JP4055328B2 - 水溶性インク、およびそれを用いたインクジェット記録装置 - Google Patents

水溶性インク、およびそれを用いたインクジェット記録装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オフィスや学校で一般的に使用されている普通紙に記録したときに印刷物の耐水性が良くなる、言い換えるとインクが水に滲み出し難くなるシアン色、または緑色系、青色系、紫色系の水溶性インクに関するものである。
【0002】
また、主にフルカラー記録用のシアンインク、モノカラー記録用のシアン色、青色、緑色、紫色などのインクと、これらのインクを用いて記録する例えばパソコン用ターミナルプリンタ、キャッシュレジスタ、ファクシミリ、インフォメーション端末(キオスク)等に搭載するオンデマンド型インクジェット記録装置に関するものである。
【0003】
【従来の技術】
従来、特開平6−100809号公報記載の技術のように、記録ヘッドを長期放置してもオリフィスでのインクの目詰まりを起こし難くすることを目的としたインクや、該インクを用いたインクジェットプリンタが提案されていた。
【0004】
また、特開平9−316374号公報記載の技術のように、画像の彩度及び解像度を高めてより高品位な画像を形成することを目的としたインクが提案されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特開平6−100809号公報や特開平9−316374号公報記載の技術では、インクに用いる染料としてC.I.Acid Blue 9を用いており、該染料を使用したインクをインクジェット記録装置で印刷すると、印刷物の耐水性は極めて悪いものであった。
【0006】
例えば、日常、印刷物に水を垂らしてしまう、濡れた手で印刷物に触ってしまうということはよくあることで、実際にC.I.Acid Blue 9を使用したインクをインクジェット記録装置で印刷し、印刷物に水を垂らしたり、また濡れた手で印刷物に触ると、水が付着した箇所の染料が溶け出し、大きく滲み、この滲みによって文字を全く判読できなくなってしまう。
【0007】
さらに、上記の印刷物を1日中水に浸しておくと、滲みはほとんどないが、染料の大部分が水中に溶け出し、印刷濃度が薄くなり、これもまた文字を全く判読できなくなってしまう。
【0008】
そこで本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、シアン染料を使用したシアン色、青色、緑色、紫色などの水溶性インクと、該水溶性インクを用いたインクジェット記録装置において、耐水性に優れた水溶性インク及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の水溶性インクは、被記録材を着色するための着色剤として、吸収スペクトルが以下の2つの特性を有するシアン染料を含有すること特徴とする。測定は、例えば、JIS K 0115「吸光光度分析通則」に準拠して実施する。
【0013】
(1)波長600nm〜640nmの間には吸収スペクトルのピークがあること。
【0014】
(2)波長650nm〜680nmの間には吸収スペクトルのピークがないこと。
【0015】
(3)該シアン染料1wt%水溶液を水で1000倍に希釈した液体の650nmにおける吸光度が0.23であること。
【0016】
一般的に、同じカラーインデックスナンバーの染料であっても、置換基の種類や位置、数が変わることによって、吸収スペクトルのピークの位置や大きさが変わることが知られている。例えば、波長600nm〜640nmと650nm〜680nmの間に、それぞれ吸収スペクトルのピークがある銅フタロシアニン系のシアン染料において、この2つのピークの値の比は染料によって異なり、それは置換基の種類や位置、数の違いによるものである。
【0017】
また、波長650nm〜680nmの間に吸収スペクトルのピークがない、例えば銅フタロシアニン系のシアン染料もあり、この吸収スペクトルのピークの有無も染料によって異なり、それは置換基の種類や位置、数の違いによるものである。
【0018】
本発明者らは鋭意研究の結果、波長650nm〜680nmの間の光を吸収する置換基と印刷物の耐水性の間に強い関係があり、波長650nm〜680nmの間の光を吸収する置換基が少ない程、耐水性に優れていることを見出した。言い換えると、波長650nm〜680nmの間の吸収スペクトルのピークが小さいインクは、水に滲み難く、印刷物の耐水性が良いことが分かった。
