JP4059035B2 - ニッケル粉末の製造方法、ニッケル粉末、導電性ペーストおよび積層セラミック電子部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ニッケル粉末の製造方法、この製造方法によって得られたニッケル粉末、このニッケル粉末を含む導電性ペースト、およびこの導電性ペーストを用いて構成された積層セラミック電子部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積層セラミックコンデンサに代表される積層セラミック電子部品に備える内部電極のような内部導体膜を形成するため、導電性ペーストが用いられている。
【0003】
積層セラミック電子部品の製造において、たとえば、数10ないし数μm程度の厚みのセラミックグリーンシートが用意され、このセラミックグリーンシート上に内部導体膜となる導電性ペーストからなる膜を印刷等により形成し、このようなセラミックグリーンシートを数枚ないし数100枚積層した後、所定の寸法にカットし、得られた生の積層体を900ないし1400℃前後の温度で焼成することが行なわれている。また、焼結後の積層体の外表面上には、たとえば、導電性ペーストを付与し焼き付けることによって、端子電極が形成される。
【0004】
上述の内部導体膜を形成するための導電性ペーストは、導電成分となる金属粉末と、有機溶剤および有機バインダからなる有機ビヒクルとを含み、さらに、必要に応じて、セラミックグリーンシートに含まれるセラミック粉末と実質的に同じセラミック粉末からなる焼結制御剤を含むことがある。なお、金属粉末としては、たとえばパラジウムに代表される貴金属の粉末に代わり、近年では、比較的安価なニッケル粉末または銅粉末が多く用いられるようになっている。
【0005】
また、近年では、積層セラミック電子部品に備えるセラミック層の薄層化および多層化が進んでいる。この場合、内部導体膜を形成するための導電性ペーストに含まれる金属粉末としては、平均粒径が小さく、粒径がより均一であって粗粒の少ないものが求められている。
【0006】
上述のような要望を満たし得る金属粉末の製造方法であって、広く一般的に用いられているものとして、たとえば特開平5−51610号公報または特開2000−87121号公報に記載されているように、水または有機溶媒中で、還元剤により金属塩を還元する液相法がある。この液相法を用いての金属粉末の製造方法において、各種条件を最適化することにより、セラミック層の薄層化および多層化に対応し得る金属粉末が製造されている。
【0007】
また、金属粉末の分散性を高めるため、たとえば特開平11−343501号公報に記載されるような方法によって、粉砕および解砕処理が施されることもある。
【0008】
また、液相法によって得られたニッケルを主成分とする金属粉末を含む導電性ペーストを、たとえば積層セラミックコンデンサの内部電極を形成するために用いた場合、セラミック層側の焼結開始温度とのミスマッチによるデラミネーションが生じることがある。これを防止するため、ニッケルを主成分とする金属粉末の焼結を抑制する方法が採用され、この焼結抑制を目的として、ニッケル以外の異種元素を添加することも行なわれている。
【0009】
たとえば、特開2001−303112号公報においては、苛性アルカリとヒドラジンおよび/またはヒドラジン水和物と希土類金属塩とニッケル塩とを含む混合溶液を作製し、希土類金属の水酸化物を析出させるとともに、ニッケル塩を還元し、希土類金属の水酸化物を取り込んだニッケル微粉末の製造方法が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
導電性ペーストに含まれる金属粉末の従来の製造方法においては、特に微粉末を得るため、特開平11−343501号公報に記載されるように、一旦、得られた粉末を、洗浄および乾燥の各工程を経た後、粉砕および解砕処理するようにしている。
【0011】
しかしながら、一般に、微粉末は、湿中からの乾燥時に発生する塩架橋により凝集が進むとされている。したがって、洗浄および乾燥の各工程を経た粉末を、粉砕および解砕処理する工程では、反応時または洗浄時の溶液内で発生する粉末凝集と乾燥時の塩架橋により発生する粉末凝集というような2つの凝集因子をもつ粉末を粉砕および解砕処理する必要があり、単分散に近い状態にまで粉末を分散させることが困難となる場合がある。
【0012】
上述のように、金属粉末の解砕が不十分であると、金属粉末中に、その平均粒径より大きな凝集粒子が存在することになる。そして、このような凝集粒子がそのまま解砕または分散されずに残った金属粉末を含む導電性ペーストを用いて、たとえば積層セラミックコンデンサに備える内部電極を形成すると、特に、内部電極に挟まれたセラミック層の焼結後の厚みがたとえば5μm以下と薄い場合、セラミック層を挟む内部電極間で電気的にショートし、積層セラミックコンデンサの歩留まりを大きく低下させるという問題が生じることがある。
【0013】
上述の問題を解決するため、金属粉末の分級処理を予め行ない、凝集粒子を除去した上でペースト化するといった方法も採られているが、この場合には、金属粉末の歩留まりが著しく低下してしまうという問題に遭遇することになる。
【0014】
また、凝集粒子を、ペースト化工程において分散および解砕する場合もあるが、特に、凝集が強固な場合、3本ロールミル等によって加える分散力では十分に解砕できなかったり、あるいは、分散工程に長時間を必要としたりするなどの不具合が生じることがある。
【0015】
なお、上述した説明では、特にニッケル粉末に限らず、一般的な金属粉末についての問題点を明らかにしたが、この発明では、より特定的に、ニッケル粉末に対する問題の解決が図られる。
【0016】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、ニッケル粉末の製造方法およびこの製造方法によって得られたニッケル粉末を提供しようとすることである。
【0017】
この発明の他の目的は、上述したニッケル粉末を含み、積層セラミック電子部品の内部導体膜を形成するために有利に用いられる、導電性ペーストを提供しようとすることである。
【0018】
