以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ構成要素については同じ符号を付しており、説明を省略する場合がある。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるマスター情報担体1の断面図である。マスター情報担体1は、透光性を有する非磁性基体2上に、遮光性を有する強磁性薄膜3によって情報信号配列に対応する形状パターンが形成されている。
本実施の形態におけるマスター情報担体1に光を照射したときの断面図を図2に示す。照射光4は、遮光性の強磁性薄膜3が形成されている面に対して直交する方向から照射される。照射光4は、透光性の非磁性基体2を透過することはできるが、強磁性薄膜3は透過できない。そのため、隣接する強磁性薄膜3間の領域においてのみ、照射光4は透過できる。つまり、隣接する強磁性薄膜3間の領域が光照射可能な領域である。
本実施の形態におけるマスター情報担体1に直流バイアス磁界を印加したときの断面図を図3に示す。図3(a)は印加した直流バイアス磁界5を示し、図3(b)はそのときの磁束6を示している。直流バイアス磁界5は、遮光性の強磁性薄膜3が形成されている面に対して平行な方向から印加される。印加された直流バイアス磁界5によって発生する磁束6は、強磁性薄膜3が存在する部分で集中し、強磁性薄膜3が存在しない領域では広がっている。
例えば、図3(b)中のA点は、図面に対して右側にも左側にも磁束6を集める強磁性薄膜3が存在する。左右の強磁性薄膜3で集められた磁束6は、A点付近で広がっているが、左右の強磁性薄膜3との距離が小さいため、十分に広がらない。そのため、A点には印加した直流バイアス磁界5よりも大きな磁界がかかる。それに対して、図3(b)中のB点は、図面に対して上側に磁束6を集中させる強磁性薄膜3が存在する。強磁性薄膜3に磁束6が集中するので、逆にB点には磁束6が殆ど流れない。そのため、B点には印加した直流バイアス磁界5よりも小さな磁界しかかからない。
図4は、図3(b)に示すA点及びB点を通る直線上での転写記録磁界分布の一例を示す。なお、非磁性基体2の強磁性薄膜3が形成されている面と平行な方向(図3(b)に対して横方向)の磁界成分を示している。本実施の形態のマスター情報担体1は上記の構成を有しており、このような構成により従来の面転写方式に比べて種々の特徴を有する。以下、これらを比較して説明する。
最初に、面転写方式に示された転写記録を行う場合について説明する。
図27に示すマスター情報担体101を用いた転写記録方法において、転写記録磁界が図4に示した分布である場合、磁気記録媒体の保磁力が印加した直流バイアス磁界と同程度であれば転写記録は充分可能である。しかし、例えば磁気記録層30の保磁力がA点(図3(b)に示す)に加わる磁界よりも大きな磁界まで増加すると、このような磁気記録層30を有する磁気記録媒体に対しては転写記録できなくなる。
つぎに、本発明の第1の実施の形態のマスター情報担体1の場合について、以下説明する。図2から図4より、本発明の第1の実施の形態のマスター情報担体1を用い光を照射することにより、磁化反転させたい領域(例えば、A点が存在する領域)のみに光が照射されることがわかる。そのため、このマスター情報担体1を用いることにより、磁気記録媒体上の磁化反転させたい領域のみの温度を上昇させ、その部分の保磁力を低下させることが可能となる。例えば、転写記録磁界が図4に示した分布で、かつ磁気記録媒体の保磁力がA点にかかる転写記録磁界よりも大きな場合でも、転写記録が可能となる。つまり、面転写方式では転写記録困難な高保磁力媒体に対しても、本発明の第1の実施の形態のマスター情報担体1を用いて光照射することにより容易に転写記録を実現することができる。
なお、「透光性を有する」や「透過できる」とは厳密に100%透過することまでは要求されず、同様に「遮光性を有する」や「透過できない」とは厳密に100%光を遮断することまでは要求されない。また、本発明のポイントを明確にする都合上、あたかも100%光を透過する、あるいは、100%光を遮断するかのような表現を用いている部分が存在する。本発明の効果は、強磁性薄膜3の照射光4に対する透過率が非磁性基体2よりも小さく、強磁性薄膜3が存在する領域よりも強磁性薄膜3が存在しない領域で、多くの照射光4を透過することにより、発揮することが可能となる。
本実施の形態にかかるマスター情報担体1の概観の一例を図5に示す。図5に例示したマスター情報担体1の表面には、磁気記録媒体に記録される情報信号配列パターン7に対応した強磁性薄膜3のパターンが形成されている。このマスター情報担体1は、ディスク状磁気記録媒体にサーボトラッキング用信号等のプリフォーマット情報を記録するために用いられるものである。したがって、ディスクの周方向において一定間隔で情報信号配列パターン7が設けられた構成となっている。
また、マスター情報担体1上には、プリフォーマット情報を記録するための情報信号配列パターン7の他にも、用途に応じて様々なパターンを配置することが可能である。例えば、図5に例示したマスター情報担体1では、磁気記録媒体であるディスクとマスター情報担体1との位置合わせを行うために用いられるアライメントマーカ8を強磁性薄膜3のパターンによって設けている。このようなアライメントマーカ8を用いることにより、例えばHDDの場合、ディスクの中心孔を参照して、マスター情報担体1上の情報信号配列パターン7とディスクとの中心位置を正確に合わせることが可能となる。
図5に示される領域200において、マスター情報担体1上に形成されたプリフォーマット情報を記録するための情報信号配列パターン7の一構成例を、図6に拡大平面図にして示す。図6は、領域200においてマスター情報担体1上に形成された情報信号配列パターンの一例を示している。すなわち、磁気記録媒体であるディスクに記録されるトラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、クロック信号等のプリフォーマット情報を記録するための情報信号配列パターンを示したものである。図面の横方向がディスクの円周方向(すなわち、記録トラック長さ方向)に、縦方向がディスクの径方向(すなわち、記録トラック幅方向)に概略一致する。
