JP4096679B2 - 磁路形成部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁石への通電により同電磁石、摩擦クラッチ、アーマチャと協働して磁路を形成する磁路形成部材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、クラッチ機構は磁路形成部材(以下、リヤハウジングという)を備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この特許文献1のリヤハウジングにおいては、摩擦クラッチの一側に電磁石と共に位置し、前記電磁石への通電により同電磁石、前記摩擦クラッチ及び、同摩擦クラッチの他側に位置するアーマチャと協働して磁路を形成する。
【0004】
図15に示すように、このリヤハウジング100は、鉄製の環状をなす外周筒部101と、その外周筒部101内に設けられた鉄製の環状の内周筒部102と、前記外周筒部101と前記内周筒部102との間に嵌合状態で溶接されたステンレス製の環状の磁路遮断部103とを備えている。
【0005】
前記リヤハウジング100を製造する際には、まず、前記外周筒部101、内周筒部102、磁路遮断部103を予め別々に形成する。そして、外周筒部101と磁路遮断部103とを、磁路遮断部103と内周筒部102とを溶接により組み付けて(接着して)いる。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−230577号公報(段落番号「0016」、第2図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特許文献1のリヤハウジング100においては、前記外周筒部101、内周筒部102、磁路遮断部103の3つ(複数)の部品を予め別々に所定の形状に切削加工などを行って形成しなければならず、部品製作コストが高くなっていた。加えて、外周筒部101と磁路遮断部103とを、磁路遮断部103と内周筒部102とを溶接により組み付け(接着)しなければならず、組み付けコストが高くなっていた。
【0008】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は複数の部品からなる磁路形成部材と比して、部品製作コスト及び組み付けコストを低減できる磁路形成部材の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、潤滑油によって潤滑される摩擦クラッチの一側に電磁石と共に位置し、前記電磁石への通電により同電磁石、前記摩擦クラッチ及び、同摩擦クラッチの他側に位置するアーマチャと協働して磁路を形成する磁路形成部材の製造方法において、前記磁路形成部材は、磁性材料からなる環状の外周筒部と、その外周筒部内に設けられた環状の内周筒部と、前記外周筒部と前記内周筒部とを連結する連結部とからなる磁路形成本体を備え、前記外周筒部及び前記内周筒部及び前記連結部がなす非磁性材料鋳込凹部に非磁性材料である銅を鋳込むことにより磁路遮断部を形成し、前記磁路遮断部を形成後、前記連結部と前記磁路遮断部とが対向する面を有するようにしつつ前記連結部における前記非磁性材料鋳込凹部と反対側の面を切削することを要旨とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図7に従って説明する。
【0017】
図2には、本発明を具体化した一実施形態の駆動力伝達装置を示している。この駆動力伝達装置11は、図1に示すように、四輪駆動車12における後輪側への駆動力伝達経路に配設されている。
【0018】
前記四輪駆動車12は、駆動力伝達装置11、トランスアクスル13、エンジン14、一対の前輪15、及び一対の後輪16を備えている。
前記エンジン14の駆動力はトランスアクスル13を介してアクスルシャフト17に出力し、前輪15を駆動する。
【0019】
また、トランスアクスル13にはプロペラシャフト18を介して駆動力伝達装置11が連結され、同駆動力伝達装置11にはドライブピニオンシャフト19を介してリヤデファレンシャル20が連結されている。リヤデファレンシャル20には、アクスルシャフト21を介して後輪16が連結されている。前記プロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が駆動力伝達装置11にてトルク伝達可能に連結された場合には、エンジン14の駆動力は後輪16に伝達される。
【0020】
駆動力伝達装置11はリヤデファレンシャル20とともにディファレンシャルキャリヤ22内に収容され、且つディファレンシャルキャリヤ22に支持され、同ディファレンシャルキャリヤ22を介して車体に支持されている。
