JP4055571B2 - 電磁式燃料噴射弁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電磁式燃料噴射弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電磁式燃料噴射弁は例えば下記特許文献1に記載されている。同公報に記載の電磁式燃料噴射弁は、燃料が導入される容器内に設けられたニードル部材を電磁手段による吸引力によってニードル部材の長手方向に移動させることにより、容器の内面とニードル部材の外面との間の隙間で規定される燃料通過経路の大きさを変化させている。燃料通過経路の通過後、燃料は噴孔から出射される。
【特許文献1】
特開平8−210217号公報
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の電磁式燃料噴射弁は電磁手段の吸引力が適正でなく、十分な開閉動作ができないという問題がある。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、十分な開閉動作が可能な電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、本発明に係る電磁式燃料噴射弁は、燃料が導入される容器内に設けられたニードル部材を電磁手段による吸引力によってニードル部材の長手方向に移動させることにより、容器の内面とニードル部材の外面との間の隙間で規定される燃料通過経路の大きさが変化する電磁式燃料噴射弁において、電磁手段は吸引力が互いに独立制御可能な第1及び第2の磁気回路を備え、第1及び第2磁気回路のそれぞれは、空隙を介して対向し互いに引き合う磁性体対を有し、各磁性体対の少なくとも一方は電磁石を構成し、磁性体対のそれぞれは、ニードル部材が磁性体対の吸引力によってその長手方向に沿って移動するように容器とニードル部材との間に配置され、第1磁気回路によるニードル部材の第1ストローク長は、第2磁気回路によるニードル部材の第2ストローク長よりも短く、ニードル部材が吸引力の向きに移動した場合にニードル部材を吸引力に抗する向きに付勢する弾性手段と、ニードル部材が弾性手段による付勢力によって吸引力とは逆向きに移動する場合には、ニードル部材の閉弁時の位置よりも大きくかつ第2ストローク長未満の所定位置で特定の部材に衝突しニードル部材の速度がニードル部材の外面が容器の内面へ当接前に減少するようにニードル部材に設けられたストッパ部材とを備えることを特徴とする。
【0005】
本電磁式燃料噴射弁によれば、吸引力が互いに独立制御可能な第1及び第2の磁気回路を用いているため、吸引力を適正に設定することができ、十分な開閉動作ができる。特に、第1磁気回路と第2磁気回路が所定期間において同時に吸引力を発生することとすれば、吸引力を強くすることができ、更に十分な開閉動作を行うことができる。
【0006】
また、第1及び第2の磁気回路をニードル部材の長手方向に沿って配置すれば、長手方向に直交する方向(径方向)の寸法の大型化を行わずに、吸引力を増加させることができる。
【0007】
第1及び第2磁気回路のそれぞれは、空隙を介して対向し互いに引き合う磁性体対を有し、各磁性体対の少なくとも一方は電磁石を構成し、磁性体対のそれぞれは、ニードル部材が磁性体対の吸引力によってその長手方向に沿って移動するように容器とニードル部材との間に配置されていることが好ましく、コンパクトに磁気回路を配置することができる。
【0008】
また、第1磁気回路によるニードル部材の第1ストローク長は、第2磁気回路によるニードル部材の第2ストローク長よりも短いこととすれば、要するにストローク長が異なることとすれば、燃料通過経路の大きさをストローク長に併せて変えることができ、緻密な燃料噴射制御ができるようになる。
【0009】
このような場合、吸引力非発生時の第1磁気回路の空隙の寸法は、吸引力非発生時の第2磁気回路の空隙の寸法よりも小さいことが好ましい。空隙が狭いほど吸引力は強くなる。燃料通過経路の大きさを零から拡大する瞬間は、相対的にこれ以降の吸引力よりも大きな吸引力を必要とする。燃料通過経路の大きさを零から拡大する瞬間は、少なくともニードル部材ストローク長の短い方の第1磁気回路において吸引力を発生させることが好ましい。
