JP4081572B2 - 水酸基を有する化合物のシリル化方法 - Google Patents

水酸基を有する化合物のシリル化方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物の水酸基の保護並びに加水分解性を有する反応性ケイ素化合物や機能性ケイ素化合物の製造に際して有用な水酸基を有する化合物のシリル化方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
医薬や農薬等の製造工程をはじめとする有機合成反応において、一般に水酸基は反応性が高いため、一時的に保護する必要が生じる場合がある。水酸基の保護基として、トリメチルシリル基に代表されるトリアルキルシリル基をはじめ、さまざまな置換基を有するシリル基がこれまでに開発されている。ここでは、目的にあった適当な加水分解性を有する保護基の開発と同時に、温和で収率の高い保護基の脱着方法の開発も重要な課題である。更に、環境問題や製造コストに鑑み、保護・脱保護の際に生じる副生成物をできるだけ少なくすることが要求されている。
【0003】
一方、ケイ素材料化学の観点からは、ケイ素原子にアルコキシ基等のような加水分解性基を結合させた化合物は、シランカップリング剤や撥水剤、表面処理剤、更には変性シリコーンポリマーやその原料として広範に用いられている。これらにおいてもアルコール等の水酸基を有する化合物とケイ素化合物の反応によって加水分解性基が導入されることが多い。
【0004】
アルコキシ基等の加水分解性基をケイ素原子上に導入する方法としては、クロロシラン類のようにケイ素−ハロゲン結合を有する有機ケイ素化合物を前駆体(シリル化剤)として、これに水酸基を有する化合物を反応させるのが最も一般的である。この水酸基のシリル化反応は脱ハロゲン化水素反応であり、生成したハロゲン化水素を化学量論量の塩基によって捕捉することにより、収率よく反応を進行させる。従って、反応終了時には大量の塩が副生成物として存在し、目的物を単離するためにはこれを分離することが必要である。しかし、特に目的物の加水分解性が高い場合には、ろ過等の分離操作が困難となることが多く、また分離した塩は通常、廃棄物となるため、環境に配慮した方法とは言えない。
【0005】
シリル化剤として、クロロシラン類ではなく1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンやN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド、N,N−ビス(トリメチルシリル)尿素等を用いてシリル化反応を行うと、水酸基をトリメチルシリル化することができ、塩基を添加する必要がない点で優れている。しかし、これらの市販のシリル化剤は、ほとんどがトリメチルシリル化剤であり、トリメチルシリル基以外に導入できるシリル基は極めて制限されていた。
【0006】
また、シリル化剤としてケイ素−水素結合を持つケイ素化合物を用いて水酸基をシリル化(脱水素シリル化)する方法があり、これは様々なシリル基を導入することができる点、反応の副生成物が水素のみであるためにろ過等の分離操作を必要とせず、大量の廃棄物を排出する必要がない点等において優れている。例えば、アルコールの水酸基をシリル化する場合、この反応は無触媒ではほとんど進行せず、ケイ素−水素結合を活性化するために触媒を必要とする。
【0007】
アルコールの脱水素シリル化触媒としては、(1)アルカリ金属アルコキシドやアルカリ金属水酸化物にクラウンエーテルを添加したもの(特開2001−39990号公報及びChem.Commun.2001年1408〜1409ページ参照)、(2)トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等のルイス酸(J.Org.Chem.1999年64巻4887〜4892ページ参照)、(3)フッ化テトラブチルアンモニウム(Tetrahedron Letters1994年35巻8413〜8414ページ、及び特開平7−82276号公報参照)、(4)遷移金属錯体及び担体担持遷移金属等が報告されている。(1)や(3)では、触媒の親水性が高く、シリル化剤が水と反応する副反応分を補うために過剰のシリル化剤が必要であり、シリル化剤に対する収率は低くならざるを得ない。また、(2)では反応基質であるアルコールに対して1〜8モル%の触媒が必要であるが、この触媒は高価であるため工業的に有用ではない。
【0008】
これまでに、ヒドロシラン類をシリル化剤として触媒に遷移金属錯体を用いる方法(4)が数多く報告されている。水とヒドロシラン類の反応方法としては、J.Am.Chem.Soc.2000年122巻12011〜12012ページに、ルテニウム錯体([RuCl2(p−cymene)]2)を用いて高い選択性で脱水素反応を行う方法が記載されている。この方法は比較的低温で反応が進行し、また水素添加反応を受けやすい脂肪族不飽和結合を有する基質でも反応を行えるなどの特徴があるが、反応を空気中、より好ましくは酸素中で行っており、潜在的に着火・爆発の危険性があるため工業的生産には向かない。一方、特開2001−114788号公報には、カルボニル基を配位子として有するルテニウムカルボニル錯体の存在下で、水酸基を有する化合物をシリル化する方法が開示されている。この方法ではルテニウム化合物の使用量が少なく、触媒効率が高い。基質の適用範囲も広く、また市販のルテニウムカルボニル錯体を用いて反応を行える点で優れている。