JP4052975B2 - 質量分析装置および質量分析方法 - Google Patents

質量分析装置および質量分析方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、4重極イオントラップ質量分析計、多重極リニアトラップを含むすべての質量分析計に関する。
【0002】
【従来の技術】
タンデム質量分析方法の一例として、バッファーガスとの衝突解離を用いたイオントラップ質量分析法がある。この方式は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1の方式では、イオン源で生成したイオンをイオントラップ内に蓄積し、所望の質量数を有する前駆体イオンを選択する。イオン選択の後、前駆体イオンに共鳴する補助的な交流電圧をエンドキャップ電極間に印加することによりイオン軌道を拡大させ、イオントラップに満たされた中性ガスと衝突させることによりイオンを解離し(衝突解離)、その後、解離生成イオンを検出する。解離生成イオンは分子構造の違いにより特有なパターンを示すため、イオンのより詳細な構造情報を得ることが可能である。
【0003】
また、四重極リニアトラップを用いたバッファーガスとの衝突解離については、例えば、特許文献2に記載されている。特許文献2の方式は、イオン源で生成したイオンをリニアトラップ内に蓄積し、所望の質量数を有する前駆体イオンを選択する。イオン選択の後、前駆体イオンに共鳴する補助的な交流電圧を向かい合った一対の四重極ロッド電極間に印加することによりイオン軌道を拡大させ、リニアトラップに満たされた中性ガスと衝突させることによりイオンを解離し(衝突解離)、その後、解離生成イオンを検出する。解離生成イオンは分子構造の違いにより特有なパターンを示すため、イオンのより詳細な構造情報を得ることが可能である。
【0004】
一方、衝突解離をより効率良く行なうため、連続発振タイプの赤外レーザーを用いて解離を行なう方法が、例えば、非特許文献1に開示されている。これによると、イオン選択の後、リング電極をくり貫いた穴からCO2レーザーを照射しトラップ中心部に照射する。イオンは赤外光を吸収することにより、内部エネルギーが励起されて解離が進行する。非特許文献1の方式により、四重極イオントラップ質量分析計で低質量数の解離生成イオンの検出が可能である。
【0005】
また照射するレーザーをフォーカスして、連続発振タイプのレーザー出力を低減する方法が、例えば、非特許文献2に記載されている。これによれば、レーザーサイズと同時にイオン広がりを小さくするため四重極トラッピングRF電圧振幅をあげることにより、レーザー出力を低減でき、10W以下にできることが示されている。
【0006】
非特許文献1あるいは非特許文献2に記載されているレーザー照射による解離では、一度解離したイオンが光を吸収して追分解を起すことが知られている。追分解して生成したイオンは元のイオンの推定を困難にする。追分解を回避する方法として、パルス発振レーザーを用いた例が、例えば、非特許文献3に開示されている。これによれば、低質量の解離生成物の検出が可能であり、また、衝突解離とは相補的な情報が得られるため、イオンのより詳細な構造情報を得ることが可能である。
【0007】
【特許文献1】
米国再発行特許第34,000号明細書
【特許文献2】
米国特許第5,089,703号明細書
【非特許文献1】
アナリティカルケミストリー、1996年、68巻、4033頁
【非特許文献2】
アナリティカルケミストリー、2003年、75巻、420頁
【非特許文献3】
ラピッドコミュニケーションインマススペクトロメトリー、2002年16巻、1805−1811頁
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1および特許文献2の方法では、イオンを解離するためには、リング電極あるいはロッド電極間の電圧により生じるイオンのトラッピングポテンシャルを大きくする必要がある。以下、説明を簡単にするために特許文献1の方法について述べる。
【0009】
イオンのトラッピングポテンシャルDzは、式(1)で表記される。
【0010】
【数1】
Figure 0004052975
【0011】
ここで、e:電気素量、qz:取り込みパラメータ、V:トラッピング用RF電圧の振幅、m:イオン質量、r0:リング電極内接円半径、Ω:トラッピング用RF電圧の各周波数である。
【0012】
取り込みパラメータqzはRF電圧に比例するパラメータで式(2)で定義される。
【0013】
【数2】
Figure 0004052975
