JP4084678B2 - 表面被覆切削工具およびその製造方法 - Google Patents

表面被覆切削工具およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼、鋳鉄等を切削加工する表面被覆切削工具およびその製造方法に関し、特に切刃強度を高めた表面被覆切削工具およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、鋼、鋳鉄等を切削加工する際に、WC基超硬合金や、TiCN基サーメット等の母材に、Tiの窒化物、炭化物、または炭窒化物や、Al、またはTiとAlの固溶体の窒化物、炭化物、炭窒化物、または炭酸化物等の硬質膜を被覆した表面被覆切削工具(以下、被覆切削工具と呼ぶ)を用いられており、工具寿命の改善が行われている。
【0003】
また、切削工具の切刃部にホーニング加工、または、チャンファ加工等の刃先処理を施すことによって刃先強度を高め、工具寿命を高める方法も行われている。
【0004】
一方、特許文献1や特許文献2では、前記被覆切削工具の刃先処理部の硬質膜にラッピング等の機械研磨を施して切刃表面を除去して薄くしたり、または表面を平滑化することで、切刃における硬質膜の靭性、耐衝撃性を高めて工具寿命を向上させることが記載されている。
【0005】
〔特許文献1〕
特開平2−218522
〔特許文献2〕
特開昭64−16302
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の機械研磨によって切刃の硬質膜を除去する方法では、研磨した切刃部分に研摩痕がのこってしまい、研磨痕に応力集中が生じて結果的に切刃の耐欠損性が不十分で工具寿命の延命効果に限界があった。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するものであって、その目的は、切刃の耐欠損性をより高めて、より工具寿命の長い表面被覆切削工具を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の問題に対して検討した結果、硬質膜を被覆した切削工具の切刃を機械研磨することなく、すなわち、前記刃先処理部において、プラズマを用いたボンバード処理法にて研磨する方法のように研磨による研磨痕をなくすように除去することによって、局所的な応力集中を抑制して切刃強度を高め、耐欠損性が向上することを知見した。
【0009】
すなわち、本発明の表面被覆切削工具は、母材の表面に、硬質膜を少なくとも1層被覆するとともに、すくい面と逃げ面の交差稜を切刃とする表面被覆切削工具において、前記切刃における硬質膜の表面部分は、イオンボンバード処理により研磨されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
【0010】
また、前記母材の主面がすくい面、側面が逃げ面をなすとともに、前記すくい面が多角形の略平板形状をなし、該すくい面と隣接する2つの逃げ面とが交わるコーナー部に切刃を形成してなることが望ましい。
【0012】
また、前記切刃における硬質膜の膜厚が、前記切刃以外の部位における膜厚よりも薄くなっていることが望ましい。
【0013】
さらに、前記硬質膜の前記イオンボンバード処理により研磨された表面部分はAr、N、O、TiおよびAlのいずれかの濃度が前記硬質膜の内部よりも高くなっていることが望ましい。
【0014】
請求項6に記載の表面被覆切削工具の製造方法は、母材のすくい面と逃げ面の交差稜に切刃を形成するとともに、表面に硬質膜を少なくとも1層被覆する表面被覆切削工具の製造方法において、前記硬質膜の少なくとも前記切刃部を含む領域の表面部分をイオンボンバード処理して除去することを特徴とする。
【0015】
上記表面被覆切削工具の製造方法では、前記硬質膜の少なくとも前記切刃部を含む領域の表面部分にAr、N、O、TiおよびAlの群から選ばれるいずれか一種以上のイオンを照射して前記イオンボンバード処理してもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の被覆切削工具についてその一例であるスローアウェイチップの概略斜視図である図1、図1のスローアウェイチップのコーナー部を拡大した概略斜視図である図3、図1における切刃部付近(A部)の金属顕微鏡(×250)写真である図2(a)、図1のスローアウェイチップの切刃部付近の拡大断面模式図である図2(b)を用いて説明する。
【0017】
