JP4053685B2 - 3級炭素塩素化炭化水素の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は塩素化炭化水素化合物を得る方法に関する。さらに具体的にいえば、次亜塩素酸化合物を用いて炭化水素化合物の3級炭素を選択的に塩素化する方法に関するものである。
【0002】
ここで合成される3級炭素の塩素化された化合物は、塩素置換基の反応活性を利用して各種の合成反応試薬として有用である。たとえば1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン〔1,4−ジクミルクロライド、p-Cl (CH3)2CC6H4C(CH3)2Cl〕のような芳香族置換塩素化炭化水素は末端官能性ポリイソブチレン等を製造する際のカチオン重合開始剤として用いられることが知られている〔米国特許第4276394号明細書,USP5527870(Maeda et al. 1994)〕。
【0003】
【従来の技術】
このような開始剤の合成法としては、1,4−ジイソプロピルベンゼンを原料として用いる以下の方法が知られている。
【0004】
ひとつは脱水素反応によって1,4−ジイソプロペニルベンゼン(CH2=(CH3)CC6H4C(CH3)=CH2)を合成し(米国特許第3429941号明細書)、これに塩化水素を付加する反応(O. Nuyken et al., Makromol. Chem., 186, 173(1985))である。もうひとつは空気酸化によって1,4−ビス(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)ベンゼン(1,4-HO(CH3)2CC6H4C(CH3)2OH)を合成し(例えば特開昭60−174737)、これに塩化水素を作用させる反応(V. S. C. Chang et al., Polymer Bulletin, 4, 513(1981))が知られている。
【0005】
以上の合成では2段階以上の反応操作を必要とするので、1段階で目的の1,4−ジクミルクロライドを合成する方法としては1,4−ジイソプロピルベンゼン(1,4-H(CH3)2CC6H4C(CH3)2H)に太陽光照射下、塩素ガスを作用する反応(M. S. Kharashch et al., J. Am. Chem. Soc., 61, 2142(1939))が報告されている。光照射による反応では塩素置換部位の選択性を制御することが課題である。
【0006】
これに対して、1,4−ジイソプロピルベンゼンのベンジル位を塩素化して1,4−ジクミルクロライドを得る方法として、相関移動触媒存在下(Bu4N(HSO4))、次亜塩素酸ソーダを作用させる方法が報告されている(H. E. Fonouni et al., J. Am. Chem. Soc, 1983, 105, 7672)。しかしながら、この方法においては高価な相関移動触媒を使用しており、工業的に有利な反応とは言い難い。相間移動触媒を使用せずに次亜塩素酸によって塩素化する方法についても報告されている(F. Minisci et al., Chim. Ind., 70, 52(1988);特開平09−143106)。
【0007】
次亜塩素酸を用いて1,4−ジイソプロピルベンゼンの3級炭素を塩素化し、1,4−ジクミルクロライドを得る方法は、1段階であり光塩素化に比べ選択性も高く有効である。しかしながら、次亜塩素酸は非常に不安定な物質であり、常に同じ濃度の次亜塩素酸を調製しこれを保存することは困難である。したがって、原料に対して一定量の仕込み量を設定した場合、当量関係が同じにならないため安定した反応収率・選択性および製品品質を得ることは難しい。
【0008】
また、次亜塩素酸を用いる場合、反応停止にはアルカリによる次亜塩素酸の中和が必要である。一方、生成物である1,4−ジクミルクロライドはアルカリ雰囲気下、水分に対して非常に不安定であり、水との接触により加水分解反応が進行し品質が劣化してしまう。
【0009】
また、1,4−ジクミルクロライドは金属との接触によっても劣化する。したがって、プロセス設備のほとんどにグラスライニングあるいはテフロンライニングなどを用いることが考えられる。そのような材質では、いずれもアースによる除電が本質的に困難であるため、内容液が帯電すると静電気のスパークによるピンホール発生の危険がある。したがって、ライニング設備においては、適切な静電気対策を講じることが重要である。静電気対策としては、帯電防止剤を添加する方法が知られているが、製品中に残留すると品質に影響を与え好ましくない場合がある。
