JP5785435B2 - インプラントの製造方法 - Google Patents

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本発明は,真空浸漬法に基づくインプラントの製造方法及びインプラントに関する。より詳しく説明すると,本発明は,真空中でインプラント表面を含浸させた後に,リン酸カルシウム系物質溶液にインプラントを浸漬することで,インプラント表面のみならず,インプラント表面の細孔や空隙内部にもハイドロキシアパタイトが均一にコーティングされる真空浸漬法に基づくインプラントの製造方法及びインプラントに関する。
下記非特許文献1には,浸漬法でチタン板上にハイドロキシアパタイトをコーティングすることが開示されている。この文献には,ハイドロキシアパタイトの懸濁液の調整方法,ハイドロキシアパタイトの濃度,浸漬回数とハイドロキシアパタイト薄膜の厚みの関係が開示されている。
非特許文献2には,浸漬法でハイドロキシアパタイトをコーティングしたインプラントが開示されている。そして,この文献では,そのインプラントを犬の大腿骨に埋入し,引っ張り試験で骨との結合力を測定した結果が開示されている。しかし,このインプラントは,ハイドロキシアパタイトが単にチタン上に沈殿しているだけであるから,インプラントと骨との結合力に問題がある。
特開2006−051498号公報には,医療インプラント装置を被覆するための装置が開示されている。
特開2006−051498号公報
Jun Hee Lee and Hideki Aoki;Hydroxyapatite Coating on Ti Plate by a Dipping Method,Bio-Materials and Engineering,Vol.5:49(1995). Tuantuan Li, Jun Hee Lee, Takayuki Kobayashi, Hideki Aoki,Hydroxyapatite coating by dipping method and bone bonding strength; J. Mater.Sci. Mater. Med. Vol.7:355(1996).
本発明は,生体内に埋入されたのち,骨と強固に結合するインプラントの製造方法を提供することを目的とする。
本発明はインプラント表面のみならず,インプラント表面の細孔や空隙内部にもハイドロキシアパタイトが均一にコーティングされたインプラントの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は,基本的には,インプラントを真空系で引くことにより,インプラントの細孔や空隙内の空気を取り除き,空気が取り除かれた状態で,水,リン酸カルシウム系溶液,又はリン酸カルシウム懸濁液をインプラントに含浸させる。すると,これらの液が細孔や空隙内に浸透するため,インプラントを大気にさらしても細孔内や空隙内に空気が入らない。この状態のまま,インプラントをリン酸カルシウム懸濁液に浸漬する。すると,細孔や空隙内にリン酸カルシウムが浸透するため,インプラント表面のみならず,インプラントの細孔や空隙にも均一なリン酸カルシウム薄膜を形成することができる。
本発明の第1の側面は,インプラントの製造方法に関する。この方法は,真空浸漬工程を含む。真空浸漬工程は,インプラント収容工程,真空化工程,真空含浸工程,浸漬工程,及び乾燥工程を含むインプラントの製造方法である。
インプラント収容工程は,真空チャンバ内にインプラントを収容する工程である。
真空化工程は,インプラント収容工程でインプラントを収容した真空チャンバを真空に引く工程である。
真空含浸工程は,真空化工程の後に,真空チャンバに収容されたインプラントに,水,リン酸カルシウム系溶液又は第1のリン酸カルシウム懸濁液を含浸させる工程である。
浸漬工程は,真空含浸工程の後に,真空チャンバからインプラントを取り出して,インプラントを第2のリン酸カルシウム懸濁液に浸漬する工程である。
乾燥工程は,浸漬工程の後に,インプラントを第2のリン酸カルシウム懸濁液から取り出して乾燥する工程である。
本発明の好ましい態様は,インプラントが,歯科用インプラントである。
本発明の好ましい態様は,真空化工程において,真空チャンバ内の真空度を,1×10−5気圧以上1×10−1気圧以下とする,インプラントの製造方法である。
本発明の好ましい態様は,真空化工程において,真空チャンバ内の真空度を,1mmHg以上50mmHg以下とする,インプラントの製造方法である。
