JP4072794B2 - Dnaの塩基配列決定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、RNAポリメラーゼを用い、かつRNAポリメラーゼによる核酸転写反応の開始剤を用いるDNA の塩基配列決定方法に関する。特に本発明は、シークエンスの際にコンプレッションを抑制してより正確なシークエンスの読み取りを行うため、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる際に、RNAポリメラーゼによる核酸転写反応の開始をスムーズに行えるDNAの塩基配列決定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法は優れた方法であり、年々その利用範囲が広がっている[Randall K. Saiki et al. (1988) Science 239, 487-491]。PCR 法では、1分子のDNA 断片を増幅することも可能である。PCR 法で増幅した生成物をクローニングすることなくシークエンスする方法(ダイレクト・シークエンス法)も有用な方法である[Corinne Wong et al. (1988) Nature, 330,384-386]。この方法はライブラリー作製やそのライブラリーのスクリーニングが不要であり、多くのサンプルの配列情報を同時に得られる迅速な方法である。
【0003】
しかるに、上記ダイレクト・シークエンス法には2つの大きな問題点がある。
一つは、取り込めなかったプライマー及び2’デオキシリボヌクレオシド5トリフォスフェート(2’dNTPs)が反応系中に残存し、これらがシークエンス反応を妨げることである。従って、従来法では、これら残存するプライマーと2’dNTPsは、シークエンスの前にPCR生成物から除去する必要があった。PCR生成物の精製方法には種々の方法があり、例えば、電気泳動による精製法、エタノール沈殿法、ゲル濾過法、HPLC精製法がある[例えば、Dorit R.L et al. (1991) Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 11, John Wiley and Sons, New York, 15.2.1-15.2.11参照」。しかし、何れの方法でも煩雑である。
【0004】
2つ目の問題は、PCR 生成物の迅速な再生(renaturation) である。PCR生成物が2本鎖DNAに再生してしまうと、1本鎖のテンプレート(鋳型)ではなくなり、プライマーと1本鎖テンプレートとの間のアニーリングを妨げる。再生を最小限にするための方法として、例えば変性後の急冷、1つのプライマーのビオチレーション(biotilation)とストレプトアビジン被覆物へのPCR生成物の吸着、エクソヌクレアーゼの使用、エイシメトリックPCR等が報告されている。例えば、Barbara Bachmannら、1990, Nucleic Acid Res.,18, 1309- に開示されている。しかし、これらの方法の殆どは、長い時間を必要とし、非常に面倒である。
【0005】
そこでそれらを解決するための新しい方法として、本発明者は、PCR 反応系中に残存する未反応のプライマー及び2'デオキシリボヌクレオシド5 'トリフォスフェート(2'dNTPs)を除去することなく、かつPCR反応生成物が迅速に再生する問題を回避するため、変性自体を全く行わないで良い、全く新しいDNAの塩基配列決定方法を提案した〔WO96/14434〕。この方法は、T7 RNAポリメラーゼ等のRNA ポリメラーゼとRNA転写反応のターミネーター(例えば、3'デオキシリボヌクレオシド5'トリフォスフェート、3'dNTPs)を用いるダイレクト転写シークエンス法である。この方法によれば、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅したDNA生成物の塩基配列を、プライマー及び2'デオキシリボヌクレオシド5 'トリフォスフェート(2'dNTPs)を除去する必要なしにそのままシークエンスに使用できる。さらに、変性自体を全く行わないため、PCR生成物が迅速に再生する問題も回避でき、極めて優れた方法である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記方法について本発明者がさらに研究を行ったところ、より正確な塩基配列データを得るためには、さらに解決すべき課題があることを見出した。上記塩基配列決定法において、T7 RNAポリメラーゼ等の RNAポリメラーゼは、リボヌクレオシド5 'トリフォスフェート類並びに3'デオキシリボヌクレオチドの混合物中で反応させる。この反応において、鋳型の配列に相応した塩基を有するリボヌクレオチド及び3'デオキシリボヌクレオチドが、リボヌクレオチド配列中に逐次取り込まれることで、ポリリボヌクレオチドが合成される。得られるポリリボヌクレオチド(核酸転写生成物)を分離し、得られる分離分画から核酸の配列を読み取ることでDNAの塩基配列が決定される。
【0007】
ところが、ポリリボヌクレオチド断片を、例えば、電気泳動法により、断片の長さに応じて分離する際、断片間で移動度が不均一であると、隣り合った断片の分離が不十分になる。その結果、隣り合った断片から得られるシークエンスのシグナル(例えば、蛍光発光ピーク)が重なり、配列の読み取りを妨げることがある。このような現象はコンプレッションと呼ばれる。コンプレッションは、DNAポリメラーゼを用いたシークエンスについては良く知られている。しかし、RNAポリメラーゼを用いるシークエンスにコンプレッションが現れることは知られていなかった。本発明の検討の結果、特に、ポリリボヌクレオチドの鎖長が長くなればそれだけ、ポリリボヌクレオチドが高次構造を形成し易くなり、コンプレッションが起きやすくなることが分かった。
【0008】
ゲノムプロジェクトのように、膨大な量の遺伝子配列を決定する場合、一度のシークエンスで読み取れるDNA配列の長さが長い程、効率は良くなる。さらに、完全長cDNAをそのままの長さで読み取れれば、遺伝子の機能の理解も容易になる。そのため、今後、より長鎖のDNAの配列決定に対する要求は強くなる。その場合、上記のようなコンプレッションは、シークエンスの読み取りの精度を悪化させ、大きな問題である。
【0009】
そこで、本発明者は、RNAポリメラーゼを用いるDNAの塩基配列決定方法において、コンプレッションの発生を抑制して、シークエンスの読み取りの精度を向上させたDNAの塩基配列決定方法を提供すべく種々検討した。その結果、RNAポリメラーゼによる転写反応の原料となるリボヌクレオチシドとして、シークエンスの際にコンプレッションを抑制し得るコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いることで上記目的が達成できることを見出した。コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体としては、例えば、塩基の代わりに塩基類似体(塩基アナローグ)を有するリボヌクレオチドが用いられる。
【0010】
ところが、このような塩基アナローグを有するリボヌクレオチドを用いると、RNAポリメラーゼによる転写反応の開始が阻害され、シークエンスできない場合があった。この転写開始阻害は、種々検討した結果、本シークエンス法がRNAポリメラーゼを用い、RNAポリメラーゼの転写活性がプロモーター依存性があることに起因していることが判明した。即ち、RNAポリメラーゼによる転写は、RNAポリメラーゼがプロモーター配列を認識し、かつプロモーター配列と相同なDNA配列を合成し始めることで開始される。しかし、前記DNA配列の第1番目に取り込まれるリボヌクレオチドが上記コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体である場合、RNAポリメラーゼによる取り込みが良好に行われず、その結果、転写開始が阻害された。
