JP4072083B2 - 木本植物への遺伝子導入法及び遺伝子組換え体の作出 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、木本植物に遺伝子を導入する方法、特に、バラ科果樹のような木本植物に効率的に遺伝子を導入する方法、該方法を用いて木本植物の形質転換植物を作出する方法、及び、該方法により作出された遺伝子導入木本植物(形質転換植物)に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物においては、1983年にタバコを用いた実験で形質転換に成功して以来(Nature 303, 209-213, 1983)、植物に遺伝子を導入して形質転換して新しい植物を作出する多くの研究がなされ、数多くの植物種で成功した例が報告されている。
落葉果樹のような木本植物においては、元来その育種は主に交雑育種により行われていたが、この種の植物は遺伝的にヘテロで、しかも実生から開花・結実に至るまで数年から数十年を要することから、草本植物に比べてその遺伝解析に長期の期間を要していた。このため、木本植物を短期間で効率的に育種を展開することが困難で、新品種の育成に十数年から、数十年を必要としていた。そこで、落葉果樹のような木本植物においても、草本植物のように遺伝子導入による形質転換技術を用いれば、短期間で有用な遺伝子を選択的に導入することができ、果樹のような世代期間の長い作物では特に有力な手段となることから、木本植物に対するこれらの技術の開発が進められてきた。
【0003】
植物における形質転換の方法には、アグロバクテリウム菌を用いて遺伝子を間接的に導入する方法と、パーテクルガン法、ポリエチレングリコール法(PEG法)、エレクトロポーレション法などの遺伝子を直接細胞に導入する方法がある。アグロバクテリウム法は、土壌細菌Agrobacterium tumefaciensが植物に感染するときにプラスミド上のT−DNA領域と呼ばれる部分を植物染色体に挿入する仕組みを利用して遺伝子を導入する方法であるが、この方法は組織片からの再分化が可能でA.Tumefaciensに感染する植物であれば適用できるという利点があり、多くの植物の形質転換法として用いられている。落葉果樹等の木本植物の形質転換方法としても、ほとんどはこの方法を用いたものである(Bull. Natl. Inst. Fruit Tree Sci.35,11-31,2001)。パーティクルガン法は、外来遺伝子をコーテイングした金属の微粒子を植物の細胞や組織に打ち込んで遺伝子を導入する方法であり、落葉果樹ではブドウでの成功例が報告されている(Plant Cell Rept., 15, 311-316, 1996、Acta Hortic., 447, 273-279, 1997)。PEG法、エレクトロポーレション法は、PEG処理や電圧処理によってプロトプラストに直接外来遺伝子を取り込ませる方法で、プロトプラスト培養系の形成が必須となるため、現在のところこの方法による落葉果樹のような木本植物の形質転換に成功した報告はない。
【0004】
落葉果樹のような木本植物の遺伝子の導入において、リンゴでは「greensleeves」の葉片からの不定芽形成系を利用してアグロバクテリウム法により形質転換体が作出されて以来(Plant Cell Rept., 658-661, 1989)、同様の手法を用いて様々な品種で形質転換系の開発がおこなわれた(Plant Cell Tissue Organ Cult., 55, 31-38, 1999、Plant Cell Rept., 15, 549-554, 1996、Acta Hortic., 538, 619-624, 2000、J. Amer. Soc. Hort. Sci., 122, 758-763, 1997、Acta Hortic. 489, 253-256, 1999、Acta Hortic. 538, 611-616, 2000、J. Plant Physiol. 139, 560-568, 1992、Plant Mol. Biol., 37, 549-559, 1998、Euphytica, 77, 123-128, 1994、Plant sci., 119, 125-133, 1996、Euphytica 85, 131-134, 1995、Plant Cell Rept., 14, 407-412, 1995、Plant Cell Tissus Organ Cult., 36, 317-329, 1994)。リンゴでは、葉片からの不定芽形成系とアグロバクテリウム法の組み合わせにより安定した形質転換系がほぼ確立している。
【0005】