【0020】
また、本発明の水溶性インクにおいて、表面張力が40mN/m以下になるように調製することにより、印刷直後の速乾性を高め、印刷直後の耐水性を高めることが好ましい。
【0021】
このようなレベルの表面張力は、たとえば界面活性剤を添加することにより実現できる。たとえば、アセチレングリコール系界面活性剤や以下の化学式〔I〕で表される界面活性剤を添加すればよい。
【0022】
【化5】
Figure 0004055328
前記アセチレングリコール系界面活性剤としては、以下の化学式〔II〕または〔III〕または〔IV〕で表されるものを用いることができる。これらは単独で用いて、併用しても構わない。
【0023】
【化6】
Figure 0004055328
【化7】
Figure 0004055328
【化8】
Figure 0004055328
本発明のインクジェット記録装置は、少なくともインク流路形成部材と微細孔からなる記録ヘッドの該微細孔から水溶性インクを吐出噴射させて飛翔液滴を形成し、被記録材上にドット像を記録するインクジェット記録装置において、以下の特性を有するシアン染料を含有する水溶性インクを用いることを特徴とする。
【0027】
(1)波長600nm〜640nmの間には吸収スペクトルのピークがあること。
【0028】
(2)波長650nm〜680nmの間には吸収スペクトルのピークがないこと。
【0029】
(3)該シアン染料1wt%水溶液を水で1000倍に希釈した液体の650nmにおける吸光度が0.23であること。
【0030】
本発明者らは、本発明により耐水性に優れた印刷物を得るインクジェット記録装置を提供することが可能になることを、上記水溶性インクと同様の作用によって見出した。
【0031】
さらに、本発明の水溶性インクや、本発明のインクジェット記録装置に用いる水溶性インクは、上記のような特性を有するシアン染料と、イエロー染料またはマゼンタ染料を含有し、イエロー染料としてC.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 144のいずれか1つ以上を含有し、マゼンタ染料として少なくともC.I.DirectRed 227を含有することを特徴とする。ここに挙げたイエロー染料4種類、マゼンタ染料1種類は、イエロー染料やマゼンタ染料の中でも特に耐水性に優れた染料であり、耐水性に優れたシアン染料と、耐水性に優れたイエロー染料またはマゼンタ染料を併用することにより、耐水性に優れたシアン色、緑色、イエロー色や、シアン色、青色、紫色、マゼンタ色が可能となる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、一実施の形態に基づき本発明を詳細に説明し、併せて、効果を例証する。
【0033】
(インクジェット記録装置の概略構成)
まず、本発明のインクジェット記録装置について詳細を説明する。
【0034】
図1および図2は、それぞれ、本発明のインクジェット記録装置を斜め前方および斜め後方から見た斜視図である。また、図3は、このインクジェット記録装置のヘッドの分解斜視図である。
【0035】
図1および図2を参照して説明すると、インクジェット記録装置1は、ロール紙装填機構2と、A4サイズ等のカット紙、スリップ紙等の給紙口3とを有し、ロール紙装填機構2から供給されるロール紙4および給紙口3から挿入されるスリップ紙5が、印刷位置11(図1における一点鎖線で囲まれた領域)を通って搬送されるように搬送経路が構成されている。印刷位置11を通過するロール紙4およびスリップ紙5の表面に対峙するようにインクジェットヘッド8がキャリッジ機構9によって保持されている。
【0036】
キャリッジ機構9は、ガイドシャフト6と、このガイドシャフト6に沿ってロール紙4、スリップ紙5の搬送方向とは直交する方向に往復移動可能に保持されたキャリッジ7と、キャリッジ駆動用のモータ(図示せず)を備えている。
【0037】
キャリッジ7は、印刷位置11を包含する範囲を、その幅方向に往復移動可能であり、印刷位置11から幅方向の一方の側に外れた位置には、インクジェットヘッド8の退避位置であるキャッピング機構11Bのキャッピング面11Cが配置されている。インクジェットヘッド8は、印刷動作を待機する状態では、そのノズル面がキャッピング面11Cによって塞がれた状態に設定されて、各インクノズルのインクメニスカスの後退、インク乾燥等が防止される。このように、インクジェットヘッド8がガイドシャフト6に沿ってロール紙4やスリップ紙5などの印刷用紙の搬送方向と直行する方向に往復移動し、印刷するインクジェット記録装置の方式を一般的にシリアル方式と称する。それに対して印刷用紙に対峙する位置に印刷幅全体にインクジェットヘッドを配置し、インクジェットヘッドを移動せずに印刷用紙の搬送のみで印刷するインクジェット記録装置の方式をライン方式と称する。
