JP4072085B2 - 磁気異方性センサを用いた応力測定方法及び装置 - Google Patents

磁気異方性センサを用いた応力測定方法及び装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気異方性センサ(Magnetic Anisotropy Sensor:MAS)を用いて、鉄道レール等の鉄鋼製構造物あるいは鉄鋼製機械部品における応力を非破壊的に測定する方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼製品の応力測定においては、従来から磁気異方性センサを用いる方法が知られている。この方法は、短時間で測定でき、測定装置が小型で安価であり、測定自由度が大きい等、多くの利点を有する。
【0003】
しかしながら、その反面、被測定物の表面に塗料や被覆物、錆等が存在する場合には、測定値がリフトオフに左右され易いという短所もある。なお、ここにいうリフトオフとは、センサの磁芯から被測定物までの距離をいう。
【0004】
そこで、下記の特許文献1には、本発明者により開発されたリフトオフの影響を受けない電磁式応力測定装置が開示されている。この電磁式応力測定装置は、塗料や被覆物、錆等の有無にかかわらず、リフトオフと無関係に応力の測定を行えるものである。
【0005】
特許文献1に開示されている電磁式応力測定装置は、互いに直交する2つのコの字型磁芯を有する磁気異方性センサを備えている。磁気異方性センサの一方の磁芯には励磁用コイル及びリフトオフ検出用コイルが巻かれており、他方の磁芯には磁位差検出用コイルが巻かれている。励磁用コイルは、発振器に接続されており、この発振器から励磁用コイルに定常電流が供給される。リフトオフ検出用コイルは、増幅器を介して整流器に接続されている。
【0006】
磁位差検出用コイルは、増幅器を介して同期整流器に接続されている。同期整流器は、磁位差検出用コイルの出力電圧を発振器の信号に同期して整流する。同期整流器及び整流器は、演算器に接続されている。演算器は、同期整流器の出力電圧V(δ,σ)と、整流器の出力電圧V(δ)と、測定対象のない場合の整流器の出力電圧V(∞)とから、出力比V(δ,σ)/{V(δ)−V(∞)}を演算する。ここで、δはリフトオフを表し、σは応力を表す。この演算器に接続されている表示器に、演算器の出力が表示される。
【0007】
この電磁式応力測定装置の磁気異方性センサにおいては、励磁用コイル及びリフトオフ検出用コイルが巻かれた磁芯の先端と、磁位差検出用コイルが巻かれた磁芯の先端とのリフトオフの差を調節することができる。これにより、リフトオフ検出用コイルの出力と、磁位差検出用コイルの出力とにおいて、リフトオフ特性を一致させることができる。即ち、リフトオフの差を調節することにより、演算器により演算される出力比V(δ,σ)/{V(δ)−V(∞)}の値を、リフトオフに依存しないようにすることができる。
【0008】
ところで、磁気異方性センサから出力される測定値Vと被測定物の応力σとの関係は、一般に非線形であり、グラフに描くと曲線になる。Vとσとの関係が曲線であると、曲線の各部位において応力感度χ(=dV/dσ)が異なる。未知の残留応力が存在する被測定物に外力が作用している場合には、応力感度χが定まらないため、外力による応力σapが正確に測定できない。
【0009】
そこで、下記の特許文献2には、本発明者により開発された残留応力及びリフトオフの影響を受けない応力測定装置が開示されている。この応力測定装置は、消磁器と、磁気異方性センサと、演算器等を含んでいる。演算器は、消磁方向を変えて得られた第1の測定値と第2の測定値に基づき、これらの値の平均値から、被測定物の寸法・形状で定まる見かけの値を引き算して、その結果を第1の測定値と第2の測定値との差で割ることにより、上記被測定物における応力に対応する値を求める。これにより、残留応力及びリフトオフの影響が排除される。
【0010】
【特許文献1】
特公平6―95052号公報 (第2−3頁、第1図及び第2図)
【特許文献2】
