JP4061581B2 - 人工歯根 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科補綴分野の人工歯根に関し、特に、寸法が小さく且つ顎骨との結合強度が高い人工歯根に関する。
【0002】
【従来の技術】
人工歯根は、歯の喪失などにより失った咀嚼機能の回復を目的に多く利用されており、顎骨内に植設され、人工歯根上部に歯冠を固定して使用される。人工歯根は長期間に亘って顎骨に固定されるので、生体親和性及び生体安全性の高い材料を用い、顎骨と強固な結合を形成する構造に形成される。人工歯根材料としては、生体安全性の高いセラミクスや、生体親和性に優れた純チタン及びチタン合金が好んで用いられており、さらに、それらの材料の表面をアパタイトやコラーゲン等で被覆して生体親和性をより高くしている。
【0003】
従来の人工歯根の構造には、顎骨と結合する結合部にねじを形成したスクリュー型人工歯根や、円柱状の係合部を備えた円柱型人工歯根などがある。図4(A)に示すスクリュー型人工歯根5の装着では、前もって顎骨にねじ穴を形成しておき、そこに係合部51のねじ部をねじ込むことにより仮固定され、さらに新生骨が増殖して人工歯根と顎骨との微小な隙間を埋めることにより人工歯根が完全に固定される。
【0004】
スクリュー型人工歯根5を改良したものにセルフタップ型人工歯根があり、前もって顎骨にタップ穴を形成して人工歯根のねじをねじ込むもので、スクリュー型5に比べると装着が安全かつ確実で、ねじ穴を形成する必要がないので手術時間が短縮できる利点がある。
【0005】
図4(B)に示す円柱型人工歯根7は、円柱状係合部71と、その下端近傍に形成された貫通孔72とを備えており、さらに係合部71の表面には生体組織や新生血管が伸展できる微小な凸凹面が形成されている。この円柱状人工歯根7は、顎骨に前もって形成した円筒穴に埋没され、その後、係合部71の表面および貫通孔72に新生骨が増殖することにより顎骨内に固定される。
【0006】
また、金属の基材の表面に、チタンの球状金属粒子を真空焼結により接合したビーズタイプの生体埋込材が知られており、これは人工歯根にも応用可能とされている(例えば、特許文献1参照。)。この生体埋込材からなる人工歯根では、係合部表面に球状金属ビーズからなる多孔質層が形成されており、その多孔質層内部の孔に新生骨が増殖することにより、人工歯根が顎骨内に固定される。
【0007】
【特許文献1】
特開平7−39578号公報(第2−4頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
円柱型人工歯根は、表面処理にブラスト法による表面粗面化処理を行うか、プラズマ溶射法による多孔質層の皮膜処理を行って、係合部表面の微小な凸凹形状によって単位面積当りの顎骨との係合強度を増加させているが、この方法で形成される微小な凸凹面では、顎骨と人工歯根との直接結合(オッセオインテグレーション)への寄与はそれほど大きくなく、結合強度を十分に高くするには顎骨との係合部を長くかつ太くしなくてはならず、患者の負担が大きかった。
【0009】
スクリュー型およびセルフタップ型の人工歯根は、十分な係合強度を得るために係合部が太く且つ長くされているので患者への負担が大きく、また、顎骨のやせた患者には適用できなかった。そして、何らかの理由により人工歯根を除去する場合、人工歯根を回転させる必要があり、患者の苦痛を長引かせる原因となっていた。
【0010】
別の表面処理方法としては、アトマイズ粉末を焼結した多孔質層の皮膜処理により、人工歯根の結合部表面に連通孔が形成可能であるが、アトマイズ粉末の粒子形状が均一ではないので連通孔の孔径が小さくなり実質的には途中で塞がることが多く、表面処理によって係合部の長さを大幅に短くできるほどの効果が得られなかった。
【0011】