【0038】
インクジェットヘッド8には、インクチューブ13(図3参照)を経由して、ロール紙装填機構2と隣合った位置に搭載されているインク供給部10からインクが供給される。インク供給部10は、図2から分かるように、インクカートリッジ20が着脱可能な状態で装着されたインクカートリッジ装着部30を備えている。このインクカートリッジ装着部30は、フード部40、インクカートリッジ受け入れ部50、該インクカートリッジ受け入れ部50を水平方向にスライドさせるためのスライド機構60を備えており、操作レバー65を用いてスライドさせる。
【0039】
このように構成したインクジェット記録装置1において、インクジェットヘッド8は、図3に示すように、3枚の基板のうち、中間の第1の基板101は、シリコン基板であり、複数のノズル孔104を構成するように、基板101の表面には一端より平行に等間隔で形成されたノズル溝111と、各々のノズル溝111に連通し、底壁を振動板105とする吐出室106を構成することになる凹部112と、この凹部112の後部にオリフィス107を構成することになるインク流入口のための細溝113と、各々の吐出室106にインクを供給するための共通のインクキャビティ108を構成することになる凹部114とが形成されている。
【0040】
振動板105の下部には、後述する電極を装着するための振動室109を構成することになる凹部115が形成されている。ここで、オリフィス107は、主に流路抵抗を増加させるとともに、細溝113の一つが詰まったとしてもインクジェットヘッド8が正常な動作を保つように3本の細溝113から構成されている。なお、第1の基板101には共通電極117が付与されている。
【0041】
また、第1の基板101の下面に接合される下側の第2の基板102にはホウケイ酸ガラスが用いられ、この第2の基板102を第1の基板1に接合することによって振動室109を構成するとともに、第1の基板101の振動板105に対向する各々の位置に、振動板105とほぼ同じ形状の個別電極121が形成されている。個別電極121はリード部122および端子部123を備えている。さらに、個別電極121の表面側には、端子部123を除いて絶縁膜124が形成され、この絶縁膜124は、インクジェットヘッド8を駆動するときの絶縁破壊、ショートの発生を防止している。
【0042】
第1の基板101の上に接合される上側の第3の基板103には、第2の基板102と同様、ホウケイ酸ガラスが用いられている。この第3の基板103の接合によって、ノズル孔104、吐出室106、オリフィス107およびインクキャビティ108が構成される。この第3の基板103には、インクキャビティ108に連通するインク供給口131が形成され、インク供給口131は、接続パイプ132およびインク供給チューブ13を介してインクカートリッジ20(図1を参照)に接続される。
【0043】
このように構成したインクジェットヘッド8において、共通電極117と個別電極121の端子部123との間にそれぞれ配線161により駆動回路162を接続し、インクジェット記録装置1を構成する。ここで、インクは、インクカートリッジ20(図1を参照)よりインク供給口131を経て第1の基板101の内部に供給され、インクキャビティ108および吐出室106などを満たしている。この状態で共通電極117と個別電極121の間に駆動信号を印加して、共通電極117と個別電極121の間に静電気を発生させ、この静電気力により振動板105を撓ませ、それを解除することにより振動板105を振動させると、吐出室106のインクは、ノズル孔104よりインク液滴として吐出され、ロール紙4(図1参照)またはスリップ紙5(図1参照)に印刷される。
【0044】
上記の説明において、インクジェット記録装置としてシリアル方式について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ライン方式にも適用可能である。また、インクジェットヘッド8は、上記の静電気力により振動板105を撓ませる方式の他に、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる方式や、高熱による膜沸騰によってインク中に気泡を成長させて、これによって生じる圧力を利用してインクを吐出させる方式などでも構わない。