しかし、1−オクタノールのように、構造が類似している1−ヘキサノールに比べると著しく長時間の反応時間を要するものがあり、より高活性な触媒系が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、簡便かつ高効率で、反応時間が短く、廃棄物となる副生成物の少ない水酸基を有する化合物のシリル化方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ルテニウムカルボニル錯体及びプロトン酸の存在下、水酸基を有する化合物とケイ素−水素結合を有する化合物とを反応させることにより、水酸基を有する化合物のシリル化を高効率で簡便に、廃棄物となる副生成物も少なく、また従来よりも短時間で行うことができることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、ルテニウムカルボニル錯体及びプロトン酸の存在下、水酸基を有する化合物とケイ素−水素結合を有する化合物とを反応させることを特徴とする水酸基を有する化合物のシリル化方法を提供する。
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の水酸基を有する化合物のシリル化方法は、ルテニウムカルボニル錯体及びプロトン酸の存在下に、水酸基を有する化合物とケイ素−水素結合を有する化合物とを反応させるものである。
【0013】
本発明における水酸基を有する化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、4−tert−ブチルフェノール、ヒドロキノン等のフェノール類、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、4−メトキシ安息香酸、4−アセチル安息香酸等のカルボン酸類、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等のシラノール類、水等が挙げられる。
【0014】
一方、ケイ素−水素結合を有する化合物としては、SiH基を有する化合物であればいずれのものでもよく、シラン化合物やシロキサン化合物が用いられ、例えば、トリエチルシラン、tert−ブチルジメチルシラン、トリイソプロピルシラン、tert−ブチルジイソプロピルシラン、フェニルジメチルシラン等のヒドロシラン類、1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,1,1,3,3−ペンタメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,1,3,5,5,5−ヘプタメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)シラン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、ポリメチルヒドロシロキサン、1,ω−ジヒドロポリジメチルシロキサン等のヒドロシロキサン類等が挙げられる。
【0015】
上記の水酸基を有する化合物とケイ素−水素結合を有する化合物とは、任意の割合で反応させることができる。本発明においては、一方の基質を過剰にする必要はなく、通常、モル比で1:1.1〜1.1:1の割合で反応させることが好ましいが、一方の基質が他方より著しく高価である場合等には、安価な基質を大過剰に用いることもできる。
【0016】
本発明に用いられるルテニウムカルボニル錯体としては、ルテニウムペンタカルボニル、ジルテニウムノナカルボニル、トリルテニウムドデカカルボニル等が知られているが、空気中で安定であり、取り扱いが容易で入手しやすいトリルテニウムドデカカルボニルの使用が最も好ましい。
【0017】
ルテニウムカルボニル錯体の添加量は、反応基質中の水酸基あるいはケイ素−水素結合のモル数に対してルテニウム原子換算で通常1×10-4〜10モル%、好ましくは5×10-3〜1モル%である。
【0018】
本発明では、上記のルテニウムカルボニル錯体に加えてプロトン酸の存在下に反応を行う。用いる酸としては、無機酸又はスルホン酸が好ましく、具体的には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸が例示される。また、基質であるアルコールや水等と反応して酸を発生する化合物を添加することにより、反応系内でプロトン酸を発生させることも可能である。このような化合物の例として、クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン等のクロロシラン類、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、トリフルオロメタンスルホン酸(tert−ブチルジメチルシリル)等のスルホン酸シリルエステル類等が挙げられる。
【0019】
これらの酸、あるいは酸を発生する化合物の添加量は、ルテニウムカルボニル錯体に含まれるルテニウム原子に対して好ましくは0.01〜5当量、より好ましくは0.1〜1当量である。添加量が少ないと反応促進効果が発揮されない場合があり、添加量が多すぎると触媒活性が失われる可能性がある。
【0020】
