以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る試料形成装置1の構成を示すブロック図である。試料形成装置1は、試料を掘削して形成するためのグロー放電を発生させるグロー放電管2、試料を保持する試料ホルダ3、グロー放電を発生させるために印加する電圧に係る電力生成を行う電源部4、及び装置の全体的な制御を行うコンピュータ7を備えている。電源部4は交流電源AC(本実施形態では220V)に接続されて高周波電力を生成するジェネレータ6及びマッチングボックス5を備えており、ジェネレータ6及びマッチングボックス5は夫々にコンピュータ7に接続されている。試料ホルダ3は、試料に電圧を印加するための発振子30と、グロー放電によって発生して試料を貫通したイオンを検出するイオンセンサ32とを内部に備えており、イオンセンサ32はコントローラ31に接続され、コントローラ31はコンピュータ7に接続されている。イオンセンサ32及びコントローラ31は、本発明に係る測定手段に対応する。
更に試料形成装置1は、グロー放電管2の内部を真空引きする真空引き装置8を備え、真空引きした後にグロー放電管2の内部にアルゴンガス(不活性ガス)を供給するためのガス供給調整部9及びガス供給源10を備えている。ガス供給源10はアルゴンガスを充填したボンベが相当する。ガス供給源10からグロー放電管2まで、アルゴンガスを供給するための配管が配置されており、ガス供給調整部9はガス供給源10からグロー放電管2までの配管の途中に設けられている。ガス供給調整部9は、ガス供給源10からグロー放電管2へ供給されるアルゴンガスの流量を調整するための電磁弁を具備している。またガス供給調整部9からグロー放電管2までの配管には、グロー放電管2内でのアルゴンガスの圧力を測定する圧力センサ91が設けられている。ガス供給調整部9及び圧力センサ91は、コンピュータ7に接続されており、圧力センサ91が測定する圧力に基づいてガス供給調整部9の電磁弁の動作をコンピュータ7が制御することにより、アルゴンガスの流量を調整してグロー放電管2内でのアルゴンガスの圧力を調整する構成となっている。ガス供給源10、ガス供給調整部9及び圧力センサ91は、本発明に係る圧力調整手段に対応する。
またコンピュータ7は、ジェネレータ6から延在する第1接続コードL1及びマッチングボックス5から延在する第2接続コードL2が接続されるインタフェース基板7bを備えている。インタフェース基板7bは、CPU7a、外部接続部7c、RAM7d、ROM7e、及びハードディスク装置7fが接続された内部バス7gに接続されている。また内部バス7gにはモニタ接続線L3を介してモニタ部7hが接続されている。
外部接続部7cは外部機器の接続用であり、本実施形態では、イオンセンサ32のコントローラ31、圧力センサ91、及びガス供給調整部9が接続されている。また、RAM7dはCPU7aが行う各種の制御処理に伴うデータ等を一時的に記憶し、ROM7eはCPU7aが行う基本的な処理内容を規定したプログラム等を予め記憶しており、ハードディスク装置7fはCPU7aが行う試料を形成する処理に関連する制御内容を規定した試料形成プログラム21等を記憶している。CPU7aは、必要に応じて試料形成プログラム21をハードディスク装置7fからRAM7dへロードし、RAM7dへロードした試料形成プログラム21に従って、インタフェース基板7bを介してマッチングボックス5及びジェネレータ6の動作を制御する処理を行う。またCPU7aは、図示しないキーボード又はマウス等の入力部に入力された指示に基づき各種の設定及び制御を行う。
図2は、実施の形態1に係るグロー放電管2及び試料ホルダ3の内部構成を示す断面図である。グロー放電管2は短円柱状のランプボディ11、電極12、セラミックス部材13、及び押圧ブロック15が組み合わされて構成されている。
ランプボディ11は、押圧ブロック15が組み合わされる端面11aの中心箇所に電極12を取り付けるための窪部11bを凹設すると共に、窪部11bの中心部に中心孔11cを穿設している。また、ランプボディ11は、周壁部11dから中心へ向けて真空引き用の吸引孔11e、11fを複数設け、一部の吸引孔11eは中心孔11cと連通させると共に、他の吸引孔11fは窪部11b側に連通させている。さらに、ランプボディ11は、周壁部11dから中心へ向けて不活性ガスの供給用のガス供給孔11gを中心孔11cと連通するように形成している。
ランプボディ11の窪部11bに収められる電極12は、円板部12aの中心から円筒部(端部)12bを突出した形状にしており、円筒部12bの内部から円板部12aを貫通する貫通孔12cを穿設している。また、円板部12aにも穴12dが形成されている。電極12は、ランプボディ11の窪部11bに取り付けられると、ランプボディ11を介してアース電位になる。なお、電極12が収められた状態でランプボディ11の中心孔11c及び電極12の貫通孔12cの密閉性を維持するために第1オーリング16がランプボディ11及び電極12の間に取り付けられている。
電極12を被うように配置されるセラミックス部材13は、厚みのある円板状の部材であり、電極12の円板部12aを被う突出したフランジ部13dを有すると共に、中心となる箇所には、電極12の円筒部12bを挿通させる挿通孔13cを形成している。また、セラミックス部材13は表出する側の端面13aにオーリング装着用のリング溝13bを凹設している。セラミックス部材13は、耐熱性の第1絶縁体17を介して電極12の円板部12aに対して配置され、配置された状態では、セラミックス部材13の挿通孔13cと電極12の円筒部12bとの間に所定の隙間が形成され、円筒部12aの先端12eはセラミックス部材13の端面13aより突出しないようになっている。なお、第1絶縁体17と電極12の円板部12aとの間にも密閉性維持のために第2オーリング18が取り付けられている。
電極12及びセラミックス部材13をランプボディ11に固定するための押圧ブロック15は、環状の部材であり、内周縁側の突出部15aでセラミックス部材13のフランジ部13dをランプボディ11側へ押圧するようにしている。なお、押圧ブロック15自体は、ボルトによりランプボディ11の端面11aに取り付けられる。また、押圧ブロック15の突出部15aと、セラミックス部材13のフランジ部13dとの間にも耐熱性の第2絶縁体19を介在させている。