チタン粒子を焼結したビーズタイプの人工歯根は、チタン粒子の焼結温度が高く焼結が進行しにくいので、結合強度を高くするのが難しかった。そのため、何層も積層したビーズ層を形成した場合、表面に面しているビーズは接合点が数カ所と少ないので、比較的小さい応力でもチタン粒子が剥離する惧れがあった。また、粒子間の接合を十分にするように焼結温度を上昇させ、焼結時間を長くすると、製造コストが高くなっていた。別の方法として、凸凹処理した芯材に、一層から成るビーズ層を固定して、ビーズの剥離を防止することも考えられるが、ビーズ層の貫通空孔の数が減少して、係合部の長さを大幅に短くすることができなかった。
【0012】
そこで、本発明は、係合部の寸法が小さく、骨組織との結合強度が高く、且つ破損する惧れが少なく信頼性の高い人工歯根を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の人工歯根は、チタン又はチタン合金からなる中実柱状の芯材と、芯材の側面に配置されてチタン又はチタン合金から成り焼結により結合した多数の球状粒子と該球状粒子の間に形成された多数の連通孔とから成る多孔層と、から構成された人工歯根において、上記多数の球状粒子が金チタン合金からなる表面層を備え、該表面層により球状粒子が相互に結合されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の人工歯根は、球状粒子の表面に金チタン合金の表面層を備えており、隣接する球状粒子同士は、金チタン合金表面層の表面拡散により結合して多孔層を形成する。金チタン合金は、チタンに比べて低い温度で焼結できるので、球状粒子間の結合が比較的容易でその強度を大きくできる。そこで、多孔層は球状粒子を複数粒子厚みにして積層することにより、多孔層に多数の連通孔を備えることができる。その結果、多孔層の強度が高く、顎骨との結合性が良好である人工歯根とすることができ、その結合部を短くしても咀嚼時の応力に十分に耐えることができる。
【0015】
本発明の人工歯根は、球状粒子表面に金を含んでいるが、金の電極電位がチタンに比べて大きいので、生体内で金が溶出することがない。そのため、本発明の人工歯根は、医療用金属チタンからなる人工歯根と同様に、生体安全性が高い。
【0016】
また、本発明は、上記の人工歯根を製造する製造方法を含み、チタン又はチタン合金を中実柱状の芯材に成形する工程と、チタン又はチタン合金からなる球状粒子の表面に金を被覆する工程と、芯材の側面に多数の球状粒子を付着させる工程と、芯材を加熱炉内に配置して球状粒子表面を焼結して多孔層を形成する工程と、から、人工歯根を製造する。この製造法は、上記多数の球状粒子には、表面に被覆した金が多孔層を焼結工程で金チタン合金からなる表面層を備え、該表面層により球状粒子を結合している。
【0017】
この製造方法においては、チタンないしその合金の粒子に形成した表面の金は、焼結過程で金チタン合金表面層を生成するが、この過程で、金ないし金チタン合金は、チタンに比べて低い温度で焼結できるので、表面層を介して球状粒子間の結合が比較的容易にでき、結合強度を大きくできる。そこで、多孔層で球状粒子を複数粒子厚みに積層することにより、多孔層に多数の連通孔を備えることができる。その結果、多孔層の強度が高く、顎骨との結合性が良好である人工歯根とすることができ、その結合部を短くしても咀嚼時の応力に十分に耐えることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の人工歯根は、チタン合金から成る柱状の芯材と、その側面に固着された球状粒子から成る多孔層と、により構成される。
芯材は、純チタンやチタン合金、例えば、Ti−6Al−4V系合金から、柱状に成形されるが、柱状は、多角柱、円柱などの中実柱状を含み、その芯材外形は、全体が均一な太さにすることができ、また、途中に段差やテーパを設けることによって下端部側の径を小さくすることもできる。
【0019】
芯材には、多孔層を形成した側面より上部に拡径部を設けるのが好ましい。芯材の上端部近傍に段差を設けて拡径部と小径部とを形成することができ、小径部は、その側面に多孔層を配置して顎骨との結合部とし、拡径部は、強度の高いので、顎骨中への装着、脱着の際の把握部として、また 歯冠固定部として使用される。段差の高さを多孔層の厚さと同等にするのが好ましく、人工歯根全体が実質上同径となり、人工歯根の装着および除去が容易になる。また、拡径部には歯冠固定用の機構が形成され、人工歯根が完全に固定された後に歯冠が固定される。
