0006】
これらの疾患の予防及び治療法としては、MPS及びAPPについては抗生物質やその他の抗菌剤の投与などが行われている。しかし、近年、耐性菌の出現や抗生物質の残留性の問題等があり、抗生物質等の家畜への投与の見直しが必要になっている。またPRRSに対しては、有効な予防法はないといわれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、抗生物質などを用いないMPS、APP及びPRRSの予防及び治療方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、全く意外にも香辛料にMPS、APP及びPRRSの発症予防効果及び症状改善効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ナットメグ、オレガノ、シナモン及びジンジャーからなる群から選択される香辛料を有効成分とする豚のMPS、APP又はPRRSの予防及び治療剤を提供するものである。また、本発明はナットメグ、オレガノ、シナモン及びジンジャーからなる群から選択される香辛料を含有する飼料を給与することを特徴とする豚のMPS、APP又はPRRSの予防及び治療方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明において、香辛料とは香辛成分を含む植物それ自体、その乾燥物、粉砕物、これらの成形体及びこれらの香辛料から抽出された精油を指称するものである。香辛料とは広義の意味のものであり、地中海沿岸を中心に産出し、芳香を第一とするハーブ類と、熱帯及び亜熱帯に産出し、香気と辛味の強いスパイス類との両者を含むものである。これらの香辛料のもつ本来の機能として知られているものは、香気と辛味の刺激による食欲増進効果、これらの香辛料に含まれる成分の化学作用や香りによる魚や肉の不快臭に対する矯臭(マスキング)や芳香によるにおい付け、更には、香辛料特有の色素による着色等が主なものである。また、香辛料の中には前記のような香気や辛味以外に、防腐作用、生理薬理作用等の効果を有するものもある。
【0011】
本発明に用いられる香辛料は、ニクズク科、アブラナ科、ミカン科、ゴマ科、コショウ科、セリ科、フトモモ科、ナス科、シソ科、クスノキ科、ユリ科、ショウガ科、キク科及びツバキ科等からなる群から選択されるもので、具体例としては、ナットメグ、メース、マスタード、タラゴン、ゴマ、ブラックペパー、ホワイトペパー、フェヌグリーク、アニスシード、セロリーシード、キャラウェイ、コリアンダー、クミン、フェンネル、ディール、パセリ、パプリカ、クローブ、オールスパイス、レッドチリー、マジョラム、ローズマリー、オレガノ、セージ、タイム、ローレル、バジル、サボリー、シナモン、オニオン、ターメリック、カルダモン、ジンジャー、ガーリック、ワームウッド及び茶等が挙げられる。これらの中でも、ナットメグ、クローブ、ローズマリー、オレガノ、セージ、シナモン、ジンジャー、ワームウッド及び茶がより好ましく、更にナットメグ、オレガノ、シナモン、ジンジャー、セージが好ましく、特にナットメグ、オレガノ、シナモン、ジンジャーが好ましい。
【0012】
本発明の予防及び治療剤には、上記香辛料の1種又は2種以上を組合わせて用いることができる。香辛料は、採取された植物のそのまま、その乾燥物、粉砕物、又はこれら単独もしくは賦形剤と共にペレット等に成形したもの、あるいは天然香辛料から抽出された精油を配合することができる。
【0013】
上記香辛料は従来、家畜や家禽の肉や脂肪を改質する目的で飼料に添加する方法(特開平7−79709号公報)や鶏肉の微生物の繁殖を抑制するために肉用鶏の飼料に添加する方法(特開平7−31382号公報)が知られているが、豚特有の感染症であるMPS、APP及びPRRSの予防又は治療の目的で使用する試みがなされたことはなかった。
【0014】
上記香辛料を投与された豚は後記実施例に示すようにMPS、APP及びPRRSの種々の症状が改善される。
【0015】
本発明の予防及び治療剤は、種々の形態、例えば粉末、液剤、固形剤等の形態でそのまま投与してもよいが、前記香辛料を配合した飼料を給与することにより投与するのが簡便であり、特に好ましい。
【0016】
本発明の予防及び治療剤の投与量は、特に制限されないが、天然香辛料の場合は乾物換算で10mg/体重kg/日〜10g/体重kg/日であり、精油の場合は1mg/体重kg/日〜5g/体重kg/日が好ましい。
【0017】
また、香辛料を飼料に添加して使用する場合、香辛料の飼料への配合量は、香辛料の種類、その形態等によっても異なるが、天然香辛料の場合は乾物換算で飼料中に0.1〜5重量%(以下、単に%で示す)、また精油の場合には0.001〜1%配合するのが好ましい。
【0018】
香辛料を飼料に配合する場合、他の原料と同様に配合することもできるが、香辛料の配合量が少量であることから、予め香辛料を飼料原料の一部と混合して飼料添加物として調製し、これを残余の飼料原料に添加混合するのが、香辛料を均一に配合できるので好ましい。
【0019】