【0021】
次に駆動力伝達装置11について説明する。
図2に示すように、駆動力伝達装置11は外側回転部材としてのアウタケース30a、内側回転部材としてのインナシャフト30b、メインクラッチ機構30c、パイロットクラッチ機構30d、及びカム機構30eを備えている。
【0022】
前記アウタケース30aは、有底筒状のフロントハウジング31aと、フロントハウジング31aの後端開口部に螺着され、且つその開口部を覆蓋するリヤハウジング31bとから構成されている。前記リヤハウジング31bは磁路形成部材に相当する。前記フロントハウジング31aは前記プロペラシャフト18に連結されている。
【0023】
リヤハウジング31bは、環状をなす磁路形成本体41と、その磁路形成本体41における径方向中間部に形成された環状の磁路遮断部42とを備えている。前記磁路形成本体41は磁性材料である鉄にて形成され、前記磁路遮断部42は非磁性材料である銅にて鋳込み形成されている。即ち、磁路形成本体41は前記磁路遮断部42における外周側に位置する外周筒部41aと、同磁路遮断部42における内周側に位置する内周筒部41bとを備えている。前記外周筒部41aと前記内周筒部41bは前記磁路遮断部42にて連結(接着)されている。
【0024】
前記外周筒部41a、内周筒部41b、磁路遮断部42における摩擦クラッチ34側の各側面が面一になるように構成されている。前記磁路遮断部42において、摩擦クラッチ34側の側面及び後述する環状凹所53側の側面は、露出面R1,R2(図7(b)参照)にそれぞれ相当する。
【0025】
前記アウタケース30aの前端部外周が、図示しないベアリング等を介してディファレンシャルキャリヤ22(図1参照)に対して回転可能に支持されている。また、リヤハウジング31bはヨーク36に対して回転可能に支持され、そのヨーク36はディファレンシャルキャリヤ22(図1参照)に対して支持されている。
【0026】
前記インナシャフト30bは、リヤハウジング31bの中央部を液密的に貫通してフロントハウジング31a内に挿入され、軸方向への移動を規制された状態でフロントハウジング31aとリヤハウジング31bに対して相対回転可能に支持されている。インナシャフト30bには、ドライブピニオンシャフト19(図1参照)の先端部が挿入されている。なお、図2においてはドライブピニオンシャフト19は図示していない。
【0027】
図2及び図3に示すように、メインクラッチ機構30cは湿式多板式のクラッチ機構であって、鉄からなりその摺動面にペーパ摩擦材が貼付されたインナクラッチプレート32a及び鉄からなるアウタクラッチプレート32bを多数備えている。前記インナクラッチプレート32a及びアウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの奥壁側に配設されている。
【0028】
メインクラッチ機構30cを構成する各インナクラッチプレート32aは、インナシャフト30bの外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能とされている。一方、各アウタクラッチプレート32bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能とされている。各インナクラッチプレート32aと各アウタクラッチプレート32bは交互に位置されて互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0029】
パイロットクラッチ機構30dは、リヤハウジング31b、電磁石33、摩擦クラッチ34、及びアーマチャ35を備えている。前記パイロットクラッチ機構30dは本願請求項のクラッチ機構に相当する。
【0030】
前記ヨーク36には環状をなす電磁石33が嵌着され、同電磁石33はリヤハウジング31bの環状凹所53(図3参照)に嵌合されている。前記摩擦クラッチ34は、鉄製の3枚のインナクラッチプレート34a及び鉄製の4枚のアウタクラッチプレート34bからなる多板式の摩擦クラッチとして構成されている。
【0031】
なお、前記リヤハウジング31b及び電磁石33は、摩擦クラッチ34における一側(図3における右側)に配置されている。
前記インナクラッチプレート34aは、後述するカム機構30eを構成する第1カム部材37の外周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能とされている。一方、各アウタクラッチプレート34bは、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向へ移動可能とされている。
