JP4075341B2 - 直噴式火花点火機関の制御装置 - Google Patents

直噴式火花点火機関の制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、直噴式火花点火機関の制御装置に関し、詳細には、この種の内燃機関に係る排気後処理用触媒を、始動後に排気ガスによって活性温度にまで速やかに加熱するための燃焼制御に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、燃焼室内に燃料を直接噴射して点火燃焼させる直噴式火花点火機関により、燃費と出力との両立が図られている。この種の内燃機関では、運転状態に応じて燃焼形態を切り換えるのが一般的である。すなわち、燃料を吸気行程に噴射することにより燃焼室内に拡散させ、混合気を均質に形成して行う均質燃焼と、燃料を圧縮行程に噴射することにより点火プラグ近傍に局所的に分布させ、混合気を層状に形成して行う成層燃焼とである。
【0003】
さて、このような直噴式火花点火機関においても、有害排気成分の大気中への放出を抑止するため、排気通路には触媒装置が設けられている。そして、触媒は、活性状態となる適正温度域にないと有効に機能せず、有害排気成分を未浄化のまま垂れ流してしまうため、触媒をこの温度域に保持することが重要となる。従って、長期停止後の冷態始動時や、排気温度が低い運転状態が継続したために触媒温度が適正温度域を外れて低下したときには、触媒を加熱して、適正温度域にまで速やかに昇温させる必要がある。特に、冷態始動時では、点火プラグ周りの混合気の空燃比を略一定とするために燃料を若干多めに噴射しているので、触媒を早期に活性化し、有害排気成分の垂流しを早い段階から抑止する必要性が一層高い。
【0004】
直噴式火花点火機関において触媒を加熱するための公知技術として、特開2000−240485号公報には、燃焼室全体の空燃比を通常よりも低く設定し、理論空燃比若しくはこれよりも若干希薄側とした成層燃焼を行うことが開示されている。すなわち、点火プラグ周りの空燃比を通常の成層燃焼よりも低くした状態で点火することにより不完全燃焼を起こし、その結果生成された未燃炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)が筒内に残っている酸素と後反応するときに発生する熱を利用して、触媒を加熱するのである。
【0005】
そして、同公報には、冷態始動に際して、始動のために均質燃焼を行った後、上記のように空燃比が調整された成層燃焼へ移行する前に、触媒を予めある程度昇温させておくべく、吸気行程若しくは圧縮行程に機関出力のための主噴射を行うとともに、膨張行程にポスト噴射を行って、このときに噴射された燃料の後燃えにより排気温度を上昇させることが開示されている。
【0006】
また、冷態始動時に触媒を排気ガスにより加熱するための他の公知技術として、本出願人に係る先願の公開公報(特開平11−324765号)には、始動のために均質燃焼を行った後、所定条件(ピストン温度が所定温度以上となっていること)が成立したことをもって、均質燃焼から成層ストイキ燃焼に切り換えることが開示されている。
【0007】
ここで、成層ストイキ燃焼とは、同公報によれば、「1燃焼行程当たりの吸入空気量で略完全燃焼させることができる総燃料量のうち、50〜90%ほどを吸気行程で噴射するとともに、残りの50〜10%ほどを圧縮行程で噴射することにより、燃焼室全体に分布する比較的リーンな混合気と、点火プラグ周りに分布する比較的リッチな混合気とを層状に形成して行う成層燃焼」である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開2000−240485号公報に開示されるように、冷態始動時に触媒を活性化させるべく、始動のために吸気行程噴射による均質燃焼を行ってから、触媒を予熱するためにポスト噴射を含む複段噴射による運転を介して、圧縮行程噴射による成層燃焼に切り換えることには、燃費上の問題がある。ポスト噴射により供給された燃料は機関出力に寄与しないためである。また、この方法には、冷態始動後、燃焼室が未だ充分に暖まっていない状態でポスト噴射が行われると、燃料の燃え残りが発生し、これが大気中に放出されてしまうという排気面での問題もある。
【0009】
一方、上記特開平11−324765号公報に開示されるように、始動のために均質燃焼を行った後、複段噴射による成層ストイキ燃焼に切り換えることにも燃費悪化の懸念がある。先行する吸気行程噴射によって空燃比の比較的高い混合気が燃焼室内に一様に形成されることにより、後行する圧縮行程噴射によって形成される混合気との間に燃料濃度の差が生じると、燃焼効率が低下してしまい、一定のトルクを得るために必要となる燃料量がより多くなるからである。また、この方法にも、触媒活性前にHCの排出を更に抑制すべきであるという点で改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、排気ガスを利用して触媒を早期に活性化させることであり、特に、冷態始動時において低燃費でこれを実現するとともに、その際にHCの排出を更に抑制する点にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に記載の発明では、(A)燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射手段、及び(B)運転条件に応じて、前記手段により燃料を吸気行程に噴射させて行う均質燃焼と、前記手段により燃料を圧縮行程に噴射させて行う成層燃焼とを切り換える燃焼制御手段を備える直噴式火花点火機関において、機関始動の際にまず均質燃焼を行わせ、所定条件が成立したことをもって均質燃焼から(複段噴射を伴う運転を介することなく)成層燃焼に直接切り換えることとした。かかる成層燃焼では、燃焼室全体の空燃比を理論空燃比又はこれよりも若干希薄側とするための要求燃料量を1燃焼行程当たりの全噴射量として、これを圧縮行程に噴射させ、点火プラグ周りの空燃比を理論空燃比よりも低く(若干程度であるのが好適である)制御する。そして、成層燃焼により未燃HC等の不完全燃焼生成物を発生させ、これを筒内に残っている酸素と後反応させて、排気温度を上昇させる。本明細書では、空燃比を上記のように調整して排気温度を上昇させる成層燃焼を、特に「排気昇温成層燃焼」とも言う。
