JP4057104B2 - 孔版印刷装置の圧胴及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、孔版印刷装置の圧胴及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
孔版印刷装置として、外周面に製版済みマスタを装着した状態で回転する円筒状の版胴と、給紙手段によって1枚ずつ搬送されてくる用紙を版胴に押圧しつつ回転する円筒状の圧胴とを有し、この押圧状態において、インキ供給手段からのインキを用紙に転移させて印刷を行なうものが知られている。
【0003】
圧胴は、版胴と略同一の直径を有し、版胴の回転速度と同一回転速度で回転駆動され、その外周面の一部に母線方向に延在する凹部を有している。この凹部には、用紙の先端をクランプするクランプ手段が設けられている。このような圧胴によれば、凹部の位置を版胴のマスタクランパの位置に対応させることで、圧胴を版胴に押圧するときの、圧胴の移動量を小さくすることができ、押圧時の印圧音を小さくすることができる。また、クランプ手段により、用紙の先端をクランプして用紙を搬送するので、排紙時の用紙の排紙巻き上がりを防止することや、レジスト精度を向上することができる。
【0004】
図10に示すように、圧胴100としては、断面形状が円周の一部を欠いた形状となるように形成されたアルミニウムの押出し材102を使用し、この押出し材102の外周面にゴム層104を形成し、このゴム層104の外周面に研削加工を施したものが知られている。この押出し材102の内部には、強度確保のため十字状のリブ103が成形されており、押出し材102の中心部、すなわち、リブ103が交差する部分には、軸101が設けられている。また、アルミニウムの押出し材を切断し、この外周面に研削加工を施して使用するものも知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
圧胴にアルミニウムの押出し材を使用した場合には、その製造上の性質によりその厚さを薄肉にすることが困難であり、また、強度確保のために圧胴の内部に複数のリブが必要となるため、圧胴の重量が重いという問題点がある。圧胴の重量が重いと、その回転イナーシャが大きくなり、回転時に大きな駆動トルクが必要となる。
【0006】
ところで、リブの数を減らして、圧胴の重量を軽減することも考えられるが、この場合には、圧胴の強度が低減し、ゴム成形により圧胴の外周面にゴム層を設けるときに、ゴム成形圧によって圧胴の外周部が内側に凹んで変形するおそれがある。また、アルミニウムの押出し材を使用しているので、その製作コストが高いという問題点もある。さらに、圧胴の外周面の一部に、この母線方向に延在する用紙クランパ取付用の凹部が設けられている場合には、圧胴の断面が真円形ではないので、押出し加工時の寸法精度の確保が困難であり、この点でも製作コストが高くなる。
【0007】
よって、本発明の目的は、軽量、かつ、低コストで製作できる孔版印刷装置の圧胴及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、給紙手段によって給送された用紙を、外周面に製版済みマスタを装着して回転する版胴に押圧しつつ回転する孔版印刷装置の圧胴において、該圧胴は、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された一端に底板を有するカップ形状体と、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された円盤状フランジとを接着により一体化して、上記底板と上記フランジの各中心に支持軸を挿通させて構成された円筒状外周面を有する中空の円筒体であって、上記円筒状外周面に金型によって弾性体ゴム層を一体成形した後、該ゴム層表面の円筒研削加工を行い、更に、その外周面に低摩擦非粘着を目的に極薄の合成樹脂フイルムが接着にて巻着されている構成を有する構成である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔版印刷装置の圧胴において、上記円筒体の外周面の一部に、この母線方向に延在する用紙クランパ取付用の凹部が設けられ、上記ゴム層の一端部は、上記円筒体の外周面から上記凹部の内部まで連続的に繋がって設けられ、上記用紙クランパを保持するクランパベースが、上記凹部の内部のゴム層を押さえるように取り付けられている構成である。
【0010】