この発明のさらに他の目的は、上述した導電性ペーストを用いて構成される積層セラミック電子部品を提供しようとすることである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
この発明は、まず、ニッケル粉末の製造方法に向けられる。この発明に係るニッケル粉末の製造方法は、炭酸イオンと苛性アルカリと還元剤とを含む、還元剤溶液を準備する工程と、ニッケル塩と、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩、イットリウム塩、ジルコニウム塩およびマンガン塩のうちの少なくとも1種の塩とを含む、ニッケル塩溶液を準備する工程と、上述した還元剤溶液とニッケル塩溶液とを混合して、金属ニッケルと、前記塩の金属および炭素を含有する化合物とを析出させる工程と、析出した金属ニッケルおよび前記化合物を含む混合粉末を未乾燥の状態で解砕する工程とを備えることを特徴としている。
【0020】
好ましくは、混合粉末を上述したように解砕するにあたって、スラリー状の混合粉末をメディアと衝突させて解砕する工程、または、スラリー状の混合粉末をロータ部とステータ部との間を通過させてせん断力により解砕する工程が実施される。
【0021】
この発明は、また、上述のような製造方法によって得られた、ニッケル粉末にも向けられる。この発明に係るニッケル粉末は、平均粒径が1μm以下であることを特徴としている。なお、本明細書において記載したニッケル粉末の平均粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)観察により求めたものである。
【0022】
この発明は、また、上述したニッケル粉末と有機ビヒクルとを含む、導電性ペーストにも向けられる。
【0023】
さらに、この発明は、積層された複数のセラミック層およびセラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える、積層セラミック電子部品にも向けられる。この発明に係る積層セラミック電子部品は、内部導体膜が、上述した導電性ペーストの焼結体から構成されることを特徴としている。
【0024】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明にとって興味ある積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【0025】
積層セラミックコンデンサ1は、積層体2を備えている。積層体2は、誘電体セラミックからなる積層された複数のセラミック層3と、複数のセラミック層3の間の特定の複数の界面に沿ってそれぞれ延びる複数の内部導体膜4および5とを備えている。
【0026】
内部導体膜4および5は、積層体2の外表面にまで到達するように形成される。より詳細には、積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部導体膜4と他方の端面7にまで引き出される内部導体膜5とが、積層体2の内部において、セラミック層3を介して静電容量が得られるように互いに対向しながら交互に配置されている。
【0027】
上述の静電容量を取り出すため、積層体2の外表面上であって、端面6および7上には、内部導体膜4および5のいずれか特定のものに電気的に接続されるように、外部電極8および9がそれぞれ形成されている。
【0028】
このような積層セラミックコンデンサ1において、内部導体膜4および5は、導電性ペーストの焼結体から構成され、この導電性ペーストは、この発明に係る製造方法によって得られたニッケル粉末と有機ビヒクルとを含むものである。
【0029】
導電性ペーストに含まれるニッケル粉末は、炭酸イオンと苛性アルカリと還元剤とを含む、還元剤溶液を準備するとともに、ニッケル塩と、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩、イットリウム塩、ジルコニウム塩およびマンガン塩のうちの少なくとも1種の塩とを含む、ニッケル塩溶液を準備し、これら還元剤溶液とニッケル塩溶液とを混合して、金属ニッケルと、前記塩の金属および炭素を含有する化合物とを析出させ、この析出した金属ニッケルおよび前記化合物を含む混合粉末を、乾燥工程を経ずに、すなわち未乾燥の状態で解砕することによって得られたものである。
【0030】
このようなニッケル粉末の製造方法における第1の特徴は、乾燥工程を経た粉末にたとえばせん断力による解砕を加えるのではなく、水または有機溶剤中での還元剤を用いた還元反応によって得られたニッケルを主成分とする粉末すなわち上述の混合粉末を、未乾燥の状態で、そのまま水または有機溶剤中で解砕することにある。
【0031】
すなわち、乾燥前の金属粉末は、洗浄から乾燥に至る工程において生じる塩架橋による凝集を受けていないため、凝集自身を低減することができる。しかも、乾燥前の金属粉末を解砕するようにすれば、乾燥後の金属粉末を解砕する場合に比べて、より容易にかつより効果的に凝集を解くことができ、たとえば、乾燥後の分散工程において解砕できないような凝集であっても、これを解砕することが可能となる。
【0032】
前述したようなニッケル粉末の製造方法における第2の特徴は、水または有機溶剤中での還元剤を用いた還元反応によって得られたニッケルを主成分とする粉末は、炭素とアルカリ土類金属とを含む化合物、炭素と希土類元素とを含む化合物、炭素とイットリウムとを含む化合物、炭素とジルコニウムとを含む化合物および炭素とマンガンとを含む化合物のうちの少なくとも1種を還元反応中に取り込んでいることにある。
【0033】
上述の炭素は、アルカリ土類金属、希土類金属、イットリウム、ジルコニウムまたはマンガンとの炭酸塩または塩基性炭酸塩などの形態であってもよい。
【0034】
特に、ニッケル粉末に取り込まれる化合物が、炭酸イオンと金属イオンの酸性塩との混合によって生成し析出する化合物である場合、この析出物の液相での過飽和度を高くしやすく、したがって、ニッケル粉末の表面に均質に析出させることが容易であるため、凝集を効率良く抑制することができる。
【0035】