特開2001−281073号公報 (第1頁、図8)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような応力測定をさらに改良するためになされたものであって、磁気異方性センサを用いた応力測定において、残留応力及びリフトオフの影響を排除しつつ、磁気異方性センサから出力される測定値と被測定物の応力との関係をさらに線形に近付けて、より正確な応力測定を行うことができる応力測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明に係る応力測定方法は、被測定物に対して交流磁界をかけるための励磁用コイルとリフトオフを検出するためのリフトオフ検出用コイルとが巻かれた磁芯、及び、被測定物における磁化の強さを測定するための磁位差検出用コイルが巻かれた磁芯を有する磁気異方性センサを用いた応力測定方法であって、被測定物に対して第1の方向に減衰交流磁界をかけて消磁するステップ(a)と、励磁用コイルにより被測定物に対して所定の方向に交流磁界をかけて磁位差検出用コイル及びリフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値をそれぞれ得るステップ(b)と、被測定物に対して第1の方向と直交する第2の方向に減衰交流磁界をかけて消磁するステップ(c)と、励磁用コイルにより被測定物に対して所定の方向に交流磁界をかけて磁位差検出用コイル及びリフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値をそれぞれ得るステップ(d)と、少なくとも第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値に基づいて第1の算出値を得ると共に、少なくとも第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値に基づいて第2の算出値を得るステップ(e)と、残留応力のない試験片を用いた場合に、第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割った値が、負荷による一軸応力に対して直線となるような所定の値を用いて、被測定物について得られた第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割ることにより、被測定物における応力に対応する値を求めるステップ(f)とを具備する。
【0013】
また、本発明に係る応力測定装置は、磁気異方性センサを用いた応力測定装置であって、被測定物に対して互いに直交する第1の方向と第2の方向に減衰交流磁界をかけて消磁するための消磁手段と、被測定物に対して所定の方向に交流磁界をかけるための励磁用コイルとリフトオフを検出するためのリフトオフ検出用コイルとが巻かれた磁芯、及び、被測定物における磁化の強さを測定するための磁位差検出用コイルが巻かれた磁芯を有する磁気異方性センサと、消磁手段に電流を供給して減衰交流磁界を発生させ、励磁用コイルに電流を供給して交流磁界を発生させる発振手段と、磁気異方性センサの磁位差検出用コイル及びリフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出する検出手段と、被測定物を第1の方向に消磁した後で、励磁用コイルにより被測定物に対して交流磁界をかけて磁位差検出用コイル及びリフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値をそれぞれ得ると共に、被測定物を第2の方向に消磁した後で、励磁用コイルにより被測定物に対して交流磁界をかけて磁位差検出用コイル及びリフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値をそれぞれ得るように、各部を制御する制御手段と、少なくとも第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値に基づいて第1の算出値を得ると共に、少なくとも第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値に基づいて第2の算出値を得て、残留応力のない試験片を用いた場合に、第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割った値が、負荷による一軸応力に対して直線となるような所定の値を用いて、被測定物について得られた第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割ることにより、被測定物における応力に対応する値を求める演算手段とを具備する。
【0014】
本発明によれば、残留応力のない試験片を用いた場合に、消磁方向を変えて得られた第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割った値が、負荷による一軸応力に対して直線となるような所定の値を用いて、被測定物について得られた第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割ることにより、被測定物における応力に対応する値を求めるので、残留応力及びリフトオフの影響を排除しつつ、被測定物における応力に対応する出力値の直線性がさらに改善される。このため、応力感度χが一定に近くなり、残留応力の存在にかかわらず外力による応力σapを求めることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る応力測定装置のセンサを示す図であり、(A)は斜視図、(B)は下側から見た図である。
