JP4088877B2 - 電動機の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、任意の振幅、周波数の交流電圧と等価な電圧に変換するインバータによって駆動される電動機の制御装置に係り、特に、電動機を減速停止するまでの時間を制御する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
1台のコンバータにより複数台のインバータに直流電圧を供給し、複数台の交流電動機を駆動する共通コンバータ方式の電動機の駆動装置では、その適用先によっては複数台の交流電動機のうちの、あるものは電動運転、あるものは回生運転となるような条件で使用する用途がある。この場合、コンバータに必要とされる容量は、交流電動機の運転スケジュールにより決まる電動機の電動、回生運転による電力の相殺を考慮した供給電力分の容量となる。しかし、実際は、全ての電動機を最大運転速度からユーザ要求の時間以内に一斉に緊急停止するために必要な容量の方が大きいため、コンバータ容量は、緊急停止に必要な容量から決定される。減速時の各々の電動機の瞬時の回生電力は、そのときの電動機運転速度と減速トルクの積となり、また、その減速トルクは、要求される停止時間により決定される速度の減速率(変化率)により決まる。
従来の技術では、緊急停止時の速度の減速率を一定としていたため、電動機停止動作中の減速トルクは一定であった。そのため、瞬時の回生電力は、電動機最高速度時が最大となり、その後、速度に比例して減少していく。よって、コンバータ容量は、個々の電動機が最高速度時に発生する瞬時の回生電力の総和に設定していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術では、緊急停止時の電動機速度の減速率を一定としていたため、通常運転で必要なコンバータ容量に対して緊急停止時に必要なコンバータ容量が大幅に大きくなる場合があった。そのため、緊急停止という非常に稀な状況で必要となる容量にコンバータ容量を設定せざるを得ず、装置のコストの上昇、装置寸法の増加等、ユーザにとってのデメリットを増やす場合があった。
【0004】
本発明の課題は、電動機を緊急停止する際、一定の減速率で電動機停止する場合の最大の瞬時回生電力より小さい瞬時回生電力によって所望の停止時間で電動機の停止を達成するに好適な電動機の制御装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、緊急停止時の電動機の減速率を速度検出器の検出値の逆数値または速度指令の逆数値に基づき可変させることによって、瞬時回生電力を制御し、かつ、所望の停止時間で電動機の停止を達成する。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図5に、同一容量の2台の交流電動機を共通コンバータ方式で駆動する電動機の駆動装置を示す。なお、共通コンバータ方式は、2台以上の異なった容量の交流電動機を駆動することも可能であるが、ここでは、2台の同一容量の交流電動機を駆動する場合を取り上げる。
交流電源1は共通コンバータ2に接続される。共通コンバータ2は、交流電源1の交流電圧を直流電圧に変換し、2組の電動機制御系3に直流電圧を供給する。具体的には、電動機制御系3を構成するインバータ4に直流電圧を供給する。ここで、共通コンバータ2は、その直流電圧が一定値になるように制御されている。インバータ4は交流電動機5に接続され、共通コンバータ2から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、出力する。交流電動機5は、インバータ4の出力電圧により駆動される。
ここで、交流電動機5を加速する(電動運転する)場合は、その回転エネルギーは、交流電源1→共通コンバータ2→インバータ4の経路で交流電動機5へ供給される。また、交流電動機5を減速する(回生運転する)場合は、その回転エネルギーは、交流電動機5→インバータ4→共通コンバータ2の経路で交流電源1へ回生される。交流電動機5には、その回転速度を検出する速度検出器6が接続されている。速度制御装置7は、速度検出器6の検出値と速度指令装置8の出力値に基づきインバータ4の出力電圧を制御することより、交流電動機5の回転速度が速度指令装置8の出力値と同じになるように制御する。
【0007】