本発明の被覆切削工具は、母材5の表面に、硬質膜6を少なくとも1層被覆するとともに、すくい面2と逃げ面3の交差稜を切刃4とする表面被覆切削工具1において、硬質膜6の少なくとも切刃4を含む領域の表面部分を研磨痕7が残らないように除去したことを特徴とする表面被覆切削工具であり、図1の表面被覆切削工具は多角形状をなす主面(正方形)にすくい面2および着座面、側面に逃げ面3をそれぞれ有した略平板形状をなし、すくい面2と隣接する2つの逃げ面3とが交わるコーナーに切刃4を設けている。
【0018】
また、図1の表面被覆切削工具1によれば、図2の断面模式図に示すように、母材5の表面に硬質膜6を少なくとも1層被覆しており、図2の表面被覆切削工具1では、3つの層からなる多層膜にて硬質膜6を形成している。
【0019】
本発明の被覆切削工具1では、図3に示すように、少なくとも切刃4を含む領域における硬質膜6の表面部分を研磨痕7が残らないように除去することを大きな特徴とするものである。すなわち、切刃4を含む領域における硬質膜6の表面部分のみを除去することによって、切刃4を含む硬質膜6の除去部9における硬質膜6の残留応力を開放することができるため、切刃4の強度を高めることができ、被覆切削工具1の耐チッピング性および耐欠損性を向上させることができるとともに、図4(a)に示すような切刃4上の硬質膜6の表面を機械研磨加工にて除去する際に生じる研磨痕20をなくすことによって、研磨痕20に応力集中が生じてクラックが発生することがなくなり、被覆切削工具1の耐欠損性がより向上する。すなわち、機械研磨加工にて硬質膜6の表面を除去すると、耐チッピング性は向上するが、クラックの進展などによる欠損に対する耐性は向上しない。ここで本発明における研磨痕20とは、図4(a)に示されるような金属顕微鏡にて観察できる筋状の傷のことを指す。
【0020】
本発明において硬質膜6の研磨痕が残らないように硬質膜6を除去するには、例えば、イオンを照射して硬質膜6の表面をボンバード処理する方法が好適に採用でき、特に、ボンバード処理を行う方法としては、プラズマを用いて物理蒸着を行う装置内にてAr,NおよびOの群から選ばれるいずれか1種以上のガスを導入し、タングステンフィラメントを加熱することにより炉内をプラズマ状態とし、該プラズマ内に硬質膜6を被覆した工具を載置して、Ar,NおよびOの群から選ばれるいずれか1種以上のイオンを硬質膜6の表面にバイアス電圧をかけて衝突させる方法が、より確実に、かつ、より均一にボンバード処理ができるとともに、硬質膜6の除去量を制御できる点で望ましい。
【0021】
また、アークイオンプレーティングなどでは、ターゲットにTiまたはTiAlを使用しアーク放電を発生させ、TiイオンおよびまたはAlイオンを硬質膜6の表面にバイアス電圧をかけ衝突させる方法も望ましい。また、ターゲット材種には金属及びそれらの合金、例えばTi、TiAl、TiCr、TiSi、Cr、Si、Alまたはそれらに微量な金属(例えばY,Zr,Mg,Cr,Si,Ta,B,V,Nbのうちのいずれか一種の元素)を添加したものなどでも同様の効果が期待できる。
【0022】
さらに、切刃4上の硬質膜6の表面におけるAr、Ti、N、OおよびAlのいずれかの濃度が硬質膜6の内部と比較して高くなっていることにより、切削の際に被削材との反応による溶着が起こりにくくなり、チッピングおよび刃先の欠損を防ぐことができるため望ましい。
【0023】
また、切刃4以外の部位での硬質膜6の膜厚aと比較して、切刃4の硬質膜の膜厚bが薄くなっていることが望ましい。硬質膜6の膜厚を薄くすることにより耐欠損性を向上させることができるが、耐摩耗性が低下してしまう。よって、切刃4の硬質膜のみを薄くし、耐摩耗性に関与する逃げ面の膜厚を厚くしておくことで、耐摩耗性を保持したまま切刃4の耐欠損性を改善できる。
【0024】
さらに、図4(b)に示すように、硬質膜6の除去量が切刃4からすくい面2および逃げ面3の中央部に向かって暫減しており、硬質膜6の除去部と非除去部の境界21を持たないことが、図4(b)の機械研磨により硬質膜6を除去した従来の研磨方法を施したチップの断面模式図に示すように、硬質膜6を除去した部分と非除去の部分との境界21の発生による段差や加工不良(図4(a))をなくすことができるため、境界21での応力集中の発生による工具損傷を防ぐことができる点で望ましい。ここで、硬質膜6の除去量は、硬質膜6が単層の場合は硬質膜6の表面の一部のみ、硬質膜6が複層の場合は、最外層の厚み程度で硬質膜6が所望の厚みで残存するように制御するのがよい。
【0025】
なお、本発明において、母材5としては、WCを主体とし、Co等の鉄族金属を主体とする結合相からなる超硬合金や、TiCまたはTiCNを主体とし、Co、Ni等の鉄族金属を主体とする結合相からなるサーメット等が好適である。
【0026】