【0014】
式(2)から分かるように、トラッピングポテンシャルを大きくするためにはリング電極の電圧の振幅を高く設定する必要がある。
【0015】
一方、qzが一定値qej(=0.908)以下のときのみ、イオンはトラッピング安定条件となることから、安定にトラップ可能な解離生成イオンの質量数Mfragは、親イオンMparに対し、式(3)で表記される。
【0016】
【数3】
Figure 0004052975
【0017】
つまり、解離効率を高めるためにはトラッピングポテンシャルDzを上げる必要があるが、このためにはトラッピングRF電圧の振幅Vを大きくする必要がある。しかし、トラッピングRF電圧の振幅Vを大きくすると低質量の解離生成イオンが安定軌道条件から外れ、トラップできなくなるという問題が生ずる。また、衝突解離ではイオンに与えられる内部エネルギーは、トラッピングポテンシャルで制限されることから、構造が安定な高質量(質量数10000以上)のイオンの解離は不可能であるという問題もある。
【0018】
この衝突解離の問題を解決するために、非特許文献1のレーザー光を用いた解離が提案された。しかし、50W程度の出力のCO2レーザーで500msで解離を進行するのに必要なイオントラップ内のバッファーガスガス圧(0.002Pa(0.2mTorr)以下)と、イオンの取り込みの効率、イオンの検出感度を維持するために最適な真空度(0.05〜0.2Pa(5〜20mTorr)程度)とが一致しない。そのため、非特許文献1のレーザー光を用いた解離では、四重極イオントラップへのイオンの蓄積、解離を最適な真空度で行なうことができなかった。すなわち、イオントラップ効率、イオンの検出感度が低下する問題があった。
【0019】
非特許文献2の方式では、レーザー出力を10W以下に抑えられることが示されているが、特許文献1あるいは2で提案される衝突解離で起こる問題、すなわち、低質量の解離生成イオンが安定軌道条件から外れ、トラップできなくなるという別の問題が生ずる。
【0020】
非特許文献3に開示されているパルス発振レーザによる解離では、レーザーの時間幅が、イオン解離が進行する数100μsの時間幅より短いため、追分解が抑えられる。しかし、解離には100mJ/pulse程度のCO2レーザーまたは紫外レーザーが用いられている。いずれの場合も、レーザー装置が大型かつ高価であるという問題が生じる。
【0021】
本発明の課題は、感度、分解能を損なわずに低質量数の解離生成イオンの検出が可能なイオントラップ質量分析装置を安価に提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
イオンを蓄積する多重極イオントラップと、該イオントラップに蓄積されたイオンに対してレーザー光を照射する装置と、該イオントラップから排出されたイオンを検出するイオン検出装置を有し、前記イオントラップに印加されるトラッピング用RF電圧振幅を、レーザー光照射の前後で、大きな値V1から小さな値V2へと変化させる。すなわち、レーザー光照射による解離イオンが生成される状況では、トラッピングRF電圧の振幅Vを十分小さくして低質量の解離生成イオンが安定軌道条件から外れることを防止する。イオン検出装置として、高質量数精度である飛行時間型質量分析やフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析を用いることにより、高質量精度の分析が可能となる。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
本発明を四重極イオントラップ質量分析計に適用した装置の構成の概要を図1に示す。図1は、四重極イオントラップ質量分析計の主要部の四重極イオントラップを主体として示す図である。四重極イオントラップはエンドキャップ電極2aおよび2b、リング電極4および絶縁スペーサー5からなり、イオントラップ内には0.01〜0.2Pa(1〜20mTorr)程度のヘリウムガスが導入されている。イオン源(図示しない)で生成されたイオンはゲート電極1を介して導入され、キャップ電極2aの開口3aを通過して、四重極イオントラップに導入される。リング電極4にはトラッピング用RF電圧供給電源13から周波数500〜1000kHz、振幅0〜10kV(P.P)の高周波電圧が印加される。イオン蓄積の後、エンドキャップ電極2a,2b間に補助交流電圧供給電源12から1〜500kHzの高周波電圧を発生させ、そのうちの単一周波数の電圧あるいは、いくつかの高周波電圧を重畳した電圧が印加される。これにより、特定質量数イオンの単離が行われる。四重極イオントラップの単離の対象とならなかったイオンは、エンドキャップ電極2a,2bの開口3aおよび3bから排出される。なお、トラッピング用RF電圧供給電源13および補助交流電圧供給電源12は制御装置11により制御される。