【0045】
(インク)
次に、本発明のインクジェット記録装置に使用する水溶性インクについて説明する。
【0046】
本発明の水溶性インクは、水溶性染料として、C.I.Direct Blue 86やC.I.Direct Blue 199などのシアン染料を含有することができる。また、マゼンタ染料やイエロー染料を併用する場合には、マゼンタ染料としてC.I.Direct Red 227、イエロー染料としてC.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 144などを含有することができる。これらの染料の種類や合計した添加量は、水溶性インクに要求される特性、例えば色濃度や色彩などに依存して決定されるが、一般には水溶性インク全重量に対して0.3〜20wt%、好ましくは0.5〜15wt%、より好ましくは1〜10wt%の範囲である。
【0047】
本発明の水溶性インクは水を主な溶媒成分とするが、水単体のみならず、望ましくは、水と水溶性の各種有機溶剤との混合物が良い。
【0048】
例えば、水溶性の有機溶剤としては、蒸気圧が低く、蒸発乾燥し難いグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルキレングリコール類等の多価アルコール系溶媒が挙げられる。
【0049】
水溶性インク中の上記水溶性有機溶剤の含有量は、一般には、1〜50wt%、好ましくは5〜40wt%、より好ましくは10〜25wt%の範囲とされる。
【0050】
また、本発明においては、水溶性インクに対して、前記の化学式〔I〕で表される界面活性剤、あるいは前記の化学式〔II〕、〔III〕、〔IV〕などで表わされるアセチレングリコール系界面活性剤を含有することにより、水溶性インクの表面張力が40mN/m以下となるように調製されることが好ましい。このようなレベルにまで表面張力を低下させると、印刷直後の速乾性が高まるので、印刷直後の耐水性が向上する。これらの界面活性剤と、他の界面活性剤や低表面張力の有機溶剤などを併用する場合もある。
【0051】
さらに、溶解助剤として含窒素化合物を添加する場合もあり、一般的に、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリドンが挙げられるが、これらに限ったものではない。
【0052】
以上、主として水溶性インクを構成する成分を挙げたが、上記成分の他に物性値を最適化したり特性を向上する為に、従来公知の一般的な種々の添加剤を使用することができる。たとえば粘度調整剤、pH調整剤、防カビ剤等である。
【0053】
ここで、耐水性試験を実施するための実施例としてのインク成分を表1、比較例としてのインク成分を表2に示す。表1のシアン染料において、a1とa2、b1とb2はそれぞれ同じカラーインデックスナンバーであり、aはC.I.Direct Blue 86、bはC.I.Direct Blue 199、cはC.I.Acid Blue 9である。また、マゼンタ染料m1はC.I.Direct Red 227、イエロー染料y1はC.I.Direct Yellow 86、y2はC.I.Direct Yellow 132、y3はC.I.Direct Yellow 142、y4はC.I.Direct Yellow 144である。これらの成分を室温で3時間攪拌することによって均一に混合溶解させた後、孔径0.8μmのメンブランフィルタで濾過し、水溶性インクを製造した。
【0054】
尚、表1におけるインク成分の各数値の単位はwt%である。
【0055】
【表1】
Figure 0004055328
【表2】
Figure 0004055328
また、各染料1wt%水溶液をイオン交換水で1000倍希釈し、下記の測定条件で、同一濃度における各染料の吸収スペクトルをJIS K 0115に則り測定した。
【0056】
使用装置:自記分光光度計(日立製作所製 U−3000)
セル :石英セル(光路長10mm)
測定温度:25℃
【0058】
次に、同様に吸収スペクトルを測定した染料水溶液のうち、実施例であるシアンBインク、グリーンAインク、グリーンBインクなどに含有しているシアン染料b1と、比較例であるシアンYインク、グリーンXインク、パープルXインクに含有しているシアン染料b2、シアンZインク、グリーンYインクに含有しているシアン染料c1の吸収スペクトルのチャートを図5に示す。
