JP4063547B2 - 光路切替素子、空間光変調器および画像表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光路切替素子、空間光変調器および画像表示装置に関し、より詳細には、入射光の反射方向を変化させることによって光路を変え、光をスイッチングする光路切替素子、及びそれを用いた空間光変調器及び画像表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
入射光の反射方向を変化させることによって光路を変え、光をスイッチングするデバイスおよびそれを用いた空間光変調器として、例えば特開平5−196880号公報に示されるような微小な回転鏡を二次元状に多数配列したものが知られている。図19は従来の空間光変調器の平面図であり、方形トーションビーム反射表面(ビーム)100とビーム支持ポスト101のみが観察される。図20はひとつの回転鏡の断面図で、図20(A)はヒンジに沿っての断面図、図20(B)はそれと直角方向の断面図である。ビーム支持ポスト101はポスト203に連結されたヒンジ201の捻れによって、ビーム100を接地電極202に向けて回転可能にする。その駆動力はポスト203によって支持されたアドレス電極204に印加される電圧で与えられる。アドレス電極204への電圧印加は、基板層302に設けられたCMOS回路(図示せず)の信号を金属層301を介して伝達することにより行われる。ビーム100の回転状態を回転鏡ごとに変えることによって、入射した光を二次元的に空間変調することができる。
この方式においては、大きな回転角を得るために回転鏡の構造が複雑になっており、製造コストが高くなるという問題がある。
【0003】
そのほかの技術として、特開平11−202222号公報に開示されている光スイッチング素子がある。図21は上記特開平11−202222号公報で提案されている光スイッチング素子の動作説明図である。光を全反射して伝達可能な全反射面401を備えた導光部400と、全反射面に対し抽出面502を接近させてエバネッセント光を捉え、それを反射して出射することができるプリズム501と、この光スイッチング部を駆動する駆動部500とを光の出射方向に対してこの順番で積層した構成となっている。図21の右側のセルは、駆動部500を動作させることによってプリズム501がエバネッセント光の漏出する抽出距離以上離れた位置にある状態を示している。この時には、導光部400中を伝搬してきた光線700は図21に示されるように全反射面401で全反射され図の右方向へと出射していく。駆動部500を動作させない時には図21の左側のセルのようにプリズム501はエバネッセント光が漏出する抽出距離以下に近接しているので、導光部400中を伝搬してきた光線700は図21の左側セルに示されたように全反射面401で反射することなくプリズム501に進入する。プリズム501に進入した光線はプリズムの反射面503で反射して図21に示した光線701のように導光部400を透過して出射される。
【0004】
この方式において、エバネッセント光の抽出・非抽出という2つの状態をスイッチングするには、光の波長程度以下の微小な変位でよいため比較的簡単な駆動機構を採用することができるが、図21に示したようなプリズム501の構造は複雑であるため、複数個を微小なサイズで基板上に均一に形成するのは困難であり、そのため製造歩留まりが低下し、コストアップにつながるという問題がある。また、プリズム501を全反射面401に近接させるとファンデルワールス力あるいは液架橋力が作用して、引き剥がしが困難になるという問題もある。
【0005】
さらに別の技術として、特開2000−171813号公報に開示されている光スイッチング素子がある。図22は上記特開2000−171813号公報で提案されている光スイッチング素子の概略構成を示す図である。全反射により光を伝えている導光体703に接触させた液晶705に電圧を印加することにより、液晶分子の配向をコントロールし、それにより実効的な屈折率を異常光に対する値と常光に対する値の間で変化させる。この結果、入射光(直線偏光)700が全反射光701として出射される状態と、透過光となったのち反射膜704によって向きを変えられて反射光702として出射させる状態とをスイッチングすることができる。
【0006】
この方式においては、機械的な駆動部を持たないために上述のような問題は生じないが、液晶分子の配向状態が2種類(2値)であるため、単純にオンオフ動作はするものの中間調の出力が困難であり、特に画像表示装置に用いた場合に多階調表示ができないという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では上記問題点を解決し、構造が簡単で、耐久性が高く、中間調の出力が可能な光路切替素子、空間光変調器、およびそれを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。より具体的には、
(1)構造が簡単で耐久性が高く、かつ中間調の出力が可能な光路切替素子を提供すること(請求項1)、
(2)上記に加え、より多値の中間調出力が可能な光路切替素子を提供すること(請求項2)、
(3)よりS/N比を高くできる光路切替素子を提供すること(請求項3)、
(4)上記に加え、製造が容易な光路切替素子を提供すること(請求項4)、
(5)上記に加え、駆動エネルギーを小さくできる光路切替素子を提供すること(請求項5)、
【0008】
(6)さらに製造が容易で、光利用効率を高くできる光路切替素子を提供すること(請求項6)、
(7)上記に加え、応答速度の速い光路切替素子を提供すること(請求項7)、
(8)上記に加え、光損失の小さい光路切替素子を提供すること(請求項8)、
(9)上記に加え、さらに光利用効率を高くできる光路切替素子を提供すること(請求項9)、
(10)さらに応答速度の速い光路切替素子を提供すること(請求項10)、
【0009】
(11)構造が簡単で耐久性が高く、中間調出力が可能な空間光変調器を提供すること(請求項11)、
(12)上記に加え、より低コストな空間光変調器を提供すること(請求項12)、
(13)耐久性が高く、多階調表示が可能な画像表示装置を提供すること(請求項13)、
(14)上記に加え、より低コストな画像表示装置を提供すること(請求項14)、
をその目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、導光部材を介して入射した光を屈折率可変物質に入射させる光入射部と、該光入射部から前記屈折率可変物質に入った入射光を反射する反射部と、該反射部で反射した光を、前記導光部材を介して出射光として外部へ出す光出射部とよりなり、前記反射部を含む光路中に前記屈折率可変物質が封入され、該屈折率可変物質に情報に応じて信号を与え屈折率変化を生じせしめる信号入力手段を具備する光路切替素子において、前記屈折率可変物質は、液晶に印加する電圧の周波数によって液晶の誘電異方性の符号が異なる二周波駆動液晶により構成され、前記信号入力手段は、前記屈折率可変物質に作用する電極として機能する金属膜と、情報データを信号電圧に変換するインタフェース部と、該インタフェース部で変換された信号電圧を前記電極に印加するための駆動素子とを備え、前記駆動素子により印加される信号電圧により、前記屈折率可変物質に作用する信号強度の実効値を多段階に変化させることが可能なものであって、前記反射部は、前記入射光を前記出射光に変換する傾斜反射面と該傾斜反射面と一辺を共有する逆傾斜面とよりなり、該反射部と前記光入射部との間に封入された前記屈折率可変物質の層の最も厚い部分の厚さをdmax、最も薄い部分の厚さをdminとし、前記屈折率可変物質の屈折率変化量が飽和値の10%となる屈折率可変物質の層厚さ当たりの信号強度をE10、飽和値の50%となる屈折率可変物質の層厚さ当たりの信号強度をE50とした時、