また、図6において、ハッチングを施した部分は強磁性薄膜3が形成されたパターンである。このパターン部分においては、マスター情報担体1に照射された照射光4は透過せず、磁気記録媒体に達することはない。一方、ハッチングされていない白い部分は強磁性薄膜3が形成されていない部分である。したがって、マスター情報担体1に照射された照射光4は、この部分を透過して磁気記録媒体であるディスクの表面に照射される。
図6の情報信号配列パターンは、ディスク径方向に概略平行な矩形パターンの集合であって、各々の矩形パターンのディスク径方向における長さは、概略、プリフォーマット記録された磁気記録媒体が搭載されるディスク装置の記録トラック幅に対応するように形成されている。
図6の情報信号配列パターンを有するマスター情報担体1を用いて転写記録されたディスクを搭載したディスク装置では、磁気ヘッドがトラッキング用サーボ信号を再生する際、ディスク径方向の微小変位に伴う再生信号振幅の変化を検出して、トラッキングサーボ動作を行える構成となっている。
図5に示される領域200においてマスター情報担体1上に形成された情報信号配列パターン7の別の一構成例を、図7に拡大平面図にして示す。図7は、図6と同様に、領域200においてマスター情報担体1上に形成された情報信号配列パターンの一例である。すなわち、磁気記録媒体であるディスクに記録されるトラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、クロック信号等のプリフォーマット情報信号配列パターンを示したものである。図面の横方向がディスクの円周方向(すなわち、記録トラック長さ方向)に、縦方向がディスクの径方向(すなわち、記録トラック幅方向)に概略一致する。
また、図7において、ハッチングを施した部分は強磁性薄膜3が形成されたパターンである。このパターン部分においては、マスター情報担体1に照射された照射光4は透過せず、磁気記録媒体に達することはない。一方、ハッチングされていない白い部分は強磁性薄膜3が形成されていない部分である。マスター情報担体1に照射された照射光4は、この部分を透過して磁気記録媒体であるディスクの表面に照射される。
図6の情報信号配列パターンが、ディスク径方向に概略平行な矩形パターンの集合であったのに対して、図7の情報信号配列パターンは、ディスク径方向に連続的に複数の記録トラックを横断する線状パターンの集合となるように形成されており、中にはディスク径方向に非平行なパターンも存在する。
図7の情報信号配列パターンを有するマスター情報担体1を用いて転写記録されたディスクを搭載したディスク装置では、磁気ヘッドがトラッキング用サーボ信号を再生する際、ディスク径方向の微小変位に伴う再生信号位相の変化を検出してトラッキングサーボ動作を行える構成となっている。
なお、図7に例示する再生信号位相を検出する方式の情報信号配列パターンは、図6に例示する再生信号振幅を検出する方式の情報信号配列パターンに比べて、外乱ノイズの影響を受け難く、より高精度のトラッキングサーボが可能となる等の長所を有する。
また、図7に例示する情報信号配列パターンは、従来の磁気ヘッドを用いたトラッキング用サーボ信号等のプリフォーマット記録方法では実現不可能なパターンである。それは、磁気ヘッドの記録ギャップがディスク径方向に有限の記録トラック幅を有しており、またディスク径方向に対して任意の角度を有することができないためである。
なお、図6や図7で示したプリフォーマット情報は、一般的に半径が変化しても記録周波数は一定である。そのため、記録波長(ディスク円周方向の1周期の長さ)は半径に比例して変化する。記録波長は、ディスクと磁気ヘッドとの相対速度/記録周波数で求められ、ディスクと磁気ヘッドとの相対速度は2×円周率×半径×ディスク回転数である。
つぎに、本実施の形態にかかるマスター情報担体1を製造する方法の一例を図8に示す。
まず、図8(a)に示すように、透光性の非磁性基体2上にフォトレジスト10を塗布する。つぎに、図8(b)に示すように、情報信号配列に対応したパターンを有するフォトマスクを用いて露光し、現像を行い、情報信号配列に対応したレジストパターン11を形成する。つぎに、図8(c)に示すように、そのレジストパターン11及び露出された非磁性基体2上に遮光性の強磁性薄膜3を形成する。その後、不要なレジストパターン11及びレジストパターン11上に形成された強磁性薄膜3を除去する。すなわち、不要な強磁性薄膜3をリフトオフプロセスにより除去する。これにより、図8(d)に示すように、非磁性基体2上に強磁性薄膜3からなる一定のパターンが形成されたマスター情報担体1を得ることができる。
さらに、本実施の形態にかかるマスター情報担体1を製造する別の方法の一例を図9に示す。
まず、図9(a)に示すように、透光性の非磁性基体2上に遮光性の強磁性薄膜3を全面に形成する。つぎに、図9(b)に示すように、その上にフォトレジスト10を塗布する。その後、図9(c)に示すように、情報信号配列に対応したパターンを有するフォトマスクを用いて露光し、現像を行い、情報信号配列に対応したレジストパターン11を形成する。つぎに、図9(d)に示すように、そのレジストパターン11をマスクにして、リアクティブイオンエッチングやイオンミリング等により強磁性薄膜3をエッチングする。このエッチングにより、情報信号配列パターンに対応した強磁性薄膜3が形成される。その後、不要なレジストパターン11を除去する。これにより、図9(e)に示すように、非磁性基体2上に強磁性薄膜3からなる一定のパターンが形成されたマスター情報担体1を得ることができる。
上記のどちらの方法を用いても、本発明の第1の実施の形態のマスター情報担体1を容易に製造することが可能である。
透光性の非磁性基体2としては、フォトマスク用の基体やレンズ用の材料等を用いることができる。例えば、合成石英等のガラス材料やCaF2、BaF2、LiCaAlF6等の単結晶材料である。
強磁性薄膜3の材料としては、例えば磁気ヘッドコア材料として一般的に用いられているNi−Fe、Fe−Al−Si等の結晶材料、Co−Zr−Nb等のCo基のアモルファス材料、Fe−Ta−N等のFe系微結晶材料を用いることができる。また、比較的保磁力が大きいため、磁気ヘッドコア材料としては一般的に使用されないFe、Co、Fe−Co等でも、直流バイアス磁界を印加したときに、その方向に磁化が均一に向く材料であれば用いることができる。なお、これらの強磁性材料は、反射率が高く、遮光性を有する。