また、金属ニッケルとともに析出する化合物は、水酸化物などの場合に比べて、親水性の低い表面をニッケル粉末に与えることができる。したがって、このような化合物が析出したニッケル粉末をペースト化した場合、ペーストの印刷性の低下や増粘といった不具合が生じにくい。
【0036】
アルカリ土類金属塩のような塩の金属および炭素を含有する化合物は、これまでは、導電性ペーストにおいて、ニッケルを主成分とする金属粉末の焼結抑制を目的として加えられていた。この発明においても、このような化合物は、ニッケル粉末の焼結抑制効果を発揮することは否定しない。特に、この化合物が、炭酸イオンと金属イオンの酸性塩との混合によって生成し、析出する化合物である場合、たとえば、融点が1740℃の炭酸バリウムや融点が1497℃の炭酸ストロンチウムなどのように、高温域まで安定でかつ焼結抑制効果の高いものが得られる。
【0037】
この発明では、還元反応中に、ニッケル粉末が上述した化合物を取り込むことにより、反応時におけるニッケル粉末の凝集を抑制し、未乾燥状態での解砕に際して、分散性がより向上することが見出されている。
【0038】
上述の化合物は、水または有機溶剤中での還元剤を用いたニッケル塩の還元反応において、この反応溶液中に析出し、還元された金属ニッケル中に取り込まれるものである。したがって、この化合物は、ニッケル粉末の内部に存在すると同時に、ニッケル粉末の表面にも存在する。
【0039】
通常、還元剤によるニッケル塩から金属ニッケルへの還元は、すべての反応が同時に起こるわけではなく、ある広がりをもった時間の範囲で還元が進行すると考えられる。すなわち、大部分のニッケル塩が金属ニッケルに還元された時点においても、一部のニッケル塩は、還元反応の途中にあり、遅れて金属ニッケルへと還元される。ここで、遅れて還元されるニッケル塩は、比較的活性である既に生成したニッケル粉末の表面に、めっき反応のように析出すると考えられる。この場合、既に生成した複数のニッケル粉末が、その磁性等により接触していた場合、遅れて還元されるニッケル塩は、接触している複数のニッケル粉末の表面に析出するため、その接触、言い換えると、その凝集を固定し、解砕の困難な凝集粉末になると考えられる。
【0040】
これに対して、上述した塩の金属および炭素を含有する化合物がニッケル粉末の表面に存在する場合、この化合物の存在がニッケル粉末同士の接触を防ぐため、遅れて還元されるニッケル塩がニッケル粉末の表面に析出しても、その凝集を固定したり、解砕の困難な凝集粉末となることはない。
【0041】
したがって、上述した塩の金属および炭素を含有する化合物を取り込んだニッケル粉末によれば、反応時の凝集が抑制され、その後の未乾燥状態での解砕において、分散性がより向上するものと考えられる。
【0042】
なお、ニッケル粉末に取り込まれた塩の金属および炭素を含有する化合物は、たとえば積層セラミックコンデンサ1を製造するために実施される脱バインダないし焼成工程において分解され、金属酸化物と炭酸ガスに変化する。この金属酸化物は、積層セラミックコンデンサ1のセラミック層3を構成するセラミック材料の主成分または添加成分と同等であることが多い。したがって、このような金属酸化物が、積層セラミックコンデンサ1の内部導体膜4および5に含まれていたとしても、積層セラミックコンデンサ1の電気的特性や信頼性に対する影響が少なく、あるいは、たとえ影響が生じても、これを他の手段によって減殺することが比較的容易である。
【0043】
特に、上述の化合物に含有される塩の金属は、アルカリ土類金属であることが好ましい。なぜなら、アルカリ土類金属は、これが、たとえば積層セラミックコンデンサ1の内部導体膜4および5に含まれていたとしても、希土類金属、イットリウム、ジルコニウムまたはマンガンと比較すれば、積層セラミックコンデンサ1の電気的特性や信頼性に対する影響がほとんどなく、格別な問題を引き起こすことがないからである。
【0044】
塩の金属および炭素を含有する化合物のニッケル粉末への共析量は、ニッケル100モルに対して0.05〜5モルの範囲にあることが好ましい。この共析量が0.05モルより少ないと、反応時のニッケル粉末の凝集を防止する効果が十分に得られず、未乾燥状態での解砕処理によっても、解砕できない凝集の生成量が増加してしまう。他方、共析量が5モルより多いと、セラミック層3に対する影響を無視できなくなり、電気的特性や信頼性を劣化させるような影響を除去しきれなくなる場合がある。
【0045】
還元剤溶液に含まれる還元剤としては、金属ニッケルをアルカリ性領域で還元析出できるものであることが好ましく、たとえば、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、次亜リン酸塩または水素化ホウ素塩を有利に用いることができる。
【0046】
ヒドラジンまたはヒドラジン水和物は、これを還元剤として用いると、析出した金属ニッケルを主成分とするニッケル粒子に不必要な残留物が残らない点で好ましい。実際には、水素化ホウ素ナトリウムや次亜リン酸ナトリウムを用いた場合、ニッケル粒子中に生成するホウ素成分やリン成分を少なくする目的で、水素化ホウ素ナトリウムまたは次亜リン酸ナトリウムと抱水ヒドラジンとの混合物を用いることが好都合である場合がある。また、水素化ホウ素ナトリウムの代わりに、ニッケル中に残留するホウ素成分を低減する目的で、ジメチルアミンボロンを用いることもできる。
【0047】
還元剤溶液に含まれる苛性アルカリとしては、たとえば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムおよびアンモニアの中から選ばれた少なくとも1種を用いることができる。
【0048】
還元剤溶液に含まれる炭酸イオンとしては、たとえば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムなどを用いることができ、また、CO2 ガスの曝気によって還元剤溶液に供給することもできる。特に、CO2 ガスの曝気による場合には、炭酸イオンの供給量を制御することによって、上述した化合物の析出状態を制御しやすいという特徴があり、また、析出させようとする化合物の過飽和の状態を容易に作り出すことができ、このような化合物によってニッケル粒子を均一にコートした状態を容易に得ることができるという特徴がある。
【0049】
