JP4072355B2 - レンズ成形用型及びレンズの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レンズ成形用型、特に凹面を有するレンズを成形するのに好適なレンズ成形用型、前記レンズ成形用型を用いたレンズの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、レンズの成形方法として、ガラス素材と成形用型を、ガラス素材が軟化する温度(107.5 〜1011ポアズのガラス粘度に相当する温度)まで加熱して、ガラス素材を型によってプレス成形し、そしてガラスの転移温度(1013ポアズ)付近或いはそれ以下まで冷却してから離型を行い、レンズを型から取り出す方法が知られている。
【0003】
この成形方法によりレンズを成形する場合には、離型の際に成形されたレンズが成形面に貼り付いたままとなることがある。1組の型が上下に対を成す場合、下型にレンズが貼り付いた場合にはその後のレンズ取り出し工程によって取り出しが行われるが、上型に貼り付いた場合には取り出しができず、連続稼働の妨げとなるばかりではなく、トラブルの原因となる。特に、この上型への貼り付きは、成形面の形状が凹面の場合よりも凸面形状の場合に生じやすい。
【0004】
そこでこのような貼り付きを防止するための手段として 特開平2-184531号公報には、成形されたレンズと成形型の間にくさび部材を挿入する方法が示されている。また、特開平2-184533号公報には、上型と下型の隙間からレンズに不活性ガスを噴射させる方法が示されている。さらに特開平3-218932号公報及び特開平11-189425号公報には、周辺部に複数個の窪みを断続的に形成した成形面を有する型を用いる方法が示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら 特開平2-184531号公報で示されている、成形されたレンズと成形型の間にくさび部材を挿入する方法では、レンズおよび成形面にキズをつけやすいという問題がある。また、特開平2-184533号公報に記載の方法では、上型と下型の隙間からレンズに不活性ガスを噴射させるために、型の周囲を他の部材で覆うことができないため、上下型の位置ずれが生じやすく、均熱性も悪いという問題がある。さらに特開平3-218932号公報及び特開平11-189425号公報に記載の方法では、周辺部に複数個の窪みを断続的に形成した成形面を用いて成形するため、被成形素材のプレス時の延伸および冷却時の収縮が均一でなく、窪み周辺と窪みの無い部分とで面精度に違いが生じ、良好な面精度を有するプレス成形品が得られにくいという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、このような課題を解決するものであり、レンズの離型が容易であり、良好な面精度を有するレンズが得られるレンズ成形用型を提供することを第1の目的とする。
さらに、本発明は、プレス成形後にレンズを容易に離型することができ、かつ得られるレンズは、良好な面精度を有する、レンズの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【0007】
【発明を解決するための手段】
上記第1の目的は、成形面が互いに対向するように組まれる一組の型を少なくとも備え、前記一組の型は、いずれも、レンズ有効径よりも大きな径の成形面を有し、かつ少なくとも一方の型は、レンズ有効径よりも直径が50μm〜10mm大きな直径を有するリング状の窪みであって、深さが5μm〜0.2mmかつ幅が5μm〜1.0mmの範囲で形成され、当該窪みの表面の少なくとも一部の表面粗さが前記成形面の表面粗さよりも大きい窪みを前記成形面の周辺部に有することを特徴とするレンズ成形用型によって達成される。
【0008】
また、上記第2の目的は、上記本発明のレンズ成形用型を用い、このレンズ成形用型の対向する成形面により、成形面の周辺部に設けられたリング状の窪みにも被成形ガラス素材が充填されるように被成形ガラス素材を押圧し、冷却するレンズの製造方法であって、前記冷却によってレンズが収縮し、前記窪みによってレンズに形成された突起部の少なくとも一部が、該窪みの周囲の成形面に乗り上げることで、レンズを離型することを特徴とするレンズの製造方法によって達成される。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のレンズ成形用型は、成形面が互いに対向するように組まれる一組の型を少なくとも備え、前記一組の型は、いずれも、レンズ有効径よりも大きな径の成形面を有する。