【0010】
したがって、空隙の寸法を小さくすることによって第1磁気回路側の吸引力を増加させれば、燃料通過経路の大きさをスムーズに拡大することができる。一旦、燃料通過経路が形成された場合には、相対的には小さな力でニードル部材を移動させることができるので、第1ストローク長よりも長い第2ストローク長を設定することができ、緻密な燃料噴射制御ができるようになる。
【0011】
また、本発明の電子式燃料噴射弁は、ニードル部材が吸引力の向きに第1ストローク長以上移動した場合にはニードル部材を吸引力に抗する向きに付勢する第1及び第2弾性手段を備え、第1弾性手段はニードル部材が吸引力の向きに第1ストローク長未満で移動する場合にはニードル部材に吸引力と同じ向きに力を与えるように配置されていることが好ましく、ニードル部材の戻り時(ニードル部材が弾性手段による付勢力によって吸引力とは逆向きに移動する時)には第1及び第2弾性手段の合力によってニードル部材を移動させることができ、また、吸引力を加えている場合には第1弾性手段は吸引力に抗しないので、ニードル部材を高速に移動させることができる。
【0012】
また、ニードル部材戻り時の移動速度が速すぎると、ニードル部材が容器の内面に当接した時にバウンドし、所謂二次噴射が生じる。このような二次噴射は開閉制御性や燃費の観点から好ましくない。
【0013】
本発明の電子式燃料噴射弁は、ニードル部材が吸引力の向きに移動した場合にニードル部材を吸引力に抗する向きに付勢する弾性手段と、ニードル部材が弾性手段による付勢力によって吸引力とは逆向きに移動する場合には、前記ニードル部材の閉弁時の位置よりも大きく前記第1ストローク長未満の所定位置で特定の部材に衝突するように前記ニードル部材に設けられたストッパ部材とを備えることとしてもよい。これにより、ニードル部材が戻り時にストッパ部材に特定の部材に衝突するため、その速度が容器内面への当接前に減少し、二次噴射が減少する。
【0014】
第1磁気回路の磁性体対の一方は容器に固定され、他方はニードル部材に対して相対的に移動可能であって間接的に吸引力をニードル部材に伝達できるように構成されていることが好ましい。ニードル部材は容器に対して移動するが、磁性体対の他方は間接的に吸引力を伝達するため、ニードル部材戻り時の不要な共振を抑制することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、実施の形態に係る電磁式燃料噴射弁について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。この電磁式燃料噴射弁は、燃料が導入される容器H内に設けられたニードル部材Nを電磁手段による吸引力FL,FSによってニードル部材Nの長手方向(+Z方向)に移動させることにより、容器Hの内面ISとニードル部材Nの外面との間の隙間で規定される燃料通過経路PSの大きさが変化する電磁式燃料噴射弁であり、この電磁手段は吸引力FL,FSが互いに独立制御可能な第1磁気回路M1及び第2の磁気回路M2を備えている。
【0017】
本電磁式燃料噴射弁においては、ニードル部材Nが燃料通過経路PSを塞いだ状態が「閉弁」状態であり、燃料通過経路PSが形成された状態が「開弁」状態である。容器H内部に導入された燃料は、燃料通過経路PSの大きさに依存して燃料噴射用の噴孔から噴射される。この噴孔は燃料通過経路PS自体から構成することもできるが、燃料通過経路PSの後段側に設けることとしてもよい。
【0018】
本電磁式燃料噴射弁によれば、吸引力FL,FSが互いに独立制御可能な第1及び第2の磁気回路M1,M2を用いているため、吸引力(FLとFSの関数)を適正に設定することができ、十分な開閉動作ができる。特に、第1磁気回路M1と第2磁気回路M2が所定期間(T1,T2:図8参照)において同時に吸引力を発生することとすれば、吸引力を強くすることができ、更に十分な開閉動作ができる。
【0019】
第1及び第2磁気回路M1,M2のそれぞれは、空隙A1,A2を介して対向し互いに引き合う磁性体対(M1a,M1b)、(M2a,M2b)を有している。磁性体対M1a,M1bの一方(M1aとする)は電磁石を構成している。また、磁性体対M2a,M2bの一方(M2aとする)も電磁石を構成している。磁性体対M1a,M1b(M2a,M2b)を構成する磁性体は、双方とも電磁石を構成してもよい。