図6は、従来の技術を適用した速度指令装置8と電動機制御系3を抜き出したブロック図である。図6を用いて従来の技術の問題点を説明する。速度指令9は通常運転時の速度指令である。交流電動機5を緊急停止する際は、緊急停止スイッチ14をオンとすることにより、減速率設定値11の設定値が積分器12により積分され、飽和器13を経由し、加算器10によって速度指令9から減算される。
ここで、減速率設定値11は、交流電動機5を最高速度SPt(rad/s)から所望の停止時間Ts(秒)で停止するための減速率を決定するものであり、その設定値は(1)式となる。
|減速率設定値(11)|=SPt/Ts (1)
また、飽和器13の上限値、下限値は、(2)式、(3)式のように設定される。
上限値=+|速度指令(9)| (2)
下限値=−|速度指令(9)| (3)
この構成により、緊急停止時の速度指令装置8の出力は、例えば緊急停止スイッチ14がオンする直前の速度指令9の値が最高速度SPtの場合、SPtから減速率SPt/Tsで減速し、Ts後に0になる指令となる。
このときの、速度指令9、減速率設定値11、積分器12、飽和器13、速度指令装置8のそれぞれの出力波形を図7に示す。
【0008】
ここで、電動機停止時の回生電力における電動機速度、減速トルク、減速率の関係について数式を用いて説明する。回転体において回転速度ω(rad/s)、回転トルクT(N・m)、回転体の慣性モーメントJ(kg・m2)とすると、回転体の運動方程式より(4)式が成り立つ。
ω=∫T/J・dt (4)
即ち、回転体に与える回転トルクの時間積分値を慣性モーメントで除したものが回転体の回転速度となる。これは、インバータによって駆動される電動機においても同じであり、電動機が発生する回転トルク(これは、インバータが電動機に流す電流により発生)の時間積分値を電動機本体とその機械的な負荷まで含めた慣性モーメント値で除したものがその時点の電動機の回転速度となる。
ここで、(4)式の両辺を時間微分すると、(5)式となる。
dω/dt=T/J (5)
(5)式の左辺は速度の時間変化率であり、これは、回転トルクが速度の時間変化率に比例することを表している。
一方、回転体が発生する瞬時の回転エネルギーP(kW)は、(6)式で表される。
P=T×ω (6)
これは、インバータによって駆動される電動機においては、瞬時の回生電力と等価である。よって、以下、瞬時の回転エネルギーPは、瞬時の回生電力Pと呼ぶこととする。
【0009】
ここで、図7に示した電動機をある一定の減速率(=一定の速度の時間変化率)で減速する、従来の技術による緊急停止時の減速方法について考える。この場合、(5)式の左辺の速度変化率は(1)式で表される減速率設定値11の値となるため、(7)式が成り立つ。
減速率設定値(11)=T/J (7)
(7)式において、減速率設定値11および慣性モーメントJは一定値であるため、減速率一定の場合、その回転トルクTは一定であることを示している。
(7)式を用いて(6)式より回転トルクTを消去すると、(8)式が得られる。
P=減速率設定値(11)×J×ω (8)
(8)式において、減速率設定値11および慣性モーメントJは一定値であるため、回生電力Pは、その時の回転速度ωに比例して時間推移することになる。
【0010】
このときの回転速度ω、回生電力Pの時間推移波形を図4に示す。図4より、一定の減速率で電動機を減速する場合、回生電力Pは、最高速度SPt時点の一瞬が最大値となり、停止時間Ts後に0となる時間波形が三角形となることが分かる。なお、回生電力Pの最大値(絶対値)は、(8)式のωにSPtを代入し、両辺の絶対値をとった(9)式となる。
|P|(最大値)=|減速率設定値(11)×J×SPt| (9)
また、最高速度SPtで回転中の交流電動機5を停止させるには、図4における回生電力Pを時間積分した回転エネルギーE(J)を交流電源1に回生しなければならない。ここで、回転エネルギーEは、回生電力Pの時間波形が三角形であることから、(10)式で表される。
E(面積)=|減速率設定値(11)×J×SPt|×Ts/2 (10)
このため、従来の技術においては、緊急停止時の個々の電動機速度の減速率を一定としていたため、上述の回転体の運動法則により、共通コンバータ2の容量は、交流電動機5を最高速度SPtから減速させた瞬間に発生する最大の回生電力Pの2倍の電力(共通コンバータ2に接続される電動機制御系3が2組のため)を交流電源1に回生可能な容量に設定していた。
