JP4050093B2 - 超音波成形方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は超音波成形方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは、固体に超音波振動を加えながら液体中に沈めてから引き上げると、固体に多量の液体が付着した状態で引き上げられる現象が得られることを発見した。この現象を活用すると、液体が付着した固体を型に押付けることによって固体と型の間に成形空間を画定し、固体に付着した液体を成形空間に閉じ込め、成形空間に閉じ込められた状態で液体を固体化すると、意図した形状を有する成形体が得られる。超音波振動を加える固体が型であれば、成形後に離型することによって液体材料で形成された成形体が成形される。超音波振動を加える固体が基材であれば、液体材料で形成された成形体が基材に密着した複合体が成形される。固体に超音波振動を加えながら液体中から引き上げ、多量の液体が付着した固体を型に押付け、成形空間内で液体を固体化して成形する手法をここでは超音波成形技術という。
【0003】
通常の成形技術では、成形空間に液体を充填して成形するので、成形形状によっては充填不良となることがある。超音波成形方法では、成形面の一方側を画定する固体(型であることも多い)に予め液体を付着しておいてから他方の型に押付けて成形するために、充填不良が起こりにくい。超音波成形方法は、射出成形方法等の既存の成形方法に見られるその他の問題点をも解消することができ、大きな可能性を持っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らの研究によって、超音波加振されている固体を液体中に沈めてから引き上げるまでに所定の時間が必要とされ、必要時間が経過する前に引き上げると成形不良がおきやすいことがわかってきた。即ち、液体の付着量が不足して成形不良が生じたり、付着した液体の成分が意図したものからずれて成形不良が生じたりすることがわかってきた。
【0005】
本発明の超音波成形方法は、超音波加振されている固体を液体中に沈めてから引き上げることによって固体に液体を付着させる工程と、固体と型との間に形成される成形空間に付着した液体を閉じ込めて液体を固体化する工程とを備える。引き上げた固体に付着する液体の量は、液体中から引き上げるときの固体に加えている超音波のパワーによって変化することが確認されている。したがって、液体中から引き上げるときの固体に加えるべき超音波のパワーは成形空間の容積(すなわち成型体の肉厚)によって決められる。
本発明者らの研究によって、液体の付着量が不足して成形不良が生じたり、付着した液体の成分が意図したものからずれて成形不良が生じたりする現象は、主として、適正量の(成形空間の容積に見合った量の)液体を付着させるために固体に加えるべき超音波のパワーが小さい場合(典型的には、成形空間の容積が小さい場合)に発生することがわかってきた。固体に加えられる超音波のパワーが小さい場合には、固体を液体中に沈めてから引き上げるまでに長時間を必要とする。
本発明は、超音波加振されている固体を液体中に沈めてから引き上げるまでに要する時間を短縮化し、短時間で超音波成形を完了できる技術を実現するために研究されたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段と作用】
本発明者らは、超音波加振されている固体(型)を液体中に沈めてから引き上げるまでに要する時間が持つ意味を研究した。この結果、下記の事象がわかってきた。
【0007】
(1)成形材料である液体の液面には酸化物や異物が浮上していることが多い。特に金属が溶融されている液面は酸化膜で被覆されていることが多い。
(2)超音波加振されている固体を液体中に沈めると、最初は固体と液体の間に、酸化膜や異物層や気体等が介在する。
(3)超音波加振されている固体を液体中に沈めておくと、固体と液体の間に介在していた酸化膜や異物層や気体等が超音波加振されている固体から引き剥がされ、酸化膜や異物層や気体等の介在層がなくなり、不純物が少ない液体が固体に接するようになる。