【0010】
次亜塩素酸を用いて1,4−ジクミルクロライドを製造することについては、特開平9−143106にも開示されているが、上記の問題点が解決されていないため、特開平9−143106も工業化に適した製造方法を提供するものとはいえない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
次亜塩素酸化合物を用いて塩素化反応を効率的に行う場合の課題は、高選択的に望みの部位のみに塩素を導入することである。この反応に必要な次亜塩素酸は非常に不安定な物質であり、常に同じ濃度の次亜塩素酸を調製しこれを保存することは難しい。従来行われている次亜塩素酸調製時の塩化水素を混合する操作では塩素ガスの発生があり、安全上の観点および次亜塩素酸ソーダ原料の利用率が低下することからも工業化に有利な操作とは言い難い。また、このように調製した次亜塩素酸は、反応に供するまでに濃度が低下する傾向がある。したがって反応原料に対して一定量の次亜塩素酸を仕込むことができなくなり、安定した反応収率・選択性および製品品質を得ることが困難である。
【0012】
反応選択性・収率を向上し、品質の安定化を実現するためのもうひとつの要点は塩素化反応の停止の方法である。反応停止のために次亜塩素酸を失活するには、アルカリ性にしてから亜硫酸ナトリウムを添加する方法が知られている。しかしながら、本発明者らの検討により、得られた塩素化物はアルカリ雰囲気下、水分との接触により加水分解されることが明らかになった。したがって、この方法をそのまま採用することは難しい。
【0013】
さらに、工業化を考えた場合の大きな課題は、ライニング設備を用いた場合の静電気対策である。本発明プロセスでは、得られた塩素化物が金属との接触により劣化してしまう。また、プロトン酸を使用するため通常の金属製の設備では腐食されてしまう。腐食に耐え得る金属としてはタンタル,白金,金等があるが、これらは特殊な素材であって非常に高価であり、現実的ではない。これらの理由により工業化にはライニング設備を用いることが考えられるが、このような設備は静電気対策を講じなければスパークによるピンホールが生じてしまう恐れがある。スパーク発生は、内容液が帯電しやすい場合特に顕著となる。晶析においてスラリー状になった内容液は、特に帯電しやすいことが知られており、晶析時の静電気対策は非常に重要である。静電気対策としては帯電防止剤を添加する方法があるが、帯電防止剤が製品へ残留すると品質上好ましくないことがある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、炭化水素化合物の3級炭素を次亜塩素酸を用いて塩素化する際の、反応選択性や操作性の課題、反応停止方法の課題および工業化を考えた場合の静電気対策の課題を解決するものである。本発明者らはこれらの問題点を詳細に解明し解決する方法について鋭意検討した結果、反応原料混合物中に塩酸を添加して反応をおこなうこと、反応停止後の有機層に塩酸を添加すること、静電気対策として反応終了後の有機層中に塩酸を添加して晶析をおこなうことにより、上記課題を解決できることを見い出し、本発明に到った。
【0015】
すなわち本発明は、(A)一般式(1):
CnR1 mHk(CHR2R3)j (1)
[式中、nは1〜12の整数で、m、kはそれぞれ0〜25の整数であり、jは1〜10の整数である。R1は塩素、臭素、ヨウ素、酸素、窒素、イオウ、及びリンからなる群より選ばれる原子を表し、mが2以上の場合R1は同じでもそれぞれ異なっていてもよい。またCnR1 mHkで表されるj価の基は、第三級炭素原子−水素結合を有さない。R2、R3はそれぞれ炭素数1〜5の脂肪族飽和炭化水素基又はその水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基を表し、第三級炭素原子−水素結合を有さないものである。]
で表される化合物、および
(B)次亜塩素酸金属塩水溶液との混合物中に、
(C)プロトン酸を添加することを特徴とする
(D)一般式(2):
CnR1 mHk(CR2R3Cl)j (2)
[式中、m、n、k、j、R1、R2、R3は上記と同じ]
で表される塩素化炭化水素化合物の製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、(A)上記一般式(1)で表される化合物と
(B)次亜塩素酸金属塩水溶液および