請求項3記載の発明は、給紙手段によって給送された用紙を、外周面に製版済みマスタを装着して回転する版胴に押圧しつつ回転する孔版印刷装置の圧胴において、該圧胴は、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された一端に底板を有するカップ形状体と、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された円盤状フランジとを接着により一体化して、上記底板と上記フランジの各中心に支持軸を挿通させて構成された円筒状外周面を有する中空の円筒体であって、上記円筒状外周面に金型によって弾性体ゴム層を一体成形した後、該ゴム層表面の円筒研削加工を行い、更に、その外周面に低摩擦非粘着を目的に塩素化処理を行って極薄硬化層が形成されている構成である。
【0016】
【実施例】
本発明の実施例を図面を参照して説明する。まず、本発明の圧胴を使用した孔版印刷装置について説明する。
図1に示すように、版胴1は、多孔構造の円筒体を有し、この円筒体の外周面にメッシュスクリーンを巻着して構成されている。この版胴1の外周部には、版胴1の軸線と平行に回転自在なマスタクランパ2が設けられている。このマスタクランパ2は図示しない開閉装置により駆動力を伝達されて、所定位置にて開閉される。マスタクランパ2には、マスタ3の一端が挾持されている。マスタ3の他端側は、版胴1の外周面に巻着されている。
【0017】
マスタ3は、図示しない製版書き込み装置の中にあるサーマルヘッドにより原稿の情報に基づいて穿孔された後、版胴1に向けて送り出され、版胴1に巻着される。また、すでに版胴1に巻着されている使用済みマスタ3は、版胴1から剥離され図示しない排版装置に格納される。
【0018】
版胴1は、図示しない駆動装置により時計回りの向きに回転する(図中、矢印Aの向き)。版胴1の内部には、該版胴1と同方向に同期して回転するインキローラ4と、このインキローラ4の外周面と僅かに隙間を設けて配置されたドクターローラ5とが配設されている。これらのローラ4,5により、インキ溜り6のインキをインキローラ4の外周面に供給する。インキは、軸パイプ7の穴より楔状空間のインキ溜り6に供給される。さらに、インキローラ4の外周面に供給されたインキは、版胴1の内周面とインキローラ4外周面との間に僅かな隙間があるので、版胴1の内周面に供給される。
【0019】
版胴1の下方には、この版胴1に押圧される圧胴10がインキローラ4に対向して配設されている。圧胴10は、この圧胴10の要部をなす本体部40と、圧胴10を支持する軸11と、本体部40の外周面に設けられたゴム層50とから主に構成されている。本体部40及びゴム層50については、後で詳細に説明する。
【0020】
圧胴10の外周面の一部には、版胴1上のマスタクランパ2との衝突を避けるために、圧胴10の母線方向に延在する凹部17が形成されている。この凹部17には、合成樹脂からなるクランパベース18が設けられており、このクランパベース18に用紙Pの先端を圧胴10に保持する用紙クランパ19が取り付けられている。用紙クランパ19は、軸19aに回動可能に支持されており、図示しないカムにより所定のタイミングで開き、用紙Pをくわえた後、閉じて圧胴10に用紙Pを保持し、剥離爪20の位置に至ると再び開き、用紙Pを解放して該用紙Pを排紙搬送装置21に送り出す。
【0021】
圧胴10は、版胴1との押圧位置が回転毎に同じになるように無端ベルトで連結されていて、反時計回りの向き(図中、矢印Bの向き)に回転するようになっている。
【0022】
圧胴10の軸11は、支点軸12を中心に揺動自在な一対のアーム13(一方のみ図示する)に支持されており、圧胴10は、アーム13の揺動に応じて版胴1に対して接離自在である。アーム13の自由端は、一端が装置の側板に固定されたスプリング14によって圧胴10が版胴1に押圧するように常時付勢されている。アーム13の自由端には、カムフォロア15が設けられており、このカムフォロア15は、アーム13の揺動を制御する、すなわち、圧胴10の版胴1への押圧を制御するための印圧カム16に当接している。
【0023】
また、圧胴10は、用紙Pの搬送不良時の対処として、製版時に版胴1に対して圧胴10が押圧されないように、版胴1と同期して回転する印圧カム16により、所定のタイミングで版胴1から離間する。そして、搬送不良がない場合には、再び、用紙Pを保持した圧胴10がスプリング14により版胴1の外周面に押圧されることとなる。搬送不良が発生した場合には、圧胴10は、版胴1に押圧されず、図示しない印圧解除装置により圧解除される。
【0024】