(4)ここまで待ってから固体を引き上げることが重要であり、それ以前に引き上げて成形すると、液体の付着量が不足して成形不良が生じたり、酸化物や異物や気体が混入した液体を用いて成形したりすることになり、成形不良が生じやすい。
(5)適正量の液体を付着させるために固体に加えるべき超音波のパワーが小さい場合には、固体に大パワーを加えた場合に比べて、(3)の事象が得られるまでにかかる時間が長引く傾向にある。
【0008】
以上がわかってきたことから、固体に加えられる超音波のパワーが小さい場合(典型的には、成形空間の容積が小さい場合)には、(3)の事象が得られるまえに固体を引き上げることから成形不良が生じやすいことがわかってきた。また、固体に加える超音波のパワーが小さい場合には、成形空間の成形材料が適切に溶融していないといった事象が起こりやすい。このことによって成形不良が引き起こされることもある。
そこで超音波成形方法では工程の進行に合わせて固体に加える超音波のパワーを変動させることが重要であり、適宜に変動させることによって、短時間で良質な成形を完了できることが確認された。
【0009】
特に、液体に沈められている間は固体を大パワーで超音波加振し、液体から引き上げるまえに固体に加える超音波のパワーを減少させ、超音波のパワーを減少させてから固体を液体中から引き上げることが有効であることを確認した。
この方法によると、成形空間の容積が小さいために付着量を小さく抑える必要がある場合でも短時間のうちに不純物が少ない液体が固体に接するようになり、短時間で固体を引き上げても成形不良を招かない。
【0010】
引きあげられた液体の固体化工程で加える超音波のパワーについても固体化の進行に追従して変動させることによって有効な結果が得られる。通常は、固体化の初期に加える超音波のパワーを固体化の後期よりも大きくすることが好ましい。固体化の初期では大パワーを加えることで、固体化する結晶の緻密度を向上させ、ガスを抜くことができ、良質な成形品が得られる。固体化の初期に加える超音波のパワーは、液体中から引き上げるときの固体に加えていた超音波のパワーよりも大きくすることができる。また、固体化の後期ではパワーを減少させることで、固体化された部分にかかる応力を減少させることができる。固体化の後期工程では超音波加振を停止させてもよい。
固体化工程では、液体から引き上げた固体に加える超音波のパワーを調整してもよいし、その固体と向き合って成形空間を画定する型に加える超音波のパワーを調整してもよいし、両者に別々に超音波加振を加えてもよいし、両者が一体に振動するように超音波加振を加えてもよい。
【0011】
液体から引き上げた固体が型である場合には、型から成形体を離型する必要がある。この場合には、その型を超音波加振しながら成形体を離型することが好ましい。型に超音波加振を加えると、液体が付着されるのに対して固体(ここでは成形体)は引き剥がされる。液体が固体化した後の型に超音波加振すると、押出しピン等を用意しておかなくても離型できる場合があり、押出しピン等を必要とする場合でも押出し力が軽減されるために成形体が損なわれない。
【0012】
本発明の超音波成形方法は、液体の状態で固体(型)に付着され、成形空間内で固体化し得る種々の材料に適用することができる。このような材料としては、金属、熱可塑性樹脂、パラフィンワックス、ガラス等のように熱によって液状となるもの、反応硬化前の熱硬化性樹脂がある。また、これらをマトリックスとし、アルミナ、炭化珪素、炭化ホウ素等のセラミック粉末や高融点金属、金属間化合物等の粉末が分散された材料であってもよい。
【0013】
【発明の実施の形態】
この発明は、また、下記の形態で実施することを特徴とする。
【0014】
(形態1)
超音波振動の振幅を変えることにより、固体に加える超音波のパワーを固体化の進行に合わせて変動させる。
