JP4093545B2 - 快削性の過共晶Al−Si系合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は快削性と耐磨耗性に優れた過共晶Al−Si系合金に関する。
なお、本発明において、「快削性」とは被削性(machinability)に優れることを意味する。
また、「超晶」とは「初晶」のことを意味する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、過共晶Al−Si系合金は、自動車エアコン用コンプレッサの斜板(swash plate)または自動車エンジンのシリンダブロック及びシリンダライナなどのように耐磨耗性が要求される用途に有用に用いられている。
また、自動車エアコン用コンプレッサの斜板の摩擦面には持続的に潤滑剤が供給されなければならないが、潤滑剤の供給が円滑でない場合は摩擦金属間で焼着現象(seizure)が発生するので、自動車エアコン用コンプレッサの斜板は耐磨耗性に優れた材質の金属が用いられる。
一方、自動車の軽量化のためには低比重の金属が求められるが、耐磨耗性に優れる低比重の金属であっても、被削性などの加工性に優れなければ、製造コストを上昇させることになる。鋳鉄や青銅などの金属は、耐磨耗性及び被削性には優れるが、比重が高いという問題があって、最近はAl系合金が多く用いられている。
【0003】
耐磨耗性に優れる、軽量化にも対応して加工性にも比較的に優れた従来の過共晶Al−Si系合金として代表的なものを次の表に示した。
この分野では、表1の組成からなる合金を「A390」合金と呼んでいる。
【0004】
【表1】
Figure 0004093545
【0005】
2種以上の金属からなる合金では、溶融状態又は固溶体状態で一つの金属に他の金属が溶解されて合致化合物(congruent compound)を成し得る金属の量は一定である。この際、合致化合物を形成した合金を「平衡状態にある合金」と言う。
合致化合物を形成する組成で成される合金を「共晶合金」(eutectic alloy)というが、これを合金の平衡状態図(equilibrium diagram)で表示すると、共晶合金は共晶点に位置する合金である。合金の平衡状態図において、共晶点の左側に位置する合金を「亜共晶合金」(hypo-eutectic alloy)といい、共晶点の右側に位置する合金を「過共晶合金」(hyper-eutectic alloy)という。
Al−Si系合金においては、Si含量12.5wt%のものが合致化合物に該当するが、一般にSi含量11〜13wt%のものを「共晶合金」といい、Si含量がそれより低いものを「亜共晶合金」といい、Si含量がそれより高いものを「過共晶合金」という。
【0006】
従来、この分野で代表的に用いられているA390過共晶合金は、自動車エアコン用コンプレッサの斜板に使用する場合、耐磨耗性を向上させるために表面に陽極酸化処理(anodizing)やSn鍍金処理のような表面処理を行なって使用しており、摩擦面への潤滑剤の供給が円滑でない場合、金属間焼着現象(seizure)が発生するだけでなく、切削加工性に良好でないため切削工具の磨耗率が非常に高く、製造コストが向上するという問題点がある。
従って、現状では、従来のA390合金に比べて被削性と耐磨耗性に一層優れる素材の開発が求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、快削性と耐磨耗性に優れ、熱処理過程によって高強度を保持することが可能な過共晶Al−Si系合金を提供することにある。
本発明者は、過共晶Al−Si系合金を組成するにあたり、Biとの反応性が大きいMg、Niの組成量を最小化した条件で、Al−Si−Cu−Bi系合金を組成することにより、従来の過共晶Al−Si系合金より快削性、耐磨耗性及び延性に優れており、且つ熱処理過程によって高強度を維持することが可能な過共晶Al−Si系合金が得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