図1の(A)に示すように、センサ1は、消磁器2と、磁気異方性センサ(MAS)3とを含んでいる。これらの消磁器2及びMAS3は、センサ1のケーシング(図示せず)内に格納されている。
【0016】
消磁器2は、例えば積層珪素鋼板やフェライト等からなる上下2つのコの字型の消磁用磁芯5、6を備えている。消磁用磁芯5と消磁用磁芯6とは、第1及び第2の方向において互いに直交している。消磁用磁芯5、6には、それぞれ消磁用コイル5A、6Aが巻かれている。MAS3は、消磁器2の中心位置に配置されている。
【0017】
図1の(B)に示すように、MAS3は、第1の方向と45°の角度をなすX方向(第3の方向)に設けられた励磁用磁芯4Aと、Y方向に設けられた検出用磁芯4Bとを備えている。励磁用磁芯4Aには、励磁用コイルとリフトオフ検出用コイルが巻かれている。検出用磁芯4Bには、磁位差検出用コイルが巻かれている。
【0018】
図2は、図1に示すMASの構造を示す図であり、(A)は正面図、(B)は下側から見た図である。図2の(A)に示すように、MAS3の励磁用磁芯4Aは、スペーサ4Cに直接接しているが、検出用磁芯4Bは、スペーサ4Cから距離aの位置に設置されている。この距離aが、励磁用磁芯4Aと検出用磁芯4Bとの間のリフトオフの差になる。後で説明するように、この距離aを調節することにより、磁位差検出用コイルから出力される磁位差検出信号とリフトオフ検出用コイルから出力されるリフトオフ検出信号とにおけるリフトオフ特性を一致させ、リフトオフの影響を排除することができる。
【0019】
ここで、図3を参照しながら、MASの測定原理について説明する。図3に示すように、主応力σ、σの作用している測定対象上に四脚のMASが置かれているとき、励磁用磁芯4Aの端部Eから出た磁束は、測定対象の表層を広がって端部Eに向かう。その内の一部は、透磁率の大きい検出用磁芯4B中を通る経路(実線と破線の矢印で示す)を介して端部Eに向かう。σ>σのときには、σ方向の透磁率がσ方向の透磁率よりも大きくなるので、実線で示す磁束が破線で示す磁束よりも大きくなる。検出用磁芯4B中を通る磁束は、実線で示す磁束と破線で示す磁束との差になる。MASの出力に基づいて、主応力差(σ−σ)を測定することができる。
【0020】
次に、図4を参照しながら、本実施形態に係る応力測定装置の全体の構成を説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る応力測定装置の全体構成を示すブロック図である。この応力測定装置は、大別して以下の構成要素からなる。
(1)消磁器2に接続された発振器8
発振器8は、消磁器2の2つの消磁用コイル5A及び6Aに、消磁電流I及びIをそれぞれ供給する。この発振器8からの消磁電流の供給により、消磁器2は、被測定物に対して、互いに直交する第1の方向(消磁用磁芯5により生じる磁界の方向)と第2の方向(消磁用磁芯6により生じる磁界の方向)とに、順番に減衰交流磁界をかけて消磁する。
【0021】
(2)MAS3に接続された発振器7
発振器7は、MAS3の励磁用コイルに励磁電流を供給する。この発振器7からの励磁電流の供給により、MAS3は、被測定物が各方向に消磁された後で、被測定物に対し第1及び第2の方向と異なる第3の方向(図1(B)及び図3におけるX方向)に所定の交流磁界をかけて、磁位差検出用コイルにより第1の方向における磁化の強さを測定する。
【0022】
(3)同期整流器11
MAS3の磁位差検出用コイルから出力される磁位差検出信号は、増幅器9により増幅された後、同期整流器11において、発振器7からMAS3に供給される励磁電流を基準として同期整流され、測定値が得られる。同期整流を行うことにより、一軸応力の正負(引張り・圧縮)を判別することができる。
【0023】
(4)整流器12
MAS3のリフトオフ検出用コイルから出力されるリフトオフ検出信号は、増幅器10により増幅された後、整流器12において整流され、リフトオフ検出値が得られる。
【0024】
(5)制御回路15
制御回路15は、発振器8から消磁器2に供給される消磁電流Iを制御することにより、被測定物を第1の方向(消磁用磁芯5により生じる磁界の方向)に消磁した後で、発振器7からMAS3に供給される励磁電流を制御することにより、この被測定物に対し所定の交流磁界をかけて磁化の強さを測定して第1の測定値が得られるようにする。その際に、第1のリフトオフ検出値も得られる。
【0025】
