JP4074387B2 - 非粘着性フッ素ゴム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非粘着性フッ素ゴムに関し、特に、フッ素ゴム表面に特定の2層の塗膜層を備えてなる非粘着性フッ素ゴムに関する。
【0002】
【従来の技術】
フッ素ゴム加硫物は、優れたゴム弾性に加えて、耐熱性、耐油性および耐オゾン性にも優れており、バルブ、パッキン、シーリング材として幅広く用いられている。そして、これらのものは、シール性を保持するために用いられることが多く、通常、金属やプラスチックと接触する状態で用いられる。
【0003】
しかしながら、フッ素ゴム加硫物は、その表面が粘着性を有するが故に、金属やプラスチックと接触した状態が長時間に亘ると、フッ素ゴム加硫物と金属等が互いに接着してしまい、例えば、開閉バルブの弁として用いた場合、開閉バルブとしての本来の開閉機能が正常に作用しないとか、またパッキンとして用いた場合に、定期的に行われる交換作業が困難となるといった問題を有していた。
【0004】
このような問題を解決するために、従来より、ゴムそのものが持つ弾性特性を維持させつつ、ゴム表面の粘着性を低減させるための種々の提案がなされている。
【0005】
これらの提案は、(1)ゴム組成物の配合による処理、例えば、充填剤等の配合によりゴムそのものの粘着性を下げる方法と、(2)ゴム表面のみの処理、例えば、ゴム表面にフッ素樹脂含有塗布組成物を、直接ないしはプライマー層(接着下地層)を介して塗設することにより表面の粘着性を下げる方法(表層の改質)との二つの方法に大別される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前者(1)の方法では、均一配合に基づくものであるから、ゴムとしての特性を生かしながら表面のみの粘着性を極端に下げることは極めて困難である。これに対して、後者(2)の方法では、表層のみの処理であるから、ゴムとしての特性を生かしながら表面のみの粘着性を下げることは比較的容易と言えるが、従来より提案され、すでに公知となっている塗布タイプの非粘着性フッ素ゴムは、以下の点でさらなる改良が要望されていた。
【0007】
すなわち、▲1▼フッ素ゴムとこの上に塗設される塗膜層との接着性(密着性)が十分とは言えず、剥離のおそれが生じ得る。特に、耐寒性に優れた特性を備えるフッ素ゴムのグレードではこの剥離が深刻な問題となっていた。▲2▼シール面を構成する塗膜層の表面の平滑性が十分とは言えず(表面の凹凸が大きい)、ハイレベルのシール特性が要求される場合には使用が制限されることがあった。▲3▼異常事態での環境下、例えば、長時間高温下にさらされたとしても、シール性等の機能を維持するために高度の耐熱性が要求されることがある。
【0008】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであって、その目的は、ゴムそのものに必要とされる弾性特性を備えることはもとより、従来にも増して、より優れたゴム表面の非粘着性特性を備え、さらに、フッ素ゴムと塗布膜との接着性(密着性)に優れ、シール面を構成する塗膜表面の平滑性および耐熱性に優れた非粘着性フッ素ゴムを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本願に係る発明者らが、特に、ゴム表面に塗布する塗布組成物および塗膜の構成に注目して鋭意研究した結果、塗膜を2層構成とし、各塗膜の成分を特定することにより、従来より増してゴム表面の粘着性を低下させることができ、さらに、塗膜の密着性、塗膜表面の平滑性、および塗膜の耐熱性が向上するということを見いだし本発明に想到したのである。
【0010】
すなわち、本発明の非粘着性フッ素ゴムは、フッ素ゴム加硫物の表面に、エポキシ系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第1の塗膜層と、ポリイミドアミド系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第2の塗膜層を順次備えてなるように構成される。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、前記第1および第2の塗膜層に含有されるフッ素樹脂は、それぞれ、ポリテトラフルオロエチレンとして構成される。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として、前記第1の塗膜層に含有されるエポキシ系バインダーとフッ素樹脂の含有比率は、フッ素樹脂100重量部に対してエポキシ系バインダー70〜90重量部であり、前記第2の塗膜層に含有されるポリイミドアミド系バインダーとフッ素樹脂との含有比率は、フッ素樹脂100重量部に対してポリイミドアミド系バインダー75〜95重量部となるように構成される。