本発明の好ましい態様は,真空含浸工程は,真空チャンバに収容されたインプラントに,第1のリン酸カルシウム懸濁液を含浸させる工程である。そして,第1のリン酸カルシウム懸濁液は,ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が懸濁した液である。
本発明の好ましい態様は,第1のリン酸カルシウム懸濁液は,リン酸カルシウム系物質を0.01質量%以上5質量%以下含む懸濁液である。
本発明の好ましい態様は,第2のリン酸カルシウム懸濁液は,ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が懸濁した液である。
本発明の好ましい態様は,第2のリン酸カルシウム懸濁液は,リン酸カルシウム系物質を0.01質量%以上5質量%以下含む懸濁液である。
本発明の好ましい態様は,インプラント収容工程,真空化工程,真空含浸工程,浸漬工程,及び乾燥工程を含め真空浸漬工程としたときに,真空浸漬工程を繰り返し行うものである。
本発明の好ましい態様は,乾燥工程の後にインプラントを水熱処理する水熱処理工程をさらに含み,水熱処理工程は,インプラントを100℃以上300℃以下,1気圧以上30気圧以下の雰囲気に1時間以上20時間以下さらす工程である。この態様において,真空浸漬工程を繰り返し行う場合は,最後の乾燥工程の後にインプラントを水熱処理する水熱処理工程をさらに含む。
本発明の第2の側面は,上記いずれかのインプラントの製造方法により製造されたインプラントに関する。
本発明によれば,生体内に埋入されたのち,骨と強固に結合するインプラントの製造方法を提供することができる。
本発明によれば,インプラント表面のみならず,インプラント表面の細孔や空隙内部にもハイドロキシアパタイトが均一にコーティングされたインプラントの製造方法を提供することができる。
本発明の第1の側面は,インプラントの製造方法に関する。この方法は,真空浸漬工程を含む。真空浸漬工程は,インプラント収容工程,真空化工程,真空含浸工程,浸漬工程,及び乾燥工程を含むインプラントの製造方法である。この真空浸漬工程に基づくインプラントの製造方法を本明細書において真空浸漬法ともよぶ。
インプラント収容工程は,真空チャンバ内にインプラントを収容する工程である。インプラントは,生体内に埋められる医療器具である。インプラントの例は,歯科用インプラントである。真空チャンバ(真空容器)は,容器と,ポンプとが接続され,容器内の空気が取り除かれる系である。真空チャンバの例は,真空デシケータである。真空チャンバの別の例は,真空室である。
真空化工程は,インプラント収容工程でインプラントを収容した真空チャンバを真空に引く工程である。真空化工程における到達真空度(最も低くしたときの真空度)の例は,真空チャンバ内の真空度を,1×10−5気圧以上1×10−1気圧以下とするものである。到達真空度は,1mmHg以上50mmHg以下でもよい。真空浸漬法では,真空チャンバ内でインプラントに液体を含浸するため,チャンバ内を超高真空にする必要はない。真空チャンバ内の気圧を下げるためには,真空チャンバと連結されたポンプを駆動すればよい。
真空含浸工程は,真空化工程の後に,真空チャンバに収容されたインプラントに,水,リン酸カルシウム系溶液又は第1のリン酸カルシウム懸濁液を含浸させる工程である。インプラントに,水,リン酸カルシウム系溶液又は第1のリン酸カルシウム懸濁液を含浸させるためには,真空チャンバ内で注射器等の液投与装置をインプラントへ向けて移動させ,インプラントへ液を噴霧すればよい。真空チャンバが,真空室であるように比較的容積の大きいものである場合は,噴霧機を用いて液をインプラントに噴霧塗布してもよい。その際,インプラントが回転できるようにしていれば,インプラントの全面に渡り液を噴霧できるため好ましい。真空装置内でインプラントを回転させる装置はすでに知られている装置(たとえば,特許第4334303号公報「スパッタリング装置用被覆体回転装置」を参照)を用いればよい。
上記の水の例は,純水である。純水であれば,真空チャンバ内の手入れが容易である。上記のリン酸カルシウム系溶液の例は,第1のリン酸カルシウム懸濁液は,ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が溶解した水溶液である。これらリン酸カルシウム系物質の濃度の例は,0.01質量%以上5質量%以下である。