【0011】
そこで、本発明の目的は、RNAポリメラーゼを用いるDNAの塩基配列決定方法において、シークエンスの読み取りの精度を向上させる目的でリボヌクレオチドとしてコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を使用する場合であっても、RNAポリメラーゼによる転写が阻害されずDNAの良好に塩基配列を決定できる方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、RNAポリメラーゼ及び前記RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むDNA断片の存在下、ATP、GTP、CTP及びUTP又はそれらの誘導体からなるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類並びに3'dATP、3'dGTP、3'dCTP、3'dUTP及びそれらの誘導体からなる1種又は2種以上の3'デオキシリボヌクレオシド5'トリフォスフェート(以下3'dNTP誘導体という)を反応させて核酸転写生成物を得、得られる核酸転写生成物を分離し、得られる分離分画から核酸の配列を読み取るDNAの塩基配列決定方法であって、
前記リボヌクレオシド 5' トリフォスフェート類の一種または二種以上としてシークエンスの際にコンプレッションを抑制し得るリボヌクレオチド誘導体(以下、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体という)を用い、かつ
前記核酸転写反応の開始剤として、5'末端にフォスフェート基を有さないオリゴリボヌクレオシド類及び5'末端にモノまたはジフォスフェート基を有するオリゴリボヌクレオチド類からなる少なくとも1種の核酸転写開始剤を用いることを特徴とする方法に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のDNAの塩基配列決定方法は、RNAポリメラーゼ及び前記RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むDNA断片の存在下、リボヌクレオチド(NTP)と3'デオキシリボヌクレオチド (3'dNTP)誘導体を反応させ、得られた核酸転写生成物の分離分画から核酸の配列を読み取る事からなるものであり、前記核酸転写反応の開始剤として、5'末端にフォスフェート基を有さないオリゴリボヌクレオシド類及び5'末端にモノまたはジフォスフェート基を有するオリゴリボヌクレオチド類からなる少なくとも1種の核酸転写開始剤を用いることに特徴がある。さらに本発明の方法は、前記NTPの一種または二種以上としてコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる場合に特に有用である。
【0014】
核酸転写開始剤核酸転写開始剤としては、例えば、リボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、リボヌクレオシド5'ジフォスフェート、一般式N1(N)n(式中、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数である)で示されるオリゴリボヌクレオチド類、及び一般式N2(N)n(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数である)で示されるオリゴリボヌクレオチド類からなる群から選ばれることができる。
【化5】
【0015】
核酸転写開始剤としては、より具体的には、例えば、グアノシン、グアノシン5'モノフォスフェート(GMP)、グアノシン5'ジフォスフェート(GDP)、一般式N1(N)n-1G(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Gはグアノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1G(式中、N2は前記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Gはグアノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類を挙げることができる。
【0016】
さらに核酸転写開始剤としては、より具体的には、アデノシン、アデノシン5'モノフォスフェート(AMP)、アデノシン5'ジフォスフェート(ADP)、一般式N1(N)n-1A(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Aはアデノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1A(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Aはアデノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類を挙げることができる。
【0017】
また、核酸転写開始剤としては、具体的には、シチジン、シチジン5'モノフォスフェート(CMP)、シチジン5'ジフォスフェート(CDP)、一般式N1(N)n-1C(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Cはシチジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1C(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Cはシチジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類を挙げることができる。
【0018】
さらに核酸転写開始剤としては、具体的には、ウリジン、ウリジン5'モノフォスフェート(UMP)、ウリジン5'ジフォスフェート(UDP)、一般式N1(N)n-1U(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Uはウリジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1U(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Uはウリジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類を挙げることができる。
【0019】
上記一般式N1(N)n、N1(N)n-1G、N1(N)n-1A、N1(N)n-1C、N1(N)n-1U、N2(N)n、N2(N)n-1G、N2(N)n-1A、N2(N)n-1C、N2(N)n-1Uにおいて、N1で示されるリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、及びリボヌクレオシド5'ジフォスフェートの塩基に特に制限はなく、グアニン、アデニン、シトシン、ウリジンから適宜選択できる。また、Nで示されるリボヌクレオシド5'モノフォスフェートの塩基の種類及びnが2以上の場合の塩基の配列にも特に制限はない。さらに、イニシエーターの機能の面でnには上限はないが、入手の容易さ等を考慮すると、実用上は、nはせいぜい10以下程度であり、好ましくは5以下である。
【0020】
コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体
本発明の方法は、上述のようにコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる場合に特に有用である。コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は、リボヌクレオチド誘導体であってシークエンスの際にコンプレッションを抑制し得る化合物である。コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は、例えば、塩基の代わりに塩基類似体(塩基アナローグ)を有するリボヌクレオチドから選ぶことが出来る。塩基類似体は、天然物であっても合成物であってもよい。合成物は、例えば、プリン環やピリミジン環を構成する炭素の一部が窒素に置換されたものや、プリン環やピリミジン環を構成する窒素の一部が炭素に置換されたものであることができる。あるいは、プリン環やピリミジン環に種々の置換基を導入したものであることもできる。
【0021】
塩基類似体を有するリボヌクレオチドであるコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体として、例えば、デアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類を挙げることができる。さらに、デアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類として、7−デアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類及び3−デアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類を挙げることができる。7−デアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類には、7−デアザATP、7−デアザGTP及びそれらの誘導体があり、3−デアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類には、3−デアザCTP、3−デアザUTP及びそれらの誘導体がある。
【0022】
コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体のその他の例として、デアミノリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類を挙げることができる。リボヌクレオチドが有する塩基には、ウラシルを除き、アミノ基が存在する。GTPはプリン環の2位に、ATPプリン環の6位に、及びCTPはピリミジン環の4位にそれぞれアミノ基を有する。上記デアミノリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類とは、これらのアミノ基を脱離したリボヌクレオチド類であり、N2-デアミノGTP、N6-デアミノATP及びN4-デアミノCTP並びにそれらの誘導体を挙げることができる。尚、N2-デアミノグアニンは、イノシンと同一物質であり、N2-デアミノGTPはITPと略記することもできる。
【0023】
コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体のその他の例として、リボヌクレオチドの塩基に存在するアミノ基の水素の1つまたは2つが水素以外の有機基で置換された誘導体を挙げることができ、そのような誘導体の例として、Nアルキル置換リボヌクレオシド5'トリフォスフェート類(但し、アルキルは炭素数1〜6の低級アルキルであり、かつ置換はモノまたはジ置換である)を挙げることができる。但し、置換基は、アルキル基以外の有機基から選択することもできる。Nアルキル置換リボヌクレオシド5'トリフォスフェート類としては、例えば、N2-モノメチル置換GTP、N4-モノメチル置換CTP、N6-モノメチル置換ATP及びそれらの誘導階体を挙げることができる。
【0024】
本発明の方法においては、ATP、GTP、CTP及びUTP又はそれらの誘導体からなる4種類のリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の内、コンプレッションを生じやすい塩基について、リボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の代わりにコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる。必要により、2種以上のリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類について、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いることもできる。
【0025】
4種類のリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類のうち、1種類の塩基についてコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体としてデアザリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類を用いる場合の組合せは、[7−デアザATP、GTP、CTP、UTP]、[ATP、7−デアザGTP、CTP、UTP]、[ATP、GTP、3−デアザCTP、UTP]、[ATP、GTP、CTP、3−デアザUTP]である。デアザNTPを別のコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体に置き換えることもできる。尚、7−デアザNTP等のコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は市販され、市販品を入手可能である。また、2種以上のコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を併用することも、同一の塩基について、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体と通常のリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類を併用することもできる。
【0026】
GTPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の一部または全部としてコンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる場合、核酸転写開始剤として、グアノシン、グアノシン5'モノフォスフェート(GMP)、グアノシン5'ジフォスフェート(GDP)、一般式N1(N)n-1Gで示されるオリゴリボヌクレオチド類、又は一般式N2(N)n-1Gで示されるオリゴリボヌクレオチド類を併用することが適当である。この場合、上記コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は、例えば、7−デアザGTP、N2-デアミノGTP、またはN2-モノメチル置換GTPであることができる。
【0027】
ATPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の一部または全部として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる場合、核酸転写開始剤として、アデノシン、アデノシン5'モノフォスフェート(AMP)、アデノシン5'ジフォスフェート(ADP)、一般式N1(N)n-1Aで示されるオリゴリボヌクレオチド類、又は一般式N2(N)n-1Aで示されるオリゴリボヌクレオチド類を併用することが適当である。この場合、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は、例えば、7−デアザATP、N6-デアミノATP、又はN6-モノメチル置換ATPであることができる。
【0028】
CTPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の一部または全部として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いる場合、核酸転写開始剤として、シチジン、シチジン5'モノフォスフェート(CMP)、シチジン5'ジフォスフェート(CDP)、一般式N1(N)n-1Cで示されるオリゴリボヌクレオチド類、又は一般式N2(N)n-1Cで示されるオリゴリボヌクレオチド類を併用することが適当である。この場合、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は、例えば、3−デアザCTP、N4-デアミノCTP、又はN4-モノメチル置換CTPであることができる。
【0029】
UTPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の一部または全部として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用いル場合、核酸転写開始剤として、ウリジン、ウリジン5'モノフォスフェート(UMP)、ウリジン5'ジフォスフェート(UDP)、一般式N1(N)n-1Uで示されるオリゴリボヌクレオチド類、または一般式N2(N)n-1Uで示されるオリゴリボヌクレオチド類を併用することが適当てある。この場合、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体は、例えば、3−デアザUTPであることができる。
【0030】
DNA の塩基配列決定方法
RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むDNA断片を鋳型として、RNAポリメラーゼを用いて核酸転写生成物を酵素的に合成する方法、核酸転写生成物の分離方法、さらには分離された分画から核酸の配列を読み取る方法は、原理的には何れも公知の方法である。従って、これらの点に関して、いずれの公知の方法及び条件、装置等を適宜利用することができる。
【0031】
また鋳型となるDNA断片にも、RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むこと以外、制限はない。例えば、プロモーター配列を含むDNA断片がポリメラーゼ連鎖反応により増幅したDNA生成物であることができる。さらに、増幅したDNA生成物から、ポリメラーゼ連鎖反応に用いたプライマー及び/又は2デオキシリボヌクレオシド5'トリフォスフェート及び/又はその誘導体を除去することなしに、本発明の方法における核酸転写生成反応を行うことができる。上記DNA増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応は、PCR法として広く用いられている方法をそのまま用いることができる。また、プロモーター配列を含むDNA断片は、プロモーター配列と増幅対象のDNA断片とをライゲーションした後、適当な宿主を用いてクローニングされたDNA断片であることもできる。即ち、本発明において、増幅の対象であるDNA配列、プライマー、増幅のための条件等には特に制限はない。
【0032】
例えば、プロモーター配列を含むDNA断片の増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応の反応系として、10〜50ngのゲノミックDNA又は1pgのクローンされたDNA、10μMの各プライマー、200μMの各2’デオキシリボヌクレオシド5’トリフォスフェート(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)を含む20μl容量中でDNAポリメラーゼとして、例えばTaqポリメラーゼ等を用いて行うことができる。
【0033】
但し、ポリメラーゼ連鎖反応のためのプライマーのいずれか一方又は増幅された挿入(insert)DNAが、後述するRNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含む必要がある。ダイレクト転写シーケンス法では、PCR法において、2種類のプライマーのいずれか一方にファージプロモーター配列を持っているプライマーを用いるか、又は増幅された挿入DNA内にファージプロモーター配列を持たせることで、得られるPCR生成物はそのプロモーターにより働くRNAポリメラーゼを用いるin vitro転写に付すことができる。
RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列は、用いるRNAポリメラーゼの種類に応じて適宜選択することができる。
【0034】
本発明の方法ではプロモーター配列を含むDNA断片からRNA転写物等の核酸転写物を合成する。DNA断片は、RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むので、このプロモーター配列が前述のRNAポリメラーゼに認識されてRNA転写物等の核酸転写物を合成する。
【0035】
RNA転写物等の核酸転写物の合成は、前記核酸転写開始剤及びRNAポリメラーゼの存在下、ATP、GTP、CTP及びUTP又はこれらの誘導体からなるリボヌクレオシド5’トリフォスフェート(NTP)類(但し、その内の1種は、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体である)並びに1種又は2種以上の3’dNTP誘導体を反応させる。尚、3’dNTP誘導体は、本明細書においては、3’dATP、3’dGTP、3’dCTP、3’dUTP及びこれらの誘導体の総称として用いる。リボヌクレオシド5’トリフォスフェート(NTP)類としては、その一部がATP等の誘導体である場合も含めて、塩基が異なる少なくとも4種類の化合物が転写物の合成に必要である。
【0036】
転写生成物であるRNA又は核酸の3’末端には、3’dNTP誘導体が取り込まれることにより、3’ヒドロキシ基が欠落し、RNA又は核酸の合成が阻害される。その結果、3’末端が3’dNTP誘導体である種々の長さのRNA又は核酸断片が得られる。塩基の異なる4種類の3’dNTP誘導体について、それぞれ、このようなリボヌクレオシド・アナログ体を得る。このリボヌクレオシド・アナログ体を4通り用意することで、RNA又は核酸配列の決定に用いることができる〔Vladimir D. Axelred er al. (1985) Biochemistry Vol. 24, 5716-5723 〕。
【0037】
尚、3’dNTP誘導体は、1つの核酸転写反応に1種類又は2種以上を用いることができる。1種のみの3’dNTP誘導体を用いて1つの核酸転写反応を行う場合、核酸転写反応を4回行うことで、3’末端の3’dNTP誘導体の塩基の異なる4通りの転写生成物を得る。1回の核酸転写反応で、3’末端の3’dNTP誘導体は同一で、分子量の異なる種々のRNA又は核酸断片の混合物である転写生成物が得られる。得られた4通りの転写生成物について、独立に、後述する分離及び配列の読み取りに供することができる。また、4通りの転写生成物の2種以上を混合し、この混合物を分離及び配列の読み取りに供することもできる。
