JP4065156B2 - 航空機用翼体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、所定の肉厚を有する第1外皮、第2外皮、前縁および後縁で囲まれた外皮部と、外皮部内でスパン方向に延びて第1外皮および第2外皮に連なる少なくとも一つの補強部とから成る航空機の動翼の少なくとも一部を製造する航空機用翼体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、飛行機の主翼の後縁に設けられるダブルスロッテッドフラップは、主翼と下げ位置にあるフラップ本体との間に配置されるベーンを備えており、このベーンの上下両面に沿って気流が流れる二つのスロットを形成するようになっている。
【0003】
従来、かかるベーンのような小型の航空機用翼体には、ハニカムコアをスキンで覆ったサンドイッチ構造(例えば、米国特許第5356688号明細書、特開昭63−166698号公報参照)や、リブおよびスキンをリベットで結合した分割構造が採用されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のサンドイッチ構造や分割構造は、何れも複数の部品を組み立てて航空機用翼体を構成するものであるため、部品点数の増加、組立工数の増加、重量の増加、部品間の段差による抗力の増加、部品間の隙間から浸入する水による腐蝕の発生といった問題があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、構造が簡単であり、しかも重量、空力性能、コスト、強度、剛性、耐久性の面で優れた航空機用翼体の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、所定の肉厚を有する第1外皮、第2外皮、前縁および後縁で囲まれた外皮部と、外皮部内でスパン方向に延びて第1外皮および第2外皮に連なる少なくとも一つの補強部とから成る航空機の動翼の少なくとも一部を製造する航空機用翼体の製造方法であって、前記外皮部および補強部を、単一のブロックからワイヤー放電加工により単一部材として一体に切り取ることを特徴とする航空機用翼体の製造方法が提案される。
【0007】
上記構成によれば、所定の肉厚を有する第1外皮、第2外皮、前縁および後縁で囲まれた外皮部と、外皮部内でスパン方向に延びて第1外皮および第2外皮に連なる少なくとも一つの補強部とを有する航空機用翼体が、単一のブロックからワイヤー放電加工により一体に切り取られた単一部材で形成されているので、複数の部品を組み立てた従来の航空機用翼体に比べて構造を簡素化して部品点数、組立工数および重量を削減することができ、しかも外皮部の表面に段差や継ぎ目が発生しないので、抗力の増加や腐蝕の発生を防止することができる。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1外皮は、前側の補強部から後側の補強部までの範囲に、他の部分に比べて肉厚が厚い肉厚部を有しており、前記第2外皮は、前側の補強部から前縁近傍までの間に、他の部分に比べて肉厚が厚い肉厚部を有していることを特徴とする、請求項1に記載の航空機用翼体の製造方法が提案される。
【0009】
上記構成によれば、第1外皮および第2外皮の肉厚がコード方向に変化しているので、重量の増加を最小限に抑えながら航空機用翼体の曲げ剛性および捩じり剛性を最適化することができる。特に、ワイヤー放電加工を採用したことにより、第1、第2外皮の肉厚をコード方向に容易に変化させることができる。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記第1外皮は上向きに湾曲し、前記第2外皮はほぼ平坦であることを特徴とする航空機用翼体の製造方法が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記第1外皮および第2外皮の外面間の距離が後縁に向けて次第に減少し、後縁において概ね零に収束していることを特徴とする航空機用翼体の製造方法が提案される。
【0012】