試料ホルダ3は、開口面を有する直方体状又は有底円筒状に形成された箱部33内に発振子30及びイオンセンサ32が配置されて構成されている。箱部33は開口面を上面とし、板状に形成された発振子30が箱部33の底面に略平行に配置されている。発振子30の上面は、機械的又は化学的に研磨されて薄片状に形成された試料Sを載置可能であり、試料Sの載置台として機能する。板状に形成された発振子30の中央及び箱部33の底面には共に貫通孔が形成されており、この貫通孔内にイオンセンサ32が配置されている。イオンセンサ32は、発振子30上に試料Sが載置された場合にイオンの検出面が試料Sに対向するように、イオンの検出面が発振子30の貫通孔の位置に配置されている。発振子30は箱部33を貫通した電源線により電源部4に接続されており、イオンセンサ32はコントローラ31に接続されている。イオンセンサ32が配置された箱部33の貫通孔、及び発振子30の電源線が貫通した箱部33の貫通部分には、シーリングが施されており、開口面を塞ぐことによって箱部33内の気密を保つことができる構成となっている。
試料ホルダ3は、発振子30に試料Sが載置された状態で、セラミックス部材13の端面13aに取り付けられた第3オーリング20に箱部33の側面部分が当接するように配置される。このときにイオンセンサ32の検出面及び発振子30に載置された試料Sが電極12の円筒部12aの先端12eに対向するように、発振子30及びイオンセンサ32の試料ホルダ3内での位置が定められている。より具体的には、電極12の円筒部12bに穿設された貫通孔12cの内径は、2〜8mm、標準では4mmに形成されている。また本実施の形態においては、電極12の円筒部12aの先端12eと先端12eに対向する試料Sとの間隔が0.15mmになるように試料ホルダ3が構成されている。この状態でグロー放電管2内にアルゴンガスを導入した後、電極12aと試料Sとの間に数百Vの電圧を印加すると、放電プラズマが生起することとなる。
またランプボディ11の各吸引孔11e、11fは図1に示す真空引き装置8と配管で接続されており、ガス供給孔11gは配管でガス供給調整部9と接続されている。箱部33の側面部分が第3オーリング20に当接するように配置された状態で真空引き装置8が真空引きを行うと、各吸引孔11e、11f、中心孔11c、電極12の貫通孔12c、及び箱部33内が真空にされる。この状態でガス供給調整部9がアルゴンガスの供給を開始すると、ガス供給孔11g、中心孔11c、電極12の貫通孔12c及び箱部33内がアルゴンガスで満たされる。
図3は、電源部4を構成するジェネレータ6の内部構成を示すブロック図である。ジェネレータ6は、高周波電力生成部6a、制御部6b及び電力計測部6cを具備する。高周波電力生成部6aは交流電源ACと接続されて高周波の交流電圧を試料S及び電極12の間に印加できるように高周波電力を生成する。また、高周波電力生成部6aは第1内部接続線6dにより制御部6bと接続されており、制御部6bの制御により高周波電力に係る出力モード及び電力値等を調整する。なお、本実施形態の高周波電力生成部6aは13.56MHzの高周波電圧からなる電力を生成している。制御部6bはIC(集積回路)で構成されており、第1接続コードL1を通じてコンピュータ7と接続されている。制御部6bは、コンピュータ7から出力される各種信号に基づいて高周波電力生成部6aの出力を制御する構成となっている。
電力計測部6cは、第2及び第3内部接続線6e、6fにより制御部6b及び高周波電力生成部6aと接続されている。電力計測部6cは、高周波電力生成部6aで生成されて発振子30へ供給される高周波電力の進行波の電力値である出力値Pfを検出すると共に、試料Sから反射して戻ってくる反射波の電力値である反射値Prを検出し、検出した値を制御部6bへ伝送する構成となっている。
制御部6bは、高周波電力の出力を制御する方法として、2種類の出力モードを切り替えることが可能である。一方の出力モードは、所定の時間内、連続して所定の高周波電力を出力して試料S及び電極の間に連続的な高周波電圧の印加を行うモードであり、以下、このモードを連続モードと言う。また他方の出力モードは、所定の時間内、パルス的に所定の高周波電力を出力して試料S及び電極12の間に断続的な高周波電圧の印加を行うモードであり、以下、このモードを断続モードと言う。
制御部6bは、コンピュータ7から出力される信号に基づいて連続モードと断続モードとを切り替える処理を実行し、断続モードでは内部のICでパルス的な処理を行うことで電力供給及び電力供給休止を交互に行う。また制御部6bは、単位時間当たりの給電回数に相当する給電周波数、断続モードにおいて給電を行っている時間の割合を示すデューティ比、及び給電の電力値を調整可能である。給電周波数の変更に関して、制御部6bは、約30Hz〜約30000Hzの範囲で給電周波数を調整可能であり、給電周波数が変更されるとパルス的な給電の時間間隔が変化する。
また、試料Sの掘削が進行するにつれて、試料Sと電極12の先端12eとの距離が長くなり、試料Sに係るインピーダンス値が随時変化するので、制御部6bは、断続モードにおけるインピーダンス値変化に対する調整処理をも実行する。具体的には、制御部6bは、前述の出力値Pf及び反射値Prを電力計測部6cから伝送され、出力値Pfと反射値Prとの差を演算し、演算した差に基づいて出力値Pfを変更する制御を行う。なお、制御部6bは、出力値Pfと反射値Prとの差(Pf−Pr)が一定となるように出力値Pfを調整しており、本実施形態では演算した差(Pf−Pr)がコンピュータ7から伝送されてきた基準電力値と同等となるように高周波電力生成部6aで生成される出力値Pfを制御部6bが内蔵するICのソフト的な処理で調整する。
このように制御部6bがソフト的な調整を行うことで、断続モードでの試料Sのインピーダンス値の変化に対応して適切な給電を行える。なお、制御部6bが試料Sのインピーダンス値の変化に対応した調整を行うのは断続モードの場合であり、連続モードでは後述するようにマッチングボックス5が調整を行う。