また、本実施の形態では、個々の構成要素が一つの均一な材料で形成されているように説明したが、これらはそれぞれが複数層により構成されていてもよい。例えば、遮光性の強磁性薄膜では、良好な磁気特性を得るための複数層化や、非磁性基体との間での拡散を抑えるための拡散防止層、化学的安定性や機械的強度を向上させるための保護層や遮光性を向上させるための光遮断層等を有する場合がこれに相当する。また、透光性の非磁性基体では、透光性を向上させるための反射防止層等を有する場合がこれに相当する。
遮光性の強磁性薄膜3の形成は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等、一般的な薄膜形成法を用いて行うことができる。
なお、本実施の形態におけるマスター情報担体1は、パターン化された強磁性薄膜3が存在する側の表面形状が強磁性薄膜3によって凸形状になっている。しかし、図10に示すように、隣接する強磁性薄膜3のパターン間に光を透過する非磁性固体を有するマスター情報担体14、16としてもよい。これらの構成でも、同様の効果を有する。このような構成にすることにより、マスター情報担体14、16の強磁性薄膜3が存在する側の表面形状が略平面となる。そのため、マスター情報担体14、16の使用中や洗浄中に強磁性薄膜3が剥離する等の不良発生を抑制でき、高信頼性のマスター情報担体14、16を実現できる。
図10(a)は、隣接する強磁性薄膜3の間が非磁性基体15によって形成されたマスター情報担体14を示す。また、図10(b)は、透光性の非磁性の固体である非磁性薄膜17により隣接する強磁性薄膜3の間が埋め込まれた構成のマスター情報担体16を示す。透光性の非磁性薄膜17には、透過率が高く機械的強度が強い材料を用いる。この非磁性薄膜17は、強磁性薄膜3を形成する方法と同様な一般的な薄膜形成方法によって形成できる。
図10(a)に示したマスター情報担体14の製造方法の一例を図11に示す。また、図10(b)に示したマスター情報担体16の製造方法の一例を図12に示す。
図11に示す製造方法は、図8に示した製造方法に類似しており、以下では異なる工程を主体に説明する。図11(b)に示すように、情報信号配列に対応したレジストパターン11を形成する工程までは同じである。この後、このレジストパターン11をマスクにして、リアクティブイオンエッチングやイオンミリング等により透光性の非磁性基体2をエッチングする。このエッチングにより、図11(c)に示すような遮光性の強磁性薄膜3を埋め込むための溝を有する溝付き非磁性基体15を形成する。この後、図8(c)と同様に強磁性薄膜3を全面に形成する。これを図11(d)に示す。さらに、その後、図8(d)と同様にレジストパターン11上の強磁性薄膜3をレジストパターン11と一緒に除去するリフトオフプロセスを行うと、最終的に強磁性薄膜3が溝付き非磁性基体15中に埋め込まれたマスター情報担体14が得られる。これを図11(e)に示す。
また、図12に示す製造方法において、図12(a)から図12(d)までの工程は図9(a)から図9(d)までの工程と同様である。本製造方法においては、そのつぎに、遮光性の強磁性薄膜3上に残存するレジストパターン11及び強磁性薄膜3がエッチングされて露出した透光性の非磁性基体2上に透光性の非磁性の固体である非磁性薄膜17を形成する。これを図12(e)に示す。その後、図12(f)に示すように、レジストパターン11及びレジストパターン11上に形成された非磁性薄膜17をリフトオフプロセスにより除去する。これにより、隣接する強磁性薄膜3の間の領域に非磁性の固体である非磁性薄膜17が埋め込まれたマスター情報担体16が得られる。
なお、図12で示した遮光性の強磁性薄膜3と透光性の非磁性薄膜17の形成順番を逆にした場合でも、隣接する強磁性薄膜3の間の領域に非磁性の固体である非磁性薄膜17が埋め込まれたマスター情報担体16を得ることができる。
図11及び図12に示した製造方法を用いることにより、図10(a)及び図10(b)に示すマスター情報担体14、16を容易に製造できる。
(第2の実施の形態)
図13は、本発明の第2の実施の形態として、第1の実施の形態で説明したマスター情報担体1を用いたマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法を説明するための断面図である。
まず、図13(a)に示すように、磁気記録媒体(磁気記録層30のみを図示している)に直流消去磁界31を印加して、磁気記録層30を膜面方向に一様に直流消去する。これによって、膜面方向に沿った直流消去磁化32が形成される。
つぎに、図13(b)に示すように、直流消去された磁気記録媒体(磁気記録層30のみを図示している)とマスター情報担体1とを対向配置させる。その状態で、照射光4を照射し、直流消去磁界とは逆極性の直流バイアス磁界5を印加する。これにより、マスター情報信号を磁気記録媒体へ転写記録できる。
マスター情報担体1は、透光性の非磁性基体2上に遮光性の強磁性薄膜3により情報信号配列に対応するパターンが形成されている。そのため、照射光4は、隣接する強磁性薄膜3間の領域においてのみ、局所的に磁気記録媒体の表面に照射され、この領域において磁気記録媒体表面を加熱することができる。
磁気記録媒体の保磁力は、一般的に温度上昇とともに低下し、磁化が消失するキュリー温度近傍での見かけ上の保磁力はほぼ零になる。つまり、照射光が照射される領域のみの保磁力を低下させることが可能である。
本実施の形態においても図3(b)に示したと同様に、直流バイアス磁界5を印加したときに発生する磁束は強磁性薄膜3で集中し、それ以外の部分では広がる。そのため、図3(b)において、A点近傍では印加した直流バイアス磁界5よりも大きな磁界がかかる。また、図3(b)において、B点近傍では印加した直流バイアス磁界5よりも小さな磁界がかかる。なお、これについては図4を参照すると理解しやすい。この磁界が、強磁性薄膜3に対応した磁化パターンを転写記録するための転写記録磁界であり、A点近傍の大きな磁界によって、磁化を直流バイアス磁界方向に磁化反転させることができる。