(C)プロトン酸を用いて
(D)上記一般式(2)で表される化合物を合成した後に、
(E)有機層にプロトン酸を添加することを特徴とする塩素化炭化水素化合物の製造方法に関する。
【0017】
また本発明は、(A)上記一般式(1)で表される化合物と
(B)次亜塩素酸金属塩水溶液および
(C)プロトン酸を用いて
(D)上記一般式(2)で表される化合物を合成する際に、
(F)有機溶剤を用いることを特徴とする塩素化炭化水素化合物の製造方法に関する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明において原料として用いる化合物としては、通常、一般式(1):
CnR1 mHk(CHR2R3)j (1)
[式中、nは1〜12の整数で、m、kはそれぞれ0〜25の整数であり、jは1〜10の整数である。R1は塩素、臭素、ヨウ素、酸素、窒素、イオウ、及びリンからなる群より選ばれる原子を表し、mが2以上の場合R1は同じでもそれぞれ異なっていてもよい。またCnR1 mHkで表されるj価の基は、第三級炭素原子−水素結合を有さない。R2、R3はそれぞれ炭素数1〜5の脂肪族飽和炭化水素基又はその水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基を表し、第三級炭素原子−水素結合を有さないものである。]
で表される化合物を使用するが、式中のR2、R3としては例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基などの炭化水素基、又はこれらの基の炭素原子上に塩素原子等の置換基を有するものを挙げることができる。
【0019】
また、本発明において原料として用いる化合物としては、一般式(3):
C6H6−z(CHR4R5)z (3)
[式中、zは1〜4の整数で、R4、R5は炭素数1〜5の脂肪族飽和炭化水素基で、第三級炭素原子−水素結合を有さないものである。]
で表される化合物が好ましい。R4、R5としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基などの炭化水素基を挙げることができる。
【0020】
本発明において一般式(1)で表される化合物としては、例えば以下のものを好ましく例示することができる。
【0021】
【化1】
【0022】
本発明によって得られる一般式(2)で示される塩素化炭化水素化合物としては、例えば以下のものを好ましく例示することができる。
【0023】
【化2】
【0024】
本発明で用いる次亜塩素酸金属塩としては、例えば次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム、次亜塩素酸銅、次亜塩素酸第二銅があげられる。なかでも工業的な入手の容易さや取り扱いの簡便さおよび反応収率・選択性が良好である点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
【0025】
次亜塩素酸金属塩水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、反応の収率・選択性が良好である点から0.7mol/kg以上が好ましい。入手した次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.7mol/kg以上である場合には、水で希釈して使用することができる。この場合の水は、水道水、イオン交換水、蒸留水等を示すが、場合によってはNaCl、KCl等の金属塩を含有していてもよい。
【0026】
本発明において用いる次亜塩素酸金属塩水溶液の量は、含塩素量が理論量に対して当量以上であれば特に制限されるものではないが、大過剰の次亜塩素酸金属塩水溶液を用いた際には副反応が進行し、目的化合物の純度の低下を招くことも考えられる。このことから、効率良く高純度で目的物を得るために、理論量に対して1.0〜10倍モルであることが好ましく、特に1.0〜5倍モルが好ましい。
【0027】
本発明において用いるプロトン酸の例としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、ドライアイスを挙げることができる。なかでも反応収率・選択性が良好である点から、反応に用いるプロトン酸としては塩酸が好ましい。プロトン酸の添加方法に関しては、連続添加あるいは何回かに分けて添加することが好ましいが、一括添加も可能である。連続添加する場合、添加時間は0.5〜15分が好ましく、特に1〜5分が好ましい。用いるプロトン酸の量に関しては、反応系中の水層のpHが好ましくは2〜9さらに好ましくは4〜6の範囲に調整される量であればよい。また、用いるプロトン酸の濃度に関しては特に限定されるものではないが、品質、反応時間、工業化を考えた時の反応槽の容量等の観点から、比較的高濃度であることが好ましく、36wt%以上の濃塩酸が特に好ましい。