(E50/E10)<(dmax/dmin)
が満足されることを特徴としたものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記信号による前記屈折率可変物質の屈折率変化を、前記入射光が前記導光部材と前記屈折率可変物質との界面で透過及び全反射する範囲で行うことを特徴としたものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記光入射部に光学的に接合し、前記導光部材と屈折率が概略等しい平板導光体を設けたことを特徴としたものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項の発明において、前記反射部は、前記屈折率可変物質に信号を印加する単位要素に対して、複数組の面を有していることを特徴としたものである。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項の発明において、前記屈折率可変物質は、液晶材料を高分子マトリクス中に分散保持した液晶/高分子複合体からなることを特徴としたものである。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記液晶材料は、入射光の波長の1/5以下の粒径を有するドロップレットであることを特徴としたものである。
【0018】
請求項7の発明は、請求項5または6の発明において、電圧無印加時に全ての液晶分子が概略一方向に配列していることを特徴としたものである。
【0020】
請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光路切替素子が二次元アレイ状に配列されていることを特徴としたものである。
【0021】
請求項9の発明は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光路切替素子が一次元アレイ状に配列されていることを特徴としたものである。
【0022】
請求項10の発明は、請求項8に記載の空間光変調器と、該空間光変調器に光線を入射させる手段と、該空間光変調器により形成した画像をスクリーンに投影し表示する手段とを有することを特徴としたものである。
【0023】
請求項11の発明は、請求項9に記載の空間光変調器と、該空間光変調器に光線を入射させる手段と、該空間光変調器から出射した光線を該空間光変調器の光路素子の整列方向に対して垂直な方向に走査する走査機構と、該走査機構から出射した光線をスクリーンに投影し表示する手段とを有することを特徴としたものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
(構成・動作)
本発明の特徴は、導光部材を介した光入射部と、該光入射部から入った入射光を反射する反射部と、該反射部で反射した光を、前記導光部材を介して出射光として外部へ出す光出射部とよりなり、前記反射部を含む光路中に屈折率可変物質が封入され、該屈折率可変物質に情報に応じて信号を与え屈折率変化を生じせしめる信号入力手段を具備する光路切替素子において、前記信号入力手段が前記屈折率可変物質に作用する信号強度の実効値を連続的に変化させることが可能なものであることを特徴とする光路切替素子にある。
【0025】
ここで、導光部材の屈折率をn1、屈折率可変物質の屈折率をn2とし、導光部材中を透過する光が光入射部を構成する面の法線とのなす角度(入射角)をθ1、入射光が屈折率可変物質中に進入する際に前記光入射部を構成する面の法線とのなす角度(屈折角)をθ2とすると、スネルの法則により、以下の式が成り立つ。
sinθ2/sinθ1=n1/n2…(1)
【0026】
外部信号によってn2が変化すると、(1)式に従ってθ2が変化し、その結果、反射部での反射角が変わる、あるいはn2がn1よりも小さくなり以下の式(2)を満足する場合には、入射光は導光部材と屈折率可変物質との界面で全反射する。
n1sinθ1>n2 …(2)
これにより所定の位置で光出力を検出すれば、n2の変化に伴って光出力が変化することになり、信号印加による光スイッチングが可能となる。
【0027】
本発明においては、信号入力手段が屈折率可変物質に作用する信号強度の実効値を多段階に変化させることが可能なものであるようにしたので、光出力強度を多段階に変化させることができ、中間調の出力が可能となる(請求項1)。
【0028】
上記を実現するために、光入射部と反射部との間に封入された屈折率可変物質層の最も厚い部分の厚さをdmax、最も薄い部分の厚さをdminとし、前記屈折率可変物質の屈折率変化量が飽和値の10%となる屈折率可変物質層厚さ当たりの信号強度をE10、飽和値の50%となる屈折率可変物質層厚さ当たりの信号強度をE50とした時、
(E50/E10)<(dmax/dmin)…(3)
を満たすようにするのが好ましい。このようにすることにより、中間調を出力するための印加信号のマージンが広くなり、より多値の中間調出力を行うことができる(請求項1)。
【0029】
また、信号による前記屈折率可変物質の屈折率変化を、前記入射光が前記導光部材と屈折率可変物質との界面で透過及び全反射する範囲で行うので、高いS/N比を得ることができる(請求項2)。
【0030】
上記において、光入射部に光学的接合し、導光部材と屈折率が概略等しい平板導光体を設けることが製造の容易さから好ましい。この場合、平板導光体と反射部とこの間に封入された屈折率可変物質とによって構成されるデバイスを作製した後に、導光部材を光学的接合させればよいので、複雑な形状の導光部材を用いてデバイスを作製するよりは格段に製造が容易となる。光学的接合とは、両部材間の間隙が使用する光の波長に比べて充分に小さいほどに密着している状態であって、具体的には流動性のある物体を両者間に介在させることによって得ることができる。流動性のある物体は両部材との密着を確保した後に固化しても構わない。より具体的には流動性のある物体として、屈折率が概略導光部材および平板導光体と等しい揮発性の低い液体(屈折率整合液)あるいは光硬化性接着剤を用いるのが好適である(請求項3)。
【0031】
さらに、反射部が、屈折率可変物質に信号を印加する単位要素に対して、複数組の面を有していることが好ましい。このようにすることによって反射部から光入射部までの距離を小さくすることができるので、駆動エネルギーを小さくすることができる(請求項4)。
【0032】