また、請求項1に記載の発明では、上記燃焼室全体の空燃比を理論空燃比又はこれよりも若干希薄側とするための要求燃料量を目標空燃比に基づいて算出するとともに、上記切換直後に目標空燃比の移行期間を設け、この期間では、目標空燃比を移行完了後のものよりも低く設定して要求燃料量を算出することとした。排気昇温成層燃焼に切り換えられた後、燃焼室壁面が未だ充分に暖められていないうちは、この壁面に付着した燃料(壁面付着燃料成分)が気化し難く、点火プラグ周りの空燃比に適正域からのズレが生じる惧れがある。そこで、切換直後に目標空燃比を低めとする期間を設け、その期間では燃料を多めに噴射することにより、このようなズレを防止するのである。
さらに、請求項1に記載の発明では、上記移行期間において、目標空燃比を機関温度に基づいて設定される所定の変化率で上昇させることとした。
【0012】
請求項2に記載の発明では、上記所定条件を、ピストン冠面温度(冠面温度)が高温状態を示す所定温度以上であると判定されるときに成立させることとした。成層燃焼では燃料噴霧の輸送にピストン冠面が積極的に利用されるところ、その温度が適正域を逸脱して低い間は、混合気が良好に形成され難いと考えられるからである。なお、上記判定は、冠面温度をサーモカップル等により直接検出して行っても、また、これと相関するパラメータに基づいて行ってもよい。
【0013】
請求項3に記載の発明では、冠面温度に相関するパラメータとして擬似水温を採用し、これが所定温度以上であることをもって冠面温度が上記所定温度以上であると判定することとした。ここで、擬似水温とは、始動時冷却水温度に応じた初期値と、所定周期毎の吸入空気量に応じた遅れ補正係数とに基づいて、冷却水温度の変化に対して遅れを持たせて算出される。
【0014】
請求項4に記載の発明では、燃料性状を推定する燃料性状推定手段を設けるとともに、上記燃焼室全体の空燃比を理論空燃比又はこれよりも若干希薄側とするための要求燃料量を、推定された燃料性状に応じて補正して算出することとした。燃料性状は給油ステーション毎に多少差があるので、常に同じ性状の燃料が給油されるとは限らない。加えて、機関制御系統は、重質燃料に適合するように設計されるのが一般的である。このため、タンクに貯蔵されている燃料が設定よりも軽質となり、燃料の揮発性が高くなった状態で重質燃料についての設定通りに噴射を実行すると、点火プラグ周りの空燃比が過度に低くなってしまい、燃焼が成立しない(失火する)惧れがあるからである。
【0015】
請求項5に記載の発明では、推定された燃料性状に応じて燃料が軽質であるほど要求燃料量を大きく減量補正することとした。使用燃料が軽質であれば、それだけ揮発性が高く気化し易いので、重質燃料による場合と比較して少ない量の燃料を噴射することにより、点火プラグ周りの空燃比を常に適正域内に保持するためである。
【0016】
請求項6に記載の発明では、燃料性状に応じた補正量を機関回転数に基づいて決定することとし、また、請求項7に記載の発明では、この補正量に応じて機関回転数が低いときほど燃料噴射量を増量することとした。機関が低速で回転しているときは、筒内におけるガス流動が弱く、燃料が気化し難いからである。
請求項8に記載の発明では、燃料性状に応じた補正量を機関温度に基づいて決定することとし、また、請求項9に記載の発明では、この補正量に応じて冷却水温度が低いときほど燃料噴射量を増量することとした。
【0017】
請求項10に記載の発明では、燃料性状に応じた補正を要求燃料量のオープン制御中に行うこととした。
請求項11に記載の発明では、燃料性状に応じた補正を要求燃料量のフィードバック制御中に行うこととした。
請求項12に記載の発明では、燃料性状推定手段による推定が終了している場合にのみ上記切換えを許可することとした。すなわち、現状の燃焼性状が既に推定されており、かつ上記所定条件が成立して初めて排気昇温成層燃焼が行われることとなる。
【0019】
求項13に記載の発明では、上記変化率機関温度としての冷却水温度が高いときほど大きな値として、切換えを速やかに完了させることとした。
【0020】
請求項14に記載の発明では、排気通路に排気後処理用触媒を備える機関において以上の発明を適用することとした。
請求項15に記載の発明では、上記切換後の成層燃焼(すなわち、排気昇温成層燃焼)において、燃料噴射時期を圧縮上死点前50〜80°の範囲内で設定することとした。
【0021】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、始動後に、均質燃焼から排気昇温成層燃焼に直接切り換えることにより、機関(触媒装置を備えるものにあっては、特にその触媒)を低燃費で暖機できる。また、暖機完了までに排出されるHCの量をこれまで以上に削減できる。
また、排気昇温成層燃焼への切換直後に目標空燃比が低めに設定され、その間に燃料噴射量が多めに噴射されるので、プラグ周り混合気が適正域を外れて高くなることを防止できる。
さらに、切換直後の移行期間において、目標空燃比を機関温度に基づいて設定される所定の変化率をもって上昇させることにより、燃焼室の暖機の進行に追従させて目標空燃比を設定するとともに、燃焼室の暖気状態に容易に適合させることができる。
【0022】
請求項2に係る発明によれば、冠面温度が高温状態となった後に排気昇温成層燃焼を行うことにより、ピストン冠面を利用して点火プラグ周りに混合気を良好に形成できる。
請求項3に係る発明によれば、冠面温度が高温状態となったことを擬似水温により容易、かつ比較的正確に判定できる。
【0023】
請求項4に係る発明によれば、排気昇温成層燃焼を行う際に燃料性状に応じて燃料噴射量を補正することとしたので、点火プラグ周りの混合気(プラグ周り混合気)を燃料性状の違いによらず常に適正な空燃比に制御できる。このため、点火プラグ周りに発生する不完全燃焼生成物を筒内に残っている酸素と後反応させて、燃焼し切ることが可能である。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、燃料が軽質であるほど燃料噴射量を大きく減量補正することにより、揮発性の高さに起因して点火プラグ周りの空燃比が適正域から逸脱して低下することによる失火を防止できる。