図4は、電源部4を構成するマッチングボックス5の内部構成を示すブロック図である。マッチングボックス5は、連続モードにおいてジェネレータ6で生成された高周波電力の出力形態を調整する可変コンデンサ5a、可変コンデンサ5aの電気容量を調整するモータ5b、モータ5bの駆動等の制御を行うコンデンサ制御部5cを具備する。可変コンデンサ5aはモータ5bの駆動に応じて自身の電気容量を変更可能であり、電気容量の変更によりモジュール及びフェーズが調節される。
コンデンサ制御部5cは、第2接続コードL2によりコンピュータ7と接続されており、コンピュータ7からマッチングボックス5へ伝送される断続モードの設定の通知信号に基づいてモータ5bの駆動を制御する。具体的には、断続モードの通知信号を受け付けた場合、コンデンサ制御部5cは、可変コンデンサ5aの電気容量が一定に固定されるようにモータ5bを一定の状態に維持する制御を行う。よって、断続モードではマッチングボックス5で高周波電力のモジュール及びフェーズは調整されない。また、断続モードの通知信号を受け付けない場合、即ち、連続モードが設定された場合は、コンデンサ制御部5cは、試料Sからの反射値Prが最小となるようにモータ5bの駆動を制御して可変コンデンサ5aの電気容量を変更する制御を行う。なお、反射値Prが最小であれば、コンデンサ制御部5cは可変コンデンサ5aの電気容量を変更する制御は行わない。
次に、上述の如き構成でなる試料形成装置1が実行する処理を説明する。試料形成装置1は、グロー放電を発生させて試料Sを掘削することにより、機械的又は化学的な方法で100μm程度の厚みを有するように研磨された薄片状の試料Sを、TEMで測定するために適切な数百nm等の厚みを有するように形成する。コンピュータ7のCPU7aは、試料形成プログラム21に従って、試料Sを形成するための条件を制御する処理を行う。
試料形成プログラム21は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件、及び試料Sに印加する電力の条件を複数種類規定してある。具体的には、電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値、断続モードでの供給周波数、又はデューティ比等の電力の条件を制御することで、試料Sが掘削される速度を調整することができる。このように機能することで、コンピュータ7及び電源部4は、本発明に係る掘削速度調整手段に対応する。また試料形成プログラム21は、試料Sの掘削速度を調整するために、高速での掘削を継続できる時間の長さを試料Sの材質に応じて規定している。柔らかく掘削が容易な試料Sについては高速での掘削を継続できる時間の長さは短くなり、掘削がより困難な試料については高速での掘削を継続できる時間の長さはより長くなる。また試料形成プログラム21は、試料Sの厚みがTEMで測定するために適切な目標値になった場合にイオンセンサ32が検出するアルゴンイオンの検出量を規定してある。
図5は、実施の形態1に係る試料形成装置1が実行する処理の手順を示すフローチャートである。コンピュータ7のCPU7aは、試料形成プログラム21に従って以下の処理を実行する。コンピュータ7は、試料Sの材質又は形成前の厚み等の試料形成に必要な情報を、図示しないキーボード又はマウス等の入力部を用いて使用者の操作により入力される。CPU7aは、試料Sを掘削する速度が高速となるように、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件を設定し、電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値、供給周波数又はデューティ比の条件を設定する(S11)。グロー放電管2の内部を真空引き装置8で真空引きしてから、ガス供給源10がグロー放電管2の内部へアルゴンガスを供給し、CPU7aに設定された条件で電源部4が発振子30へ高周波電圧を供給することによって、グロー放電管2内の電極12と発振子30に載置された試料Sとの間でグロー放電が発生し、試料Sの掘削が開始される(S12)。
グロー放電管2の内部にアルゴンガスが供給される状態では、電極12と発振子30に載置された試料Sとの間の空間には、十分なアルゴンガスが随時供給され、アルゴンガスの雰囲気中で発振子30に高周波電圧が電源部4から供給されることで、電極12及び試料Sの間に電圧が印加され、電極12と試料Sとの間でグロー放電が発生する。グロー放電が発生することにより、アルゴンガスに含まれるアルゴンイオンが試料Sの電極12に対向した表面に衝突し、スパッタリングが発生する。このスパッタリングでのアルゴンイオンの衝突により、試料Sの電極12に対向した表面では、電極12の先端12eの大きさに応じた所定の面積が掘削される。
コンピュータ7は、圧力センサ91が測定したグロー放電管2内でのアルゴンガスの圧力の値を外部接続部7cで受け付ける。CPU7aは、圧力センサ91から受け付けた圧力の値に基づいて、外部接続部7cからガス供給調整部9へ制御信号を送信してガス供給調整部9の動作を制御し、グロー放電管2へ供給するアルゴンガスの流量を調整して、グロー放電管2内でのアルゴンガスの圧力を所定範囲内に納めるように調整する処理を行う。また同時にコンピュータ7は、試料Sの掘削を開始してから経過した時間を計測する処理を行う。試料Sの掘削を開始してから時間がより経過するほど掘削が進行して試料Sの厚みはより小となるので、試料Sの掘削を開始してから経過した時間は試料Sの厚みに対応する物理量である。
CPU7aは、試料Sを掘削するための処理を実行しながら、試料Sの掘削を開始してから経過した時間を計測し、試料Sの材質に応じた所定時間が試料Sの掘削を開始してから経過したか否かを判定する(S13)。まだ所定時間が経過していない場合は(S13:NO)、CPU7aは、条件を保持して試料Sを掘削するための処理を実行し続ける。試料Sの掘削を開始してから所定時間が経過した場合は(S13:YES)、CPU7aは、試料Sを掘削する速度が低速となるように、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件を変更し、電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値、供給周波数又はデューティ比の条件を変更する(S14)。CPU7aは、アルゴンガスの圧力及び電力を、低速で試料Sを掘削するための変更後の条件に調整しながら、試料Sを掘削するための処理を実行する。
