薄くかつ主表面の面積の大きな供試体パネルを液体窒素の温度まで冷却するための冷却シュラウドとしては、供試体パネルの面積よりも大きな面積(例えば、4m×3m)を有する平板が用いられる。太陽電池パネル(例えば、3×2m)の熱真空試験においては、試験中の太陽電池パネルの面内方向の許容温度差が規定されているとともに、試験中の太陽電池パネルの表面と裏面との間の許容温度差が規定(例えば、25K以内)されている。そのため、たとえば、冷却シュラウドを構成する液体窒素配管を蛇行させる設計手法が用いられている。この設計手法によれば、冷却シュラウドの全ての部分の温度が液体窒素配管内を流れる液体窒素の温度とほぼ同一になる。しかしながら、液体窒素配管を太陽電池パネルの主表面に沿って蛇行させると、冷却シュラウドを構成する液体窒素配管は長くなってしまう。
また、冷却シュラウドが冷却されるときに液体窒素配管内に液体窒素が存在する場合には、液体窒素の強制対流沸騰熱伝達作用を利用することができるため、冷却シュラウドは、非常に大きな冷却性能を発揮する。しかしながら、気体窒素が配管内を流れる場合には、気体窒素の強制対流熱伝達作用よって熱伝達が行なわれるため、冷却シュラウドは、冷却性能が極端に小さくなる。
例えば、液体窒素の強制対流沸騰熱伝達率は、10000〜30000W/(m2・K)であるが、一方、気体窒素の強制対流熱伝達率は、20〜100W/(m2・K)である。また、液体窒素と液体窒素配管との間の熱交換量は、液体窒素と液体窒素配管との間の熱伝達率の値、液体窒素配管の内面の伝熱面積(液体窒素と液体窒素配管との接触面積)、および液体窒素配管と液体窒素との間の温度差の積を算出することによって得られる。そのため、液体窒素配管内に液体窒素が存在するかどうかによって熱交換量が大きく異なる。
また、液体窒素が液体窒素配管内に存在する限り、液体窒素配管内では液体窒素の強制対流沸騰熱伝達が行なわれるため、液体窒素配管の温度は、液体窒素の温度に保持される。一方、全ての液体窒素が気体窒素に変化すると、気体の熱容量は小さいため、気体窒素の温度は急激に上昇する。それにより、液体窒素配管と気体窒素との間の温度差が小さくなる。その結果、液体窒素配管内に気体窒素が充満している場合の熱交換量は、液体窒素配管内に液体窒素が存在する場合の熱交換量に比較して、極めて小さくなる。
一般に、強制対流沸騰熱伝達率による熱交換量が大きいということは、液体窒素配管内を流れる液体窒素に多量の熱が流入することを意味している。また、液体窒素に多量の熱が流入すれば、液体窒素配管の始点では液体であった窒素が、液体窒素配管の終点に至るまでの間に気体に変化するおそれがある。さらに、液体窒素配管が非常に長い場合には、液体窒素配管内に液体窒素を流し始めた直後の液体窒素配管においては、液体窒素が存在する部分と液体窒素が存在しない部分とがある。
そのため、液体窒素配管があまり長くなると、冷却シュラウドのある部分の温度と他の部分の温度との間の差が大きく異なってしまう。その結果、太陽電池パネルのある部分の温度と他の部分の温度との間の差が大きくなってしまう。つまり、太陽電池パネルは温度のむらの度合いが大きくなってしまう。
なお、太陽電池パネルに大きな温度のむらが発生する時期は、液体窒素配管内に液体窒素を流し始めた直後の時期のみである。したがって、液体窒素配管内の始点から終点までの全てに液体窒素が充填されている状態になれば、冷却シュラウドの全体が液体窒素の温度と同一の温度になる。この状態では、冷却シュラウドの温度のむらが減少するため、太陽電池パネルの温度のむらも減少する。
従来においては、上述のような冷却シュラウドに温度のむらが発生することを抑制する手法として、冷却シュラウドと供試体(太陽電池パネル等)との間に、断熱材としてのシャッターを設ける手法が考えられる。この手法では、冷却シュラウドの全体が液体窒素の温度とほぼ同一の温度に達した後で、シャッターが開かれることによって、供試体の冷却が開始される。