【0013】
また、本発明の好ましい態様として、前記第1の塗膜層の膜厚は、5〜15μm、前記第2の塗膜層の膜厚は、7〜20μmとなるように構成される。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の非粘着性フッ素ゴムは、フッ素ゴムの加硫を終えたフッ素ゴム加硫物のゴム主要部(フッ素ゴム加硫物)と、このゴム主要部の上に形成される第1の塗膜層と、この第1の塗膜層の上に形成される第2の塗膜層を備えて構成される。
【0017】
第1の塗膜層は、エポキシ系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する。エポキシ系バインダーは、分子中にエポキシ基をもつバインダーであり、例えばビスフェノール類多価アルコール、ダイマー酸、トリマー酸およびノボラックなどとエピクロヒドリンとの重縮合体や、それをハロゲン化した樹脂;ポリオレフィンを酸化しエポキシ基を導入した樹脂;脂環式エポキシ樹脂などが例示できる。
【0018】
さらに、第1の塗膜層には、フッ素樹脂が含有される。フッ素樹脂を含有させておくことにより、後述する第2の塗膜層が仮に摩耗等により消失したとしても、第1の塗膜層が非粘着性をバックアップすることができる。
【0019】
用いるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン;ポリクロロトリフルオロエチレン;テトラフルオロエチレンとエチレン、フルオロアルキルビニルエーテルおよびヘキサフルオロプロピレンとのそれぞれの共重合体;クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体;ポリフッ化ビニリデン;ポリフッ化ビニル等が挙げられる。これらは、単独の1種類のみ用いてもよいし、また2種以上を混合して用いてもよい。上記フッ素樹脂の中では、特に、ポリテトラフルオロエチレンを用いることが好ましい。
【0020】
第1の塗膜層に含有されるエポキシ系バインダーとフッ素樹脂の含有比率は、フッ素樹脂100重量部に対してエポキシ系バインダー70〜90重量部とするのが良い。エポキシ系バインダーが90重量部を超えると、バインダーリッチとなり、非粘着性が低下してしまう。また、70重量部未満となると、塗膜層の強度が低下したり、ゴム主要部(フッ素ゴム加硫物)との密着性が低下してしまう。
【0021】
このような第1の塗膜層は、溶剤中に、上記のエポキシ系バインダーおよび上記フッ素樹脂を混合分散させて第1の塗膜層形成用塗料を作製し、この塗料をゴム主要部(フッ素ゴム加硫物)に直接塗設することにより形成される。
【0022】
用いる溶剤としては、特に制限はなくエポキシ系バインダーとの相溶性等を考慮して適宜選定される。このような第1の塗膜層の膜厚は、乾燥状態で5〜15μm程度とされる。
【0023】
このように形成された第1の塗膜層の上には、第2の塗膜層が形成される。第2の塗膜層には、ポリイミドアミド系バインダーおよびフッ素樹脂が主成分として含有される。
【0024】
ポリイミドアミド系バインダーは、高分子主鎖中にイミド結合とアミド結合を持つ高分子化合物であり、例えば、ジアミンとトリメリト酸無水物とを縮合させた化合物や、ジアセチルジアミンとトリメリト酸から得られるテトラカルボン酸無水物に各種ジアミンを縮合させた化合物が挙げられる。
【0025】
第2の塗膜層に含有される好適なフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン;ポリクロロトリフルオロエチレン;テトラフルオロエチレンとエチレン、フルオロアルキルビニルエーテルおよびヘキサフルオロプロピレンとのそれぞれの共重合体;クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体;ポリフッ化ビニリデン;ポリフッ化ビニル等が挙げられる。これらの中では特に、ポリテトラフルオロエチレンを用いるのがよい。上記フッ素樹脂は、単独の1種類のみ用いてもよいし、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