また、制御回路15は、発振器8から消磁器2に供給される消磁電流Iを制御することにより、被測定物を第2の方向(消磁用磁芯6により生じる磁界の方向)に消磁した後で、発振器7からMAS3に供給される励磁電流を制御することにより、この被測定物に対し所定の交流磁界をかけて磁化の強さを測定して第2の測定値が得られるようにする。その際に、第2のリフトオフ検出値も得られる。
【0026】
(6)演算器13及び表示器14
演算器13は、同期整流器11において得られた第1の測定値と、整流器12において得られた第1のリフトオフ検出値とに基づいて、リフトオフの影響が排除された第1の算出値を求めると共に、同期整流器11において得られた第2の測定値と、整流器12において得られた第2のリフトオフ検出値とに基づいて、リフトオフの影響が排除された第1の算出値を求める。第1及び第2の算出値の平均値を、第1及び第2の算出値の差から所定値を引き算して得た第3の算出値で割ることにより、上記被測定物における応力に対応する値を求める。演算器13の演算結果は、表示器14において表示される。
【0027】
上記の応力測定装置を用いた応力測定方法について、以下に説明する。
まず、測定値からリフトオフの影響を排除する方法について説明する。
図4に示す同期整流器11において得られた測定電圧を、V(δ,σ)とする。ただし、σは応力を表しており、δはリフトオフ、即ち、磁芯の端部から測定対象の金属までの距離を表している。
【0028】
一方、整流器12において得られたリフトオフ検出電圧を、V(δ)とする。測定対象が無い場合のリフトオフ検出電圧を、一定値V(∞)で表す。この値は、毎回測定する必要はなく、1回測定して求めた値を記憶しておき、次の応力測定に利用するようにしても良い。図4に示す演算器13において、出力比の算出値U=V(δ,σ)/(V(δ)−V(∞))の演算が行われ、出力比の算出値が表示器14に表示される。
【0029】
ここで、図5に示すような簡単な磁気回路のモデルによって、リフトオフの影響を排除する原理について説明する。励磁用磁芯4Aを通る磁束をΦ(δ)、励磁用磁芯4A及び検出用磁芯4Bの断面積をS(空気中の磁路の断面積も簡単のためにSとする)、測定対象の磁路の有効断面積をS’、励磁用磁芯4A及び検出用磁芯4Bの端部間の距離をr、励磁用磁芯4Aの高さをh、検出用磁芯4Bの高さをh、測定対象に応力σが作用することによって生じる磁位差をΔΦ(σ)、励磁用コイルの巻数をN、磁位差検出用コイルの巻数をN、リフトオフ検出用コイルの巻数をN、励磁電流をI、励磁電流の角周波数をω、磁芯の透磁率をμ、測定対象の透磁率をμ’、空気中の透磁率をμとすれば、磁位差検出信号及びリフトオフ検出信号の電圧は、次式(1)〜(3)で表される。
【数1】
Figure 0004072085
【数2】
Figure 0004072085
【数3】
Figure 0004072085
【0030】
ここで、次のようにおく。
【数4】
Figure 0004072085
B=ωNISμ/2
b=(2h+r)μ/2μ+rμS/2μ’S’
c=(2h+r)μ/2μ
すると、式(1)及び(3)は、次式(4)及び(5)のように表される。
【数5】
Figure 0004072085
【数6】
Figure 0004072085
【0031】
ここで、図2の(A)に示す距離aを考慮してδを(δ+a)に変更し、さらに、b>cであるから距離aを調節すればb=a+cとすることができるので、式(4)は、次のように変形される。
【数7】
Figure 0004072085
【0032】
実際には、上記のような簡単なモデルに対して補正が必要となり、センサ及び装置によって定まる補正定数kを用いることにより、次式(6)のように表される。
【数8】
Figure 0004072085
【0033】
ここで、距離aを調節することによってka+c=bとすることができ、式(6)を式(5)で除せば、次式(7)が得られる。
【数9】
Figure 0004072085
上式においては、リストオフδが消去されている。これにより、出力比の算出値U=V(δ,σ)/(V(δ)−V(∞))は、リストオフδに依存せず、応力σのみの関数となる。
【0034】
上記のようなリフトオフの影響を排除する方法について、実際の応力測定結果の例を示す。この例においては、図5に示すMASの磁芯4A及び4Bを、端部間の距離rが10.9mmとなるように、積層ケイ素鋼鈑で作製した。測定対象である構造用の炭素鋼については、b−c=0.05mmであったので、図5に示す距離aを調節して0.017mmとすることによって、ka+c=bとすることができた。
【0035】
このMASを用いて、周波数100Hzでリフトオフを変えながらSS400材の応力測定を実施した結果を図6に示す。図6に示すように、出力比の算出値は、リフトオフに依存せず、応力のみの関数となることが実証された。