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に沿って説明する。
以下に示す実施形態では、メニスカスレンズ成形用の型について本発明を説明する。図1は、本発明の成形用型の側断面図を示している。図に示すように、成形型10は、図示しないプレス機に設置されることによって対向配置された、上型11及び下型12を備える。即ち、成形面が互いに対向するように組まれる一組の型を少なくとも備える。前記上型11及び下型12間に、ガラスプリフォーム、すなわちプレス成形のために予備成形したガラス素材を配置し、両型の成形面11a及び12aでこれをプレスすることによって、所望の形状の光学レンズを得る。プレス成形後、レンズは成形型10から取り出され、芯取りを行うためにその外周端が切削される。
【0011】
前記上型11及び下型12は、相互に対向する成形面11a、12aをそれぞれ有している。上型の成形面11aは凸面に成形され、下型の成形面12aは凹面に形成され、これら成形面を用いてプレスを行うことにより、該形状に沿ったメニスカスレンズが形成される。即ち、上型の成形面11a及び下型の成形面12aは、いずれも、レンズ有効径よりも大きな径の成形面である。面精度の高いメニスカスレンズを成形するため、前記成形面11a及び12aは、高度に精密加工されている。
【0012】
本発明の成形用型は、少なくとも一方の型が、成形面の周辺部にレンズ有効径よりも大きな直径を有するリング状の窪みを有することを特徴とする。即ち、例えば、前記図1に示す成形型のうち上型11の成形面11aの周辺部にリング状の窪みを設ける。ここで、成形面とは、ガラスに形状を転写することを予定されている面をいう。図2には、上型の成形面を平面的に見た様子を示しており、ここに成形面11aに設けられたリング状の窪み20が示されている。
図3に、リング状の窪み20を含む成形型10の側断面の要部拡大図を示す。さらに、図4及び5に、ガラスプレス後の状態における成形型10の側断面の要部拡大図を示す。ここに、プレスされたガラスGに対する前記リング状の窪み20の対応位置関係が示されている。以下、これらの図に沿って、上型の成形面の詳細について説明する。尚、ここではリング状の窪みは1本となっているが、2本以上としてもよい。
【0013】
これら図に示すように、上型11の成形面11aには、その周囲に沿ってリング状の窪み20が形成されている。リング状の窪み20は、レンズ有効径よりも大きな直径を有するものであればよく、成形面におけるリング状の窪み20の配置は、プレス後のレンズGの諸寸法との関係で適宜決定することができる。すなわち、図2に示すように、成形面11aでは、その中心から所定の範囲が有効径dで示された光学的に機能する面とされ、リング状の窪み20は、これに対応する成形面11a上の領域(以下、光学的機能面という)の外側に形成される。従って、プレスによってレンズ側に転写されるリング状の窪み20は、光学的機能面に影響を与えることはない。なお、図中の芯取り後レンズ外径(芯取径)は、この例では、リング状の窪みの直径Kと同じとなっている。
【0014】
本発明の成形用型におけるレンズの離型について説明する。
図4に示すようにプレス成形直後は、成形面11aとレンズGの形状とは一致している。しかし、冷却が進むにつれて成形型素材の熱膨張率とレンズを構成するガラスの熱膨張率との違いにより、成形面11aとレンズGの形状にずれが生じる。そして、成形面11aの窪み20に嵌まっているレンズの突起部分Gaが、レンズが冷却に伴って収縮することから窪み20から乗り上げようとする。そのため、型とレンズの間に隙間15を形成しようとする力が発生し、この力によりレンズは型から容易に離型される。
【0015】
本発明のリング状の窪みが形成されている型は、凸面形状の成形面を有している場合すなわち凹面形状を有するレンズを成形する場合に特に有効である。これは、図13に示すように、凸面形状の成形面を有している場合、プレス後のガラスの冷却の過程で、負圧の密閉空間Sが上型1とガラスGの間に生じることがあるためである。このような現象は、ガラスの線膨張係数が型のそれよりも大きい場合、ガラスが型の成形面に沿って相対的に収縮していくために生じる。このような負圧の密閉空間Sが上型とガラスとの間に生じると、上型とガラスとの間の密着性が高まり、プレス後の型の引き離しの際に、ガラスが上型に一時的に又は永続的に貼り付くことがある。