【0059】
ここで、実施例の各インクに含有しているシアン染料b1と、比較例の各インクに含有しているシアン染料b2の吸収スペクトルを比較すると、これらの染料は同じカラーインデックスナンバーではあるが、インクの吸収スペクトルが異なっている。実施例のインクに含有しているシアン染料b1の水溶液は、波長600nm〜640nmの間のピーク値が0.42であり、波長650〜680nmの間のピークはない。これに対して、比較例のインクに含有しているシアン染料b2の水溶液は、波長600nm〜640nmの間のピーク値が0.51であり、波長650nm〜680nmの間のピーク値が0.40であり、その比は0.78である。
【0060】
図5から実施例のインクに含有しているシアン染料b1は波長660nm付近の吸収スペクトルのピークがないことが分かる。
【0061】
また、比較例のインクに含有しているシアン染料c1は今まで述べたものとは異なり、急峻性のあるピークが波長630nm付近に存在し、且つ波長650nmの吸光度が他のシアン染料と比較して大きいことが分かる。
【0062】
ここで述べたシアン染料a1、シアン染料a2、シアン染料b1、シアン染料b2、シアン染料c1の波長600nm〜640nmにおける吸収スペクトルのピーク値(A)と、波長650nm〜680nmにおける吸収スペクトルのピーク値(B)、ピーク値(A)とピーク値(B)の比、波長650nmにおける吸光度を表3に示す。また、表3において、シアン染料b1とシアン染料c1は、波長650nm〜680nmにピークがないため「− − −」と記した。
【0063】
【表3】
Figure 0004055328
【実施例】
以上に説明した本発明の水溶性インクと本発明のインクジェット記録装置を用いて印刷し、耐水性試験を実施した。併せて、比較例のインクも印刷して耐水性試験を実施した。
【0064】
<耐水性試験>
耐水性試験は、以下の2つの方法を実施した。
―試験1―
日常的に考えられそうな場面を想定した試験が試験1であり、印刷直後に、その印刷物を水道水に5秒間浸す試験である。
―試験2―
試験2は、印刷後に数日経った後に、その印刷物を水に1日浸す試験である。耐水性が悪い水溶性染料を使用して印刷し、その印刷物を長時間水に浸した場合には、印刷されたインクの染料成分が水に溶け、印刷濃度が薄くなり、使用する染料によっては、文字が全く判読できない程に薄くなる。
【0065】
試験1、試験2ともに5秒間ないしは1日水に浸した後は、自然乾燥させ、文字の滲みや文字判読性を調べた。その結果を表4に示す。
【0066】
尚、判定基準は以下の通りである。
【0067】
○:滲みが少なく、文字の判読が可能
×:滲みが多い、または印刷濃度が薄くなり、文字の判読が不可能
【0068】
【表4】
Figure 0004055328
表4の結果から明らかなように、シアン染料a1、シアン染料b1を含有している水溶性インクである実施例のシアンAインク、シアンBインク、ブルーAインク、グリーンAインク、グリーンBインク、グリーンCインク、グリーンDインク、パープルAインクは、その耐水性が、シアン染料a2、シアン染料b2、シアン染料c1を用いた水溶性インクである比較例のシアンXインク、シアンYインク、シアンZインク、ブルーXインク、グリーンXインク、グリーンYインク、パープルXインクに比べて優れていることが分かる。
【0069】
シアン染料a1は、前述の表3に示すように波長600nm〜640nmにおける吸収スペクトルのピーク値(A)と、波長650nm〜680nmにおける吸収スペクトルのピーク値(B)の比B/Aが0.73である。このシアン染料a1を含有している実施例としてのシアンAインクやブルーAインク、パープルAインクは耐水性に優れている。
【0070】
それに対して、シアン染料a2はB/Aが1.14であり、このシアン染料a2を含有している比較例としてのシアンXインクやブルーXインクは耐水性が悪いことが分かった。
【0071】
また、シアン染料b1は、波長600nm〜640nmの間における吸収スペクトルのピークがあるが、波長650nm〜680nmの間における吸収スペクトルのピークはない。さらに、該シアン染料1wt%水溶液をイオン交換水で1000倍に希釈した液体の波長650nmにおける吸光度が0.6未満である。このシアン染料b1を含有している実施例としてのシアンBインク、グリーンAインク、グリーンBインクなどは耐水性に優れている。
【0072】
