JP4076253B2 - 軸受内輪及びその製造方法、並びにクラッチレリーズ軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、主として自動車等に採用されるクラッチレリーズ軸受、並びにその軸受に適用される軸受内輪及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6は自動車のクラッチレリーズ軸受を示す断面図である。同図に示すように、クラッチレリーズ軸受は、内輪(1)及び外輪(2)と、両輪(1)(2)間に転動自在に介在されたボール等の転動体(3)とを基本的な構成要素として備えており、エンジンとトランスミッションとの間に配置されて、内輪(1)の一端側外周にクラッチのダイヤフラムスプリングと当接するフランジ(12)を一体に形成し、エンジンの回転を一時支承するものである。
【0003】
このようなクラッチレリーズ軸受は、内輪(1)及び外輪(2)が、軽量化、低コスト化のために、薄肉鋼板を材料とするプレス成形加工により製造するのが一般的である。
【0004】
例えば軸受内輪(1)は、薄肉鋼板にブランキング加工を施して、鋼板製円板を製作した後、その円板に複数回の絞り加工を施すことにより、図7に示すように、一端側(11a)が他端側(11b)よりも大径に形成されて周方向に沿って段部(13)が形成された段付き円筒体(11)と、その円筒体(11)の一端外周に連設されたフランジ(12)とを有する金属加工品(10)を作製する。
【0005】
そしてその金属加工品(10)に対し、端面カッティング処理や、熱処理等の適当な処理が施されることにより、段部(13)の外周面を、転動体(3)が転がり接触可能な転走面(15)として形成した軸受内輪(1)を製作するものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来の軸受内輪(1)は、既述したように複数回の絞り加工によって得られるものであるため、その絞り加工時に円筒体(11)の部分が大きく引き伸ばされ、特に図8に示すように円筒体(11)における一端側(11a)と段部(13)との間のコーナー部の外周面側が大きく引き伸ばされる。このため、そのコーナー部外周(16)が局率半径の大きい円弧に形成されて、広い範囲にわたってダレ(S)が形成される。
【0007】
その一方、上記のような軸受内輪(1)においては、段部(13)の外周面における転走面(15)は、転動体(3)を安定状態に保持できるように、転動体(3)の外周面と可能な限り広い範囲で接触させることが望まれるが、上記従来の軸受内輪(1)では、転走面(15)の一端に、上記したように広大なダレ(S)が形成されているため、そのままの状態では、広大なダレ(S)が存在する分、転走面(15)の転動体(3)との接触面積が小さくなり、転動体(3)を十分に安定させた状態に保持することが困難であるという問題が発生する。
【0008】
そこで、従来においては、旋削加工等の機械加工を別途行って、ダレ(S)を除去して、転動体(3)に精度良く十分に適合する所望の転走面(15)を形成するようにしているが、そうすると、機械加工等を行う分、工程数が多くなり、生産効率が低下し、しかもブランキング加工や絞り加工等のプレス加工中に、プレス加工とは異質の機械加工を行うことになるので、各工程間の移行をスムーズに行うことができなくなり、一段と、生産効率が低下するという問題を抱えていた。
【0009】
この発明は、上記従来技術の問題を解消し、転動体に精度良く広範囲にわたって十分に適合する転走面を有し、しかも効率良く製造することができる軸受内輪及びその製造方法、並びにクラッチレリーズ軸受を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、第1の発明の軸受内輪の製造方法は、一端側が他端側よりも大径に形成されて周方向に沿って段部が形成された段付き円筒体を有する金属加工品からなり、前記円筒体の段部外周面が、転動体接触用の転走面として構成される軸受内輪の製造方法であって、金属製円板に絞り加工を施して、前記金属加工品を得る工程と、前記金属加工品を、その段部外周面に外側から所定形状の型部材を沿わせて拘束しつつ、前記金属加工品の内周面であって、段部外周面の転走面に対応する大径側端部を、押圧部材により軸方向に沿って小径側に圧潰することにより、前記段部外周面を前記型部材に対応する形状に加工する工程とを含むものを要旨としている。
【0011】
本第1発明の軸受内輪の製造方法においては、フランジを有する段付き円筒型の金属加工品を、その段部外周面に型部材を沿わせて拘束しつつ、金属加工品における円筒体内周面における大径側端部を圧潰することにより、円筒体の肉の移動を行って、段部外周面を所定形状に加工するものである。このため特に、円筒体における段部外周面一端部、すなわち円筒体の段部と一端側とのコーナー部外周における肉の充填が確実に行われ、段部の外周面全域が、転動体の外周面に高精度かつ広範囲にわたって十分に適合する転走面として構成された軸受内輪を得ることができる。従ってその軸受内輪を軸受に適用した場合には、転動体が転走面に精度良く広範囲にわたって安定状態に接触させることができる。
【0012】
また本第1発明においては、転走面仕上げ用に旋削加工等の機械加工を行う必要がなく、加工工程数を削減できるとともに、プレス加工とは異質の旋削加工等を行わなくとも良いので、各工程間の移行をスムーズに行うことができる。
【0013】
一方、第2の発明の軸受内輪は、一端側が他端側よりも大径に形成されて周方向に沿って段部が形成された段付き円筒体を有する金属加工品からなり、前記円筒体の段部外周面が、転動体接触用の転走面として構成される軸受内輪であって、前記金属加工品の内周側における段部外周面一端部よりも一端側かつ軸心側の位置に、圧潰加工による凹部が形成されてなるものを要旨としている。