本反応は、無溶媒で行うことが、反応器の容積あたりの目的物収量を最大にできるため、また基質濃度を最大にして反応速度を向上させるために好ましい方法である。また、反応基質の相溶性が低い場合には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒や、ヘキサン、イソオクタン、トルエン等の炭化水素系溶媒等を用いて反応を行うことが好ましい。これら溶媒の使用量は任意であるが、基質が溶解する最小限の量を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、基質の添加順序は任意であり、水酸基を有する化合物とルテニウムカルボニル錯体及び酸を反応器に仕込み、ケイ素−水素結合を有する化合物をフィードする方法、ルテニウムカルボニル錯体及び酸とケイ素−水素結合を有する化合物を反応器に仕込み、水酸基を有する化合物をフィードする方法、ルテニウムカルボニル錯体、酸及び溶媒を反応器に仕込んで水酸基を有する化合物とケイ素−水素結合を有する化合物を同時にフィードする方法等、様々な形態で実施できる。
【0022】
反応温度は、通常0〜150℃の範囲で行われるが、低温では反応進行が遅くなる場合があり、高温では触媒の失活が速くなる場合があるので20〜120℃がより好ましい。
【0023】
本発明の反応は、常圧下、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で行われる。副生成物である水素ガスは、不活性ガスでパージする等の方法により反応系外に出すのが好ましい。
【0024】
上記方法によりシリル化された水酸基を有する化合物は、反応混合物から蒸留やカラムクロマトグラフィー等の方法によって単離することができる。
【0025】
ここで、原料の水酸基を有する化合物をR−OHとし、ケイ素−水素結合を有する化合物をR123Si−Hと表した場合、得られる化合物は、
R−O−SiR123
で表すことができる。なお、Rは、例えば先に例示した水酸基を有する化合物において、OH基を除いた基又は原子を表し、R123は、例えば先に例示したケイ素−水素結合を有する化合物において、SiH基のSiに結合する基又は原子を表す。
【0026】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら制限されるものではない。
【0027】
[実施例1]1−オクタノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(メタンスルホン酸添加)
滴下ロート、還流冷却器(0℃ブライン)、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内にtert−ブチルジメチルシラン11.6g(0.10mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru3(CO)12、Strem Chemicals製)2.1mg(3.3μmol)、及びメタンスルホン酸0.32mg(3.3μmol)を仕込み、82℃で1時間加熱撹拌した。得られたわずかに黄色がかった溶液に、滴下ロートから1−オクタノール26.0g(0.20mol)を79〜84℃で1時間50分かけて滴下した。滴下に伴い発熱、発泡がみられた。滴下終了後、ガスクロマトグラフィー(GC)により反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は100%であった。ガスクロマトグラフィー−質量(GC−MS)分析により、0.5%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外はすべて1−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)オクタンに転化したことが確認された。
【0028】
[比較例1]2−プロパノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(酸を添加しない場合)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内にtert−ブチルジメチルシラン11.6g(0.10mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Strem Chemicals製)2.1mg(3.3μmol)を仕込み、79℃で1時間加熱撹拌した。得られたわずかに黄色がかった溶液に、滴下ロートから1−オクタノール6.5g(0.05mol)を80〜83℃で35分かけて滴下した。発泡は見られなかった。滴下終了後、GCにより反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの転化率は0.2%であった。実施例1に比べて反応の進行はきわめて遅かった。
【0029】
[実施例2]2−プロパノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(トリフルオロメタンスルホン酸添加)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内に2−プロパノール12.0g(0.20mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru3(CO)12、Strem Chemicals製)4.3mg(6.7μmol)、及びトリフルオロメタンスルホン酸3.0mg(20μmol)を仕込み、80℃で1時間加熱撹拌した。得られた黄オレンジ色の溶液に、滴下ロートからtert−ブチルジメチルシラン11.6g(0.10mol)を内容物の還流温度で1時間25分かけて滴下した。滴下に伴い発熱、発泡がみられた。滴下終了後、内温は87℃であった。GCにより反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は99%であった。GC−MS分析により、約3%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外は、すべて2−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)プロパンに転化したことが確認された。