イオンセンサ32は、試料Sを貫通したアルゴンイオンを検出する。通常の状態では、アルゴンイオンは試料Sを貫通できないので、イオンセンサ32はアルゴンイオンを検出できない。試料Sの掘削が進行して試料Sの掘削された部分の厚みが小となって貫通寸前の状態になると、試料Sの部分的に特に薄くなった部分に亀裂又はピンホールが生じることになる。亀裂又はピンホールが生じた場合は、亀裂又はピンホールをアルゴンイオンが通過することによってアルゴンイオンが試料Sを厚み方向に貫通し、イオンセンサ32はアルゴンイオンを検出できるようになる。試料Sの掘削がより進行して試料Sの掘削された部分の厚みがより小となると、亀裂又はピンホールが拡大又は増大し、より多くのアルゴンイオンが試料Sを貫通し、イオンセンサ32が検出する単位時間当たりのアルゴンイオンの検出量は増大する。即ち、試料Sを貫通するアルゴンイオンの量は試料Sの厚みに対応する物理量であり、イオンセンサ32が検出する単位時間当たりのアルゴンイオンの検出量に基づいて試料Sの厚みを判定することができる。コンピュータ7は、イオンセンサ32が検出したアルゴンイオンの検出に係る情報を、イオンセンサ32のコントローラ31から外部接続部7cで受け付ける。
CPU7aは、試料Sを掘削するための処理を実行しながら、イオンセンサ32が検出したアルゴンイオンの検出に係る情報に基づいて、イオンセンサ32が検出する単位時間当たりのアルゴンイオンの検出量が、試料Sの厚みの目標値に対応する所定値になったか否かを判定する(S15)。イオンセンサ32が検出する単位時間当たりのアルゴンイオンの検出量がまだ所定値に達していない場合は(S15:NO)、CPU7aは、条件を保持して試料Sを掘削するための処理を実行し続ける。イオンセンサ32が検出する単位時間当たりのアルゴンイオンの検出量が所定値となった場合は(S15:YES)、CPU7aは、電源部4に高周波電圧の供給を停止させることによって、試料Sの掘削を停止し(S16)、処理を終了する。
図6は、掘削される試料Sの形状を示す断面図である。図6(a)は掘削開始前の試料Sを示し、電極12の先端12eに試料Sが対向している。グロー放電により、電極12から試料Sへアルゴンイオンが衝突して試料Sが掘削される。図6(b)は掘削を開始してから所定時間が経過するまでの試料Sを示す。グロー放電が発生させるアルゴンイオンのスパッタリングにより試料Sが掘削されており、試料Sの掘削される領域と掘削されない領域との境界部分は、イオンが集中することによって掘削がより速く進行する。このように、電極12の先端12eの大きさに応じた試料Sの所定の面積が掘削され、イオンビームを用いる従来の方法に比べて、試料Sの表面を荒らさずにTEM用に試料Sを形成することができる。また発振子30に供給する高周波電圧のデューティ比を向上させる等の方法により高速度で試料Sの掘削ができるので、イオンビームを用いる従来の方法に比べて、TEMで測定するために十分広い領域をより短時間で掘削して試料Sを形成することが可能となる。
図6(c)は本発明による形成が終了した試料Sを示す。掘削の速度が高速度のままで試料の掘削を継続した場合は、掘削によって試料Sが完全に貫通する危険性があるので、試料Sの厚みを適切な量に形成することは困難である。そこで、掘削の開始から経過した時間に応じて掘削の速度を段階的に低下させることにより、掘削によって試料Sが完全に貫通する前に掘削を停止することが容易となる。試料Sの厚みに対応する測定量に基づいて掘削を停止する処理を行うことにより、試料Sの厚みをTEMで測定するための適切な量に調整することが可能となり、図6(c)に示す如く、試料Sはほぼ一様な厚みの形状に形成される。このように試料Sを一様に薄く形成することにより、TEMで測定可能な領域を十分に広く確保することができる。
以上詳述した如く、本発明の試料形成装置1は、グロー放電を用いることにより、従来のイオンビームを用いる方法よりも試料Sの広い領域を短時間で掘削し、TEMで観測可能な形状に試料Sを形成する。試料形成装置1は、試料Sの厚みに対応した物理量を測定しながら試料Sの掘削を行い、最初は高速で試料Sを掘削し、試料Sの厚みに対応する経過時間に応じて段階的に掘削の速度を低下させる。これにより、短時間で試料Sを掘削することが可能となり、しかも、試料Sの厚みが目標値に近くなった状態では掘削の速度が低下し、試料Sの厚みに対応した物理量が目標値に対応する値となった時点で試料Sの掘削を停止して、TEMで観測可能な所望の厚みを有するように試料Sを形成することが可能となる。また本実施の形態の試料形成装置1は、試料Sの掘削が進行して試料Sが貫通寸前の状態で亀裂又はピンホールを通過して試料Sを貫通するアルゴンイオンをイオンセンサ32で検出し、アルゴンイオンの検出量に対応して試料Sの厚みを判定する。試料Sの厚みがより小となって亀裂又はピンホールが拡大又は増大して試料Sを貫通するアルゴンイオンの量が増大する様子は、試料Sの材質を変更しても大幅に変化することはないので、試料Sを貫通するアルゴンイオンの検出量に基づいて試料Sの厚みを判定することにより、どのような材質の試料Sに対してもTEMで観測可能な所望の厚みを有するように形成することが可能となる。
なお、本実施の形態においては、試料Sの厚みの目標値、アルゴンガスの圧力、電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値、供給周波数又はデューティ比等の試料形成に係る各種の条件は、CPU7aが試料形成プログラム21に従って自動で設定する処理を示したが、本発明の試料形成装置1は、一部又は全部の条件を自由に設定可能な形態であってもよい。例えば、コンピュータ7は、各種の条件を設定するための設定画面をモニタ部7hに表示し、図示しないキーボード又はマウス等の入力部に入力された指示に応じて各種の条件を設定する形態であってもよい。また本実施の形態においては、試料形成装置1は、試料Sの掘削中に掘削の速度を一段階低下させる形態を示したが、これに限るものではなく、二段階以上のより多段階に掘削の速度を低下させる処理を行う形態であってもよい。