一般に超音波のパワーは、振幅および周波数の少なくとも一方を変化させることにより変動させることができる。一般に超音波加振装置は、超音波振動の周波数よりも振幅のほうが調節しやすい(変化させやすい)構成を有する。したがって本発明の成形方法では、超音波振動の周波数はほぼ一定としておき、工程の進行に合わせてその振幅を変えることにより超音波のパワーを変動させることが適当である。
【0015】
(形態2)
固体に付着させる液体材料が溶融金属である。
このような場合には、溶融金属(溶湯)の液面が酸化膜で被覆されていることが多く、溶湯に沈められた固体からこの酸化膜を引き剥がすために長時間を要する傾向にある。したがって、本発明を適用することにより得られる効果(超音波加振されている固体を液体中に沈めてから引き上げるまでに要する時間を短縮化する効果)が大きい。
【0016】
(形態3)
液体から引き上げるときの固体に加える超音波のパワーに対して、固体を液体に沈めておくときの超音波のパワーを1.2倍以上(より好ましくは1.5倍以上)とする。これにより、固体を液体中に沈めてから引き上げるまでに要する時間を顕著に短縮することができる。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の成形方法を適用した成形例およびその成形方法に関連する実験例につき説明する。
使用した成形装置の概略構成を図1に示す。図示するように、超音波加振器10は、一体化された振動子12およびホーン14と、振動子12に接続された超音波発振源16とを備える。ホーン14は上型20に固定されており、これにより振動子12、ホーン14および上型20は一体的に上下動可能に設けられている。超音波発振源16から発生する超音波振動の振幅は、任意の時期に所定の範囲で変動させることができる。これにより上型20に加える超音波のパワーを任意に調節することができる。ここで使用した成形装置では、ホーン14の全振幅(超音波加振によってホーンが変位する幅の全体をいう。)を、ほぼ0〜50μmの範囲で任意に変動させることができる。
一方、溶湯槽40には成形材料としての溶湯42が保持されている。油圧ピストン等を用いて、振動子12、ホーン14とともに上型20を上下に移動させることにより、上型20を溶湯42に沈めたり引き上げたりすることができる。
【0018】
このような構成の成形装置を用いて成形体を作製するには、例えば次のようにすればよい。すなわち、図2に示すように、超音波振動を加えながら上型20を溶湯42に沈める。引き続き超音波振動を加えながら上型20を溶湯42から引き上げると、図3に示すように、溶湯42の一部が上型20に付着して(吸引されて)引き上げられる。上型20の超音波振動を維持しながら、図4に示すように、溶湯42の付着した上型20を下型30に押付ける(型合わせする)。これにより、上型20と下型30との間に画定された成形空間に溶湯42を閉じ込める。この状態で溶湯42を冷却して固体化する。その後、図5に示すように型を開いて、溶湯42が固体化して形成された成形体44を上型20から取り外す。上型20には、以上の製造工程の任意の時期に、所定の全振幅(可変)の超音波振動を加えることができる。
【0019】
かかる製造方法では、成形空間にその容積に見合った量の溶湯42が閉じ込められるように、上型20に付着して引き上げられる溶湯42の量(付着量)を調節する。この付着量は、他の主要な条件が同程度であれば、上型20を溶湯42から引き上げるときに上型20に加えている超音波のパワーに依存して変化する。その関係は、図1と同様に構成された装置を使用し、溶湯42の代わりにシリコーンオイルを用いて行った実験結果にも現れている。その実験結果を図6に示す。図6から判るように、上型に固定されたホーンの全振幅を大きくするにつれてシリコーンオイルの付着量は多くなる傾向にある。なお、図6から判るように、この付着量はシリコーンオイルの粘性(例えば動粘性係数(cSt)により表される)にも依存し、粘性が低くなるにつれて付着量は多くなる傾向にある。
【0020】
図1に示す装置を使用して、温度650℃に保持されたMg−Al−Zn系合金AZ91Dの溶湯から所定形状の成形体Aを作製する成形例1を実施した。また、同じ溶湯を用いて、成形体Aとはその体積の異なる成形体Bを作製する成形例2〜6を実施した。これらの成形例において上型の加振は、ホーンに縦方向の超音波振動(共振周波数;20kHz)を加えることにより行った。また、上型を溶湯に沈めるときの上型の予熱温度は350℃とした。