【0024】
イオン単離後、解離が行われる。イオン解離はレーザービームの照射により行なう衝突解離である。21は光照射装置であり、これより発したレーザー光が集光レンズ22を通過し、ミラー23で曲げられエンドキャップ電極2bの開口3bから四重極イオントラップに導入される。ミラー23の位置と角度を適切にすることにより、精度良く四重極の四重極中心へレーザー光を入射することができる。レーザービーム24は四重極の四重極中心部付近で収束する。
【0025】
集光レンズ22の焦点25におけるレーザースポット半径Rは、元のレーザービーム直径D,レーザー波長λ、焦点距離Fとすると、式(4)で表される。
【0026】
【数4】
Figure 0004052975
【0027】
例えば、レーザービーム直径D=8mmφ、焦点距離F=400mm、レーザー波長λ=10.8μmであった場合には、スポット半径は約0.54mmとなる。このスポットサイズは、後述する効果を得るには大きすぎ、この場合にはできるだけ焦点距離を近づけるか、ビームエクスパンダー26により、初期のビーム径を広げることが有効である。上記構成において、初期のビーム直径を5倍に拡大するビームエクスパンダー26を用いることにより、0.1mm程度のスポット半径を得ることが可能である。
【0028】
図2は、四重極イオントラップに取り込まれたイオンの、取り込みパラメータqzとイオン広がりの関係を説明するための特性図である。初期条件をランダムに発生させた質量数556のイオンをモンテカルロシミュレーションによりイオン軌道計算を行った結果である。横軸に取り込みパラメータqzを、縦軸にイオン広がりを示す。イオン広がりWN 2は、イオンのr座標の2乗の平均値に比例し、式(5)で表される。
【0029】
【数5】
Figure 0004052975
【0030】
図2から、取り込みパラメータqzが大きくなるほどイオン広がりは小さくなることが分かる。イオントラップ中心付近でのレーザービームの半径がレーザースポット半径RLに一致すると仮定すると、レーザー解離に必要なレーザーパワーの閾値L0は式(6)で表される。式(6)の導出については、前述した非特許文献2に詳細に記載されている。
【0031】
【数6】
Figure 0004052975
【0032】
図3は、式(6)および図2のシミュレーション結果を元に、レーザー解離に必要なレーザーパワーを計算した結果を示す図である。横軸に取り込みパラメータqzを、縦軸には、解離に必要なレーザーパワーの相対値を示す。レーザースポット半径RLを小さくし、なおかつ取り込みパラメータqzを高く設定することにより、少ないレーザーパワーにおいても十分な解離を進行させることができることが分かる。
【0033】
一方、取り込みパラメータqz値を高く設定することには、別の問題がある。図4は、取り込みパラメータqz値を高く設定することの問題点を説明する図である。横軸にqzを、縦軸に解離生成イオンの親イオン対する質量数比Mfrag/Mparを示す。斜線部で示された領域のみがトラッピング可能な領域である。この斜線部は、式(3)に示した四重極安定条件とトラッピングポテンシャルを確保するのに必要なqz≧0.03の条件から決定される。取り込みパラメータqz値を高く設定することは、低質量数の解離生成イオンのトラッピングができなくなるという新たな問題が生じる。
【0034】
図5は、本発明のイオン解離時の測定シーケンスを示す図である。図5にはリング電極4に印加されるトラッピングRF電圧、イオンの広がり、レーザー照射のタイミングが示されている。イオンの蓄積および単離の後、取り込みパラメータqz=0.7〜0.908になるよう、RF電圧を高めの値V1に設定する(解離A)。その後、RF電圧を低めの値V2に設定する(解離B)。V2は取り込みパラメータqz=0.03〜0.35程度となるように選択される。結果として2≦V1/V2≦30の範囲で、RF電圧振幅を変化させる。
【0035】
図6は、取り込みパラメータqzを0.85から0.0908へ変化させた後のイオン広がりWN 2の時間変化のシミュレーション結果を示す図である。横軸に振幅変化からの時間、縦軸にイオン広がりを示す。すなわち、時間0でqzが0.85から0.0908へ変化するようにRF電圧がV1からV2に変化させられている。イオンの広がりWN 2は、RF電圧が高いときには小さく、RF電圧を小さくした直後からほぼ30μsの時間で広がる。この広がり時間は質量数により異なるが、質量数が大きなイオンでも100μs程度の時間内にイオン軌道の広がりは終了する。