この磁化が反転するA点近傍の領域は、前記した照射光4が照射される領域である。つまり、この記録方法を用いることにより、磁化反転させたい領域のみに非常に大きな転写記録磁界をかけ、かつ、その領域の保磁力を低下させることが可能となる。そのため、面転写方式では保磁力が大きいため転写記録が困難な磁気記録媒体に対しても、容易に転写記録が可能となる。
照射光4を照射したときの磁気記録媒体の温度分布及び保磁力の分布を図14に示す。図14(a)は温度分布で、図14(b)は保磁力の分布の一例である。なお、この温度分布は磁気記録媒体全体ではなく、磁気記録層30における分布である。図4に示した転写記録磁界の分布に比べると、磁気記録媒体の温度分布はブロードである。これは、照射光4により生じた熱エネルギーが熱伝導により磁気記録媒体内で拡散するためである。したがって、磁気記録層30の温度に対応して変化する保磁力も、転写記録磁界の分布に比べてブロードになる。図14(b)は上記したように、照射光4を照射したときの磁気記録媒体中の保磁力分布の一例である。
図15は、照射光4を照射したときの磁気記録媒体中の保磁力の分布と転写記録磁界の分布を示す。図15中の破線は、照射光4を照射しない場合の磁気記録媒体中の保磁力分布であり、これは一定である。非照射時の磁気記録媒体の保磁力は、A点にかかる転写記録磁界よりも大きい。このため、転写記録はできない。しかし、照射光4を照射することによりA点近傍の磁気記録媒体の保磁力が低下し、A点に印加される転写記録磁界よりも小さくなる。したがって、転写記録が可能となる。
また、本実施の形態の記録方法を用いた場合、磁化反転する領域(A点近傍)と磁化反転しない領域(B点近傍)の境界は、転写記録磁界の分布形状によって決定される。本実施の形態の場合、転写記録磁界の分布は非常に急峻に変化しているため、境界部分の磁化遷移幅が小さく、非常に良好な再生信号を得ることができる。
なお、本実施の形態の記録方法では、磁気記録媒体の温度をキュリー温度近傍まで上げる必要はなく、磁気記録媒体の保磁力がA点にかかる転写記録磁界を下回る程度まで加熱すればよい。そのため、必要とされる照射光量も少なく、照射時間も短くてよい。その結果、本実施の形態の記録方法を用いた場合でも、面転写方式と同様に、優れた生産性を実現することができる。
また、本実施の形態の記録方法として、予め磁気記録媒体に対して直流消去を行う場合について示したが、直流消去を省略した場合でも本発明の効果を発揮することは可能である。しかし、直流消去を行うことにより、磁気記録媒体の初期磁化状態のばらつきの影響を殆ど受けなくなり、再生信号の安定性が増すので予め磁気記録媒体に対して直流消去を行うことは好ましい。
本実施の形態の記録方法に適した磁気記録媒体としては、CoとCrを主成分とする合金薄膜もしくはこれらにPtやTa等の元素を添加した合金薄膜よりなる面内磁気記録媒体、CoとSiO2もしくはCoとPtとSiO2を主成分とするグラニュラー薄膜よりなる面内磁気記録媒体、Coフェライトに代表される酸化鉄系磁性薄膜もしくは磁性塗布層よりなる面内磁気記録媒体、CoとOもしくはCoとNiとOを主成分とする斜方蒸着膜よりなる磁気記録媒体、CoとCrを主成分とする合金薄膜もしくはこれらにPtやTa等の元素を添加した合金薄膜よりなる垂直磁気記録媒体、Pt膜もしくはPd膜とCoもしくはFeとを一定周期で交互に積層した多層薄膜よりなる垂直磁気記録媒体、バリウムフェライトに代表される酸化鉄系磁性薄膜もしくは磁性塗布層よりなる垂直磁気記録媒体等を用いることができる。
なお、本実施の形態の記録方法を用いて垂直磁気記録媒体に記録を行う場合も、磁気記録媒体の膜面方向に平行に直流バイアス磁界を印加する。このとき、強磁性薄膜の端部近傍に発生する膜面に対して垂直な方向の磁界が転写記録磁界となる。
図16は、本実施の形態のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法における照射光4を照射するための一構成例を示す断面図である。図16の構成では、ランプ光源33より発する照射光4が、マスター情報担体1の全面に一様に照射される。マスター情報担体1に照射された照射光4は、マスター情報担体1上に形成された強磁性薄膜のパターン形状に対応してマスター情報担体1を透過し、磁気記録媒体(磁気記録層30以外は図示せず)の表面に投影される。ここで、マスター情報担体1を透過した照射光4が、精度良くマスター情報担体1上のパターンを磁気記録媒体表面に投影するためには、照射光4がマスター情報担体1の全面に一様にかつ垂直に入射することが好ましい。照射光4が、ランダムな方向からマスター情報担体1に斜方入射する場合には、斜方入射による散乱光のため、記録分解能を低下させてしまう場合がある。このような点から、ランプ光源33は、マスター情報担体1の全面に垂直に入射する平行光を発することのできるものであることが好ましい。
また、マスター情報担体1に照射された照射光4が、マスター情報担体1を透過し磁気記録媒体の表面に到達するか否かは、照射光4を遮断する強磁性薄膜の有無以外に、照射光4の波長の影響を受ける。例えば、線幅1.0μmの情報信号配列パターンに対して、照射光4として波長1.5μm程度の赤外光を用いた場合、この赤外光は隣接する強磁性薄膜間の領域を殆ど透過しない。そのため、この磁気記録媒体は加熱されず、保磁力を低下させることはできない。このような点から、ランプ光源33が発する照射光4の波長は短い方が好ましい。例えば、線幅0.5μmの情報信号配列パターン部分において、隣接する強磁性薄膜間の領域に照射光4を透過させる場合には、ランプ光源33として紫外線ランプを用いることが好ましい。さらに、照射光4として、波長が0.25μm以下の深紫外(deep UV)光を用いる場合、原理的には線幅が0.25μm程度の情報信号パターンでも光が透過する。照射光4の波長を一層短くすることにより、さらに狭い情報信号配列パターンに対応することが可能となる。
一方、図16に示したようにランプ光源33を用いて、照射光4をマスター情報担体1の全面に一様に照射する構成とした場合、ランプ光源のパワーはマスター情報担体の全面に分散して与えられることになる。このため、マスター情報担体1の面積や磁気記録媒体の磁気特性によっては、照射光量が少なくなり照射領域の加熱が不十分になる可能性がある。