【0032】
前記インナクラッチプレート34aと各アウタクラッチプレート34bとは交互に位置して、互いに当接して摩擦係合するとともに、互いに離間して非係合の自由状態になる。
【0033】
図4(a),(b)に示すように、前記摩擦クラッチ34のアウタクラッチプレート34bにおいては、最外周の各スプライン歯23間に外歯溝24が形成されている。また、この外歯溝24とアウタクラッチプレート34bの最内周縁との中間に一重円のスリット25が形成されている。このスリット25(区画空間)はそれぞれ円周方向で分断されている。
【0034】
図5(a),(b)に示すように、前記摩擦クラッチ34のインナクラッチプレート34aにおいては、最内周の各スプライン歯26間に内歯溝27が形成されている。また、この内歯溝27とインナクラッチプレート34aの最外周縁との中間に一重円のスリット28が形成されている。このスリット28(区画空間)はそれぞれ円周方向で分断されている。
【0035】
アウタクラッチプレート34bのスリット25と、インナクラッチプレート34aのスリット28とが重なる。外歯溝24と、スリット25,28と、内歯溝27との間で磁路域34b1,34a1,34b2,34a2が区画形成されている。
【0036】
前記磁路遮断部42は、前記アウタクラッチプレート34b及びインナクラッチプレート34aのスリット25,28に重なる。
図4(a),(b)及び図5(a),(b)に示すように、前記インナクラッチプレート34a、アウタクラッチプレート34bには互いに接触する摩擦接触面としての摺動面S1,S2がそれぞれ形成されている。
【0037】
前記インナクラッチプレート34aの摺動面S1には、特殊ガス軟窒化表面処理が施されている。前記アウタクラッチプレート34bの摺動面S2には、非晶質硬質炭素膜であるダイヤモンド状炭素薄膜(DLC)が施されている。また、インナクラッチプレート34aの摺動面S1にダイヤモンド状炭素薄膜(DLC)を施すとともにアウタクラッチプレート34bの摺動面S2に特殊ガス軟窒化表面処理を施したり、前記摺動面S1,S2の両方にダイヤモンド状炭素薄膜(DLC)を施してもよい。このダイヤモンド状炭素薄膜(DLC)としては、Siを含有したもの(DLC−Si)を採用してもよい。
【0038】
ところで、図2に示すように、アーマチャ35は環状をなしており、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向への移動可能とされている。前記アーマチャ35は摩擦クラッチ34に対して他側(図2における左側)に位置し、摩擦クラッチ34に対向している。
【0039】
電磁石33への通電により、ヨーク36、外周筒部41a、摩擦クラッチ34の磁路域34a1,34b1、アーマチャ35、摩擦クラッチ34の磁路域34a2,34b2、内周筒部41b、ヨーク36を循環する磁路M1(図2参照)が形成される。
【0040】
図2に示すように、カム機構30eは、第1カム部材37、第2カム部材38、及びカムフォロア39にて構成されている。
第1カム部材37及び第2カム部材38には、対向面に互いに対向する図示しないカム溝が周方向に所定間隔を保持して複数形成されている。第1カム部材37はインナシャフト30bの外周に回転可能に嵌合されるとともに、リヤハウジング31bに回転可能に支承されている。第1カム部材37の外周には、前記インナクラッチプレート34aが軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されている。
【0041】
前記第2カム部材38はインナシャフト30bの外周に軸方向へ移動自在にスプライン嵌合されており、インナシャフト30bに対して一体回転可能とされている。同第2カム部材38はメインクラッチ機構30cのインナクラッチプレート32aに対向して位置されている。前記第2カム部材38と第1カム部材37の互いに対向するカム溝には、ボール状のカムフォロア39が介在されている。
【0042】
リヤハウジング31bはインナシャフト30bの外周に液密的かつ回転可能に嵌合された状態で、その前側壁部の周縁部にてフロントハウジング31aに螺着されている。前記インナシャフト30b、フロントハウジング31a、及びリヤハウジング31bにて囲まれて形成された室内には潤滑油Lが充填されている。前記潤滑油Lはインナクラッチプレート32aとアウタクラッチプレート32bとの潤滑、及びインナクラッチプレート34aとアウタクラッチプレート34bとの潤滑を行うようにされている。
【0043】