【0028】
また、反応後の有機層中に存在する一般式(2)で示される化合物の加水分解物とを塩酸とを接触させることにより、一般式(2)で示される化合物を生成する場合には、反応後の有機層と接触させる塩酸の濃度は3wt%以上が好ましく、さらに好ましくは36wt%以上である。塩酸は次亜塩素酸を分解するため、反応停止と有機層の処理を同時に行うことができる。
【0029】
本発明においては反応を無溶媒中で行うことも可能であるが、溶媒を用いて、原料を希釈した状態で反応することが好ましい。反応溶媒としては、例えばトルエン,ベンゼン,エチレンジクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、ブチルクロライド、プロピルクロライド、1−トリクロロ−2−トリフルオロエタンが好ましく用いられ、また、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、エチルクロライド、ベンゼンが特に好ましく用いられる。
【0030】
反応の温度は特に制限されるものでは無いが、次亜塩素酸が比較的不安定であるため、低温で反応を行うことが好ましく、−15℃〜40℃で反応を行うことが好ましい。反応温度が40℃より高くても、−15℃より低くても、次亜塩素酸の分解が加速され、反応途中で濃度がほとんどゼロになってしまう。次亜塩素酸の分解は危険な塩素ガスの発生を伴うため、安全上からも上記の温度範囲で反応を行うことが好ましい。
【0031】
反応終了後の水層処理に用いるアルカリは、特に限定されるものではないが、金属水酸化物又は金属アルコキシドが好ましく、取り扱い易く入手が容易であることから水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムは、固体をそのまま用いても、水溶液として用いてもよい。また、pH調整後の水層処理に用いる亜硫酸ナトリウムは、固体で用いても水溶液として用いてもよい。取り扱いの容易さおよび操作の簡便さから、10%程度の水溶液として用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製造法において、得られる製品が固体の場合は、晶析により精製を行うことが望ましいが、この時用いる溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン等の炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロエタン、ジクロロエタン、プロピルクロライド、ブチルクロライド等のハロゲン化炭化水素などを挙げることができる。このうち高収率かつ高純度の製品を得るためには、ヘキサンを溶剤として用いることが好ましい。晶析の際に用いる溶媒の量は、結晶化の効率を高くするため、反応液に対して溶媒量が重量で20倍以下になるように設定することが好ましい。
【0033】
上述の通り、本発明で得られる塩素化物は金属との接触により品質が劣化する。したがってライニング槽を用いることが考えられるが、ヘキサンを溶媒に用いて晶析を行う場合、静電気スパークによるピンホール発生の危険性が大きく、静電気対策を講じることが望ましい。
【0034】
上記の晶析をライニング槽で行う場合の静電気対策に用いる塩酸は、濃度に関しては特に限定されるものではないが、pH5以下が好ましい。また添加する量に関しては、反応液に対して体積比1/108以上であればよいが、好ましくは体積比1/100以上である。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0036】
(実施例1)