落葉果樹のうち、ブドウでは葉柄、茎頂組織、体細胞胚の胚軸などの組織片からの不定芽形成系を利用してアグロバクテリウム法により、最初に形質転換体が作出された(J. Exp. Bot., 41 (229), 1045-1049, 1990、Bio/Technology 8, 1041-1045, 1990)。その後、葉柄、葉片、体細胞胚の胚軸から、同様の方法で形質転換体が得られている。しかし、ブドウの場合、このように不定芽形成系を利用して得られた形質転換体は、導入された遺伝子の発現が植物内で不均一で、キメラを形成した。不定芽形成は細菌の感染部位とは異なる部分から生じることが多く、しかも多細胞であるため、得られた形質転換体はキメラとなった。そこで、単一細胞由来の形質転換体を得るために、EC(エンブリオジェニックカルス)や体細胞胚からの植物体再生系を利用してアグロバクテリウム法により、形質転換体を作出することが行われ、現在この方法が用いられている。しかし、品種によっては、ECや体細胞胚の誘導が難しく、再分化系が確立していないものが多く、形質転換可能な品種が限られている。
【0006】
ナシでは、セイヨウナシの葉片からの不定芽形成系を利用してアグロバクテリウム法により形質転換体の作出に成功して以来(Plant Cell Rept.16, 245-249,1996)、同様の手法でセイヨウナシ等の形質転換体の作出が行われている。例えば、マンシュウマメナシ、セイヨウナシのラ・フランス及びバートレッドの子葉からの不定芽形成系を利用してアグロバクテリウム法により形質転換体の作出に成功している(園学雑.67(別2),207,199、園学雑.69(別2),134,2000)。しかし、ナシで形質転換に成功しているのは数品種のセイヨウナシとマンシュウマメナシに限られており、ニホンナシについては成功していない。また、セイヨウナシでも、品種によっては形質転換率が低いため、効率の良い方法の開発が望まれている。
【0007】
モモについては、未熟胚由来カルスからの不定芽形成系(J. Amer. Soc. Hort. Sci. 116, 1092-1097, 1991)及び未熟胚由来不定胚形成系(園学雑.68(別1),139,1999)を用いてアグロバクテリウム法により形質転換体の作出に成功している。また、モモに近縁のアーモンドでは、実生葉片からの不定胚形成系を利用して、アグロバクテリウム法により形質転換体の作出に成功しているが(Plant Cell Rept. 18, 387-393, 1999)、これらはいずれも形質転率が極めて低く不安定であったりして、有効な形質転換方法にはなっていない。
上記するように、落葉果樹のような木本植物においては、葉柄、葉片、体細胞胚の胚軸(特開2002−253070号公報)等からの不定芽形成系やEC培養系を用いての形質転換が行なわれていたが、果樹の品種によっては組織からの不定芽形成やEC誘導が困難なものが多いため、既存の有用品種への遺伝子の導入方法はいまだ有力な方法は開発されていない。
【0008】
近年、カンキツにおいて腋芽又は節を含む茎(internodal stem segment)を用いてアグロバクテリウム法により遺伝子を導入する方法が報告されている(Plant Cell Reports, 14, 616-619, 1995)。この方法は、温室内で生育した実生のスイート オレンジの腋芽又は節を含む茎を0.5〜1cmに切断し、これをMS無機塩からなるSRM植物培養培地に垂直に設置して、この茎の切断面にアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)の培養液をドロップし、約2日間共存培養した後、マグネット ポットに移植して、培地にカナマイシンを添加して、遺伝子が導入された個体を選択し、その後8週間暗黒条件下で培養し、16時間の光照射、60%の相対湿度条件下で、4週間保持した後、再生したシュートの先端を収穫し、これを台木に接木する方法が開示されている。この方法では、腋芽を含む茎の材料として実生を用いている。カンキツの場合、株心胚実生であるため親と同じ形質を持った実生が得られる場合が多いが、バラ科果樹の種子の場合では親と同形質をもった実生は得られない。また、カンキツの場合でも、受精した種子からの実生では、品種の品質を保持することが難しく、また、アグロバクテリウム培養液による処理に技術を要する。更に、この方法では、シュートの先端を接木しなければならなく、そのための台木の用意等もあって、どのような植物、或いは植物の品種に適用できるものではなかった。特に、バラ科果樹のような木本植物に適用することは困難であった。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−253070号公報。