【0016】
本発明の成形用型において、リング状窪みの深さは5μm〜0.2mmの範囲である。窪みの深さが5μm未満では、離型促進効果が得られにくく、0.2mmより深い場合には、凹面形状精度に影響を及ぼしやすくなる。また、リング状窪みの幅は5μm〜1.0mmである。窪みの幅が5μm未満では離型促進効果が得られにくく、1.0mmより広い場合には、凹面形状精度に影響を及ぼしやすくなる。さらに、面精度への影響を抑制できるという観点から、リング状窪みの中心は成形面の中心とおおむね一致している事が好ましく、リング状窪みの中心が成形面の中心と一致していることがより好ましい。リング状窪みは成形されるレンズの有効径より外側にあれば良いが、有効径に近すぎると面形状への影響が生じる場合があり、遠すぎると離型促進の効果が低減することがある。そのため、リング形状窪みの直径がレンズの有効径より50μm〜10mm大きい。
【0017】
さらに、リング状窪みは、図7−1、図7−2に示すように、リング状窪みと直行する断面において、成形面の垂線pとこの垂線と交差する窪みの傾斜面との角度θは5〜60°の範囲であることが好ましい。本発明の成形用型における離型性は、図6に示すようにリング状窪みによってレンズの周辺部に形成された突起部が、成形後のレンズが収縮する際に、リング状窪みの周囲の成形面に乗り上げることで得られる。上記角度が上記範囲にあることで、レンズの周辺部に形成された突起部が、リング状窪みの周囲の成形面に乗り上げ易くなり、その結果、離型性も向上するからである。
【0018】
本発明の成形用型においては、離型性向上という観点から、リング状窪みの表面の少なくとも一部の表面粗さが前記成形面の表面粗さより大きくなるようにする。即ち、リング状窪みの表面に設けた粗面におけるRmaxで表わされる凹凸の最大高さが、成形型の成形面、特に、光学的機能面以外の領域においてRmaxにより表わされる凹凸の最大高さよりも大きいことが好ましい。
【0019】
本発明の成形型を用いてガラス素材をプレスした場合、前記リング状窪みの粗面が成形されるガラスレンズの突起部の面に転写される。前記プレス後のガラスレンズの収縮時に、前記転写されたガラスレンズの面の粗面になった突起部が成形型のリング状窪みの粗面の凹凸に乗り上げ、その結果、型とガラス光学素子の間に外部と連通する僅かな隙間が形成される。この僅かな隙間から外気が成形型の成形面とガラスの間へ入ることが可能となり、成形型に対するガラスの離型がより良好となる。
【0020】
前記粗面はリング状窪みの表面の全面に形成することが、前記ガラスの収縮時においてガラス光学素子の一点に応力が生じることが回避され、該応力に起因するクラックやガラス面の歪みを防ぐことができるという観点から好ましい。
【0021】
リング状窪みの表面に設ける粗面は、最大高さRmax0.1μm以上の粗面であることが好ましく、リング状窪みの表面に設ける粗面は、より好ましくは、最大高さRmaxが0.5〜10μmの範囲である。一方、前記成形面の表面粗さは、最大高さRmax0.03μm以下の鏡面であることが好ましい。
【0022】
前記図1の上型11及び下型12は、相互に対向する成形面11a、12aをそれぞれ有している。上型の成形面11aは凸面に成形され、下型の成形面12aは凹面に形成され、これら成形面を用いてプレスを行うことにより、該形状に沿ったメニスカスレンズが形成される。面精度の高いメニスカスレンズを成形するため、前記成形面11a及び12aは、高度に精密加工されている。ダイヤモンド砥石による粗研削及び精研削の後、仕上げ研磨を施すことにより、これらの成形面を平滑な光学鏡面に仕上げることができる。そして、本発明の成形用型は、上記成形型に、例えば、ダイヤモンド砥石によって研削加工することにより、リング状の窪みを形成することにより製造することができる。
【0023】
さらにリング状の窪みを形成した後に、光学的機能面のみその後の工程(精研削、仕上げ研磨)を行うことができる。なお、本発明の実施に関し、成形型10の材料は特に限定されない。超硬合金を基盤とし成形面に貴金属合金や窒化チタンなどの薄膜を設けたもの、炭化ケイ素や超硬合金を基盤とし硬質炭素やダイヤモンドライクカーボンなどの炭素系薄膜を設けたものなどを採用することができる。
【0024】