上述した硬質膜6としては、化学蒸着法や、イオンプレーティング、スパッタリング法、蒸着等の物理蒸着法によって、母材表面にTi等の4a、5a、6a族金属、SiおよびAlの群から選ばれる少なくとも1種の窒化物、炭化物、炭窒化物、炭酸化物、炭窒酸化物、酸化物、酸窒化物の単層または二層以上の複層からなる高硬度で耐溶着性に優れるとともに耐欠損性の高い膜からなる。
【0027】
また、図2(b)に示すように、さらに、母材5の切刃4に砥石やブラシ等を用いてホーニングやチャンファ等の機械加工にて刃先処理を施すことで切刃強度を高め、切削性能を向上させることもできるが、本発明によれば、かかる母材5表面に生じた研磨痕は硬質膜6を成膜することによって埋めることができる。
【0028】
一方、本発明の表面被覆切削工具を作成するには、まず所定形状に成形、焼成した母材5のコーナー部(切刃部4)にホーニングやチャンファ等の刃先処理を機械研磨加工によって施した後、母材5表面に上述した方法にて硬質膜6を成膜する。そして、硬質膜6の除去を、プラズマを用いて物理蒸着または化学蒸着を行う装置内にて前記硬質膜表面にイオンボンバード処理によって行い、硬質膜6の表面部分を研磨痕が残らないように除去することにより、本発明の表面被覆切削工具1を作成できる。
【0029】
なお、ボンバード処理の具体的な条件としては、例えばイオンプレーティング、アークイオンプレーティング等のPVD炉内にて、Ar、N、Oガスを用いて炉内をそれらの1種及び2種以上の雰囲気でタングステンフィラメントを加熱することにより炉内をプラズマ状態として、炉内圧力0.5Pa〜10Pa、炉内温度200〜900℃、バイアス電圧−100〜−1000V、処理時間2min〜240minの条件が好適である。また、アークイオンプレーティングにて、ターゲットにTi、TiAlを用いて、アーク放電電流150Aにてアーク放電を発生させ、Arガスを用いて炉内を炉内圧力0.5Pa〜10Pa、炉内温度200〜900℃、バイアス電圧−100〜−1000V、処理時間2min〜240minの条件が好適である。
【0030】
ここで、上記ボンバードによる硬質膜6の除去方法では、ボンバード処理を行う際にプラズマが被処理物のエッジに集中しやすいため、エッジが中央部よりもプラズマによって除去されやすいために、容易に上述した硬質膜6の構成を作製することができる。
【0031】
【実施例】
(実施例)
平均粒径1.5μmの炭化タングステン(WC)粉末、平均粒径1.2μmの金属コバルト(Co)粉末および平均粒径2.0μmの炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、炭化ニオブ(NbC)を添加、混合して、プレス成形によりスローアウェイチップ形状(CNMA120412)に成形した後、脱バインダ処理を施し、さらに、1000℃を越えると3℃/分の速度で昇温して、0.01Paの真空中、1500℃で1時間焼成して炭化タングステン基超硬合金基体を作製した。
【0032】
得られた炭化タングステン基超硬合金基体の切刃部分をブラシ加工にて半径80μmのR面ホーニング加工を施した後、CVD法により母材側よりTiCN−Al−TiNの膜構成からなる硬質膜を順次成膜した。
【0033】
そして、アークイオンプレーティング装置内に上記スローアウェイチップを載置して、タングステンフィラメントを加熱し、バイアス電圧500V、炉内温度500℃、表1に示すガスを炉内圧3Paで、表1に示す時間ボンバード処理を施し、硬質膜表面の除去を行った。(試料No.1〜3)
また、アークイオンプレーティング装置内に上記スローアウェイチップを載置して、バイアス電圧800V、炉内温度500℃、表1に示すガスを炉内圧3Paで、アーク放電電流150Aにてボンバード処理を施し、硬質膜表面の除去を行った。(試料No.4、5)
また、試料No.6は硬質膜の除去を行わず、試料No.7はボンバード処理ではなく、ブラシ加工によって切刃の硬質膜を除去した試料である。
【0034】
上記方法にて作製した試料No.1〜7の切刃(コーナー部)表面について、切刃の研磨痕の有無を金属顕微鏡にて確認した。また、各試料の断面について金属顕微鏡観察を行い、切刃(コーナー部)での最も薄い膜厚およびすくい面中央での膜厚、および切刃の断面形状より、硬質膜の除去部と非除去部の境界の有無を観察した。結果は表1に示した。
【0035】
さらに、試料No.1〜7の硬質膜の切刃部分の断面についてAr、O、N、Ti、Alの濃度分布をEPMAにて分析を行った結果、それぞれの試料について、表1に示される検出元素が硬質膜の内部よりも硬質膜を除去した部分の表面に特に多く検出された。
【0036】