屈折率可変物質としては、外部からエネルギーを与えることによって屈折率が変化するものであれば使用可能であるが、制御のしやすさから電界によって屈折率が変化する、いわゆる電気光学材料が好適に使用できる。電気光学材料としては、ポッケルス効果を示すLiNbO3やカー効果を示すBaTiO3やPLZTなどの固体結晶、液晶などが知られているが、中でも電界強度当たりの屈折率変化量が大きいことおよび流動性があることから液晶が好ましい。屈折率変化量が大きいことにより、入射角θ1を小さくすることができる、あるいは角度マージンを大きくすることができる。その結果光損失を小さく、すなわち光利用効率を高くすることができる。また、流動性があることにより導光部材(あるいは平板導光体)および反射部への光学的接触を容易に実現することができる。(請求項1)。
【0033】
屈折率可変物質として、液晶/高分子複合体を用いることが応答速度の点から好ましい。このような液晶/高分子複合体として、液晶ドロップレットを高分子マトリクス中に分散した、いわゆる高分子分散液晶が好適に使用できる。高分子分散液晶の応答速度は液晶ドロップレットの粒径を小さくするにつれて速くなることが実験的にわかっており、特に入射光の波長の1/5以下の粒径にすることが、散乱が減少し光透過率が高くなる、すなわち光損失が著しく小さくなることから好ましい。なお、ここでいう粒径とは構造体を代表する粒径であって、通常は電子顕微鏡写真等によって計測された平均粒径が好適に使用される(請求項5、6)。
【0034】
上記の液晶は電圧無印加時に全ての液晶分子が概略一方向に配列していることが好ましい。この方向を電圧印加時に液晶分子が揃う方向(電界方向)とほぼ直交させることにより大きな屈折率差が得られるため、入射角θ1を小さくすることができる、あるいは角度マージンを大きくすることができる。その結果光損失を小さく、すなわち光利用効率を高くすることができる(請求項7)。
【0035】
上記の液晶は二周波駆動液晶であることが好ましい。二周波駆動液晶とは液晶に印加する電圧の周波数によって液晶の誘電異方性の符号が異なる液晶で、高速な配向動作に特徴がある。誘電異方性とは液晶分子の長軸方向と短軸方向で誘電率が異なる性質で、電界を印加したときに誘電率の大きい方向が電界方向に向く。液晶分子の長軸方向の誘電率が短軸方向の誘電率よりも大きい時を誘電異方性が正とするので、誘電異方性が正の場合には液晶分子の長軸が電界方向に配向し、誘電異方性が負の場合には液晶分子の短軸が電界方向に配向する。二周波駆動液晶では長軸を電界方向に配向させる場合でも、短軸を電界方向に配向させる場合でも、液晶分子にローレンツ力が作用するため、ネマティック液晶など通常の液晶材料に比べて配向運動が高速に行われるので、応答速度を速くすることができる(請求項1)。
【0036】
本発明の光路切替素子を一次元もしくは二次元に配列することで空間光変調器を構成することができる。このような空間光変調器は構造が簡単であるため、耐久性が高く安価で、かつ中間調の出力が可能となる。一次元に配列した空間光変調器は光路切替素子の配列方向に垂直な方向に走査する走査機構を用いることで二次元の空間光変調ができるが、一次元の空間光変調器は二次元の空間光変調器に比べて安価であるため、より低コストとなる(請求項8、9)。
【0037】
上記の空間光変調器と、光線入射手段および空間光変調器により形成した画像をスクリーンに拡大投影する手段を設けることにより、耐久性が高く安価で、多階調表示が可能な画像表示装置を構成することができる(請求項10、11)。
【0038】
(実施形態1)
図1は、本発明による光路切替素子の第1の実施形態を説明するための概略構成図である。
ガラス、プラスチック等からなる光学的に透明な導光部材1を介して光源からの光線を屈折率可変物質5に入射させる光入射部3、反射部6で反射した光線を導光部材1の外部へと出射させる光出射部4を有している。反射部6は入射光を実質的に出射光に変換する反射面12と、これと一辺を共有する逆傾斜面19によって構成される。
【0039】
反射部6を含む反射部材14はSi、ガラス等からなる基板9上にガラス、プラスチックまたは酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム等のセラミックス等からなる絶縁体8で傾斜面を形成した後、傾斜面にAl、Ag等からなる高反射率の金属膜7を真空蒸着、スパッタリング等の公知の方法で形成して得ることができる。また、必要に応じてフォトリソエッチングによりパターンニングしてもよい。この金属膜7は電極としても作用する。
【0040】
基板9には金属膜7に情報に応じた信号電圧を印加するための駆動素子16が形成され、情報データを電圧信号に変換するインターフェース部15に接続される。反射部としては、絶縁体8が基板9を兼ねる構成や金属板あるいは半導体ウエハを基板として直接傾斜面を形成する構成等も可能である。好適な傾斜面形成方法の一例を挙げれば、面積階調もしくは濃度諧調のパターンを形成したフォトマスクを用いてパターンニングしてドライエッチングを行う異方性エッチング法がある。
【0041】
屈折率可変物質5としては、液晶が好適に使用できる。液晶材料としてはネマティック液晶、スメクティック液晶、コレステリック液晶等を用いることができ、単一もしくは2種類以上の液晶性化合物や液晶性化合物以外の物質も含んだ混合物であってもよい。光入射部3には屈折率可変物質に電圧を印加するためのITO等からなる透明電極10が設けられている。液晶分子を予め配向させるためにSiO、ポリイミド等からなる図示しない配向膜を少なくとも透明電極10および金属膜7の表面に形成するのが好ましい。屈折率可変物質5が液晶のように流動性のある材料からなる時には、必要に応じてスペーサ材を混合したエポキシ樹脂等からなるシール剤11を形成して、保持するのがよい。
【0042】
作製工程の一例を示せば、導光部材(もしくは反射部材)の周辺部に熱硬化性のエポキシ樹脂を一部に開口部(注入孔)を残して印刷した後、反射部材(もしくは導光部材)を貼り合わせて加熱硬化する。注入孔から液晶を注入した後、孔を接着剤で塞げば完成する。
【0043】
図1(A)は、屈折率可変物質5の屈折率n2が導光部材の屈折率n1より小さく、前述の式(2)を満たすような信号電圧Sminを印加した場合で、入射光は光入射部3で全反射し、光出射部4とは異なる方向に出射するため、光出射部4に対向して設けられた光検出器13では検出されない(オフ状態)。
【0044】
図1(B)は、n2がn1と概略同程度となるような信号電圧Smaxを印加した場合で、入射光は屈折率可変物質5中に進入し、反射部6に到達する。反射面12の法線と光入射部を構成する面の法線とのなす角度、すなわち反射面12の傾斜角αをα=θ2/2(≒θ1/2)に設定しておけば、反射光は光出射部4に垂直に入射し出射するため、光検出器13で検出される(オン状態)。
【0045】
図1(C)は、SminとSmaxの中間の信号電圧S1を印加した場合で、入射光の一部は光入射部3で全反射し、残りは屈折率可変物質5中に進入し、図1(B)の場合と同様に光検出器13で検出されるが、その出力は図1(B)の場合よりも小さくなる(中間調状態)。ここで信号電圧S1は電圧の値がSminとSmaxの中間であってもよいし、電圧の値は同じで印加時間(パルス幅)がSminとSmaxの中間であってもよい。いずれにおいても屈折率可変物質5に作用する電圧の実効値を図1(A)と図1(B)の中間の値にすることができる。