【0020】
多孔層は、チタン又はチタン合金の多数の球状粒子を固着して構成されており、層内部には、粒子間の隙間が連通孔として利用される。球状粒子は、内部が純チタン又はTi−6Al−4V系合金などのチタン合金であり、その表面層が、金チタン合金からなっており、この表面層が表面拡散によって球状粒子同士が結合して、強固な多孔層を構成している。
【0021】
多孔層は、球状粒子の2又は3粒子の厚みに積層して形成するのが好ましい。1粒子の層で構成される多孔層では貫通空孔が形成されないか又はその数が少なく、多孔層による顎骨との結合力向上効果が顕著でないので、係合部の長さを大幅に短縮することができない。また、4粒子層以上に積層した多孔層では顎骨との結合力が3粒子と同程度で、多孔層の厚みが増加して結合部の直径が大きくなるので好ましくない。
【0022】
また、多孔層は、人工歯根の側面と共に底面にも形成することができ、多孔層の総面積が大きくなり、貫通孔の数が増えるので好ましい。
【0023】
球状粒子は、球状もしくは楕円体状に成形されるが、その平均粒径は30〜300μmが好ましく、特に、200〜250μmが好ましい。平均粒径30μm未満では、連通孔の寸法が小さくなり骨組織の浸入に対して実質的に塞ってしまい、300μmを越えると、粒子の芯材への結合が悪くなり、芯材と多孔層の接合強度が低下するので好ましくない。
【0024】
多孔層は、上記の範囲の平均粒子径において、粒径分布の狭い球状粒子を用いるのが好ましい。異なる粒径の粒子が混在すると、大きい粒子の隙間に小さい粒子が入り込んで連通孔の孔寸法が小さくなり、気孔率を下げるので好ましくない。
【0025】
球状粒子の形状は、真球状もしくは楕円体状であるが、特に平均真球比が0.7〜1であるのが好ましく、0.8〜1であるのがさらに好ましい。真球比は、1個の粒子の最小径と最大径との比と定義され、平均真球比は、真球比の粒子数平均値である。平均真球比が0.7より小さいと、焼結体の粒子間の隙間が小さくなって実質的に連通孔が塞がるので好ましくない。
【0026】
さらに、生体組織の増殖を促進する生体親和剤を含有する封孔剤が、連通孔内に注入されているのが好ましい。ここで封孔剤とは、連通孔内部に注入して連通孔の一部又は全部に封入される物質であり、生体組織の増殖を促進する生体親和剤単独、又は生体親和剤を含む封孔材料から成る。封孔剤の注入によって、生体組織が連通孔内に侵入しやすくなり、連通孔内での組織成長も促進されるので骨組織の形成が早くなり、顎骨と人工歯根との結合形成に要する時間が短縮され、また、それらの結合強度も高くなる。封孔剤は、固体、液体、ゲル状体で連通孔内部に保持されて提供される。生体親和剤としては、コラーゲン線維、ムコ多糖類、骨誘導因子、セメント質、歯髄、歯根膜、エナメルマトリクス誘導材料(例えばBIORA社製のエムドゲイン)などが好ましく利用できる。
【0027】
本発明の人工歯根の製造方法は、チタン又はチタン合金を中実柱状の芯材に成形する工程と、チタン又はチタン合金からなる球状粒子の表面に金を被覆する工程と、芯材の側面に多数の球状粒子を付着させる工程と、芯材を加熱炉内に配置して球状粒子を焼結することにより隣接する球状粒子同士および球状粒子と芯材との接触部位を接合して多孔層を形成する工程と、を含んでいる。
【0028】
柱状の芯材は、純チタン又はTi−6Al−4V系合金などのチタン合金材料を、多角柱、円柱などの中実の柱状体に切削して成形することができ、また、芯材は、遠心鋳造、加圧鋳造、鍛造などによって成形することもできる。
【0029】
芯材の径は、全体が均一な直径に成形することができ、また、途中に段差やテーパを設けることによって下端部側を細く成形することもできる。特に、芯材の上端部近傍に段差を成形するのが好ましい。
【0030】
球状粒子は、後述ように、粒度寸法と真球度の高い粒子を得るために、純チタン又はTi−6Al−4V系合金などのチタン合金から回転プラズマ法、ガスアトマイズ法などの粒子製造法で球状もしくは楕円体状に成形される。