【0038】
1回の核酸転写反応に2種以上の3’dNTP誘導体を同時に用いると、1つの反応生成物中に、3’末端の3’dNTP誘導体の塩基の異なる2通り以上の転写生成物が含まれることになる。これを後述する分離及び配列の読み取りに供することができる。核酸転写反応に2種以上の3’dNTP誘導体を同時に用いると、核酸転写反応操作の回数を減らすことができるので好ましい。
【0039】
さらに、RNA等の核酸転写が、塩基の異なる4種類のリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の存在下で、RNAポリメラーゼにより行われ、かつ3'dNTP誘導体によりターミネートされる。その結果、各塩基について、RNA又は核酸ラダー(ladder)がシーケンスのために生成される。本発明では、特に、核酸転写を塩基の異なる4種類のリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類の存在下で行い、これを分離して、4種類の塩基の配列を一度に(同時に)読み取ることが好ましい。
【0040】
RNAポリメラーゼ本発明の方法で用いるRNAポリメラーゼは、野性型RNAポリメラーゼ及び変異型RNAポリメラーゼのいずれでも良い。但し、対応する野性型RNAポリメラーゼの能力と比較して、3'dNTP誘導体を取り込む能力を増加させるように、野性型RNAポリメラーゼの少なくとも1つのアミノ酸が修飾されたものである変異型のRNAポリメラーゼであることが好ましい。ここで、「野性型RNAポリメラーゼ」は、天然に存在する全てのRNAポリメラーゼを含み、さらに、及び野性型RNAポリメラーゼであって、対応する野性型RNAポリメラーゼの能力と比較して、3'デオキシリボヌクレオチドまたはそれらの誘導体を取り込む能力を増加させることを目的とする修飾以外のアミノ酸の変異、挿入または欠落を、さらに有するものであることもできる。即ち、野性型RNAポリメラーゼを人為的に上記以外の目的で修飾したRNAポリメラーゼも、上記「野性型RNAポリメラーゼ」に含まれる。但し、そのようなアミノ酸の変異、挿入または欠落は、RNAポリメラーゼとしての活性を維持する範囲で、行われたものであることが適当である。
【0041】
「野性型RNAポリメラーゼ」としては、例えば、T7ファージ、T3ファージ、SP6ファージ、K11ファージに由来するRNAポリメラーゼを挙げることができる。但し、これらのRNAポリメラーゼに限定されるものではない。
また、本発明において「野性型RNAポリメラーゼ」は、天然に存在する耐熱性のRNAポリメラーゼ、及び天然に存在するRNAポリメラーゼを耐熱性を有するように人為的に修飾した(即ち、アミノ酸の変異、挿入または欠落を行った)ものも包含する。但し、耐熱性を付与するための修飾は、RNAポリメラーゼとしての活性を維持する範囲で、行われたものであることが適当である。「野性型RNAポリメラーゼ」として耐熱性のRNAポリメラーゼを用いた本発明の変異型RNAポリメラーゼも耐熱性となる。その結果、例えば、PCR法に併用して、PCR産物を鋳型としてその場で、即ち、PCRと並行して、シークエンス用のRNAフラグメントを合成することも可能である。
【0042】
T7 RNAポリメラーゼは、極めて特異性の高いプロモーター特異的RNAポリメラーゼとして知られている。T7 RNAポリメラーゼの塩基配列と生産法に関してはDavanloo et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 81:2035-2039 (1984)に記載されている。さらに大量生産に関しては、Zawadzki et al., Nucl. Acids Res., 19:1948(1991)に既に記載されている。このファージ由来の RNAポリメラーゼは、大腸菌や高等な生物のRNAポリメラーゼと異なり、単一のポリペプチドのみで転写反応を行うことが出来る(Chamberlin et al., Nature, 228:227-231,1970)。そのため、転写メカニズムを解析する格好の材料となり、沢山の突然変異体が分離され、報告されている。さらにSousa et al., Nature, 364:593-599,1993に結晶解析結果が記載されている。
【0043】
さらに、その他極めて特異性の高いプロモーター特異的RNAポリメラーゼとして大腸菌に感染するT3ファージ、サルモネラ菌に感染するSP6ファージ及びKlebsiella pneumoniae に感染するK11ファージ由来のRNAポリメラーゼの3つがよく知られている。
尚、上記4種のRNAポリメラーゼは、アミノ酸の一次構造、プロモーターの配列等、極めて類似している。
【0044】
上記変異型RNAポリメラーゼは、対応する野性型RNAポリメラーゼの能力と比較して、3'デオキシリボヌクレオチドまたはそれらの誘導体を取り込む能力を増加させたものであることができる。前述のように、野性型RNAポリメラーゼでは、リボヌクレオチドに比べて3'デオキシリボヌクレオチドの取り込みが悪く、塩基配列決定法に用いる妨げとなっていた。それに対して、変異型RNAポリメラーゼは、3'デオキシリボヌクレオチドまたはそれらの誘導体に対する取り込み能力を、好ましくは野性型の少なくとも2倍増加させるように修飾されている。3'デオキシリボヌクレオチドの取り込みは、3'デオキシリボヌクレオチドに蛍光標識を付した3'デオキシリボヌクレオチド誘導体を用いた場合に特に低下する傾向があるが、本発明で使用する変異型RNAポリメラーゼは、このような3'デオキシリボヌクレオチド誘導体の取り込みも改善できる。
【0045】
変異型RNAポリメラーゼは、対応する野性型RNAポリメラーゼの少なくとも1つのアミノ酸が修飾されたものである。このようなアミノ酸の修飾は、アミノ酸の変異のみならず、挿入または欠落であることができる。また、アミノ酸の変異は、例えば、天然に存在するアミノ酸の少なくとも1つをチロシンに置換することである。さらに、置換されるべき天然に存在するアミノ酸は、例えば、フェニルアラニンであることができる。但し、フェニルアラニンに限定されることはなく、対応するリボヌクレオチドに対して3デオキシリボヌクレオチドまたは他のリボヌクレオチド類似体を取り込む能力を増加させることができるアミノ酸の置換であればよい。
【0046】
変異型RNAポリメラーゼとしては、例えば、変異型T7 RNAポリメラーゼF644Y及びL665P/F667Yを挙げることができる。ここで番号は、ポリメラーゼ蛋白質のN末端からの番号であり、例えばF667は、このポリメラーゼの667番目のアミノ酸残基がFであることを示し、F667Yの記述は、667番目のアミノ酸残基FをYに置換させたことを意味する。
これらは、RNA合成活性を充分保持し、さらに3'dNTPsの取り込み能力が大幅に改善し、野生型で観察された強いバイアスが著しく低下している。このような優れた特性を有する、変異型T7 RNAポリメラーゼF644Y、L665P/F667Yを用いることにより、DNAポリメラーゼを用いる塩基配列決定法を超える実用レベルで、転写生成物による塩基配列決定法が可能になる。
変異型T7 RNAポリメラーゼF644Y、L665P/F667Yを生産する大腸菌pT7RF644Y(DH5α)及びpT7RL665P/F667Y(DH5α)は、生命研国際寄託番号がそれぞれ5998号(FERM-BP-5998)及び5999号(FERM-BP-5999)として1997年7月2日に寄託されている。
【0047】