【0036】
レーザーはイオン広がりが小さいときに照射すると解離の効果が大きいことから、電圧振幅が大きいとき(解離A)か、電圧振幅を小さくしてから、30μsまでの間に照射する。一方、RF電圧振幅が大きいとき(解離A)にイオン解離が起こってしまうと解離生成したイオンはトラップ外に放出され検出できない。このため、レーザー照射による解離イオンの大半がトラップされるためには、レーザー照射開始はほぼRF振幅の変化とほぼ同時であることが最も望ましい。光解離によるイオン解離の時定数として典型的には1μs〜1msが報告されている。このことから、イオンの種類によっては、1000μs程度の範囲内なら、レーザー照射の開始タイミングがRF振幅の変化より早く行われても不利益を受けない場合もある。
【0037】
以上の説明より、レーザー照射開始のタイミングがRF電圧の振幅変化から1000μs以前から30μs以降までの間であれば、本発明は有効である。解離生成したイオンはイオントラップより排出され、引き出し電極6を介して導出され、図示しないイオン検出装置により検出される。
【0038】
ロイシンエンケファリンの擬分子正イオン(質量数556)のレーザー解離において、RL=0.2mmとした場合、qz=0.0908に固定した場合には、解離に100mJのレーザーパワーが必要であった。一方、本発明を用いてパルス幅125ns(FWHM)のCO2レーザーをRF振幅変化の100ns前から照射開始した結果、1/14以下の7mJで解離が進行した。また、この場合の解離イオンの捕捉効率は、取り込みパラメータqzを0.0908に固定した場合と比べ、95%以上の捕捉効率であった。
【0039】
本発明を用いることにより、従来方式に比べ1/10以下の少ないレーザー出力で、低マスを含むイオンの解離および解離生成イオンのトラップが可能となった。
【0040】
(実施例2)
図7は、リング電極4に開口41を設けて、r方向からレーザー照射した場合の実施例の構成を示す図である。図7において、リング電極4に開口41a、41bが設けられて、この開口を介してレーザー源21より発したレーザービーム24が集光レンズ22を通過して四重極イオントラップに導入される点を除けば、実施例1の図1に示す構成と同じである。ここで、25は集光レンズ22の焦点である。なお、レーザー照射の方向が逆であっても同じである。リング電極4に開口41a、41bを設けてレーザー光を照射する方法とすると、実施例1と比較して、レーザー光の光学系を構成するのが簡単である。また、光学系と四重極イオントラップとのアライメントの面でも簡便にできるメリットがある。
【0041】
実施例2の場合も、実施例1と同様の制御を行なうことにより低マスを含むイオンの解離および解離生成イオンのトラップに効果がある。
【0042】
(実施例3)
図8は、本発明を四重極リニアイオントラップ質量分析計に適用した場合の実施例の構成を示す図である。図示しないイオン源で生成されたイオンは入口側エンドキャップ電極9を通過して、4本の四重極ロッド電極7a、7b、7cおよび7dよりなる四重極リニアトラップに導入される。ここで、ロッド電極7bに対向するロッド電極7cは図示されていない。
【0043】
図9は、四重極ロッド電極7a−7dの配置と各ロッド電極7a−7dへの電圧印加の説明のための図である。向かい合ったロッド電極7a,7dおよび7b,7cにはトラッピング用RF電源14により逆位相の高周波電圧が印加される。このトラッピングRF電圧は周波数500〜1000kHz、振幅0〜10kV(P.P)程度である。このトラッピングRF電圧には、直流電源81によりオフセット電圧Voffsetが加えられている。
【0044】
四重極ロッド電極7a−7dの領域に、図示しないイオン源から導入されたイオンため込みの後、一対の向かい合った四重極ロッド電極7a,7d間に補助交流電源15から1〜500kHzの高周波電圧を発生させ、そのうちの単一周波数の電圧あるいは、いくつかの高周波電圧を重畳した電圧が印加される。これは、実施例1における補助交流電源12と同じである。これにより、特定質量数イオンの単離が行われる。単離の対象外となった質量数のイオンはロッド電極の間から放出される。
【0045】
その後、レーザー21源より発したレーザー光が集光レンズ22を通過し、ミラー23で曲げられ四重極イオントラップに導入される。レーザービーム24は四重極の四重極中心線上の集光レンズ22の焦点25で収束する。