ニッケルの還元には、通常、水を溶媒として用いるが、より均一なニッケル粉末を作製するには、還元剤溶液およびニッケル塩溶液の少なくとも一方における溶媒の少なくとも一部として、水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、ニッケル塩を溶解しやすいアルコール類を好適に用いることができる。特に、メタノール、エタノールまたはプロパノールなどをこの目的のために好適に用いることができる。
【0050】
ニッケル塩溶液に含まれるニッケル塩は、反応溶媒として用いる水または有機溶剤に容易に溶解し得るものであることが好ましく、このようなニッケル塩として、たとえば、ニッケルの塩化物、硫酸塩および硝酸塩の中から選ばれた少なくとも1種が有利に用いられる。
【0051】
ニッケル塩溶液に含まれるアルカリ土類金属塩、希土類金属塩、イットリウム塩、ジルコニウム塩およびマンガン塩も、また、反応溶媒として用いる水または有機溶剤に良好に溶解し得るものであることが好ましい。
【0052】
アルカリ土類金属塩としては、たとえば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムの各々の水酸化物、塩化物、炭酸塩、珪酸塩、硝酸塩またはカルボン酸塩を好適に用いることができる。
【0053】
希土類金属塩としては、ランタン化合物、セリウム化合物、ネオジウム化合物、サマリウム化合物、ユウロピウム化合物、ガドリニウム化合物、テルビニウム化合物、ジスプロシウム化合物およびイッテルビウム化合物が挙げられる。これらは、たとえば特開2001−303112号公報にも記載されているように、水酸化物として析出が可能であるという特徴を有している。これら希土類金属は、積層セラミックコンデンサ1のセラミック層3において用いられるセラミック材料とのマッチングを考慮して選択される。
【0054】
イットリウム塩、ジルコニウム塩およびマンガン塩としては、たとえば、オキシ酸塩、塩化物、硫酸塩および硝酸塩の中から選ばれた少なくとも1種の塩が用いられる。
【0055】
さらに、ニッケル粉末の粒径を制御する目的で、錯化剤が反応系に添加されてもよい。錯化剤としては、たとえば、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸等のカルボン酸や、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸等の窒素含有のカルボン酸などを適宜使用することができる。
【0056】
より特定的な好ましい実施形態では、水が反応溶媒として用いられ、苛性アルカリとして、水酸化ナトリウムが単独で用いられる。そして、還元剤溶液を得るため、上述の溶媒中に水酸化ナトリウムを0.5〜15モル/リットルのモル濃度で溶解させるとともに、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を、金属塩を還元するための化学量論的に必要な量からこの量の15倍までの範囲で溶解させる。さらに、炭酸水素ナトリウムを、共析させる金属の炭酸塩を生成させるために化学量論的に必要な量からこの量の10倍までの範囲で溶解させる。
【0057】
他方、ニッケル塩溶液を得るため、水に、アルカリ土類金属、希土類金属、イットリウム、ジルコニウムおよびマンガンの各塩化物のいずれかを、ニッケル100モルに対して、0.05ないし5モルの範囲で添加する。さらに、ニッケル塩として硫酸ニッケルを添加し、また、錯化剤としてクエン酸をニッケルに対して等量モル程度添加して、ニッケル塩溶液を作製する。
【0058】
次に、上述した還元剤溶液とニッケル塩溶液とを混合し、炭素とアルカリ土類金属とを含む化合物、炭素と希土類元素とを含む化合物、炭素とイットリウムとを含む化合物、炭素とジルコニウムを含む化合物、および/または炭素とマンガンとを含む化合物を析出させるとともに、ニッケル塩を還元して、上述した化合物を取り込んだニッケルを主成分とするニッケル粉末を作製する。
【0059】
上述した還元剤溶液とニッケル塩溶液との混合方法については、特に限定はしないが、還元剤溶液中にニッケル塩溶液を投入した方が好ましい。反応温度についても、特に限定はしないが、通常、還元剤の還元力を高めるため、40〜90℃の温度範囲に設定される。
【0060】
次に、上述した化合物を取り込んだニッケル粉末が未乾燥の状態で解砕される。
【0061】
上述の解砕方法としては、たとえば、ボールミルやポットミルやサンドミルを用いた解砕のように、メディアの衝突による解砕、またはロータ部とステータ部との間を通過させてせん断力を作用させることによる解砕を適用することができる。
【0062】
ここで、分散メディアを用いる分散機、たとえばポットミルやサンドミルによる粉砕では、ニッケル粒子の変形やメディアからの汚染が発生する可能性があるため、これらを防止し得る条件設定が必要である。しかしながら、前述のようにして得られたニッケル粉末は、還元反応中に塩の金属および炭素を含有する化合物を取り込んでいるため、解砕されやすく、したがって、前述した条件設定は比較的容易である。
【0063】
上述したメディアは、硬度が高く、小径のものが適している。好ましくは、メディアとして、安定化ジルコニウムビーズが用いられ、その粒径については、ボールミルであれば、5mm以下のものが用いられ、サンドミルであれば、2mm以下、より好ましくは1mm以下のものが用いられる。
【0064】
他方、ロータ部とステータ部との間を通過させてせん断力により解砕する形式の分散機が用いられる場合には、ニッケル粒子の変形やメディアからの汚染の問題がなく、メディアを用いた解砕の場合のように、メディアに付着する粉末のロスの問題が生じず、水または有機溶剤中に存在するニッケル粉末に対して、効果的なせん断力が加えられるため、より好適に用いることができる。
【0065】
上述したロータ部とステータ部との間隔は、0.1〜1.5mmに設定されることが好ましく、より好ましくは、0.1〜1.0mmに設定される。また、ロータ部は、4m/秒以上の周速をもって回転されることが好ましい。
【0066】
上述のように、ロータ部とステータ部とが与えるせん断力は、ロータ部とステータ部との間隔が狭いほど、およびロータ部の周速が高いほど、向上する。
