JP4079638B2 - 有限要素法による残留応力解析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は溶接構造物の有限要素法による残留応力解析方法に係り、特に高い解析精度を保持しつつ、解析に要する時間を短縮する有限要素法による残留応力解析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶接構造物を製造する際、溶接部には、短時間で加熱および冷却過程が生じ、この熱サイクルにより残留応力が発生する。そのため、溶接構造物の安全設計のためには、溶接部の残留応力を解析することが重要であり、高い解析精度が要求されることが多い。
【0003】
こうした物理現象を解析する方法としては、解析対象をモデル化して解析する有限要素法による残留応力解析が一般に用いられている。普通、有限要素法による残留応力および残留変形の予測では、溶接時の全過程について溶接構造物内の温度分布の履歴を求めて解析している。
【0004】
解析対象として設定される解析モデルのモデル化条件は、要求される解析精度に従って、主にこれまでの解析データや解析技術者の経験に基づいて決定されるケースが多い。一般に、溶接構造物に高精度の解析精度が要求されるほど、解析モデル化範囲を広く設定する必要があり、また溶接部については全溶接過程の解析を行っている。
【0005】
図22に従来の有限要素法による残留応力解析のフローチャートを示す。
【0006】
従来の有限要素法による残留応力解析によれば、まず解析モデル化範囲設定段階11で解析モデル化する範囲を設定する。この際、境界条件が解析結果に及ぼす影響を考慮して、図23に示すように溶接線からの解析範囲(解析モデル境界)までの軸方向距離が、円筒胴の曲率半径Rと胴板厚さtとの積の平方根の2.5倍以上に設定される。
【0007】
解析モデル化範囲設定段階11で解析範囲を設定した後、解析モデル作成段階12では解析モデルを作成し、次の溶接部伝熱解析段階13において溶接過程について伝熱解析を行う。従来、解析対象はすべての溶接過程としている。
【0008】
次に、溶接部残留応力解析段階14において、溶接部伝熱解析段階13で得られた伝熱解析結果をもとに、溶接部残留応力を計算する。そして強度評価段階15において溶接部残留応力に基づいて強度計算および評価を行う。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の有限要素法による残留応力解析方法では、高精度の解析を必要とする場合には、解析モデル化範囲を大きく設定しなければならなかった。また、高精度の解析結果を得るために全溶接過程について解析するため、溶接部が多層溶接である場合等には、解析に要する時間が長く、解析コストが高騰していた。そのため、設計時間の短縮のためにも、溶接構造物の応力解析に要する時間及びコストの削減が求められていた。
【0010】
こうした課題に対して、特開平10−146689号公報(以下、公開公報という。)では、有限要素法による溶接部の残留応力の解析方法として、解析に要する時間の短縮を目的として、以下のような提案をしている。
【0011】
すなわち、解析対象としての溶接構造物をいくつかのサブストラクチャ(構造物エレメント)に分割し、このサブストラクチャのうち、同一と判断されるサブストラクチャ同士をグループとして認識し、複数のグループを形成する。このそれぞれのグループの内から、一つずつ代表となるサブストラクチャを選択して解析を行い、それらサブストラクチャの解析結果を再構築することによって、溶接構造物の解析結果を得るものである。
【0012】
つまり、前記公開公報に開示された解析方法によれば、同一と認識されるサブストラクチャに関しては、代表サブストラクチャだけを解析すれば良く、全体の解析に要する時間が短縮されるというものである。
【0013】
しかしながら、前記公開公報に開示された解析方法は、溶接構造物全体の解析を行う場合に比較して解析時間の短縮を実現するものであるが、溶接構造物が複雑な形状である場合には、多くのサブストラクチャに細分化する必要があり、また、同一グループと認識されるサブストラクチャの数が少ないため、必ずしも効率的な解析方法とは言えないケースもあった。
【0014】
さらに、基本的に全溶接過程を対称として解析することとしているため、溶接過程が多層溶接である場合には、解析に要する時間を効果的に短縮するものではなかった。
【0015】