なお、本実施の形態においては、試料Sの厚みに対応する量として、試料Sの掘削の速度を調整する段階では、試料Sの掘削を開始してから経過した時間を計測し、試料Sの厚みが目標値になった時点で試料Sの掘削を停止するために試料Sの厚みを判定する段階では、試料Sを貫通するアルゴンイオンの量を測定する形態を示したが、本発明の形態はこれに限るものではない。例えば、試料形成装置1は、アルゴンイオンを検出するイオンセンサ32を用いずに、掘削前の試料Sの厚みを予め測定しておき、試料Sの掘削を開始してから経過した時間に基づいて、試料Sの掘削を停止するために試料Sの厚みを判定する処理をも実行する形態であってもよい。この形態においても、試料形成装置1は、アルゴンイオンの検出量に代えて試料Sの掘削が開始されてから経過した時間を用いることで、図5のフローチャートに示した処理と同等の処理を実行して、TEMで観測可能な形状に試料Sを形成することができる。また試料形成装置1は、試料Sの掘削の速度を調整する処理を行わずに、ほぼ一定の速度で試料Sを掘削し、試料Sの掘削を開始してから経過した時間又はイオンセンサ32が検出するアルゴンイオンの検出量に基づいて、試料Sの掘削を停止するために試料Sの厚みを判定する処理のみ実行する形態であってもよい。
また本発明の試料形成装置1は、イオンセンサ32の代わりに光センサを備え、グロー放電に伴って発生して試料Sを貫通した光を光センサで検出し、光センサが検出した光量に基づいて試料Sの厚みを判定する処理を行う形態であってもよい。また本発明の試料形成装置1は、光センサとして特定の波長の光を検出する光センサを備え、試料Sに対して特定の波長の光を照射する照射手段をグロー放電管2内に備え、照射手段から試料Sに照射されて試料Sを貫通した光を光センサで検出することで試料Sの厚みを判定する処理を行う形態であってもよい。試料Sを貫通する光を検出する形態では、通常の状態では光が試料Sを貫通しないので光を検出することはできず、試料Sの掘削が進行して試料Sがある程度以上薄くなった状態では、光が試料Sを透過するか又は試料Sに生じた亀裂若しくはピンホールを光が通過することにより、光が試料Sを貫通して光の検出が可能になる。光の透過量又は波長等の光の貫通特性は試料Sの材質によって異なるが、試料Sの厚みの変化と光の検出量の変化との対応関係を試料Sの材質に応じて調整することで、光センサで検出した光の検出量から試料Sの厚みを判定することができる。従って、この形態においても、試料形成装置1は、アルゴンイオンの検出量に代えて光の検出量を用いることで、図5のフローチャートに示した処理と同等の処理を実行して、TEMで観測可能な形状に試料Sを形成することができる。
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2に係る試料形成装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態においては、実施の形態1で用いたイオンセンサ32を用いずに、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力に応じた制御を行う形態を示す。図8は、実施の形態2に係るグロー放電管2の内部構成を示す断面図である。本実施の形態では、実施の形態1で用いた試料ホルダ3を用いることなく、薄片状に形成された試料Sは、セラミックス部材13の端面13aに取り付けられた第3オーリング20に試料Sの表面が当接するように試料Sが配置される。さらに、この状態で試料Sの裏面は発振子30が押し当てられて試料Sがグロー放電管2側へ押圧される。これにより試料Sの表面と電極12の円筒部12bの先端12eとが対向し、試料Sの表面と電極12の先端12eとの間の空間は第3オーリング20で囲われてグロー放電管2内と共に真空引きされてグロー放電が可能な空間となる。このようにして、本実施の形態では、グロー放電が発生する空間であるグロー放電管2内が試料Sの厚みによって封止される構成となる。発振子30は電源部4と接続されており、また、図示しない所定の係止手段で試料Sを最適な押圧力でグロー放電管2へ押圧している。試料形成装置1のその他の構成は実施の形態1と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
以上の構成の試料形成装置1は、グロー放電管2の内部を真空引き装置8で真空引きしてから、ガス供給源10がグロー放電管2の内部へアルゴンガスを供給し、CPU7aに設定された条件で電源部4が発振子30へ高周波電圧を供給することによって、電極12と試料Sとの間でグロー放電が発生し、試料Sの掘削が開始される。グロー放電管2内が試料Sの厚みによって封止されているので、試料Sの掘削が進行して試料Sの厚みが小となって貫通寸前の状態になると、試料Sに生じた亀裂又はピンホールによってグロー放電管2内の気密が破れ、圧力センサ91が測定するグロー放電管2内の圧力が変動する。即ち、圧力センサ91が測定するグロー放電管2内の圧力の変動の大きさは試料Sの厚みに対応する物理量であり、圧力センサ91が測定する圧力の変動の大きさに基づいて試料Sの厚みを判定することができる。このようにして、本実施の形態における圧力センサ91は本発明に係る測定手段に対応する。コンピュータ7は、圧力センサ91が測定した圧力に係る情報を外部接続部7cで受け付け、圧力の変動の大きさに基づいた処理を実行可能である。従って、本実施の形態においても、試料形成装置1は、アルゴンイオンの検出量に代えて圧力センサ91が測定する圧力の変動の大きさを用いることで、試料Sの厚みが目標値になった時点で試料Sの掘削を停止するために試料Sの厚みを判定する処理を行い、図5のフローチャートに示した処理と同等の処理を実行して、TEMで観測可能な形状に試料Sを形成することが可能である。
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3に係る試料形成装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態においては、試料Sの厚みを判定するためにレーザーを用いて試料Sの掘削量を測定する距離センサ34を用い、更にグロー放電管2内の圧力を調整することによって試料Sの形状を調整する処理を行う形態を示す。試料形成装置1は、グロー放電管2を挟んで試料ホルダ3とは反対側に距離センサ34を備え、距離センサ34はコントローラ35に接続されている。コントローラ35はコンピュータ7の外部接続部7cに接続されており、コンピュータ7は、距離センサ34が測定した情報をコントローラ35から外部接続部7cで受け付ける構成となっている。