【0046】
本発明者らは上記のようなメカニズムで中間調の出力が可能となるためには屈折率可変物質5が一定の条件を満たす必要があることを見出した。これについて図2を用いて説明する。
【0047】
図2において、各部の構成および材料は図1と同様である。光入射部3と反射部6との間に封入された屈折率可変物質層5の最も厚い部分の厚さをdmax、最も薄い部分の厚さをdminとし、屈折率可変物質層に印加する信号電圧をS2とした時、図2におけるAの部分の電界強度はS2/dminとなり、Bの部分の電界強度はS2/dmaxとなる。中間調の出力が可能となるためには少なくともAの部分で入射光が全反射せず、Bの部分で全反射する必要がある。すなわち、屈折率可変物質5のAの部分の屈折率をn2Aとし、Bの部分の屈折率をn2Bとすると、下式(4)、(5)を満足する必要がある。
n1sinθ1>n2B …(4)
n1sinθ1<n2A …(5)
【0048】
ここで典型的な値として、屈折率可変物質の屈折率の最小値をn2min=1.52、最大値をn2max=1.74、n1=1.73とし、θ1をn2minに対する臨界角+5°=66°とする。入射角度マージンを±3°とすると、(4)式よりn2B<1.73×sin(63°)=1.541、(5)式よりn2A>1.73×sin(69°)=1.615となる。屈折率変化量の最大値(飽和値)は1.74−1.52=0.22であるので、Bの部分の屈折率変化量は概ね飽和値×10%より小さく、Aの部分の屈折率変化量は概ね飽和値×50%より大きくする必要があることがわかる。屈折率変化量が飽和値の10%となる電界強度をE10、飽和値の50%となる電界強度をE50とすると、下式(6)、(7)を満足する必要がある。
S2/dmax<E10 …(6)
S2/dmin>E50 …(7)
式(6)および式(7)を変形して、
dmin×E50<S2<dmax×E10 …(8)
さらに式(8)を変形すると、下式(9)を満足する必要があることがわかる。
(E50/E10)<(dmax/dmin) …(9)
なお、より入射角マージンを広げる、あるいは中間調の階調数を多くするためには、屈折率変化量が飽和値の90%となる電界強度をE90とすると、(E90/E10)<(dmax/dmin)を満足することがさらに好ましい。
【0049】
E10およびE50を決定する方法について説明する。図3は屈折率変化量を測定する装置の概略構成を示す図である。He−Neレーザ21からの光線をビームエキスパンダ22で拡大し、ビームスプリッタ23で光路を分岐させる。分岐した光は一方がミラー24で反射して、直接スクリーン25に投影される。もう一方は屈折率可変物質(液晶)を透明電極付のガラス基板間に封入したサンプル26を通過してミラー27で反射し、スクリーンに投影される。両者に光路差があるためスクリーン上には干渉縞が現れるが、サンプル26の屈折率が変化すると干渉縞の位相がシフトする。位相シフト量をΔφ、サンプルの液晶層厚さをd、入射光の波長をλとすると、屈折率変化量Δnは下式(10)により求めることができる。
Δn=λΔφ/4πd …(10)
【0050】
図4は、液晶としてネマティック液晶BL24(常光屈折率no=1.513,異常光屈折率ne=1.717,メルク社)を用いて、予め基板面に平行に液晶分子が配向するように作製したサンプルについて電圧を変えて屈折率変化量を測定した結果である。ただし、横軸は電圧を液晶層の厚さで除した電界強度の値で示した。図4からE10=0.21V/μm、E50=0.30V/μmであるので、E50/E10=1.43となる。E50/E10の値はネマティック液晶であれば材料による差はそれほど大きくないので、式(9)を満たすためには反射部の形状および導光部材と反射部材とのギャップ制御が重要である。
【0051】
また、市販のネマティック液晶は90°ツイストネマティック(TN)構成において、偏光板間にセルを挟んで光透過率を測定したデータが開示されており、透過率が飽和値の90%となる電圧をV90、飽和値の10%となる電圧をV10とすると、上記のE50/E10とV90/V10とがほぼ一致することが実験的にわかっているので、式(9)においてE50/E10(実験値)の代わりにV90/V10(カタログ値)を用いてもよい。
【0052】
(実施形態2)
本発明の第2の実施形態を図5に基づき説明する。反射面12および逆傾斜面19はSi基板9の(110)面異方性エッチングにより作製した。傾斜角度αは約35°である。反射面と逆傾斜面の数は500組(図では3組のみを記載)で、ピッチ20μm、紙面奥行き方向の長さ10mmで形成した。また、Si基板は直接導光部材1と貼り合わせず、透明電極10を有する平板導光体(ガラス基板)17と貼り合わせた後、導光部材1と平板導光体17とを屈折率整合液18を介して接合した。28は配向膜で液晶分子2が基板面に平行に配向するようにラビング処理を施している。スペーサ材を混合したシール剤(光硬化性樹脂)11により液晶の保持とギャップの制御を行い、dmin=5μm、dmax=11μmとなるようにした。
【0053】
導光部材および平板導光体としてフリントガラスF2(nd=1.620)、液晶としてZLI1132(常光屈折率no=1.493,異常光屈折率ne=1.6326,メルク社)を用いて、上記の素子を作製し、図6に示す装置により、出射光の出力を測定した。図6において、ランプ光源31からの光線をコリメートレンズ32でコリメートし、偏光子33でP偏光として導光部材1に入射させる。光入射部3への入射角は70°とした。Si基板で反射し、光出射部4から出射した光を集光レンズ34で集光し、光パワーメータ35で光出力を測定する。20は液晶層に印加する電圧を制御する電源である。電源からの電圧は平板導光体上の透明電極とSi基板間に印加される。
【0054】
図7は印加電圧を変化させた時の光出力で、30V以上で飽和領域になるまでは直線的に出力が変化しており、連続的な中間調の出力が可能であることを示している。なお、ZLI1132について前記図4に示したものと同様の測定を行った結果、E50/E10=1.38であった。また、この素子の場合、アクティブなエリアは10mm×10mm程度であり、1組の傾斜面と逆傾斜面で形成するとdmax>3.5mmとなり、kVオーダーの駆動電圧が必要となる。本実施形態のように単位要素に対して複数組の面を設けることにより、駆動電圧が低減できる。
【0055】
(実施形態3)
図8は、本発明による光切替素子の第3の実施形態を説明するための概略構成図である。
屈折率可変物質5として、高分子分散液晶を用いる以外は第1の実施形態と同様の構成である。高分子分散液晶は高分子マトリクス40中に液晶ドロップレット41が分散されてなる。液晶材料としてはネマティック液晶、スメクティック液晶、コレステリック液晶等を用いることができ、単一もしくは2種類以上の液晶性化合物や液晶性化合物以外の物質も含んだ混合物であってもよい。高分子マトリクス材料としては透明なポリマーが好ましく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂のいずれであってもよい。