従来の過共晶Al−Si系合金において、組成成分としてBiを含有する合金はなかった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係る快削性の過共晶Al−Si系合金は、次のとおりである。
(1) 過共晶Al−Si系合金において、Cu3.0〜5.0wt%、Si13〜17wt%、Fe0.2〜0.5wt%、Bi2.5〜6.0wt%、P0.005〜0.02wt%、その他の元素の合計が0.5wt%以下であり、残りがAlである快削性の過共晶Al−Si系合金。
(2) 過共晶Al−Si系合金において、Cu3.0〜5.0wt%、Si13〜17wt%、Fe0.2〜0.5wt%、Bi2.5〜6.0wt%、P0.005〜0.02wt%、Mg0.1wt%以下、Ni0.1wt%以下、Mn0.5wt%以下、その他の元素の合計が0.5wt%以下であり、残りがAlである快削性の過共晶Al−Si系合金。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明では、過共晶Al−Si系合金に適正量のCu、Bi、Fe、又はP成分を添加して合金を組成することにより、快削性及び耐磨耗性に優れると共に熱処理によって高強度を維持することが可能な過共晶Al−Si系合金が得られる。Biについて言えば、Al−Si合金においてBiを添加して合金を組成すると、金属間焼着現象を改善させることができると知られているが、次のような欠点があり、実用化には至っていなかった。
基体組織(base structure)内に均一に分散されたBi相は、切削加工中に発生するチップを細かく分離させて排出を容易にし、切削加工中に発生する熱によって切削面の表面に染み出て(bleeding現象)、切削面の潤滑作用を助けて加工面を滑らかにして、加工面の平滑度を向上させる。このため、切削加工を必要とするAl−Si系合金において、Biを構成成分とすると、金属間焼着現象を改善させることができると知られている。
【0010】
過共晶Al−Si系合金では、超晶Si相の微細化が要求される。本発明では、「微細化」(refinement)とは、もともと粗大で星状の超晶Si相を微細な球状の超晶Si相として均一に基体組織内に分散させることをいう。
ところが、過共晶Al−Si系合金において超晶Siを微細化するためには、CuP母合金を溶湯に含有させてAIP相への相変態(Phase Transformation)するようにしなければ、これらが超晶Siの微細化剤としての役割を果たすことができないが、アルミニウム合金の強化元素として知られたMg、Niが溶湯に含有されている場合、NiはPと反応してNiP化合物を形成してPの機能を低下させることにより、超晶Siの微細化を不可能とし、MgはBiと反応してMg3Bi2を形成してBiの機能を低下させる反応の結果、得られた不純物によって合金の機械的性質を低下させる。
【0011】
一般に合金は、組成成分として含有された金属間の金属結合で金属間化合物(intermetallic compound)を形成しなければ所望の物理的性質を示すことができないが、Bi相は、Alと金属間化合物を形成せず独立的に分布するため、Al −Si系合金組織内に均一に分布せず、偏析(segregation)及び粗大化を生ずる。これにより、Si相の微細化に寄与する元素の機能低下でSi相も粗大化してAl−Si系合金の機械的性質が低下するという問題があり、特にSi相の微細化の阻害でSiの添加量の制限を受けるので、合金の耐磨耗性を増大させるのに制限が伴う。
なお、ここでは、粗大化とは、超晶Siの粒子サイズが大きくて不均一に分布する状態を意味している。
このような理由で、Si含量が高くなければならなかった従来の過共晶Al−Si系合金では、Biを添加して合金を製造した例は未だなかった。
【0012】
本発明は、Al−Si系合金を組成するに際して、Cu、Bi、Fe又は、Pを適正量添加して合金を組成することにより、被削性及び耐磨耗性を改善し、熱処理によって強度を増進させることが可能な過共晶Al−Si系合金に関する。