本発明で香辛料が添加される飼料原料は何ら制限されることがなく、一般に養豚飼料に用いられている原料が使用される。かかる原料としては、とうもろこし、マイロ、大麦、小麦等の穀類;ふすま等の糟糠類;大豆油粕、菜種油粕等の植物性油粕類;魚粉、骨肉粉等の動物性飼料;食塩;オリゴ糖類;ケイ酸;各種ビタミン類;炭酸カルシウム、第2リン酸カルシウム等のミネラル類;アミノ酸類及び有機酸類などが挙げられる。本発明の予防及び治療剤配合飼料は、上記原料に香辛料を添加混合して、ペレット、マッシュ又はクランブル状にすることにより製造される。
【0020】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0021】
実施例1
表1及び表2に示す組成の飼料を給与して豚を飼育し、その発育状態を調べると共に、飼育されたMPSの血清中抗体陽性率、PRRSの血清中抗体価並びにMPS、APP及びPRRSの肺病変発性状況について試験した。
(1)飼料
【0022】
【表1】
Figure 0004098857
【0023】
【表2】
Figure 0004098857
【0024】
(2)飼育条件
供試豚:マイティーLWDの子豚(生後14日令)1区7頭
飼育方法:水、飼料共に自由摂取
飼育期間:14日令〜60日令まで47日間
【0025】
(3)試験方法
1)発育成績
体重変化及び食下量を測定した。
2)MPSの血清中抗体陽性率
MPSの血清中抗体の測定は補体結合反応(CF)法を用いて行った。すなわち、Mycoplasma hyopneumoniae(マイコプラズマ ハイオニューモニエ)の菌体を抗原とし、96穴マイクロプレート上で抗原と被検血清を混合し、更に市販の標準モルモット補体を加え反応させ、溶血素で感作した羊赤血球を加えた。血清中にMPSに対する抗体があれば、抗原抗体反応に補体が消費され、
羊赤血球は溶血を阻止される。溶血が阻止された血清を陽性とした。
3)PRRSの血清中抗体価
PRRSの血清中抗体の測定は間接蛍光抗体法(IFA)法を用いて行った。すなわち、PRRSウイルス感染細胞をアセトン固定して作成した抗原に被検血清を反応させ、抗原に特異的に結合した抗体を蛍光色素で標識した試薬で染色するもので、蛍光顕微鏡下において緑色の蛍光色を発するものを陽性とした。なお被検血清は段階希釈して試験に供し、蛍光の観察できる血清希釈倍率をその検体の抗体価とした。
4)肺の病変
試験終了後、各試験区の豚を解剖し、MPS病変、APP病変及びPRRS病変を観察した。
(i)MPS病変:褐色の色を呈し、病変部と健康部とに明確な境が認められる。肺の前、中葉部分に多い。
(ii)APP病変:線維素性の胸膜炎が著しく、肺と胸膜の癒着が激しい。病変部は肺の前、中、後葉に認められる。
(iii) PRRS病変:前葉性の水腫により肺葉が退色し、硬化する。
5)一般症状
各感染症特有の症状の有無を観察した。
【0026】
(4)結果
1)発育成績
表3に示すように、香辛料添加区では無添加区に比べて体重が増加し、食下量も多かった。なお、試験終了時体重及び増体重においては、香辛料添加区と無添加区の間で有意差が認められた。
【0027】
【表3】
Figure 0004098857
【0028】
2)MPSの血清中抗体陽性率
表4に示すように、香辛料添加区が無添加区に比べて抗体陽性率が低くなっており、感染自体が抑制されたと考えられる。
【0029】
【表4】
Figure 0004098857
【0030】
3)PRRSの血清中抗体価
表5に示すように、香辛料添加区が無添加区に比べて抗体価が速やかに上昇する傾向が認められた。この結果と後記のPRRS病変発生割合とを併せて考慮すると、豚の自己免疫が活性化されたものと考えられる。
【0031】
【表5】
Figure 0004098857
【0032】
4)肺病変
表6に示すように、香辛料添加区では無添加区に比べてMPS病変、APP病変及びPRRS病変のいずれにおいても有意に病変が軽度であった。
【0033】
【表6】
Figure 0004098857
【0034】
5)一般症状
飼育40日頃から試験豚にMPS性の発咳(動いた時にでる乾いた咳)が認められたが、無添加区ではその症状が明らかに重くまた、63%の豚に発生したが、香辛料添加区ではその症状が明らかに軽く、発生割合も12%と少なかった。また、下痢、軟便の発生状況も香辛料添加区では11%の豚に発生したが軽度なものであったのに対し、無添加区は45%の豚に発生し、しかも重度なものであった。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、豚の呼吸器疾患として重要なMPS及びAPP、並びに従来特に予防策の存在しなかったPRRSの発生の防止並びにそれらの症状改善が可能となる。また、本発明の手段によれば、薬剤等の肉への残留性や耐性菌の発生等の問題が生じず、安全にこれらの感染症の予防及び治療ができる。

Claims (2)

  1. ナットメグ、オレガノ、シナモン及びジンジャーからなる群から選択される香辛料を有効成分とする豚のマイコプラズマ性肺炎、アクチノバシラス症又は繁殖・呼吸障害症候群の予防及び治療剤。
  2. ナットメグ、オレガノ、シナモン及びジンジャーからなる群から選択される香辛料を含有する飼料を給与することを特徴とする豚のマイコプラズマ性肺炎、アクチノバシラス症又は繁殖・呼吸障害症候群の予防及び治療方法。
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