上記構成によれば、第1外皮および第2外皮の外面間の距離が後縁に向けて次第に減少して概ね零に収束するので、後縁における気流の乱れを防止して効力の低減に寄与することができる。特に、ワイヤー放電加工を採用したことにより、後縁の肉厚を容易に薄くすることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。 図1〜図3は本発明の一実施例を示すもので、図1はダブルスロッテッドフラップのベーンの斜視図、図2は放電加工装置の全体構成図、図3はベーンの加工工程の説明図である。
【0014】
図1に示すように、ダブルスロッテッドフラップのベーンVのスパン方向に直交するコード方向の断面形状は、上面側の第1外皮11と、下面側の第2外皮12と、第1外皮11の前端および第2外皮12の前端が連なる前縁13と、第1外皮11の後端および第2外皮12の後端が連なる後縁14とで囲まれた外皮部15と、外皮部15の内部をスパン方向に延びて第1外皮11および第2外皮12を接続するウエブ状のスパーを構成する前後の補強部16,17とを備える。第1外皮11は上向きに湾曲しており、前側の補強部16から後側の補強部17の近傍までの範囲が、他の部分に比べて厚い厚肉部11aとなっている。また第2外皮12はほぼ平坦であり、前側の補強部16から前縁13の近傍までの範囲が、他の部分に比べて厚い厚肉部12aとなっている。このベーンVはワイヤー放電加工により一部材として一体加工される。
【0015】
図2はベーンVを加工するためのワイヤー放電加工装置を示すもので、絶縁油を満たした加工槽21の内部に配置された加工テーブル22が、NC装置23により制御されるアクチュエータ24に接続されてX−Y方向に移動する。尚、ベーンVがスパン方向に一定の断面形状を有する場合には、加工テーブル22はX−Y方向に移動するだけで良いが、ベーンVがスパン方向にテーパーしている場合には、加工テーブル22はX−Y方向に移動するだけでなく、X軸およびY軸まわりに揺動する必要がある。
【0016】
加工槽21の上部に図示せぬ駆動源に接続されて回転するワイヤー繰り出しボビン25およびワイヤー巻き取りボビン26が設けられており、ワイヤー繰り出しボビン25から繰り出されたワイヤー27は、第1案内ローラ28、第1ワイヤーガイド29、第2ワイヤーガイド30および第2案内ローラ31を経てワイヤー巻き取りボビン26に巻き取られる。ワイヤー27が通過可能な開口22aを有する加工テーブル22にはベーンVの素材となるアルミ合金のブロックBがクランプされており、パルス電源32のプラス端子に連なる給電子33がワイヤー27に摺動自在に当接し、マイナス端子がブロックBに接続される。
【0017】
次に、図3に基づいてブロックBからベーンVをワイヤー放電加工する工程を説明する。
【0018】
ブロックBにワイヤー27を挿通するための4個のスタートホールBa〜Bdを形成し、そのうちの1番目のスタートホールBaにワイヤー27を挿通する。NC装置23に記憶されたベーンVの形状データに応じてアクチュエータ24を制御して加工テーブル22を移動させ、かつパルス電源32からパルス電圧を印加しながらワイヤー繰り出しボビン25およびワイヤー巻き取りボビン26を回転させてワイヤー27を移動させる。その結果、ワイヤー27とブロックBとの間に放電が発生し、ブロックBが溶融・蒸発することでワイヤー27に沿って切断される。このようにして、第1外皮11、前縁13、第2外皮12および前側の補強部16に囲まれた部分を切り取ると、2番目のスタートホールBbを起点として第1外皮11、後側の補強部17、第2外皮12および前側の補強部16に囲まれた部分を切り取り、更に3番目のスタートホールBcを起点として第1外皮11、後縁14、、第2外皮12および後側の補強部17に囲まれた部分を切り取る。そして4番目のスタートホールBdを起点として外皮部15の外周を切断することで、ブロックBからベーンVを分離する。
【0019】
ワイヤー放電加工によりブロックBから切り取られたベーンVは、閉断面の外皮部15の内部に前後の補強部16,17を備えたボックス構造であるため、高い曲げ剛性および捩じり剛性を有している。またベーンVは単一部材であるため、複数の部品を組み立てた従来のベーンに比べて構造が簡単であり、部品点数、組立工数および重量を削減することができる。更に単一部材であるベーンVは外皮部15に段差が発生しないので抗力の低減が可能であるばかりか、継ぎ目が無いことで水の浸入を防止して腐蝕に対する耐久性を高めることができる。
【0020】