このような場合には、図17に例示するように、レーザ光源34を用いて部分的に照射を行いながら、レーザ光をマスター情報担体1の表面に沿って走査する。これにより、磁気記録媒体(磁気記録層30のみを図示している)の全面に光を照射することができる。なお、レーザ光を移動させるかわりにマスター情報担体1及び磁気記録媒体を移動させてもよい。
この場合、磁気記録媒体の全面に渡って一括面記録することはできないので、図16に示す構成に比べると、若干、プリフォーマット記録の生産性が低下する。しかしながら、従来の磁気ヘッドを用いた線記録における最小記録単位(磁気記録媒体であるディスクに記録される信号のビット面積)と比べれば、レーザ光のスポットサイズは少なくとも108倍以上に大きくすることができる。さらに、高出力のレーザ光を用いれば線状の光源を作製することもできるので、この比をさらに大きくすることもできる。したがって、従来の磁気ヘッドを用いたプリフォーマット記録に比べれば、十分に大きな生産性を有する。
図18は、本発明の第2の実施の形態のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法における磁界印加方法の一構成例を示す断面図である。この磁界は、磁気記録媒体を直流消去するための磁界や直流バイアス磁界を印加するための磁界である。永久磁石35から発生した磁束を強磁性材料からなるヨーク36によって集中させ、磁気記録媒体(磁気記録層30のみ図示している)の磁気ギャップ37近傍に磁界を印加する。この永久磁石35及びヨーク36を磁気記録媒体の表面に沿って相対移動、例えば、図18中の矢印方向に永久磁石35及びヨーク36を移動することによって、磁気記録媒体の全面に対して磁界を印加することが可能となる。
また、図18では磁気記録媒体面に対して片側(図18では上側)のみに永久磁石35及びヨーク36が配置されているが、両側(図18では上下両側)に配置してもよい。両側に配置することにより、不要な垂直方向(図18では上下方向)の磁界を打ち消し、必要な面内方向(図18では左右方向)の磁界を増加させることができる。なお、永久磁石のかわりに、コイルに電流を流すことにより磁束を発生させる電磁石を用いてもよい。また、電磁石を用いた場合、印加電流を調整することにより、バイアス磁界を強くしたり、磁気記録媒体との相対移動や照射光に同期させて変化させたりすることも容易である。
また、ヨークを用いなくても磁界を印加することは可能である。しかし、この場合は磁気効率が低下するため、印加される磁界を大きくすることは比較的困難であるので、電流を大きくする等の対策が必要である。
なお、バイアス磁界の印加と同時に照射光を照射する必要があるため、装置の構成は制約される。具体的には、永久磁石やヨークによって、照射光が遮られない構成とすることが要求される。例えば、図16及び図17で示した照射光の照射方法の構成例の場合、磁気記録媒体(磁気記録層30のみ図示している)に対して、マスター情報担体1とは逆の位置(図16、17では下側)に永久磁石及びヨークを配置すればよい。図16及び図17では、磁気記録媒体の下側に永久磁石及びヨークを配置すれば、照射光4が遮られることがなくなる。
また、図17で示したレーザ光源34を用いる場合、レーザ光が磁気ギャップ部分を通過して、マスター情報担体1の表面に垂直に照射されるようにヨーク形状を変更することもできる。このようにすれば、レーザ光源34と永久磁石及びヨークがすべて同一方向に配置されていても、永久磁石及びヨークが照射光4を遮ることを回避できる。なお、レーザ光源と永久磁石及びヨークを同一方向に配置することにより、両面に磁気記録層が存在する磁気記録媒体に対して、両面同時に転写記録することも可能となる。
図19は、マスター情報担体の情報信号の記録波長λを変化させたときに磁気記録媒体に印加される転写記録磁界の分布を示す。強磁性薄膜により形成された情報信号配列に対応する形状パターンにおいて、情報信号の記録波長をλとしたとき、この記録波長λはマスター情報担体の場所により異なる値を有する。すなわち、マスター情報担体のマスター情報信号は、例えばマスター情報担体の径方向の内側では強磁性薄膜3からなる情報信号配列パターンを短くし、径方向の外側では長くすることが行われている。
図19に示すように、A点に印加される磁界は、情報信号の記録波長λを長くするとともに減少している。記録波長λが最も短いλ1の場合、太い実線210で示すような転写記録磁界分布を示す。記録波長λが中間の値であるλ2の場合、実線220で示すような磁界分布を示す。また、記録波長λが最も長いλ3の場合、破線230で示すような転写記録磁界分布を示す。これらからわかるように、記録波長λが長くなるにつれてA点に印加される磁界は減少する。
これは、記録波長λが長くなれば、隣接する強磁性薄膜3間の距離も増加させる必要があるため、A点近傍での磁束の広がりが大幅に増加することによる。もう少し詳細に述べると、記録波長λを長くするときには強磁性薄膜3の長さも増加させる必要がある。それにより強磁性薄膜3の反磁界が減少し、その結果強磁性薄膜3を流れる磁束量そのものは増加する。しかしながら、この増加量以上に隣接する強磁性薄膜3間の距離が増加するため、結果的にA点近傍にかかる転写記録磁界は減少する。
これに対して、B点近傍には、記録波長λが最も長いλ3の場合のみ磁界がかかっており、それ以外のλ1及びλ2では殆ど磁界がかかっていない。強磁性薄膜3の長さが増加すると、より多くの磁束が強磁性薄膜3を流れるようになる。その結果、印加する直流バイアス磁界が同一でも、強磁性薄膜3の長さが長いほど磁化が飽和し易くなる。すなわち、図19において、記録波長λが最も長いλ3の時の強磁性薄膜3の磁化は飽和しており、そのため、B点近傍に不要な磁界がかかっているのである。なお、図19で示す転写記録磁界は、直流バイアス磁界は一定で、記録波長λのみが異なる場合について示している。
図19で示すような情報信号の記録波長λ、磁気記録媒体に印加される転写記録磁界の条件において、図中破線240で示す保磁力を有する磁気記録媒体に対して転写記録を行う場合、記録波長λが最も長いλ3のA点近傍のみ転写記録磁界が保磁力を下回る。そのため、記録波長λが最も長いλ3のA点近傍に照射光4を照射し、保磁力を低下させることにより、大幅に転写記録性能を向上させることが可能である。つまり、このように種々の記録波長λが混在する情報信号を磁気記録媒体に転写記録する場合、本発明の記録方法によれば容易に良好な転写記録を実現することが可能となる。