請求項6に係る発明によれば、補正量を機関回転数に基づいて決定することにより、ガス流動が速さに対応して燃料噴射量を補正できる。特に、請求項7に係る発明により低回転数であるときほど、すなわち、ガス流動が未発達であるときほど燃料噴射量を増量することで、気化しない壁面付着燃料成分を補い、プラグ周り混合気の空燃比を一層正確に制御できる。
【0025】
請求項8に係る発明によれば、補正量を機関温度に基づいて決定することにより、暖機状態に対応して燃料噴射量を補正できる。特に、請求項9に係る発明により冷却水温度が低いときほど、すなわち、暖機が進んでおらず、壁面付着燃料成分が気化し難いときほど燃料噴射量を増量することにより、プラグ周り混合気の空燃比を一層正確に制御できる。
【0026】
請求項10に係る発明によれば、燃料性状に応じた補正を燃料噴射量のオープン制御中に行うことにより、燃料性状の違いによる記憶値に対する空燃比のバラツキを補償できる。
請求項11に係る発明によれば、燃料性状に応じた補正を燃料噴射量のフィードバック制御中に行うことにより、目標空燃比を正確に達成できるので、排気温度の上昇に必要な量の燃料を正確に供給し、あるいは不完全燃焼生成物の後反応に必要な酸素を正確に確保できる。
【0027】
請求項12に係る発明によれば、燃料性状推定が終了していないうちは排気昇温成層燃焼が行われないので、不正確な燃料性状に基づく補正によってプラグ周り混合気の空燃比が却ってばらついて、燃焼が不安定となることを防止できる。請求項13に係る発明によれば、排気昇温成層燃焼への切換直後に目標空燃比が低めに設定され、その間に燃料噴射量が多めに噴射されるので、プラグ周り混合気が適正域を外れて高くなることを防止できる。
【0028】
求項13に係る発明により冷却水温度が高いときほどこの変化率を大きくして、切換えを速やかに完了させることで、高温となった場合に燃料噴射量が過多となり、プラグ周り混合気が過度に濃くなることを防止できる。
【0029】
請求項14に係る発明によれば、排気後処理用触媒を始動後速やかに活性化させることができる。
請求項15に係る発明によれば、排気昇温成層燃焼に際して燃料噴射時期が的確なものとされ、点火プラグ周りの空燃比を良好に制御できる。特に、この領域の空燃比が過度に低くなることによる失火を防止できる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る直噴式火花点火機関(エンジン)の構成を示している。エンジン本体1のシリンダヘッド(図中、二点鎖線Cで示す)には、吸気管2が接続されており、その導入部にエアクリーナ(図示せず)が取り付けられている。吸入空気は、エアクリーナを介した後、電子制御式スロットル弁3による制御を受けてサージタンク4に流入し、これに接続する吸気マニホールドにおいて各気筒に分配される。なお、本実施形態では、吸入空気の筒内おける旋回流動を形成するため、スワールコントロールバルブ5が設けられている。
【0031】
燃焼室には、その上部略中央に臨んで点火プラグ6が設置されるとともに、吸気ポートの下側に臨んで燃料噴射手段としての高圧インジェクタ7が設置されている。インジェクタ7は、後述する電子制御ユニットからの制御信号に基づいて開弁駆動し、図示しない燃料ポンプにより圧送された燃料を筒内に直接噴射する。インジェクタ7に供給される燃料は、プレッシャレギュレータにより所定圧力に調整されるように構成される。燃焼により発生した仕事は、ピストン8からコンロッド9を介してクランクシャフト10に伝わり、回転運動として取り出される。
【0032】
また、シリンダヘッドには排気管11が接続されており、排気マニホールドの下流に排気後処理装置(触媒コンバータ)12が介装されている。ここに備わる触媒としては、理論空燃比近傍で炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)の酸化と、窒素酸化物(NOx)の還元とを効率良く達成する三元触媒や、HC及びCOを酸化させる酸化触媒が採用される。排気ガスは、排気後処理装置12を介した後、大気中に放出される。
【0033】
電子制御ユニット(ECU)21は、CPU,ROM,RAM,A/D変換器及び入出力インターフェースを含んで構成されるマイクロコンピュータからなり、現状の運転状態を示す指標として、エンジン回転数Neを検出するためのクランク角センサ31からの検出信号(単位クランク角信号若しくは基準クランク角信号)、機関冷却水の温度(冷却水温度)Twを検出するための水温センサ32からの検出信号、吸入空気量Qaを検出するためのエアフローメータ33からの検出信号、スロットル弁3の開度(ストッロル開度)TVOを検出するためのスロットルセンサ34からの検出信号、及び運転者のアクセル操作量(アクセル開度)APOを検出するためのアクセルセンサ35からの検出信号が入力される。アクセルセンサ35は、アイドルスイッチとしても使用できる。
【0034】
また、これらに加え、排気管11には、触媒コンバータ12の上下流に空燃比センサ36,37がそれぞれ設置されており、これらの検出信号もECU21に入力される。上流側空燃比センサ36には、排気ガス中の特性成分(例えば、酸素)の濃度に応じてリーン若しくはリッチを示す信号を出力するタイプのものや、あるいは空燃比を広範囲に渡って線形的に検出するタイプのものが採用される。下流側空燃比センサ37には、排気ガス中の特定成分(例えば、酸素)の濃度に応じてリーン若しくはリッチを示す信号を出力するタイプのものを採用するのが好適である。
【0035】
ECU21は、下流側空燃比センサ37からの入力信号に基づいて上流側空燃比センサ36からの入力信号に基づく空燃比フィードバック制御を補正することにより、上流側空燃比センサ36の劣化等による制御誤差の発生を防止する。なお、このような補償を行わないのであれば、下流側空燃比センサ37は不要であり、また、空燃比フィードバック制御自体を行わないのであれば、これらの空燃比センサ36及び37は共に不要となる。
【0036】
ECU21は、以上の各種センサからの入力信号に基づいてインジェクタ7を制御し、運転領域毎に設定された所定時期に燃料を噴射させる。具体的には、低負荷及び中負荷域においては圧縮行程に燃料を噴射させ(図2(a))、点火プラグ6近傍に可燃混合気を層状に形成して成層燃焼を行わせる。一方、高負荷域においては吸気行程に燃料を噴射させ(同図(b))、筒内全体に混合気をほぼ均一に形成して均質燃焼を行わせる。
【0037】