それに対してシアン染料b2は、該シアン染料1wt%水溶液をイオン交換水で1000倍に希釈した液体の波長650nmにおける吸光度が0.6未満であるが、前述の吸光度の比B/Aが0.78である。このシアン染料b2を含有している比較例としてのシアンYインクやグリーンXインク、パープルXインクは耐水性が悪い。また、シアン染料c1は、波長650nmから680nmの間に吸収スペクトルのピークはないが、波長650nmにおける吸光度が0.6以上ある。このシアン染料c1を含有している比較例としてのシアンZインクやグリーンYインクは耐水性が悪いことが分かった。
【0073】
このように、シアン染料において波長650nm〜680nmの間の吸収スペクトルのピークの有無や、波長600nm〜640nmの間の吸収スペクトルのピーク値と波長650nm〜680nmの間の吸収スペクトルのピーク値の比の大小と印刷物の耐水性の間に強い相関がある。言い換えると、波長650nm〜680nmの間に吸収スペクトルのピークがある置換基が耐水性に寄与することが分かった。波長650nm〜680nmの間に吸収スペクトルのピーク値が小さい、または吸収スペクトルのピークがないシアン染料は水に滲み難い。即ち、このようなシアン染料は耐水性に優れており、該染料を使用した水溶性インクは耐水性に優れたものである。
【0074】
また、このようなシアン染料と、イエロー染料を併用することで緑色系のインクを得ることができるが、ここで含有するイエロー染料も耐水性に優れたものであれば、耐水性に優れた緑色系のインクが可能となる。耐水性に優れたイエロー染料としては、C.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 144が挙げられる。これらのイエロー染料を含有した実施例におけるグリーンAインク、グリーンBインク、グリーンCインク、グリーンDインクの耐水性は、これらのイエロー染料を含有しないシアンAインクやシアンBインクと同様に耐水性が優れていることが表4から分かる。
【0075】
さらに、このようなシアン染料と、マゼンタ染料を併用することで青色系のインクや紫色系のインクを得ることができるが、ここで含有するマゼンタ染料も耐水性に優れたものであれば、耐水性に優れた青色系や紫色系のインクが可能となる。耐水性に優れたマゼンタ染料としては、C.I.Direct Red 227が挙げられる。このマゼンタ染料を含有した実施例におけるブルーAインクやパープルAインクの耐水性は、このマゼンタ染料を含有しないシアンAインクやシアンBインクと同様に耐水性に優れていることも表4から分かる。
【0076】
また、実施例における各水溶性インクにおいては、本発明に係るシアン染料、イエロー染料、マゼンタ染料に加えて、表面張力が40mN/m以下になるように本発明に係る界面活性剤を含有しているため、耐水性試験1においても耐水性に優れている。実施例であるブルーAインクと、比較例であるブルーXインクの成分を比較すると、化学式〔II〕に示す界面活性剤の添加量以外は同じである。ところが、ブルーXインクにおいては化学式〔II〕に示す界面活性剤の添加量が少なく、表面張力が45mN/mと大きいため、耐水性試験1の結果が、ブルーAインクのそれより劣ることが分かる。本発明に係る他の界面活性剤においても同様に、インクへの添加量が少なく、インクの表面張力が大きい場合には、耐水性試験1における耐水性は悪い結果となる。このように、表面張力と、本発明に係る界面活性剤も耐水性に影響していることが分かる。
【0077】
以上の発明を整理すると、以下に述べる▲1▼と▲2▼のいずれかの条件を満たす水溶性染料を含有したインクの耐水性は優れたものであることが分かる。
▲1▼シアン染料水溶液の吸収スペクトルにおいて、波長600nm〜640nmと波長650nm〜680nmのそれぞれに吸収スペクトルのピークがあり、且つ、波長600nm〜640nmの間の吸収スペクトルのピーク値(A)と、波長650nm〜680nmの吸収スペクトルのピーク値(B)の比B/Aが0.75未満であること。
▲2▼波長600nm〜640nmの間には吸収スペクトルのピークがあり、且つ波長650nm〜680nmの間には吸収スペクトルのピークがなく、且つ該染料1wt%水溶液を水でさらに1000倍に希釈した液体の波長650nmにおける吸光度が0.6未満であること。
【0078】
また、上記▲1▼▲2▼のいずれかを満たすシアン染料に、特定のイエロー染料を含有することで耐水性に優れた緑色系の水溶性インクを得ることができ、また、特定のマゼンタ染料を含有することで耐水性に優れた青色系または紫色系の水溶性インクを得ることができる。さらに、これらの水溶性インクを用いることで、耐水性に優れた印刷物を得られるインクジェット記録装置を提供することが可能である。