【0067】
なお、ロータ部とステータ部との間隔の下限値として、上述のように、0.1mmを選んだのは、ロータ部とステータ部との現状での機械的な加工精度の問題のためであり、この機械的な加工精度が向上した場合には、ロータ部とステータ部との間隔を0.1mm未満に選んでもよい。
【0068】
解砕工程は、前述したように、還元反応によって析出した金属ニッケルと、塩の金属および炭素を含有する化合物とを含む混合粉末に対して、乾燥工程を経ず、未乾燥の状態で実施されることが重要である。したがって、未乾燥の状態である限り、解砕工程は、混合粉末の洗浄時に行なっても、洗浄後に行なってもよい。
【0069】
解砕工程において、たとえば、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、ノニオン性高分子分散剤、カチオン性高分子分散剤、アニオン性高分子分散剤等の分散剤を加えて、分散および解砕効果を高めるようにしてもよい。
【0070】
また、解砕工程の結果得られたニッケル粉末の粒径が0.5μm以下と小さい場合には、スラリー中でのニッケル粉末の沈降速度が著しく低くなり、スラリーからの分離が困難となり、そのため、ニッケル粉末の回収が困難になることがある。この場合には、遠心分離を適用すれば、ニッケル粉末の分離および回収を容易に行なうことができる。たとえば、ニッケル粉末の平均粒径が0.5μm程度の場合には、100G以上の重力加速度による遠心分離が適用され、平均粒径が0.1μm以下の場合には、1000G以上の重力加速度による遠心分離が適用される。
【0071】
このようにして、たとえば平均粒径が1μm以下というように小さく、粒径が均一であって粗粒の少ないニッケル粉末を得ることができる。
【0072】
以上のようにして得られたニッケル粉末を、有機バインダおよび有機溶剤からなる有機ビヒクルならびに必要な添加剤と混合して分散混合処理を行なうことによって、導電性ペーストが得られる。
【0073】
なお、このような導電性ペーストを得るための工程において、前述した解砕工程を実施するようにしてもよい。この場合、必要に応じて、解砕工程での混合粉末の分散媒を、導電性ペーストに含有されるべき有機溶剤との置換が行なわれる。
【0074】
この導電性ペーストを、たとえば、内部導体膜4および5の形成のために用いて、図1に示すような積層セラミックコンデンサ1が次のようにして製造される。
【0075】
まず、セラミック層3となるべき、たとえばチタン酸バリウム系のような誘電体セラミックのための原料粉末を含むセラミックグリーンシートが用意され、セラミックグリーンシート上に、上述した導電性ペーストを用いて、所望のパターンを有する内部導体膜4および5のための導電性ペースト膜が印刷等によって形成される。
【0076】
上述の印刷に際しては、導電性ペーストの粘度を調整することにより、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、グラビア−オフセット印刷、インクジェット印刷等の様々な印刷方法を適用することができる。
【0077】
次に、上述のように、導電性ペースト膜がそれぞれ形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートが積層され、熱圧着されることによって、一体化された積層体2の生の状態のものが得られる。
【0078】
次に、生の積層体2は、焼成される。この焼成では、導電性ペースト膜がニッケルを含んでいるので、還元性雰囲気が適用される。このような焼成によって、セラミックグリーンシートは、焼結されて、セラミック層3となり、導電性ペースト膜は、焼結されて、内部導体膜4および5となる。
【0079】
次に、積層体2の端面6および7上に、それぞれ、外部電極8および9が形成される。外部電極8および9は、金属粉末およびガラスフリットを含む導電性ペーストを付与し、これを焼き付けることによって形成される。外部電極8および9上には、必要に応じて、ニッケル、銅、半田または錫などのめっきが施される。
【0080】
なお、以上の説明は、積層セラミックコンデンサについて行なったが、この発明に係る製造方法によって得られたニッケル粉末を含む導電性ペーストは、積層された複数のセラミック層およびセラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える積層セラミック電子部品であれば、積層セラミックコンデンサ以外の積層セラミック電子部品においても、内部導体膜を形成するために有利に用いることができる。
【0081】
次に、この発明を、以下の実験例に基づいて、より具体的に説明する。
【0082】
【実験例1】
1.ニッケル粉末の作製
(1)試料1(比較例)
240gの水酸化ナトリウムを700mlの水に溶解したものに、300gの抱水ヒドラジンを添加した後、さらに水を加えて、全量を1500mlとして、還元剤溶液を作製した。この還元剤溶液を、湯浴上にて60℃の温度に加温した。
【0083】
他方、468gの塩化ニッケル6水和物および400gのクエン酸三ナトリウムを水に溶解して、全量を1500mlとすることによって、ニッケルイオンおよび錯化剤を含有するニッケル塩溶液を作製した。このニッケル塩溶液を、湯浴上にて60℃の温度に加温した。
【0084】
次いで、ニッケル塩溶液を、還元剤溶液中に、500ml/分の割合で添加した。この添加を終えて20〜30分後には、反応液中にニッケルイオンがなくなり、反応が終了した。反応終了後、溶液をろ過することにより、ニッケル粉末を取り出した後、このニッケル粉末を水洗し、次いで、エタノールを用いて水との置換を行ない、さらに、100℃の温度に設定されたオーブンにて乾燥させ、試料1に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0085】
この試料1に係るニッケル粉末については、乾燥状態のまま保管した。
【0086】
(2)試料2(比較例)
試料1の作製において、ニッケル粉末の水洗までの工程を、試料1の場合と同様に実施し、水洗後のニッケル粉末を、そのまま水中で保管した。
【0087】