反応系温度測定用熱電対、撹拌機を備えた2Lセパラブルフラスコに1,4−ジイソプロピルベンゼン(44g)、モノクロロベンゼン(120g)、次亜塩素酸ソーダ水溶液(1200g,0.9mol/kg)を加え、240rpmで撹拌しながら氷浴で冷却しておく。続いて滴下ロートにより濃塩酸(80g,35wt%)を3分かけてゆっくりと液中に添加した後、さらに60分撹拌した。ここまでの操作を密閉系で行い、反応中に発生するガスをアルカリトラップ(25% NaOH水溶液)に導き、塩素ガスの発生量を滴定により測定したが検出されなかった。反応終了後、有機層と水層を静置分離により分液し、有機層に濃塩酸(30g)を加え約5分間激しく撹拌することにより有機層中に微分散している次亜塩素酸の失活を行った。有機層を分液し、無水硫酸マグネシウムで乾燥を行い、モノクロロベンゼン溶液として反応生成物を得た。生成物中の1、4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンの収率についてはDMSO(ジメチルスルホキシド)を内部標準として1H NMRで決定した(収率80.0%)。
【0037】
得られた1H NMRスペクトルは、原料[1,4−ジイソプロピルベンゼン]、モノクロル体[p−(1−クロル−1−メチルエチル)イソプロピルベンゼン、反応中間体]、および目的物[1、4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン]のそれぞれのプロトンの吸収と考えられる次の吸収を示した。
【0038】
なお、測定機器として、Varian社製Gemini−300(300MHz)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを用いた。
【0039】
1,4−ジイソプロピルベンゼン:d=7.16(s,4H,芳香環),d =2.90(m,2H,イソプロピル基のメチン), d=1.25(d,12H,メチル基)
p−(1−クロル−1−メチルエチル)イソプロピルベンゼン:d=7.50(d,2H,芳香環), d=7.20(d,2H,芳香環), d=3.10(m,1H,イソプロピル基のメチン), d=2.00(s,6H,クロル基のβ位のメチル基), d=1.25(d,6H,イソプロピル基のメチル基)
1,4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン:d=7.56(s,
4H,芳香環), d=2.00(s,12H,メチル基)
【0040】
(実施例2)
反応系温度測定用熱電対、撹拌機を備えた2Lセパラブルフラスコに1,4−ジイソプロピルベンゼン(44g)、モノクロロベンゼン(120g)、次亜塩素酸ソーダ水溶液(1200g,0.9mol/kg)を加え、240rpmで撹拌しながら氷浴で冷却しておく。続いて滴下ロートにより濃塩酸(80g,35wt%)を3分かけてゆっくりと液中に添加した後、さらに60分撹拌した。ここまでの操作を密閉系で行い、反応中に発生するガスをアルカリトラップ(25% NaOH水溶液)に導き、塩素ガスの発生量を滴定により測定したが検出されなかった。60分後、反応系の次亜塩素酸濃度を測定し、残存次亜塩素酸量の2倍モルの水酸化ナトリウム水溶液(10wt%)を加え約5分間攪拌し、続いて同じく残存次亜塩素酸の2倍モルの亜硫酸ナトリウム水溶液(10%)を加え約5分間攪拌し、失活操作を行った。この後、抽出を行うためにさらにヘキサン100mlを加えた。有機層を分離した後に、この混合液を3回水洗し、硫酸マグネシウムによって乾燥を行い、モノクロロベンゼン溶液として反応生成物を得た。生成物中の1、4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンの収率についてはDMSO(ジメチルスルホキシド)を内部標準として1H NMRで決定した(収率75.0%)。
【0041】
(実施例3)
反応系温度測定用熱電対、撹拌機を備えた500mLセパラブルフラスコに1,4−ジイソプロピルベンゼン(7.31g)、モノクロロベンゼン(18.75ml)を加え、氷浴を用いて反応系を0℃に設定する。別の容器において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にpH = 5となるように塩酸を加えて次亜塩素酸を調製し、これを反応系に加えた。なお、次亜塩素酸の添加量は原料の末端あたり2.8当量の次亜塩素酸溶液(378g,0.667 mol/kg)であり、添加は30分で全量を滴下ロートを用いて行った。この後、さらに30分撹拌した(500rpm)。反応終了後、有機層と水層を静置分離により分液し、有機層に濃塩酸(10g)を加え約5分間激しく撹拌することにより有機層中に微分散している次亜塩素酸の失活を行った。有機層を分液し、無水硫酸マグネシウムで乾燥を行い、モノクロロベンゼン溶液として反応生成物を得た。生成物中の1、4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンの収率についてはDMSO(ジメチルスルホキシド)を内部標準として1H NMRで決定した(収率60.0%)。