【非特許文献1】
Nature 303, 209-213, 1983。
【非特許文献2】
Bull. Natl. Inst. Fruit Tree Sci. 35, 11-31, 2001。
【非特許文献3】
Plant Cell Rept., 15, 311-316, 1996。
【非特許文献4】
Plant Cell Rept., 658-661, 1989。
【非特許文献5】
Plant Cell Tissue Organ Cult., 55, 31-38, 1999。
【非特許文献6】
J. Exp. Bot., 41 (229), 1045-1049, 1990。
【非特許文献7】
Plant Cell Rept.16, 245-249, 1996。
【非特許文献8】
園学雑.67(別2),207,1998。
【非特許文献9】
園学雑.69(別2),134,2000。
【非特許文献10】
J. Amer. Soc. Hort. Sci. 116, 1092-1097, 1991。
【非特許文献11】
Plant Cell Rept.18, 387-393, 1999。
【非特許文献12】
Plant Cell Reports, 14, 616-619, 1995。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、広範囲の木本植物に遺伝子を導入する方法、特に、バラ科果樹のような個体再分化の難しい木本植物についても短期間で効率的に遺伝子を導入することができ、更に広範囲の植物及びその品種に対して適用が可能で、該植物の有用な形質をそのまま保持しながら目的とする遺伝子の導入が可能な遺伝子の導入方法、該方法を用いた形質転換植物の作出方法、及び該方法によって作出された形質転換植物、を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
従来、落葉果樹のような木本植物においては、葉柄、葉片、体細胞胚の胚軸等からの不定芽形成系を用いる方法等により、遺伝子の導入が行われていた。しかし、例えば、バラ科果樹のような木本植物においては、個体再分化が難しく、不定芽形成が困難であるので、木本植物の種類や品種によっては、該植物に遺伝子を導入して、形質転換した植物を作出することができなかった。そこで、本発明者はバラ科果樹のような個体再分化の難しい木本植物においても、短期間で効率的に遺伝子を導入することができる方法を開発すべく鋭意研究の結果、腋芽の直近に遺伝子導入のための切り口を設けた腋芽を含む茎からなる外植体を用いて遺伝子の導入処理を行い、更に、該処理を行った腋芽を含む茎を培養して多芽体を形成させ遺伝子が導入された芽を選抜することによって、木本植物への遺伝子の導入が可能となることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の方法は、個体再分化を経由しないので、バラ科果樹のような個体再分化の難しい植物についても適用することができ、広い範囲の木本植物についての遺伝子の導入及び形質転換植物の作出が可能となる。また、本発明の方法は個体再分化を経由しないので、短期間で組換えシュートが得られ、更に、葉片を用いた場合等に比較して高効率で遺伝子を導入することが可能となる。また、本発明の方法は、遺伝子導入後の選抜培養中に、多芽体状のシュートを形成するために、得られた組換体が、遺伝子が導入されていない細胞が混入してキメラとなる可能性が低い。更に、本発明の方法は形質の変化する実生苗のようなものを新たに作製する必要が無く、従来の有用な品種にそのまま適用することができるので、該品種の形質を変化させることなく、新しく有用な形質転換体の作出を行うことができる。
【0013】
すなわち本発明は、腋芽を含み、腋芽の直近0.5mm以内に遺伝子導入のための切り口を設けた培養シュートの茎からなる外植体を調製する工程、該外植体を用いて、アグロバクテリウム法による感染処理により遺伝子の導入を行なう工程、該処理を行った培養用シュートを培養して多芽体を形成させる工程、及び遺伝子が導入された芽の選抜を、導入された抗生物質耐性遺伝子により行う工程、からなることを特徴とする木本植物への遺伝子導入法(請求項1)や、腋芽を含んだ外植体が、2〜3mmであることを特徴とする請求項1記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項2)や、外植体のアグロバクテリウム法による感染処理を、アグロバクテリウム菌を分散させた感染液への浸漬で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項3)や、外植体のアグロバクテリウム法による感染処理を、アグロバクテリウム菌を