【0020】
なお、電磁石は磁性体にコイルを付加したものであるが、説明の便宜上、それぞれの電磁石は磁性体M1a,M2aと同一の符号を用いることとする。
【0021】
磁性体は、鉄、コバルトやニッケル等からなる金属であって、磁界中において磁極が発生する物質であり、電磁石はこのような物質にコイルを巻きつけることで構成することができる。コイルに電流を供給すると、コイル電流による磁束とコイルの巻かれた磁性体の磁極による磁束が空隙A1,A2を通過することで、強力な磁界が空隙A1,A2内に形成され、空隙A1,A2を含むそれぞれの磁気回路M1,M2において吸引力FL,FSが発生する。
【0022】
本例においては、閉弁時の磁気回路M1の吸引力FLは磁気回路M2の吸引力FSも大きいものとする(FL>FS)。磁気回路M1の吸引力FLは空隙A1の寸法(エアギャップ)G1に反比例し、磁気回路M2の吸引力FSは空隙A2の寸法(エアギャップ)G2に反比例する。すなわち、閉弁時の空隙A1の寸法G1は、空隙A2の寸法G2よりも小さく(G1<G2)、したがって、吸引力FLが吸引力FSよりも大きくなる。
【0023】
なお、磁性体対M1a,M1b(M2a,M2b)のそれぞれは、ニードル部材Nが磁性体対M1a,M1b(M2a,M2b)の吸引力FL,FSによって、その長手方向(+Z方向)に沿って移動するように容器Hとニードル部材Nとの間に配置されており、磁気回路M1,M2がコンパクトに配置されている。
【0024】
電磁石M1a及びM2aは容器Hに対して固定されており、磁性体M1bは第1弾性手段(スプリング)S1を介して駆動力伝達部材FXに接続され、磁性体M2bはニードル部材Nに固定されている。
【0025】
閉弁動作時の第1磁気回路M1による吸引によって、磁性体M1bが+Z方向に移動すると、磁性体M1bに接続された駆動力伝達部材FXが第1弾性手段S1のバネ力によって+Z方向に移動する。駆動力伝達部材FXはニードル部材Nに固定されているので、ニードル部材Nは+Z方向に移動し、燃料通過経路PSが形成され、開弁が行われる。なお、容器Hとニードル部材Nとは第2弾性手段(スプリング)S2によって接続されており、第1磁気回路M1による吸引力FLは、第2弾性手段S2のバネ力に抗している。第2弾性手段S2は必要に応じて設けることとする。
【0026】
吸引力FLによって磁性体M1bが、容器Hに対して固定された電磁石M1a方向に移動し、これに当接すると、第1磁気回路M1によるニードル部材Nの移動は略停止する。閉弁時のニードル部材NのZ方向位置を基準位置とすると、基準位置から当該停止位置までの距離が、ニードル部材Nの第1磁気回路M1によるストローク長(第1ストローク長)となる。本例では第1ストローク長は空隙寸法G1に相当する。
【0027】
閉弁動作時の第2磁気回路M2による吸引によって、磁性体M2bが+Z方向に移動すると、第2弾性手段S2によるバネ力に抗して磁性体M2bが+Z方向に移動する。磁性体M2bはニードル部材Nに固定されているので、ニードル部材Nは+Z方向に移動する。この吸引力が閉弁時に作用すれば、燃料通過経路PSが形成され、開弁が行われる。
【0028】
ニードル部材Nが第1ストローク長以上の位置にあるとき、第2磁気回路M2による更なる吸引によって、磁性体M2bが+Z方向に移動すると、第2弾性手段S2によるバネ力に加えて第1弾性手段S1によるバネ力にも抗して磁性体M2bが+Z方向に移動し、これに固定されたニードル部材Nが+Z方向に移動する。磁性体M2bが電磁石M2aに当接すると、第2磁気回路M2によるニードル部材Nの移動は停止する。閉弁時のニードル部材NのZ方向位置を基準位置とすると、基準位置から当該停止位置までの距離が、ニードル部材Nの第2磁気回路M2によるストローク長(第2ストローク長)となる。本例では第2ストローク長は空隙寸法G2に相当する。なお、ストローク長と空隙寸法が異なる場合も考えられる。
【0029】