本発明は上述したような事情を考慮してなされたものであり、溶接構造物の溶接部の残留応力を有限要素法により解析する場合に、高い解析精度を保持しつつ、解析に要する時間を効果的に短縮することが可能な、有限要素法による残留応力解析方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上述の目的を達成するために、十分高い解析精度を保持しつつ、解析に係る時間およびコストの削減を可能とする有限要素法による残留応力解析方法について鋭意研究した。その結果、解析モデル化範囲と解析対象とする溶接過程を狭い範囲に限定して応力解析することにより、上述した目的の達成が可能であるとの知見を得た。
【0017】
本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法は、上述した課題を解決するために、溶接構造物の有限要素法による残留応力解析方法において、解析モデル化する解析範囲を、解析対象となる溶接構造物の溶接部付近に限定し、溶接部付近の残留応力を有限要素法を用いて解析することを特徴とするものである。
【0018】
特に、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、溶接構造物の有限要素法による残留応力解析方法において、解析モデル化する解析範囲を、解析対象となる溶接構造物の溶接部付近に限定し、溶接部付近の残留応力を、有限要素法を用いて解析することを特徴とする有限要素法による残留応力解析方法であって、上記溶接構造物が円筒胴の周方向溶接部を有し、この周方向溶接部を軸対称有限要素モデルにより解析する際に、解析モデル化する範囲を下記式に示すように、溶接線から解析モデル境界までの軸方向距離Xが、
【数3】
x=n(Rt)1/2 R:円筒胴の曲率半径
0.8≦n≦2.5 t:胴板の板厚
で表される領域内に限定し、溶接部付近の残留応力を解析することを特徴とするものである。
【0019】
さらに、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法は、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、溶接構造物の有限要素法による残留応力解析方法において、解析モデル化する解析範囲を、解析対象となる溶接構造物の溶接部付近に限定し、溶接部付近の残留応力を、有限要素法を用いて解析することを特徴とする有限要素法による残留応力解析方法であって、上記溶接構造物が円筒胴の周方向溶接部を有し、この周方向溶接部を3次元有限要素モデルにより解析する際に、解析モデル化する範囲を下記式に示すように、溶接線から解析モデル境界までの軸方向距離Xが、
【数4】
x=n(Rt)1/2 R:円筒胴の曲率半径
0.4≦n≦2.5 t:胴板の板厚
で表される領域内に限定し、溶接部付近の残留応力を解析することを特徴とするものである。
【0020】
一方、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法は、上述した課題を解決するために、溶接構造物の有限要素法による残留応力解析方法において、解析対象を全溶接過程のうち、上記溶接構造物の溶接部の表層付近の溶接過程に限定し、溶接部付近の残留応力を解析することを特徴とするものである。
【0021】
さらに、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法は、上述した課題を解決するために、前記解析対象とする溶接過程は、表層付近の溶接層の最外層から数えて第1層から第4層の範囲とすることを特徴とするものである。
【0022】
上記構成に係る有限要素法による残留応力解析方法によれば、高い解析精度を保持しつつ、解析に要する時間を短縮することが可能であり、そのため、解析に要するコストを大幅に削減することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法の実施の形態について以下に示し、図を参照して具体的に説明する。
【0024】
図1は本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法のフローチャートである。
【0025】
この有限要素法による残留応力解析によれば、まず解析モデル化範囲設定段階1で解析モデル化する範囲を設定する。有限要素法による残留応力解析では、解析モデル化範囲は、解析対象の一部に限定される。従って、解析モデル化範囲は、図2に示すように溶接線からの解析範囲(解析モデル境界)までの軸方向距離Xが、溶接構造物20である円筒胴の曲率半径Rと胴板厚さtとの積の平方根の2.5倍以下に設定される。
【0026】