上記のような駆動力伝達装置11においては、パイロットクラッチ機構30dを構成する電磁石33の電磁コイルへの通電がなされていない場合には磁路M1は形成されず、摩擦クラッチ34は非係合状態にある。このため、パイロットクラッチ機構30dは非作動の状態にあって、カム機構30eを構成する第1カム部材37は、カムフォロア39を介して第2カム部材38と一体回転可能であり、メインクラッチ機構30cは非作動状態にある。このため、四輪駆動車12は二輪駆動の駆動モードを構成する。
【0044】
一方、電磁石33の電磁コイルへ通電されると、パイロットクラッチ機構30dには磁路M1が形成され、電磁石33はアーマチャ35を吸引する。このため、アーマチャ35は摩擦クラッチ34を押圧して摩擦係合させ、カム機構30eの第1カム部材37をフロントハウジング31a側と連結させ、第2カム部材38との間に相対回転を生じさせる。この結果、カム機構30eではカムフォロア39が第1カム部材37と第2カム部材38とを互いに離間する方向へ押圧する。
【0045】
この結果、第2カム部材38はメインクラッチ機構30c側へ押圧され、メインクラッチ機構30cを摩擦クラッチ34の摩擦係合力に応じて摩擦係合させ、アウタケース30aとインナシャフト30bとの間のトルク伝達を行う。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が非直結状態の四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0046】
また、電磁石33の電磁コイルへの印加電流を所定の値に高めると、電磁石33のアーマチャ35に対する吸引力が増大する。そして、アーマチャ35は強く電磁石33側へ吸引作動され、摩擦クラッチ34の摩擦係合力を増大させ、第1カム部材37と第2カム部材38との間の相対回転を増大させる。この結果、カムフォロア39は第2カム部材38に対する押圧力を高めて、メインクラッチ機構30cを結合状態とする。このため、四輪駆動車12はプロペラシャフト18とドライブピニオンシャフト19が直結した四輪駆動の駆動モードを構成する。
【0047】
次に、上記第1実施形態の駆動力伝達装置11におけるリヤハウジング31bの製造方法について説明する。
図7(a)に示すように、外周筒部41a、内周筒部41b、前記外周筒部41aと内周筒部41bとを連結する連結部43が摩擦クラッチ34側において一体的に形成された鉄製のワークW1を予め製作しておく。前記ワークW1には、前記外周筒部41a、内周筒部41b、及び連結部43の協働により、環状凹所53側に開口するとともに環状をなす非磁性材料鋳込凹部44が形成されている。前記非磁性材料鋳込凹部44は断面四角形状をなしている。
【0048】
そして、ワークW1の非磁性材料鋳込凹部44に対して銅を鋳込み、前記磁路遮断部42を形成する。すると、磁路遮断部42と外周筒部41aとが対向する面の全て、及び磁路遮断部42と内周筒部41bとが対向する面の全てが互いに接着される。
【0049】
さらに、図7(b)に示すように、摩擦クラッチ34側に設けられた前記連結部43を切削加工にて全て除去することにより、リヤハウジング31bが完成する。
【0050】
従って、上記第1実施形態の駆動力伝達装置11によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、ワークW1の非磁性材料鋳込凹部44に対して銅を鋳込むことにより磁路遮断部42を形成するようにした。この結果、磁路遮断部42と外周筒部41aとが対向する面の全て、及び磁路遮断部42と内周筒部41bとが対向する面の全てを互いに接着した。そして、ワークW1の連結部43を切削加工にて全て除去することにより、リヤハウジング31bを形成した。
【0051】
即ち、上記に示した製造方法により、鉄からなる環状の磁路形成本体41と、同磁路形成本体41の径方向中間部に鋳込んで設けられた銅からなる環状の磁路遮断部42とを備えたリヤハウジング31bが得られた。
【0052】
特許文献1においては、外周筒部101、内周筒部102、及び磁路遮断部103の3つ(複数)の部品をビーム溶接などの溶接にて組み付け(接着)てリヤハウジング100を構成していた。特に、磁路遮断部103は、その内外両周面を外周筒部101の内周面及び内周筒部102の外周面に合わせて切削加工を行う必要がある。
【0053】
しかしながら、本実施形態においては、磁路形成本体41に対して磁路遮断部42を鋳込み形成した1つの部品にてリヤハウジング31bを構成したため、前記リヤハウジング100と比して部品製作コスト及び組み付けコストを低減できる。特に、本実施形態では、磁路遮断部42を鋳込みにより形成しているため、その内外両周面を切削加工する必要がない。
【0054】
