JP4085726B2 - 既設構造物の補強工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、既設構造物の補強工法に関し、特に、高靭性セメントボードを補強材に用いる補強工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
既設コンクリート構造物、例えば、道路橋や鉄道橋の橋脚、あるいは、床版は、耐震性や曲げ耐力の向上目的で補強する場合がある。また、既設コンクリート構造物は、塩害や中性化による経年劣化の補修と同時に、前述した目的も兼ねた補強を行う場合がある。
【0003】
このような補強に用いられる工法としては、従来、既設構造物の断面をコンクリートないしはモルタルで増加させる断面増厚工法、既設構造物の表面に鋼板を巻き付ける鋼板巻き立て工法などがあるが、これらの補強工法には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、断面増厚工法の場合には、補強鉄筋を用いなくても要求性能を満足することもあるが、曲げ耐力の増大やせん断耐力の増大を意図した場合には、補強鉄筋の組立が必要であり、また、コンクリートやモルタルの打設用堰板の設置,取り外し、さらには、コンクリートあるいはモルタルの養生が必要になり、工程が多岐に亘ると同時に工期が長くなるという問題がある。
【0005】
また、この工法では、構造物の断面増厚により、構造物の自重が増大するので、基礎の補強が必要になる場合もある。
【0006】
一方、鋼板巻き立て工法の場合には、鋼板の重量が大きいので、巻き付けに大きな労力がかかり、鋼板は、腐食し易いため、防食塗装をする必要があり、特に、塩害を受ける条件の場合には、防食のグレードも高いものとなり、工費が嵩む工法となっていた。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、工程の多岐化と労力の増大化を回避しつつ、経済的に補強が行える既設構造物の補強工法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、既設構造物の表面に補強材を配設して、前記補強材を前記既設構造物に一体的に結合させる既設構造物の補強工法において、前記補強材に、曲げ強度が30MPa以上で、スパン18cmで、最大撓みが25mm以上の高靭性セメントボートを用い、前記高靭性セメントボードは、所定長さで、所定厚みの角形形状に形成され、複数の前記高靭性セメントボードを前記既設構造物の外周に設置する際に、隣接する前記高靭性セメントボード間を跨るようにして炭素繊維またはアラミド繊維シートで接着接合するようにした。
【0009】
このように構成した既設構造物の補強工法によれば、高靭性セメントボードの高い靭性とせん断強度により、既設構造物の曲げ補強,せん断補強が可能になる。また、高靭性セメントボードは、鋼板に比べで軽量なので、鋼板巻き立て工法と比べて、架設労力が少なくなり、経済的になる。
【0010】
さらに、高靭性セメントボードは、モルタルなどを打設する際には、堰板兼用の埋設型枠となるので、堰板の解体が不要になり、養生期間も必要としないので、断面増厚工法に比べて、工種,工程が少なくなって、経済的になる。
【0011】
前記高靭性セメントボードは、予めその背面側に吸水を規制する吸水調整剤を塗布することができる。
【0012】
この構成によれば、高靭性セメントボードの背面側に吸水調整剤を塗布しているので、コンクリートやモルタルなどの硬化性材料を打設した際に、硬化性材料からの水分吸水が抑制され、過剰な吸水に伴う、付着力や曲げ強度の低下などの不都合を回避することができる。
【0013】
この場合の吸水調整剤は、エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョンを主成分とする水溶性液体を用いることができ、この水溶液を所定の希釈倍率で希釈して、高靭性セメントボードに塗布する。
【0014】
前記高靭性セメントボードには、製造過程で、プレス脱水する際に、金網などの凹凸形成部材を挟み込むことにより、高さが1mm程度で、間隔が1〜2mm程度の凹凸部を形成することができる。
【0015】
この構成によれば、高靭性セメントボードと硬化性材料との間の付着力を増強することができる。
【0017】
前記高靭性セメントボードは、前記既設構造物の表面から所定の間隔を隔てて配置され、前記間隔内にコンクリート,モルタルなどの硬化性材料を充填して、前記硬化性材料を硬化させることにより、前記既設構造物に一体化させることができる。
【0018】
前記高靭性セメントボードは、一端が前記既設構造物に埋設されたアンカーにより、前記間隔を設けるようにして支持され、前記間隔内に鉄筋,PCストランドなどの補強鋼材を配置した後に、前記硬化性材料を充填することができる。
この構成は、高靭性セメントボードだけでは、既設構造物の補強効果が不足する場合に採用されるが、この場合でも、セメントボードの耐久性により、モルタルなどの硬化性材料の被り量を少なくすることができる。
【0019】
また、本発明では、前記高靭性セメントボードは、前記既設構造物の表面に隣接設置され、前記高靭性セメントボードの表面側から、硬化性樹脂を注入し、前記硬化性樹脂の硬化により、前記既設構造物に一体化させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1から図3は、本発明にかかる既設構造物の補強工法の第1実施例を示している。