分散させた感染液への浸漬後、暗黒条件下、共存培養により行うことを特徴とする請求項3記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項4)や、遺伝子が導入された芽の選抜を、抗生物質含有培地を用いて選抜培養することにより行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項5)や、遺伝子が導入された芽の選抜を、多芽体を形成させる条件の培地で選抜培養することにより行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項6)や、木本植物が、バラ科果樹であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項7)や、バラ科果樹が、セイヨウナシ、ニホンナシ、リンゴ又はオウトウであることを特徴とする請求項7記載の木本植物への遺伝子導入法(請求項8)からなる。
【0014】
また本発明は、請求項1〜8のいずれか記載の遺伝子導入法により遺伝子が導入された外植体に、発根処理を行うことを特徴とする遺伝子導入木本植物の作出法(請求項9)からなる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、腋芽の直近に遺伝子導入のための切り口を設けた培養シュートの茎からなる外植体を用いて遺伝子の導入を行う処理、及び該処理を行った培養用シュートを培養して多芽体を形成させ遺伝子が導入された芽を選抜する処理を行うことにより、木本植物への遺伝子の導入を行うことよりなる。本発明の実施の形態の一つを概念的に示すと、図1のようになる。以下に、本発明の遺伝子導入方法及び該方法を用いた木本植物の形質転換体の作出方法について、詳述する。
【0016】
(本発明の方法を適用する木本植物)
本発明の方法が適用できる植物としては、落葉果樹のような木本植物の広い範囲の種類及び品種の植物を挙げることができるが、特に、バラ科果樹のような、従来遺伝子の導入に際して、葉片等の組織からの再分化の難しかった木本植物に対して特に有利に適用することができる。バラ科果樹の例としては、セイヨウナシ、ニホンナシ、リンゴ及びオウトウ等を挙げることができる。
【0017】
(外植体の調製)
外植体の調製には、まず、遺伝子を導入する木本植物(品種)の腋芽を含んだ茎を切り出す。切り出しには、MS液体培地(Murashige and Skoog 1962)を含むろ紙の上で行うのが好ましい。この培養シュートの腋芽を含む茎を外植体として用いるが、通常は、長さ2〜3mmの程度に切り出すのが望ましい。この外植体を用いて、アグロバクテリウムによる感染処理を行うことにより、茎の切り口からアグロバクテリウムが吸収され、腋芽生長点部位の細胞に外来遺伝子を導入することができる。この場合、腋芽生長点が、切り口の直近に位置するように、切り口を設けることが重要である。望ましくは、切り口から0.5mm以内に腋芽生長点があるのが望ましい。切り口は通常、腋芽生長点の直近部で茎部を切断して形成されるが、腋芽生長点の直近部に茎部の切り口を設けることにより形成しても良い。さらに、選抜培養中に、多芽体を形成させる条件の培地で培養することにより、腋芽生長点が多芽体状になるため、そこから遺伝子が組換えられた芽を切り出して培養することにより、キメラ性を回避した遺伝子組換え体を作出することができる。切り出した外植体は、共存培養培地(例えば、NN培地,TDZ 5mg/L、NAA 0.2mg/L、3.0% シュークロース、0.4% ゲルライト、pH5.2)上に置床して、次の処理に備えるのが望ましい。
【0018】
(外植体への遺伝子の導入)
上記培養用シュートからなる外植体に、アグロバクテリウム法を用いて目的とする遺伝子を導入する。遺伝子の導入には、予め、導入を目的とする遺伝子や選択マーカーを導入して構築したベクターを導入したアグロバクテリウムを作製しておく。用いる菌液は、通常24時間程度培養し、感染液として調製しておく。遺伝子の導入処理は、前記のようにして形成した外植体を上記アグロバクテリウム感染液に浸漬(感染処理)することにより、行うことができる。感染液での浸漬(感染処理)は、短時間の浸漬処理で行うことができ、通常10分間程度の浸漬処理で行うことができる。感染処理後は、ろ紙を敷いた共存培養培地等の適宜の培地に、外植体の基部を下にして置床する。この外植体を、暗黒条件下、常温(例えば、25℃)で、約5日間程度共存培養を行う。
【0019】
(遺伝子導入外植体の選抜)