さらに、本発明の好ましい一態様は、成形型が凹メニスカスレンズを成形するための成形型である。この成形用型は、図8に示す凹メニスカスレンズを成形するための成形型であり、図9に示す構造を有する。図9に示す成形用型10は、凸形状の上型11と、凹形状の下型12とを含む。上型11は、成形面11aの光学的機能面を成形する部分からなる有効径の内側部分11b、及び該有効径の外側において平坦面を形成する平面部11c、及び該有効径の内側部分と該平坦部を連続的につなぐ境界曲面部11dを有する。さらに、リング状窪み(図示せず)が、上記境界曲面部または上記平面部に形成されている。
【0025】
次に、上記で説明した本発明のレンズ成形用型を用いる、本発明のガラスレンズの製造方法について説明する。
この製造方法では、上記本発明のレンズ成形用型の対向する成形面により、成形面の周辺部に設けられたリング状の窪みにも被成形ガラス素材が充填されるように被成形ガラス素材を押圧し、次いで成形型及びレンズを冷却する。本発明の一実施形態に係るプレス成形の手順を示す工程図である図10〜12に基づいて、本発明の成形型を用いた本発明に係る光学レンズの成形の手順について説明する。
【0026】
プレスの工程に先立って、成形型及び供給されるガラスプリフォームは、非酸化性雰囲気中で、所定の温度、例えばガラスプリフォームの軟化点近傍に予熱される。一つの実施例で、成形型10を、供給されるガラスプリフォームの温度よりも低い温度、すなわち非等温に予熱することができる(例えば、ガラスをその粘度が107ポアズとなる温度に予熱する場合に、ガラスの粘度が109ポアズとなるに必要な温度に成形型を予熱する)。もっとも、成形型をガラスプリフォームと等温に予熱する場合でも、本発明は好適に利用される。
【0027】
成形の最初の工程で、上型11に対し離間させた下型12の成形面12a上に、前記予熱したガラスプリフォームGを供給する(図10)。好適には、ガラスプリフォームGを気流で浮かせて搬送する図示しない浮上皿を用いることができる。ここで、供給されるガラスプリフォームGのガラス組成は、成形するガラスの種類や用途、化学的耐久性、熱膨張係数、成形型の材料との関係等を考慮して決定される。また、ガラスプリフォームとして、球、円板又は球面又は非球面を有する扁平な球形状その他の形状が採用され、冷間研磨又は熱間成形したものが採用される。このようなガラスプリフォームの種類や製法に拘わらず、本発明のプレス成形方法が適用可能なことは当業者であれば明らかであろう。
【0028】
次に、上型11に対し下型12を相対的に上昇させて(もちろん上型11を下降させる構成のものであっても良い)、下型の成形面12a上に供給されたガラスプリフォームGを所定圧力(例えば、100Kg/cm2)でプレスする(図11)。成形面間の距離やプレスの圧力は、必要とされる光学ガラスの形状に従って決定される。該プレスにより、ガラスプリフォームGは、図示のように、両成形面に沿って圧延され、所望の形状となる(以下、プレス後のものを成形されたガラスという)。ここで、上型の成形面11aの周囲には、上述したようにリング状窪み20が形成されていることに留意すべきである。前記プレスによるガラスプリフォームGの変形により、レンズの周囲は該リング状窪み20を形成した成形面の領域に至り、従って成形されたガラスの周囲表面に、該リング状窪み20に対応しリング状の突起部が転写されることになる。
【0029】
前記成形型によるプレスは所定時間維持され、この間、成形型10及び成形されたガラスGは冷却される。このとき、成形型及びガラスの冷却は、プレス成形開始前から、またはプレス成形開始と同時に、またはプレス開始後に開始することができる。本発明の作用に関連して、この冷却工程は、成形型10と成形されたガラスGとの線膨張係数差によって、前記リング状窪み20の凹凸と前記成形されたガラスGに転写されたリング状の突起部とが位置ずれを起こすように行われる(図6参照)。かかる位置ずれは、プレス中、特にプレス圧が減圧されたときに生じる場合、プレス圧を解除したときに生じる場合、またはプレス圧解除後の前記引き離し工程の開始のとき、さらに下型にあっては引き離し工程中に生じる場合、または成形されたガラスの取り出しと同じに生じる場合を含む。
【0030】
上型及び下型を相対的に引き離す工程は、成形されたガラスの粘度が1012ポアズ以上の粘度にまで冷却された後に行うことが好ましい。一方、成形されたガラスが(Tg−50)℃よりも低くなるまで冷却した後に離型を行うと、成形のサイクルタイムが長くなり生産性が低下するため、(Tg−50)℃よりも高い温度で引き離しを行うことが好ましい。従って、引き離しは、(Tg−50)℃〜1012ポアズに相当する温度が好ましく、(Tg−30)℃〜1012ポアズに相当する温度がより好ましい。本発明者らの実験により、これ以下の粘度又はその粘度を得るに相応する温度以上の温度で離型を行った場合は、成形されたガラスの面精度が十分でないことがある。