解析モデル化範囲設定段階1で解析範囲を設定した後、解析モデル作成段階2では解析モデルを作成し、次の溶接部伝熱解析段階3において溶接過程の伝熱解析を行う。この残留応力解析方法では、解析対象はすべての溶接過程の内、表層付近の溶接過程に限定する。
【0027】
次に、溶接部残留応力解析段階4において、溶接部伝熱解析段階3で得られた伝熱解析結果をもとに、溶接部残留応力を計算する。そして強度評価段階5において溶接部残留応力に基づいて強度計算および評価を行う。
【0028】
本発明者らの研究によれば、前記残留応力解析方法により得られる解析結果と、従来の有限要素法による残留応力解析により得られる解析結果とを比較した相対誤差が約10%程度であれば、実際の設計に応用することが可能な解析精度を有する解析方法であるとして良い。
【0029】
実施例1
本発明者らは、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法により得られた解析結果と、従来の有限要素法による残留応力解析方法により得られた解析結果とを比較した際の解析誤差が約10%程度となるような乗数nの範囲について調査した。
【0030】
解析対象として、図2に示すような円筒胴構造物の一部である溶接構造物20を用意し、解析精度の試験を行った。この溶接構造物20は、上部鋼鈑21と下部鋼鈑22とが溶接部23において溶接されて形成される。溶接部23は、図3のような開先形状の上部鋼鈑21と下部鋼鈑22とを、図3から図14に示すプロセスによって多層溶接して形成される。
【0031】
まず、図3は溶接前の状態を示す。図4では最下層である溶接層40が溶接され、続いて図5では溶接層40を被覆するように溶接層50が施工される。
【0032】
続く図6に示すように溶接層60を被覆施工した後、図7では鋼鈑の反対面を溶接し、溶接層70を形成する。次に図8に示すように溶接層70を被覆する溶接層80を施工し、図9ではさらに溶接層80を被覆するように溶接層90を施工する。
【0033】
次に、図10ではまた当初の溶接面に戻り、溶接層100を形成し、続く図11で溶接層110を、また図12で溶接層120を施工して、溶接構造物20の片面の溶接が完了する。
【0034】
再び溶接構造物20の反対面に移り、図13に示すように溶接層130を施工し、図14において溶接層140を施工して溶接作業が完了する。
【0035】
本実施例1においては、溶接部23から軸方向距離Xまでを解析モデル範囲とし、軸対称有限要素モデルおよび3次元有限要素モデルを作成し、それぞれのモデルを使用したケースで応力解析を行った。
【0036】
ここで軸対称有限要素モデルとは、溶接構造物20のある断面をモデル化した有限要素モデルである。この軸対称有限要素モデルは、解析対象が軸対称の構造を持つ場合に有効な解析モデルであり、解析対象である溶接構造物の断面形状が任意の場所で同一であることが前提条件である。
【0037】
また、3次元有限要素モデルとは、解析対象を立体的にモデル化した有限要素モデルである。ここでは、円筒構造物の代表的な一部分としての溶接構造物20を3次元モデル有限要素とした。この3次元有限要素モデルでは、実際の溶接構造物の形状に追従した解析モデルを作成するので、解析精度は高いが、モデル化および解析に要する時間が長いという欠点がある。
【0038】
一方、溶接部の残留応力に与える影響度は、表層部分の溶接層が最も大きい。従って、本実施例1においては、解析する溶接範囲を、図10から図14に示される表層付近の溶接過程に限定した。つまり、図10の状態を残留応力解析の初期状態として、図11から図14までの4つの溶接層110、120、130、140の形成プロセスについて応力解析した。
【0039】
本実施例1において軸方向とは、図2に示されるx軸方向を指し、また板厚方向はy軸方向を、周方向はz軸方向をそれぞれ示している。
【0040】
まず、本発明者らは、軸対称有限要素モデルで解析モデルを作成し、応力解析を行った。
【0041】
すなわち、乗数nを変数として軸方向距離Xを算出し、軸方向距離Xまでの範囲を応力解析した場合の溶接部23ビード上部および下部における残留応力分布を、図1のフローチャートに従う手順により算出した。
【0042】
図15に溶接ビード上部の板厚方向残留応力分布を、乗数nを変化させて応力解析した結果を示す。応力解析は、軸方向応力および周方向応力のそれぞれについて行った。また図16には溶接ビード下部の板厚方向残留応力分布について比較した結果を示す。溶接ビード下部についても軸方向応力および周方向応力のそれぞれについて応力解析を行った。
【0043】