図1において、版胴1の図中、右下方には、多数の用紙Pを積載可能なエレベータ方式の給紙トレイ30と、図中、矢印Cの向きに回転して圧胴10に用紙Pを給送する上下一対のフィードローラ31,31とが設けられている。給紙トレイ30は、積載された用紙Pの最上位が、常に給紙ローラ32に適切な範囲、すなわち、用紙Pが搬送可能な範囲の押圧力で接触する状態を保持しつつ、昇降する。
【0025】
給紙トレイ30とフィードローラ31,31との間には、給紙トレイ30からの用紙Pをフィードローラ31,31に送り出す分離ローラ33が配設されている。分離ローラ33の下方には、用紙の重送送りを防止する分離パッド34が配設されている。なお、給紙ローラ32は、図中、矢印Dの向きに、分離ローラ33は、図中、矢印Eの向きにそれぞれ回転する。給紙トレイ30、フィードローラ31,31、給紙ローラ32及び分離ローラ33から給紙手段が構成されている。
【0026】
版胴1の図中、左下方には、印刷後(インキ塗布後)の用紙Pを圧胴10から剥離するための剥離爪20と、剥離した用紙Pを排紙トレイ22に搬送する排紙搬送装置21と、排紙搬送装置21により搬送された用紙Pを蓄えておく排紙トレイ22とがそれぞれ配設されている。排紙搬送装置21は、用紙Pの裏面を吸引する吸着ファン23と、一対の搬送ローラ24,25と、これら搬送ローラ24,25の間に架け渡されたベルト26とから構成されている。
【0027】
次に、上述の孔版印刷装置の印刷動作について説明する。
図1において、給紙ローラ32の回転により給紙された用紙Pは、分離ローラ33と分離パッド34との部分で重送が防止され、最上位の1枚だけがフィードローラ31,31に送られる。この用紙Pの先端がフィードローラ31,31間に搬送されると、次にフィードローラ31,31によって、用紙Pは圧胴10に向けて搬送される。このタイミングに合わせ、圧胴10中の用紙クランパ19は開き、用紙Pをくわえた後、用紙クランパ19は閉じ、圧胴10に用紙Pが保持されたまま、圧胴10が回転し、版胴1と圧胴10とのニップ部に用紙Pが送り込まれる。
【0028】
図1において、版胴1と圧胴10とのニップ部は、スプリング14の力により加圧されており、用紙Pが版胴1の外周面に押圧される。この押圧の際に、インキローラ4により、版胴1の外周面に取り付けられているマスタ3の穿孔部を通過してきたインキが転写され、印刷が行われる。
【0029】
インキが転写された用紙Pは、さらに圧胴10が回転することにより、剥離爪20の手前で用紙クランパ19が開き、剥離爪20により剥離され、排紙搬送装置21によって排紙トレイ22に搬送され、排紙トレイ22上に積載され、印刷を終了する。
【0030】
次に、本発明の請求項1,3に対応する第1の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
図2,3に示すように、本体部40は、一端に底板40aを有する有底円筒体、すなわち、カップ形状の円筒体からなる。本体部40の他端には円盤状のフランジ41が接着によって固着されている。本体部40及びフランジ41は、熱硬化性の合成樹脂、例えば、フェノール樹脂で一体成形されている。熱硬化性の合成樹脂は、加熱されることより可塑性を失い剛体に変化する樹脂であり、熱可塑性の合成樹脂に比べて熱膨張率が小さく、高強度で厚肉成形が可能で、変形しにくいという特徴を有している。
【0031】
本体部40を熱硬化性の合成樹脂で一体成形することによって、本体部40の内部にリブを設ける必要がなくなり、従来のアルミニウムの押出し材を使用した場合よりも、圧胴10を軽量化することができる。また、従来のアルミニウムの押出し材よりも剛性があり、熱変形も少ない。さらに、本体部40をカップ形状の円筒体とし、この開口端にフランジ41を固着することによって、圧胴10の強度を向上することができる。
【0032】
底板40a及びフランジ41の各中心部には、軸11が挿通されている。軸11は、ピン42により底板40aに固定されている。軸11の圧胴10の両端から突出する各部分、すなわち、底板40a及びフランジ41から突出する各部分には、玉軸受43,43がそれぞれ圧入されており、底板40aから突出する端部には、歯車44が固設されている。玉軸受43,43は、アーム13に固定されており、これによって圧胴10は、アーム13に回転自在に支持されている。歯車44には、上述した無端ベルトが噛み合っている。
【0033】
ゴム層50は、本体部40の凹部17以外の周面、すなわち、円弧状の部分に設けられている。凹部17と円弧状部分との境では、図4に示すように、ゴム層50の端面50aは、凹部17の縁面17aと略面一となっている。
【0034】
