JP4090015B2 - 無機質板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機質板およびその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、不燃性であり耐久性に優れるとともに、釘、ビス、ステープル等(以下、単に釘等という)が打ちやすく、また、打ちつけた釘等に対して木質合板と同等の強い引抜き抵抗がある無機質板および無機質板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
木質合板は、釘等が打ちやすく、また、打ちつけた釘等に対し強い引抜き抵抗があり、強度および柔軟性に優れ、さらに簡易かつ安価であることから、建築や土木の分野で多方面にわたり多量に使用されている。たとえば、コンクリート等の型枠材は、柱となる木材と木質合板を貼り合わせて作製されるが、柱側から釘等を打ち込み木質合板まで貫通させ固定させる必要がある。このとき、木質合板はそれ自身に強い引抜き抵抗が備わっているので、このような型枠材に多く使われている。
しかしながら、一般的に広く使用されている木質合板は可燃物であり、また腐食性や虫による侵食性があり、耐久性に優れているとは言い難い。また、森林伐採による環境破壊および接着剤による住環境上の問題も指摘されている。
【0003】
一方、フレキシブルボードや珪酸カルシウム板のような無機質板の多くは不燃性および耐久性を備えているが、堅く脆いという欠点があり、釘等を無機質板に直打ちすると、打ちつけた釘等が安易に引き抜けてしまったり、亀裂や割れ等が生じるという欠点もある。従来、木質合板ほど釘等が打ちやすくかつ、強い引抜き抵抗を有する無機質板は存在しなかった。
【0004】
また、不燃性であり、耐久性に優れ、釘保持力が高く且つ長さ変化率が小さい無機質板として、セメント20〜60質量%、予め石灰質原料とシリカ質原料を水和合成してなる珪酸カルシウム系軽量水熱合成物5〜50質量%、補強繊維3〜18質量%および充填材0〜60質量%からなる配合物を湿式成形して得られる無機質耐力面材が提案されている(特開2001-48630号公報)。
しかしながら、かかる無機質板は耐力面材としては良好な特性を有しているが、裏面に柱材などの無い部分における板自身の持つ釘引抜き抵抗力に関しては不十分であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明の目的は、不燃性であり耐久性に優れるとともに、釘等が打ちやすく、また、打ちつけた釘等に対して木質合板と同等の強い引抜き抵抗がある無機質板および無機質板の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かさ密度が0.05〜0.3の珪酸カルシウム系軽量水和物15〜50質量%、補強繊維6〜15質量%、セメント10〜60質量%および充填材0〜60質量%からなる配合物を湿式成形して得られる無機質板において、
前記補強繊維は天然繊維と合成繊維とからなり、両者の質量比率は前者:後者として6:1〜2:1であり、かつヤング率5kN/mm2以上の合成繊維を3〜5質量%含有し、
釘引抜き抵抗値が5N/mm以上であり、かつ釘圧入値が30N/mm〜150N/mmであることを特徴とする無機質板を提供するものである。
また本発明は、前記セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントおよび超早強ポルトランドセメントから選択される1種または2種以上からなり、かつそのJIS R 5201による材令28日のモルタル圧縮強さが30N/mm2以上であることを特徴とする前記の無機質板を提供するものである。
【0007】
なお、特開2001−48630号公報に開示された無機質耐力面材は、補強繊維としてパルプ3〜15質量%、ヤング率5kN/mm2以上の繊維0〜2質量%およびヤング率5kN/mm2未満の繊維0〜2質量%を含むものであって、本発明におけるヤング率5kN/mm2以上の合成繊維を3〜5質量%含有する無機質板については何ら開示していない。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明における無機質板は、珪酸カルシウム系軽量水和物、補強繊維、セメント、必要に応じて充填材を原料とするものである。
【0009】