前述の手法を用いれば、冷却シュラウドが一様な温度になってから供試体パネルを冷却することになるため、温度むらを低減することができる。しかしながら、供試体パネルから冷却シュラウドへ与えられる熱負荷が液体窒素の流量から換算される蒸発潜熱量よりも大きい場合には配管を大きくする必要があるため、熱真空試験装置の構造が大型化してしまう。また、太陽電池パネルのような寸法が大きな供試体パネルの熱真空試験装置にシャッタを設ける場合、熱真空試験装置が大型化してしまう。
また、供試体パネルの一部を加温するためのランプ(ハロゲンランプなど)を熱真空試験装置に設置することによって、供試体パネルの一部の温度だけが低下することを防止する手法も考えられる。この手法においては、温度が液体窒素の温度とほぼ同一の温度となる部分とその温度よりも高い温度の部分との境界線が時間の経過とともに冷却シュラウド上を移動する。そのため、加熱ランプによって加熱する位置を移動させる制御を行なう必要があるが、その制御は非常に複雑なものである。
さらに、冷却シュラウドを構成する全ての部分のうち、最初に温度が低下する冷却シュラウドの所定の部分の表面の熱放射率を他の部分よりも小さくする手法が考えられる。この手法によれば、供試体の温度が変化し始めた直後に冷却シュラウドに大きな温度のむらが発生しても供試体パネルが偏って冷却されることを防止できる。しかしながら、冷却シュラウドの全体が液体窒素の温度と同一になった状態においては、熱放射率が他の領域よりも小さい領域の近傍に位置する供試体パネルの特定の部分は、供試体パネルの他の部分よりも冷却され難くなる。その結果、液体窒素を液体窒素配管に流し始めてから十分な時間が経過した後、供試体パネルの前述の特定の部分の温度が目標の温度(たとえば、−175℃)に達しないおそれが生じる。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却の開始から終了までの間の全てにおいて、供試パネルの温度むらの発生を極力抑制することができる熱真空試験装置を提供することである。
本発明の第1の局面の熱真空試験装置は、供試体パネルを設置することが可能な真空チャンバを備えている。また、供試体パネルの主表面の一方の側に、空間を介して、供試体パネルに対向するように第1冷却シュラウドが設けられている。また、供試体パネルの主表面の他方の側に、空間を介して、供試験パネルに対向するように第2冷却シュラウドが設けられている。第1冷却シュラウドに、第1冷却媒体が流れる第1冷却用配管が設けられている。第1冷却用配管は蛇行している。第2冷却シュラウドに第2冷却媒体が流れる第2冷却用配管が設けられている。第2冷却用配管は蛇行している。第1冷却用配管と第2冷却用配管とは、供試体パネルの主表面に対して垂直な方向に見たときに、ほぼ重なるように配置されている。第1冷却媒体が流れる方向と第2冷却媒体が流れる方向とが、逆向きである。
上記の構成によれば、供試体パネルの主表面に対して垂直な方向に供試験パネルを見たときに、第1冷媒のうちの液体冷媒と気体冷媒との境界線と第2冷媒のうちの液体冷媒と気体冷媒との境界線とが、ほぼ点対称な関係を保持しながら移動する。その結果、冷却用配管の入口から出口までの全てが液体冷媒によって均等に冷却されないことに起因して生じる冷却シュラウドの温度のむらの度合いを低減することができる。
本発明の第2の局面の熱真空試験装置は、供試体パネルを設置することが可能な真空チャンバを備えている。供試体パネルの主表面の一方の側に、空間を介して、供試体パネルに対向するように第1冷却シュラウドが設けられている。供試体パネルの主表面の他方の側に、空間を介して、供試験パネルに対向するように第2冷却シュラウドが設けられている。第1冷却シュラウドに第1冷却媒体が流れる第1冷却用配管が設けられている。第1冷却用配管は蛇行している。第2冷却シュラウドに第2冷却媒体が流れる第2冷却用配管が設けられている。第2冷却用配管は蛇行している。また、前述の装置は、第1冷却媒体が第1冷却用配管内に流れ込むタイミングを制御可能な第1制御弁と、第2冷却媒体が第2冷却用配管内に流れ込むタイミングを制御可能な第2制御弁とを備えている。第1冷却用配管の入口に第1冷却媒体が到達する時刻と、第2冷却用配管の入口に第2冷却媒体が到達する時刻とが、ほぼ同時になるように、第1制御弁の開閉動作と第2制御弁の開閉動作とが制御手段によって制御される。