上記変異型のRNAポリメラーゼは、RNAポリメラーゼをコードする核酸分子を用意し、ヌクレオチド塩基配列内の1つまたはそれ以上の部位における1つまたはそれ以上の塩基を変異させるように該核酸分子に突然変異を起こさせ、次いで変異させた核酸分子により発現される修飾されたRNAポリメラーゼを回収することで調製することができる。RNAポリメラーゼをコードする核酸分子の用意、核酸分子への突然変異の導入、修飾されたRNAポリメラーゼの回収はいずれも、公知の手法を用いて行うことが出来る。
【0048】
変異型T7 RNAポリメラーゼは、例えば、以下の方法により構築することができる。T7 RNAポリメラーゼ遺伝子を挿入してある発現ベクターを鋳型にして T7 RNAポリメラーゼ遺伝子のC末端側に相当する制限酵素Hpa I, Nco I部位にはさまれる領域をPCR法を利用して変異を導入した発現プラスミドを構築する。次いで、この発現プラスミドを用い、大腸菌DH5αに形質転換し、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加すると、変異型T7 RNAポリメラーゼ蛋白質を大量に発現させることができる。
【0049】
無機ピロフォスファターゼ
本発明の方法において、核酸転写生成反応は、無機ピロフォスファターゼ存在下で行うことが好ましい。各標識されたリボヌクレオチドに対応して得られるピークの高さ(シグナルの強弱)の差を小さくしてシークエンスの読み取りの精度を向上させて、より正確なシークエンスデータを得ることを可能にする。
【0050】
ピロホスホロリシスは、DNA合成によって生じるピロリン酸塩が増加することによって起こり、結果として合成されたDNA生成物が分解する方向に反応を促進する働きをする。その結果、ピロホスホロリシスは、DNAポリメラーゼを用いたジデオキシシーケンス法においてシーケンスを阻害することになる。それに対して、無機ピロフォスファターゼをDNAポリメラーゼを用いたジデオキシシーケンス法において使用すると、ピロホスホロリシスを阻害して、安定したシークエンスデータが得られることが知られている[特開平4−506002号]。
ピロホスホロリシスは、RNAポリメラーゼを用いたシーケンス法においても有効である。即ち、核酸転写生成反応を無機ピロフォスファターゼ存在下で行うことで、各標識されたリボヌクレオチドに対応して得られるピークの高さ(シグナルの強弱)の差を小さくでき、より安定したシークエンスデータが得られる。
【0051】
無機ピロフォスファターゼ(EC.3.6.1.1)は、市販品として入手可能であり、例えば、シクマ社からINORGANIC PYROPHOSPHATASEとして、またベーリンガー社からピロフォスファターゼとして市販されている。また、無機ピロフォスファターゼの使用量は、無機ピロフォスファターゼ及びRNAポリメラーゼの活性の程度にもよるが、例えば、RNAポリメラーゼ1単位に対して10-6〜10-2単位の範囲とすることが適当である。
【0052】
核酸転写生成物の分離及び読み取り
本発明の方法では、RNA又は核酸転写生成物を分離する。この分離は、転写生成物に含まれる分子量の異なる複数の生成物分子を、分子量に応じて分離することができる方法で適宜行うことができる。このような分離方法としては、例えば電気泳動法を挙げることができる。その他にHPLC等も用いることができる。
電気泳動法の条件等には特に制限はなく、常法により行うことができる。転写生成物を電気泳動法に付することにより得られるバンド(RNA又は核酸ラダー)からRNA又は核酸の配列を読み取ることができる。
【0053】
RNA又は核酸ラダーの読み取りは、転写物反応に用いるターミネーターであるリボヌクレオシド5’トリフォスフェート(NTP)類を標識することにより行うことができる。また、RNA又は核酸ラダーの読み取りは、転写物反応に用いる3’dNTP誘導体を標識することにより行うこともできる。標識としては、例えば、蛍光標識又は放射性若しくは安定同位元素等を挙げることができるが、蛍光標識であることが、安全性及び操作性の点で好ましい。また、上記のよう標識用いることなく、電気泳動法等により分離した各転写反応生成物の質量を質量分析計で測定することにより、転写生成物の配列を読み取ることもできる。
【0054】
具体的には、例えば、標識された3’dNTP誘導体、より具体的には、標識された3’dATP、3’dGTP、3’dCTP及び3’dUTPを用い、転写生成物を電気泳動に付して得られるバンドの放射性若しくは安定同位元素又は蛍光を検出することで、転写生成物の配列を読み取ることができる。このように3’dNTP誘導体を標識することで、いずれのバンド間の放射性強度又は蛍光強度にばらつきがなく、測定が容易になる。さらに放射性若しくは安定同位元素又は蛍光を発生するラダーの検出は、例えば、DNAシーケンシンクに用いている装置を適宜用いて行うことができる。
また、放射性若しくは安定同位元素又は蛍光標識されたATP、GTP、CTP及びUTPを用い、電気泳動に付して得られるバンドの放射性若しくは安定同位元素又は蛍光を検出することでも転写生成物の配列を読み取ることができる。
【0055】
さらに、異なる蛍光で標識された3'dATP、3'dGTP、3'dCTP及び3'dUTPを用い、末端が3'dATP、3'dGTP、3'dCTP又は3'dUTPであり、異なる標識がなされた種々の転写生成物断片の混合物を電気泳動に付して得られるバンドの4種類の蛍光を検出することでRNA又は核酸の配列を読み取ることもできる。この方法では、4種類の3'dNTPをそれぞれ異なる蛍光で標識する。このようにすることで、3'末端の異なる4種類の転写生成物の混合物を電気泳動に付することで、4種類の異なる(3'末端の3'dNTP)応じた蛍光を発するバンドが得られ、この蛍光の違いを識別しながら、1度に4種類のRNA又は核酸の配列を読み取ることができる。
【0056】
蛍光標識した3'dNTPとしては、WO96/14434や特開昭63−152364号等に記載された3'デオキシリボヌクレオチド誘導体を用いることができる。また、蛍光標識としては、アルゴンレーザーのような適切な供給源からのエネルギー吸収による刺激に引き続いて、検知可能な発光放射を生じる蛍光色素等であることが好ましい。
【0057】
上記のように読み取られたRNA又は核酸配列から、転写の鋳型として用いられたDNA配列を決定することができる。各塩基について、それぞれラダーを形成した場合には、4種類のラダーから得られたRNA又は核酸配列情報を総合して、転写の鋳型として用いられたDNA配列を決定することができる。また、2種以上の塩基について同時にラダーを形成した場合(同一のラダー内に2種以上の塩基のバンドが共存する場合)には、各ラダーから得られたRNA又は核酸配列情報を総合して、転写の鋳型として用いられたDNA配列を決定することができる。特に、4種の塩基について同時にラダーを形成した場合(同一のラダー内に4種の塩基のバンドが共存する場合)には、1つのラダーから得られたRNA又は核酸配列情報から、転写の鋳型として用いられたDNA配列を決定することができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、コンプレッションの発生を抑制して、シークエンスの読み取りの精度を向上させたDNAの塩基配列決定方法を提供することができる。
さらに、本発明の塩基配列決定方法は、RNAポリメラーゼの高いプロセッシビリティーを考えると、DNAポリメラーゼを用いる塩基配列決定法以上の塩基配列決定を可能にする。
また、本発明の方法によれば、PCR生成物を精製することなく、そのままPCR生成物のDNAの塩基配列を決定することもできる。これは、反応混合物に残存する2’dNTPが、シークエンシングのための3’dNTPの存在下ではRNA転写反応において試薬として消費されることがないという、RNAポリメラーゼの特徴によるものである。