【0079】
前記の化学式〔I〕で表される界面活性剤、あるいは前記の化学式〔II〕や〔III〕や〔IV〕などで表わされるアセチレングリコール系界面活性剤を含有することにより、印刷直後の耐水性が更に優れた水溶性インクと、その水溶性インクを用いたインクジェット記録装置を提供することが可能である。
【0080】
【発明の効果】
以上のように本発明の水溶性インクを用いて印刷することにより、耐水性に優れた水溶性シアンインク、及びそれを用いたインクジェット記録装置を提供することが可能となる。インクジェット記録装置は、シリアル方式だけではなく、ライン方式にも本発明は適用可能である。
【0081】
また、イエロー染料としてC.I.Direct Yellow 86、C.I.Direct Yellow 132、C.I.Direct Yellow 142、C.I.Direct Yellow 144のいずれか1つ以上を含有することで耐水性に優れた緑色系のインクを提供することが可能となる。さらに、マゼンタ染料としてC.I.Direct Red 227を含有することで耐水性に優れた青色系のインクや紫色系のインクを提供することが可能となる。
【0082】
いずれのインクも普通紙に印刷した場合においても耐水性に優れているため、専用紙が不要となる。従って、本発明のインクジェット記録装置を使用するユーザーに対してランニングコストの低減、用紙入手性に優れるといった効果も与えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明のインクジェット記録装置の斜め前方からの斜視図である。
【図2】図2は本発明のインクジェット記録装置の斜め後方からの斜視図である。
【図3】図3は図1および図2に示すインクジェット記録装置に搭載されているインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施例のインクに含有しているシアン染料a1、及び比較例のインクに含有しているシアン染料a2の吸収スペクトルのチャートである。
【図5】図5は、本発明の実施例のインクに含有しているシアン染料b1、及び比較例のインクに含有しているシアン染料b2とシアン染料c1の吸収スペクトルのチャートである。
【符号の説明】
1 インクジェット記録装置
2 ロール紙装填機構
3 カット紙、スリップ紙等の給紙口
8 インクジェットヘッド
10 インク供給部
20 インクカートリッジ
30 インクカートリッジ装着部
a1 本発明を適用した水溶性インクに用いるシアン染料の吸収スペクトル
b1 本発明を適用した水溶性インクに用いる別のシアン染料の吸収スペクトル
a2 比較例としての水溶性インクに用いるシアン染料の吸収スペクトル
b2 比較例としての水溶性インクに用いる別のシアン染料の吸収スペクトル
c1 比較例としての水溶性インクに用いる更に別のシアン染料の吸収スペクトル

Claims (5)

  1. 被記録材を着色するための着色剤として少なくともシアン染料としてC.I.Direct Blue 199を含有する水溶性インクにおいて、該シアン染料水溶液の吸収スペクトルが以下の3つの特性を有することを特徴とする水溶性インク。
    (1)波長600nm〜640nmの間には吸収スペクトルのピークがあること。
    (2)波長650nm〜680nmの間には吸収スペクトルのピークがないこと。
    (3)該シアン染料1wt%水溶液を水でさらに1000倍に希釈した液体の650nmにおける吸光度が0.23であること。
  2. 請求項1において、イエロー染料をさらに含有することを特徴とする緑色系の水溶性インク。
  3. 請求項2において、前記イエロー染料として、C.I.Direct Yellow 86、またはC.I.Direct Yellow 132、またはC.I.Direct Yellow 142、またはC.I.Direct Yellow 144のいずれか1つ以上を含有することを特徴とする青色系または紫色系の水溶性インク。
  4. 請求項1において、マゼンタ染料をさらに含有することを特徴とする青色系または紫色系の水溶性インク。
  5. 請求項4において、前記マゼンタ染料として、少なくともC.I.Direct Red 227を含有することを特徴とする水溶性インク。
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