【0031】
そして、位置ずれが生じるように冷却した後に、すなわち、ガラスと型が位置ずれを生じた後に、又は生じる状態になった後に、下型12を下降させて型同士を引き離す(図12)。ここで、ガラスと成形型とが位置ずれを生じる状態とは、プレス圧を減圧または解除されたとき、または成形されたガラスが離型されたときに、位置ずれを生じるような状態であることをいう。
このように、冷却によってレンズが収縮し、前記窪みによってレンズに形成された突起部の少なくとも一部が、該窪みの周囲の成形面に乗り上げることで、レンズを容易に離型することができる。
【0032】
前記位置ずれが良好に生じるという観点から、被成形ガラス素材の熱膨張係数はレンズ成形用型の熱膨張係数よりも大きく、かつ被成形ガラス素材の熱膨張係数が60〜150×10-7/℃の範囲であり、レンズ成形用型の熱膨張係数が30〜95×10-7/℃の範囲であることが好ましい。但し、熱膨張係数は 100 〜 300 ℃における値である。
【0033】
さらに、前述のように、リング状窪みの表面の少なくとも一部が粗面化されていると、引き離し開始時点では前記リング状窪みの作用により位置ずれが生じて、少なくともこの部分においてはオプティカルコンタクト状態が解除されているので、上型11の成形面11aに対する成形されたガラスGの離型が良好に行われる。
【0034】
【実施例】
次に、図を参照して本発明の実施例を詳しく説明する。
図2は、本実施例によるレンズ成形用型の上型11の成形面11aを下側から見た図、図3は図2のレンズ成形用型10をII−II線に沿って切断して示す部分拡大図である。この上型11は凹レンズを成形するためのものであり、そのため、その成形面11aは凸面状に形成されている。上型11は、レンズの有効径dよりも大きな直径Dを有する(例えば成形用型の直径Dが28mmφで、レンズの有効径dが23mmφである)。
【0035】
レンズの有効径dの外側において、成形面11aには、本発明に従って、リング状の窪み20が形成されている。この窪み20は成形面の中心を中心として直径K(例えば26mmφ)の位置に形成されている。本実施例の窪み20は周方向に細長いリング形状をしていて、その横断面は図3に示すようにほぼ半円形である。窪み20の寸法は適宜定めることができる(本実施例では例えば幅が約100μm、深さが約30μmである)。しかし、深さは一般に、5μm〜0.2mmであることが望ましい。窪み20と成形面11の境の部分は滑らかに接続するように形成されていることが好ましい(図3参照)。
【0036】
この窪み20にはレンズ成形時にガラスが入り込み、このガラス突起部分が、レンズ収縮時に、成形型との収縮量の差によって、窪み20から乗り上げようとするため、窪みの周辺部において上型11の成形面11aとガラスの被成形面の間に隙間を形成しようとする力が発生する。従って、この力によりレンズは上型11から容易に離型される。
【0037】
次に、上記実施例のレンズ成形用型によるレンズの成形について説明する。この実施例では、上型11及び下型12としては炭化タングステン(WC;Co)焼結体をHIP処理し、成形面11a及び12aを鏡面に加工したものを用いた。その熱膨張係数は50×10-7/℃である。上型11とその窪み20の寸法は上記において例示した通りであった。被成形ガラス素材は重フリント系光学ガラスのSF11を使用した。このガラスの転移点(Tg)は435℃、屈伏点(Ts)は470℃、熱膨張係数は93×10-7/℃(ただし、100〜300℃において)である。
【0038】
図10に示すように、窒素雰囲気中にある成形用型10の上型11と下型12の間に被成形ガラス素材(ゴブ)Gをセットし、成形用型10と被成形ガラス素材を加熱および均熱化し、被成形ガラス素材を軟化させた後に、507℃(ガラス粘度108.5 ポアズに相当する)の温度で、100kg/cm2 の圧力により60秒間プレスした。このときの成形用型10(上型11、下型12)とガラスGの状態を図4に示す。この場合、成形用型10とガラスGは互いに密着し、窪み20内にもガラスGが入り込んでいる。
【0039】