【0059】
さらに、本発明の方法では、RNAの転写反応を利用するため、通常のDNAシーケンス法のように1本鎖テンプレートDNAを使用する必要も、プライマーも必要がなく、さらにシークレンシングプライマーのハイブリダイズのための変性工程も必要としない。そのため、PCR生成物の再生の影響も受けず、容易にDNAの塩基配列を決定することができる。
また、本発明のDNA の塩基配列決定方法において、RNAポリメラーゼとして耐熱性を有する変異型のRNAポリメラーゼを用いる場合、PCR法を行う段階に併用することができ、その結果、より迅速にDNA の塩基配列の決定を行うことが可能になる。
【0060】
また、本発明のDNA の塩基配列決定方法において、無機ピロフォスファターゼを用いる場合、リボヌクレオチドに比べて、対応する3'-デオキシリボヌクレオチドやその誘導体がポリリボヌクレオチド配列に取り込まれにくかったり、リボヌクレオチドの中及び3'-デオキシリボヌクレオチドの中でもそれぞれ塩基の種類により、配列への取り込まれ方に差があるといった、リボヌクレオチド等の取り込み能力に対するバイアスを解消して、より安定したシークエンスデータを得ることができる。
【0061】
【実施例】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
PCR 産物を鋳型に用いたシークエンス反応例
PCR反応の鋳型としてhuman thyroid-stimulating hormone ( hTSH-β)cDNAをT7プロモーターを有するBS750由来のプラスミドにサブクローニングしたものを用いた。このhTSH -βcDNAを持つプラスミド、100fgを用い、クローニング部位を挟む形で存在するL220プライマー (5'-TAA CAA TTT CAC ACA GGA AAC A-3')及び1211プライマー (5'-ACG TTG TAA AAC GAC GGC CAG T-3')で反応液量20μlでPCR反応[(94℃ 2分)1回、(9 4℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 1.5分)30回、72℃ 5分]を行った。このPCR反応で出来たPCR産物の1211プライマーの下流にT7プロモーターが存在する。
【0062】
シークエンス転写反応は、Melton, D.A, [Nucleic Acids Res., 12: 7035-7056(1984)]に示された方法を用いて行った。上記PC R産物の内の1μl(約10ng)をシークエンス反応に用いた。反応は、3'dNTPの誘導体として、WO96/14434に記載された方法を参照して合成したダイ・ターミネーター4μM R6G-3'dATP[5-カルボキシローダミン6G標識 3'-デオキシアデノン-5'-トリフォスフェート(n=4)]、4μM R110-3'dGTP[5-カルボキシローダミン110標識 3'-デオキシグアノシン-5'-トリフォスフェート(n=4)]、80μM XR-3'dCTP[5-カルボキシ-X-ローダミン標識 3'-デオキシシチジン-5'-トリフォスフェート(n=4)]、20μM TMR-3' dUTP[5-カルボキシテトラメチルローダミン標識3'-デオキシウリジン-5'-トリフォスフェート(n=4)]を用いた。さらに500μM 7-デアザGTP、500μM UTP、250μM ATP、250μM CTP、200μM GMP(核酸転写開始剤)、8mMMgCl2、2mM spermid ine-(HCl)3、5mM DTT、40mM Tris/HCl pH 8.0 (BRL,ギブコ社)の条件下に、変異型T7 RNAポリメラーゼF644Y 25単位を加えて、合計反応体積10μlとして、同じく37℃で一時間反応を行った。
【0063】
【化6】
5-カルボキシローダミン6G標識 3'-デオキシアデノン-5'-トリフォスフェート(n=4)
【0064】
【化7】
5-カルボキシローダミン110標識 3'-デオキシグアノシン-5'-トリフォスフェート(n=4)
【0065】
【化8】
5-カルボキシ-X-ローダミン標識 3'-デオキシシチジン-5'-トリフォスフェート(n=4)
【0066】
【化9】
5-カルボキシテトラメチルローダミン標識 3'-デオキシウリジン-5'-トリフォスフェート(n=4)
【0067】
次に反応産物中に残存している未反応のダイ・タ―ミネーターを除去するため、セファデックスG-50カラム(ファルマシア・バイオテク製)を用いたゲル濾過法により転写産物を精製し、精製産物は遠心式エバポレーターを用いて蒸発乾固した。
この乾燥させた反応物を株式会社パーキンエルマージャパンのABI PRISM 377 DNA S equencing System取り扱い説明書Ver.1.0に従い、ホルムアミド/EDTA/Blue dextrane loading buffer 6μlに溶解し、そのうち2μlを、6M尿素/4%ロングレンジャーTMアクリルアミド溶液(FMC社)を含むシークエンス解析用変性ゲルを用い、ABI 377 DNA Sequencer及び解析プログラム(Sequencing Analysis Ver.3 .0)により解析した。
【0068】
その結果を図1(b)に示す。図1には、比較のため、7−デアザGTPの代わりにGTPを用いた結果も示す(a)。GTPを用いた(a)においては、隣り合うピークが重なって、読み取り誤差が生じている箇所でも、7−デアザGTPを用いた場合、(b)に示すように、隣り合うピークが重ならず、読み取りが可能になっていることが分かる。
それに対して、上記反応系にGMP(核酸転写開始剤)を添加しない系では、殆ど転写が起こらず、塩基配列の読み取りは全くできなかった。
【0069】
実施例2イニシエーターの種類及び濃度の影響の検討テンプレートとしてpBLUESCRIPT KS(+)を制限酵素PvuIIで切断し、直鎖状にしたdsDNAを用いた。反応条件は以下のとおりである。40mM Tris/HCl pH8.0 (BRL,ギブコ社)、8mMMgCl2、5mM DTT、2mM スペルミジン-(HCl)3、T7RNAポリメラーゼ25U、それぞれ250μMのATP、UTP及びCTP、並びに0.2μCiの[α−32P]UTP(3000Ci/mmol)の存在下で、合計体積を10μlとし、37℃で一時間反応させた。尚、転写開始剤としてCG(シチジン5モノフォスフェート(CMP)−グアノシン5'モノフォスフェート(GMP)ダイマー)、GMP、またはGDPを400μMの濃度で用いた。さらに、GTPの代わりに基質(コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体)として7−デアザGTPまたはN2-デアミノグアニン(イノシン)を用い、その濃度を200、400、800及び1600μMに変化させた。
【0070】
反応産物をホルムアミド/EDTA loading bufferに溶解し、変性した後、その一部を、6M尿素/4%アクリルアミドゲルで電気泳動した。泳動後のゲルを乾燥し、BAS2000画像分析(富士写真フイルム)を用いて転写産物の放射活性を解析した。
基質(コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体)として7−デアザGTPを用いた場合の結果を図2に示し、N2-デアミノグアニン(イノシン)を用いた場合の結果を図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】 NTPとしてGTPを用いたシーケンス結果(a)とNTPとして7−デアザGTPを用いたシーケンス結果(b)。