上記の構成によれば、第1冷却用配管に第1冷却媒体が到達する時刻と第2冷却用配管に第2冷却媒体が到達する時刻とが異なることに起因して生じる冷却シュラウドの温度のむらの度合いを低減することができる。
本発明の第3の局面の熱真空試験装置は、供試体パネルを設置することが可能な真空チャンバと、供試体パネルを冷却するための冷却シュラウドとを備えている。冷却シュラウドには、液体冷媒が流れる冷却用配管が設けられている。その装置は、冷却用配管内に流れ込む液体冷媒の流量を制御可能な制御弁と、冷却用配管の出口に設けられた温度センサとを備えている。また、当該装置は、制御装置を有し、制御装置は、温度センサにより検出された温度が液体冷媒の沸点よりも高い場合には、前述の流量が大きくなるように制御弁を制御し、かつ、温度センサにより検出された温度が液体冷媒の沸点、あるいは沸点以下である場合には、前述の流量が小さくなるように制御弁を制御する。
上記の構成によれば、冷却用配管内の全てに液体窒素が存在する場合には、液体冷媒の冷却用配管内への供給量が低減し、熱負荷が大きい場合など冷却用配管出口に気体冷媒が存在する場合には、液体冷媒の冷却用配管内への供給量が増加する。その結果、必要最小限の液体冷媒の供給量で冷却シュラウドを液体冷媒の温度に近い温度で保持することができる。
本発明によれば、冷却の開始から終了までの間の全てにおいて、冷却シュラウドの温度むらの発生を極力抑制することができる。
実施の形態1.
図1および図2は、実施の形態1による熱真空試験装置を示す図である。図1および図2に示すように、真空チャンバ1内に直方体のフレーム2が設けられている。フレーム2内では、下から順に、供試体パネル4、空間10、および冷却シュラウド3からなるユニットが、複数段積み重ねられている。冷却用配管としての液体窒素配管5aと液体窒素配管5bとは、供試体パネル4の主表面に対して垂直な方向に見たときに、すなわち、熱真空装置の真上から液体窒素配管5aおよび液体窒素配管5bを見れば、ほぼ重なるように配置されている。つまり、図2に示す供試体パネル4、空間10、および冷却シュラウド3からなる同一構造のユニットが複数段積み重なるように配置されている。ただし、最下段の供試体パネルの下側には、その供試体パネルを下側から冷却する冷却シュラウド3が設けられている。
図3は、冷却シュラウドの上面図である。図4は、冷却シュラウドの斜視図である。
図3および図4に示すように、1枚の冷却シュラウド3は、第1の系統の液体窒素配管5aと第2の系統の液体窒素配管5bとを有している。液体窒素配管5aには、伝熱板3aが接触している。また、液体窒素配管5bには、伝熱板3bが接触している。液体窒素配管5aは、冷却シュラウド3の側端部60から中央部50に向かって、伝熱板3aの主表面に平行な面内において蛇行している。液体窒素配管5bは、冷却シュラウド3の側端部60から中央部50に向かって、伝熱板3bの主表面に平行な面内において蛇行している。
なお、図4に示すように、冷却シュラウド3の流入口6a(6b)は、フレーム2内に設けられた配管10a(10b)に接続されている。
また、液体窒素は、図4に示すように、供試体パネル4の外周部を囲むように設けられたフレーム2に沿うように設けられた配管10a(10b)内を流れる。その後、液体窒素は、伝熱板3a(3b)に設けられた液体窒素配管5a(5b)内へ流入する。
つまり、液体窒素は、図3において矢印で示すように、配管10a(10b)から流入口6a(6b)を介して液体窒素配管5a(5b)へ流れ込む。
前述のように、供試体パネル4を囲むフレーム2に沿うように設けられた配管10a(10b)内に液体窒素を流すことにより、真空チャンバ1内の全体が冷却され、供試体パネル4の温度をより低くする。なお、フレーム2の外周面には断熱材が設けられており、外部と真空チャンバ1とは、断熱材によって断熱されている。