図5に示すように、ゴム層50は、本体部40の外周面に接するニトリルゴム層51と、このニトリルゴム層51の外周面を覆うシリコンゴム層52との二層のゴム層から構成されている。ニトリルゴム層51は、本体部40の外周面に一体的にゴム成形されて、本体部40の外周面に接着されている。シリコンゴム層52は、このニトリルゴム層51の外周面に液状のシリコンゴムを吹き付けて塗膜形成した後、その塗膜の外周面を圧胴10の外径が版胴1の外径と同一径となるように研削加工して形成されている。外周面を研削加工することによって、圧胴10の外径寸法精度や外周面精度を高精度に仕上げることができる。
【0035】
なお、本実施例では、シリコンゴム層52の外周面を研削加工することによって、圧胴10の外径寸法精度を得ているので、ニトリルゴム層51の外周面の研削加工を必要とせず、ニトリルゴム層51の外周面は研削加工されていない。したがって、ゴム層51,52のうち圧胴10の最外周面に被着される部分が少なくとも一体成形により形成されるとともに、研削加工される。
【0036】
ニトリルゴム層51が本体部40の外周面に一体的にゴム成形されているので、ニトリルゴム層51の本体部40への密着が強く、ニトリルゴム層51の本体部40からの剥離を防止することができる。
【0037】
また、圧胴10の外周面をシリコンゴム層52とすることによって、圧胴10の外周面に付着したインキの拭き取り性や、紙粉の付着防止を図ることができる。これは、シリコンゴム層52の外周面を研削加工した際に、シリコンゴムの加工面がニトリルゴムの加工面よりも非粘着性の性質になることによる。そこで、ゴム層50をシリコンゴム層52のみで構成する考えもあるが、シリコンゴムは、樹脂、すなわち、本体部40に対する接着性が低く、本体部40とシリコンゴム層52との一体成形加工が困難であり、その製造コストも高くなるという問題点がある。よって、本実施例では、圧胴10の外周面にシリコンゴム層52を形成している。
【0038】
本体部40の底板40aと開口端40bとの外周面には、図2,5に示すように、その外径が本体部40の中心部から端部に向かって漸次増大するテーパー部40cがそれぞれ設けられている。このテーパー部40cに対応するニトリルゴム層51は、テーパー部40cとは逆に、その厚さが本体部40の中心部から端部に向かって漸次薄くなっている。換言すると、ニトリルゴム層51の外周面は、凹凸のない滑らかな周面となっている。
【0039】
したがって、本体部40の両端部は、これらの厚さが本体部40の中央部の厚さよりも厚くなるので、本体部40の端部の剛性が向上する。印刷時、特に低温時や高速印刷時においては、圧胴10の両端部の剛性が不足して圧胴10の両端部が変形し、印圧が低くなり、用紙Pの幅方向における両端部で画像がかすれたり、欠損するといった問題が発生するが、上述のように圧胴10の両端部の剛性を向上することによって、画像面積全域において印圧が確保され、画像のかすれや欠損を防止できる。
【0040】
図5において、各部の厚さ及び長さについて説明すると、本実施例では、本体部40の厚さt1は3〜5mmである。ニトリルゴム層51の本体部40の中央部に対応する部分の厚さt2は3〜6mmであるのに対し、ニトリルゴム層51の本体部40の端部に対応する部分の厚さt3は1〜2mmである。このときの本体部40のテーパー部40cの長さLは30〜50mmである。また、シリコンゴム層52は、圧胴10の全周に亘って略均一であり、その厚さt4は略0.5mmである。
【0041】
次に、圧胴10の製造方法について説明する。
上述した形状の本体部40を成形する成形用金型は、一対の金型から構成されている。図3において、本体部40をパーティングラインPLで分割したときに、凹部17を含む側の本体部40(図中、パーティングラインPLよりも上の部分)を成形するための金型と、凹部17を含まない側の本体部40(図中、パーティングラインPLよりも下の部分)を成形するための金型とから構成されている。パーティングラインPLは、圧胴10の中心を通り、圧胴10をその母線方向において分割する平面である。
【0042】
一対の金型に熱硬化性の合成樹脂、例えば、フェノール樹脂を入れて、加熱するとともに圧力を加える。この加熱と圧力により、フェノール樹脂は、可塑性を失い硬化し、カップ形状の円筒体である本体部40としての成形品となる。また、別工程において、本体部40と同様に、フランジ41もフェノール樹脂により一体成形される。成形された本体部40及びフランジ41は、互いに固着される。すなわち、本体部40の開口端40bに円盤状のフランジ41が接着により固着されて、円柱体が形成される。
【0043】