【0014】
この第2発明の軸受内輪は、上記第1発明の実施により得られる軸受内輪を特定するものである。
【0015】
また第3の発明は、内輪及び外輪と、両輪間に転動自在に介在された転動体とからなるクラッチレリーズ軸受において、前記内輪が、上記第2発明の軸受内輪により構成されてなるものを要旨としている。
【0016】
この第3の発明のクラッチレリーズ軸受は、上記第2発明の軸受内輪を利用するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態であるクラッチレリーズ軸受における内輪の製造方法を、製造手順に従って説明する。
【0018】
まず図1に示すように、薄肉鋼板にブランキング加工を施して、鋼板製円板(20)を製作した後、複数回の絞り加工を施して、図2に示すように所定形状の金属加工品(30)を製作する。
【0019】
この金属加工品(30)は、円筒体(31)と、その一端(上端)外周に連設されたフランジ(32)とを有している。円筒体(31)の一端側(31a)は、それよりも他端側の領域(他端側31b)よりも大径に形成されており、一端側(31a)と他端側(31b)との間に、周方向に沿って段部(33)が形成されている。なお後述するようにこの段部(33)の外周面は、軸受用転動体(3)が転がり接触可能な転走面(35)として形成されるものである。
【0020】
次に図3ないし図5に示すように、上記金属加工品(30)を、所定形状のダイ(40)内の支持パッド(45)上に装着して所定形状のパンチ(50)を打ち込み、所定形状に成形加工する。
【0021】
すなわちダイ(40)は、その内周面側が、金属加工品(30)の外周面側を拘束できるように、金属加工品(30)の外周面形状に対応して形成されており、特に段部(33)の外周面に対応する領域(41)は、接触予定の転動体(3)の外周面に高精度に適合する円弧面に形成されている。
【0022】
一方、パンチ(50)は、その外周面側が、金属加工品(30)の内周面側を拘束できるように、金属加工品(30)の内周面形状に対応して形成されている。更にパンチ(50)における円筒体(31)の一端内周側に対応する位置には、圧潰用凸部(51)が周方向に沿って形成されている。
【0023】
そしてダイ(40)内に装着された金属加工品(30)に、パンチ(50)が打ち込まれた際には、金属加工品(30)が内外両側からダイ(40)及びパンチ(50)により拘束されつつ、圧潰用凸部(51)が円筒体(31)の一端内周側に押圧し、その一端内周側が軸方向に沿って他端側(下方側)に圧潰変形される。この圧潰変形に伴い、円筒体(31)の一端側(31a)が塑性変形して、つまり一端側(31a)内部において、軸方向他端側に向かってやや外側に肉の移動が行われて、段部(33)の外周面が、ダイ(40)の転走面形成領域(41)に高精度に適合する形状に成形される。特に段部(33)と一端側(31a)とのコーナー部外周(34)に、肉の充填が確実に行われて、そのコーナー部外周(34)が局率半径の非常に小さい鋭角に成形されて、段部(33)の外周面全域を、転動体(3)の外周面に高精度で広範囲にわたって十分に適合する転走面(35)に仕上げることができる。
【0024】
なお本発明において、金属加工品(30)の圧潰する位置は、段部(33)外周面の一端部、すなわち段部(33)と一端側(31a)とコーナー部外周(34)よりも、一端側(上方側)かつ軸心側の位置であれば、いずれの位置に設定しても良い。もっとも本発明においては、段部外周面一端部(34)における肉の充填を、より確実に行うために、金属加工品(30)の圧潰する位置を、本実施形態に示すように、円筒体(31)の一端側(31a)とフランジ(32)との間のコーナー部に設定するのが好ましい。
【0025】
また圧潰凹部(36)の幅Wは、金属加工品(30)の一端側(31a)の肉厚Tに対し、20〜70%に設定するのが、より好ましい。すなわち圧潰凹部(36)の幅Wが狭過ぎる場合には、圧潰量が少なくなって、段部外周面一端部(34)における肉の充填が不十分となる恐れがある。逆に圧潰凹部(36)の幅Wが広過ぎる場合には、肉の移動量が多くなり過ぎて、段部(33)以外の変形不要部分に、有害な塑性変形が発生する恐れがある。
【0026】
また圧潰用凸部(51)は、先端を丸みのあるR形状に形成するのが好ましい。すなわち圧潰用凸部(51)の先端を先鋭に形成すると、その凸部(51)を金属加工品(30)に押圧した際に、押圧力が金属加工品(30)の局部に集中して損傷等が生じ、製品品質を低下させる恐れがある。
【0027】
一方、上記のように圧潰加工を施した後、金属加工品(30)は、機械加工等のように特に面倒な後加工を施すことなく、クラッチレリーズ軸受の内輪として使用される。
【0028】
以上のように、本実施形態の軸受内輪の製造方法によれば、金属加工品(30)を拘束しつつ、金属加工品(30)における円筒体(31)の一端内周側を圧潰して、肉の移動を行い、円筒体(31)の段部外周面一端部(34)に肉を充填するようにしているため、その段部外周面一端部(34)にダレが形成されることなく、段部(33)の外周面全域を、転動体(3)の外周面に高精度に広範囲にわたって適合する転走面(35)に形成することができる。このためこの内輪を軸受に適用した場合には、転動体(3)が転走面(35)に精度良く広範囲にわたって接触させることができ、転動体(3)を、十分に安定させた状態に保持することができる。
【0029】