珪酸カルシウム系軽量水和物は、石灰質原料とシリカ質原料を用い、公知の方法にて調製することができる。例えば本発明における珪酸カルシウム系軽量水和物は、シリカに対する酸化カルシウムのモル比が0.55〜1.10である6〜15%濃度のスラリーを調製し、該スラリーを攪拌式オートクレーブにて150〜230℃で水熱合成して得ることができる。シリカ質原料としては珪石、けい藻土、シリカフューム等、石灰質原料としては生石灰、消石灰等が挙げられる。本発明における珪酸カルシウム系軽量水和物は、トバモライト系および/またはゾノトライト系等であることができ、かさ密度は0.05〜0.3、好ましくは0.05〜0.2である。
ここで、珪酸カルシウム系軽量水和物のかさ密度が0.05未満では、必要とされる釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き抵抗力が得られない。一方、0.3を超えると釘圧入値が150N/mm超となり容易に釘等を打ち込むことができない。
なお本発明でいう珪酸カルシウム系軽量水和物のかさ密度とは、珪酸カルシウム系軽量水和物のスラリーをブフナーロート等にて濾過脱水し、その湿潤濾過ケーキの容積(I)を測定し、該濾過ケーキを乾燥した後の質量(II)を測定し、II÷Iなる式にて算出した、該珪酸カルシウム系軽量水和物の単位湿潤容積あたりの乾燥質量を意味するものであり、珪酸カルシウム水和物の性状を評価する指標とされている。
【0010】
珪酸カルシウム系軽量水和物は、無機質板の原料中、15〜50質量%の範囲で配合される。15質量%未満では、十分な無機質板の軽量化ができず、板が堅くなり、釘圧入値が150N/mm超となり容易に釘等を打ちこむことができず、釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き抵抗力も得られない、一方、50質量%を超えると、必要なかさ密度および十分な強度を得るためには、高圧でプレス成形をする必要があり、その結果、釘圧入値が150N/mm超となり容易に釘等を打ちこむことができない。
【0011】
ここで本発明でいう釘引抜き抵抗値は、JIS Z 2101「木材の試験方法」に準拠し求めた値である。良好な釘引抜き抵抗値は経験的に5N/mm以上である。また、釘圧入値は、N32の釘を無機質板に一定速度で垂直に打ち込むのに有する最大荷重値を板厚で除した値である。良好な釘圧入値(釘打ち性)は、経験的に30N/mm以上150N/mm以下である。
【0012】
本発明で使用する補強繊維は、天然繊維と合成繊維とからなり、両者の質量比率は前者:後者として6:1〜2:1であり、かつヤング率5kN/mm2以上の合成繊維を3〜5質量%含有するものである。
天然繊維としては、木質パルプ、再生パルプ、各種麻繊維類等の植物繊維が挙げられ、これらを1種または2種以上利用することができる。合成繊維としては、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、アクリル、レーヨン、ガラスウール、ロックウール、セラミックウール、炭素繊維等が挙げられ、これらを1種または2種以上利用することができる。
補強繊維における天然繊維と合成繊維との配合比は、前者:後者として6:1〜2:1(質量比率)、好ましくは4:1〜3:1である。合成繊維の割合が前記範囲よりも少ないと、釘等を打ち込んだときに無機質板裏面の剥離、亀裂、割れが発生しやすく、耐衝撃性も低下し、釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き力が得られない。また天然繊維の割合が少ないと、天然繊維に粉体が固着する量が十分得られず、良好な無機質板が得られにくい。
なお、前記のように補強繊維は、ヤング率5kN/mm2以上の合成繊維を3〜5質量%含む必要がある。このように合成繊維を配合することにより、無機質板の釘引抜き抵抗値および強度が著しく増進する。ヤング率5kN/mm2以上の合成繊維が3質量%未満であると、耐衝撃性が低下し、釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き抵抗力が得られない。
また、補強繊維の繊維長は3〜12mmであり、好ましくは3〜6mmである。繊維径は、10〜500μmであり、好ましくは10〜100μmである。
【0013】
補強繊維は、無機質板の原料中、6〜15質量%の範囲で配合される。6質量%未満であると、天然繊維に粉体が固着する量が十分得られず、良好な無機質板が得られにくく、また、釘等を打ちこんだときに無機質板裏面の剥離、亀裂、割れが発生しやすい。さらに無機質板の耐衝撃性低下のため、釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き抵抗力が得られない。逆に15質量%を超えると、配合物を湿式成形する際に十分な流動性が得られないため、製造しづらく、良好な無機質板が得られにくい。また、長さ変化が大きくなり、無機質板の特徴とする不燃性を得ることができない。
【0014】