【0036】
次に、応力測定における直線性を高める方法について説明する。
図7の(A)は、MASの出力から式(7)を用いてリフトオフを除去した算出値と応力との関係を表す図であり、図7の(B)は、消磁方向による算出値の差の変化を表す図である。
【0037】
まず、残留応力のない鉄鋼試験片に対しては、算出値Uと、負荷による一軸応力σapとの関係は、消磁方向θをパラメータとして、図7の(A)に示すような曲線になる。さらに、図7の(A)に示すθ=0の場合の算出値Uとθ=π/2の場合の算出値Uに注目すると、これら両曲線の差は、応力の絶対値の小さいところでは大きく、大きいところでは小さい。これは、図7の(B)に示すような分布曲線となる。残留応力のない鉄鋼試験片でこのようなU−σap曲線を求めておくと、同一の鉄鋼材料における未知の残留応力σを含む全応力σ=σap+σを測定することが可能となる。
【0038】
ところで、実際の鉄道レールは、輪重・横圧や熱膨張収縮による軸力等の荷重を受け、応力履歴効果が存在する。鉄道レールの一軸応力を測定するような場合には、レールのウェブ(腹部)にMASを当てて行うが、レールの長手方向の各箇所で残留応力σが異なるため、レールの一軸応力σapを正確に求めることが困難になる。
【0039】
このことをさらに詳しく説明すると、鉄道レールのような残留応力σが存在する被測定物に対して、外力による応力σapを加えると、図7の(A)に示す曲線の原点をずらしたものになる。この場合の二軸圧縮のグラフを図8の(A)に、一軸圧縮のグラフを図8の(B)に示す。
【0040】
図7の(A)と図8とを比べると、同一の大きさの応力σapを加えたときに、図7の(A)に示す算出値Uよりも図8の(A)又は(B)に示す算出値Uの方が小さくなる。これは、Uとσapとの関係が曲線であるため、曲線の各部において応力感度χ(=dU/dσ;即ち接線の傾き)が異なるからである。外力による応力σapも残留応力σも共に応力であるため、MASはこれらを区別して測定することができず、これらの和である全応力σ=σap+σを測定してしまう。従って、外力による応力σapを求める際には、残留応力σが異なると、正確な測定値を得ることができない。
【0041】
そこで、本発明に係る応力測定においては、応力に対応する出力値を広い範囲で直線にすることにより応力感度χを一定化し、残留応力の存在にかかわらず外力による応力をより正確に求めることを可能とする。
【0042】
これについて、図4及び図9を参照しながら説明する。まず、被測定物にセンサ1を当てて、電源スイッチ(図示せず)をONにする。そして、図9に示すように、ステップ(a)において、発振器8から消磁用磁芯5のコイルに電流を供給することにより、被測定物に対して、消磁用磁芯5により生じる磁界の方向(第1の方向)に減衰交流磁界をかけて消磁する。
【0043】
次に、ステップ(b)において、発振器7からMASの励磁用コイルに電流を供給し、被測定物に対して、図1の(B)に示すX方向(第3の方向)に交流磁界をかけて、第1の方向における磁化の強さをMASで測定する。これらのステップ(a)及び(b)に要する時間は、約1秒程度である。
【0044】
さらに、ステップ(c)において、発振器8から消磁用磁芯6のコイルに電流を供給することにより、被測定物に対して、消磁用磁芯6により生じる磁界の方向(第2の方向)に減衰交流磁界をかけて消磁する。
【0045】
次に、ステップ(d)において、発振器7からMASの励磁用コイルに電流を供給し、被測定物に対して、図1(B)のX方向に交流磁界をかけて、第1の方向における磁化の強さをMASで測定する。
【0046】
ステップ(b)及び(d)において得られた磁位差検出信号を、増幅器9を介して同期整流器11に入力することにより測定値を求める。ここで、同期整流器11においては、発振器7からMASに供給される電流(MASにおいて交流磁界を発生させる電流)に対して、MASからの出力を同期整流する。これにより、一軸応力の正負(引張り・圧縮)を判別できる。同様に、ステップ(b)及び(d)において得られたリフトオフ検出信号を、増幅器10を介して整流器12に入力することによりリフトオフ検出値を求める。さらに、これらの測定値及びリフトオフ検出信号を演算器13に入力する。
【0047】
ステップ(e)において、演算器13により以下の演算処理を行う。
まず、測定値及びリフトオフ検出値に基づいて、式(7)を用いてリフトオフを除去した算出値U(θ,σ)を求める。ここで、消磁方向をθ、応力をσとする。これにより、消磁用磁芯5を用いて消磁方向θ=0に消磁した場合における第1の算出値U(0,σ)と、消磁用磁芯6を用いて消磁方向θ=π/2に消磁した場合における第2の算出値U(π/2,σ)とが得られる。