なお、本明細書でいう部品とは、予め別々に形成(成形)した部材のことをいう。即ち、予め形成(成形)した部材に対して別の部材を形成(成形)した際には、その形成(成形)した「別の部材」は部品にあたらない。
【0055】
また、このリヤハウジング31bを備えたパイロットクラッチ機構30d及び駆動力伝達装置11を構成することができる。
(2)本実施形態では、磁路形成本体41と磁路遮断部42とが対向する面の全てを互いに接着した。従って、前記インナシャフト30b、フロントハウジング31a、及びリヤハウジング31bにて囲まれた室内に充填された潤滑油Lが、磁路形成本体41と磁路遮断部42とが対向する面を介して環状凹所53へ浸入することがない。
【0056】
(第2実施形態)
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図8に従って説明する。なお、第2実施形態を含む以下の実施形態の駆動力伝達装置は、前記第1実施形態を部分的に変更したものであり、前記第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して、その詳細な説明を省略し、異なるところのみを説明する。
【0057】
図8に示すように本実施形態の駆動力伝達装置61は、前記第1実施形態における駆動力伝達装置11のリヤハウジング31bを変更したものである。
即ち、本実施形態の駆動力伝達装置61におけるリヤハウジング62は、環状をなす磁路形成本体63と、その磁路形成本体63における径方向中間部に形成された環状の磁路遮断部42とを備えている。前記リヤハウジング62は、磁路形成部材に相当する。
【0058】
前記磁路形成本体63は、ワークW1における連結部43の不要部64を切削して必要部である薄肉部(以下、保護部65という)を形成したものに相当する。
【0059】
なお、不要部64と保護部65を総称して連結部43という。
即ち、前記磁路形成本体63は、外周筒部41a、内周筒部41b、及び保護部65を備えている。前記保護部65は、保護手段及び耐潤滑油用保護体に相当する。
【0060】
ところで、磁路形成本体63の非磁性材料鋳込凹部44に銅を鋳込んで磁路遮断部42を形成するため、その磁路遮断部42と保護部65とが対向する面の全てが互いに接着される。また、前記保護部65により、インナシャフト30b、フロントハウジング31a、及びリヤハウジング62にて囲まれた室内に充填された潤滑油Lと、銅からなる磁路遮断部42との接触を防げる。
【0061】
従って、上記第2実施形態の駆動力伝達装置61によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、ワークW1の非磁性材料鋳込凹部44に対して銅を鋳込むことにより磁路遮断部42を形成するようにした。この結果、磁路遮断部42と外周筒部41aとが対向する面の全て、及び磁路遮断部42と内周筒部41bとが対向する面の全て、並びに磁路遮断部42と保護部65とが対向する面の全てを互いに接着した。そして、磁路遮断部42を形成したワークW1において、その連結部43の不要部64を切削して保護部65を形成することにより、リヤハウジング62を構成した。従って、前記第1実施形態における効果(1)と同様の効果を得ることができる。
【0062】
(2)本実施形態では、鉄からなる磁路形成本体63の保護部65により、インナシャフト30b、フロントハウジング31a、及びリヤハウジング62にて囲まれた室内に充填された潤滑油Lと、銅からなる磁路遮断部42とが接触することがない。従って、潤滑油Lと磁路遮断部42との接触による潤滑油Lの劣化を起こすことがない。また、鉄からなる前記保護部65により、摩擦クラッチ34と銅からなる磁路遮断部42とが接触することがなく、磁路遮断部42が摩耗を起こすことがない。
【0063】
(第3実施形態)
以下、本発明を具体化した第3実施形態を図9〜図13に従って説明する。
図9に示すように本実施形態の駆動力伝達装置71は、前記第1実施形態における駆動力伝達装置11の摩擦クラッチ34、アーマチャ35、及びリヤハウジング31bを変更したものである。
【0064】
即ち、本実施形態の駆動力伝達装置71における摩擦クラッチ72は、鉄製の1枚のインナクラッチプレート72a、鉄製の2枚のアウタクラッチプレート72bを備えている。
【0065】
図10(a),(b)に示すように、アウタクラッチプレート72bは、外歯溝24とアウタクラッチプレート72bの最内周縁との間で直径が異なる三重円の外側スリット73、中間スリット74、及び内側スリット75が形成されていることが前記アウタクラッチプレート34bと相違している。前記外側スリット73、中間スリット74、内側スリット75(区画空間)はそれぞれ円周方向で分断されている。