遺伝子が導入された植物個体(外植体)の選抜は、次のようにして行うことができる。すなわち、遺伝子の導入処理を行った外植体を、例えば抗生物質耐性遺伝子を組み込んだ外植体では、該抗生物質を添加した選抜培地を用いて、通常約2ヶ月間程度選抜培養を行い、遺伝子導入外植体の選抜を行う。例えば、カナマイシン耐性遺伝子等を組み込んだ導入遺伝子を用いた場合は、カナマイシン 5mg/L、カルベニシリン 375mg/Lを含む選抜培地(NN培地,TDZ5mg/L、NAA 0.2mg/L、3.0% シュークロース、0.8%寒天、pH5.8)で2ヶ月間選抜培養を行う.このような選抜培養を行うと、腋芽は、多芽体状のシュート(シュートの腋芽などの部分が、次から次へと苗条原基に発達し、形成されるもので、シュートが塊状になっているもの)となり,遺伝子が導入されていない部分は、白く枯死する。生き残った緑色シュート(遺伝子組換え体)を、例えば、カナマイシン 50mg/L、カルベニシリン 500mg/lを含むMS培地(BA 2.0mg/L、3.0% シュークロース、0.8% 寒天、pH5.8)のような培養培地に移植することにより、遺伝子導入植物(外植体)の選抜を行う。
【0020】
(遺伝子導入木本植物の作出)
上記のようにして遺伝子を導入した外植体を,発根処理し、目的とする遺伝子の導入された木本植物の作出を行う。本発明の遺伝子を導入した外植体は、公知の発根培地を用いて培養することにより、植物体を作出することができる。したがって、本発明の方法は、カンキツについて用いられていた類似の従来の技術のように、遺伝子を導入したシュート頂部の接木を行う必要がなく、また、接木に適合する台木の用意を行う必要もないので、広い範囲の植物に対して、適用することが可能である。発根処理は、公知の発根培地を用いて培養することにより、行うことができるが、例えば、培養用シュートを発根培地(1/2N MS+1mg/l IBA、pH5.8、寒天 0.75%)に挿し、常温(25℃)、暗黒条件下で、約2週間培養することにより、行うことができる。発根した植物体は鉢等の土に移植することができる。
【0021】
(本発明の方法の特徴)
(1)本発明の遺伝子導入方法は、器官からの個体再分化が困難な植物や効率が低い木本植物などにも適用することが可能で、広い範囲の木本植物や、その品種に対して適用することができる。
従来の遺伝子導入法は、葉片などの植物栄養器官からの個体再分化を利用して行われていた。しかし、殆どの木本植物においては、葉片からの再分化効率が低いため、遺伝子組換えにおいて大きいネックとなっている。本発明の方法は、アグロバクテリウムにより感染された腋芽が直接遺伝子組換えシュートになるため、再分化効率の問題を回避することができる。したがって、広い範囲の木本植物や、その品種に対して適用することができる。また、再分化を介さないので、葉片を外植体とした場合より、培養変異が生じる可能性も低い。この遺伝子導入系は,葉片からの遺伝子導入が困難なバラ科果樹のような樹種(たとえば、セイヨウナシ、ニホンナシ、リンゴ、オウトウなど)への応用も可能である。
【0022】
(2)短期間かつ高効率で遺伝子導入することが可能である。
本発明では、外植体の腋芽生長点が、切り口の直近(望ましくは、切り口から0.5mm以内)に位置するように、切り口を設けるので、腋芽生長点への感染を高効率で行うことができる。更に、本発明の方法は、個体再分化を経由しないので,短期間で組換えシュートが得られる(通常、約2ヶ月)。本発明の組換え効率は,葉片を用いた組換え効率の平均1%以下に対して、腋芽を用いた場合は4〜5%であるというように、高効率で遺伝子を導入することが可能である。
【0023】
(3)キメラ性を回避することができる。
外植体の腋芽生長点の直近の茎の切り口から吸収されたアグロバクテリウムが、腋芽に感染することにより、生長点単独に感染させるよりも、アグロバクテリウムによるダメージが少ないと考えられる。また、選抜培養中に、多芽体状のシュートとなっているため、得られた組換え体では、遺伝子が導入されていない細胞が混入したもの(キメラ体)になる可能性が非常に低い。
【0024】
(4)広い範囲の木本植物及びその品種についての適用が可能であるため、有用な親の形質を保持しつつ、形質転換植物の作出を行うことが可能となる。
従来の方法では、実生の植物について遺伝子の導入が行われたり、個体再分化可能な品種のみに遺伝子の導入が可能であったりして、有用な形質転換植物の作出には、制約があった。本発明の方法は、広い範囲の木本植物及びその品種についての適用が可能であるため、有用な形質を有する木本植物及びその品種について、有用な親の形質を保持しつつ、目的とする遺伝子を導入することが可能であり、有用な形質を有する形質転換植物の作出を行うことが可能となる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例.