また、ECU21は、点火プラグ6を所定時期に作動させて点火動作を行わせるほか、スロットル弁3の駆動装置(直流モータ)41を制御する。具体的には、アクセル開度APO等に基づいて算出される要求トルクを達成できる位置にスロットル弁3を制御する。
図3は、ECU21により実行される制御のうち、始動時に触媒活性化のために行われる燃焼制御のフローチャートである。
【0038】
S(ステップ)1では、キースイッチ38のイグニッション信号がオンされたか、換言すれば、キーがイグニションオン位置とされたか否かを判定する。イグニションオン位置とされたと判定した場合は、S2へ進み、イグニッションオン位置とされないうちは、エンジンが停止している状態であるので、何もなされない。
【0039】
S2では、キースイッチ38のスタート信号がオンされたか、換言すれば、キーがスタート位置とされたか否かを判定する。スタート位置とされたと判定した場合は、クランキング要求があるものと判断してS3へ進み、スタータモータを駆動してクランキングを行わせるとともに、吸気行程噴射によりエンジンを始動させる。その後、スタート信号がオフされたときに、エンジンが始動したものと判断してS4へ進む。なお、クランキング中は、S1〜3の処理が繰り返される。
【0040】
S4では、自立回転維持と、その後の暖機運転継続とのため、吸気行程噴射による均質燃焼が行われる。このときの空燃比は、始動後増量補正係数Kasによりリッチに制御される。
S5では、触媒が活性化しているか否かを判定する。この判定は、例えば、後述する図7に示すように、下流側空燃比センサ(酸素センサ)37が活性化しているか否かを判定することで代替できる。または、冷却水温度Tw若しくは潤滑油温度等を検出して、触媒又はその出口温度を推定し、その結果に基づいて触媒が活性化したか否かを判定したり、さらに、触媒又はその出口温度を直接検出して判定してもよい。触媒が活性化していないと判定した場合は、S6へ進み、触媒が活性化していると判定した場合は、触媒活性化のための制御は不要であるので、本ルーチンを終了する(通常の燃焼制御を行う)。
【0041】
S6では、ピストン8(特に、その冠面に形成されたボウル部(図2の符号8a))の表面温度(冠面温度)に基づいて、成層燃焼への切換えが可能であるか否かを判定する。この判定は、冠面温度が所定温度以上となっているか否かを判定することにより行い、例えば、後述する図9に示すように冠面温度と相関するパラメータである擬似水温Twfを採用すると好適である。または、冷却水温度Tw若しくは潤滑油温度から冠面温度を推定し、その結果に基づいて判定したり、あるいはピストン8にサーモカップルを埋め込んで、冠面温度を直接検出して判定してもよい。そして、上記所定温度は、ピストン冠面を利用した混合気形成(ボウル部8aにより燃料噴霧を案内する)が良好に達成できる程度の温度に設定する。判定の結果、冠面温度が所定温度以上となっていれば、S7ヘ進み、所定温度に達していないうちは、ピストン冠面上での気化が促進されずに燃焼安定性に悪影響を与えるため、S4へ戻り、均質燃焼による運転を継続させる。
【0042】
S7では、燃料性状が既に推定されているか否かを判定する。この判定は、後述する図12に示すようにして行う。なお、燃料性状は、本出願人に係る先願の公開公報(特開2000−297689号)に開示された方法により推定するのが好適である。
この方法は、所謂学習制御によるものであり、概略次の通りである。始動時に所定の燃料性状推定・実施許可条件を満足したことをもって学習行為を実施する。そして、この条件成立下で燃料噴射量の変化に対する排気空燃比の応答波形をサンプリングし、入出力データを解析することにより燃料性状を推定する。具体的には、プラントモデルのパラメータを、入出力データに基づいて基準燃料(一般的には、重質燃料)に対するプラントモデルである規範モデルとの予測誤差が最小となるように調整して、使用燃料に対するプラントモデルを同定する。そして、同定したプラントモデルのカットオフ周波数fcRealを算出し、算出したfcRealを規範モデルのカットオフ周波数fcRef と比較する。その結果、fcReal>fcRef であれば、使用燃料が基準燃料よりも軽質であると推定する。
【0043】
S7において、フラグ等に基づいて燃料性状推定が終了していると判定した場合は、S8ヘ進み、終了していないと判定した場合は、S4へ戻り、均質燃焼による運転を継続させる。なお、燃料性状推定に関しては、上記方法以外にもセンサによる直接検出等、種々の方法を採用できる。
S8では、成層燃焼(次ステップにおいて述べる排気昇温成層燃焼)の実施許可条件が成立しているか否かを判定する。この判定は、例えば、後述する図13に示すように、排気昇温成層燃焼を安定して行える(機関運転性を損なうことがない)運転状態にあるか否かを判定することにより行う。条件成立と判定した場合は、S9へ進み、不成立と判定した場合は、本ルーチンを終了する(通常の燃焼制御を行う)。
【0044】
S9では、触媒活性化のために排気温度を上昇させるべく、燃焼形態を均質燃焼から排気昇温成層燃焼に切り換える。具体的には、1燃焼サイクル当たりの吸入空気量で略完全燃焼させることができる燃料(理論空燃比若しくはこれより若干リーンな空燃比の混合気を形成するために必要な燃料)を、圧縮行程に噴射させ、点火プラグ6近傍に理論空燃比よりも若干リッチな空燃比の混合気を形成して、成層燃焼させる。点火プラグ6近傍にこのような燃料濃度の比較的高い混合気が形成されれば本発明の効果が得られるので、燃焼室全体の空燃比としては、14〜17程度の範囲内で適宜に選択してよい。なお、噴射時期は、圧縮上死点前50〜80°の範囲内で設定する。
【0045】
S10では、S5で述べたのと同様の方法により触媒が活性化したか否かを判定する。活性化したと判定した場合は、本ルーチンを終了して通常の燃焼制御に移行し、未だ活性化していないと判定した場合は、S9へ戻り、触媒が活性化するまで排気昇温成層燃焼による運転を継続させる。なお、通常の燃焼制御では、運転状態に応じて燃焼形態を均質ストイキ燃焼、均質リーン燃焼及び成層リーン燃焼の間で切り換え、所望の排気性能、燃費性能及び運転性能(出力、安定性)を達成する。
【0046】
なお、本制御では、S6においてピストン8の冠面温度が所定温度未満である場合に成層燃焼への移行を禁止し、燃焼安定性への悪影響を回避したが、触媒活性化を優先させたい場合には、S5からS7ヘ進むようにして、このような処理を省略してもよい。