図10は、実施の形態3に係るグロー放電管2及び試料ホルダ3の内部構成並びに距離センサ34を示す断面図である。ランプボディ11は、当接される試料ホルダ3と反対側になる端面の中心孔11cに対応する箇所にガラス部材37を取り付けて、中心孔11cを封止している。ランプボディ11の試料ホルダ3と反対側になる端面には、カップ状に形成された距離センサ34のカバー部材36が、内部に距離センサ34及びガラス部材37を覆うようにした状態で、カップ状の開口部がランプボディ11の端面に当接されている。カバー部材36は、距離センサ34に周囲の明光が入り込むことを防止して測定の安定化を図っている。
距離センサ34は、レーザー光Rの照射及び反射したレーザー光Rの受光を行う照射受光面をランプボディ11のガラス部材37に対向させて設置されている。その結果、距離センサ34から照射されたレーザ光Rは、ガラス部材37、中心孔11c、及び貫通孔12cを通過して、発振子30に載置された試料Sの表面へ到達する。また、到達したレーザー光Rは試料Sの表面で反射して、貫通孔12c、空洞11c、及びガラス部材37を通過して距離センサ34へ戻る。コントローラ35は、距離センサ34に対するレーザー光Rの照射制御、試料Sに反射して戻ってきたレーザ光の受光に基づき距離を測定する処理、及び測定した距離をコンピュータ7の外部接続部7cへ入力する処理等を行う。また距離センサ34は、複数のレーザー光Rを照射するか、又はレーザー光Rで試料Sの表面をスキャンすることにより、試料Sの複数の箇所までの距離を測定可能な構成となっている。本実施の形態においては、距離センサ34は、試料Sの掘削される領域の中心部分及び周縁部分までの距離を測定する構成となっている。コントローラ35は、試料Sの複数の箇所までの距離を各別に測定する処理を行い、試料Sの複数の箇所までの距離の夫々をコンピュータ7へ入力する処理を行う。試料形成装置1のその他の構成は実施の形態1と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。
以上の構成の試料形成装置1は、グロー放電管2の内部を真空引き装置8で真空引きしてから、ガス供給源10がグロー放電管2の内部へアルゴンガスを供給し、CPU7aに設定された条件で電源部4が発振子30へ高周波電圧を供給することによって、電極12と試料Sとの間でグロー放電が発生し、試料Sの掘削が開始される。試料Sの掘削が進行して試料Sの厚みが徐々に小となっていくにつれ、距離センサ34が測定する試料Sの表面までの距離は徐々に増大し、掘削の開始前の距離との差から試料Sの掘削量が得られる。距離センサ34の測定により得られる掘削量は、グロー放電によって掘削される試料Sの厚みに対応する物理量であり、掘削前の試料Sの厚みを予め測定しておくことにより、掘削量に基づいて試料Sの厚みを判定することができる。このようにして、距離センサ34及びコントローラ35は本発明に係る測定手段に対応する。
試料形成プログラム21は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件、及び試料Sに印加する電力の条件を試料Sの材質に応じて複数種類規定してある。次に、試料Sとしてシリコンを使用した例を用いて、本実施の形態に係る試料形成装置1が実行する処理を説明する。試料形成プログラム21は、シリコンの試料Sについては、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件として、650Paの低圧の条件と、900Paの高圧の条件とを規定している。
図11は、実施の形態3に係る試料形成装置1が実行する処理の手順を示すフローチャートである。コンピュータ7のCPU7aは、試料Sの掘削前の厚みを予めRAM7dに記憶させておき、試料形成プログラム21に従って以下の処理を実行する。CPU7aは、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力として約900Paの高圧の条件を設定し、また試料Sを掘削する速度が高速となるように、電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値、供給周波数又はデューティ比の条件を設定し(S21)、設定した条件を所定の範囲内で保ちながら、グロー放電管2内の電極12と発振子30に載置された試料Sとの間でグロー放電を発生させ、試料Sの掘削が開始される(S22)。
CPU7aは、試料Sを掘削するための処理を実行しながら、距離センサ34の測定により得られる試料Sの掘削量が、試料Sの所定の厚みに対応する第1の所定値になったか否かを判定する(S23)。第1の所定値としては、例えば試料Sの掘削前の厚みから試料Sの厚みの目標値の2倍の値を差し引いた値等を用いる。試料Sの掘削量がまだ第1の所定値に達していない場合は(S23:NO)、CPU7aは、条件を保持して試料Sを掘削するための処理を実行し続ける。試料Sの掘削量が第1の所定値となった場合は(S23:YES)、CPU7aは、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件を約650Paの低圧の条件へ変更し、また電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値、供給周波数又はデューティ比の条件を試料Sを掘削する速度が低速度となる条件へ変更する(S24)。CPU7aは、変更後の条件を所定の範囲内で保ちながら、変更後の条件で試料Sを掘削するための処理を実行する。
CPU7aは、試料Sを掘削するための処理を実行しながら、距離センサ34の測定により得られる試料Sの掘削量が、試料Sの厚みの目標値により近づいた値に対応する第2の所定値になったか否かを判定する(S25)。試料Sの掘削量がまだ第2の所定値に達していない場合は(S25:NO)、CPU7aは、条件を保持して試料Sを掘削するための処理を実行し続ける。試料Sの掘削量が第2の所定値となった場合は(S25:YES)、CPU7aは、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件を約900Paの高圧の条件へ変更し、また電源部4から発振子30に印加する高周波電圧の電力値をより高電力にする条件へ変更する(S26)。CPU7aは、変更後の条件を所定の範囲内で保ちながら、変更後の条件で試料Sを掘削するための処理を実行する。