第1磁気回路M1によるニードル部材Nの第1ストローク長(=G1)は、第2磁気回路M2によるニードル部材Nの第2ストローク長(=G2)よりも短い。このように、本電磁式燃料噴射弁においてはストローク長が異なるので、燃料通過経路PSの大きさをストローク長に併せて変えることができ、緻密な燃料噴射制御ができる。
【0030】
吸引力非発生時(閉弁時)の第1磁気回路M1の空隙A1の寸法G1は、吸引力非発生時(閉弁時)の第2磁気回路M2の空隙A2の寸法G2よりも小さい。上述のように、空隙が狭いほど吸引力は強くなる。燃料通過経路PSの大きさを零から拡大する瞬間は、燃料噴射用の噴孔内外の圧力差が閉弁力を強めているので、相対的に開弁動作始動時以降の吸引力よりも大きな吸引力が必要である。
【0031】
このように燃料通過経路PSの大きさを零から拡大する瞬間は、少なくともニードル部材ストローク長の短い方の第1磁気回路M1において吸引力を発生させる。空隙A1の寸法G1を小さくすることによって、閉弁時の第1磁気回路M1側の吸引力FLを増加させれば、燃料通過経路PSの大きさをスムーズに拡大することができる。一旦、燃料通過経路PSが形成された場合には、相対的には小さな力でニードル部材Nを移動させることができるので、第1ストローク長よりも長い第2ストローク長を設定することができ、緻密な燃料噴射制御ができるようになる。
【0032】
また、本電磁式燃料噴射弁は、ニードル部材Nが吸引力の向きに第1ストローク長以上移動した場合にはニードル部材Nを吸引力に抗する向きに付勢する第1及び第2弾性手段S1,S2を備えており、第1弾性手段S1はニードル部材Nが吸引力の向きに第1ストローク長未満で移動する場合にはニードル部材Nに吸引力と同じ向きに力を与えるように配置されており、ニードル部材Nの戻り時(ニードル部材Nが弾性手段S1,S2による付勢力によって吸引力とは逆向きに移動する時)には第1及び第2弾性手段S1,S2の合力によってニードル部材Nを移動させることができ、また、吸引力を加えている場合には第1弾性手段S1は吸引力に抗しないので、ニードル部材Nを高速に移動させることができる。
【0033】
また、第1磁気回路M1の磁性体対の一方(M1a)は容器Hに固定され、他方(M1b)はニードル部材Nに対して相対的に移動可能であって間接的に吸引力をニードル部材Nに伝達できるように構成されている。磁性体対の他方(M1b)は間接的に吸引力FLを伝達するため、ニードル部材戻り時の不要な共振を抑制することができる。
【0034】
上述の電磁式燃料噴射弁は種々の変形が可能である。
【0035】
図2は別の電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。この電磁式燃料噴射弁も上述の噴射弁と同様に、燃料が導入される容器H内に設けられたニードル部材Nを電磁手段による吸引力FL,FSによってニードル部材Nの長手方向(+Z方向)に移動させることにより、容器Hの内面ISとニードル部材Nの外面との間の隙間で規定される燃料通過経路PSの大きさが変化する電磁式燃料噴射弁であり、この電磁手段は吸引力FL,FSが互いに独立制御可能な第1磁気回路M1及び第2の磁気回路M2を備えている。図1に示したものとの相違点は、第1弾性手段S1を備えず、吸引時に磁性体M1bがニードル部材Nに固定されたストッパ部材NSに当接でき、磁性体M1bが第3弾性手段(スプリング)S3を介して容器Hに接続されている点である。他の構成は同一である。
【0036】
第1磁気回路M1の吸引力が磁性体M1bに作用すると、これに当接したストッパ部材NSが+Z方向に移動し、ニードル部材が+Z方向に移動する。更なるストロークが必要な場合、第2磁気回路M2による吸引力を作用させると、ニードル部材Nは第1ストローク長を超え、磁性体M1bとストッパ部材NSとは離隔する。他の作用は上記と同様である。
【0037】
図3は更に別の電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。この電磁式燃料噴射弁も上述の噴射弁と同様に、燃料が導入される容器H内に設けられたニードル部材Nを電磁手段による吸引力FL,FSによってニードル部材Nの長手方向(+Z方向)に移動させることにより、容器Hの内面ISとニードル部材Nの外面との間の隙間で規定される燃料通過経路PSの大きさが変化する電磁式燃料噴射弁であり、この電磁手段は吸引力FL,FSが互いに独立制御可能な第1磁気回路M1及び第2の磁気回路M2を備えている。