一般的に、プリフォーマット情報信号には、種々の記録波長λが混在する。例えば、図5から図7に示した情報信号配列パターンでは、マスター情報担体の半径に比例して記録波長λを大きく変化させている。そのため、種々の記録波長λに対して良好な転写記録を実現することが要求される。本発明のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法を用いた場合、情報信号の記録波長λに合わせて、磁気記録媒体への光の照射量を制御することで、磁気記録媒体の温度を制御できることから磁気記録媒体の保磁力を容易に制御可能である。
図17で示したレーザ光を走査することによって光を照射する場合、照射領域の記録波長λに合わせてマスター情報担体1へのレーザ照射量(例えば、照射時間や照射パワー)を変化させることが可能である。また、この場合、記録波長λが長い領域のみにレーザ光を照射すれば、レーザ光の走査時間を短縮でき、生産性を向上させることもできる。
これに対して、図16で示したランプ光源33を用いてマスター情報担体1の全面に渡って一様に照射する場合、記録波長λに合わせてマスター情報担体1への光の照射量を部分的に変化させることは容易ではない。しかしながら、既述したように、マスター情報担体1に照射された照射光4が、マスター情報担体1を透過し磁気記録媒体の表面に到達するか否かは、照射光4の波長と透過部分の領域幅に依存する。この関係は、情報信号の記録波長λが長い領域では、照射光4がマスター情報担体1を透過して磁気記録媒体の表面に到達するが、記録波長λが短い領域では、磁気記録媒体の表面に到達し難いということを意味する。つまり、この関係を積極的に活用することにより、情報信号の記録波長λに合わせて磁気記録媒体へ照射する照射光量を変化させることが可能である。これにより、記録波長λが異なるマスター情報担体であっても良好な転写記録が可能となる。
なお、この照射光4の波長と透過部分の領域幅の関係は、図17で示したレーザ光を用いた場合でも、容易に活用可能である。
また、情報信号の記録波長λが長い部分のみに光を照射することにより、本発明の効果が得られることで、照射光4の短波長化を遅らせることが可能となる意味からも非常に効果が大きい。
図20は、直流バイアス磁界に対するA点及びB点にかかる磁界の関係を示す。A点にかかる磁界は直流バイアス磁界の増加に伴いほぼ単調に増加している。それに対して、B点にかかる磁界は、直流バイアス磁界が小さい時はほぼ零で殆ど変化なく、直流バイアス磁界がある磁界を越えると単調に増加している。このB点にかかる磁界の変化は、強磁性薄膜3の磁化の状態の変化によって発生している。具体的には、強磁性薄膜3の磁化が未飽和の状態のときには、殆どの磁束が強磁性薄膜3中を流れ、隣接するB点近傍に印加される磁界がほぼ零になる。しかし、強磁性薄膜3の磁化が飽和すると、それ以上磁束を集めることができない。そのため、隣接するB点近傍に印加される磁界も増加する。
なお、強磁性薄膜3の磁化が飽和しているときのA点及びB点にかかる磁界の傾きはほぼ同じで、どちらも1(直流バイアス磁界が1増加すると、それぞれの点にかかる磁界も1増加する)である。このときのA点とB点にかかる磁界の差が大きいほど、転写能力が高いと考えられる。以下、この磁界の差を実効転写磁界とよぶ。なお、実効転写磁界としては磁気記録層に平均的にかかる磁界を求めるため、A点及びB点は磁気記録層の膜厚中央部に存在する点とする。
図21に、情報信号の記録波長λ、強磁性薄膜3の膜厚t、強磁性薄膜3と磁気記録媒体との距離dをパラメータとして、これらの値を種々変化させて実効転写磁界を計算した結果を示す。なお、距離dについて正確な表現をすれば、図13(b)に示すように強磁性薄膜3からA点(B点)までの距離である。具体的には、0.2μm≦λ≦8μm、0.1μm≦t≦2μm、5nm≦d≦200nmの範囲で変化させた。図21からわかるように、距離dの増加に伴い実効転写磁界が減少しているが、それ以外には特に明確な相関を見出すことはできない。
図22は、図21に示すデータについて横軸の値をd/λとし、縦軸を実効転写磁界としたときの関係を示す。d/λが大きくなるとともに実効転写磁界が減少しているが、図21の場合と同様にそれ以外については明確な相関を見出すことはできない。
つぎに、アスペクト比をt/λと定義し、3種類のアスペクト比のデータのみを抽出した結果を図23に示す。具体的には、アスペクト比t/λ=1.0、0.5、0.25とし、これらをパラメータとして、実効転写磁界とd/λとの関係を求めた。この図より、アスペクト比t/λ毎に実効転写磁界とd/λとの関係は異なることがわかる。言い換えれば、アスペクト比t/λとd/λとが決まれば、実効転写磁界は一義的に決まることが見出された。アスペクト比t/λとd/λとが同一の場合(例えば、λ=1μm、t=0.5μm、d=50nmとλ=0.8μm、t=0.4μm、d=40nm)、両形状は相似関係にある。この結果を基にすると、同じ磁界が印加されることが当然の結果であることが見出せた。つまり、ここで得られた結果は、情報信号の記録波長λ、強磁性薄膜3の膜厚t、及び強磁性薄膜3と磁気記録媒体との距離dが図21から図23までに示した値の範囲に限定的に成立する関係ではなく、それ以外の広い範囲でも成立するものである。
各アスペクト比t/λでの結果を比較すると、アスペクト比t/λが大きいほど実効転写磁界が大きくなることがわかる。これは、(1)記録波長λが長いほど隣接する強磁性薄膜間の距離を長くするためA点にかかる磁界が低下する、(2)記録波長λが長いほど強磁性薄膜の長さを長くするため小さな直流バイアス磁界でも飽和し易く、B点に不要な磁界が印加される、(3)強磁性薄膜の膜厚tが厚いほど、強磁性薄膜に多くの磁束が集中する、という理由から考えて妥当な結果であると考えられる。
また、アスペクト比t/λが1.0と0.5とでは、殆ど実効転写磁界が変化していない。これより、アスペクト比が0.5以上では、実効転写磁界は殆ど増加しないことが見出された。