【0066】
図11(a),(b)に示すように、インナクラッチプレート72aは、内歯溝27とインナクラッチプレート72aの最外周縁との間で直径が異なる三重円の外側スリット76、中間スリット77、及び内側スリット78が形成されていることが前記インナクラッチプレート34aと相違している。前記外側スリット76、中間スリット77、内側スリット78(区画空間)はそれぞれ円周方向で分断されている。
【0067】
アウタクラッチプレート72bにおける外側スリット73、中間スリット74、内側スリット75が、それぞれ、インナクラッチプレート72aにおける外側スリット76、中間スリット77、内側スリット78に対して重なる。この外歯溝24と外側スリット73,76と中間スリット74,77と内側スリット75,78と内歯溝27との間で、磁路域72b1,72a1,72b2,72a2,72b3,72a3,72b4,72a4が区画形成されている。
【0068】
図12(a),(b)に示すように、本実施形態の駆動力伝達装置71におけるアーマチャ85は、環状をなしており、フロントハウジング31aの内周にスプライン嵌合されて軸方向への移動可能とされている。
【0069】
すなわち、アーマチャ85は、最外周の各スプライン歯86間にフロントハウジング31aの内周に軸方向に摺動自在に嵌合する外歯溝87が形成されている。また、アーマチャ85は、外歯溝87と最内周縁との間でスリット88が形成されている。このスリット88(区画空間)により、アーマチャ85にはその最外周縁と最内周縁との間で外側磁路域88aと内側磁路域88bとが区画されて形成されている。このスリット88は円周方向で分断されている。このスリット88は、前記アウタクラッチプレート72b及びインナクラッチプレート72aの中間スリット74,77に重なる。
【0070】
次に、本実施形態の駆動力伝達装置71における磁路形成部材としてのリヤハウジング90を図9及び図13(b)に従って説明する。
前記リヤハウジング90は、環状をなす磁路形成本体91と、その磁路形成本体91における径方向中間部に形成された環状の磁路遮断部92と、その磁路遮断部92における径方向中間部に形成された環状の磁路形成リング93とを備えている。
【0071】
前記磁路形成本体91は前記磁路遮断部92における外周側に位置する外周筒部91aと、同磁路遮断部92における内周側に位置する内周筒部91bとを備えている。また、前記磁路遮断部92において、前記磁路形成リング93の外周側に対応する部位は外側遮断筒部92aとされ、同磁路形成リング93の内周側に対応する部位は内側遮断筒部92bとされている。
【0072】
なお、前記磁路形成本体91及び磁路形成リング93は磁性材料である鉄にて形成され、前記磁路遮断部92は非磁性材料である銅にて鋳込み形成されている。また、前記磁路遮断部92における摩擦クラッチ72側の側面及び環状凹所53側の側面は、露出面R3,R4(図13(b)参照)に相当する。
【0073】
前記外周筒部91a、内周筒部91b、外側遮断筒部92a、内側遮断筒部92b、磁路形成リング93における摩擦クラッチ72側の各側面が面一になるように構成されている。
【0074】
前記磁路遮断部92の外側遮断筒部92aはアウタクラッチプレート72b及びインナクラッチプレート72aの外側スリット73,76に重なる。前記磁路遮断部92の内側遮断筒部92bは、アウタクラッチプレート72b及びインナクラッチプレート72aの内側スリット75,78に重なる。
【0075】
図9に示すように、電磁石33への通電により、次に示すように循環する磁路M2が発生する。
ヨーク36、外周筒部91a、摩擦クラッチ72の磁路域72b1,72a1、外側磁路域88a、摩擦クラッチ72の磁路域72b2,72a2、磁路形成リング93、摩擦クラッチ72の磁路域72b3,72a3、内側磁路域88b、摩擦クラッチ72の磁路域72b4,72a4、内周筒部91b、ヨーク36。
【0076】
即ち、第1実施形態においては、磁路M1が形成されることにより、摩擦クラッチ34を磁束が一回往復していたのに対し、本実施形態においては、磁路M2が形成されることにより、摩擦クラッチ72を磁束が二回往復する。
【0077】
なお、前記磁路M2は、摩擦クラッチ72を磁束が二回往復して通過するクラッチ磁路89を備えている。
次に、上記第3実施形態の駆動力伝達装置71におけるリヤハウジング90の製造方法について説明する。
【0078】
図13(a)に示すように、外周筒部91a、内周筒部91b、磁路形成リング93、前記外周筒部91aと内周筒部91bと磁路形成リング93とを連結する連結部94が摩擦クラッチ72側において一体的に形成された鉄製のワークW2を予め製作しておく。