【0038】
図1に示したものとの相違点は、第1弾性手段S1を備えず、吸引時に磁性体M1bがニードル部材Nに固定されたストッパ部材NSに当接でき、磁性体M1bが第2弾性手段S2に抗して吸引される点である。磁性体M1bは適当な部材に対してスライド可能とされる。他の構成は同一である。このように弾性手段の構成や機械的結合としては種々のものが考えられる。
【0039】
図4は更に別の電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。本電磁式燃料噴射弁は、図1に示したものに加えて、吸引時に磁性体M1bがニードル部材Nに固定されたストッパ部材NSに当接できるようにしたものである。磁性体M1bは第1ストローク長未満では第2弾性手段S2に抗して、第1ストローク長以上では第1及び第2弾性手段S1,S2に抗して吸引される。
【0040】
ニードル部材Nの戻り時の移動速度が速すぎると、ニードル部材Nが容器Hの内面ISに当接した時にバウンドし、所謂二次噴射が生じる。このような二次噴射は開閉制御性や燃費の観点から好ましくない。
【0041】
本電子式燃料噴射弁は、ニードル部材Nが吸引力の向き(+Z方向)に移動した場合にニードル部材Nを吸引力に抗する向きに付勢する弾性手段S2(S1)と、ニードル部材Nが弾性手段S2(S1)による付勢力によって吸引力とは逆向き(−Z方向)に移動する場合には、ニードル部材Nの閉弁時の基準位置よりも大きく第1ストローク長未満の所定位置で特定の部材(本例では磁性体M1b)に衝突するようにニードル部材Nに設けられたストッパ部材NSとを備えている。
【0042】
この構成においては、ストッパ部材NSは、ニードル部材Nの戻り時に、衝撃緩衝作用のあるS1に取り付けられた磁性体M1bに衝突する。このようにニードル部材Nが、戻り時に磁性体M1bに衝突すると、その速度が容器内面ISへの当接前に減少し、二次噴射が減少する。ストッパ部材NSは弾性的に支持されていることとしてもよい。
【0043】
次に、上述の電磁式燃料噴射弁の具体的な構成例について説明する。上述の電磁式燃料噴射弁の中で図4に示したものが最も好適であるので、以下では、これを具体化したものについて説明する。
【0044】
図5は電磁式燃料噴射弁の縦断面図である。
【0045】
この電磁式燃料噴射弁においては、燃料供給管1の端部に位置する燃料供給口1aから容器H内に燃料が供給される。容器Hは、容器本体100と容器本体100の長手方向先端部に取り付けられたノズル17から構成される。容器本体100内にはニードル部材(ニードル弁)Nが配置され、ニードル弁Nはノズル17内部まで延びている。容器本体100とニードル弁Nとの間には第1及び第2磁気回路M1,M2が配置される。
【0046】
第1磁気回路M1は、円筒状の磁性体(第1コア)M1aと、第1コアM1a内に埋め込まれた第1コイルM1cとから構成される第1電磁石(M1a,M1c)を有する。また、第1磁気回路M1は、円環状の磁性体(アーマチャ)M1bを備えている。アーマチャM1bの開口内には相対的にスライド可能なニードル弁Nが位置し、アーマチャM1bは第1弾性手段(第1スプリング)S1を介して駆動力伝達部材(ストッパ部材)FXに接続され、ニードル弁Nと弾性的に結合している。
【0047】
第2磁気回路M2は、円筒状の磁性体(第2コア)M2aと、磁性体M2a内に埋め込まれた第2コイルM2cとから構成される第2電磁石(M2a,M2c)を有する。また、第2磁気回路M2は、円環状の磁性体(アーマチャ)M2bを備える。アーマチャM2bの開口内にはニードル弁Nが固定されており、アーマチャM2bは第2弾性手段(第2スプリング)S2を介して容器Hに接続され、容器Hと弾性的に結合している。なお、本例では、容器Hに固定された燃料供給管1内のスリーブ1bをストッパとし、これとニードル弁Nの基端部との間に第2スプリングS2を介在させている。
【0048】
容器Hには、コイルM1c,M2cにそれぞれ電流を供給するためのコネクタ2が取り付けられており、それぞれへの電流供給によって、それぞれの吸引力FL,FSが独立に発生する。