次に、水中で保管したニッケル粉末に対して、解砕処理を施した。解砕処理にあたっては、特殊機化工業株式会社製の「T.Kホモミクサー MARK II」型の解砕機を用いて、ロータ部とステータ部との間隔を0.5mmに調整し、20m/秒の周速によって解砕処理を施した。容器としては、10リットルビーカーを用い、液量を5リットルとした。解砕時間は50分間とした。なお、解砕処理中のスラリー温度の上昇を防止するため、ビーカーのまわりを15℃の温度に設定した冷水で冷却した。
【0088】
次に、1000Gの重力加速度による遠心分離を3分間行ない、解砕液からのニッケル粉末の分離を行ない、試料2に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0089】
次に、この粉末を、5リットルビーカー中に投入し、3リットルのエタノールを加えた。さらに、上記解砕機を用いて、ロータ部の周速を2m/秒として10分間攪拌し、水をエタノールで置換した。
【0090】
このエタノールによる置換は2回行ない、その都度、遠心分離によって、粉末を分離した。
【0091】
そして、エタノールで置換された試料2に係るニッケル粉末は、そのままエタノール中で保管した。
【0092】
(3)試料3(実施例)
試料2の作製において、ニッケル塩溶液中に、ニッケル100モルに対して、1.0モルの塩化ネオジウムを添加し、他方、還元剤溶液中に、抱水ヒドラジンの3倍モルの炭酸ナトリウムを添加したことを除いて、試料2の場合と同様の工程を実施し、試料3に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。なお、この試料3の作製においては、解砕機での周速を15m/秒とした。
【0093】
得られた試料3に係るニッケル粉末は、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0094】
(4)試料4(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化イットリウムを添加したことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施し、試料4に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0095】
得られた試料4に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0096】
(5)試料5(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えてオキシ塩化ジルコニウムを添加したことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料5に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0097】
得られた試料5に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0098】
(6)試料6(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化マンガンを添加したことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料6に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0099】
得られた試料6に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0100】
(7)試料7(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化マグネシウムを添加したことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料7に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0101】
得られた試料7に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0102】
(8)試料8(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化カルシウムを添加したことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料8に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0103】
得られた試料8に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0104】
(9)試料9(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化ストロンチウムを添加したことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料9に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0105】
得られた試料9に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0106】
(10)試料10(比較例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化バリウムを添加したこと、および解砕処理を実施しなかったことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料10に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0107】
得られた試料10に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0108】