【0011】
そこで、以下、本発明では、緊急停止時の減速率に着目し、減速率一定の場合よりも少ない瞬時の回生電力によって所望の停止時間で電動機の停止を達成する本発明の実施形態について説明する。
図1は、図6の速度指令装置8に本発明を適用した第一の実施形態である。図6との相違点は、減速率設定値11と緊急停止スイッチ14との間に、最高速度設定器17と、速度検出器6の出力信号の絶対値を出力する絶対値回路19と、絶対値回路19の出力と最高速度設定器17の比を計算する除算器16と、除算器16によって0割発生を防止する飽和器18と、除算器16の出力信号を減速率設定値11に掛け合わせる乗算器15と、乗算器15の出力を1/2倍(電動機がn台であっても)する比例器20より構成する減速率可変回路21を設けることにある。
【0012】
以下、これらの動作について説明する。
速度検出器6は、交流電動機5の回転速度ωを逐次検出する。また、絶対値回路19は、速度検出器6の出力信号の絶対値を出力し、最高速度設定器17は、最高速度SPtの絶対値が設定されている。よって、除算器16は(11)式の値を出力する。
なお、除算器16と速度検出器6の間には、(12)式におけるωが0となる場合に0割演算が発生しないようにするため、下限値を微小な値に設定した飽和器18が設けられているが、ここでは無視する。よって、乗算器15は(12)式の値を出力する。
乗算器(15)出力値=減速率設定値(11)×SPt/|ω| (12)
そして、比例器20は(13)式の値を出力する。
比例器(20)出力値=1/2×減速率設定値(11)×SPt/|ω| (13)
比例器20の出力値が本実施形態における緊急停止時の減速率となり、電動機の速度の絶対値が小さくなるほど、減速率を大きくするように可変していることが分かる。故に、速度の時間変化率と回転トルクの関係を表す(5)式において、その左辺の速度変化率は、(13)式で表される減速率となるため、(14)式が成り立つ。
1/2×減速率設定値(11)×SPt/|ω|=T/J (14)
(14)式を用いて(6)式より回転トルクTを消去し、両辺の絶対値をとると、(15)式が得られる。
本発明を適用した場合、瞬時の回生電力Pの大きさは、その時点の回転速度ωによらず、一定値となる。また、(15)式と、減速率を一定として減速した場合の最大の瞬時の回生電力(9)式を比較すると、その大きさは1/2となる。ここで、本発明を適用した場合の交流電源1に回生される回転エネルギーEnは、停止時間をTsnとすると、瞬時の回生電力Pが速度によらず、一定(すなわち、時間によらず一定)となる方形波となるため、その時間積分値は(16)式で表される。
En(面積)=|1/2×減速率設定値(11)×SPt×J|×Tsn (16)
これは、最高速度SPtで回転中の交流電動機5を停止させるために、交流電源1に回生しなければならないエネルギーであるので、(10)式のEと同値となる。故に、(17)式が成り立つ。
(17)式を変形すると、(18)式を得る。
Tsn=Ts (18)
すなわち、本発明を適用することによって、瞬時の回生電力Pを減速率を一定とした場合の1/2としながら、その停止時間は減速率を一定とした場合と同じにすることができる。換言すると、減速率一定の場合よりも少ない瞬時の回生電力によって一定の減速率で電動機停止する場合と同じ停止時間で電動機の停止を達成することができる。
【0013】
このときの回転速度ω、回生電力Pの時間推移波形を図3に示す。故に、共通コンバータ2の容量は、減速率を一定とする従来の技術に比べて半分の設定とすることが可能である。
【0014】
図2は、図6の速度指令装置8に本発明を適用した第二の実施形態である。図1の第一の実施形態との相違点は、速度検出器6の出力信号が速度制御装置7の働きにより速度指令装置8の出力と同じとなることに着目し、絶対値回路19の入力信号を速度指令装置8の出力信号とした減速率可変回路22を設けることにある。なお、減速率可変装置22のそれ以外の回路構成は、減速率可変回路21と同一であり、それらの動作についても、前述した第一実施形態と同じである。
【0015】
ここで、本発明を実装化する場合は、減速率可変回路を電動機の制御装置のソフトウエア上で構築することができる。
【0016】
【発明の効果】