ここで、横軸および縦軸は、それぞれ無次元化座標および無次元化応力としてある。これは物理量を無次元化することにより、物理量同士の相関関係を明確化し、変化量を明瞭に読み取ることが可能となるためである。
【0044】
すなわち、図15および図16において、横軸の無次元化座標0とは溶接構造物20の内壁面を表し、無次元化座標1とは溶接構造物20の外壁面を表している。
【0045】
また、縦軸である無次元化応力は、実施例1における解析結果のうち、最大応力を示した応力を1として、各解析応力との比を数値化して示している。
【0046】
図15に示す結果から明らかなように、まず、周方向応力の解析結果では、乗数n=2.61とした場合の解析結果と、乗数n=0.83とした場合の解析結果との比較では、板厚方向の残留応力分布はほぼ同等の解析結果であった。
【0047】
この結果より、乗数n≧2.5で解析する従来の応力解析方法による結果と比較して、乗数n=0.83とした実施例1の応力解析方法による解析結果は、ほぼ同等の解析精度を保持することが判明した。
【0048】
これに対して、乗数n=0.39とした場合の解析結果では、胴板の内壁方向(無次元化座標0側)では無次元化応力が小さく解析される傾向があり、逆に胴板の外壁方向(無次元化座標1側)では無次元化応力が大きく解析される傾向にあることが判明した。この傾向は乗数n=0.24とした場合では一層顕著であり、乗数nを小さくすることにより解析誤差が生じ、解析精度が低くなることが確認された。
【0049】
また、軸方向応力についての解析結果についても同様の傾向を示すことが確認された。さらに、図16に示す溶接ビード下部の解析結果についても同様の傾向が確認された。
【0050】
次に、本発明者らは、3次元有限要素モデルで解析モデルを作成し、残留応力解析を行った。
【0051】
すなわち、乗数nを変数として軸方向距離Xを算出し、軸方向距離Xまでの範囲を応力解析した場合の溶接部23ビード上部および下部における残留応力分布を、図1のフローチャートに従う手順により算出した。
【0052】
図17に溶接ビード上部の板厚方向残留応力分布を、乗数nを変化させて応力解析した結果を示す。応力解析は、軸方向応力および周方向応力のそれぞれについて行った。また図18には溶接ビード下部の板厚方向残留応力分布について比較した結果を示す。溶接ビード下部についても軸方向応力および周方向応力のそれぞれについて応力解析を行った。
【0053】
ここで、3次元有限要素モデルに関しては、解析モデルの乗数n=0.83以下とした。これは以下の理由によるものである。すなわち、軸対称有限要素モデルでの解析結果により、乗数n=0.83での解析結果が良好な解析精度を保持することが判明している。一般に3次元有限要素モデルによる応力解析結果は、軸対称有限要素モデルによる応力解析結果に比較して高い解析精度が得られることが知られており、3次元有限要素モデルによる解析でも乗数n=0.83の場合に高い精度の応力解析結果が得られることが確実である。
【0054】
従って、3次元有限要素モデルによる解析結果の検討については、この乗数n=0.83の場合の解析結果を従来の解析方法による応力解析結果と同等の応力解析結果を有するものとみなし、乗数nを変化させた場合の解析結果を比較検討した。
【0055】
図17に示す結果に明らかなように、まず、周方向応力の解析結果では、乗数n=0.83とした場合の解析結果と、乗数n=0.39とした場合の解析結果は板厚方向の残留応力分布については、ほぼ同等の解析結果を示した。
【0056】
この結果、従来の解析方法による応力解析結果とほぼ同等の解析精度を示す乗数n=0.83の場合と乗数n=0.39とした場合の解析結果は、ほぼ同程度の解析精度を保持することが判明した。
【0057】
これに対して、乗数n=0.24とした解析結果では、胴板の内壁方向(無次元化座標0側)では無次元化応力が小さく解析され、逆に胴板の外壁方向(無次元化座標1側)では胴板の内壁方向(無次元化座標0側)ほど顕著ではないものの、無次元化応力が大きく解析される傾向にあることが判明した。この傾向はn=0.16とした場合では一層顕著であり、乗数nを小さくすることにより解析誤差が生じ、解析精度が低くなる傾向が確認された。
【0058】
一方、軸方向応力についての解析結果についても同様の傾向が見られた。また、溶接ビード下部の解析結果についても同様の傾向が確認された。
【0059】
従って、これらの解析結果から、実際の設計に供する程度の解析精度を保持することが可能な乗数nの範囲が、n≦2.5の範囲に設定できるものと判断された。
【0060】