【0079】
前記ワークW2には、前記外周筒部91a、内周筒部91b、磁路形成リング93、連結部94の協働により、前記環状凹所53側に開口するとともに環状をなす非磁性材料鋳込凹部95が形成されている。前記非磁性材料鋳込凹部95は断面凹字形状をなしている。
【0080】
そして、ワークW2の非磁性材料鋳込凹部95に対して銅を鋳込み、外側遮断筒部92a及び内側遮断筒部92bを有する磁路遮断部92を形成する。すると、磁路遮断部92と外周筒部91aとが対向する面の全て、及び磁路遮断部92と内周筒部91bとが対向する面の全て、並びに磁路遮断部92と磁路形成リング93とが対向する面の全てが互いに接着される。
【0081】
さらに、図13(b)に示すように、前記連結部94を切削加工にて全て除去することにより、リヤハウジング90が完成する。
従って、上記第3実施形態の駆動力伝達装置71によれば、前記第1実施形態の効果(2)と同様の効果を得るとともに、以下のような効果を得ることができる。
【0082】
(1)本実施形態では、ワークW2の非磁性材料鋳込凹部95に対して銅を鋳込むことにより磁路遮断部92を形成するようにした。この結果、磁路遮断部92と外周筒部91aとが対向する面の全て、及び磁路遮断部92と内周筒部91bとが対向する面の全て、並びに磁路遮断部92と磁路形成リング93とが対向する面の全てを互いに接着した。そして、ワークW2の連結部94を切削加工にて全て除去することにより、リヤハウジング90を形成した。
【0083】
即ち、上記に示した製造方法により、鉄からなる環状の磁路形成本体91と、同磁路形成本体91の径方向中間部に鋳込んで設けられた銅からなる環状の磁路遮断部92と、同磁路遮断部92の径方向中間部に設けられた鉄からなる環状の磁路形成リング93とを備えたリヤハウジング90が得られた。
【0084】
これが例えば外周筒部91a、内周筒部91b、磁路遮断部92、磁路形成リング93の部品をそれぞれ別々で形成した後、それらをビーム溶接などの溶接にて組み付けて(接着して)リヤハウジング90を構成すると、部品製作コストや、それらの部品を組み付けるコストが高くなる。特に、磁路遮断部92の切削加工が煩雑で部品製作コストが高くなっていた。しかしながら、本実施形態では、ワークW2にて磁路遮断部92を鋳込み形成する方法をとっており、部品としては1つで済む。
【0085】
従って、本実施形態のリヤハウジング90は、上記4つ(複数)の部品をビーム溶接にて組み付け(接着)したリヤハウジング90と比べて、部品製作コストや組み付け(接着)コストを抑えることができる。
【0086】
また、このリヤハウジング90を備えたパイロットクラッチ機構30d及び駆動力伝達装置71を構成することができる。
(2)第1実施形態においては、磁路M1が形成されることにより、摩擦クラッチ34を磁束が一回往復していたのに対し、本実施形態においては、磁路M2が形成されることにより、摩擦クラッチ72を磁束が二回往復する。このため、前記摩擦クラッチ72の摩擦係合力が、前記摩擦クラッチ34の摩擦係合力の約2倍になる。
【0087】
従って、本実施形態の駆動力伝達装置71はインナクラッチプレート72a及びアウタクラッチプレート72bの枚数を、第1実施形態の駆動力伝達装置11のインナクラッチプレート34a及びアウタクラッチプレート34bに比して減らしても、駆動トルクが低下することがない。
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態は以下のような他の実施形態に変更して具体化してもよい。
【0088】
・前記第1実施形態では、磁路遮断部42における露出面R1,R2には、その表面を空気や潤滑油Lなどから保護するものを備えていなかった。これに限らず、図14に示すように、前記磁路遮断部42における露出面R1,R2に、クロムメッキ、ニッケルリンメッキ、ニッケル無電解メッキ、アエンクロメート等のメッキ96,97をそれぞれ施してもよい。このメッキ96は保護手段及び耐潤滑油用保護体に相当し、メッキ97は保護手段に相当する。また、前記メッキ96,97の代わりに、電着塗装、エポキシ系樹脂などの塗装を施してもよい。なお、前記メッキ96,97のうち一方を省略してもよい。また、前記第2実施形態の磁路遮断部42の露出面R2においても、前記メッキ97に相当するものを設けてもよい。さらに、前記第3実施形態の磁路遮断部92の露出面R3,R4においても、前記メッキ96,97に相当するものを設けてもよい。
【0089】