セイヨウナシの主要品種(ラ・フランスなど)は、葉片からの再分化率が低く、それに伴い葉片を外植体とした形質転換体も非常に低くなってしまう。そこで、再分化率に左右されない形質転換体の作製を行うために、腋芽を含む茎からなる培養用シュートを外植体として用いて、遺伝子の導入を行い、遺伝子が導入された個体を選抜し、発根させて、形質転換体を作出した。
【0026】
[方法]
(外植体の作出)
1.セイヨウナシの主要品種(ラ・フランス)の腋芽を含んだ茎を、MS液体培地(Murashige and Skoog 1962)を含むろ紙の上で切り出した。切り口からアグロバクテリウムが吸引されて感染するので、腋芽の直近(できるだけ切り口に近い部分に生長点がくるように)切り出した。切り出した茎の長さは、2〜3mm程度、腋芽は、切り口から0.5mm以内の範囲に存在した(図2)。
2.切り出した外植体(培養材料)を共存培養培地(NN培地、TDZ 5mg/L、NAA 0.2mg/L、3.0% シュークロース、0.4% ゲルライト、pH5.2)状に置床した。
【0027】
(アグロバクテリウムによる感染及び共存培養)
1.24時間培養したアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)(導入する遺伝子として、GUS遺伝子(β−glucuronidase遺伝子)及び耐病性遺伝子のグルカナーゼ遺伝子、抗生物質耐性遺伝子として、カナマイシン耐性遺伝子を組込んだバイナリー ベクターを導入したA.ツメファシエンス)を10倍希釈した。希釈液は、アグロバクテリウム懸濁液(1/10×NN培地、6.3% シュークロース、3.6% グルコース、0.02% Prulonic F68、100μM アセトシリンゴン、pH5.2)を用いた。
2.あらかじめ切り出した外植体を、滅菌したコニカルビーカーに分注したアグロ菌液に10分間浸漬した。外植体を浸漬している間、共存培養培地に滅菌したろ紙を敷いた。
3.感染後、外植体についた余分な水分を滅菌ペーパータオルで取り除き、ろ紙を敷いた共存培養培地に、基部を下にして外植体を置床した。
5.共存培養培地に置床した外植体を、暗黒条件下、25℃で、5日間、共存培養した。
【0028】
(遺伝子導入個体の選抜)
1.共存培養した外植体を、カナマイシン 5mg/L、カルベニシリン 375mg/Lを含む選抜培地(NN培地、TDZ 5mg/L、NAA 0.2mg/L、3.0% シュークロース、0.8% ファイトアガー、pH5.8)で2ヶ月間選抜培養を行った。この間、腋芽は、図のような多芽体状のシュートとなり、エスケープの部分は、白く枯死した。
2.生き残った緑色シュートをカナマイシン 50mg/L、及びカルベニシリン(或いはリラシリン)500mg/Lを含むMS培地(BA 2.0mg/L、3.0% シュークロース、0.8% ファイトアガー、pH5.8)に移入した。
【0029】
(培養シュートの馴化(発根)処理)
1.5cm位高さになった培養シュート(外植体)を発根培地(1/2N MS+1mg/IBA、pH5.8、寒天0.75%)に挿し、25℃、暗黒条件下で2週間培養した。
2.25℃、16時間日長条件下に移し、続いて培養した。1〜2ヶ月経って、シュートの基部から多くの根が発生し、根が2、3cmほどになったところで、オートクレーブしたバーミキュライトとバーライト(1:1に混和)を入れたイチゴパックに植え換え、更に、オートクレーブした1000倍希釈のハイポネックスで灌水し、施蓋した。
3.パックの下から新しく伸びた根が見えた時点で、蓋に穴をあけ、徐々に穴を大きくし、同時にバーミキュライトを乾かさないように灌水を行った。
4.パックの蓋をほぼ完全に開けた状態になったら、根を折れないように小植物体を出し、土の鉢に移植した。
【0030】
(結果)