【0056】
高分子分散液晶の製法としては、(1)液晶と熱あるいは光硬化(重合)性モノマーやオリゴマーもしくはプレポリマーで溶液を作り、重合によって相分離させる重合相分離法、(2)液晶と高分子と溶剤で溶液を作り、溶剤を蒸発させることによって相分離させる溶媒蒸発相分離法、(3)液晶と熱可塑性高分子を加熱溶解させた後、冷却によって相分離させる熱相分離法などを用いることができる。
【0057】
ポリマーとしては、製造工程の容易さ、液晶相との分離性等の点から紫外線硬化型の樹脂を用いるのが好ましい。具体的な例として紫外線硬化性アクリル系樹脂が例示され、特に紫外線照射によって重合硬化するアクリルモノマー、アクリルオリゴマーを含有するものが好ましい。このようなモノマーまたはオリゴマーとしては(ポリ)エステルアクリレート、(ポリ)ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコーンアクリレート、メラミンアクリレート、(ポリ)ホスファゼンメタクリレート等がある。その他の例として、チオール−エン系も光硬化速度が速いことから好適に使用できる。
【0058】
重合を速やかに行うために光重合開始剤を用いてもよく、この例としてジクロロアセトフェノンやトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイル、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、モノサルファイド、チオキサントン類、アゾ化合物、ジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルフォニウム塩、ビス(トリクロロメチル)トリアジン化合物等を挙げることができる。
【0059】
この紫外線硬化性化合物中に液晶材料を均一に溶解させた液状物を反射部材と導光部材間に注入した後、紫外線照射を行うことによって紫外線硬化性化合物を硬化させると同時に液晶材料を相分離させ、高分子分散液晶層を形成する。
【0060】
具体的な高分子分散液晶の例として、ネマティック液晶BL24(no=1.513,ne=1.717,メルク社)を紫外線硬化性プレポリマーNOA81(ノーランド社)に溶解(液晶重量濃度45%)し、紫外線(400mW/cm2)を照射したもの(液晶ドロップレットの平均粒径は約60nm)を用いた場合(dmin=5μm、dmax=15μmに設定)、図8(A)の時(Smin=0V)には液晶分子の配向したドロップレット41の向きがランダムであるため、層全体が光学的に等方な媒体になっており、その屈折率はほぼ液晶の平均屈折率(≒(2no+ne)/3≒1.58)と高分子マトリクスの屈折率(≒1.56)との体積平均(≒1.57)と見なすことができる(液晶の体積分率を約35%と見積もった)。なお、この場合予め配向処理を行っていない。導光部材1をフリントガラスSF2(nd=1.648)とし、レーザ光(波長633nm)をP偏光としてθ1=75°で入射させると、式(2)を満足するので入射光は光入射部3で全反射する。
【0061】
図8(B)の時(Smax=150V)には液晶分子が電界方向に配列し、P偏光に対する高分子分散液晶層の屈折率は液晶の屈折率(ne・no/(ne2cos2θ1+no2sin2θ1)1/2=1.70)と高分子マトリクスの屈折率(≒1.56)との体積平均(≒1.61)と見なすことができる。この時屈折角θ2は81°となり、α=40.5°に設定しておけば反射光は光出射部4からほぼ垂直に出射し、光検出器13で検出される。
【0062】
図8(C)の時(S1=70V)には一部の液晶分子が電界方向に配列し、図8(B)の時よりは小さい出力が検出される。なお、図8(A)の状態と図8(B)の状態との間のスイッチング時間は数10μsのオーダーが得られ、この値はバルク液晶に比べ2桁以上高速になっている。
【0063】
液晶ドロップレットサイズと応答速度の関係についてさらに詳細に調べた結果を以下に示す。高分子分散液晶における液晶ドロップレットの大きさは、プレポリマーの組成、液晶の混合濃度、硬化時の紫外線強度等を変えることによって変化させることができる。図9は液晶ドロップレットサイズと応答速度との関係を示したものである。液晶材料はE7およびBL24(メルク社)、プレポリマーはNOA60,65および81(ノーランド社)を適宜用いた。応答速度の測定は図10に示す装置を用いて、試料57にパルス電圧(200V)を印加した時の光出力の立ち上がり時間(Ton)と立ち下がり時間(Toff)の合計を測定した。なお、図10において、51はレーザ、52は偏光子、53,54はレンズ、55は検光子、56はパワーメータ、58はAu電極、59は高分子分散液晶層、60はSi基板で、試料57は高分子分散液晶層59の厚さを20μm、光路長を1mmとした。高分子分散液晶に電界が印加されていない時と印加されている時の様子を図11に模式的に示す。
【0064】
電界が印加されていない時には液晶ドロップレットの向きはランダムであるので、x軸、y軸、z軸方向の屈折率はどれも等しく、層全体が光学的に等方な媒体になっている。z方向に電界を印加すると、液晶分子の分子軸がこの方向にそろうため、z軸方向の屈折率は大きくなり、x軸およびy軸方向の屈折率はお互いに等しいまま、その大きさが小さくなる。図10のように光が電界方向とは垂直のx方向から入射される場合、yz平面に複屈折が生じるために偏光状態を変化させることができ、検光子を通した光出力が変化する。本発明ではこのような複屈折現象は利用しないが、電界印加時の液晶分子の挙動とそれに伴う屈折率変化を利用するので、図9の応答速度は本発明においても同様に適用できる。図9から液晶ドロップレットサイズが小さくなるにつれて応答速度が速くなることがわかる。
【0065】
さらには、液晶ドロップレットの粒径を入射光の波長の1/5以下、より望ましくは1/10以下にすることが光透過率の観点から好ましい。以下にレイリー散乱理論から光透過率を計算した結果を示す。体積Vの球形散乱体が数密度Nで存在する場合、厚さLの媒体の光透過率Tは下記式(5)のように表される。
T=exp(-NRL),R=24π3((m2-1)/(m2+2))2V2/λ4 …(5)
【0066】
ここで、Rは散乱断面積、mは散乱体の屈折率と媒体の屈折率の比、λは使用する光の波長である。m=1.07、L=100μmとした時の透過率Tを散乱体すなわち液晶ドロップレットの粒径d、体積分率(=NV)および波長λをパラメータとして計算した。式からわかるようにdが大きくなる(すなわちVが大きくなる)ほど、またλが小さくなるほどTが減少する。また、透過率としては、90%(T=0.9)以上であることが光利用効率の点から好ましい。図12はT=0.9となる粒径を体積分率が10%(d(0.1))、30%(d(0.3))および50%(d(0.5))の場合について、波長に対してプロットしたものである。体積分率が小さいと屈折率変化量が小さくS/N比がとれなくなるので、体積分率は10%以上が好ましく、50%程度がより好ましい。これ以上の体積分率では作製が極めて困難になる。この観点から、図12より、光路切替素子(光スイッチング素子)として適用される可視〜赤外領域の波長に対しては、dがλ/5以下であるのが好ましく、λ/10以下であることがより好ましい。なお、この計算ではmおよびLを固定したが、実デバイスにおいてこれ以下の値であると考えられるため、上記の粒径範囲であれば問題はない。