粒子は、その後、金を被覆する工程において、表面に金(Au)を被覆する。
金の被覆厚みは、5〜10μm程度が好ましい。
【0031】
球状粒子の金の被覆は、非電解メッキ法、電解メッキ法、蒸着法、その他の方法により行なうことできる。特に、非電解メッキ法は、金イオンを還元剤により金に還元析出させる方法で、粒子に通電する必要がなく被覆操作がしやすいので好ましい。非電解メッキ法は、金イオンを含む金塩、例えばシアン化金塩、チオ硫酸金塩、亜硫酸金錯体、塩化金塩などの水溶液に、還元剤、例えば次亜リン酸塩、ホスフィン酸塩、水素化ホウ素化合物、ヒドラジン、ジメチルアミノボラン(DMAB)、チオ尿素、L−アスコルビン酸などを添加して調製したメッキ溶液に球状粒子を投入することにより、球状粒子表面に金膜を析出する。チオ硫酸金塩に対しては、還元剤としてチオ尿酸を用い、塩化金塩に対しては、還元剤としてL−アスコルビン酸を用いると好ましい。
また、メッキを行う前に、球状粒子は、酸を用いた化学研磨、酸洗により粒子表面に付着した汚れや酸化被膜を除去するのが好ましい。
【0032】
金被覆をした球状粒子は、付着工程で、芯材の側面に所望の粒子層の厚みで付着され、所定の形状に調製される。この工程は、後述の如く、接着剤を用いることができる。
【0033】
焼結工程においては、球状粒子を付着した芯材を加熱保持して、芯材と球状粒子の間、及び、球状粒子の相互間を、焼結により固着し、多孔層を形成する。焼結工程での高温下で、金被膜は、球状粒子のチタンと反応して金チタン合金となり、球状粒子表面を覆う表面層を形成すると共に、金ないしは金チタン合金層が、粒子表面の接触部位で相互拡散により結合し、焼結体を構成する。
【0034】
焼結は、金ないし金チタン合金層を焼結できる条件下で行なうが、好ましい焼結温度は600〜800℃であり、これは純チタンを800〜1500℃で焼結する場合に比べてかなり低く、容易に焼結可能である。焼結時の炉内は、真空または不活性ガス雰囲気とするが、特に真空下で焼結を行うのが、表面拡散が促進されて焼結時間を短縮でき、焼結温度を低下する効果があるので好ましい。
【0035】
本発明の製造法の詳細について、上記の球状粒子の付着工程では、焼結工程の加熱時に蒸発または昇華する接着剤を用いるのが好ましく、接着剤により、所要の粒子厚みと外形寸法で、球状粒子を芯材表面に正確に配置して仮固定することができる。
【0036】
このような接着剤には、例えば、所要加熱温度での蒸気圧の高い金属材料バインダ、例えばボロン、シリコンや、加熱温度で蒸発ないし分解する有機系のバインダ、例えばエポキシ系やシリコン系などのバインダが利用できる。これらの接着剤は、焼結工程の加熱中に人工歯根から完全に除去されて、人工歯根中に残留しないので、人工歯根の生体安全性に影響を与えない。また、球状粒子は、接着剤を用いずに、圧着によって芯材に付着して型に入れることもできる。
【0037】
本発明の製造方法には、粒子の付着工程後で、焼結工程に先立って、芯材を人工歯根の側面および底面と同等形状を内面に有する型に入れる工程を含むことができる。粒子を付着した芯材は、人工歯根の外形を賦型した内面形状を有する型に入れられて、焼結工程では、芯材は型に入ったまま焼結炉内で加熱保持され、焼結後には、離型される。
【0038】
芯材と球状粒子とを配置する型は、焼結中に球状粒子が芯材から離脱するのを防ぎ、また、焼結が促進するように球状粒子と芯材とを密着させる機能を有するもので、型の内面は、人工歯根の外径と同じか又はいくらか小さくされて、型と人工歯根との間に隙間ができないようにされる。型は、その内面が、人工歯根の最終形状を賦型して成形されており、少なくとも多孔層の底部および側部を覆う内面形状を備えている。最も簡単な型は、一体の有底筒状体型であるが、加熱後の人口歯根の離型を容易にするために、型中心線に対して左右半割にした割り型を用いるのが好ましい。