そこで本発明者らは、有限要素法による残留応力解析の乗数nの範囲を限定するために、軸対称有限要素モデルおよび3次元有限要素モデルでの残留応力の解析結果より、従来の有限要素法による残留応力解析の解析結果との相対誤差を算出し、乗数nと解析応力の相対誤差との関係を調査した。
【0061】
図19に軸対称有限要素モデルおよび3次元有限要素モデルをそれぞれ採用した場合の応力解析による相対誤差と、乗数nとの対応関係のグラフを示す。
【0062】
図19に示す結果から明らかなように解析誤差が10%程度以下となる範囲は、軸対称有限要素モデルによる応力解析の場合は、n≧0.8となる範囲であることが確認された。従って、有限要素法による残留応力解析において、軸対称有限要素モデルを用いて解析する場合のnの範囲は、0.8≦n≦2.5とすることとした。
【0063】
一方、3次元有限要素モデルによる応力解析の場合は、解析誤差が10%程度以下となる範囲はn≧0.4となる範囲であることが確認された。従って、有限要素法による残留応力解析において、3次元有限要素モデルを用いて解析する場合のnの範囲は、0.4≦n≦2.5とすることとした。
【0064】
解析時間は、概ね乗数nの二乗に比例することが知られている。従って、解析モデル化範囲を上述のように限定することにより、解析時間の大幅な短縮が可能である。
【0065】
実施例2
次に、有限要素法による残留応力解析において、解析対象となる溶接過程を表層付近の溶接過程に限定することによる解析精度への影響について検討した。
【0066】
解析する溶接構造物は実施例1と同様、図2に示す溶接構造物20とした。この円筒胴溶接構造物は実施例1に同じく、上部鋼鈑21と下部鋼鈑22とが溶接部23において溶接されて形成されている。溶接部23は、実施例1と同様に、図3から図14に示されたプロセスによって多層に溶接ビードを形成した多層溶接としたものである。
【0067】
この解析モデルについて、解析対象を全溶接過程とした応力解析結果と、図10〜図14に示される表層付近の溶接過程に限定した応力解析結果とを比較した。
【0068】
また解析条件は3次元有限要素モデルによる残留応力解析とし、乗数n=0.24とした場合の解析結果とした。
【0069】
図20および図21に試験結果をそれぞれ示す。
【0070】
ここで、解析対象を表層付近の溶接過程に限定することによる影響の評価として意味を持つのは、板厚方向の全般に渡る応力分布の傾向(圧縮応力あるいは引張応力の分布傾向)と、最も溶接部に亀裂を生じやすい表面部での残留応力の値である。すなわち、板厚方向の応力分布傾向がほぼ等しく、表面部での残留応力の解析結果が、良好に一致する解析結果であれば、実設計に適用可能な解析精度を有するものと判断することができる。
【0071】
図20に示す結果から明らかなように、解析対象を全溶接過程とした場合と、表層付近の溶接部に限定した場合との解析結果の比較では、内壁から外壁に至る板厚方向の全般(無次元化座標0〜1)において無次元化応力が小さく解析される傾向は示すものの、内壁から外壁に至る板厚方向の全般(無次元化座標0〜1)においてほぼ同一の傾向を示す応力解析結果となっていた。また、表面部での残留応力解析結果は、内壁表面および外壁表面とも、周方向応力および軸方向応力いずれの場合も残留応力の解析結果が良好な一致もしくはほぼ同一値を示しており、解析精度が保持されていることが確認された。
【0072】
また、図21に示す溶接ビード下部についての応力解析結果からも、同一の考察が得られた。
【0073】
従って、有限要素法による残留応力解析方法において、解析対象を表層部付近の溶接過程に限定した応力解析結果は、溶接構造物の実際設計に適用できる程度の解析精度を保持すると判断された。
【0074】
なお、本実施例においては、解析対象とする溶接層を図10から図14に示す溶接層の最外層から数えて第1層から第4層と設定したが、解析精度を高く求める場合には、例えば溶接対象を最外層から数えて第1層から第6層とするなど、より多くの溶接過程を解析すればよい。また、解析対象を最外層から数えて第1層から第3層とするなど、解析対象を少なくすることにより、より効率的に応力解析を行うことも可能である。
【0075】
解析時間は、解析する溶接層の数にほぼ比例するため、実施例2の応力解析によれば、解析時間は、前溶接過程を解析した場合に比較して、30%程度で済ますことができる。
【0076】
すなわち、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法によれば、従来の解析方法において全溶接過程にわたって行っていた応力解析を、表層部分の溶接過程に限定することにより、解析時間の大幅な短縮と解析コストの削減が可能である。
【0077】