【0067】
(実施形態4)
図13は、本発明による光路切替素子の第4の実施形態を説明するための図である。電圧無印加時(図13(A)の時)に、ドロップレット中の全ての液晶分子が概略一方向に配列している以外は第3の実施形態と同様の構成である。この配列方向は電圧印加時(図13(B)の時)に液晶分子が揃う方向(電界方向)とほぼ直交し、光入射部3に対して水平で紙面に垂直な方向にするのがよい。こうすることにより、大きな屈折率差が得られるため、入射角θ1を小さくすることができる、あるいは角度マージンを大きくすることができる。
【0068】
具体的には第3の実施形態と同様の材料および処方の高分子分散液晶を用いた場合、θ1=72°に設定すると、P偏光に対して図13(A)の時に高分子分散液晶層の屈折率は液晶の屈折率(ne・no/(no2cos2θ1+ne2sin2θ1)1/2=1.53)と高分子マトリクスの屈折率(≒1.56)との体積平均(≒1.55)と見なすことができる。導光部材1がフリントガラスSF2(nd=1.648)の時、式(2)を満足するので入射光は光入射部3で全反射する。
【0069】
図13(B)の時には液晶分子が電界方向に配列し、P偏光に対する高分子分散液晶層の屈折率は液晶の屈折率(ne・no/(ne2cos2θ1+no2sin2θ1)1/2=1.69)と高分子マトリクスの屈折率(≒1.56)との体積平均(≒1.61)と見なすことができる。この時屈折角θ2は77°となり、α=38.5°に設定しておけば反射光は光出射部4からほぼ垂直に出射し、光検出器13で検出される。図13(C)の時には一部の液晶分子が電界方向に配列し、図13(B)の時よりは小さい出力が検出される。
【0070】
液晶分子を予め一方向に配列させる方法として、前述のような配向膜を用いる方法以外に以下に示すような方法を用いることも可能である。高分子マトリクス材料を重合する際に電界を印加することで、液晶を一方向に配向することができる。この時、液晶に接しているプレポリマーは液晶の配向に引きずられて同じ方向に配向する。この状態でプレポリマーを重合すると液晶との界面は液晶の配向に倣った形で固定される。この界面構造は液晶に対して配向膜として機能するため、高分子マトリクス材料が硬化した後に電界を解除しても、液晶は重合時に印加していた電界方向に揃うことになる。また、電界の代わりに磁界を用いる方法も好適に使用できる。
【0071】
(実施形態5)
本発明の第5の実施形態を図1、図14および図15に基づき説明する。本実施形態の基本的な素子構造は第1の実施形態と同様であるが、屈折率可変物質5として二周波駆動液晶を用いている。
図14は、二周波駆動液晶の誘電異方性の周波数特性を示す図である。印加電圧の周波数が高くなり、クロスオーバー周波数fcを越えると誘電異方性が負となる。クロスオーバー周波数以下の周波数f1の電圧を印加した場合には液晶分子が電界方向に配向する(図1(B))。クロスオーバー周波数以上の周波数f2の電圧を印加すると、液晶の長軸は電界に垂直な方向すなわち光入射部3に平行な方向に配向するが、予め配向処理を行うことで面内での向きを紙面垂直方向に揃えることができる(図1(A))。
【0072】
図15は、信号印加スキームの一例を示す図である。F1の期間中は周波数f1の電圧を印加することにより、図1(B)の状態が得られる。F2の期間中は周波数f2の電圧(リセットパルス)を印加した後、周波数f1でF1の時よりも低い電圧を印加することにより、図1(C)の状態が得られる。F2の期間中は周波数f2の電圧を印加することにより、図1(A)の状態が得られる。各期間の順序や長さは任意に選択することができる。
【0073】
二周波駆動液晶では長軸を電界方向に配向させる場合でも、短軸を電界方向に配向させる場合でも、液晶分子にローレンツ力が作用するため、ネマティック液晶など通常の液晶材料に比べて配向運動が高速に行われる。例えば、図1(B)の状態から図1(A)の状態に切り替える際に、通常のネマティック液晶では電圧を0Vにした時の配向規制力による戻りを利用するため、応答に数ms〜数10msを要するが、二周波駆動液晶を用いて高周波電界で強制的に配向変化を起こさせる場合には1ms以下での応答が可能となる。
【0074】
二周波駆動液晶としては、例えば、2,3−ジシアノ−4−ペンチルオキシフェニル−4−(トランス−4−エチルシクロヘキシル)ベンゾアート、2,3−ジシアノ−4ペンチルオキシフェニル−トランス−4−プロピル−1−シクロヘキサンカルボキシラート、2,3−ジシアノ−4−エトキシフェニル−4−(トランス−4−ペンチルシクロヘキシル)ベンゾアート、2,3−ジシアノ−4−エトキシフェニル−4−(トランス−4−ブチルシクロヘキシル)ベンゾアート、2,3−ジシアノ−4−ブトキシフェニル−4−(トランス−4−ブチルシクロヘキシル)ベンゾアートなどを用いることができる。
【0075】
具体的な例として、導光部材1をフリントガラスF2(nd=1.620)で作製し、屈折率可変物質5を二周波駆動液晶MX001544(no=1.489,ne=1.622,クロスオーバー周波数fc≒20kHz,メルク社)とし、予め図示しない配向膜を用いて液晶分子2を図1(A)のように光入射部3に対して水平で紙面に垂直な方向に配向しておく。配向膜としてはSiO、ポリイミド等の公知の材料が使用でき、少なくとも透明電極10および金属膜7の表面に形成するのが好ましい。
【0076】
透明電極10と金属膜7の間にクロスオーバー周波数以上の周波数f2=100kHzの電圧(±50V)を印加した状態(図1(A))で、レーザ光(波長633nm)をP偏光としてθ1=70°で入射させると、この光に対しては液晶の屈折率はn2=ne・no/(no2cos2θ1+ne2sin2θ1)1/2=1.502となるので、式(2)を満たし全反射する。
【0077】
クロスオーバー周波数以下の周波数f1=1kHzの電圧(±50V)を印加した場合(図1(B))には、同じ光に対して液晶の屈折率はn2’=ne・no/(ne2cos2θ1+no2sin2θ1)1/2=1.604となるので、式(2)を満たさず、入射光は屈折率可変物質(液晶)中を透過して反射面12に到達する。屈折角θ2は72°となるので、反射面12の傾斜角α=36°に設定すると入射光は反射面で反射し、光出射部4からほぼ垂直に出射して光検出器13で検出される。また、周波数f2=100kHzの電圧(±50V)を印加した後に周波数f1=1kHzの電圧(±20V)を印加した場合(図1(C))には、一部の液晶分子が電界方向に配列し、図1(B)の時よりは小さい出力が検出される。なお、上記においてdmin=5μm、dmax=11μmに設定している。
【0078】