【0049】
燃料供給口1aから導入された燃料は、第2コアM2aの内側領域、アーマチャM2b等に設けられた燃料通路、第1コアM1aの内側領域、第1磁性体M1b等に設けられた燃料通路を介して、ノズル17内に至り、燃料通過経路(燃料シール部)PSの直前まで移動する。ノズル17の先端には噴孔19が設けられており、開弁時には噴孔19から燃料が噴出する。本装置の動作は既に説明した通りであるが、以下、詳説する。
【0050】
図6は各状態における電磁式燃料噴射弁の縦断面図である。
【0051】
図6(a)に示す閉弁状態においては、コネクタ2から電流は供給されず、第2スプリングによる第2スプリング力(付勢力)F2によって、ニードル弁Nが燃料シール部PS方向に付勢され、ニードル弁Nの外面が燃料シール部PSを塞いでいる。
【0052】
図6(b)に示す少量噴射の開弁状態にするには、開弁動作始動時に、コネクタ2から第1及び第2磁気回路M1,M2を構成する第1及び第2コイルM1c,M2cに電流を供給する。これにより、第1スプリングS1及びストッパ部材FXを介してニードル弁Nに+Z方向の力が加わることで、差圧による閉弁力FD及び第2スプリング力F2に抗して、ニードル弁Nが燃料シール部PSから離隔する方向に移動し、開弁が行われ、燃料噴射が開始される。
【0053】
燃料噴射開始後にニードル弁Nが第1ストローク長未満の所定位置に位置した時に、第2コイルM2cへの電流供給が停止され、第1アーマチャM1bが第1コアM1aに当接し、ニードル弁Nの移動が略停止する。しかる後、第1コイルM1cへの電流供給を停止すると、第1及び第2スプリングによるスプリング力F1,F2によって、ニードル弁Nが−Z方向に移動し、ニードル弁Nが燃料シール部PSを構成する容器内面に当接し、閉弁が行われる。
【0054】
この噴射は、一度の燃料噴射量が少量なので、燃料の分散度が高く、高分散噴霧が行われる。
【0055】
なお、ニードル弁Nに設けられたストッパ部材NSは、第1ストローク長未満の位置で第1アーマチャM1bに一旦衝突することで減速された後、燃料シール部PSを構成する容器内面に衝突するので、二次噴射が抑制される。
【0056】
図6(c)に示す多量噴射の開弁状態にするには、まず、開弁動作始動時に、コネクタ2から第1及び第2磁気回路M1,M2を構成する第1及び第2コイルM1c,M2cに電流を供給する。これにより、第1スプリングS1及びストッパ部材FXを介してニードル弁Nに+Z方向の力が加わることで、差圧による閉弁力FD及び第2スプリング力F2に抗して、ニードル弁Nが燃料シール部PSから離隔する方向に移動し、開弁が行われ、燃料噴射が開始される。
【0057】
燃料噴射開始後にニードル弁Nが第1ストローク長に到達した時点においても第2コイルM2cへの電流供給は継続され、第1アーマチャM1bは第1コアM1aに当接するものの、第1スプリングS1による第1スプリング力F1及び第2スプリングS2によるスプリング力F2に抗して第2アーマチャM2bの吸引が行われ、ニードル弁Nが更に上方まで移動する。
【0058】
この時、第1コイルM1cへの電流供給は停止させることができる。第2アーマチャM2bが第2コイルM2cに当接すると、第2ストローク長の位置でニードル弁Nの移動が停止する。しかる後、第2コイルM1c(必要に応じて第1コイルM1c)への電流供給を停止すると、第1及び第2スプリングによるスプリング力F1,F2によって、ニードル弁Nが−Z方向に移動し、ニードル弁Nが燃料シール部PSを構成する容器内面に当接し、閉弁が行われる。
【0059】
この噴射は、一度の燃料噴射量が多量なので、燃料の分散度が低く、高貫徹力噴射が行われる。
【0060】
なお、この場合の閉弁動作においても、ニードル弁Nに設けられたストッパ部材NSは、第1ストローク長未満の位置で第1アーマチャM1bに一旦衝突することで減速された後、燃料シール部PSに衝突するので、二次噴射が抑制される。
【0061】