(11)試料11(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化バリウムを添加したこと、および解砕処理において、ポット分散を用いたことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料11に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。なお、ポット分散においては、1リットルの容器中に、水で湿った状態にあるニッケル粉末と、200gの直径2mmのPSZ玉石と、400ccの水とを加え、70rpmの回転数で2時間回転を加え、解砕処理を実施した。
【0109】
得られた試料11に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0110】
(12)試料12(実施例)
試料3の作製において、ニッケル塩溶液中に、塩化ネオジウムに代えて塩化バリウムを添加したこと、および解砕処理において、ロータ部の周速を4m/秒としたことを除いて、試料3の場合と同様の工程を実施して、試料12に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0111】
得られた試料12に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0112】
(13)試料13(実施例)
試料12の作製において、解砕処理でのロータ部の周速を15m/秒としたことを除いて、試料12の場合と同様の工程を実施して、試料13に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0113】
得られた試料13に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0114】
(14)試料14(実施例)
試料12の作製において、解砕処理でのロータ部の周速を20m/秒としたことを除いて、試料12の場合と同様の工程を実施して、試料14に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。
【0115】
得られた試料14に係るニッケル粉末についても、試料2の場合と同様の工程を経て、エタノール中に保管した。
【0116】
(15)試料15(実施例)
試料14の場合と同様の工程を実施して、試料15に係るSEMによる平均粒径150nmのニッケル粉末を得た。この試料15においては、エタノール中で保管せずに、ニッケル粉末をエタノールから分離し、100℃の温度に設定されたオーブン中で乾燥させ、この乾燥状態で保管した。
【0117】
2.導電性ペーストの作製
まず、試料2〜14については、エタノールを分散媒としてニッケル粉末を含むスラリーの比重を測定し、スラリー中に含まれるニッケル粉末の重量比率を予め算出しておいた。
【0118】
次に、100gのニッケル粉末に対して、分散剤としての1gのステアリン酸と希釈溶剤としての200mlのエタノールとを混合して第1ミルベースを得た。次に、この第1ミルベースを、直径2mmの玉石とともに、容積0.5リットルの樹脂ポット中に投入した。
【0119】
なお、上述の工程において、第1ミルベースに含まれるニッケル粉末については、乾燥状態の試料1および15では、そのままの状態で100gを秤量し、これを第1ミルベースに添加し、他方、試料2〜14では、スラリー中に含まれるニッケル粉末の重量比率に基づいて、ニッケル粉末が100gとなるようにスラリーを秤量し、これを第1ミルベースに添加した。
【0120】
また、第1ミルベースにおける希釈溶剤としてのエタノールについては、試料1および15では、200mlのエタノールを第1ミルベースに加え、他方、試料2〜14では、ニッケル粉末を含むスラリー中のエタノールと合算して200mlとなるように、エタノールを秤量し、これを第1ミルベースに加えた。
【0121】
次に、上記ポットを一定回転速度で12時間回転させてポットミル分散処理を行ない、第1スラリーを得た。
【0122】
次に、上記ポット中に、10重量部のエチルセルロース系バインダを90重量部のテルピネオールに溶解して作製された99gの有機ビヒクルを添加し、さらに、一定回転速度で12時間回転させて、ポットミル分散処理を行ない、第2スラリーを得た。
【0123】
次に、第2のスラリーを減圧下で70℃の温度に加熱して、希釈溶剤を除去し、その後、減圧蒸留して、各試料に係る導電性ペーストを得た。
【0124】
3.評価
上述のようにして作製された試料1〜15の各々に係る導電性ペーストを、スクリーン印刷により、ガラス基板上に印刷した。塗布厚みは、1.0μmとした。
【0125】
次に、印刷した塗膜の表面粗さ(Ra)を、干渉縞を用いた表面形状測定装置によって測定した。ここで、印刷塗膜の表面粗さ(Ra)は、その大小が粉末の分散度を表わす指標となる。すなわち、Ra値が小さいほど、導電性ペーストに含まれているニッケル粉末の分散性が良好であるということになる。
【0126】
この表面粗さ(Ra)の測定結果が表1に示されている。
【0127】
なお、表1には、各試料に係るニッケル粉末において共析した塩の金属の種類およびその共析量が、「共析金属」および「共析量」の欄にそれぞれ示されている。「共析量」は、ニッケル100モルに対するモル数で表わされている。また、表1には、各試料に係るニッケル粉末に含有される炭素の量が「炭素量」の欄に示されている。この「炭素量」は、ニッケル100モルに対するモル数で示されている。
【0128】
【表1】
【0129】
表1を参照して、試料1は、反応後に解砕処理が行なわれず、かつ乾燥工程を経てペースト化され、さらに、アルカリ土類金属などの金属および炭素を含有する化合物が共析されていない試料である。この試料1では、印刷塗膜の表面粗さ(Ra)は、305nmを示した。
【0130】
次に、試料2は、反応後に解砕処理が行なわれ、かつ乾燥工程を経ないでペースト化されたものであるが、アルカリ土類金属などの金属および炭素を含む化合物が共析されていない試料である。この試料2の表面粗さ(Ra)は、221nmとなり、上述の試料1についての305nmより小さくなった。この84nmの差が、反応後に解砕処理を行ない、かつ乾燥工程を経ないでペースト化したことによる効果であると考えられる。
【0131】