本発明の好ましい態様は,真空含浸工程は,真空チャンバに収容されたインプラントに,第1のリン酸カルシウム懸濁液を含浸させる工程である。そして,第1のリン酸カルシウム懸濁液は,ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が懸濁した液である。第1のリン酸カルシウム懸濁液は,リン酸カルシウム系物質を0.01質量%以上5質量%以下含む懸濁液であることが好ましい。
水,リン酸カルシウム系溶液又は第1のリン酸カルシウム懸濁液の量は,インプラントの細孔や空隙に液が侵入し,インプラントが含浸する程度であればよい。
浸漬工程は,真空含浸工程の後に,真空チャンバからインプラントを取り出して,インプラントを第2のリン酸カルシウム懸濁液に浸漬する工程である。真空チャンバ内に,インプラントを放置すると,インプラントに含浸した液が蒸発する。そのため,真空チャンバ内の真空度を低真空にするほか,液をインプラントに含浸させた後,直ちに(たとえば,液をインプラントに含浸させた直後から10秒以内に)真空を破り,インプラントを取り出した後に,インプラントを第2のリン酸カルシウム懸濁液に浸漬することが好ましい。
第2のリン酸カルシウム懸濁液は,ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が懸濁した液であることが好ましい。第2のリン酸カルシウム懸濁液は,リン酸カルシウム系物質を0.01質量%以上5質量%以下含む懸濁液であることが好ましい。
浸漬工程は,インプラントを1秒以上10時間以下浸漬することが好ましく,10秒以上1時間以下でもよく,10秒以上5分以下でもよい。
乾燥工程は,浸漬工程の後に,インプラントを第2のリン酸カルシウム懸濁液から取り出して,乾燥する工程である。乾燥工程は,公知の乾燥方法を採用できる。乾燥方法の例は,風乾である。
本発明の好ましい態様は,インプラント収容工程,真空化工程,真空含浸工程,浸漬工程,及び乾燥工程を含め真空浸漬工程としたときに,真空浸漬工程を繰り返し行うものである。この際,ヒドロキシアパタイト層やリン酸カルシウム系物質の薄膜の膜厚を測定しつつ,所定の膜厚になるまで,繰り返し真空浸漬工程を繰り返すものが好ましい。
本発明の好ましい態様は,乾燥工程の後にインプラントを水熱処理する水熱処理工程をさらに含む。特に,第2のリン酸カルシウム懸濁液にハイドロキシアパタイトの前駆物質である,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,又はリン酸水素カルシウムを用い場場合は,乾燥工程の後にインプラントを水熱処理する水熱処理工程をさらに含むものが好ましい。水熱処理工程により,ハイドロキシアパタイトの前駆物質がハイドロキシアパタイトへと変化する。水熱処理工程は,インプラントを100℃以上300℃以下,1気圧以上30気圧以下の雰囲気に1時間以上20時間以下さらす工程である。この態様において,真空浸漬工程を繰り返し行う場合は,最後の乾燥工程の後にインプラントを水熱処理する水熱処理工程をさらに含む。
本発明の第2の側面は,上記いずれかのインプラントの製造方法により製造されたインプラントに関する。
本発明によれば,生体内に埋入されたのち,骨と強固に結合するインプラントの製造方法を提供することができる。
本発明によれば,インプラント表面のみならず,インプラント表面の細孔や空隙内部にもハイドロキシアパタイトが均一にコーティングされたインプラントの製造方法を提供することができる。
直径4mm,アバットメント長さ10mm,フィクスチャ長さ10mmのネジ状チタン製(JIS 2種)歯科用インプラントを20本用意した。インプラントのフィクスチャ表面にサンドブラスト処理を行い粗面加工した。サンドブラスト処理では,天然のフッ素アパタイト鉱物をブラスト材として用いた。次に,インプラントを1Nの塩酸中に3分間浸漬し,ブラスト材を溶解除去した後,超音波で3回水洗した。このようにして粗面化したインプラントの平均表面粗さRaは3μmであった。
水溶液法で合成された0.1μmのハイドロキシアパタイト微結晶を純水で懸濁させた0.01,0.1,1.0,10%のハイドロキシアパタイト懸濁液をそれぞれ1リットル調製した。