【0030】
[実施例3]2−プロパノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(メタンスルホン酸添加)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内にtert−ブチルジメチルシラン29.1g(0.25mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Strem Chemicals製)2.7mg(4.2μmol)、及びメタンスルホン酸0.40mg(4.2μmol)を仕込み、85℃で1時間加熱撹拌した。得られたわずかに黄色味がかった溶液に、滴下ロートから2−プロパノール30.1g(0.50mol)を内容物の還流温度で1時間30分かけて滴下した。滴下に伴い発泡がみられ、滴下終了後の内温は77℃であった。GCにより反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は79%であった。還流下で更に1時間反応を続けたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は100%に達した。約3%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外は、すべて2−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)プロパンに転化したことがGCにより確認された。
【0031】
[実施例4]2−プロパノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(ドデシルベンゼンスルホン酸添加)
メタンスルホン酸の代わりにドデシルベンゼンスルホン酸1.4mg(4.2μmol)を添加した以外は実施例2と同様に反応を行った。2−プロパノールの滴下終了から1時間、還流下で反応を続けたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は100%に達した。約3%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外は、すべて2−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)プロパンに転化したことがGCにより確認された。
【0032】
[実施例5]2−プロパノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(クロロトリエチルシラン添加)
メタンスルホン酸の代わりにクロロトリエチルシラン0.63mg(4.2μmol)を添加した以外は実施例2と同様に反応を行った。2−プロパノールの滴下終了から1時間、還流下で反応を続けたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は99%以上に達した。約3%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外は、すべて2−(tert−ブチルジメチルシリロキシ)プロパンに転化したことがGCにより確認された。
【0033】
[比較例2]2−プロパノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(酸を添加しない場合)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内に2−プロパノール6.0g(0.10mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Strem Chemicals製)2.1mg(3.3μmol)を仕込み、80℃で1時間加熱撹拌した。得られたオレンジ色の溶液に、滴下ロートからtert−ブチルジメチルシラン5.8g(0.05mol)を内容物の還流温度で1時間25分かけて滴下した。滴下に伴い内温は81℃から73℃に低下した。滴下終了後、GCにより反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの転化率は71%であった。実施例2〜5に比べて反応の進行は遅かった。
【0034】
[実施例6]シクロヘキサノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(トリフルオロメタンスルホン酸添加)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内にシクロヘキサノール20.0g(0.20mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Strem Chemicals製)4.3mg(6.7μmol)、及びトリフルオロメタンスルホン酸1.0mg(6.7μmol)を仕込み、約80℃で1時間加熱撹拌した。得られた黄色の溶液に、滴下ロートからtert−ブチルジメチルシラン11.6g(0.10mol)を80〜83℃で1時間20分かけて滴下した。滴下に伴い発熱、発泡がみられた。滴下終了後、79℃で30分撹拌を続け、GCにより反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は100%であった。GC−MS分析により、約3%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外は、すべてtert−ブチルジメチルシリロキシシクロヘキサンに転化したことが確認された。