ここで、後述することとした各種判定について説明する前に、燃料噴射量が燃焼形態に応じていかに演算されるかを説明する。
【0047】
排気昇温成層燃焼以外の燃焼形態による場合は、燃料噴射量は、概略次のように演算される。
ECU21は、吸入空気量Qa及びエンジン回転数Neに基づいて目標空燃比に対応する基本燃料噴射パルス幅(基本噴射量)Tptを算出する。なお、Cは定数である。
【0048】
Tpt=C×Qa/Ne
そして、算出されたTptを水温補正係数Kw、始動後増量補正係数Kas、空燃比フィードバック補正係数LAMD及び目標空燃比補正係数Z等により補正し、有効燃料噴射パルス幅CTIを算出する。なお、Tsは無効噴射時間である。
【0049】
CTI=Tpt×(1+Kw+Kas+・・・)×LAMD×Z+Ts
式中、LAMDは、上流側空燃比センサ36からの入力信号に基づく空燃比検出結果に応じて比例積分制御等により増減されるものであり、これによってTptを補正することにより、混合気の空燃比が目標空燃比にフィードバック制御される。なお、排気昇温成層燃焼時などの空燃比フィードバック補正を行わない場合は、LAMDは所定値(例えば、1)に固定される。
【0050】
そして、排気昇温成層燃焼による場合は、燃料噴射量は、次のように演算される。
この場合の有効燃料噴射パルス幅CTIは、上記噴射量演算式においてTptに係る補正項(例えば、始動後増量補正係数Kas)を変更することにより算出される。そこで、図4に示すフローチャートを参照して、排気昇温成層燃焼時における補正係数Kasの算出手順について説明する。なお、本ルーチンは、所定時間(例えば、10ms)毎にECU21内で実行される。
【0051】
S21では、排気昇温制御の実施が許可されているか否かを判定する。許可されていると判定した場合は、始動後増量補正係数KasをNAKASに置き換え、これを排気昇温成層燃焼での補正係数とするため、S22へ進む。一方、許可されていないと判定した場合は、冷却水温度Twに応じた通常の始動後増量補正係数Kasを求める。このとき、Kasは、Twが高くなるほど小さな値とされ、目標当量比は、図14のt2〜5に示すように推移する。
【0052】
S22では、水温センサ32及びクランク角センサ31からの入力信号に基づいて冷却水温度Tw及びエンジン回転数Neを検出する。
S23では、冷却水温度Twに基づいて、図5に示すような傾向を有するマップを参照して始動後増量補正係数の水温補正分NTKASを読み込む。NTKASは、概してTwが低いときほど大きな値に設定される。低水温時には燃焼室壁面が冷たくなっており、壁面付着燃料成分が気化し難くなっていると判断できるので、点火プラグ6周りに同じ空燃比の混合気を形成するために噴射すべき燃料量が多くなるからである。
【0053】
また、水温補正分NTKASは、一定水温に対しても燃料性状に応じて異なる値に設定され、燃料が軽質であるほど小さな値とされる。軽質燃料は重質燃料と比較して揮発性が高く、同じ量を噴射したとしても壁面付着燃料成分が少なくなるので、その分噴射量自体を減らしておき、燃料性状によらず点火プラグ6周りの混合気を同じ空燃比とするためである。
【0054】
S24では、エンジン回転数Neに基づいて、図6に示すような傾向を有するマップを参照して始動後増量補正係数の回転速度補正分NTNKASを読み込む。NTNKASは、概してNeが低いときほど大きな値に設定される。低回転時には筒内のガス流動が弱くなっており、壁面付着燃料成分が気化し難くなっているため、点火プラグ6周りに同じ空燃比の混合気を形成するために噴射すべき燃料量が多くなるからである。
【0055】
また、回転速度補正分NTKASは、一定回転速度においても燃料性状に応じて異なる値に設定され、燃料が軽質であるほど小さな値とされる。軽質燃料の揮発性の高さを考慮して噴射量自体を減らしておき、点火プラグ6周りの混合気を同じ空燃比とするためである。
なお、図5及び6に示したマップを走行中(例えば、アイドル域以外の低負荷域)にのみ使用し、アイドル時には固定値として設定されたNTKAS及びNTNKASを使用してもよい。
【0056】
S25では、水温補正分NTKAS及び回転速度補正分NTNKASの積NAKASを算出する。
S26では、最新のNAKASを保存する。保存されているNAKASは、排気昇温成層燃焼時における補正係数Kasとして有効燃料噴射パルス幅CTIの演算に反映される(Kas=NAKAS=NTKAS×NTNKAS)。
【0057】
さて、以下では、後述することとした各種判定について順次説明することとする。
まず、図7に示すフローチャートを参照して触媒活性判定(図3のS5)について説明する。ここで、始動からの酸素センサ出力、触媒出入口温度及び触媒転換率の経時変化を図8に示す。
【0058】
S41では、下流側空燃比センサ(酸素センサ)37にヒータによる加熱が行われていないか否かを判定する。行われていないと判定した場合は、S22ヘ進み、行われていると判定した場合は、本ルーチンを終了する。ヒータによる加熱の影響が大きいため、酸素センサ37延いては触媒の活性化判定に誤差が生じる惧れがあるからである。
【0059】
S42では、酸素センサ37が活性化しているか否かを判定する。ここでは、例えば、図8に示すように、酸素センサ37の出力電圧が初期電圧V0に維持された状態から所定レベル(V0+dVR)に達したことをもって、活性化したと判断できる。また、これとは逆に、所定レベル(V0+dVL)に達したことをもっても活性化したと判断できる。このように出力電圧の変位に基づく方法以外にも、酸素センサ37の出力がリーン又はリッチ側へ所定回数反転したことを持って活性化したと判断してもよい。触媒が活性化したと判定した場合は、S43へ進み、未だ活性化していないと判定した場合は、活性化したと判断するまで同じ判定を繰り返す。
【0060】
S43では、酸素センサ37が活性化したことをもって触媒が活性化したと判断する。触媒の下流に設置された酸素センサ37が活性化したのは、触媒出口温度の上昇によるものであり、触媒出口温度の上昇は、HC等の特定排気成分の酸化が促進される状態に至ったことにより、排気温度が上昇したことによるものだからである。
【0061】