本発明で使用するセメントはとくに制限されないが、短期間に強度が発現するものが好ましい。例えばJIS R 5201「セメントの物理試験方法」による材令28日のモルタルの圧縮強さが30N/mm2以上である普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントの1種または2種以上を利用するのが好ましい。このようなセメントを利用すれば、養生時間の短縮および十分な釘引抜き抵抗力を得ることができる。
【0015】
セメントは、無機質板の原料中、10〜60質量%の範囲で配合される。セメントが10質量%未満では、結合に十分に必要な強度が得られず、釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き抵抗力が得られない。60質量%を超えると、無機質板が堅くかつ脆くなり、釘圧入値が150N/mm超となり容易に釘等を打ちこむことができない。また、無機質板の背面、もしくは板全体に割れを生じる可能性がある。
【0016】
なお本発明では必要に応じて各種充填材を使用することができる。充填材としては、石炭灰、シリカヒューム、スラグ粉末、シラス、珪石粉等のポゾラン活性に優れ強度に寄与するもの、雲母粉、珪灰石粉、炭酸カルシウム、タルク、ベントナイト等の無機質板の長さ変化率等の物性および製造性に寄与するもの等が挙げられる。
充填材は、無機質板の原料中、0〜60質量%の範囲で配合される。充填材が60質量%を超えると、他の配合物の添加量が少なくなり、釘引抜き抵抗値が5N/mm未満となり十分な釘引抜き抵抗力が得られない。
【0017】
本発明の無機質板は、前記の原料をその配合割合でもって配合物(スラリー)を調製し、該配合物を湿式成形し、グリーンシートを得、前記グリーンシートを1枚でまたは複数枚積層して、1〜20N/mm2のプレス圧で加圧成形し、続いて養生・硬化することにより得ることができる。湿式成形には、丸網式抄造機、長網式抄造機、フローオン抄造機等の連続式抄造機、脱水プレス機等のバッチ式成形機等の汎用の製造装置を利用することができる。次に得られたグリーンシートを1枚でまたは複数枚積層して加圧成形するが、このときのプレス圧が1N/mm2未満では必要な強度、表面平滑性、十分な釘引抜き抵抗力が得られない。一方、20 N/mm2を超えると、軽量化が図れず、釘圧入値が150N/mm超となり容易に釘等を打ちこむことができない。加圧成形後の無機質板の密度は、原料の配合割合およびプレス圧により異なるが、0.6〜1.2g/cm3とするのが好ましい。
無機質板の養生としては、自然養生、湿潤養生、蒸気養生およびオートクレーブ養生等が挙げられるが、養生時間の短縮および、十分な釘引抜き抵抗力を得るために蒸気養生が好ましい。
【0018】
このようにして得られた本発明の無機質板は、釘引抜き抵抗値が5N/mm以上であり、かつ釘圧入値が30N/mm〜150N/mmである。したがって、釘等が打ちやすく、また、打ちつけた釘等に対して木質合板と同等の強い引抜き抵抗がある。さらに不燃性であり耐久性に優れる。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明する。
実施例1〜3および比較例1〜9
各例で使用した原料は以下のとおりである。
珪酸カルシウム系軽量水和物:
粉末珪石と生石灰を原料とし、酸化カルシウム/シリカモル比0.83とし、10%のスラリー濃度で撹拌式オートクレーブにより水熱合成した。
(1)トバモライト(Tb 180℃で3時間水熱合成、かさ密度0.13)
補強繊維:木質パルプ(カーターホルトハーベイ社製、タスマンH−90);ポリビニルアルコール(PVA)繊維(平均長さ4mm、アスペクト比290、ヤング率41.1kN/mm2);ポリエステル繊維(平均長さ4mm、アスペクト比200、ヤング率3.1kN/mm2)
セメント:普通ポルトランドセメント(JIS R 5201による材令28日のモルタル圧縮強さが45N/mm2)、早強ポルトランドセメント(JIS R 5201による材令28日のモルタル圧縮強さが50N/mm2)
充填材:炭酸カルシウム;珪灰石粉(ワラストナイト)
【0020】
前記の原料を、表1および表2に示す配合割合でもって配合物を調製し、これに9倍量の水を加えスラリーとし、このスラリーをフローオン抄造機により湿式成形し、得られた単層のグリーンシートを表1および表2に示すプレス圧において加圧成形し、厚さ10mm程度の単層板を得た。この板を蒸気養生後、自然養生して硬化させ供試体とした。該供試体を乾燥させた後、下記の試験を行った。
【0021】
試験方法
密度試験は、JIS A 5430「繊維強化セメント板」の見掛け密度(6.3節)の試験方法に従い測定した。