またワイヤー放電加工を採用したことによりベーンVの各部の肉厚をコード方向に自由に変化させることができ、第1外皮11に形成した厚肉部11aと第2外皮12に形成した厚肉部12aとにより、重量の増加を最小限に抑えながらベーンVの曲げ剛性および捩じり剛性を最適化することができる。更にワイヤー放電加工を採用したことにより第1外皮11および第2外皮12が収束する後縁14の厚さを、板材を組み立てる従来のベーンの後縁に比べて極めて薄くすることができる。このように後縁14の厚さを概ね零まで薄くすることができるので、後縁14における気流の乱れを防止して効力の低減に寄与することができる。
【0021】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0022】
例えば、実施例では航空機用翼体としてダブルスロッテッドフラップのベーンVを例示したが、本発明の航空機用翼体は前記ベーンに限定されず、エルロン、エレベータ、ラダー、フラップ、エレボン等の動翼や、それに付随する各種タブ等を含むものとする。
【0023】
また実施例のベーンVは2個の補強部16,17を備えているが、補強部の数は任意である。
【0024】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、所定の肉厚を有する第1外皮、第2外皮、前縁および後縁で囲まれた外皮部と、外皮部内でスパン方向に延びて第1外皮および第2外皮に連なる少なくとも一つの補強部とを有する航空機用翼体が、単一のブロックからワイヤー放電加工により一体に切り取られた単一部材で形成されているので、複数の部品を組み立てた従来の航空機用翼体に比べて構造を簡素化して部品点数、組立工数および重量を削減することができ、しかも外皮部の表面に段差や継ぎ目が発生しないので、抗力の増加や腐蝕の発生を防止することができる。
【0025】
また請求項2に記載された発明によれば、第1外皮および第2外皮の肉厚がコード方向に変化しているので、重量の増加を最小限に抑えながら航空機用翼体の曲げ剛性および捩じり剛性を最適化することができる。特に、ワイヤー放電加工を採用したことにより、第1、第2外皮の肉厚をコード方向に容易に変化させることができる。
【0026】
また請求項4に記載された発明によれば、第1外皮および第2外皮の外面間の距離が後縁に向けて次第に減少して概ね零に収束するので、後縁における気流の乱れを防止して効力の低減に寄与することができる。特に、ワイヤー放電加工を採用したことにより、後縁の肉厚を容易に薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ダブルスロッテッドフラップのベーンの斜視図
【図2】 放電加工装置の全体構成図
【図3】 ベーンの加工工程の説明図
【符号の説明】
11 第1外皮
12 第2外皮
13 前縁
14 後縁
15 外皮部
16 補強部
17 補強部
B ブロック
Claims (4)
- 所定の肉厚を有する第1外皮(11)、第2外皮(12)、前縁(13)および後縁(14)で囲まれた外皮部(15)と、外皮部(15)内でスパン方向に延びて第1外皮(11)および第2外皮(12)に連なる少なくとも一つの補強部(16,17)とから成る航空機の動翼の少なくとも一部を製造する航空機用翼体の製造方法であって、
前記外皮部(15)および補強部(16,17)を、単一のブロック(B)からワイヤー放電加工により単一部材として一体に切り取ることを特徴とする航空機用翼体の製造方法。 - 前記第1外皮(11)は、前側の補強部(16)から後側の補強部(17)までの範囲に、他の部分に比べて肉厚が厚い肉厚部(11a)を有しており、前記第2外皮(12)は、前側の補強部(16)から前縁(13)近傍までの間に、他の部分に比べて肉厚が厚い肉厚部(12a)を有していることを特徴とする、請求項1に記載の航空機用翼体の製造方法。
- 前記第1外皮(11)は上向きに湾曲し、前記第2外皮(12)はほぼ平坦であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の航空機用翼体の製造方法。
- 前記第1外皮(11)および第2外皮(12)の外面間の距離が後縁(14)に向けて次第に減少し、後縁(14)において概ね零に収束していることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の航空機用翼体の製造方法。
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