第2の塗膜層に含有されるポリイミドアミド系バインダーとフッ素樹脂との含有比率は、フッ素樹脂100重量部に対してポリイミドアミド系バインダー75〜95重量部とするのが良い。
【0027】
ポリイミドアミド系バインダーが95重量部を超えると、バインダーリッチとなり、本来要求される非粘着性が得られなくなってしまう。また、75重量部未満となると、塗膜層の強度や密着性が低下してしまう。さらに第2の塗膜層表面の平滑性や耐熱性も悪くなる傾向にある。
【0028】
このような第2の塗膜層は、溶剤中に、上記のポリイミドアミド系バインダーおよび上記のフッ素樹脂を混合分散させて第2の塗膜層形成用塗料を作製し、この塗料を上記の第1の塗膜層の上に直接塗設することにより形成される。
【0029】
用いる溶剤としては、特に制限はなくポリイミドアミド系バインダーとの相溶性等を考慮して適宜選定される。このような第2の塗膜層の膜厚は、乾燥状態で7〜20μm程度とされる。
【0030】
本発明に用いられるフッ素ゴム加硫物の材質としては、例えば、二元系や三元系など種々のゴム材質が用いられる。具体的な好適例としては、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン三元共重合体、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン−パーフルオロビニルメチルエーテル三元共重合体等が挙げられる。
【0031】
上記のフッ素ゴム加硫物は、公知の一般的な種々の方法によって製造される。すなわち、加硫剤、有機ないし金属の促進剤、安定剤、可塑剤等を添加して一般的な加硫条件で加硫することによってフッ素ゴム加硫物を得ることができる。さらに添加剤として、カーボンブラック、シリカ等の充填剤を含有させてもよい。このように本発明の非粘着性フッ素ゴムでは、フッ素ゴム加硫物の表面に、エポキシ系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第1の塗膜層と、ポリイミドアミド系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第2の塗膜層を順次備えて構成している。第1の塗膜層は、主としてゴム主要部(フッ素ゴム加硫物)との接着強度および第2の塗膜層との接着強度を高める機能を備えており、第2の塗膜層は、主として塗膜層そのものの耐熱性および表面平滑性、さらには非粘着性を向上させる機能を備えており、これらの第1の塗膜層および第2の塗膜層が組み合わされてこそ、本発明の極めて優れた効果が発現するのである。
【0032】
さらに、本発明の効果は、一般的な物性を備えるフッ素ゴム加硫物(ゴム主要部)はもちろんのこと、特に、塗設により塗膜の接着強度が得られないとされるいわゆる『特別フッ素ゴム』に対して極めて顕著な効果を発現する。『特別フッ素ゴム』とは、特に耐寒性能に優れるグレードのフッ素ゴム加硫物であり、例えば、デュポン社の「バイトンGLT」が例示できる。その耐寒性能は、−30℃での破断時の伸びが110%以上、特に、160%近傍までの値を示し、さらに−40℃での破断時の伸びが40%以上、特に、60%近傍までの値を示す。
【0033】
【実施例】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
(実施例I−1)
まず最初に、下記に示す要領でフッ素ゴム加硫物、ならびに第1および第2の塗膜層形成用塗料を、それぞれ作製し、準備した。
【0035】
フッ素ゴム加硫物の作製
フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン二元共重合体(ダイエルG−701、ダイキン工業(株)社製)100重量部、酸化マグネシウム(キョーワマグ#30、協和化学工業(株)社製)15重量部、カーボンブラック(サーマックスMT、Cancarb 社製)10重量部からなるマスターバッチに、6重量部のCa(OH)2 を加えて混合し、これを170℃、10分間熱加硫してフッ素ゴム加硫物を得た。
【0036】
第1の塗膜層形成用塗料の作製
メチルイソブチルケトン(MIBK)およびトルエンからなる溶剤100重量部に、エポキシ系バインダー18重量部およびポリテトラフルオロエチレン22重量部を、それぞれ混合分散して第1の塗膜層形成用塗料を作製した。
【0037】