チタンインプラントの4本を空の4個の50mlビーカーに各1本入れ,4個のビーカーを4個のゴム栓をした真空デシケータ中に静置した。ロータリーポンプで徐々に真空にし,インプラント表面の細孔や空隙中の空気を除いた。その後,粗面加工されたチタンインプラントを回転させながらその表面に,ゴム栓を通して注射針で4個のデシケータ中に0.01,0.1,1.0,及び10%のハイドロキシアパタイト懸濁液を注入した後,乾燥してデシケータから取り出した。取り出したインプラントを,各々0.01,0.1,1.0,及び10%のハイドロキシアパタイト懸濁液中に1分間浸漬した。その後,懸濁液からアパタイトを取り出して,乾燥した(実施例1−1〜1−4)。
デシケータ中の真空度を,水が沸騰する真空度(20℃、20mmHg前後)以下に下げ,水をインプラントに含浸させた後,インプラントをデシケータから空気中に取り出した。取り出したインプラントを,0.1%のハイドロキシアパタイト懸濁液中に1分間浸漬した。その後,懸濁液からアパタイトを取り出して,乾燥した(実施例1−5)。
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて,これらのインプラントにおけるハイドロキシアパタイトの厚みを測定した。その結果,0.01%のハイドロキシアパタイト懸濁液を用いたものでは,10nm,0.1%では100nm,1%では1μm,10%では100μmのハイドロキシアパタイトがコーティングされていることが分かった。このようにハイドロキシアパタイト懸濁液中のハイドロキシアパタイト濃度が1〜10%の間で,ハイドロキシアパタイト層の厚みが急激に増した。したがってハイドロキシアパタイト懸濁液の濃度は,5%以下が望ましいといえる。
いずれの濃度のハイドロキシアパタイト懸濁液中でも浸漬回数を増やすとハイドロキシアパタイトの厚みが直線的に増大した。
[比較例1]
粗面加工されたチタンインプラントを100mlの0.01,0.1,1.0,及び10%のハイドロキシアパタイト懸濁液中に各2本を直接投入し,1分後に取り出し乾燥した(比較例1−1〜1−4)。
インプラントの断面を走査電顕で観察したところ,真空浸漬法でコーティングしたインプラント(実施例1−1〜1−4)の細孔内部や空隙内部にハイドロキシアパタイトが均一にコーティングされていることが明らかとなった。また,あらかじめ水を浸漬した後,0.1%のハイドロキシアパタイト懸濁液中に浸漬したインプラント(実施例1−5)の細孔内部にもハイドロキシアパタイトが均一にコーティングされていた。一方,真空にしないで直接ハイドロキシアパタイト懸濁液に投入したインプラント(比較例1−1〜1−4)は,表面の細孔部にまでハイドロキシアパタイトがコーティングされていなかった。
真空浸漬法でハイドロキシアパタイトをコーティングしたインプラントと真空にしないで直接ハイドロキシアパタイト懸濁液に投入して乾燥したインプラントの各2本を成犬顎骨に埋植し,2週間後にインプラント周囲の骨組織を病理組織学的に調べた結果,前者すなわち真空浸漬法のハイドロキシアパタイトコーティングインプラントの場合は,周囲の細孔内部にまで新生骨が侵入していたが,後者の場合,細孔部内部には新生骨の侵入が見られなかった。両者において,骨とインプラントの一体化において明らかな違いを示していた。
直径3.7mm,台形ネジ形状のフィクスチャ部長さ10mm,アバットメント長さ6mmで,フィクスチャ部表面をサンドブラストと酸処理でRa1.0μmの粗面に加工した1回法ワンピースのチタン製インプラントを作製した。さらにこのフィクスチャ部表面に通常のディッピング法と本発明の真空浸漬法によりハイドロキシアパタイトを厚さ1.0μmでコーティングしたハイドロキシアパタイトコーティングインプラントを作製した。両者の各4本をあらかじめ抜歯しておいた2匹の成犬の下顎両側に交互に,直径3.5mmのインプラント窩に2本ずつ埋植した。その結果,埋植2週後には本発明のハイドロキシアパタイトコーティングインプラントは全て動揺もなく,しっかりと顎骨に固定されていた。一方,チタン製インプラントの4本のうち2本は1ヶ月後でもやや動揺があった。ぺリオテスト値でもプラスを示していた。
直径5mm,全長8mmでネジ形状のフィクスチャ部の長さ4mmと4.5mmでフィクスチャ部表面をサンドブラストと酸処理でRa1.0μmの粗面に加工したチタン製ショートインプラントを作製した。さらにフィクスチャ表面に本発明の真空浸漬法を用いて,ハイドロキシアパタイトを厚さ50nmでコーティングしたショートインプラントも作製した。
これらのチタン製ショートインプラント及びハイドロキシアパタイトコーティングショートインプラントの各4本を,2匹の成犬の下顎の両側に2本ずつ交互に埋植した。埋植後歯肉は縫合し封鎖した。しかし,チタン製のショートインプラントの4本のうち1本は埋植後2週で,もう1本は1ヵ月後に脱落した。一方,本発明のハイドロキシアパタイトコーティングショートインプラントは4本全て動揺もなく安定的に定着していた。