Pは、Biと同族(周期率表上5b族)元素であって、Biとは互いに反応せず反応性の強いBiと反応せず超晶Si相を微細化させる特性を示すが、本発明における過共晶Al−Si系合金は、Biとの反応性の大きいSr、Ca、Naを使用することなく、MgとNiの組成量を最小化した条件下でPを構成成分として添加することにより、超晶Si相を微細化させることができる上に、Bi相の偏析と粗大化を改善してBiの組成量を増大させることができるため、Biの特性を最大限に生かす利点を持つ。
従って、本発明の過共晶Al−Si系合金は、Biの特性を豊富に備えることができるため、従来のA390合金に比べて優れた快削性と耐磨耗性を備えることができ、しかもPによって微細化された超晶Si相は切削加工中に切削工具の磨耗量を減少させ、基体組織に均一に分布したBi相は切削加工中に発生する切削片を細かく分離させて排出を容易にし、切削加工中に発生する熱によって低融点のBiが切削面に染み出て、切削加工中の潤滑作用を助けて切削面の平滑度を大幅向上させることができる。
【0013】
本発明の合金において、CuはCuAl2相を形成して熱処理過程によって高引張強度を維持できるようにする。Feは、2次樹枝状晶の枝と枝との間隔(Second Dendrite Arm Spacing)を減らして靭性を増加させる。本発明の合金は、従来のA390合金と同様に、陽極酸化処理やSn鍍金などの表面処理をしなくても、自動車エアコン用コンプレッサの斜板を製造するのが効果的である。
特に、Pは、Biとは反応を起こさず、Bi相をAl基体組織内に均一に分布させて比較的高い比重(9.8g/cm3)と低い融点(271℃)を有するBiが相対的に低い比重(2.7g/cm3)と高い融点(660℃)を有するAlの基体組織内で発生する偏析と不均一な分布による焼着現象による機械的性質の低下を防止して、従来の過共晶Al−Si系合金の欠点である低い延性を向上させることができる。
また、金属間摩擦の際、低融点のBiが摩擦表面の潤滑作用を助けて摩擦熱による金属間焼着現象を防止することができるため、耐磨耗性を増大させることができる。
【0014】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
Cu41.5kg、Si153kg、Fe33kg、Bi35kgを秤で計って溶解炉に投入した。これらの金属は、合金製造用高純度のものを使用し、超晶Siの微細化のためにP0.01wt%を含有させるために、Cu−P(8%)母合金を投入した。約700℃で3〜4時間加熱溶融させた後、連続鋳造工法を用いて直径80mmのビレット(billet)を得、分光分析器(spectrometer,モデル名OBLF,QSN750)を使用して成分を分析した結果、得られた合金が表2に記載の組成からなることを確認することができた。
【0015】
実施例1から得られたAl−Si系合金と従来のA390合金(対照)の組成比を比較すれば、次の表2の通りである。
【0016】
【表2】
Figure 0004093545
【0017】
次の表3は、実施例1から得られた本発明の合金と前記従来のA390合金をT6熱処理した後、機械的性質を対比して示したものである。
【0018】
【表3】
Figure 0004093545
【0019】
次の表4は、実施例1から得られたAl−Si系合金とA390合金で製造した自動車エアコン用斜板を万能試験機(モデル名TIRA.TT.27100)を用いて破断強度を試験した結果を示す。
【0020】
【表4】
Figure 0004093545
【0021】
<焼着試験>
自動車エアコン用コンプレッサに、実施例1から得られた合金で製造した斜板(注、何らの表面処理もしないもの)を装着したものと、従来のA390合金で製造された斜板(注、表面にSn鍍金処理をしたもの)を装着したものとの焼着現象を次のように比較実験した。
<実験条件>
コンプレッサの内部オイルを全部除去し、R134a冷媒(coolant)のみを供給しながらRPM1500で回転させて、ピストンに焼着現象が発生する時点を測定した。
その結果、A390合金は僅か9分後に焼着現象が現れたが、本発明の合金で製造された斜板(表面処理をしないもの)は、200時間経過するまで焼着現象が現れなかった。
【0022】