【発明の効果】
以上説明の通り、本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法によれば、高い解析精度を保持しつつ、解析に要する時間を短縮することが可能であり、そのため、解析に要するコストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法のフローチャート。
【図2】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法における解析モデル化範囲を示す説明図。
【図3】鋼鈑の溶接前の状態を示す説明図。
【図4】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図5】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図6】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図7】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図8】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図9】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図10】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図11】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図12】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図13】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図14】鋼鈑の多層溶接の溶接施工過程を示す説明図。
【図15】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法において、軸対称モデルを採用した場合の、溶接ビード上部における残留応力分布の解析結果を示すグラフ。
【図16】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法において、軸対称モデルを採用した場合の、溶接ビード下部における残留応力分布の解析結果を示すグラフ。
【図17】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法において、3次元モデルを採用した場合の、溶接ビード上部における残留応力分布の解析結果を示すグラフ。
【図18】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法において、3次元モデルを採用した場合の、溶接ビード下部における残留応力分布の解析結果を示すグラフ。
【図19】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法により得られた解析結果と従来の解析方法による解析結果との相対誤差と、乗数nとの対応関係を示すグラフ。
【図20】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法において、解析対象を全溶接過程のうちの表層付近の溶接過程に限定した残留応力の解析結果と、全溶接過程について解析した解析結果とを溶接ビード上部について比較したグラフ。
【図21】本発明に係る有限要素法による残留応力解析方法において、解析対象を全溶接過程のうちの表層付近の溶接過程に限定した残留応力の解析結果と、全溶接過程について解析した解析結果とを溶接ビード下部について比較したグラフ。
【図22】従来の有限要素法による残留応力解析を示すフローチャート。
【図23】従来の有限要素法による残留応力解析における解析モデル化範囲を示す説明図。
【符号の説明】
1 解析モデル化範囲設定段階
2 解析モデル作成段階
3 溶接部伝熱解析段階
4 溶接部残留応力解析段階
5 強度評価段階
11 解析モデル化範囲設定段階(従来の解析方法)
12 解析モデル作成段階(従来の解析方法)
13 溶接部伝熱解析段階(従来の解析方法)
14 溶接部残留応力解析段階(従来の解析方法)
15 強度評価段階(従来の解析方法)
20 溶接構造物
21 上部鋼鈑
22 下部鋼鈑
23 溶接部
W 溶接部
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