(実施形態6)
図16及び図17は、本発明の第6の実施形態を説明するための図である。図16は一次元空間光変調器70を示す図で、図16(A)は斜視図、図16(B)は図16(A)の空間光変調器をA方向から見た図、図16(C)は図16(A)の空間光変調器をB方向から見た図である。基本的な構成は上記第1または第3の実施形態と同様であるが、個別電極を兼ねる金属膜7が一次元アレイ状に配置されている。基板には各個別電極に接続され、それらに選択的に信号を供給するための駆動素子16が設けられている。アレイ状に配列した各個別電極に選択的に電圧信号を印加することによって、選択された個別電極(金属膜7)からの反射光のみが光出射部4から出射し、ライン状の光のON/OFF(空間光変調)ができる。個別電極が配列している方向と垂直な方向に走査する走査装置と組み合わせることで二次元の空間光変調ができる。
【0079】
また図17に示すように、空間光変調器70の個別電極7への駆動信号供給とガルバノミラー等からなる走査機構63の駆動を画像信号に基づいて制御し、得られた二次元空間光変調された光線を投影レンズ64によってスクリーン65に投影することで、画像表示装置を形成することができる。図17において、光源61にはレーザ、LED、ランプ等を用いることができる。また、コリメートレンズ62を光インテグレータとしてもよく、これらの後段には図示しない偏光変換光学系を付与してもよい。
【0080】
(実施形態7)
図18は、本発明の第7の実施形態を説明するための図で、二次元空間光変調器80の斜視図を示すものである。本実施形態の基本的な構成は上記第1または第3の実施形態と同様であるが、個別電極を兼ねる金属膜7が二次元アレイ状に配置されている。基板には各個別電極に接続され、それらに選択的に信号を供給するための駆動素子(図示せず)が設けられている。アレイ状に配列した各個別電極に選択的に電圧信号を印加することによって、選択された個別電極(金属膜7)からの反射光のみが光出射部4から出射し、面状の光のON/OFF(空間光変調)ができる。この場合、空間光変調器だけで二次元の空間光変調ができるため、図17のような走査機構は不要で、光出射部4の外側に投影レンズを設置し、スクリーンに投影することで画像表示装置を形成することができる。
【0081】
なお、図16、及び図18に示す空間光変調器では導光部材1を共通にして一つにしているが、導光部材1を各光路切替素子ごとに分割しても構わない。また、上記一次元アレイ状の空間光変調器もしくは二次元アレイ状の空間光変調器を使った画像表示装置では、赤、緑、青など複数の波長の入射光を使い、時分割で各色の画像を表示したり(フィールドシーケンシャル方式)、複数の空間光変調器を設けて各色の画像を同時に投影することで、フルカラー画像を表示することもできる。
【0082】
【発明の効果】
本発明の光路切替素子によれば、導光部材を介した光入射部と、光入射部から入った入射光を反射する反射部と、反射部で反射した光を、導光部材を介して出射光として外部へ出す光出射部とよりなり、反射部を含む光路中に屈折率可変物質が封入され、屈折率可変物質に情報に応じて信号を与え屈折率変化を生じせしめる信号入力手段を具備する光路切替素子において、信号入力手段を屈折率可変物質に作用する信号強度の実効値を多段階に変化させることが可能なものにすることにより、構造が簡単で耐久性が高く、かつ中間調の出力が可能な光路切替素子を提供することができる。
【0083】
また本発明の光路切替素子によれば、光入射部と反射部との間に封入された屈折率可変物質層の最も厚い部分の厚さをdmax、最も薄い部分の厚さをdminとし、屈折率可変物質の屈折率変化量が飽和値の10%となる屈折率可変物質層厚さ当たりの信号強度をE10、飽和値の50%となる屈折率可変物質層厚さ当たりの信号強度をE50とした時、
(E50/E10)<(dmax/dmin)
を満足するようにすることにより、より多値の中間調出力が可能な光路切替素子を提供することができる。
【0084】
さらに本発明の光路切替素子によれば、屈折率可変物質の屈折率変化を、入射光が導光部材と屈折率可変物質との界面で透過及び全反射する範囲で行うようにすることにより、よりS/N比の高い光路切替素子を提供することができる。さらに本発明の光路切替素子によれば、導光部材に光学的接合し、導光部材と屈折率が概略等しい平板導光体を設けることにより、上記に加え、製造が容易な光路切替素子を提供することができる。
【0085】
さらに本発明の光路切替素子によれば、反射部が、屈折率可変物質に信号を印加する単位要素に対して、複数組の面を有することにより、駆動エネルギーを小さくできる光路切替素子を提供することができる。さらに本発明の光路切替素子によれば、屈折率可変物質が液晶からなるようにすることにより、さらに製造が容易で、光利用効率を高くできる光路切替素子を提供することができる。
【0086】
さらに本発明の光路切替素子によれば、屈折率可変物質が液晶材料を高分子マトリクス中に分散保持した液晶/高分子複合体(高分子分散液晶)からなるようにすることにより、上記に加え、応答速度の速い光路切替素子を提供することができる。さらに本発明の光路切替素子によれば、屈折率可変物質が高分子分散液晶からなり、液晶を入射光の波長の1/5以下の粒径を有するドロップレットとすることにより、上記に加え、光損失の小さい光路切替素子を提供することができる。さらに本発明の光路切替素子によれば、電圧無印加時に全ての液晶分子が概略一方向に配列しているようにすることにより、上記に加え、より光利用効率を高くできる光路切替素子を提供することができる。さらに本発明の光路切替素子によれば、液晶として二周波駆動液晶を用いることにより、さらに応答速度の速い光路切替素子を提供することができる。
【0087】
また本発明の空間光変調器によれば、請求項1乃至7の光路切替素子を二次元アレイ状に配列することにより、構造が簡単で耐久性が高く、かつ中間調出力が可能な空間光変調器を提供することができる。さらに本発明の空間光変調器によれば、請求項1乃至7の光路切替素子を一次元アレイ状に配列することにより、上記に加え、製造歩留まりが高く低コストな空間光変調器を提供することができる。
【0088】
また本発明の画像表示装置によれば、請求項8の空間光変調器により形成した画像をスクリーンに投影するようにすることにより、耐久性が高く、多階調表示が可能な画像表示装置を提供することができる。さらに本発明の画像表示装置によれば、請求項9の空間光変調器から出射した光線を垂直方向に走査してスクリーンに投影し、二次元画像を得るようにしたので、より低コストな画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による光路切替素子の第1の実施形態を説明するための概略構成図である。
【図2】 中間調の出力を可能ならしめる屈折率可変物質の条件について説明するための図である。
【図3】 屈折率変化量を測定する装置の概略構成を示す図である。
【図4】 予め基板面に平行に液晶分子が配向するように作製したサンプルについて電圧を変えて屈折率変化量を測定した結果を示す図である。
【図5】 本発明の第2の実施形態を説明するための図である。