【0021】
図1は、本実施例の補強工法を既設構造物としての橋脚部10に適用した場合の施工終了状態を示している。本実施例の補強工法は、橋脚部10(既設構造物)の外表面の全面に渡って補強材12を配設し、この補強材12を橋脚部10と一体的に結合させている。
【0022】
補強材12は、高靭性セメントボード14と、高靭性セメントボード14を相互に接合する繊維シート16とから構成されている。高靭性セメントボード14は、その背面側にコンクリートやモルタル,樹脂モルタルなどの硬化性材料を打設する際に、打設範囲を隔成する堰板と兼用されるものであって、例えば、短辺の長さが900mmで、長辺の長さが1800mm程度の長方形の平板に形成されている。
【0023】
本実施例の高靭性セメントボード14は、曲げ強度が30MPa以上で、スパン18cmで、最大撓みが25mm以上の性能を備えている。このような高靭性セメントボート14は、セメントを主体として、所定厚み、例えば、約10mm程度の厚みを有し、補強繊維(耐アルカリ性に優れたPVA繊維)をセメントマトリックス中に2次元的にランダム配向させた形態になっている。
【0024】
このような高靭性セメントボード14は、例えば、その配合比は、補強繊維が3重量%、普通セメントが60〜95重量%、無機鉱物類が0〜35重量%、その他の混和材が2〜3重量%含まれるように構成される。
【0025】
このような配合比の高靭性セメントボード14は、例えば、厚みが6mmであれば、曲げ強度が33MPa,引張り強度が15MPa,曲げ変位が22mmの性能を備え、アルミニウムと同等の性能を有している。
【0026】
また、本実施例の高靭性セメントボード14には、製造過程で、プレス脱水する際に、金網などの凹凸形成部材を挟み込むことにより、高さが1mm程度で、間隔が1〜2mm程度の凹凸部を形成することが望ましい。このような凹凸部を設けると、高靭性セメントボード14と硬化性材料との間の付着力を増強することができる。
【0027】
一方、繊維シート16は、例えば、炭素繊維ないしはアラミド繊維からなる長繊維を長手方向に沿って引きそろえて、所定の幅に形成したものであって、図2に示すように、前後左右方向に隣接配置される高靭性セメントボード14の接合端部間に跨るように、接着固定され、複数の高靭性セメントボード14を相互に接合する。
【0028】
橋脚部10の補強を行う際には、まず、多数の高靭性セメントボード14を使用して、これを橋脚部10の表面側に配設する。この場合、高靭性セメントボード14は、図3に示すように、橋脚部10の表面から所定の間隔18(例えば、30mm程度)を隔てて、アンカー20により支持される。
【0029】
また、高靭性セメントボード14は、橋脚部10の全面を覆うように配置され、各ボード14間の接合が、繊維シート16の接着によりボード14の表面側から行われる。
【0030】
この際に、高靭性セメントボード14の表面側には、支保工22が配置され、その設置ズレなどを防止する。アンカー20は、その一端側が橋脚部10に埋設され、他端側にセメントボード14が係止される。
なお、橋脚部10の表面は、例えば、塩害による損傷部分あれば、高靭性セメントボード14を設置する前に、損傷部分の除去処理および表面の整形などが行われる。
【0031】
また、間隔18内に、鉄筋,PCストランドなどの補強鋼材24を設置する際には、これらの補強鋼材24を高靭性セメントボード14の配置前に組み付ける。このような補強鋼材24は、高靭性セメントボード14だけでは、既設構造物の補強効果が不足する場合に採用されるが、この場合でも、セメントボード14の耐久性により、モルタルなどの硬化性材料28の被り量を少なくすることができる。
【0032】
さらに、本実施例の場合には、高靭性セメントボード14には、橋脚部10の外周に組付けられる前に、予めその背面側に吸水を規制する吸水調整剤26が塗布される。
【0033】
吸水調整剤26は、高靭性セメントボード14の背面側にコンクリートやモルタルなどの硬化性材料28を打設した際に、硬化性材料28からの水分吸水を抑制して、過剰な吸水に伴う、付着力や曲げ強度の低下などの不都合を回避するために塗布される。
【0034】
この場合の吸水調整剤26は、エチレン酢酸ビニル共重合体エマルジョンを主成分とする水溶性液体を用いることができ、この水溶液を所定の希釈倍率で希釈して、高靭性セメントボードに塗布する。このような水溶液には、例えば、ハイレックス(日本化成株式会社製商品名)を用いることができる。
【0035】
橋脚部10の外周に高靭性セメントボード14が配置されると、間隔18内に、コンクリートまたはモルタルなどの硬化性材料28が打設され、硬化性材料28が硬化することにより、高靭性セメントボード14は、橋脚部10の外表面に一体がされて、その補強工事が終了する。
【0036】
この場合、高靭性セメントボード14は、硬化性材料28を打設する際の堰板として機能する。この際に、セメントボード14は、高靭性を備えているので、これを製造する際に、所定の曲率で湾曲形成することができる。
【0037】
さて、以上のように構成した既設構造物の補強工法によれば、高靭性セメントボード14の高い靭性とせん断強度により、橋脚部10(既設構造物)の曲げ補強,せん断補強が可能になる。