【図2】 基質(コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体)として7−デアザGTPを用いた場合の転写産物の放射活性の解析結果。
【図3】 基質(コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体)としてN2-デアミノグアニン(イノシン)を用いた場合の転写産物の放射活性の解析結果。
Claims (10)
- RNAポリメラーゼ及び前記RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むDNA断片の存在下、ATP、GTP、CTP及びUTP又はそれらの誘導体からなるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類並びに3'dATP、3'dGTP、3'dCTP、3'dUTP及びそれらの誘導体からなる1種又は2種以上の3'デオキシリボヌクレオシド5'トリフォスフェート(以下3'dNTP誘導体という)を反応させて核酸転写生成物を得、得られる核酸転写生成物を分離し、得られる分離分画から核酸の配列を読み取るDNAの塩基配列決定方法であって、
前記リボヌクレオシド 5' トリフォスフェート類の一種または二種以上としてシークエンスの際にコンプレッションを抑制し得るリボヌクレオチド誘導体(以下、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体という)を用い、かつ
前記核酸転写反応の開始剤として、5'末端にフォスフェート基を有さないオリゴリボヌクレオシド類及び5'末端にモノまたはジフォスフェート基を有するオリゴリボヌクレオチド類からなる少なくとも1種の核酸転写開始剤を用いることを特徴とする方法。 - 核酸転写開始剤が、リボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、リボヌクレオシド5'ジフォスフェート、一般式N1(N)n(式中、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数である)で示されるオリゴリボヌクレオチド類、及び一般式N2(N)n(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数である)で示されるオリゴリボヌクレオチド類からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載の方法。
- GTPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5トリフォスフェート類として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用い、かつ核酸転写開始剤が、グアノシン、グアノシン5'モノフォスフェート(GMP)、グアノシン5'ジフォスフェート(GDP)、一般式N1(N)n-1G(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Gはグアノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1G(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Gはグアノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の方法。
- コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体が7−デアザGTP、N2-デアミノGTP、及びN2-モノメチル置換GTPから選ばれる請求項3に記載の方法。
- ATPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5トリフォスフェート類として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用い、かつ核酸転写開始剤が、アデノシン、アデノシン5'モノフォスフェート(AMP)、アデノシン5'ジフォスフェート(ADP)、一般式N1(N)n-1A(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Aはアデノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1A(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Aはアデノシン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の方法。
- コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体が7−デアザATP、N6-デアミノATP、及びN6-モノメチル置換ATPから選ばれる請求項5に記載の方法。
- CTPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5トリフォスフェート類として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用い、かつ核酸転写開始剤が、シチジン、シチジン5'モノフォスフェート(CMP)、シチジン5'ジフォスフェート(CDP)、一般式N1(N)n-1C(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Cはシチジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1C(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Cはシチジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の方法。
- コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体が3−デアザCTP、N4-デアミノCTP、及びN4-モノメチル置換CTPから選ばれる請求項7に記載の方法。
- UTPまたはその誘導体であるリボヌクレオシド5'トリフォスフェート類として、コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体を用い、かつ核酸転写開始剤が、ウリジン、ウリジン5'モノフォスフェート(UMP)、ウリジン5'ジフォスフェート(UDP)、一般式N1(N)n-1U(但し、N1はリボヌクレオシド、リボヌクレオシド5'モノフォスフェート、またはリボヌクレオシド5'ジフォスフェートであり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Uはウリジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類及び一般式N2(N)n-1U(式中、N2は下記式(1)で示される基であり、Nはリボヌクレオシド5'モノフォスフェートであり、nは1以上の整数であり、Uはウリジン5'モノフォスフェートである)で示されるオリゴリボヌクレオチド類からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の方法。
- コンプレッション抑制リボヌクレオチド誘導体が3−デアザUTPである請求項9に記載の方法。
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