【0048】
演算器13は、第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値ΔUを引いた第3の算出値で割ることにより、被測定物における応力に対応する出力値Wを演算する。
【数10】
Figure 0004072085
【0049】
これにより得られる出力値Wは、図10に示すように直線化されたものとなる。即ち、図7の(A)における消磁方向θ=0とθ=π/2とに注目すると、これら両曲線の差は、図7の(B)に示すように応力の小さいところでは大きく、大きいところでは小さい。そこで、これら両曲線の平均、即ち中央の曲線で表される出力を、両曲線の差から所定の値ΔUを引いた結果で割ることにより、図10に示すような広い範囲で直線化された関係を得ることができる。
【0050】
ここで、図7の(B)に示す所定の値ΔUよりも大きい値ΔUを用いた場合には、図10に示す出力値Wのように、一軸応力σapの絶対値が増加すると応力感度χが増加する傾向となる。一方、図7の(B)に示す所定の値ΔUよりも小さい値ΔUを用いた場合には、図10に示す出力値Wのように、一軸応力σapの絶対値が増加すると応力感度χが減少する傾向となる。従って、残留応力のない鉄鋼試験片を用いて、負荷による一軸応力に対して出力値Wが直線となるように所定の値ΔUを求めておけば、応力感度χが一定となり、残留応力の存在にかかわらず外力による応力σapを求めることができる。
【0051】
この出力値の演算結果は、図9に示すステップ(f)において、表示器14に表示される。なお、センサ1を当てて電源をONにしてから、ステップ(a)〜(f)を終了するまでのトータルの所要時間は、約2秒程度である。
【0052】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、残留応力及びリフトオフの影響を排除しつつ、被測定物における応力に対応する出力値の直線性がさらに改善される。その結果、残留応力、及び、被測定物表面の塗料や被覆物、錆等が存在しても、より正確な応力測定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る応力測定装置のセンサを示す図であり、(A)は斜視図、(B)は下側から見た図である。
【図2】図1に示すMASの構造を示す図であり、(A)は正面図、(B)は下側から見た図である。
【図3】MASを用いた応力測定の原理を説明するための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る応力測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施形態においてリフトオフの影響を排除する原理について説明するための簡単な磁気回路のモデルを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態においてリフトオフの影響を排除した応力測定結果を示す図である。
【図7】(A)は、MASの出力からリフトオフを除去した算出値と応力との関係を表す図であり、(B)は、消磁方向による算出値の差の変化を表す図である。
【図8】(A)は、二軸圧縮の場合の算出値と応力との関係を表す図であり、(B)は、一軸圧縮の場合の算出値と応力との関係を表す図である。
【図9】本実施形態に係る応力測定方法における測定手順を説明するための図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る応力測定装置の出力値と応力との関係を表す図である。
【符号の説明】
1 センサ
2 消磁器
3 磁気異方性センサ(MAS)
4A 励磁用磁芯
4B 検出用磁芯
5、6 消磁用磁芯
5A、6A 消磁用コイル
7、8 発振器
9、10 増幅器
11 同期整流器
12 整流器
13 演算器
14 表示器
15 制御回路

Claims (5)

  1. 被測定物に対して交流磁界をかけるための励磁用コイルとリフトオフを検出するためのリフトオフ検出用コイルとが巻かれた磁芯、及び、前記被測定物における磁化の強さを測定するための磁位差検出用コイルが巻かれた磁芯を有する磁気異方性センサを用いた応力測定方法であって、
    前記被測定物に対して第1の方向に減衰交流磁界をかけて消磁するステップ(a)と、
    前記励磁用コイルにより前記被測定物に対して所定の方向に交流磁界をかけて前記磁位差検出用コイル及び前記リフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値をそれぞれ得るステップ(b)と、