本発明の実施例により、GUS遺伝子あるいは耐病性遺伝子のグルカナーゼ遺伝子を導入した組換え“ラ・フランス”十数個体を獲得した。遺伝子導入効率は4〜5%であった。
【0031】
【発明の効果】
本発明の方法は、個体再分化を経由しないので、バラ科果樹のような個体再分化の難しい植物についても適用することができ、広い範囲の木本植物についての遺伝子の導入及び形質転換植物の作出が可能となる。また、本発明の方法は個体再分化を経由しないので、短期間で組換えシュートが得られ、更に、葉片を用いた場合等に比較して高効率で遺伝子を導入することが可能となる。また、本発明の方法は、遺伝子導入後の選抜培養中に、多芽体状のシュートを形成するために、得られた組換体が、遺伝子が導入されていない細胞が混入してキメラとなる可能性が低い。更に、本発明の方法は形質の変化する実生苗のようなものを新たに作成する必要が無い。また、広い範囲の木本植物についての遺伝子の導入及び形質転換植物の作出が可能となるため、従来の方法にあった制約を解除して、有用な品種にそのまま適用することができるので、有用な品種の有用な形質をそのまま保持させ、目的とする遺伝子を導入した形質転換体の作出を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の木本植物への遺伝子の導入方法、及び該方法を用いた遺伝子の導入木本植物の作出方法を概念的に示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製した腋芽を含んだ茎からなる外植体の形状を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、選抜培養の結果得られた多芽体を示す図である。
Claims (9)
- 腋芽を含み、腋芽の直近0.5mm以内に遺伝子導入のための切り口を設けた培養シュートの茎からなる外植体を調製する工程、該外植体を用いて、アグロバクテリウム法による感染処理により遺伝子の導入を行なう工程、該処理を行った培養用シュートを培養して多芽体を形成させる工程、及び遺伝子が導入された芽の選抜を、導入された抗生物質耐性遺伝子により行う工程、からなることを特徴とする木本植物への遺伝子導入法。
- 腋芽を含んだ外植体が、2〜3mmであることを特徴とする請求項1記載の木本植物への遺伝子導入法。
- 外植体のアグロバクテリウム法による感染処理を、アグロバクテリウム菌を分散させた感染液への浸漬で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の木本植物への遺伝子導入法。
- 外植体のアグロバクテリウム法による感染処理を、アグロバクテリウム菌を分散させた感染液への浸漬後、暗黒条件下、共存培養により行うことを特徴とする請求項3記載の木本植物への遺伝子導入法。
- 遺伝子が導入された芽の選抜を、抗生物質含有培地を用いて選抜培養することにより行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の木本植物への遺伝子導入法。
- 遺伝子が導入された芽の選抜を、多芽体を形成させる条件の培地で選抜培養することにより行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の木本植物への遺伝子導入法。
- 木本植物が、バラ科果樹であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の木本植物への遺伝子導入法。
- バラ科果樹が、セイヨウナシ、ニホンナシ、リンゴ又はオウトウであることを特徴とする請求項7記載の木本植物への遺伝子導入法。
- 請求項1〜8のいずれか記載の遺伝子導入法により遺伝子が導入された外植体に、発根処理を行うことを特徴とする遺伝子導入木本植物の作出法。
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