なお、図4に示すユニットは、複数段重ねられたユニットのうち液体窒素が冷却シュラウド3の中央部50側から側端部60側へ向かって流れる段のユニットである。そのため、図4に示すユニットは、フレーム2に沿って液体窒素を循環させる配管10aおよび10bが設けられており、液体窒素はフレーム2の近傍を通過した後、冷却シュラウド3に流入する構成となる。
一方、図示はしていないが、図4に示す段の一段上のユニットおよび1段下のユニットにおいては、液体窒素は、まず冷却シュラウド3内を流れ、その後、フレーム2の近傍の配管内を流れる。
本実施の形態の熱真空試験装置において、図5に矢印で示すように、最上段の冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)においては、冷却シュラウド3の中央部50側から側端部60側へ向かって液体窒素が流れる。また、最上段の冷却シュラウド3とは供試体パネル4を介して設けられた最上段から2番目の冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)においては、冷却シュラウド3の側端部60側から中央部50側へ液体窒素が流れる。
つまり、複数段重ねられた冷却シュラウド3おいては、1段ずつ交互に、冷却シュラウド3の液体窒素の流れが逆転している。要するに、図5に示すように、複数段の冷却シュラウド3が積み重ねられた構造において、1段ごとに、図3に示す液体窒素の流入口6a,6bと流出口6c,6dとが入れ替わっている。したがって、図4に示すユニットの1段上の段のユニットおよび1段下のユニットのそれぞれは、図4に示すユニットに比較して、液体窒素の供給源から冷却シュラウド3までの経路がほぼ配管10a(10b)の分だけ短くなっている。
熱真空試験装置の使用開始直後においては、液体窒素温度よりも高い温度を有する冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)内に液体窒素が流れる。この状態においては、液体窒素配管5a(5b)内に液体窒素が存在すれば、冷却シュラウド3から液体窒素配管5a(5b)を介して液体窒素へ伝達される熱量は非常に大きい。そのため、短時間で液体窒素は蒸発または気化する。その結果、液体窒素配管5a(5b)の液体窒素の流入口6a(6b)の近傍の部分のみ温度が低下する。一方、液体窒素配管5a(5b)の液体窒素の流出口6c(6d)の近傍の部分においては、ほとんど熱交換が行なわれていないため、温度の変化は小さい。
たとえば、液体窒素が側端部60から中央部50へ向かって流れる冷却シュラウドのみを用いる場合、または、液体窒素が中央部50から側端部60へ向かって流れる冷却シュラウドのみを用いる場合を考える。これらの場合、液体窒素が各ユニットで同じ方向に流がれる。そのため、供試体パネル4は初期段階において供試体パネル4の一端のみが冷却されることになるため、温度のむらが生じることになる。これを防止するため、本実施の形態の熱真空試験装置においては、前述のユニットが複数段積み重ねられた構造において、液体窒素が流れる向きが1段ごとに互いに逆向きになっている。そのため、供試体パネル4の側端部40および中央部20の双方から供試体パネル4の冷却が開始される。その結果、供試体パネル4に発生する温度のむらの度合いを低減することができる。
より具体的に説明すると、本実施の形態の熱真空試験装置により得られる効果は次のようなものである。
液体窒素の温度よりも高い温度を有する液体窒素配管5a(5b)に液体窒素を流す場合、液体窒素配管5a(5b)内の液体窒素が存在する部分の熱伝達率は、10000〜30000W/m2/Kである。その値は、気体窒素の熱伝達率に比較して、非常に大きな値である。そのため、液体窒素配管5a(5b)は急激に冷却されるとともに、液体窒素配管5a(5b)内の液体窒素は、蒸発現象によって気体に変化する。一方、液体窒素配管5a(5b)の気体窒素が流れる部分の熱伝達率は、20〜100W/m2/Kである。そのため、気体窒素と接している部分の液体窒素配管5a(5b)は、熱交換量が極めて小さいため、あまり冷却されない。