【0046】
解離時のシーケンスに関しては、実施例1と同じである。
【0047】
その後、解離生成イオンは出口側エンドキャップ電極10を通り、イオン検出装置30へ導入され、質量分離および検出が行われる。イオン検出装置30は飛行時間型質量分析装置あるいはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置とするのが、高質量精度の分析および解析の精度上有利である。
【0048】
四重極リニアトラップからイオンを排出してイオン検出装置30に導入する方法としては、例えば入口側エンドキャップ電極9にリニアトラップオフセット電圧Voffsetに対して+100V、出口側エンドキャップ電極10に−30V程度の直流電圧を印加することにより可能である。なお、図8では、レーザービーム24が入口側エンドキャップ9の方向より照射されているが、逆に、出口側エンドキャップ電極10から入射することも可能である。
【0049】
また、これ以外にも、6本、8本のロッド電極よりなる6重極リニアトラップ、8重極リニアトラップにおいても本発明は効果がある。しかし、同一のトラッピング電圧では四重極イオントラップまたは四重極リニアトラップが最もイオン広がりを小さくすることができると言う点を考慮すると、本発明は四重極イオントラップまたは四重極リニアトラップにおいて最も効果的であると言うことができる。
【0050】
なお、実施例2および3では、実施例1で使用したビームエクスパンダー26については言及しなかったが、使用することにより、ビーム径を絞ることができるので、より効果的な解離を行なうことができるのは、当然である。
【0051】
【発明の効果】
感度、分解能を損なわずに低質量数の解離生成イオンの検出が可能なイオントラップ質量分析装置を安価に提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を四重極イオントラップ質量分析計に適用した実施例1の構成の概要を、主要部の四重極イオントラップを主体として示す図。
【図2】図1に示す四重極イオントラップに導入されたイオンの広がりの様子をイオン軌道シミュレーションの結果で示す図。
【図3】式(6)および図2のシミュレーション結果を元に、レーザー解離に必要なレーザーパワーを計算した結果を示す図。
【図4】実施例1のトラップ可能な解離生成イオンの質量数比と取り込みパラメータqz値との関係を示す図。
【図5】実施例1のレーザー解離を行なう場合の測定シーケンスを示す図。
【図6】実施例1において、トラッピング電圧を変化させた後のイオン広がりの時間変化を示す図。
【図7】本発明の実施例2の四重極イオントラップの構成を示す図。
【図8】本発明の実施例3の四重極リニアトラップの構成を示す図。
【図9】本発明の実施例3の四重極リニアトラップの電圧印加の回路を示す図。
【符号の説明】
1…ゲート電極、2a…入口側エンドキャップ電極、2b…出口側エンドキャップ電極、3a…入口側エンドキャップ電極の穴、3b…出口側エンドキャップ電極の穴、4…リング電極、5…絶縁スペーサー、6…イオンストップ電極、7a−7d…四重極ロッド電極、9…入口側エンドキャップ電極、10…出口側エンドキャップ電極、11…制御装置、12…補助交流電圧供給電源、13…トラップ用RF電圧供給電源、14…トラップ用RF電圧供給電源、15…補助交流電圧供給電源、21…レーザー、22…集束レンズ、23…ミラー、24…レーザービーム、25…レーザービームの焦点、26…ビームエクスパンダー、30…イオン検出装置、81…直流電源。

Claims (17)

  1. イオンを蓄積する多重極イオントラップと、該多重極イオントラップに蓄積された前記イオンに光を照射する光照射装置と、前記多重極イオントラップから排出された前記イオンを検出するイオン検出装置と、前記多重極イオントラップに印加されるトラッピング用RF電圧の振幅を制御する制御装置とを有し、前記多重極イオントラップに前記トラッピング用RF電圧の振幅V1を印加し、前記V1印加後に前記制御装置により前記V1より振幅の小さいV2へ前記トラッピング用RF電圧の振幅を変化させ、前記振幅がV2となった後、最大正電圧をとる時点の1000μs以前から30μs経過後までの間に前記光の照射を開始することにより生成する前記イオンの解離イオンを前記多重極イオントラップに蓄積することを特徴とする質量分析装置。
  2. 請求項1に記載の質量分析装置において、前記トラッピング用RF電圧の振幅V1、V2は、V1/V2≧2の関係を満たすことを特徴とする質量分析装置。