CPU7aは、試料Sを掘削するための処理を実行しながら、距離センサ34の測定結果に基づき、試料Sの掘削される領域の内、掘削されない領域との境界部分よりも内側の周縁部分での掘削量が、周縁部分の厚みの目標値に対応する第3の所定値になったか否かを判定する(S27)。試料Sの掘削される領域の周縁部分での掘削量がまだ第3の所定値に達していない場合は(S27:NO)、CPU7aは、条件を保持して試料Sを掘削するための処理を実行し続ける。試料Sの掘削される領域の周縁部分での掘削量が第3の所定値となった場合は(S27:YES)、CPU7aは、電源部4に高周波電圧の供給を停止させることによって、試料Sの掘削を停止し(S28)、処理を終了する。
図12は、実施の形態3において掘削される試料Sの形状を示す断面図である。図12(a)はグロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力が約900Paの高圧である場合のシリコンの試料Sを示す。試料Sがシリコンである場合は、グロー放電管2内のアルゴンガスの圧力を約900Paの高圧にすることにより、試料Sの掘削される領域の周縁部分が中心部分よりも掘削され易くなり、図12(a)に示す如く、試料Sは断面形状が凸状に形成される。図12(b)はステップS24でアルゴンガスの圧力を約650Paの低圧にした状態で掘削したシリコンの試料Sを示す。試料Sがシリコンである場合は、アルゴンガスの圧力を約650Paの低圧にすることにより、試料Sの掘削される領域の中心部分が周縁部分よりも掘削され易くなり、図12(b)に示す如く、試料Sは断面形状が凹状に形成される。試料Sを一様に薄くなるまで掘削した場合は、TEMで測定可能な試料Sの領域が広くなる反面、試料Sの物理的な強度が低下し、ホルダ等で試料Sを保持することも困難となる。従って、試料Sの掘削される領域の中心部分を薄く周縁部分をより厚く凹状に形成することにより、TEMで測定可能な領域を確保しながら、試料Sの保持を容易にするための保持しろを形成することができる。
図12(c)はステップS26でアルゴンガスの圧力を約900Paの高圧に戻した状態で掘削したシリコンの試料Sを示す。ステップS25までの処理によって、試料Sは断面形状が凹状に形成されている。ステップS26以降は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力が高圧になるので、試料Sの掘削される領域の周縁部分が掘削されやすくなる。試料Sを形成する処理の最後に、掘削される領域の周縁部分が掘削されやすくすることにより、図12(c)に示す周縁部分の厚みの値Hを所望の値にすることができる。例えば、TEMで観察する試料を保持するための試料ホルダのサイズに合致するように、試料Sの掘削される領域の周縁部分の厚みを調整することができる。
以上詳述した如く、本実施の形態においても、試料形成装置1は、グロー放電によって掘削される試料Sの掘削量を測定することで、試料Sの厚みを判定し、TEMで観測可能な形状に試料Sを形成することが可能である。また本実施の形態においては、試料形成装置1は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力を試料Sの掘削中に変化させることにより、試料Sの掘削される領域内でより掘削されやすい部分の位置を調整して、所望の形状になるように試料Sの形状を調整することができる。
以上に説明した処理では、試料Sがシリコンの場合に試料形成装置1が実行する処理を示しており、試料Sの断面形状は、アルゴンガスの圧力が約900Paの高圧状態では凸状になり、アルゴンガスの圧力が約650Paの低圧状態では凹状になる。しかし、アルゴンガスの圧力と試料Sの形状との関係は、試料Sの材質に依存する。試料Sの材質によっては、低圧の状態で凸状に形成され、高圧の状態で凹状に形成されるものもある。従って、本発明の試料形成装置1は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力を調整する条件を試料Sの材質に応じて設定できる構成となっている。例えば、試料形成装置1は、試料Sの材質に応じて、低圧時の圧力の値を650Pa以外の値に調整し、高圧時の圧力の値を900Pa以外の値に調整することも可能である。また試料形成装置1は、試料Sを図12に示した形状と同様の形状に形成するために、試料Sの材質によっては、ステップS21でアルゴンガスの圧力を低圧に設定し、ステップS24でアルゴンガスの圧力を高圧に設定し、ステップS26でアルゴンガスの圧力を低圧に設定する処理を実行することも可能である。
なお、本実施の形態においては、図11のフローチャートで示す如き、試料Sの掘削される領域の周縁部分の厚みを調整する処理を実行する形態を示したが、これに限るものではなく、図5のフローチャートに示した処理と同等の処理を実行することにより、試料Sの掘削される領域の周縁部分の厚みを調整せずに試料Sを形成する処理を行う形態であってもよい。また本実施の形態においては、距離センサ34で試料Sの複数の箇所までの距離を測定することにより、試料Sの複数の部分での掘削量を求める形態を示したが、これに限るものではなく、試料Sが掘削される領域の中央部分等、試料Sの単一の部分での掘削量を求める形態であってもよい。また本発明の試料形成装置1は、実施の形態1又は2に示したように、試料Sの掘削を開始してから経過した時間、試料Sを貫通するアルゴンイオンの検出量、試料Sを貫通する光の検出量、又はグロー放電管2内の圧力の変動に基づいて試料Sの厚みを判定しながらアルゴンガスの圧力を調整して試料Sの形状を調整する形態であってもよい。
また本実施の形態においては、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力及び試料Sが掘削される速度の条件を、夫々同時に2段階で変更する処理を行う形態を示したが、これに限るものではない。例えば、本発明の試料形成装置1は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件と試料Sが掘削される速度の条件とを独立に調整する処理を行う形態であってもよい。また本発明の試料形成装置1は、グロー放電管2内を満たすアルゴンガスの圧力の条件と試料Sが掘削される速度の条件とをより多くの段階に分けて調整する形態であってもよい。