埋植1ヶ月半後に,歯肉を剥離し,インプラント上部にあるネジ穴を使って金合金製上部構造をネジで取り付けた。しかし,チタン製ショートインプラントの2本は全て装着後1ヶ月以内に脱落した。一方,本発明のハイドロキシアパタイトコーティングショートインプラントは,脱落もなく1年以上も機能していた。本発明によるコーティング方法がショートインプラントにも最適であることが証明できた。
プラズマ溶射法でハイドロキシアパタイトを被覆する前に,実施例1で示したように,チタン基材の細孔や空隙中の空気を真空中で除去し,ハイドロキシアパタイト懸濁液を注入した後,空気中へ取り出し乾燥処理を行った。これにプラズマ溶射法でハイドロキシアパタイトをコーティングしたものと,従来のようにチタン表面に直接ハイドロキシアパタイトをコーティングしたものを,ハイドロキシアパタイトとチタンと結合力を引っ張り試験機で測定したところ,本処理を施したものが結合力は有意に大きいことが分かった。
1cm×1cm×1mmのチタン板の2枚の表面をフッ素アパタイトのショット材でブラストし,酸処理でフッ素アパタイトを溶解除去した。表面粗さRaは約1.0μmであった。これの1枚を真空デシケータ中に静置し,ロータリーポンプで真空としチタン板表面に真空中でハイドロキシアパタイト懸濁液を吹き付け,乾燥した。比較として,もう1枚の粗面加工したチタン板を大気中でハイドロキシアパタイト懸濁液を拭きつけ,乾燥した。この2枚をビーグル成犬の背中に埋入した。約2ヵ月後にチタン板の周囲の組織ごと摘出し,ホルマリン固定後,HE染色で組織学的に観察した。真空中で懸濁液を拭きつけたチタン板の表面では,小さな細孔にも軟組織で覆われていた。一方,大気中でハイドロキシアパタイトを吹き付けたチタン板では,細孔には軟組織の侵入は見られなかった。
多孔率50%の多孔質アルミナ(実施例5−1−1,5−1−2)及び多孔質チタン金属(実施例5−2−1,5−2−2)をそれぞれ本発明の真空浸漬法によりコーティングした。その際,0.1%及び1%のハイドロキシアパタイト懸濁液を用いた。一方,対照として,多孔率50%の多孔質アルミナ(比較例5−1−1,5−1−2)及び多孔質チタン金属(比較例5−2−1,5−2−2)を0.1%及び1%のハイドロキシアパタイト懸濁液に浸漬させた。その結果,本発明の真空浸漬法によりハイドロキシアパタイトをコーティングしたものは,ハイドロキシアパタイトが細孔内深部にも均一にコーティングされていた。本発明の真空浸漬法を用いることで,従来の浸漬法に細孔内部まで均一にコーティングすることができることが示された。また,この実施例により,本発明の真空浸漬法によれば,多孔質体の表面のみならず,多孔質に存在する細孔や空隙についても均一にコーティングすることができることがわかった。特に医療用インプラントは表面に均一なハイドロキシアパタイト層が存在するのみならず,細孔や空隙にハイドロキシアパタイト層が存在することが,骨置換を促進し,インプラントと骨との結合力を高めるために重要である。すなわち,本発明の真空浸漬法は,特にインプラントの骨との結合力を高めるために特に有効であることが示された。
粗面加工されたチタン板を複数枚用意した。それらのチタン板に本発明の真空浸漬法によりリン酸カルシウム層をコーティングした。具体的には,真空チャンバから取り出したチタン板をそれぞれリン酸カルシウムのβ型リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム及びリン酸水素カルシウム2水塩の0.1%懸濁液に浸漬し,乾燥させた(実施例6−1,6−2,6−3)。このようにして得られたチタン板を観測したところ,実施例5におけるものと同様に,細孔内部にまで均一な膜厚のリン酸カルシウム系物質層がコーティングされていた。続いて,これらのチタン板をステンレス製オートクレーブで150℃,3気圧で20時間水熱処理した。すると,これらのリン酸カルシウム系物質層は,いずれもハイドロキシアパタイトへ加水分解された(実施例6−4,6−5,6−6)。その結果,本実施例によっても,チタン板表面のみならず,チタン板の細孔内部にまで均一なハイドロキシアパタイト薄膜が形成されていた。