また試料No.1〜7にて下記の条件で切削試験を行い、耐欠損性および耐チッピング性の評価を行った。結果は表1に示した。
【0037】
切削条件
耐欠損性試験
切削方法:旋削
被削材 :SCM440 溝入れ
切削速度:130m/min
切り込み:2mm
送り :0.4mm/rev
切削状態:湿式
試料が損傷するまでの切削時間を測定。
【0038】
耐チッピング性試験
切削方法:旋削
被削材 :SCM440 溝入れ
切削速度:200m/min
切り込み:2mm
送り :0.25mm/rev
切削状態:乾式
耐チッピング性試験:試料をそれぞれ10個ずつ試験し、5分間切削した後に刃先の状態をチェックし、10個中何個にチッピングが発生したかを確認する。
【0039】
【表1】
Figure 0004084678
表1より、ボンバードで刃先処理を行った試料No.1〜5では、切削試験において、耐欠損性試験による工具寿命も長く、チッピングの発生もほとんど見られなかった。
【0040】
一方、刃先処理を行わなかった試料No.6では、刃先のチッピングが発生し耐欠損性も悪かった。
【0041】
また、刃先処理をブラシで行い、研磨痕が残っている試料No.7では、チッピングの発生はある程度抑えられていたが、耐欠損性においては十分な性能ではなかった。
【0042】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の表面被覆切削工具によれば、前記切刃における硬質膜の表面部分が、イオンボンバード処理により研磨されていることによって、刃先強度を高めて耐チッピング性を向上させるとともに、研磨痕に発生する応力集中をなくし、耐欠損性を向上させることができる。
【0043】
また、本発明の表面被覆切削工具の製造方法によれば、少なくとも切刃部を含む領域の硬質膜の表面部分をイオンボンバード処理して除去することから、刃先強度を高めて耐チッピング性を容易に向上させることができるとともに、研磨痕に発生する応力集中をなくして耐欠損性を容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表面被覆切削工具の概略斜視図である。
【図2】(a)本発明の表面被覆切削工具の図1におけるA部の金属顕微鏡写真(×250)である。
(b)本発明の表面被覆切削工具の切刃付近における断面拡大模式図である。
【図3】本発明の被覆切削工具の図1におけるA部の拡大概略図である。
【図4】(a)本発明の範囲外の表面被覆切削工具の図1におけるA部の金属顕微鏡写真(×250)である。
(b)本発明の範囲外の表面被覆切削工具の切刃付近における断面拡大模式図である。
【符号の説明】
1:表面被覆切削工具
2:すくい面
3:逃げ面
4:切刃
5:母材
6:硬質膜
9:硬質膜の除去部
20:研磨痕
21:境界
a:切刃以外の硬質膜の膜厚
b:切刃の硬質膜の膜厚

Claims (6)

  1. 母材の表面に、硬質膜を少なくとも1層被覆するとともに、すくい面と逃げ面の交差稜を切刃とする表面被覆切削工具において、
    前記切刃における硬質膜の表面部分は、イオンボンバード処理により研磨されていることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記母材の主面がすくい面、側面が逃げ面をなすとともに、前記すくい面が多角形の略平板形状をなし、該すくい面と隣接する2つの逃げ面とが交わるコーナー部に切刃を形成してなることを特徴とする請求項1記載の表面被覆切削工具
  3. 前記切刃における硬質膜の膜厚が、前記切刃以外の部位における膜厚よりも薄くなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記硬質膜の前記イオンボンバード処理により研磨された表面部分はAr、N、O、TiおよびAlのいずれかの濃度が前記硬質膜の内部よりも高くなっていることを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 母材のすくい面と逃げ面の交差稜に切刃を形成するとともに、表面に硬質膜を少なくとも1層被覆する表面被覆切削工具の製造方法において、
    前記硬質膜の少なくとも前記切刃部を含む領域の表面部分をイオンボンバード処理して除去することを特徴とする表面被覆切削工具の製造方法。
  6. 前記硬質膜の少なくとも前記切刃部を含む領域の表面部分にAr、N、O、TiおよびAlの群から選ばれるいずれか一種以上のイオンを照射して前記イオンボンバード処理することを特徴とする請求項に記載の表面被覆切削工具の製造方法。
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