また以上の実施の形態1乃至3においては、試料Sに対して上面から掘削するように構成した形態を示したが、これに限るものではなく、本発明の試料形成装置1は、試料Sの下面に対してグロー放電を発生させて下面から掘削する形態であってもよい。また本発明の試料形成装置1は、水平方向に電極と試料Sとを配置して、水平方向に試料Sを掘削する形態であってもよい。
(実施の形態4)
図13は、本発明の実施の形態4に係る試料形成装置50の構成を示すブロック図である。本実施の形態では、実施の形態1に示す如くグロー放電管2及び発振子30を用いて試料Sを形成するのではなく、試料形成装置50は、密閉された形成処理室51の内部に第1電極52及び試料Sを載置する第2電極53を設け、第1電極52が実施の形態1と同等の構成の電源部4に接続されると共に、第2電極53が交流電源ACの接地側に接続されている。電源部4は実施の形態1と同等にコンピュータ7により制御される。第2電極53の中央には貫通孔が形成されており、この貫通孔内にイオンセンサ32が配置されている。イオンセンサ32はコントローラ31に接続されており、コントローラ31はコンピュータ7に接続されている。イオンセンサ32及びコントローラ31は、実施の形態1と同様に機能する。
形成処理室51は天板部51aにアルゴンガス供給用のガス供給穴51bが開口してあり、底板部51cに真空引き用穴51dが開口してある。形成処理室51の内部空間51eが真空引き用穴51dより真空引きされてから、ガス供給穴51bよりアルゴンガスが供給された状態で、コンピュータ7に制御された電源部4が第1電極52と第2電極53との間に電圧を印加することにより、第1電極52と試料Sとの間でグロー放電が発生し、試料Sが掘削されて形成される。本実施の形態においても、試料形成装置50は、図5のフローチャートに示した処理と同等の処理を実行し、イオンセンサ32が検出するアルゴンイオンの検出量に応じて電源部4の出力電力を調整することで、TEMで観測可能な形状に試料Sを形成することが可能である。
(実施例)
次に、本発明を用いて試料を形成した実施例を説明する。図14は、本発明により形成したアルミニウムの試料をTEMで測定した実像を示す画像である。図14の画像は、本発明の試料形成装置1を用いてアルミニウムの試料を形成し、形成後の試料をTEMで測定した実像の測定結果である。図14中の左下に示すスケール用のバーの長さは0.1μmに対応し、画像の横方向の長さは約1.4μmに対応する。図15は、本発明により形成したアルミニウムの試料を図14の測定結果よりも高分解能でTEMにより測定した実像を示す画像である。図15の画像は、図14に示す試料の領域の一部を更に高分解能でTEMにより測定した実像の測定結果である。図15中の左下に示すスケール用のバーの長さは2nmに対応し、画像の横方向の長さは約34nmに対応する。図14では試料の構造が観察され、図15ではアルミニウムの格子が観察される。図に示す如く、本発明の試料形成装置1を用いて形成した試料をTEMで測定した場合には、試料の明瞭な実像を得ることができる。従って、本発明の試料形成装置1は、TEMで観測可能な薄さの形状に試料を形成することが可能であることがわかる。
図16は、図15に示す画像をフーリエ変換した処理結果を示す画像である。高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform;FFT)を実行するためのコンピュータプログラムに従って動作するコンピュータを用いて、図15の画像に対してFFTの処理を実行することにより、図16の画像を得た。図15に示す実像の画像をフーリエ変換してあるので、図16の画像は結晶格子の逆空間像である。図16中の左下に示すスケール用のバーの長さは2(1/nm)に対応する。なお、aを実数とすると、逆空間上でのa(1/nm)は、実空間上での1/a(nm)に対応する。図16中の白点は試料の結晶格子面を示しており、結晶面間の距離等の試料の結晶構造を図16から正確に知ることができる。図16から知ることができる結晶構造の特徴は、アルミニウム結晶の特徴に良く一致する。即ち、得られた測定結果は確かにアルミニウムの試料をTEMで測定した測定結果である。従って、本発明の試料形成装置1を用いてTEMで測定することが可能なように、アルミニウムの試料を形成することが可能であることがわかる。
次に、シリコンの試料を出力40W及び処理時間40秒の条件で本発明の試料形成装置1により形成し、形成後の試料の形状を調べた結果を示す。図17は、本発明の試料形成装置1で形成した試料の断面形状を示す断面図である。図17(a),(b),(c)は、試料形成装置1でアルゴンガスの圧力を650Pa,750Pa,900Paの夫々に調整した上で形成した試料の断面を示す。図17に示す高さ方向のデータは、形成後の試料を触針式粗さ計で測定した。図17中の縦軸は試料の形成時に掘削される方向である厚さ方向の試料のスケールを示し、単位はオングストローム(Å)である。なお、1Å=0.1nmである。また図17中の横軸は厚さ方向に直交する方向の試料のスケールを示し、単位はμmである。図17に示す如く、試料は約4000μmの長さの領域に渡って掘削されており、TEMで測定するために十分に広い領域を本発明により一度に掘削できることがわかる。
図17(a)に示す如く、アルゴンガスの圧力が650Paである場合は、試料の掘削される領域と掘削されない領域との境界部分を除いて、試料の掘削される領域の中央部分よりも周縁部分がより厚い凹状に試料が形成されている。また図17(b)に示す如く、アルゴンガスの圧力が750Paである場合は、試料の掘削される領域と掘削されない領域との境界部分を除いて、試料はほぼ平坦に形成されている。更に図17(c)に示す如く、アルゴンガスの圧力が900Paである場合は、試料の掘削される領域と掘削されない領域との境界部分を除いて、試料の掘削される領域の周縁部分が中央部分よりも薄い凸状に試料が形成されている。従って、本発明では、アルゴンガスの圧力を調整することにより試料の形状を調整することが可能となる。