型は、球状粒子と化学反応や合金反応を起こさない材料で形成され、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどのセラミックスが使用できる。
【0039】
球状粒子の形状について、上述したように、平均粒径30〜300μmが好ましく、200〜250μmであるのがより好ましい。平均粒径が30μm未満では、連通孔の寸法が小さくなり実質的に塞ってしまい、300μm以上であると、芯材側面への密着が悪くなり、芯材と多孔層の接合強度が低下するので好ましくない。
【0040】
本発明で用いる球状粒子は、上述のように、平均真球比が0.7〜1の球状もしくは楕円体状であるのが好ましく、さらに、平均真球比0.8〜1であるのがより好ましい。平均真球比が0.7より小さいと焼結後に粒子間の隙間が小さくなり、多孔層内の連通孔が実質的に塞がるので好ましくない。
【0041】
上記の焼結工程により、多孔層を形成した後には、好ましくは、生体組織の増殖を促進する生体親和剤を含有する封孔剤を、連通孔内に注入して、連通孔に充填する。封孔剤の注入には、生体親和剤を水などの溶媒に分散した溶液中に、製造した人工歯根を浸漬して、連通孔内に溶液を侵入させる方法を用いることができる。溶液中に人工歯根を浸漬した後、容器内を真空排気するのが好ましく、連通孔内の空気が除去されて、溶液が連通孔内に充填しやすくなる。
【0042】
連通孔内に溶液を侵入させた後は、溶媒を完全に蒸発して固化させた生体親和剤を連通孔内に残すことができ、また、溶媒を一部残存させて生体親和剤が半乾きの状態で残留させることもできる。さらに、溶媒を蒸発させずにおくこともでき、その場合には人工歯根を液体に浸漬した状態で提供し、使用時に溶液から取り出して使用することができる。
生体親和剤が液体で提供される場合は、液状生体親和剤に人工歯根を浸漬して連通孔内に充填することもできる。また、複数の生体親和剤を併用することもでき、さらに、生体親和剤を連通孔内に保持する固定剤を用いることもできる。
【0043】
【実施例】
(実施例1)
図1の人工歯根は、芯材2が、上部に把握部としての拡径部21と、下部に小径部22と、を有する円柱状を成しており、小径部22の側面と底部24には、多孔層3が形成されている。芯材2は、医療用の金属チタンから成り、拡径部21の外径を3.0mm、長さを4.0mmとし、小径部22の外径を2.0mm、長さを8.0mmの寸法で形成されている。
【0044】
多孔層3は、粒径分布が212〜250μm、平均真球比は0.95以上の実質的に球状で、医療用金属チタンから成る球状粒子31の焼結体から構成される。球状粒子31は、厚さ約10μmの金チタン合金から成る表面層で覆われている。
【0045】
多孔層3は、チタンの球状粒子31を、芯材2表面に3粒子の層で積層して形成されている。多孔層3は、接触した球状粒子31同士を、その接触点で金チタン合金の表面層の拡散接合により固着することにより形成されており、球状粒子31間の隙間が連通孔となっている。多孔層3と芯材2との接合においても、粒子表面の金チタン合金が表面拡散して接合している。
【0046】
図1(A)と図1(B)に示す多孔層3は、多数の球状粒子31を3段に最密充填した例であるが、球状粒子31をいくらか不規則に配置にすることもできる。多孔層における球状粒子を緩やかに充填することは、連通孔の寸法と気孔率を大きくすることができる利点がある。緩やかに充填する場合、1つの粒子当り3以上の接触結合点を備えるように球状粒子を配置するのが好ましく、球状粒子を安定に固定して、強度の高い多孔層を形成することができる。
【0047】
(実施例2)
本発明の人工歯根1の製造方法により製造した一例を、以下に示すが、芯材2は、図2に示すように、医療用の金属チタンを切削して形成されて、拡径部21の外径を3.0mm、長さを4.0mmとし、小径部22の外径を2.0mm、長さを8.0mmの寸法にした。
【0048】
球状粒子31は、医療用チタン金属から、プラズマ回転電極法によって球状粒子を製造して、平均粒子直径230μmで、212〜250μmの狭い粒径分布にある粒子を選別して用いた。
【0049】