  3. 請求項1に記載の質量分析装置において、前記トラッピング用RF電圧の振幅がV2となった後、最大正電圧をとる時点とほぼ同時に、前記光の照射を開始することを特徴とする質量分析装置。
  4. 請求項1に記載の質量分析装置において、前記光照射装置の照射開始のタイミングが前記トラッピング用RFの電圧の振幅がV2となった後、最大正電圧をとる時点の1000μs以前から100μs経過後までの間にあることを特徴とする質量分析装置。
  5. 請求項1に記載の質量分析装置において、前記多重極イオントラップがエンドキャップ電極およびリング電極よりなる四重極イオントラップであり、前記光照射装置からの前記光を前記四重極イオントラップの四重極中心に集光させる手段を有することを特徴とする質量分析装置。
  6. 請求項1に記載の質量分析装置において、前記多重極イオントラップが、4本以上のロッド電極よりなる多重極リニアトラップであり、前記光照射装置からの前記光を前記多重極イオントラップの多重極中心線上に集光する手段を有することを特徴とする質量分析装置。
  7. 請求項5または6に記載の質量分析装置において、イオントラップ中心付近での前記光照射装置からの前記光のスポット半径が0.4mm以下であることを特徴とする質量分析装置。
  8. 請求項1に記載の質量分析装置において、前記イオン検出装置が、飛行時間型質量分析装置またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析装置であることを特徴とする質量分析装置。
  9. イオンを多重極イオントラップに蓄積する工程と、前記多重極イオントラップに蓄積された前記イオンに光を照射する工程と、前記多重極イオントラップから排出された前記イオンを検出する検出工程と、前記多重極イオントラップにトラッピング用RF電圧の振幅V1を印加し、前記V1印加後に前記トラッピング用RF電圧の振幅V1をV2に変化させる工程と、前記振幅がV2となった後、最大正電圧をとる時点とほぼ同時に、前記レーザーの照射を開始する工程とを有し、前記V1およびV2が、V1>V2の関係を有することを特徴とする質量分析方法。
  10. 請求項9に記載の質量分析方法において、前記トラッピング用RF電圧の振幅V1、V2は、V1/V2≧2の関係を満たすことを特徴とする質量分析方法。
  11. 請求項9に記載の質量分析方法において、前記トラッピング用RF電圧の振幅がV2となった後、最大正電圧をとる時点とほぼ同時に、前記光の照射を開始することを特徴とする質量分析装置。
  12. 請求項9に記載の質量分析方において、前記光の照射開始のタイミングが、前記トラッピング用RFの電圧の振幅がV2となった後、最大正電圧をとる時点の1000μs以前から100μs経過後までの間にあることを特徴とする質量分析方法。
  13. 請求項9に記載の質量分析方法において、前記多重極イオントラップがエンドキャップ電極およびリング電極よりなる四重極イオントラップであり、前記光を前記四重極イオントラップの四重極中心に集光させる工程を有することを特徴とする質量分析方法。
  14. 請求項9に記載の質量分析方法において、前記多重極イオントラップが、4本以上のロッド電極よりなる多重極リニアトラップであり、前記光を前記多重極リニアトラップの多重極中心線上に集光する工程を有することを特徴とする質量分析方法。
  15. 請求項13または14に記載の質量分析方法において、イオントラップ中心付近での前記光照射装置からの前記光のスポット半径が0.4mm以下であることを特徴とする質量分析方法。
  16. 請求項9に記載の質量分析方法において、前記検出工程は、飛行時間型質量分析またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析により、前記イオンを検出することを特徴とする質量分析方法。
  17. イオンを多重極イオントラップに蓄積する工程と、前記多重極イオントラップに蓄積された前記イオンにレーザーを照射する工程と、前記多重極イオントラップから排出された前記イオンを検出する工程と、前記多重極イオントラップにトラッピング用RF電圧を印加し、その後に印加されていた前記トラッピング用RF電圧の振幅をV2まで低下する制御を行なう工程と、前記振幅がV2となった後、最大正電圧となる時点とほぼ同時に、前記レーザーの照射を開始する工程とを有し、前記レーザーの照射により生じる前記イオンの解離イオンを前記多重極イオントラップに蓄積する工程とを有することを特徴とする質量分析方法。
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