S44では、酸素センサ37のヒータに通電して、このセンサを適正温度域に保持するための制御を開始する。
次に、図9に示すフローチャートを参照して成層燃焼切換許可判定(図3のS6)について説明する。ここでは、前述の通り、ピストン8の冠面温度と相関する擬似水温Twfに基づいて判定しており、始動からの冷却水温度Tw及び擬似水温Twfの経時変化を図10に示す。
【0062】
S51では、擬似水温Twfを算出する。Twfは、イグニッション信号がオンされてからの経過時間tの関数として下式により推定演算される。すなわち、始動時水温Tw[0]に応じた初期値Twf[0]から始まって、吸入空気量Qaに応じて単位時間毎に求められる遅れ補正係数Ktwfずつ一次遅れで現状の冷却水温度Tw[t]に向かって収束する。ここで、Twf[0]は、Tw[0]に基づいて図10(a)に示すマップにより、またKtwfは、Qaに基づいて同図(b)に示すマップから、それぞれ読み込まれる。
【0063】
Twf[t]=Tw[t]−(Tw[t]−Twf[t−1])×(1−Ktwf)
S52では、擬似水温Twf[t]が所定温度Twf1以上であるか否かを判定する。Twf1以上であると判定した場合は、S53へ進み、冠面温度が所定温度以上となったと判断する。一方、Twf1に達しないうちは、S51へ戻り、新たに算出された擬似水温Twf[t]について同様の判定を繰り返す。
【0064】
次に、図12に示すフローチャートを参照して燃料性状推定終了判定(図3のS7)について説明する。
S61では、スタータモータが駆動されてエンジン回転数が所定回転数以上となり、その後、スタート信号がオフされた(キーは、イグニッションオン位置にある)か否かを判定する。スタート信号がオフされないうちはクランキング中であるので、燃料性状推定は行われない。従って、この場合は、本ルーチンを終了する。
【0065】
S62では、完爆したか否かを判定する。完爆するまでは燃料性状推定は行われない。
S63では、各種センサからの入力信号が正常であるか否かを判定する。異常がある場合は燃料性状推定は行われない。
S64では、燃料カット中でなく、通常の燃料噴射演算が実行されているか否かを判定する。燃料カット中(減速時、スロットル弁3の全閉時等)であると判定された場合は、燃料性状推定は行われない。
【0066】
以上の判定の結果、キーがイグニッションオン位置にあり(S61)、完爆が済み(S62)、いずれのセンサ信号にも異常がなく(S63)、かつ燃料カット中でない(S64)場合にのみ、S65へ進む。
S65では、燃料性状推定が済んだことを示すフラグFLGに1を代入し、本ルーチンを終了する。
【0067】
次に、図13に示すフローチャートを参照して排気昇温制御・実施許可判定(図3のS8)について説明する。
S71では、各種センサからの入力信号に基づいて冷却水温度Tw、エンジン回転数Ne、トルクTq及び吸入空気量Qaを検出する。
S72では、各検出値をECU21内に内蔵されているRAMの記憶値と比較し、それらのいずれもが、安定した排気昇温成層燃焼のための設定範囲内にあるか否かを判定する。設定範囲内にあると判定した場合は、S73において排気昇温成層燃焼の実施を許可する一方、設定範囲内にないと判定した場合は、S84においてこれを禁止する。本実施形態において排気昇温成層燃焼の実施が許可されるのは、運転状態がアイドル域か又はアイドル域以外の低負荷域にあるときとする。
【0068】
次に、本実施形態に係る燃焼制御の動作について、図14に示すタイムチャートを参照して説明する。同チャートは、始動から暖機までの燃焼形態の遷移に対照して点火時期、スワールコントロールバブル5の開度、目標当量比及びエンジン回転数の経時変化を示している。
本実施形態によれば、時刻t0においてスタート信号がオンされると、エンジンのクランキングが行われ、そのときの回転に合わせて点火時期が徐々に進角される。そして、時刻t1において完爆が済んでスタート信号がオフされると、点火時期は、冷却水温度Tw及びエンジン回転数Neに対応して設定された所定時期に固定される。
【0069】
目標当量比は、始動時から、安定性のために冷却水温度Twに応じて理論空燃比相当よりもリッチ側に補正設定される。そして、暖機運転に移ると、この燃料増量分は、Twの上昇に従って徐々に減少される。
時刻t2において燃料性状推定が終了したことが判定され(フラグFLGに1が代入され)、さらに時刻t3においてピストン8の冠面温度が所定温度以上にまで上昇したことが判定されると、排気昇温成層燃焼への切換えが許可される。これを受けてスワールコントロールバルブ5が全閉位置に駆動され(これに対応して点火時期が遅角される)、時刻t4においてスワールコントロールバルブ5が全閉したことが判定されると、時刻t5において燃焼形態が均質燃焼から排気昇温成層燃焼に切り換えられる。このとき、燃料噴射時期が圧縮行程(圧縮上死点前50〜80°)に変更されることに対応して点火時期が遅角される。
【0070】
時刻t5からの排気昇温成層燃焼では、目標当量比は、燃焼室全体で理論空燃比若しくはそれよりも若干高い程度に設定される。但し、始動後増量補正係数Kas(=NAKAS)が上記のように設定される結果、目標当量比は、燃料性状に応じて異なる値とされ、これが軽質であるときほど低く、すなわち、燃料噴射量が減量される。ここで、本実施形態によれば、冷却水温度Twも目標当量比の設定に寄与するが、簡潔さのため、ここではTwの変化により生じる動きは表していない。
【0071】
このような当量比設定により、点火時期において点火プラグ6近傍には、空燃比が理論空燃比よりも若干低いだけの混合気が形成される。従って、点火プラグ6近傍では燃料が燃焼し切らず、未燃HC及びCO等の不完全燃焼生成物が生成されるが、これらの生成物の発生量は適量であり、筒内に残っている酸素と後反応して燃焼し切る。そして、このときに発生する熱により燃焼ガスが加熱され、排気温度が上昇される。
【0072】
排気昇温成層燃焼により排気温度が高温に維持される間に、触媒が速やかに昇温され、時刻t6において活性化したことが判定されると、時刻t7において通常の燃焼制御(ここでは、均質ストイキ燃焼)に移行する。そして、これに対応して点火時期が進角される。但し、触媒活性前であっても、アクセルが大きく踏み込まれた場合は、運転性能を確保するため、その時点で通常の燃焼制御に移行する。
【0073】