図24は、それぞれのアスペクト比t/λにおいて、実効転写磁界の最大値で正規化した結果を示す。正規化することにより、どのアスペクト比t/λでも同一の結果になっていることがわかる。つまり、実効転写磁界の変化率とd/λの関係は一義的に決まることが見出された。図24より、d/λ≧1では、実効転写磁界が殆ど零となることがわかる。そのため、d/λ≧1の状態では、本発明のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法の効果を発揮することはできない。一方、d/λ<1であれば、効果に対して程度の差はあるが、本発明のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法の効果を発揮することが可能である。上記のd/λ=1となる距離dが、強磁性薄膜と磁気記録媒体との距離d1に相当する。すなわち、d1/λ<1であり、d1<λを満たす場合に効果を発揮することが可能となる。
また、本発明のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法において、転写記録能力に相当する実効転写磁界が変化すると、転写記録された信号出力が変化する。転写記録された信号において、許容される出力変動は概ね30%以下である。これを満足するためには、実効転写磁界の変化も30%以内にする必要がある。例えば、強磁性薄膜と磁気記録媒体とを接触させて転写記録を行う場合において、両者の密着状態がばらつけば距離dが変化し、実効転写磁界も変化する。例えば、強磁性薄膜と磁気記録媒体とが接触した部分のd/λは非常に小さく、その部分にかかる実効転写磁界はほぼ最大(図24中の正規化実効転写磁界では約1)となる。それに対して、密着性が悪い部分でも、実効転写磁界の低下は30%以内に抑える必要がある。すなわち、図24中の正規化実効転写磁界では0.7以上で、Yで示す範囲である。つまり、この実効転写磁界の変動を30%以内にするためには、d/λ≦0.1を満足させる必要があることが図24よりわかる。上記のd/λ=0.1となる距離dが、強磁性薄膜と磁気記録媒体とは少なくとも一部が接触しており、かつ強磁性薄膜と磁気記録媒体との距離d2に相当する。すなわち、d2/λ≦0.1であり、d2≦0.1×λを満たす場合に良好な転写記録が可能となる。
また、強磁性薄膜と磁気記録媒体の少なくとも一部が接触している場合だけに限らず、両者が接触していない場合でも、d2≦0.1×λを満たすことにより、実効転写磁界の変動を30%以下に抑えられ、非常に良好な転写記録を実現することができる。
つまり、強磁性薄膜と磁気記録媒体の接触の有無にかかわらず、d2≦0.1×λを満足することにより、非常に良好な転写記録を実現できる。
また、磁気記録媒体の保磁力が異なる種々のディスクに対して、本発明の記録方法と面転写方式を用いて転写記録を行い、信号性能の比較を行った。なお、どちらの記録方式においても、マスター情報担体は同一の構成とした。具体的には、図11で示したマスター情報担体の製造方法によって作製し、光を透過可能な非磁性基体に合成石英、強磁性薄膜材料にCoをそれぞれ用いた。Coの膜厚は0.2μmとし、転写記録する情報信号の記録波長が半径に比例して1.0μmから2.5μmの範囲で変化するものと、0.6μmから1.5μmの範囲で変化するものの2種類のマスター情報担体を作製した。照射光としては、波長248nmのエキシマレーザを用い、強度は60mJ/cm2、ビームサイズは35mm×12mmとした。図18に示した磁界印加方法を用い、レーザ光の照射側とは逆側に配置した。なお、本検討では、レーザ光源、マスター情報担体、磁気ディスク、永久磁石やヨークの位置関係を変化させずに、固定して検討を行った。
転写記録する情報信号の記録波長を1.0μmから2.5μmの範囲で変化させた場合の実験結果では、磁気記録媒体の保磁力が4kOe(320kA/m)以上の時に、本発明の効果が顕著に得られた。具体的には、保磁力が4kOeよりも小さな磁気記録媒体では両方法の信号性能差は殆どなく、4kOe近傍で磁気ディスクの外周部分のみの信号性能が改善され、保磁力の増加とともにその範囲は拡大し、6kOe(480kA/m)を超えたあたりでほぼ全面にわたって信号性能を改善することができた。
また、ディスク内での改善の度合いを比べると、外周に近づくにつれて改善効果が増加する傾向が得られた。なお、ここで述べた信号性能の改善とは、再生出力の増加や出力波形の歪みの低減等である。
それに対して、情報信号の記録波長を0.6μmから1.5μmの範囲で変化させた場合には、磁気記録媒体の保磁力が増加しても、全面にわたる信号性能改善は実現しなかった。具体的には、記録波長が0.8μm程度より短い領域では、信号性能の改善が見出せなかった。これは、本検討のレーザ光の照射条件では、記録波長が0.8μm程度より短い領域においては、レーザ光で照射された磁気記録層の領域が充分な温度まで昇温しなかったことを意味している。これを回避するには、レーザ光の短波長化やレーザ光強度をさらに大きくすればよい。
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、以下のようなステップにより実現することができる。すなわち、まず、基板上に少なくとも一層の磁気記録層及び保護層を形成し、さらにこの保護層上に潤滑層を形成する。つぎに、形成された磁気記録媒体の磁気記録層に対して、非磁性基体上に情報信号配列に対応する形状パターンが強磁性薄膜により形成されたマスター情報担体の強磁性薄膜側が磁気記録層に対向するように配置する。このように配置した後、少なくとも磁気記録媒体の磁気記録層及びマスター情報担体の強磁性薄膜に対してバイアス磁界を印加するとともに、マスター情報担体を介してマスター情報担体の隣接する強磁性薄膜間の領域と対向する磁気記録媒体表面を局所的に加熱することで、磁気記層に情報信号配列に対応する磁化パターンを記録する。このような工程により、磁気記録媒体に情報信号配列に対応する磁化パターンを記録した磁気記録媒体を製造することができる。
なお、この製造方法において、非磁性基体が透光性を有し、かつ、強磁性薄膜が遮光性を有し、磁気記録媒体表面の局所的な加熱がマスター情報担体の隣接する強磁性薄膜間の領域を介して透過した光エネルギーの照射により行う方法とすると、局所的で、かつ非常に短時間に加熱することができるので微細な磁化パターンの記録が可能となる。