これらに対して、試料3〜9および11〜14は、反応後に解砕処理を行ない、かつ乾燥工程を経ないでペースト化するとともに、アルカリ土類金属のような金属および炭素を含有する化合物を共析させた試料である。これら試料3〜9および11〜14によれば、前述した試料2における表面粗さ(Ra)である221nmより小さい、100〜174nmの範囲の表面粗さ(Ra)を得ることができた。このことから、アルカリ土類金属のような金属および炭素を含有する化合物を共析させながら、解砕処理を施した場合のニッケル粉末の分散性向上効果を確認できる。
【0132】
また、特に試料12〜14の間で比較すると、解砕処理におけるロータ部の周速を上げることによってニッケル粉末の分散性を向上させることができる効果を確認できる。
【0133】
これらに対して、バリウムおよび炭素を含有する化合物の共析があるが、反応後に解砕処理が行なわれず、未乾燥のままペースト化した試料10では、表面粗さ(Ra)が203nmとなり、試料3〜9および11〜14の場合より大きくなった。なお、試料2との比較では、試料10では、若干ではあるが、表面粗さ(Ra)の向上が確認できる。
【0134】
次に、試料15は、試料3〜9および11〜14と比較して、解砕処理の後、ニッケル粉末を乾燥させてペースト化したことに関して異なっている。試料15では、表面粗さ(Ra)が194nmを示し、試料2の場合の表面粗さ(Ra)である221nmより改善された。ただし、試料15における表面粗さ(Ra)は、前述した試料3〜9および11〜14の場合の表面粗さ(Ra)よりは劣り、このことから、ニッケル粉末は、未乾燥のままペースト化する方が好ましいことがわかる。
【0135】
【実験例2】
実験例1において作製した試料1(比較例)に係る導電性ペーストおよび試料14(実施例)に係る導電性ペーストをそれぞれ用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。この積層セラミックコンデンサにおいて、セラミック層を構成するセラミックとして、BaTiO3 を主成分とする耐還元性セラミック材料を用い、焼成後のセラミック層の厚みを2.5μmとし、内部導体膜の積層数を100層とした。
【0136】
得られた積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗を、絶縁抵抗計によって測定し、全試料数100個についてショート不良率を求めた。その結果が表2に示されている。
【0137】
【表2】
【0138】
表2からわかるように、試料1に係る導電性ペーストを用いた場合には、ショート不良率が58%に達した。
【0139】
これに対して、試料14に係る導電性ペーストを用いた場合には、ショート不良率が17%というように、大幅に改善された。
【0140】
なお、試料14に係る導電性ペーストを用いた積層セラミックコンデンサにおいても、2桁のショート不良率を示しているが、これは、あくまでも試作製造条件による結果であって、さらに他の改善方法を加えることにより、ショート不良率はより低減されることができる。
【0141】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、炭酸イオンと苛性アルカリと還元剤とを含む、還元剤溶液を準備するとともに、ニッケル塩と、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩、イットリウム塩、ジルコニウム塩およびマンガン塩のうちの少なくとも1種の塩とを含む、ニッケル塩溶液を準備し、これら還元剤溶液とニッケル塩溶液とを混合して、金属ニッケルと、前記塩の金属および炭素を含有する化合物とを析出させ、次いで、析出した金属ニッケルおよび化合物を含む混合粉末を未乾燥の状態で解砕することによって、ニッケル粉末を製造するようにしているので、ニッケル粉末の反応および乾燥によって生じる凝集を防止または低減することができる。したがって、平均粒径がたとえば1μm以下というように小さく、粒径が均一であって粗粒の少ないニッケル粉末を得ることができる。
【0142】
そのため、ニッケル粉末を用いて導電性ペーストを作製すれば、導電性ペースト中でのニッケル粉末の分散性を向上させることができ、この導電性ペーストの焼結体から内部導体膜が構成された積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品を製造すれば、積層セラミック電子部品の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るニッケル粉末を含む導電性ペーストを用いて構成される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層体
3 セラミック層
4,5 内部導体膜
Claims (5)
- 炭酸イオンと苛性アルカリと還元剤とを含む、還元剤溶液を準備する工程と、
ニッケル塩と、アルカリ土類金属塩、希土類金属塩、イットリウム塩、ジルコニウム塩およびマンガン塩のうちの少なくとも1種の塩とを含む、ニッケル塩溶液を準備する工程と、
前記還元剤溶液と前記ニッケル塩溶液とを混合して、金属ニッケルと、前記塩の金属および炭素を含有する化合物とを析出させる工程と、
析出した前記金属ニッケルおよび前記化合物を含む混合粉末を未乾燥の状態で解砕する工程と
を備える、ニッケル粉末の製造方法。 - 前記混合粉末を解砕する工程は、スラリー状の前記混合粉末をメディアと衝突させて解砕する工程、または、スラリー状の前記混合粉末をロータ部とステータ部との間を通過させてせん断力により解砕する工程を含む、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
- 請求項1または2に記載の製造方法によって得られた、ニッケル粉末であって、平均粒径が1μm以下である、ニッケル粉末。
- 請求項3に記載のニッケル粉末と有機ビヒクルとを含む、導電性ペースト。
- 積層された複数のセラミック層および前記セラミック層間の特定の界面に沿って延びる内部導体膜を備える、積層セラミック電子部品であって、
前記内部導体膜は、請求項4に記載の導電性ペーストの焼結体からなる、積層セラミック電子部品。
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