【0035】
[比較例3]シクロヘキサノールとtert−ブチルジメチルシランの反応(酸を添加しない場合)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた100mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内にシクロヘキサノール20.0g(0.20mol)及びトリルテニウムドデカカルボニル(Strem Chemicals製)4.3mg(6.7μmol)を仕込み、80〜84℃で1時間加熱撹拌した。得られた黄色の溶液に、滴下ロートからtert−ブチルジメチルシラン11.6g(0.10mol)を80〜84℃で1時間かけて滴下した。滴下に伴い少量発泡がみられた。滴下終了後、GCにより反応混合物の組成を調べたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は24%であった。82〜86℃で3.5時間反応を続けたところ、tert−ブチルジメチルシランの反応率は100%に達した。GCにより、約4%がtert−ブチルジメチルシラノールに転化した以外は、全てtert−ブチルジメチルシリロキシシクロヘキサンに転化したことが確認された。実施例6に比べて反応の進行は遅かった。
【0036】
[実施例7]1−プロパノールと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応(メタンスルホン酸添加)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた200mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。フラスコ内に1−プロパノール15.0g(0.25mol)、トリルテニウムドデカカルボニル(Strem Chemicals製)10.7mg(16.7μmol)、及びメタンスルホン酸1.6mg(16.7μmol)を仕込み、77℃で1時間加熱撹拌した。得られたオレンジ色の溶液を更に96℃に加熱し、滴下ロートから1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン12.0g(0.05mol)を96〜109℃で4時間かけて滴下した。滴下に伴い発熱、発泡がみられた。滴下終了後、109℃で1時間反応を続け、GCにより反応混合物の組成を調べたところ、反応は完結していた。GC−MS分析により、目的の1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラプロポキシシクロテトラシロキサンが幾何異性体混合物として生成していることがわかった。GCより全生成物中の目的物の割合は74%であった。
【0037】
[比較例4]1−プロパノールと1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンの反応(酸を添加しない場合)
滴下ロート、還流冷却器、温度計、撹拌機を備えた100mLのガラス四つ口フラスコを窒素置換した。メタンスルホン酸を添加しなかった以外は実施例7と同様の操作を行い、1−プロパノール滴下終了後、107℃で1時間反応を続けた。GCにより反応混合物の組成を調べたところ、ケイ素−水素結合を有する化合物が残存していた。更に4時間反応を続けたところ、反応は完結した。GC−MS分析により、目的の1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラプロポキシシクロテトラシロキサンが生成していることがわかったが、GCより全生成物中の目的物の割合は17%であった。実施例7に比べて反応の進行が遅く、目的物の収率も低かった。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、ケイ素−水素結合を有する化合物をシリル化剤として、水酸基を有する化合物を高効率で簡便にシリル化することができる。本発明のシリル化方法は、医薬・農薬等の中間体合成工程において、あるいは加水分解性基を持つ反応性有機ケイ素化合物や変性シリコーンポリマー等の製造工程において有用である。

Claims (3)

  1. ルテニウムカルボニル錯体及びプロトン酸の存在下、水酸基を有する化合物とケイ素−水素結合を有する化合物とを反応させることを特徴とする水酸基を有する化合物のシリル化方法。
  2. プロトン酸が、スルホン酸又は無機酸であることを特徴とする請求項1に記載の水酸基を有する化合物のシリル化方法。
  3. ケイ素−水素結合を有する化合物が、ヒドロシラン類及びヒドロシロキサン類から選ばれることを特徴とする請求項1又は2に記載の水酸基を有する化合物のシリル化方法。
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