以上説明したように、交流電動機を緊急停止する際の瞬時回生電力の最大値は、コンバータ容量の設定を決定する要因の大半を占めるため、本発明によれば、電動機の制御装置に減速率可変回路を設けることにより、交流電動機を緊急停止する際の瞬時回生電力の最大値を従来技術の1/2としながら、その停止時間は従来技術と同じにすることが可能であるので、コンバータ容量を従来技術より大幅に小さくすることが可能である。
また、コンバータ容量を大幅に小さくすることによって、装置そのもののコストを低減し、かつ、装置寸法も小さくすることができる。
また、本発明を実装化する場合、減速率可変回路を電動機の制御装置のソフトウエア上で構築できるため、コストアップなしで問題点の解決が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電動機の制御装置である第一の実施形態を示すブロック図
【図2】本発明の第二の実施形態を示すブロック図
【図3】本発明を適用した場合の電動機回転速度、回生電力の関係を説明する図
【図4】従来の技術を適用した場合の電動機回転速度、回生電力の関係を説明する図
【図5】電動機の制御装置
【図6】従来の技術を適用した速度指令装置のブロック図
【図7】緊急停止時の速度指令装置の動作を説明する図
【符号の説明】
1…交流電源、2…共通コンバータ、3…電動機制御系、4…インバータ、5…交流電動機、6…速度検出器、7…速度制御装置、8…速度指令装置、9…速度指令、10…加算器、11…減速率設定値、12…積分器、13…飽和器、14…緊急停止スイッチ、15…乗算器、16…除算器、17…最高速度設定器、18…0割発生を防止する飽和器、19…絶対値回路、20…比例器、21、22…減速率可変回路
Claims (5)
- 交流電源と、前記交流電源の交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を任意の振幅および周波数の交流電圧に変換するインバータと、前記インバータの出力電圧により駆動される交流電動機と、前記交流電動機の回転速度を検出する速度検出器と、前記交流電動機の速度を決定する速度指令と前記速度検出器の検出値に基づき、前記インバータの出力電圧を制御する速度制御装置を備える電動機の制御系において、
前記交流電動機を緊急停止する際の速度指令の減速率を可変にする減速率可変手段を設け、前記減速率の可変制御を前記速度検出器の検出値の逆数値に基づき実行し、その可変制御された速度指令により前記交流電動機を停止することを特徴とする電動機の制御装置。 - 請求項1において、前記減速率可変手段は、前記電動機の最高速度設定器と、前記速度検出器の出力信号の絶対値を出力する絶対値回路と、前記絶対値回路の出力と前記最高速度設定器の設定値との比を計算する除算器と、前記除算器の出力を前記減速率の設定値に掛け合わせる乗算器と、前記乗算器の出力を1/2倍する比例器を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
- 交流電源と、前記交流電源の交流電圧を直流電圧に変換するコンバータと、前記直流電圧を任意の振幅および周波数の交流電圧に変換するインバータと、前記インバータの出力電圧により駆動される交流電動機と、前記交流電動機の回転速度を検出する速度検出器と、前記電動機の速度を決定する速度指令と前記速度検出器の検出値に基づき、前記インバータの出力電圧を制御する速度制御装置を備える電動機の制御系において、
前記交流電動機を緊急停止する際の速度指令の減速率を可変にする減速率可変手段を設け、前記減速率の可変制御を前記速度制御装置に入力される速度指令の逆数値に基づき実行し、その可変制御された速度指令により前記交流電動機を停止することを特徴とする電動機の制御装置。 - 請求項3において、前記減速率可変手段は、前記電動機の最高速度設定器と、前記速度制御装置に入力される速度指令の絶対値を出力する絶対値回路と、前記絶対値回路の出力と前記最高速度設定器の設定値との比を計算する除算器と、前記除算器の出力を前記減速率の設定値に掛け合わせる乗算器と、前記乗算器の出力を1/2倍する比例器を備えることを特徴とする電動機の制御装置。
- 請求項1から請求項4のいずれかにおいて、前記コンバータと前記インバータの接続関係は、1台のコンバータに複数台のインバータが接続され、その各々により駆動される複数台の交流電動機から構成される共通コンバータ方式であることを特徴とする電動機の制御装置。
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