また本実施形態においては、転走面仕上げ用に旋削加工等の機械加工を行う必要がなく、その分、加工工程数を削減できるとともに、プレス加工とは異質の機械加工を行わなくとも良いので、各工程間の移行をスムーズに行うことができ、生産効率を向上させることができる。
【0030】
【発明の効果】
以上のように、本第1発明における軸受内輪の製造方法によれば、フランジを有する段付き円筒型の金属加工品を、その段部外周面に型部材を沿わせて拘束しつつ、金属加工品における円筒体の一端内周側等を圧潰することにより、塑性変形を行って段部外周面を所定形状に加工するものであるため、段部外周面一端部における肉の充填が確実に行われ、段部の外周面全域が、転動体の外周面に高精度かつ広範囲にわたって十分に適合する転走面として構成された軸受内輪を得ることができる。従ってその軸受内輪を軸受に適用した場合には、転動体が転走面に精度良く広範囲にわたって接触させることができ、転動体を、十分に安定させた状態に保持することができる。また本発明においては、旋削加工等の機械加工を行う必要がないので、その分、加工工程数を削減できるとともに、プレス加工とは異質の機械加工を行わなくとも良いので、各工程間の移行をスムーズに行うことができ、生産効率を向上させることができるという効果がある。
【0031】
一方、本第2の発明は、上記第1発明の実施により得られる軸受内輪を特定するものであり、上記と同様の効果を得ることができる。
【0032】
また本第3の発明は、上記第1発明の実施により得られる軸受内輪を利用するクラッチレリーズ軸受を特定するものであり、上記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態の製造方法においてブランキング加工により得られた鋼板製円板を示す断面図である。
【図2】実施形態方法において絞り加工により得られた金属加工品を示す断面図である。
【図3】実施形態方法により得られた軸受内輪を示す断面図である。
【図4】実施形態方法において圧潰工程を示す断面図である。
【図5】図3の一点鎖線で囲まれる部分を拡大して示す断面図である。
【図6】自動車のクラッチレリーズ軸受を示す一半部断面図である。
【図7】従来方法により得られた軸受内輪を示す断面図である。
【図8】図7の一点鎖線で囲まれた部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
3…転動体
30…円筒体
31a…一端側
31b…他端側
32…フランジ
33…段部
34…段部外周面一端部
35…転走面
40…ダイ(型部材)
51…圧潰用凸部(押圧部材)
Claims (3)
- 一端側が他端側よりも大径に形成されて周方向に沿って段部が形成された段付き円筒体と、その一端外周に連接されたフランジとを有する金属加工品からなり、前記円筒体の段部外周面が、転動体接触用の転走面として構成される軸受内輪の製造方法であって、
金属製円板に絞り加工を施して、前記金属加工品を得る工程と、
前記金属加工品を、その段部外周面に外側から所定形状の型部材を沿わせて拘束しつつ、前記金属加工品の内周面における一端側と前記フランジとの間のコーナー部を、先端が丸みのあるR形状に形成された押圧部材により軸方向に沿って小径側に圧潰することにより、前記段部外周面を前記型部材に対応する形状に加工する工程とを含むことを特徴とする軸受内輪の製造方法。 - 請求項1に記載された製造方法によって製造された軸受内輪であって、
前記金属加工品の内周面における一端側と前記フランジとの間のコーナー部に、圧潰加工による凹部が形成されてなることを特徴とする軸受内輪。 - 内輪及び外輪と、両輪間に転動自在に介在された転動体とからなるクラッチレリーズ軸受において、
前記内輪が請求項2記載の軸受内輪により構成されてなることを特徴とするクラッチレリーズ軸受。
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---|---|---|---|
JP01110998A JP4076253B2 (ja) | 1998-01-23 | 1998-01-23 | 軸受内輪及びその製造方法、並びにクラッチレリーズ軸受 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP01110998A JP4076253B2 (ja) | 1998-01-23 | 1998-01-23 | 軸受内輪及びその製造方法、並びにクラッチレリーズ軸受 |
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JPH11210763A JPH11210763A (ja) | 1999-08-03 |
JP4076253B2 true JP4076253B2 (ja) | 2008-04-16 |
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EP3009702B1 (en) | 2014-10-13 | 2019-05-15 | Aktiebolaget SKF | Bearing, clutch bearing device and motor vehicle equipped with such a clutch bearing device |
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1998
- 1998-01-23 JP JP01110998A patent/JP4076253B2/ja not_active Expired - Lifetime
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