上記チタンの球状粒子31は、金被覆の工程において、非電解メッキ法により金被覆を行なった。メッキ溶液は、2g/リットルのシアン化金カリウム水溶液15リットルと、75g/リットルの塩化アンモニウム50リットルと、50g/リットルのクエン酸ナトリウム30リットルと、還元剤として10g/リットルの次亜リン酸ナトリウム5リットルを混合して、調製した。めっき溶液は、使用時に、pH7〜7.5、液温92〜95℃に調節して、チタンの球状粒子を投入し、1時間静置してメッキを施した後、粒子を取り出して水で洗浄し乾燥することにより、厚さ10μmのAu層で被覆されたメッキ球状粒子31を得た。
【0050】
上記金メッキの球状粒子31は、芯材の小径部22の側面と底部24とに、有機系接着剤で、3層に接着して固定した。次いで、半割り円筒状のアルミナ製の型の内面に装入した。
焼結工程は、芯材2とメッキ粒子31とを型で保持したまま真空加熱炉内に配置し、10−3Torrの真空炉内で、800℃で3時間加熱保持して焼結した。炉内冷却後に、型離しをして、人工歯根1を得た。
【0051】
その後、生体試験用に供するために、人工歯根1にコラーゲン線維を充填した。人工歯根は、コラーゲン線維を水に分散させた溶液中に浸漬し、次いで減圧チャンバー内で溶液ごと真空にして、連通孔内部に溶液を十分に浸透させた後、人工歯根1を溶液から取り出して真空乾燥させた。
【0052】
(実施例3)
上記実施例2で作成した人工歯根1を犬の顎骨に埋没して、生体との結合性を調べた。まず犬の歯を抜歯して放置し、顎骨の抜歯窩に新生骨が形成された後、歯肉を切開し顎骨部にドリルにて直径3.0mm、深さ8.0mmの孔を形成して、上記実施例2の人工歯根1を埋没し、歯茎を縫合した。人工歯根1を埋没して1ヶ月後に人工歯根およびその周辺部を摘出してトルイジンブルー染色して生体標本を作成し、光学顕微鏡で観察した。図3は、顕微鏡組織観察図の概略図であり、顎骨Bから人工歯根1に向かって生体組織Tが成長し、さらに球状粒子31の隙間の貫通孔32にまで侵入している。これにより、本発明の人工歯根は、顎骨と良好な結合を形成することが確認された。
【0053】
【発明の効果】
本発明の人工歯根は、チタン又はチタン合金からなる中実柱状の芯材と、芯材の側面に配置されてチタン又はチタン合金から成り焼結により結合した多数の球状粒子と該球状粒子の間に形成された多数の連通孔とから成る多孔層と、から構成されているので、多孔層内部に新生骨組織が増殖可能な連通孔が多数形成されており、人工歯根と顎骨とが強く結合されるので、咀嚼による応力を支えるのに必要な人工歯根の長さが従来に比べて著しく短くすることができる。また、球状粒子の表面に金チタン合金からなる表面層が形成されていることにより、多孔層の接合強度を高くできて、使用時に顎骨内で破損する惧れがない。本発明の人工歯根は、芯材と球状粒子とが生体安全性の高い材料から成るので、長期間に亘って安全に使用できる人工歯根を提供することができる。
【0054】
多孔層が球状粒子を2〜3粒子積層して形成されていることにより、顎骨と結合可能な連通孔を多数備えた人工歯根を得ることができる。さらに、多孔層を形成する球状粒子の平均直径が30〜300μmで、球状粒子の真球比が0.7〜1であると、多孔層内部に、新生骨が増殖しやすい孔径の連通孔を多数形成することができる。
【0055】
芯材の上部に拡径部を設けると、人工歯根の把握部と、歯冠部の装着基体とに利用でき、かつ多孔層の外直径と拡径部の直径をほぼ同径にすることにより、人工歯根の装着および除去が容易に行える。
【0056】
さらに、多孔層の連通孔内に生体組織の増殖を促進する生体親和剤を含有する封孔剤が注入されていることにより、連通孔内への新生骨組織の侵入と成長とが促成され、短時間に強い結合が得られる。
【0057】
本発明の人工歯根の製造方法は、チタン又はチタン合金を中実柱状の芯材に成形する工程と、チタン又はチタン合金からなる球状粒子の表面に金を被覆する工程と、芯材の側面に多数の球状粒子を付着させる工程と、芯材を内面に賦型した型に装入する工程と、芯材を加熱炉内に配置して球状粒子表面を焼結して多孔層を形成する工程と、を含んでおり、粒子剥離などの破壊が起こらず、結合部が短く、長期間安全に使用できる人工歯根を製造することができる。