第2の塗膜層形成用塗料の作製
N−メチルピロリドンおよびセロソルブアセテートからなる溶剤100重量部に、ポリイミドアミド系バインダー(ポリイミドアミド樹脂)17重量部およびポリテトラフルオロエチレン20重量部を、それぞれ混合分散して第2の塗膜層形成用塗料を作製した。
【0038】
具体的サンプルの作製
上記のフッ素ゴム加硫物の上に、上記第1および第2の塗膜層形成用塗料を順次、塗設乾燥させ、2層の積層塗膜を形成させ、実施例I−1のサンプルを作製した。乾燥後の第1および第2の塗膜層さは、それぞれ、10μmおよび15μmであった。
【0039】
(比較例I−1)
上記実施例I−1において、第2の塗膜層を設けなかった。第1の塗膜層の乾燥厚さは10μmとした。それ以外は、上記実施例I−1と同様にして比較例I−1のサンプルを作製した。
【0040】
(比較例I−2)
上記実施例I−1において、第1の塗膜層を設けず、第2の塗膜層のみ設けた。第2の塗膜層の乾燥厚さは15μmとした。それ以外は、上記実施例I−1と同様にして比較例I−2のサンプルを作製した。
【0041】
(実施例II−1)
上記実施例I−1において用いたフッ素ゴム加硫物を、耐寒性に極めて優れるフッ素ゴム加硫物(商品名:バイトンGLT;デュポン社製)に代えた。それ以外は、上記実施例I−1と同様にして実施例II−1のサンプルを作製した。
【0042】
(比較例II−1)
上記実施例II−1において、第2の塗膜層を設けなかった。第1の塗膜層の乾燥厚さは10μmとした。それ以外は、上記実施例II−1と同様にして比較例II−1のサンプルを作製した。
【0043】
(比較例II−2)
上記実施例II−1において、第1の塗膜層を設けず、第2の塗膜層のみ設けた。第2の塗膜層の乾燥厚さは15μmとした。それ以外は、上記実施例II−1と同様にして比較例II−2のサンプルを作製した。
【0044】
このように作製した各種サンプルについて、▲1▼フッ素ゴム加硫物との接着性(密着性)、▲2▼第2の塗膜層の表面平滑性、▲3▼塗膜の耐熱性、および▲4▼塗膜表面のの非粘着性を、それぞれ評価した。評価基準は社内基準とし、◎,○,△,×の4段階で評価した。◎が最もよく、×に近づくほど悪くなる。結果を下記表1に示した。
【0045】
【表1】
Figure 0004074387
【0046】
【発明の効果】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明の非粘着性フッ素ゴムは、フッ素ゴム加硫物の表面に、エポキシ系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第1の塗膜層と、ポリイミドアミド系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第2の塗膜層を順次備えて構成されているので、従来にも増して、より優れたゴム表面の非粘着性特性を備え、さらに、フッ素ゴムと塗布膜との接着性(密着性)に優れ、シール面を構成する塗膜表面の平滑性および耐熱性に優れた特性を示す。

Claims (4)

  1. フッ素ゴム加硫物の表面に、エポキシ系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第1の塗膜層と、ポリイミドアミド系バインダーおよびフッ素樹脂を主成分として含有する第2の塗膜層を順次備えてなることを特徴とする非粘着性フッ素ゴム。
  2. 前記第1および第2の塗膜層に含有されるフッ素樹脂は、それぞれ、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の非粘着性フッ素ゴム。
  3. 前記第1の塗膜層に含有されるエポキシ系バインダーとフッ素樹脂の含有比率は、フッ素樹脂100重量部に対してエポキシ系バインダー70〜90重量部であり、
    前記第2の塗膜層に含有されるポリイミドアミド系バインダーとフッ素樹脂との含有比率は、フッ素樹脂100重量部に対してポリイミドアミド系バインダー75〜95重量部である請求項1または請求項2に記載の非粘着性フッ素ゴム。
  4. 前記第1の塗膜層の膜厚は、5〜15μm、前記第2の塗膜層の膜厚は、7〜20μmである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の非粘着性フッ素ゴム。
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