燃焼形態の移行を受けてスワールコントロールバルブ5が全開位置に向けて駆動されると、それに対応して点火時期が進角される。
図15〜17は、本実施形態に係る燃焼制御による効果を示すタイムチャートである。
図15及び16は、始動からの排気温度、HC排出量、吸入空気量及びエンジン回転数(後者では、さらに排気ガス中のHC濃度[ppm])の経時変化を示している。本実施形態による場合(実線A)との比較のため、両図において均質燃焼のみにより暖機を行う場合を細線Cで示すとともに、点線Bとして、図15では成層燃焼への移行前の所定期間Δtにポスト噴射を併行した場合を、また、図16では均質燃焼から2段噴射による成層ストイキ燃焼に切り換えた場合を示している。
【0074】
図15から明らかなように、本実施形態によれば、排気昇温成層燃焼への切換えによって高温の排気ガスが得られるため、均質燃焼のみによる従来の活性方法と比較すると、触媒を活性温度にまでより速やかに加熱し、活性化に要する時間を短縮できることが分かる。
また、HC排出量については、切換直後において一時的に増大するものの、その後は一様に低減される。このため、暖機期間全体に渡って考えれば、大幅な削減が可能と言える。これに対して、ポスト噴射を行う場合を示す点線Bを見ると、ポスト噴射併行期間Δtの初期にHC排出量が急増している。この増加傾向は、始動直後の燃焼室温度が未だ低い状態でポスト噴射が行われることにより、その燃え残りが排出されるためであると考えられるが、燃焼室が充分に暖まった後のHC削減効果を相殺してしまっている。このため、総合的にも、HC排出量はそれほど削減されていない。
【0075】
一方、燃費については、実線A及び点線Bのいずれにおいても、均質燃焼のみによる場合と比較して悪化していることが分かる(その傾向が吸入空気量の増大として現れている)。本実施形態によるとその程度は若干で済むが、ポスト噴射を行う場合には、その実施中に相当に悪化してしまう。ポスト噴射により噴射された燃料が機関出力に寄与しないためである。
【0076】
次に、図16を見ると、本実施形態によれば、排気ガス中のHC濃度を大幅に低下できることが分かる。本発明者の実験結果では、この低下代は、均質燃焼のみによる場合(細線C)の40%ほどであった。ここで、吸入空気量が増えているが、その増量分が僅かであるから、HC排出が量的にも削減されるのである。これに対して、2段噴射による成層ストイキ燃焼による場合を示す点線Bを見ると、HC濃度が相当に低下(本発明者の実験結果では、30%ほど)されているものの、吸入空気量の増量分が大きいため、HC排出量としての削減効果は小さくなっている。
【0077】
図17は、同じ量の燃料を噴射した場合に点火プラグ6周りに形成される混合気の空燃比を、燃料性状に応じて示している。図中、実線Aは重質燃料による場合であり、また点線Bは軽質燃料による場合である。
機関制御系統は、燃焼を重質とした場合に適合させて設計されるのが一般的である。ところが、このような設計において、給油等により実際に貯蔵されている燃料が設定よりも軽質となると、燃料の揮発性の高さに起因して点火プラグ6周りの空燃比が低くなり、リッチ限界を超えて失火を来す惧れがある。
【0078】
本実施形態によれば、燃料性状に応じて燃料噴射量を補正することにより、点火プラグ6周りの混合気形成を厳密に制御できるので、どのような性状の燃料を使用する場合であっても点火プラグ6周りの空燃比を常に適正域に(Aで示す位置に)制御でき、燃焼安定性を損なうことがない。
【0079】
以上に加え、本実施形態では、均質燃焼から排気昇温成層燃焼への燃焼形態の切換えに際し、この切換直後において、目標空燃比を理論空燃比(14.7)よりも若干希薄側の本来の値(例えば、16)よりも多少低めに設定するとともに、機関温度に応じた所定の変化率をもってこの値に徐々に移行させて、有効燃料噴射パルス幅CTIを算出する。本実施形態では、機関温度として、エンジン冷却水の温度を採用する。
【0080】
図18は、その一例を示している。本実施形態では、均質燃焼から排気昇温成層燃焼への切換えに際して、始動後増量補正係数Kasにより目標当量比がリッチ(1より大)とされている場合に、まず、所定当量比(ここでは、理論空燃比相当(=1))ヘ制御し、ここから、排気昇温成層燃焼のための本来の目標当量比にまで徐々に変化させるとともに、その際の変化率dF/Aを切換時の冷却水温度Twに応じて変更する。すなわち、Twが低く、暖機がそれほど進んでいない状態で切り換えられた場合は、燃焼室が充分に暖まるまでに相当の時間を要すると考えられるので、Twが高い場合と比較してdF/Aを小さな値に設定し、時間をかけて目標当量比に移行させるのである。暖機が進んでいないと、壁面付着燃料成分が気化し難いため、その状態で目標当量比が一気に減少されると、点火プラグ6周りの燃料濃度が過度に低くなる可能性があるからである。そして、このようにTwに基づく速さで移行する目標当量比に対応する基本噴射量に対して、燃料性状に応じた補正がなされ(図5)、燃料が軽質であるときほど減量されることとなる。
【0081】
また、他の例を図19に示している。ここでは、排気昇温成層燃焼への切換時に、その時の冷却水温度Twに応じて目標当量比を減少させ、Twが低いときほど高い値から最終値へ下降させる。最終値を基準とした増量分をDとし、切換時の燃焼室温度によらず切換えから一定サイクルn経過後に燃焼室が暖まるものとすれば、制御周期毎の変化率D/nは、Twが低いときほど大きな値に設定される。この方法によれば、切換時及びその直後において、燃焼室が充分に暖まっていないことにより点火プラグ6周りの燃料濃度が過度に低くなることを防止できる。
【0082】
なお、以上の説明では、排気昇温成層燃焼時において噴射量演算式の空燃比フィードバック補正係数LAMDを1に固定し、燃焼噴射量をオープン制御したが、LAMDを機能させて、目標空燃比へのフィードバック制御を行うとともに、このときの噴射量演算式に燃料性状を反映させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る直噴式火花点火機関の構成図
【図2】燃焼形態に応じた燃料噴射の概念図
【図3】本発明の一実施形態に係る燃焼制御ルーチンのフローチャート
【図4】排気昇温制御用・始動後増量補正係数Kas(NAKAS)算出ルーチンのフローチャート
【図5】同上補正係数水温補正分NTKASの設定マップ