【0058】
球状粒子の表面に金を被覆する方法に非電解メッキ法を用いると、微小な粒子表面全体に金被膜を形成することが容易である。
【0059】
本発明の人工歯根の製造方法では、加熱時に蒸発する接着剤を用いて芯材に球状粒子を付着させることにより、芯材を型に入れるまでの間に球状粒子が芯材から脱落しにくいので作業が容易になり、焼結後には接着剤が除去されるので接着剤により生体に害を与える惧れがない。
【0060】
また、芯材に球状粒子を付着する時に、球状粒子を2〜3粒子層の厚さで付着することにより、顎骨との結合性が高く、十分な強度を有する多孔層が形成される。さらに、球状粒子が平均直径30〜300μmの範囲で、球状粒子が真球比0.7〜1であると、実質的に有効な孔径を備えた連通孔を形成することができる。
【0061】
粒子の焼結後に、多数の連通孔に生体組織の増殖を促進する生体親和剤を含有する封孔剤を注入することにより、連通孔内への新生骨組織の侵入と成長とが促成され、短時間に強い結合が形成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係る人工歯根の斜視図(A)および断面図(B)を示す。
【図2】 本発明の実施例に係る人工歯根の芯材の斜視図を示す。
【図3】 本発明の実施例に係る人工歯根と犬の顎骨とのオッセオインテグレーションの状態を示す生体組織の模式的断面図を示す。
【図4】 従来の人工歯根(A、B)である。
【符号の説明】
1 人工歯根
11 結合部
2 芯材
21 把握部
22 小径部
24 底部
3 多孔層
31 球状粒子
32 貫通孔
T 新生骨組織
B 骨組織
Claims (13)
- チタン又はチタン合金からなる中実柱状の芯材と、芯材の側面に配置されてチタン又はチタン合金から成り焼結により結合した多数の球状粒子と該球状粒子の間に形成された多数の連通孔とから成る多孔層と、から構成された人工歯根において、
上記多数の球状粒子が金チタン合金からなる表面層を備え、該表面層により隣接する球状粒子が相互に結合されていることを特徴とする人工歯根。 - 多孔層が、球状粒子を2〜3粒子の厚みに形成して成る請求項1に記載の人工歯根。
- 球状粒子の平均直径が30〜300μmである請求項1又は2に記載の人工歯根。
- 球状粒子の平均真球比が0.7〜1である請求項1ないし3のいずれかに記載の人工歯根。
- 芯材の側面より上部に拡径部を設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の人工歯根。
- 多孔層の孔内に、生体組織の増殖を促進する生体親和剤を含有する封孔剤をさらに含んだ請求項1ないし5のいずれかに記載の人工歯根。
- チタン又はチタン合金から中実柱状の芯材を成形する工程と、
チタン又はチタン合金からなる多数の球状粒子の表面に金を被覆する工程と、
芯材の側面に多数の球状粒子を付着させる工程と、
芯材を加熱炉内に配置して球状粒子を焼結して多孔層を形成する工程と、を含む人工歯根の製造方法。 - 球状粒子の表面に金を被覆する工程が、非電解メッキ法を含む請求項7に記載の人工歯根の製造方法。
- 芯材に球状粒子を付着させる工程が、加熱時に蒸発する接着剤による接着を含む請求項7又は8に記載の人工歯根の製造方法。
- 芯材に球状粒子を付着させる工程において、球状粒子を2〜3粒子の層の厚さに付着する請求項7ないし9のいずれかに記載の人工歯根の製造方法。
- 球状粒子が平均直径30〜300μmである請求項7ないし10のいずれかに記載の人工歯根の製造方法。
- 球状粒子が平均真球比0.7〜1である請求項7ないし11のいずれかに記載の人工歯根の製造方法。
- 多孔層を形成する工程の後に、さらに、多孔層の孔内に生体組織の増殖を促進する生体親和剤を含有する封孔剤を注入する工程を含む請求項7ないし12のいずれかに記載の人工歯根の製造方法。
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