【0038】
また、高靭性セメントボード14は、鋼板に比べで軽量なので、鋼板巻き立て工法と比べて、架設労力が少なくなり、経済的になる。さらに、高靭性セメントボード14は、モルタルなどを打設する際には、堰板兼用の埋設型枠となるので、堰板の解体が不要になり、養生期間も必要としないので、断面増厚工法に比べて、工種,工程が少なくなって、経済的になる。
【0039】
なお、本実施例の場合、高靭性セメントボード14を埋設型枠として使用し、コンクリートなどの硬化性材料28と構造的に一体化し、セメントボード14を引張材として利用する場合、接合部での引張力の伝達は、繊維シート16を介して行われる。
【0040】
この場合、繊維シート16に炭素繊維シートを採用すると、その引っ張り強度は、5000N/mm2の高強度材料であり、このようなシートを接合部に接着すると、引張力を十分に伝達することができる。圧縮力は、ボード14同士の接触により直接伝達することができるため、繊維シート16に剛性がなくても継手として十分に機能する。
【0041】
図4は、本発明に係る既設構造物の補強工法の第2実施例を示しており、上記実施例と同一もしくは相当する部分には、同一符号を付してその説明を省略するとともに、以下にその特徴点についてのみ説明する。
【0042】
同図に示した補強工法では、橋脚部10の補強材12には、第1実施例と同様に、高靭性セメントボード14と繊維シート16とが用いられる。高靭性セメントボード14は、橋脚部10の表面に、第1実施例のように間隔18を設けることなく、隣接設置される。
【0043】
高靭性セメントボード14の設置には、上記実施例と同様な、アンカー20が用いられる。そして、高靭性セメントボード14の設置が終了すると、高靭性セメントボード14の表面側から、硬化性樹脂30を注入し、セメントボード14の背面側で、硬化性樹脂30を硬化させることにより、セメントボード14を橋脚部10に一体化させる。
【0044】
硬化性樹脂30は、予め高靭性セメントボード14の適宜箇所に穿設された注入孔32から、その背面側に注入される。
【0045】
以上のように構成した補強工法によっても、上記実施例と同等の作用効果が得られる。なお、上記実施例では、既設構造物として橋脚部10の補強に本発明を適用した場合を例示したが、本発明の実施は、これに限定されることはなく、例えば、橋脚床版などの補強にも適用することができる。
【0046】
【発明の効果】
以上、実施例で詳細に説明したように、本発明にかかる既設構造物の補強工法によれば、工程の多岐化と労力の増大化を回避しつつ、経済的に補強が行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる既設構造物の補強工法の施工終了状態の外観図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】本発明にかかる補強工法の第1実施例を示す施工時の断面説明図である。
【図4】本発明にかかる補強工法の第2実施例を示す施工時の断面説明図である。
【符号の説明】
10 橋脚部(既設構造物)
12 補強材
14 高靭性セメントボード
16 繊維シート
18 間隔
20 アンカー
Claims (6)
- 既設構造物の表面に補強材を配設して、前記補強材を前記既設構造物に一体的に結合させる既設構造物の補強工法において、
前記補強材に、曲げ強度が30MPa以上で、スパン18cmで、最大撓みが25mm以上の高靭性セメントボートを用い、
前記高靭性セメントボードは、所定長さで、所定厚みの角形形状に形成され、複数の前記高靭性セメントボードを前記既設構造物の外周に設置する際に、隣接する前記高靭性セメントボード間を跨るようにして炭素繊維またはアラミド繊維シートで接着接合することを特徴とする既設構造物の補強工法。 - 前記高靭性セメントボードは、予めその背面側に吸水を規制する吸水調整剤を塗布することを特徴とする請求項1記載の既設構造物の補強工法。
- 前記高靭性セメントボードには、製造過程で、プレス脱水する際に、金網などの凹凸形成部材を挟み込むことにより、高さが1mm程度で、間隔が1〜2mm程度の凹凸部を形成することを特徴とする請求項1または2記載の既設構造物の補強工法。
- 前記高靭性セメントボードは、前記既設構造物の表面から所定の間隔を隔てて配置され、前記間隔内にコンクリート,モルタルなどの硬化性材料を充填して、前記硬化性材料を硬化させることにより、前記既設構造物に一体化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の既設構造物の補強工法。
- 前記高靭性セメントボードは、一端が前記既設構造物に埋設されたアンカーにより、前記間隔を設けるようにして支持され、前記間隔内に鉄筋,PCストランドなどの補強鋼材を配置した後に、前記硬化性材料を充填することを特徴とする請求項4項記載の既設構造物の補強工法。
- 前記高靭性セメントボードは、前記既設構造物の表面に隣接設置され、前記高靭性セメントボードの表面側から、硬化性樹脂を注入し、前記硬化性樹脂の硬化により、前記既設構造物に一体化させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の既設構造物の補強工法。
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