【0042】
(実施例4)
反応系温度測定用熱電対、撹拌機を備えた2Lセパラブルフラスコに1,4−ジイソプロピルベンゼン(44g)、次亜塩素酸ソーダ水溶液(1200g,0.9mol/kg)を加え、240rpmで撹拌しながら氷浴で冷却しておく。続いて滴下ロートにより濃塩酸(80g,35wt%)を3分かけてゆっくりと液中に添加した後、さらに60分撹拌した。ここまでの操作を密閉系で行い、反応中に発生するガスをアルカリトラップ(25% NaOH水溶液)に導き、塩素ガスの発生量を滴定により測定したが検出されなかった。反応終了後、有機層と水層を静置分離により分液し、有機層に濃塩酸(30g)を加え約5分間激しく撹拌することにより有機層中に微分散している次亜塩素酸の失活を行った。有機層を分液し、無水硫酸マグネシウムで乾燥を行い、モノクロロベンゼン溶液として反応生成物を得た。生成物中の1、4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンの収率についてはDMSO(ジメチルスルホキシド)を内部標準として1H NMRで決定した(収率55.0%)。
【0043】
(実施例5)
モノクロロベンゼンのかわりにトリフルオロメチルベンゼンを用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った(収率56.0mol%)。
【0044】
(比較例1)
次亜塩素酸をあらかじめ別容器で調製しておき、これを原料に添加することにより反応を開始し、反応停止後の有機層を酸と接触させない方法の詳細、および、その場合の収率を以下に示す。
【0045】
反応系温度測定用熱電対、撹拌機を備えた500mLセパラブルフラスコに1,4−ジイソプロピルベンゼン(7.31g)、モノクロロベンゼン(18.75ml)を加え、氷浴を用いて反応系を0℃に設定する。別の容器において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にpH = 5となるように塩酸を加えて次亜塩素酸を調製し、これを反応系に加えた。なお、次亜塩素酸の添加量は原料の末端あたり2.8当量の次亜塩素酸溶液(378g,0.667 mol/kg)であり、添加は30分で全量を滴下ロートを用いて行った。この後、さらに30分撹拌した(500rpm)。反応終了後に反応系の次亜塩素酸濃度を測定し、残存次亜塩素酸量の2倍モルの水酸化ナトリウム水溶液(10wt%)を加え約5分間攪拌し、続いて同じく残存次亜塩素酸の2倍モルの亜硫酸ナトリウム水溶液(10%)を加え約5分間攪拌し、失活操作を行った。この後抽出を行うためにさらにヘキサン100mlを加えた。有機層を分離した後に、この混合液を3回水洗し、硫酸マグネシウムによって乾燥を行い、モノクロロベンゼン溶液として反応生成物を得た。生成物中の1、4―ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンの収率についてはDMSO(ジメチルスルホキシド)を内部標準として1HNMRで決定した(収率45.0%)。
【0046】
(実施例6)
内径1.3mのグラスライニング製容器内に1,4−ジクミルクロライドおよびモノクロロベンゼンを含むヘキサン溶液を1.5m3仕込み、35wt%塩酸水溶液を50kg共存させた上で、撹拌しながら冷却晶析を実施した。晶析操作終了後にライニング表面を観察したところ、ピンホールは観察できなかった。
【0047】
(比較例2)
内径2mのグラスライニング製容器内に1,4−ジクミルクロライドを含むヘキサン溶液を2.9m3仕込み、撹拌しながら冷却晶析を実施した。晶析操作終了後にライニング表面を観察したところ、50箇所以上のピンホールが観察された。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、一般式(1)で示される炭化水素化合物の3級炭素を選択的に、かつ効率良く塩素化することができる。さらに、3級炭素に塩素が導入された一般式(2)で示される化合物は、非常に不安定であるが、安定した品質で製品を得ることができる。これまでは塩素化試薬として次亜塩素酸を用いる場合、次亜塩素酸調製時に危険な塩素ガスの発生を伴うのみならず、次亜塩素酸は調整後も非常に不安定であり、常に同じ濃度の次亜塩素酸を調製しこれを保存することは難しい。