釘引抜き抵抗値は、JIS Z 2101に準拠し測定した。
釘圧入値は、(株)島津製作所社製オートグラフにより、前もって板厚を測定した板にN32の釘を8mm/分の一定速度で垂直に打ち込み、その板を貫通するのに有した最大荷重値を板厚で除した値で示した。
釘打ち性は、ハンマーにて無機質板を釘で打ちつけ、その作業性を触感で評価した。良好:数回釘を叩くことにより、良好に板にめり込む。不良:板が堅すぎて釘が打ち難い。割れ、破損を生じる。板が柔かすぎて釘打ち効果が得られない。
曲げ強度試験は、JIS A 5430「繊維強化セメント板」の曲げ強さ試験(6.4節)の試験方法に従い測定した。
得られた結果を表1および表2にそれぞれ示した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の結果から、実施例1〜4の配合により得られた無機質板は、釘引抜き抵抗値が5N/mm以上となり十分な釘引抜き抵抗力を有し、かつ、釘圧入値が30N/mm以上150N/mm以下となり容易に釘等を打ちこむことができることが分かる。
【0024】
【表2】
【0025】
表2の結果から:
比較例1は、セメントの配合量が多いため、無機質板が堅くなり、釘圧入値が高くなり容易に釘打ちが出来なかった。
比較例2は、セメント配合量が少ないため、無機質板が脆くなり、ひび若しくは裏面の剥離が発生し、釘引抜き抵抗値が低くなり十分な釘引抜き抵抗力が得られなかった。
比較例3は、繊維配合量が多いため、製造時抄造が困難となり、良好な無機質板が得られなかった。
比較例4は、繊維量が少ないため、製造時抄造が困難となり、良好な無機質板が得られなかった。
比較例5は、ヤング率5kN/mm2以上の合成繊維が少ないため、釘引抜き抵抗値が低くなり十分な釘引抜き抵抗力が得られなかった。とくにこの比較例5を前記の実施例8と比較すると、両例はほぼ同じ配合でありながら、実施例8はヤング率5kN/mm2以上の合成繊維が2質量%以上であるため、良好な釘引き抜き抵抗力および釘打ち性を付与しているのに対し、比較例5は実施例8に比べこれらの特性が貧弱となっている。
比較例6は、珪酸カルシウム系軽量水和物配合量が多いため、無機質板が堅くなり、釘圧入値が高くなり容易に釘打ちが出来なかった。
比較例7は、珪酸カルシウム系軽量水和物配合量が少ないため、無機質板が堅くなり、釘を打つことにより板の割れが発生し、評価ができなかった。
比較例8は、繊維のうち合成繊維が含まれないため、釘を打つことにより裏面の剥離が発生し、釘引抜き抵抗値が低く、十分な釘引抜き抵抗力が得られなかった。
比較例9は、繊維のうち天然繊維量が少ないため、繊維に粉体が固着する量が十分得られず、良好な板が得られなかった。
【0026】
なお、参考例1〜2を表2に併記した。参考例1は、市販されているかさ密度0.8で厚さ8mmの無石綿珪酸カルシウム板を用いた例である。この従来の無機質板は釘引き抜き抵抗力に乏しいことが分かる。また参考例2は、市販されている厚さ9mmの構造用合板を使用した例である。参考例2の合板は木製合板であるので、釘引き抜き抵抗力および釘圧入特性を有している。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、不燃性であり耐久性に優れるとともに、釘等が打ちやすく、また、打ちつけた釘等に対して木質合板と同等の強い引抜き抵抗がある無機質板および無機質板の製造方法が提供される。本発明の無機質板は、優れた釘打ち性能および高い釘引抜き抵抗力により、この特性が強く要求される野地板、コンクリート等の型枠材のような従来木質合板が使用されていたものに関して十分代替可能である。
Claims (2)
- かさ密度が0.05〜0.3の珪酸カルシウム系軽量水和物15〜50質量%、補強繊維6〜15質量%、セメント10〜60質量%および充填材0〜60質量%からなる配合物を湿式成形して得られる無機質板において、
前記補強繊維は天然繊維と合成繊維とからなり、両者の質量比率は前者:後者として6:1〜2:1であり、かつヤング率5kN/mm2以上の合成繊維を3〜5質量%含有し、
釘引抜き抵抗値が5N/mm以上であり、かつ釘圧入値が30N/mm〜150N/mmであることを特徴とする無機質板。 - 前記セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントおよび超早強ポルトランドセメントから選択される1種または2種以上からなり、かつそのJIS R 5201による材令28日のモルタル圧縮強さが30N/mm2以上であることを特徴とする請求項1記載の無機質板。
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