また、液体窒素配管5a(5b)が液体窒素の温度まで冷却されると、液体窒素配管5a(5b)と液体窒素との間の熱交換が行なわれなくなる。このとき、液体窒素配管5a(5b)内の空間は、全体にわたって、液体窒素によって満たされている。
また、液体窒素配管5a(5b)において、液体窒素とほぼ同じ温度になっている部分と液体窒素の温度よりも高い温度を有するその他の部分との間の境界線は、流入口6a(6b)から流出口6c(6d)に向かって除々に移動していく。そのため、冷却シュラウド3の全体の冷却が完了するまでの間に、冷却シュラウド3には大きな温度のむらができる。また、供試体パネル4は冷却シュラウド3からの放射熱によって冷却される。そのため、冷却シュラウド3の温度のむらと供試体パネル4の温度のむらとは対応する。
そこで、本実施の形態の真空熱試験装置においては、供試体パネル4の上側の冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)内の液体窒素の流れの方向と、供試体パネル4の下側の冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)内の液体窒素の流れの方向とを、逆向きにする。その結果、供試体パネル4は、側端部40および中央部20の双方から冷却が開始される。したがって、冷却シュラウド3に生じる温度のむらの度合いが低減される。
なお、実施の形態1においては、1枚の冷却シュラウド3に2系統の配管が設けられている場合が示されているが、配管の系統数は、2系統に限定されるものではない。また、配管系統の数が増加すればするほど、冷却シュラウドの温度のむらがより低減される。
図6には、従来の熱真空試験装置を用いた場合の供試体パネルの表面の温度の分布のシミュレーション結果が示されている。つまり、それは、流入口6a,6bおよび流出口6c,6dが全ての段において同じ位置に設けられている熱真空試験装置を用いた場合の場合のシュミレーション結果である。
図7には、本実施の形態の熱真空試験装置を用いた場合の供試体パネルの表面の温度の分布のシミュレーション結果が示されている。つまり、それは、液体窒素の流入口6a,6bと流出口6c,6cとが1段ごとに入れ替わっている熱真空試験装置を用いた場合の供試体パネルの表面の温度の分布のシュミレーション結果である。
図6に示すように、従来の熱真空試験装置を用いた場合においては、液体窒素を供給開始してから13分後に供試体パネルの側端部40と中央部20とを結ぶ面内方向において、最大温度差が63Kとなっている。一方、図7の本実施の形態の熱真空試験装置を用いた場合においては、液体窒素の供給を開始してから33分後に供試体パネル4の側端部40と中央部20とを結ぶ面内方向において、最大温度差が19Kとなっている。
なお、供試体パネル4の一部(例えば側端部40)は、変温開始時において、次のような状況となる。
供試体パネル4の上側の冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)は、その側端部60側から液体窒素が供給される。そのため、供試体パネル4の側端部40は、その上面側から冷却され始める。このとき、供試体パネル4の下側の冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)は、その中央部50側から液体窒素が供給される。そのため、供試体パネル4の側端部40の下面側は冷却されていない。その結果、冷却シュラウド3の表面と裏面との間で温度差が生じる。しかしながら、シミュレーションの結果では、冷却シュラウド3の表面と裏面との間の温度差は、11Kであり、その値は、許容値に対して十分小さい値である。
なお、本実施の形態の冷却方法において、冷却シュラウド3の放射率コントロール等を行なっていない。そのため、供試体パネルの最終到達温度は、従来と同様の−175℃以下である。
実施の形態2.