したがって次亜塩素酸と原料である一般式(1)との当量関係を同じにし、同一の品質の製品を得るためには、毎回、次亜塩素酸の塩素濃度を測定し仕込み量を設定する必要があるため、工業化を考えた場合非常に困難であった。これに対し本発明によれば、次亜塩素酸の塩素濃度を測定することなく原料(1)と次亜塩素酸の当量関係を常に一定にすることが可能であり、シンプルなプロセスで再現性よく同一組成の製品が得られる。さらに反応停止による品質の劣化を防ぎ、常に同じ品質の製品を得ることができる。また、工業化を考えた場合、グラスライニング槽を使用する必要があり、この場合の最大の問題である静電気の帯電対策として、塩酸を添加することにより安全性を確保することができる。
したがって、本発明は一般式(2)で示される3級炭素塩素化化合物の実用的な製造法といえる。
Claims (7)
- (A)一般式(1):
CnR1 mHk(CHR2R3)j (1)
[式中、nは1〜12の整数で、m、kはそれぞれ0〜25の整数であり、jは1〜10の整数である。R1は塩素、臭素、ヨウ素、酸素、窒素、イオウ、及びリンからなる群より選ばれる原子を表し、mが2以上の場合R1は同じでもそれぞれ異なっていてもよい。またCnR1 mHkで表されるj価の基は、第三級炭素原子−水素結合を有さない。R2、R3はそれぞれ炭素数1〜5の脂肪族飽和炭化水素基又はその水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基を表し、第三級炭素原子−水素結合を有さないものである。]
で表されるイソプロピル置換基を有する芳香族炭化水素化合物、および
(B)次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム、次亜塩素酸銅、及び次亜塩素酸第二銅からなる群より選ばれる次亜塩素酸金属塩の水溶液との混合物中に、
(C)塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、及び、ドライアイスからなる群より選ばれるプロトン酸を添加することを特徴とする
(D)一般式(2):
CnR1 mHk(CR2R3Cl)j (2)
[式中、m、n、k、j、R1、R2、R3は上記と同じ]
で表される塩素化炭化水素化合物の製造方法。 - (D)一般式(2):
CnR1 mHk(CR2R3Cl)j (2)
[式中、m、n、k、j、R1、R2、R3は上記と同じ]
で表される化合物を合成した後に、
(E)前記化合物(D)を含有する有機層に、更に前記プロトン酸を添加することを特徴とする請求項1記載の製造方法。 - (D)一般式(2):
CnR1 mHk(CR2R3Cl)j (2)
[式中、m、n、k、j、R1、R2、R3は上記と同じ]
で表される化合物を合成する際に、
(F)有機溶剤を用いることを特徴とする請求項1、2記載のいずれかの塩素化炭化水素化合物の製造方法。 - 反応溶媒として、トルエン、ベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、エチルクロライド、エチレンジクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、ブチルクロライド、プロピルクロライド、1−トリクロロ−2−トリフルオロエタン、トリフルオロメチルベンゼンからなる群より選ばれるものを使用することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
- 反応後の有機層中に存在する、一般式(2)で示される化合物の加水分解物を、塩酸と接触させることにより、一般式(2)で示される化合物を生成することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の製造方法。
- 反応後に有機層と水層とを分離してから、水層をアルカリ性にした後、該水層に亜硫酸ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の製造方法。
- さらに、反応終了後の有機層中に塩酸を添加して、一般式(2)で表される化合物を晶析により単離する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の製造方法。
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