市販のチタン製インプラントを用いて,本発明による低真空の真空浸漬法で水を細孔内部に浸漬し,空気中に取り出し,3か月放置した。これの表面の濡れ性を調べたところ,未処理のチタン表面に比べて濡れ性が高く,表面が親水性に変化していた。
本発明は,医療機器の分野にて利用され得る。

Claims (10)

  1. 水,リン酸カルシウム系溶液又は第1のリン酸カルシウム懸濁液である含浸液を真空中でインプラントの表面に含浸させる工程を含むインプラントの製造方法であって,
    前記含浸液が存在しない真空チャンバ内にインプラントを収容するインプラント収容工程と,
    前記含浸液が存在しない状態で,前記インプラント収容工程でインプラントを収容した前記真空チャンバを真空に引く真空化工程と,
    前記真空化工程の後に,真空となった前記真空チャンバ内に前記含浸液を注入し,前記真空チャンバに収容されたインプラントに前記含浸液を含浸させる真空含浸工程と,
    前記真空含浸工程の後に,前記真空チャンバから前記インプラントを取り出して,前記インプラントを第2のリン酸カルシウム懸濁液に浸漬する浸漬工程と,
    前記浸漬工程の後に,前記インプラントを前記第2のリン酸カルシウム懸濁液から取り出して乾燥する乾燥工程と,を含む,
    インプラントの製造方法。
  2. 請求項1に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記インプラントが,歯科用インプラントである,
    インプラントの製造方法。
  3. 請求項1に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記真空化工程において,前記真空チャンバ内の真空度を,1×10−5気圧以上1×10−1気圧以下とする,
    インプラントの製造方法。
  4. 請求項1に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記真空化工程において,前記真空チャンバ内の真空度を,1mmHg以上50mmHg以下とする,
    インプラントの製造方法。
  5. 請求項1に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記真空含浸工程は,
    前記真空チャンバに収容されたインプラントに,第1のリン酸カルシウム懸濁液を含浸させる工程であり,
    前記第1のリン酸カルシウム懸濁液は,
    ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が懸濁した液である,
    インプラントの製造方法。
  6. 請求項5に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記第1のリン酸カルシウム懸濁液は,前記リン酸カルシウム系物質を0.01質量%以上5質量%以下含む懸濁液である,
    インプラントの製造方法。
  7. 請求項1又は請求項5に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記第2のリン酸カルシウム懸濁液は,
    ハイドロキシアパタイト,リン酸3カルシウム,リン酸8カルシウム,及びリン酸水素カルシウムから選択される1又は2種以上のリン酸カルシウム系物質が懸濁した液である,
    インプラントの製造方法。
  8. 請求項7に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記第2のリン酸カルシウム懸濁液は,前記リン酸カルシウム系物質を0.01質量%以上5質量%以下含む懸濁液である,
    インプラントの製造方法。
  9. 請求項1に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記インプラント収容工程,前記真空化工程,前記真空含浸工程,前記浸漬工程,及び前記乾燥工程を含め真空浸漬工程としたときに,
    前記真空浸漬工程を繰り返し行う,
    インプラントの製造方法。
  10. 請求項1又は請求項9に記載のインプラントの製造方法であって,
    前記乾燥工程の後に前記インプラントを水熱処理する水熱処理工程をさらに含み,
    前記水熱処理工程は,前記インプラントを100℃以上300℃以下,1気圧以上30気圧以下の雰囲気に1時間以上20時間以下さらす工程である,
    インプラントの製造方法。
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