    前記被測定物に対して第1の方向と直交する第2の方向に減衰交流磁界をかけて消磁するステップ(c)と、
    前記励磁用コイルにより前記被測定物に対して所定の方向に交流磁界をかけて前記磁位差検出用コイル及び前記リフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値をそれぞれ得るステップ(d)と、
    少なくとも第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値に基づいて第1の算出値を得ると共に、少なくとも第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値に基づいて第2の算出値を得るステップ(e)と、
    残留応力のない試験片を用いた場合に、第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割った値が、負荷による一軸応力に対して直線となるような前記所定の値を用いて、前記被測定物について得られた第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から前記所定の値を引いた値で割ることにより、前記被測定物における応力に対応する値を求めるステップ(f)と、
    を具備する応力測定方法。
  2. ステップ(b)が、前記被測定物に対して第1及び第2の方向と異なる第3の方向に交流磁界をかけて第1の方向における磁化の強さを測定することを含み、
    ステップ(d)が、前記被測定物に対して第3の方向に交流磁界をかけて第1の方向における磁化の強さを測定することを含む、
    請求項1記載の応力測定方法。
  3. 磁気異方性センサを用いた応力測定装置であって、
    被測定物に対して互いに直交する第1の方向と第2の方向に減衰交流磁界をかけて消磁するための消磁手段と、
    前記被測定物に対して所定の方向に交流磁界をかけるための励磁用コイルとリフトオフを検出するためのリフトオフ検出用コイルとが巻かれた磁芯、及び、前記被測定物における磁化の強さを測定するための磁位差検出用コイルが巻かれた磁芯を有する磁気異方性センサと、
    前記消磁手段に電流を供給して減衰交流磁界を発生させ、前記励磁用コイルに電流を供給して交流磁界を発生させる発振手段と、
    前記磁気異方性センサの前記磁位差検出用コイル及び前記リフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出する検出手段と、
    前記被測定物を第1の方向に消磁した後で、前記励磁用コイルにより前記被測定物に対して交流磁界をかけて前記磁位差検出用コイル及び前記リフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値をそれぞれ得ると共に、前記被測定物を第2の方向に消磁した後で、前記励磁用コイルにより前記被測定物に対して交流磁界をかけて前記磁位差検出用コイル及び前記リフトオフ検出用コイルから出力される電圧を検出して第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値をそれぞれ得るように、各部を制御する制御手段と、
    少なくとも第1の測定値及び第1のリフトオフ検出値に基づいて第1の算出値を得ると共に、少なくとも第2の測定値及び第2のリフトオフ検出値に基づいて第2の算出値を得て、残留応力のない試験片を用いた場合に、第1の算出値と第2の算出値との平均値を、 第1の算出値と第2の算出値との差から所定の値を引いた値で割った値が、負荷による一軸応力に対して直線となるような前記所定の値を用いて、前記被測定物について得られた第1の算出値と第2の算出値との平均値を、第1の算出値と第2の算出値との差から前記所定の値を引いた値で割ることにより、前記被測定物における応力に対応する値を求める演算手段と、
    を具備する応力測定装置。
  4. 前記検出手段が、
    前記第1の検出用コイルから出力される電圧を増幅する第1の増幅器と、
    前記第1の増幅器から出力される電圧を整流する第1の整流器と、
    前記第2の検出用コイルから出力される電圧を増幅する第2の増幅器と、
    前記第2の増幅器から出力される電圧を、前記励磁用コイルに供給する電流に対して同期整流する第2の整流器と、
    を含む、請求項3記載の応力測定装置。
  5. 前記磁気異方性センサが、前記被測定物に対して第1及び第2の方向と異なる第3の方向に交流磁界をかけて第1の方向における磁化の強さを測定する、請求項3又は4記載の応力測定装置。
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