円柱体となった本体部40において、軸11が底板40a及びフランジ41の各中心部に挿通される。軸11の挿通後、軸11がピン42により底板40aに固定される。軸11の底板40aから突出する部分に、玉軸受43が圧入されるとともに、歯車44が設けられる。軸11のフランジ41から突出する部分に、玉軸受43が圧入される。
【0044】
次に、ニトリルゴムが本体部40の外周面に一体的にゴム成形されて、本体部40の外周面にニトリルゴム層51が形成される。この後、液状のシリコンゴムがニトリルゴム層51の外周面に、その厚さが略0.5mmとなるように均一に吹き付けられて、この外周面にシリコンゴムの塗膜が形成され、シリコンゴム層52が形成される。
【0045】
ニトリルゴム層51の外周面にシリコンゴム層52が形成され後、軸11を支持して圧胴10を回転するとともに、円筒研削盤を使用してシリコンゴム層52の外周面を研削加工する。この研削加工により、圧胴10は、その外径が版胴1の外径と同一径に仕上げられる。このときの外径の寸法精度は、±0.05mm〜±0.1mm以内の精度で仕上げられる。
【0046】
ここで、シリコンゴム層52の外周面の研削加工について説明すると、通常、研削加工は、圧胴10の外径を版胴1の外径と同一径にするために行われるが、本実施例では、この外径精度を得るほかに、同時にシリコンゴム層52の外周面を低粘着性の状態に仕上げている。ここでいう粘着性とは、少しべとべとする性質をいい、紙粉が付着しやすく、用紙先端が滑りにくい状態をいう。
【0047】
シリコンゴムを吹き付けした外周面は、ざらつきが少なく、少しべとべとする性質を有している、すなわち、粘着性である。この外周面を研削加工することによって、外周面が粗くなり、粘着性が低下して、外周面がすべすべした性質に変化し、外周面が低粘着性の状態となる。
【0048】
次に、本発明の請求項2に対応する第2の実施例について説明する。
第1の実施例の孔版印刷装置においては、印刷時、圧胴10が版胴1に押圧されたときに、ゴム層50の版胴1に始めに接触する部分には、大きな押圧力が加わる。この押圧力によって圧胴10が版胴1との間でバウンドすることがあり、このバウンドが発生すると、画像先端の白抜けが発生するという問題点がある。画像先端の白抜けは、図6に示すように、押圧した直後に圧胴10がバウンドした部分で画像が抜けてしまう現象をいう。なお、図6において、符号Pは用紙を、符号Nはベタ印刷画像(ハッチングで示す部分)を、符号Mは画像抜けの部分を、矢印Sは用紙Pの通紙方向をそれぞれ示す。
【0049】
そこで、第2の実施例では、第1の実施例で説明した孔版印刷装置において、圧胴10が版胴1に押圧されたときに、ゴム層50の版胴1に始めに接触する部分の厚さを、他のゴム層50の厚さよりも厚くしている。
以下、詳細に説明する。図7に示すように、ゴム層50の端部50bは、凹部17の内部にも入り込むように形成されている。このように、本体部40の円弧部分のみならず、凹部17にもゴム層50を設けることによって、ゴム層50が本体部40からはがれにくくなり、本体部40とゴム層50との密着不足による剥離を防止することができる。また、ゴム層50を凹部17の全面に接着しても良い。
【0050】
圧胴10が版胴1に押圧されたときに、圧胴10の版胴1に始めに接触する部分は、圧胴10の回転方向の凹部17の上流側の段部、すなわち、クランパベース18が設けられている側の段部である。この段部には、平面を有する平坦部17bが設けられている。平坦部17bは、ゴム層50で覆われており、ゴム層50の平坦部17bに対応する部分には、この部分の外周面が円弧形状を保つように肉厚部50bが設けられている。肉厚部50bの厚さは、他のゴム層50の厚さよりも厚くなっている。
【0051】
したがって、圧胴10が版胴1に押圧されたき、この肉厚部50bによって押圧力による衝撃が吸収されるので、衝撃吸収量を増大でき、圧胴10の版胴1との間でのバウンドが防止され、画像先端の白抜けの発生を防止することができる。また、印圧音を低減することもできる。
【0052】
ところで、孔版印刷装置において、印刷時に、用紙Pはその先端が用紙クランパ19に向けて搬送されるが、このとき用紙Pの先端は、圧胴10の外周面、すなわち、ゴム層50の外周面を滑りながら送り込まれることになる。このとき、ゴム層50の外周面がニトリルゴムで形成されていると、摩擦係数が大きいので、用紙Pの滑りが悪く、ひっかかり易いという問題点がある。
【0053】
また、製版エリアが用紙サイズよりも大きい場合等には、圧胴10の外周面に版胴1からのインキが付着することがある。この場合、圧胴10の表面を清掃する必要があるが、ゴム層50の外周面がニトリルゴムで形成されていると、インキを拭き取りにくいという問題点がある。