【図6】同上補正係数回転速度補正分NTNKASの設定マップ
【図7】触媒活性判定ルーチンのフローチャート
【図8】暖機時における触媒下流側空燃比センサ出力、触媒上下流温度及び転換率の変化を示すタイムチャート
【図9】ピストン冠面温度上昇判定ルーチンのフローチャート
【図10】擬似水温算出用パラメータの設定マップ
【図11】暖機時における冷却水温度及び擬似水温の変化を示すタイムチャート
【図12】燃料性状推定終了判定ルーチンのフローチャート
【図13】排気昇温制御・実施許可判定ルーチンのフローチャート
【図14】本発明の一実施形態に係る燃焼制御の動作を示すタイムチャート
【図15】同上制御による効果の説明図(排気特性;ポスト噴射による予熱を行う場合との比較)
【図16】同上制御による効果の説明図(排気特性;2段噴射による成層ストイキ燃焼による場合との比較)
【図17】同上制御による効果の説明図(点火プラグ周りの空燃比)
【図18】燃焼形態切換直後の目標空燃比設定の一例を示す概念図
【図19】同上目標空燃比設定の他の例を示す概念図
【符号の説明】
1…エンジン本体
2…吸気管
3…スロットル弁
5…スワールコントロールバルブ
6…点火プラグ
7…インジェクタ
11…排気管
12…触媒コンバータ
21…ECU(電子制御ユニット)
31…クランク角センサ
32…水温センサ
33…エアフローメータ
34…スロットルセンサ
35…アクセルセンサ
36,37…空燃比センサ
38…スタートスイッチ

Claims (15)

  1. 燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射手段と、
    運転条件に応じて、前記手段により燃料を吸気行程に噴射させて行う均質燃焼と、前記手段により燃料を圧縮行程に噴射させて行う成層燃焼とを切り換える燃焼制御手段と、を備え、
    前記燃焼制御手段は、
    機関始動の際にまず均質燃焼を行わせ、所定条件が成立したことをもって均質燃焼から成層燃焼に直接切り換えるとともに、該成層燃焼を行わせる際に、燃焼室全体の空燃比を理論空燃比又はこれよりも若干希薄側とするための要求燃料量を1燃焼行程当たりの全噴射量として、これを圧縮行程に噴射させ
    前記燃焼室全体の空燃比を理論空燃比又はこれよりも若干希薄側とするための要求燃料量を目標空燃比に基づいて算出するとともに、前記切換直後に目標空燃比の移行期間を設け、該期間では、目標空燃比を移行完了後のものよりも低く設定して前記要求燃料量を算出し、前記移行期間において、目標空燃比を機関温度に基づいて設定される所定の変化率で上昇させることを特徴とする直噴式火花点火機関の制御装置。
  2. 前記所定条件が、ピストン冠面温度が高温状態を示す所定温度以上であると判定されるときに成立する請求項1に記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  3. 前記ピストン冠面温度に相関するパラメータとしての擬似水温が所定温度以上であることをもってピストン冠面温度が前記所定温度以上であると判定され、該擬似水温は、始動時冷却水温度に応じた初期値と、所定周期毎の吸入空気量に応じた遅れ補正係数とに基づいて、冷却水温度の変化に対して遅れを持たせて算出される請求項2に記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  4. 燃料性状を推定する燃料性状推定手段を備え、前記燃焼制御手段が、前記燃焼室全体の空燃比を理論空燃比又はこれよりも若干希薄側とするための要求燃料量を、前記手段により推定された燃料性状に応じて補正して算出する請求項1〜3のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  5. 前記燃焼制御手段が、前記推定された燃料性状に応じて燃料が軽質であるほど要求燃料量を大きく減量補正する請求項4に記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  6. 燃料性状に応じた補正量が、機関回転数に基づいて決定される請求項4又は5に記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  7. 前記補正量に応じて機関回転数が低いときほど燃料噴射量が増量される請求項6に記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  8. 燃料性状に応じた補正量が、機関温度に基づいて決定される請求項4〜7のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  9. 前記補正量に応じて冷却水温度が低いときほど燃料噴射量が増量される請求項8に記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  10. 前記燃焼制御手段が、燃料性状に応じた補正を要求燃料量のオープン制御中に行う請求項4〜9のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  11. 前記燃焼制御手段が、燃料性状に応じた補正を要求燃料量のフィードバック制御中に行う請求項4〜9のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  12. 前記燃料性状推定手段による推定が終了している場合にのみ前記切換えが許可される請求項4〜11のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  13. 前記変化率が、前記機関温度としての冷却水温度が高いときほど大きな値とされる請求項1〜12のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  14. 排気通路に排気後処理用触媒を備える機関に適用された請求項1〜13のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
  15. 前記切換後の成層燃焼において、燃料噴射時期が圧縮上死点前50〜80°の範囲内に設定される請求項1〜14のいずれか1つに記載の直噴式火花点火機関の制御装置。
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