しかる後に、プレス力を減圧して成形用型10と共にガラスGを400℃まで冷却した。この場合、約456℃(1012ポアズに相当する)で固化状態になる。上記冷却時に、ガラスGと成形用型10が収縮するが、ガラスGの熱膨張係数が成形用型10の熱膨張係数より大きく、ガラスGが半径方向内側に向かって収縮(約8.7μm)するので、窪み20内に入っていたガラス突起部分Gaが窪み20から乗り上げようとし、上型11の成形面11aとガラスGの被成形面Gbの間に隙間15を形成しようとする力が生ずる。そして、この力によりレンズGは上型11の成形面11aから容易に離型される。
【0040】
離型後、取り出したレンズGをアニール(徐冷)し、形状精度を調べたところ、ニュートン2本以内、アスティグマ1/2本以内で良好なレンズであった。なお、本レンズGは後工程で、外径25mmφに芯取りすることにより、突起部分Gaを除去してもよいし、またこの突起部分Gaがレンズ有効径d(23mmφ)の外側にあるので除去しないでそのまま使用してもよい。
【0041】
上記の窪み20の位置(直径)、幅、深さ、断面形状は用途に応じて変更可能である。図6に窪み20の断面形状の変形例を示す。図6に示すシャープな窪み20aは断面形状が台形をしている。この場合、収縮時の抵抗が大きくならないようにするために、窪み20の深さは50μm以下であることが望ましい。収縮時の抵抗が大きすぎると、図6に示すレンズの突起部分Gaの矢印16で示す部分にクラックが生じやすく、またレンズの面精度に悪影響が出る。
【0042】
図7−1及び図7−2の窪み20bは、上型10の中央側の側面が、曲面の接線に対する垂線17に対して傾斜し、θの角度をなしている。この角度θは5°以上であることが望ましい。
【0043】
更に、成形用型10の材料は熱膨張係数が30〜95×10-7/℃のものが望ましく、上記の炭化タングステンのほかに例えば、SiC(熱膨張係数40×10-7/℃)、Si3N4(熱膨張係数35×10-7/℃)、ZrO2 (熱膨張係数92×10-7/℃)、Al2O3(熱膨張係数78×10-7/℃)、各種サーメット(熱膨張係数80〜90×10-7/℃)等を使用することができる。更に、被成形ガラス素材としては熱膨張係数が60〜150×10-7/℃の各種光学ガラスを使用することができる。
【0044】
実施例2
曲率半径が8mmのレンズ成形面を有する凸形状の上型を用いて、有効径が10mmの凹メニスカスレンズを成形した。この際、上型表面には有効径の外側に直径11mm 幅30μm 深さ 10μm のリング状の窪みを形成した。M-BaCD12(HOYA製光学ガラス:Tg500℃、熱膨張係数88×10-7/℃)と称する硝子からなるプリフォームを630℃に加熱し、580℃に加熱した下型上に供給した後、下型を上昇させて上下型間でプレスを行った。プレス開始時の圧力は100Kg/cm2とした。その後レンズと型の接触が保たれた状態で70℃/minの速度で冷却を行い、480℃まで冷却した後下型を下降させて離型した。100回のプレス中上貼り付きは発生せず、得られたレンズの面形状はニュートンが±2本以内、アスティグマが1/2以内の良好な面形状のレンズが得られた。
【0045】
比較例1
実施例2と同様のプレスを、リング状の窪みを有していない上型を用いて実施した。その結果、プレス回数20回中5回上貼り付きが発生し、そのたびにプレスが中断された。
【0046】
比較例2
実施例2と同様のプレスを、断続的な窪みを有する上型を用いて実施した。上型の表面には 直径11mmの同心円上に 幅30μm深さ 10μm 長さ300μmの窪みを90°間隔で4箇所に設けた。その結果、100回のプレス中上貼り付きは発生しなかったが、得られたレンズの面形状はニュートンが2.5本、アスティグマが1.5本であり良好な面形状のレンズが得られなかった。
【0047】
実施例3
実施例2と同様 曲率半径が約8mmのレンズ成形面を有する凸形状の上型を用いて、有効径が10mmの凹メニスカスレンズを成形した。この際、上型の有効径の外側に直径13.0mm 幅20μm 深さ 5μm のリング状の窪みを形成した。所定の温度に型とプリフォームを加熱し、プレスを行ったところ、実施例2と同様に100回のプレス中上貼り付きは発生せず、良好な面形状のレンズが得られた。
【0048】
以上、実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施例では窪みを成形用型の上型に形成したが、下型に形成してもよい。更に、凹面のレンズの成形面に窪みを形成したが、平面状の成形面や曲率半径の大きな凸面のレンズの成形面に形成することができ、この場合も離型性の点で効果がある。更に、ガラスレンズの成形用型だけでなく、プラスチックレンズの成形用型にも本発明を適用することができる。