【0054】
さらに、ゴム層50の外周面がニトリルゴムで形成されていると、この外周面には、紙粉が付着しやすい。紙粉が付着蓄積すると、その部分で画像に濃度ムラ等の画像不良が発生するという問題点もある。
【0055】
そこで、これらの問題を解決するために、第1の実施例で説明したように、ゴム層50の外周面をシリコンゴム層52で形成することによって、圧胴10の外周面に付着したインキの拭き取り性や、紙粉の付着防止を図る方法がある。この方法とは、別の方法がある。
【0056】
先ず、第3の実施例について説明する。第3の実施例の圧胴10は、第2の実施例において説明した圧胴10と略同様の構成であるので、図7に示す部材と同様の部材は、図7で用いた符号と同一符号を付すにとどめてその説明を省略し、相違する点について説明する。
【0057】
図8に示すように、ゴム層50を弾性を有するニトリルゴムのみで構成する。ニトリルゴムは、第1の実施例で説明したとおり、ゴム成形により本体部40に設けられている。このゴム層50の外周面は、圧胴10の外径が版胴1の外径と同一径になるように研削仕上げされる。仕上げられたゴム層50の外周面には、厚さ50〜200μmの合成樹脂フィルムとしてのポリエステルシート55が巻着されている。
【0058】
ポリエステルシート55は、周知の接着剤によりニトリルゴム層51の外周面に接着されている。したがって、ポリエステルシート55により、圧胴10の外周面が、低摩擦性及び非粘着性になり、インキ付着時のインキの拭き取り性を向上することができ、紙粉の付着を防止することができる。
【0059】
ポリエステルシート55を、両面粘着テープを利用してゴム層50の外周面に貼り付けても良い。また、この両面粘着テープの粘着力を弱めに設定して、貼付・剥離可能にしておけば、ポリエステルシート55のみを交換して貼り直すこともできる。
【0060】
次に、第4の実施例について説明する。第4の実施例では、ゴム層50の外周面に表面処理を施して、この外周面を低摩擦性及び非粘着性の性質に変質している。以下、詳細に説明する。
【0061】
図9に示すように、ゴム層50を弾性を有するニトリルゴムのみで構成する。ニトリルゴムは、第1の実施例で説明したとおり、ゴム成形により本体部40に設けられている。このゴム層50の外周面は、圧胴10の外径が版胴1の外径と同一径になるように研削仕上げされる。ゴム層50の外周面には、ハロゲン化処理と呼ばれる表面処理が施されている。
【0062】
ハロゲン化処理は、車両のワイパーブレードの処理方法として良く知られており、ゴム表面層の改質化処理の一種であり、主に塩素化処理である。本実施例では、ハロゲン化処理として、市販のアフトリート液を塗布して乾燥する処理を行っており、ゴム層50の外周面に、ハロゲン化処理を施すことによって、ゴム層50の外周面が塩素化され、この外周面に数ミクロンから数10ミクロンの硬化層56が形成される。この硬化層56には、通常、図示しない微細なクラックが発生している。硬化層56によって、ゴム層50の外周面の摩擦係数が低下するとともに、外周面の粗さが向上する。
【0063】
したがって、ゴム層50の外周面の性質が、低摩擦性及び非粘着性になり、インキ付着時のインキの拭き取り性を向上することができ、紙粉の付着を防止することができる。また、上述のハロゲン化処理に代えて、ゴム層50の外周面にフッ素樹脂系の低温処理被膜を塗布形成しても良い。
【0064】
上述した第1〜4の実施例において、圧胴10は、カップ形状の円筒体の開口端に円盤状のフランジが固着されて構成されていたが、この構成に限らず、圧胴を、例えば、円筒体の両端に一対の円盤状のフランジを固着して構成しても良いし、円筒体のみで構成しても良い。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1,3の発明によれば、円筒体が熱硬化性の合成樹脂で一体成形されているので、円筒体の内部にリブを設ける必要がなくなり、従来のアルミニウムの押出し材を使用した場合よりも、圧胴を軽量化することができ、剛性を向上でき、熱変形も低減できる。また、ゴム層が、円筒体の外周面に一体的に成形されているので、ゴム層の円筒体への接着が強固であり、ゴム層の表面が研削加工で仕上げられているので、圧胴の外径精度を向上できる。
【0066】
また、請求項1の発明によれば、円筒体が一端に底板を有するカップ形状であり、この円筒体の他端に円盤状のフランジが固着されているので、圧胴の強度を向上することができる。
【0067】