さらに、この製造方法において、マスター情報担体は隣接する強磁性薄膜間の領域に突出した形状の突出部を有し、磁気記録媒体への局所的な加熱がマスター情報担体の突出部を介して熱エネルギーを伝達することにより行う方法としてもよい。この方法では、突出部からの熱伝導により局所的に加熱できるので、加熱方法の選択の自由度を大きくできる。
(第3の実施の形態)
図25は、本発明の第3の実施の形態にかかる磁気記録再生装置を説明するための概略構成図である。
図25に示すように、本発明のマスター情報信号の磁気記録媒体への記録方法によってプリフォーマット記録された磁気ディスク媒体41がスピンドル42上に少なくとも一枚支持され、スピンドルモータ43によって回転する。また、薄膜磁気ヘッド44がサスペンション45を介してアクチュエータアーム46に取り付けられ、さらに、アクチュエータアーム46はアクチュエータ47に取り付けられる。
このため、薄膜磁気ヘッド44はアクチュエータ47が動作することによって磁気ディスク媒体41の面上を回動できる。薄膜磁気ヘッド44は磁気ディスク媒体41面に対向して配置され、磁気ディスク媒体41の回転、及び薄膜磁気ヘッド44の磁気ディスク媒体41の半径方向の移動によって、磁気ディスク媒体41のほぼ全面に対して信号の読み書きが可能となる。
磁気ディスク媒体41の回転の制御、薄膜磁気ヘッド44の位置制御及び記録再生信号の制御等は制御回路48で行われる。
このような構成にすることにより、高記録密度化に伴い保磁力が大きくなった磁気記録媒体に対しても、生産性に優れ、かつプリフォーマット記録された信号品質の良好な磁気記録再生装置を安価に実現することができる。つまり、本発明の磁気記録再生装置を用いることにより、今後の高記録密度化対応が比較的容易になる。
以上、本発明の実施の形態の一例について説明したが、本発明の構成は様々な実施形態への応用が可能である。例えば本明細書では、主にHDD等に搭載されるディスクに応用することについて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、フレキシブル磁気ディスク、磁気カード及び磁気テープ等の磁気記録媒体においても応用可能であり、同様の効果を得ることができる。
また、上記では、磁気記録媒体に記録される情報信号に関しては、トラッキング用サーボ信号やアドレス情報信号、クロック信号等のプリフォーマット情報信号について説明したが、本発明の構成が応用可能な情報信号も上記に限定されない。例えば、本発明の構成を用いて様々なデータ信号やオーディオ、ビデオ信号の記録を行うことも可能である。この場合には、本発明のマスター情報担体とこれを用いた磁気記録媒体への記録技術によって、ソフトディスク媒体の大量複写生産を行うことができ、安価に提供することが可能である。
なお、第1の実施の形態から第3の実施の形態までにおいては、透光性の非磁性基体を用いて、この非磁性基体を介して磁気記録媒体に光照射を行い、局所的な加熱とバイアス磁界の印加により発生する転写記録磁界を用いて転写記録する方法について説明したが、本発明はさらに以下のようにしてもよい。
すなわち、非磁性基体上に情報信号配列に対応する形状パターンが強磁性薄膜の配列により形成され、隣接する強磁性薄膜間の領域が突出した形状の突出部を有しているマスター情報担体を用いて、磁気記録媒体への局所的な加熱がマスター情報担体の突出部を介して熱エネルギーを伝達することにより行われる方法としてもよい。この場合、種々の方法によって容易に加熱することができる。具体的には、ランプやレーザの照射やヒータ等で、マスター情報担体の磁気記録媒体とは逆側の面を加熱する方法である。これらの方法で、非磁性気体、強磁性薄膜及び突出部を加熱し、突出部を介して磁気記録媒体を局所的に加熱するのである。なお、このマスター情報担体の場合、透光性や遮光性等の材料特性は要求されない。そのため、半導体デバイスの基板として一般的に使用されているSiウエハを用いることも可能である。
図26は、上記の隣接する強磁性薄膜間の領域が突出した形状の突出部を有しているマスター情報担体60の断面図を示す。このマスター情報担体60は、非磁性基体62上に情報信号配列に対応する形状パターンが強磁性薄膜64の配列により形成されており、隣接する強磁性薄膜64間の領域が高さhだけ突出した形状の突出部66を有している。
あらかじめ直流消去磁界を印加して磁気記録層を膜面方向に一様に直流消去して膜面方向に沿った直流消去磁化を形成して磁気記録媒体とマスター情報担体60とを対向配置させ、非磁性基体62の突出部66と磁気記録媒体とを密着させる。その状態で、非磁性基体62を加熱すると、突出部66と接触している磁気記録媒体が局所的に加熱される。この加熱と同時に、直流消去磁界とは逆極性の直流バイアス磁界を印加することで、マスター情報信号を磁気記録媒体へ転写記録できる。
また、この突出部66を磁気記録媒体に密着させた場合、強磁性薄膜64からの突出量hと図13(b)で規定した距離dとの関係は、以下のようになる。
d=h+(保護層厚み)+(潤滑層厚み)+(磁気記録層厚み)/2
そのため、図24において説明した距離dと記録波長λとのd<λの関係を成立させ、本発明の効果を発揮するには、少なくともh<λの関係を満足する必要がある。また、同様にd≦0.1×λの関係を成立させ、さらに良好な転写性能を実現するには、少なくともh<0.1×λの関係を満たす必要がある。
なお、保護層厚み、潤滑層厚みは磁気記録媒体の磁気記録層上に形成されている保護層及び潤滑層の厚さのことである。
また、突出部のかわりに、この強磁性薄膜間の部分が発熱する構造にすることによって、磁気記録媒体を局所的に加熱してもよい。この場合、強磁性薄膜間の部分は通電または電磁波により発熱する非磁性の固体からなり、強磁性薄膜間の部分で発熱した熱エネルギーを磁気記録媒体へ伝達するようにすれば、局所的な加熱により保磁力を低減させて良好な転写記録が可能となる。通電による加熱の場合には、強磁性薄膜と強磁性薄膜間の材料の導電率を変化させることにより、発熱をコントロールすることが可能である。非常に電気を流し難い強磁性材料としては、酸化鉄やフェライト等の酸化膜等を用いることができる。電磁波を用いる場合でも、材料を適宜選択することにより、同様に発熱をコントロールすることが可能である。