次に、実施の形態2の熱真空試験装置を説明する。本実施の形態の熱真空試験装置の構造は、実施の形態1の真空試験装置と全く同様である。本実施の熱真空試験装置においては、液体窒素配管の流入口に液体窒素が流れ込むタイミングを制御する手段を有することのみが、実施の形態1の熱真空試験装置と異なる。
前述の実施の形態1の熱真空試験装置においても、図4に示すような、液体窒素が冷却シュラウド3の中央部50から側端部60に向かって流れる液体窒素配管5a(5b)が設けられている一の段の冷却シュラウド3が存在する。その一の段においては、液体窒素は、供試体パネル4の周囲のフレーム2内の配管10a(10b)を通った後に、冷却シュラウド3の液体窒素配管5a(5b)内に流れ込む。また、上述のように、液体窒素配管5a(5b)において、液体窒素の温度とほぼ同じ温度になっている部分と液体窒素の温度よりも高い温度を有するその他の部分との間の境界線が、流入口6a(6b)から流出口6c(6d)に向かって除々に移動していく。
前述のような熱真空試験装置において、一の段の冷却シュラウド3の中央部50の冷却開始時刻が、他の段の冷却シュラウド3の冷却開始時刻に比較して、液体窒素が配管10a(10b)を通過している時間分だけ遅れる場合がある。この場合には、複数段積み重ねられた冷却シュラウド3において1段ごとに交互に液体窒素の流れを逆にしたことの効果が低減される。
全ての段において図4に示す冷却シュラウド3へ流れ込む液体窒素の供給の開始を制御する弁8a(8b)を同時に開放しても、冷却シュラウド3に設けられた液体窒素配管5a(5b)の流入口6a(6b)に液体窒素が到達する時刻は、液体窒素の供給源から冷却シュラウド3に至るまでの配管の長さ等によって異なる。その結果、冷却シュラウド3が複数段積み重ねられた構造において、液体窒素が供給され始める時刻が、冷却シュラウド3同士の間で異なる場合がある。この場合には、複数段の冷却シュラウド3のうちの、一の段の冷却シュラウド3の中央部50と、一の段の上段または下段である他の段に位置する冷却シュラウド3の側端部60との間に温度差が生じる。
そこで、本実施の形態の熱真空試験装置の使用方法においては、事前に、前述の他の段の冷却シュラウド3の側端部60の冷却開始時刻に対する前述の一の段の冷却シュラウド3の中央部50の冷却開始時刻の遅れ時間を把握しておく。また、熱真空試験を行なうときには、前述の遅れ時間分だけ、前述の一の段の冷却シュラウド3の流入口6a(6b)に液体窒素が到達する時間と、前述の他の段の冷却シュラウド3の流入口6a(6b)に液体窒素が到達する時間とがほぼ同時になるように、一の段の冷却シュラウド3に液体窒素の供給を開始するための弁8a(8b)の開放時刻を、他の段の冷却シュラウド3に液体窒素の供給を開始するための弁8a(8b)の開放時刻よりも早くする。
逆に言うと、供試体パネル4の側端部40および中央部20のそれぞれの冷却開始時刻がほぼ同一になるように、図4に示す制御装置Mは、他の段の冷却シュラウド3の弁(図示せず:弁8aまたは8bのそれぞれに対応)の開放時間が、一の段の冷却シュラウド3の弁8a(8b)の開放時刻よりも遅くなるような制御を実行する。その結果、供試体パネル4に生じる温度のむらの度合いを小さくすることができる。
つまり、事前に複数段積み重ねられている冷却シュラウド3同士の間の冷却開始時刻の差を把握するとともに、複数段の冷却シュラウド3のそれぞれへの液体窒素の供給の開始を制御する弁8a(8b)の開放時刻を、制御装置Mにより複数段ごとに個別に制御する。それにより、複数段の冷却シュラウド3のそれぞれの液体窒素配管5a(5b)の流入口6a(6b)に液体窒素が到達する時間をほぼ同一にする。
前述の遅れ時間分の時間調整を自動的に行なわせる方法としては、図3に示すように、液体窒素の流入口6a(6b)の近傍に温度センサTa(Tb)を設置する手法が考えられる。
この手法においては、前述の一の段の冷却シュラウド3において、まず、液体窒素がフレーム2内の配管10a(10b)内を通過した後に液体窒素配管5a(5b)へ流入するように、制御装置Mは、弁8a(8b)を開放する制御を実行する。次に、制御装置Mは、一の段の冷却シュラウド3に設けられた温度センサTa(Tb)の温度が低下し始めたことを検出したときに、他の段の冷却シュラウド3に液体窒素を供給するための弁(図示せず)を開放する制御を実行する。
前述の手法を言い換えると次のようなものである。制御装置Mは、まず、一の段の冷却シュラウド3の弁8a(8b)を開放する。つまり、フレーム2に沿って設けられた配管10a(10b)に接続されている液体窒素配管5a(5b)の流入口5a(5b)の近傍の弁8a(8b)を開放する。これにより、供給源から配管10a(10b)を介して中央部50側に設けられた流入口6a(6b)に液体窒素が供給される。次に、制御装置Mは、一の段の流入口6a(6b)の近傍に設けられた温度センサTa(Tb)によって得られる温度を観察する。この観察中に、制御装置Mは、温度センサTa(Tb)のそれぞれの温度の値が低下し始めたことが検出されると、他の段の冷却シュラウド3の弁8a(8b)を開放する。これにより、他の段においては、供給源から側端部60側に設けられた流入口6a(6b)に液体窒素が供給される。その結果、一の段の冷却シュラウド3と他の段の冷却シュラウド3とにほぼ同時に液体窒素が供給される。この手法によっても、前述の手法を用いた場合の効果と同様の効果が得られる。
実施の形態3.