図7は二次噴射抑制機能を説明するための説明図である。ニードル弁Nが第2ストローク長だけ閉弁位置(基準位置)から移動した位置にある場合(状態C)、これは空隙A2の寸法G2に対応するが、閉弁動作時においては、ニードル弁Nが時間の経過に従って第1ストローク長(寸法G1)よりも閉弁位置に近づいた時点で、ストッパ部材NSは第1アーマチャM1bに衝突し、第1アーマチャM1bに設けられたスプリングS1によって衝撃が緩衝され、第1アーマチャM1bと共に減速されて閉弁時の位置まで移動する。
【0062】
すなわち、ニードル弁Nは、その時間に対する位置変化量(速度)が、閉弁位置への到達の直前に小さくなり、燃料シール部PSを構成する容器内面への衝突速度は低速となる。したがって、この衝突の際のバウンドが抑制され、二次噴射が抑制される。
【0063】
図8は、▲1▼閉弁状態、▲2▼少量噴射の開弁動作時、▲3▼多量噴射の開弁動作時のコイルM1c,M2cへの供給電流(ソレノイド駆動パルス)I1,I2、吸引力FL,FS、スプリング力F1,F2、差圧による閉弁力FD、ニードル弁位置のタイミングチャートである。
【0064】
▲2▼少量噴射の開弁動作時においては、まず、ソレノイド駆動パルスI1,I2を同時に供給した後、期間T1後に駆動パルスI2を停止し、燃料噴射が行われた後、駆動パルスI1も停止することで、閉弁動作を行う。
【0065】
▲3▼多量噴射の開弁動作時においては、まず、ソレノイド駆動パルスI1,I2を同時に供給した後、駆動パルスI2は供給したままで期間T2後に駆動パルスI1を停止し、燃料噴射が行われた後、駆動パルスI2も停止することで、閉弁動作を行う。
【0066】
以上、説明したように、ニードル弁Nのストローク長を可変としたことで、エンジンの負荷に応じて必要な噴霧を行うことができ、燃費を向上させることができる。少量噴射時においては、噴霧が広角で分散するため、低負荷域での燃焼に適する。また、多量噴射時においては、燃料噴射の直進性が高いため、高負荷域での燃焼に適する。
【0067】
なお、単位時間当たりの燃料噴射量は、上記駆動パルスI1又はI2のデューティ比に比例する。少量噴射にすると、デューティ比を可変しなくても燃料噴射率を相対的に小さくすることができ、デューティ比も低減させれば、非常に微量の燃料噴射を行うことができる。
【0068】
多量噴射はデューティ比を大きくしなくても相対的に燃料噴射率を変えることができ、デューティ比も増加させれば、非常に多量の燃料噴射を行うことができる。このように、上述の構成を採用することによって、燃料噴射率のダイナミックレンジを拡大することができる。
【0069】
また、高燃料圧力に対して、弁を開弁させるためには、大きな吸引力が必要であるが、上記構成においては、1つには、空隙A1の寸法G1を相対的に狭くすることにより、吸引力FLを大きくすることができ、また、吸引力FL,FSの合力を用いることで、更に吸引力を大きくすることができる。したがって、高燃圧化を達成することができる。
【0070】
また、スプリングS1,S2を2つ用いることにより、閉弁動作時にスプリング力F1,F2の合力がニードル弁Nに働くので、閉弁動作時の応答性が向上する。また、開弁動作時には1つのスプリング力F2のみが機能するので、吸引力の開弁動作に対する寄与度を高められ、開弁動作時の応答性が向上する。
【0071】
また、上述の構造では、第1及び第2の磁気回路M1,M2はニードル弁Nの長手方向に沿って配置されているので、長手方向に直交する方向(径方向)の寸法の大型化を行わずに、吸引力を増加させることができる。
【0072】
エンジンへの燃料供給においては、蒸散ガスの低減が求められており、このための方策としての燃料供給システムとしてはリターンレスシステムが考えられている。上述の電磁式燃料噴射弁によれば、ニードル弁Nを直接ソレノイドで作動させることにより、リターンレス構造や、レール圧内蔵構造を採用することもできる。
【0073】
【発明の効果】
本発明の電磁式燃料噴射弁によれば十分な開閉動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。
【図2】別の電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。
【図3】更に別の電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。