また、請求項1の発明によれば、ゴム層の外周面に合成樹脂フィルムからなるシートが巻着されているので、圧胴の外周面が、低摩擦性及び非粘着性になり、インキ付着時のインキの拭き取り性を向上することができ、紙粉の付着を防止することができる。
【0068】
請求項2の発明によれば、ゴム層が用紙クランパ取付用の凹部にも設けられているので、ゴム層が円筒体からはがれにくくなり、円筒体とゴム層との密着不足による剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】孔版印刷装置の概略構成図である。
【図2】圧胴の母線方向における縦断面図である。
【図3】圧胴の円周方向における縦断面図である。
【図4】クランパベースの取付け部の拡大断面図である。
【図5】圧胴の端部の拡大断面図である。
【図6】用紙の画像先端の白抜け現象を説明した図である。
【図7】本発明の第2の実施例を示した図であり、クランパベースの取付け部の拡大断面図である。
【図8】本発明の第3の実施例を示した図であり、圧胴の円周方向における縦断面図である。
【図9】本発明の第4の実施例を示した図であり、圧胴の壁部の拡大断面図である。
【図10】従来の圧胴の構成を示した圧胴の斜視図である。
【符号の説明】
1 版胴
10 圧胴
11 軸
17 凹部
17b 平坦部
40 本体部
40a 底板
40b 開口端
40c テーパー部
41 フランジ
50 ゴム層
50b 肉厚部
51 ニトリルゴム層
52 シリコンゴム層
55 ポリエステルシート(合成樹脂フィルム)
56 硬化層
P 用紙
Claims (3)
- 給紙手段によって給送された用紙を、外周面に製版済みマスタを装着して回転する版胴に押圧しつつ回転する孔版印刷装置の圧胴において、
該圧胴は、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された一端に底板を有するカップ形状体と、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された円盤状フランジとを接着により一体化して、上記底板と上記フランジの各中心に支持軸を挿通させて構成された円筒状外周面を有する中空の円筒体であって、上記円筒状外周面に金型によって弾性体ゴム層を一体成形した後、該ゴム層表面の円筒研削加工を行い、更に、その外周面に低摩擦非粘着を目的に極薄の合成樹脂フイルムが接着にて巻着されている構成を有することを特徴とする孔版印刷装置の圧胴。 - 上記円筒体の外周面の一部に、この母線方向に延在する用紙クランパ取付用の凹部が設けられ、上記ゴム層の一端部は、上記円筒体の外周面から上記凹部の内部まで連続的に繋がって設けられ、上記用紙クランパを保持するクランパベースが、上記凹部の内部のゴム層を押さえるように取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の孔版印刷装置の圧胴。
- 給紙手段によって給送された用紙を、外周面に製版済みマスタを装着して回転する版胴に押圧しつつ回転する孔版印刷装置の圧胴において、
該圧胴は、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された一端に底板を有するカップ形状体と、熱硬化性の合成樹脂からなり金型成形された円盤状フランジとを接着により一体化して、上記底板と上記フランジの各中心に支持軸を挿通させて構成された円筒状外周面を有する中空の円筒体であって、上記円筒状外周面に金型によって弾性体ゴム層を一体成形した後、該ゴム層表面の円筒研削加工を行い、更に、その外周面に低摩擦非粘着を目的に塩素化処理を行って極薄硬化層が形成されている構成を有することを特徴とする孔版印刷装置の圧胴。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP22160797A JP4057104B2 (ja) | 1997-08-18 | 1997-08-18 | 孔版印刷装置の圧胴及びその製造方法 |
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JPH1158915A JPH1158915A (ja) | 1999-03-02 |
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- 1997-08-18 JP JP22160797A patent/JP4057104B2/ja not_active Expired - Fee Related
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