【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、レンズの有効径より外側において型の成形面にリング状の窪みを形成したので、レンズの収縮時に、型の窪みに嵌まっているレンズの突起部分が、レンズ収縮時に窪みから乗り上げようとするため、型とレンズの間に隙間を形成しようとする力が発生する。従って、この力によりレンズは型から容易に離型される。また、リング状の窪みが全周にわたって形成されているために、被成形素材のプレス時の延伸および冷却時の収縮が均一となり、面精度の高いレンズを得ることができる。
さらに、成形面に窪みを形成する工程では、断続的な複数の窪みを形成するよりも、単一のリング状窪みを形成するほうが工程が簡略化され、精度・生産性の両面から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の成形用型の一実施態様の側断面図である。
【図2】本発明の実施例によるレンズ成形用型の上型成形面を下側から見た図である。
【図3】図2の上型をII−II線に沿って切断して示す部分拡大断面図である。
【図4】プレス成形直後のガラスと成形用型の状態を示す部分拡大断面図である。
【図5】収縮後のガラスと成形用型の状態を示す部分拡大断面図である。
【図6】(a)は窪みの変形例を示す部分拡大断面図、(b)は図5(a)の窪みを有する成形用型によって成形されたレンズの部分拡大断面図である。(a)(b)二つの図はありません。ご確認ください。
【図7】窪みの他の変形例を示す部分拡大図である。
【図8】凹メニスカスレンズの一例の断面図である。
【図9】図8に示す凹メニスカスレンズを成形するための成形用型の断面図である。
【図10】本発明の成形型を用いた本発明に係る光学レンズの成形の手順の説明図。
【図11】本発明の成形型を用いた本発明に係る光学レンズの成形の手順の説明図。
【図12】本発明の成形型を用いた本発明に係る光学レンズの成形の手順の説明図。
【図13】凸面形状の成形面を有している上型にガラスが貼り付く場合の説明図。
【符号の説明】
10…レンズ成形用型、 11…上型、11a…上型成形面、12…下型、 12a…下型成形面、20…リング状窪み、 G…ガラス、 K…リング状窪みを配置した円の直径、 D…成形用型の外径、 d…レンズの有効径
Claims (5)
- 成形面が互いに対向するように組まれる一組の型を少なくとも備え、前記一組の型は、いずれも、レンズ有効径よりも大きな径の成形面を有し、
かつ少なくとも一方の型は、レンズ有効径よりも直径が50μm〜10mm大きな直径を有するリング状の窪みであって、深さが5μm〜0.2mmかつ幅が5μm〜1.0mmの範囲で形成され、当該窪みの表面の少なくとも一部の表面粗さが前記成形面の表面粗さよりも大きい窪みを前記成形面の周辺部に有することを特徴とするレンズ成形用型。 - 前記窪みを有する成形面が上型成形面であり、かつ凸面形状を有する請求項1に記載のレンズ成形用型。
- 前記成形型が凹メニスカスレンズを成形するための成形型であって、凸形状の上型と、凹形状の下型とを含み、該上型は、光学的機能面を成形する部分からなる有効径の内側部分、及び該有効径の外側において平坦面を形成する平面部、及び該有効径の内側部分と該平坦部を連続的につなぐ境界曲面部を有するものであって、前記窪みが、上記境界曲面部または上記平面部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ成形用型。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のレンズ成形用型を用い、このレンズ成形用型の対向する成形面により、成形面の周辺部に設けられたリング状の窪みにも被成形ガラス素材が充填されるように被成形ガラス素材を押圧し、冷却するレンズの製造方法であって、前記冷却によってレンズが収縮し、前記窪みによってレンズに形成された突起部の少なくとも一部が、該窪みの周囲の成形面に乗り上げることで、レンズを離型することを特徴とするレンズの製造方法。
- 被成形ガラス素材の熱膨張係数はレンズ成形用型の熱膨張係数よりも大きく、かつ被成形ガラス素材の熱膨張係数が60〜150×10-7/℃の範囲であり、レンズ成形用型の熱膨張係数が30〜95×10-7/℃の範囲である、但し、熱膨張係数は 100 〜 300 ℃における値である、請求項4に記載の製造方法。
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