【図4】更に別の電磁式燃料噴射弁内部要素の機械的結合関係を示す説明図である。
【図5】電磁式燃料噴射弁の縦断面図である。
【図6】各状態における電磁式燃料噴射弁の縦断面図である。
【図7】二次噴射抑制機能を説明するための説明図である。
【図8】コイルM1c,M2cへの供給電流(ソレノイド駆動パルス)I1,I2、吸引力FL,FS、スプリング力F1,F2、差圧による閉弁力FD、ニードル弁位置のタイミングチャートである。
【符号の説明】
1b…スリーブ、1a…燃料供給口、1…燃料供給管、2…コネクタ、17…ノズル、19…噴孔、100…容器本体、A1,A2…空隙、F1,F2…スプリング力、FD…開弁力、FL,FS…吸引力、FX…ストッパ部材、G1…空隙寸法、G2…空隙寸法、H…容器、I1,I2…ソレノイド駆動パルス、IS…容器内面、M1,M2…磁気回路、M1a…コア(電磁石:磁性体)、M1b…アーマチャ(磁性体)、M1c,M2c…コイル、M2a…コア(電磁石:磁性体)、M2b…アーマチャ(磁性体)、N…ニードル部材(ニードル弁)、NS…ストッパ部材、PS…燃料シール部(燃料通過経路)、S1…スプリング(第1弾性手段)、S2…スプリング(第2弾性手段)。
Claims (6)
- 燃料が導入される容器内に設けられたニードル部材を電磁手段による吸引力によって前記ニードル部材の長手方向に移動させることにより、前記容器の内面と前記ニードル部材の外面との間の隙間で規定される燃料通過経路の大きさが変化する電磁式燃料噴射弁において、前記電磁手段は吸引力が互いに独立制御可能な第1及び第2の磁気回路を備え、
前記第1及び第2磁気回路のそれぞれは、空隙を介して対向し互いに引き合う磁性体対を有し、各磁性体対の少なくとも一方は電磁石を構成し、前記磁性体対のそれぞれは、前記ニードル部材が前記磁性体対の吸引力によってその長手方向に沿って移動するように前記容器と前記ニードル部材との間に配置され、
前記第1磁気回路による前記ニードル部材の第1ストローク長は、第2磁気回路による前記ニードル部材の第2ストローク長よりも短く、
前記ニードル部材が前記吸引力の向きに移動した場合に前記ニードル部材を前記吸引力に抗する向きに付勢する弾性手段と、前記ニードル部材が前記弾性手段による付勢力によって前記吸引力とは逆向きに移動する場合には、前記ニードル部材の閉弁時の位置よりも大きくかつ前記第2ストローク長未満の所定位置で特定の部材に衝突し前記ニードル部材の速度が前記ニードル部材の外面が容器の内面へ当接前に減少するように前記ニードル部材に設けられたストッパ部材とを備えることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。 - 前記吸引力非発生時の前記第1磁気回路の前記空隙の寸法は、前記吸引力非発生時の前記第2磁気回路の前記空隙の寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
- 前記ニードル部材が前記吸引力の向きに前記第1ストローク長以上移動した場合には前記ニードル部材を前記吸引力に抗する向きに付勢する第1及び第2弾性手段を備え、前記第1弾性手段は前記ニードル部材が前記吸引力の向きに前記第1ストローク長未満で移動する場合には前記ニードル部材に前記吸引力と同じ向きに力を与えるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
- 前記第1磁気回路の前記磁性体対の一方は前記容器に固定され、他方は前記ニードル部材に対して相対的に移動可能であって間接的に前記吸引力を前記ニードル部材に伝達できるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
- 前記第1磁気回路と前記第2磁気回路は所定期間において同時に吸引力を発生することを特徴とする請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
- 前記第1及び第2の磁気回路は前記ニードル部材の長手方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
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