本実施の形態の熱真空試験装置の構造は、実施の形態1および2の熱真空試験装置の構造と全く同様である。本実施の形態においては、熱真空試験装置の制御方法のみが実施の形態2と異なっている。
一般に、液体配管内の空間に液体が存在している状態と液体配管内の空間が気体で満たされている状態とを、液体配管の温度の値によって判別することは困難である。また、液体窒素配管5a(5b)を冷却するという目的を達成できるという観点では、液体窒素が液体窒素配管5a(5b)内を満たしている状態において、さらに液体窒素配管5a(5b)内に液体窒素を供給してもよい。しかしながら、この場合、液体窒素が無駄に使用されるため、経済面での不利益が生じる。
一方、液体窒素配管5a(5b)が伝熱板3a(3b)から熱負荷を受けている状態で、液体窒素配管5a(5b)内に液体窒素が存在しなくなれば、すなわち、液体窒素配管5a(5b)内の液体窒素の全てが気体窒素に変化すれば、急激に液体窒素配管5a(5b)の温度が上昇するという現象が発生する。この現象が発生したときに、制御装置Mが図4に示す弁8a(8b)をより大きく開放する制御を実行すれば、最低限の液体窒素供給量で均一に冷却シュラウド3を冷却することが可能になる。
この手法を用いるためには、図3に示すように、液体窒素配管5a(5b)の流出口(6c(6d)の近傍に温度センサTc(Td)を設けることが必要である。この温度センサTa(Tb)により液体窒素配管5a(5b)の流出口6c(6d)の近傍を流れる液体窒素または気体窒素の温度が検出される。温度センサTc(Td)により検出された温度の値を示す検出信号は、図4に示す温度センサTc(Td)から制御装置Mへ送信される。
この手法においては、まず、液体窒素配管5a(5b)内の温度が、液体窒素の沸点よりも高い温度になっているか否かが、図3に示す液体窒素配管5a(5b)の流出口6c(6d)の近傍に設けられた温度センサTc(Td)によって検出される。温度センサTc(Td)によって検出された温度が液体窒素の沸点より高い温度であれば、制御装置Mは、液体窒素配管5a(5b)内の流出口6c(6d)の近傍が気体窒素で充満されている判定される。その場合には、制御装置Mは、図4に示す弁8a(8b)の開口をより大きくするための制御信号を弁8a(8b)へ送信する。それによって、液体窒素配管5a(5b)内への液体窒素の供給量がより大きくなる。
また、温度センサTc(Td)によって検出された温度が液体窒素の沸点、あるいは沸点以下であれば、制御装置Mによって液体窒素配管5a(5b)内の流出口6c(6d)の近傍に液体窒素が存在すると判定される。その場合には、制御装置Mが、図4に示す弁8a(8b)の開口をより小さくするための制御信号を弁8a(8b)へ送信する。それによって、液体窒素配管5a(5b)内への液体窒素の供給量がより小さくなる。
なお、流出口6c(6d)の液体窒素の温度が不安定であるため、温度センサTc(Td)を流出口6c(6d)側に設置する場合には、流出口6c(6d)側の冷却シュラウド3の外部の配管に温度センサTc(Td)を設けることが望ましい。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 真空チャンバ、2 フレーム、3 冷却シュラウド、3a,3b 伝熱板、4 供試体パネル、 5a,5b 液体窒素配管、6a,6b 流入口、8a,8b 弁、10a,10b 配管、20,50 中央部、40,60 側端部。