【図6】 光路切替素子の出力を測定するための装置を示す概略図である。
【図7】 印加電圧を変化させた時の光出力の状態の一例を示す図である。
【図8】 本発明による光切替素子の第3の実施形態を説明するための概略構成図である。
【図9】 液晶ドロップレットサイズと応答速度との関係の一例を示した図である。
【図10】 液晶ドロップレットの応答速度を測定するための装置を示す概略図である。
【図11】 高分子分散液晶に電界が印加されていない時と印加されている時の様子を模式的に示した図である。
【図12】 T=0.9となる粒径を体積分率が10%、30%および50%の場合について、波長に対してプロットしたものである。
【図13】 本発明による光路切替素子の第4の実施形態を説明するための図である。
【図14】 本発明の第5の実施形態を示す図で、二周波駆動液晶の誘電異方性の周波数特性の一例を示す図である。
【図15】 本発明の第5の実施形態を示す図で、信号印加スキームの一例を示す図である。
【図16】 本発明の第6の実施形態を説明するための図で、一次元空間光変調器を示す図である。
【図17】 本発明の第6の実施形態を説明するための図で、画像表示装置の構成例を示す概略図である。
【図18】 本発明の第7の実施形態を説明するための図で、二次元空間光変調器の斜視図である。
【図19】 従来の空間光変調器の一例を示す平面概略図である。
【図20】 図19に示す空間光変調器におけるひとつの回転鏡の断面図である。
【図21】 特開平11−202222号公報で提案されている光スイッチング素子の動作説明図である。
【図22】 特開2000−171813号公報で提案されている光スイッチング素子の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
1…導光部材、2…液晶分子、3…光入射部、4…光出射部、5…屈折率可変物質、6…反射部、7…金属膜、8…絶縁体、9…基板、10…透明電極、11…シール剤、12…反射面、13…光検出器、14…反射部材、15…インターフェース部、16…駆動素子、17…平板導光体、18…屈折率整合液、19…逆傾斜面、20…電源、21…He−Neレーザ、22…ビームエキスパンダ、23…ビームスプリッタ、24…ミラー、25…スクリーン、26…サンプル、27…ミラー、28…配向膜、31…ランプ光源、32…コリメートレンズ、33…偏光子、34…集光レンズ、35…光パワーメータ、40…高分子マトリクス、41…液晶ドロップレット、51…レーザ、52…偏光子、53,54…レンズ、55…検光子、56…パワーメータ、57…試料、58…Au電極、59…高分子分散液晶層、60…Si基板、61…光源、62…コリメートレンズ、63…走査機構、64…投影レンズ、65…スクリーン、70…一次元空間光変調器、80…二次元空間光変調器、100…方形トーションビーム反射表面、101…ビーム支持ポスト、201…ヒンジ、202…接地電極、203…ポスト、204…アドレス電極、301…金属層、302…基板層、400…導光部、401…全反射面、501…プリズム、502…抽出面、503…反射面、600…駆動部、700…光線、701…全反射光、702…反射光、703…導光体、704…反射膜、705…液晶。
Claims (11)
- 導光部材を介して入射した光を屈折率可変物質に入射させる光入射部と、
該光入射部から前記屈折率可変物質に入った入射光を反射する反射部と、
該反射部で反射した光を、前記導光部材を介して出射光として外部へ出す光出射部とよりなり、前記反射部を含む光路中に前記屈折率可変物質が封入され、該屈折率可変物質に情報に応じて信号を与え屈折率変化を生じせしめる信号入力手段を具備する光路切替素子において、
前記屈折率可変物質は、液晶に印加する電圧の周波数によって液晶の誘電異方性の符号が異なる二周波駆動液晶により構成され、
前記信号入力手段は、前記屈折率可変物質に作用する電極として機能する金属膜と、情報データを信号電圧に変換するインタフェース部と、該インタフェース部で変換された信号電圧を前記電極に印加するための駆動素子とを備え、前記駆動素子により印加される信号電圧により、前記屈折率可変物質に作用する信号強度の実効値を多段階に変化させることが可能なものであって、
前記反射部は、前記入射光を前記出射光に変換する傾斜反射面と該傾斜反射面と一辺を共有する逆傾斜面とよりなり、該反射部と前記光入射部との間に封入された前記屈折率可変物質の層の最も厚い部分の厚さをdmax、最も薄い部分の厚さをdminとし、前記屈折率可変物質の屈折率変化量が飽和値の10%となる屈折率可変物質の層厚さ当たりの信号強度をE10、飽和値の50%となる屈折率可変物質の層厚さ当たりの信号強度をE50とした時、
(E50/E10)<(dmax/dmin)
が満足されることを特徴とする光路切替素子。 - 前記信号による前記屈折率可変物質の屈折率変化を、前記入射光が前記導光部材と前記屈折率可変物質との界面で透過及び全反射する範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の光路切替素子。
- 前記光入射部に光学的に接合し、前記導光部材と屈折率が概略等しい平板導光体を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の光路切替素子。
- 前記反射部は、前記屈折率可変物質に信号を印加する単位要素に対して、複数組の面を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光路切替素子。
- 前記屈折率可変物質は、液晶材料を高分子マトリクス中に分散保持した液晶/高分子複合体からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光路切替素子。
- 前記液晶材料は、入射光の波長の1/5以下の粒径を有するドロップレットであることを特徴とする請求項5に記載の光路切替素子。
- 電圧無印加時に全ての液晶分子が概略一方向に配列していることを特徴とする請求項5または6に記載の光路切替素子。
- 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光路切替素子が二次元アレイ状に配列されていることを特徴とする空間光変調器。
- 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光路切替素子が一次元アレイ状に配列されていることを特徴とする空間光変調器。
- 請求項8に記載の空間光変調器と、該空間光変調器に光線を入射させる手段と、該空間光変調器により形成した画像をスクリーンに投影し表示する手段とを有することを特徴とする画像表示装置。
- 請求項9に記載の空間光変調器と、該空間光変調器に光線を入射させる手段と、該空間光変調器から出射した光線を該空間光変調器の光路素子の整列方向に対して垂直な方向に走査する走査機構と、該走査機構から出射した光線をスクリーンに投影し表示する手段とを有することを特徴とする画像表示装置。
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