・前記第3実施形態において、前記第2実施形態における保護部65に相当するものを設けてもよい。即ち、外周筒部91aと磁路形成リング93、及び磁路形成リング93と内周筒部91bとを連結するとともに、磁路遮断部92の露出面R3を保護する保護部を設けてもよい。前記保護部は、保護手段及び耐潤滑油用保護体に相当する。
【0090】
・前記各実施形態では、磁路遮断部42,92として銅を採用していたが、その代わりにステンレス、アルミニウムなどの非磁性材料を採用してもよい。
・前記第2実施形態では、環状凹所53側に開口する非磁性材料鋳込凹部44が形成されるように、外周筒部41a、内周筒部41b、及び保護部65を一体的に形成していた。これに限らず、摩擦クラッチ34側に開口する非磁性材料鋳込凹部44が形成されるように、外周筒部41a、内周筒部41b、及び保護部65を一体的に形成し、その非磁性材料鋳込凹部44に前記磁路遮断部42を形成してもよい。
【0091】
次に、上記各実施形態及び他の実施形態から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記保護手段は前記磁路遮断部と潤滑油との接触を防ぐ耐潤滑油用保護体であることを特徴とする磁路形成部材。
【0092】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、従来の磁路形成部材の製造方法と比して、部品製作コスト及び組み付けコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1実施形態における駆動力伝達装置を搭載した四輪駆動車の説明図。
【図2】 第1実施形態における駆動力伝達装置の断面図。
【図3】 第1実施形態における駆動力伝達装置の部分拡大断面図。
【図4】 (a)は、アウタクラッチプレートの正面図。(b)は、アウタクラッチプレートの側断面図。
【図5】 (a)は、インナクラッチプレートの正面図。(b)は、インナクラッチプレートの側断面図。
【図6】 (a)は、アーマチャの正面図。(b)は、アーマチャの側断面図。
【図7】 (a)は、ワークと磁路遮断部とを示す部分拡大断面図。(b)は、リヤハウジングを示す部分拡大断面図。
【図8】 第2実施形態におけるリヤハウジングを示す部分拡大断面図。
【図9】 第3実施形態における駆動力伝達装置の部分拡大断面図。
【図10】 (a)は、アウタクラッチプレートの正面図。(b)は、アウタクラッチプレートの側断面図。
【図11】 (a)は、インナクラッチプレートの正面図。(b)は、インナクラッチプレートの側断面図。
【図12】 (a)は、アーマチャの正面図。(b)は、アーマチャの側断面図。
【図13】 (a)は、ワークと磁路遮断部とを示す部分拡大断面図。(b)は、リヤハウジングを示す部分拡大断面図。
【図14】 他の実施形態におけるリヤハウジングを示す部分拡大断面図。
【図15】 従来技術におけるリヤハウジングを示す部分拡大断面図。
【符号の説明】
11,61,71…駆動力伝達装置、
30a…外側回転部材としてのアウタケース、
30b…内側回転部材としてのインナシャフト、30c…メインクラッチ機構、
30e…カム機構、30d…クラッチ機構としてのパイロットクラッチ機構、
31b,62,90…磁路形成部材としてのリヤハウジング、
33…電磁石、34,72…摩擦クラッチ、35,85…アーマチャ、
41,63,91…磁路形成本体、41a,91a…外周筒部、
41b,91b…内周筒部、42,92…磁路遮断部、43,94…連結部、
44,95…非磁性材料鋳込凹部、
65…保護手段及び耐潤滑油用保護体としての保護部、89…クラッチ磁路、
96…保護手段及び耐潤滑油用保護体としてのメッキ、
97…保護手段としてのメッキ、M1,M2…磁路、
R1,R2,R3,R4…露出面、S1,S2…摩擦接触面としての摺動面。
Claims (1)
- 潤滑油によって潤滑される摩擦クラッチの一側に電磁石と共に位置し、前記電磁石への通電により同電磁石、前記摩擦クラッチ及び、同摩擦クラッチの他側に位置するアーマチャと協働して磁路を形成する磁路形成部材の製造方法において、
前記磁路形成部材は、磁性材料からなる環状の外周筒部と、その外周筒部内に設けられた環状の内周筒部と、前記外周筒部と前記内周筒部とを連結する連結部とからなる磁路形成本体を備え、
前記外周筒部及び前記内周筒部及び前記連結部がなす非磁性材料鋳込凹部に非磁性材料である銅を鋳込むことにより磁路遮断部を形成し、前記磁路遮断部を形成後、前記連結部と前記磁路遮断部とが対向する面を有するようにしつつ前記連結部における前記非磁性材料鋳込凹部と反対側の面を切削することを特徴とする磁路形成部材の製造方法。
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