図1は、実施例1から得られた過共晶Al−Si系合金を光学顕微鏡でみた組織写真である。写真において黒点で表示される部分は、過共晶Al−Si系合金において超晶Si相を示す。図1によれば、合金の結晶粒子が均一に分布されている。これは超晶Si相の微細化が良好に行なわれたことを示す。
【0023】
図2は、実施例1から得られたAl−Si系合金においてBi相部分のみをエッチングして除去した後、光学顕微鏡でみた組織写真である。
図2ではBi相が基体組織内で均一に分布した後、エッチングで除去されたことを示している。
【0024】
図3は実施例1から得られた合金の切削片の状態を示す写真である。
これは500RPMで回転する切削工具を用いて切削した時に得られた切削片である。ここでは切削片が細かく分離されて排出されたことを確認させるもので、この切削片は平均1.3μmの粗度を有し、切削面の平滑度が非常に優れることを示す。
【0025】
図4は、A390合金の切削片の状態を示す写真である。500RPMで回転する切削工具を用いて切削した時に得られた切削片である。
切削片が細かく分離されないで連続的な状態を維持していることを示しており、この切削片の粗度は平均2.3μmであった。
このことは切削面の平滑度が本発明の合金に比べて劣ることを示す。
【0026】
本発明者は、実施例1から得られた合金の各構成成分の組成を一定の範囲内で増減させる一方、実施例1の方法で類似した組成の合金を製造してみた結果、Cu3.0〜5.0wt%、Si13.0〜17.0wt%、Fe0.2〜0.5wt%、Bi2.5〜6.0wt%、P0.005〜0.02wt%、Mg0.1wt%以下、Ni0.1wt%以下、Mn0.5wt%以下、その他の元素の合計が0.5wt%以下であり、残りがAlの場合、実施例1から得られたAl−Si系合金と極めて類似した機械的強度と優れた延伸率を有する過共晶Al−Si系合金が得られることを確認することができた。
【0027】
【発明の効果】
本発明の過共晶Al−Si系合金は、被削性に優れて切削作業を容易にするだけでなく、切削工具の寿命を延長させると共に切削加工面の平滑度を向上させることができるという利点がある。また、従来のA390合金と類似した破断強度、引張強度、降伏強度、硬度などの機械的性質を維持しながらも、延伸率及び耐磨耗性に優れて、陽極酸化処理やSn鍍金などの表面処理をしなくても、自動車エアコン用コンプレッサの斜板のような耐磨耗性が要求される用途に使用することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1から得られた過共晶Al−Si系合金を光学顕微鏡でみた組織写真
【図2】実施例1から得られたAl−Si系合金のBi相部分のみをエッチングして除去した後光学顕微鏡でみた組織写真
【図3】実施例1から得られた合金の切削片の状態を示す写真
【図4】A390合金の切削片の状態を示す写真

Claims (2)

  1. Cu3.0〜5.0wt%、Si13〜17wt%、Fe0.2〜0.5wt%、Bi2.5〜6.0wt%、P0.005〜0.02wt%であり、残りがAlからなり、基体組織内に微細な球状の初晶Si相が均一に分散しているとともに、Bi相が均一に分布していることを特徴とする快削性の過共晶Al−Si系合金から作成された自動車エアコン用コンプレッサの斜板、自動車用エンジンのシリンダブロック又は自動車用エンジンのシリンダライナから選ばれた製品。
  2. Cu3.0〜5.0wt%、Si13〜17wt%、Fe0.2〜0.5wt%、Bi2.5〜6.0wt%、P0.005〜0.02wt%、Mg0.1wt%以下、Ni0.1wt%以下、Mn0.5wt%以下であり、残りがAlからなり、基体組織内に微細な球状の初晶Si相が均一に分散しているとともに、Bi相が均一に分布していることを特徴とする快削性の過共晶Al−Si系合金から作成された自動車エアコン用コンプレッサの斜板、自動車用エンジンのシリンダブロック又は自動車用エンジンのシリンダライナから選ばれた製品。
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