【0021】
<成形例1:超音波のパワーを一定とした例(1)>
全振幅16μmで超音波加振されている上型を溶湯に3秒間沈めておき、全振幅16μmで加振しつつ溶湯から引き上げた。溶湯の付着した上型を全振幅16μmで引き続き加振しつつ下型と型合わせし、この状態で成形空間内の溶湯を冷却して固体化した。上型の加振は、固体化の初期まで全振幅16μmで継続して行った後に停止した。固体化完了後、型を開き、全振幅16μmで上型を加振しながら成形体を離型した。
本成形例によって成形不良等のない良質な成形体が得られた。
【0022】
<成形例2:超音波のパワーを一定とした例(2)>
全振幅10μmで超音波加振されている上型を溶湯に10秒間沈めておき、全振幅10μmで加振しつつ溶湯から引き上げた。溶湯の付着した上型を全振幅10μmで引き続き加振しつつ下型と型合わせし、この状態で成形空間内の溶湯を冷却して固体化した。上型の加振は、固体化の初期まで全振幅10μmで継続して行った後に停止した。固体化完了後、型を開き、全振幅10μmで上型を加振しながら成形体を離型した。
本成形例によって成形不良等のない良質な成形体が得られた。
【0023】
<成形例3:超音波のパワーを一定とした例(3)>
上型(全振幅10μmで加振されている)を溶湯に沈める時間を10秒間から3秒間に変更した点以外は成形例2と同様にして成形体を作製した。
本成形例により得られた成形体には成形不良がみられた。
【0024】
<成形例4:超音波のパワーを変動させた例(1)>
全振幅16μmで超音波加振されている上型を溶湯に3秒間沈めておき、全振幅を10μmに減少させてから上型を溶湯から引き上げた。その他の点については成形例2と同様にして成形体を作製した。
本成形例によって成形不良等のない良質な成形体が得られた。
【0025】
<成形例5:超音波のパワーを変動させた例(2)>
上型を溶湯に沈めてから引き上げるまでは成形例4と同様に行い、引き上げた上型を全振幅10μmで引き続き加振しつつ下型と型合わせした。固体化の初期に全振幅16μmで上型を加振し、その後に加振を停止した。その他の点については成形例2と同様にして成形体を作製した。
本成形例によって成形例4よりもさらに良質な成形体が得られた。
【0026】
<成形例6:超音波のパワーを変動させた例(3)>
上型を溶湯に沈めてから引き上げるまでは成形例2と同様に行い、引き上げた上型を全振幅10μmで引き続き加振しつつ下型と型合わせした。固体化の初期に全振幅16μmで上型を加振し、その後に加振を停止した。その他の点については成形例2と同様にして成形体を作製した。
本成形例によって成形例2よりもさらに良質な成形体が得られた。
以上の各成形例につき、上型を溶湯に沈めておく時間(浸漬時間)、各工程における超音波加振の全振幅および製造する成形体の種類を表1にまとめて示す。
【0027】
【表1】
【0028】
成形例1〜4の結果は、上型を溶湯に沈めるときの全振幅を大きくすることにより、短時間で上型を引き上げても良質な成形体が得られることを示している。溶湯に沈めた上型の表面から酸化膜や気体等を引き剥がすまで(上型に付着して引き上げられる溶湯の組成や量を適正化するまで)に要する時間は、この上型に加える超音波のパワー(ここでは全振幅)が大きくなるにつれて、より短くなる傾向にある。
その後、上型を溶湯から引き上げるときには、成形空間の容積に応じた付着量となるような全振幅で上型を加振する。したがって、成形例4のように適正量の液体を付着させるために固体に加えるべき超音波のパワーが比較的小さい場合には、付着量を調整するために、全振幅を減少させてから上型を引き上げることになる。固体(ここでは上型)に液体(ここでは溶湯)を付着させる工程において、固体に加える超音波振動の全振幅をこのように変動させることにより、成形空間の容積に関わらず、上型を溶湯に沈めてから引き上げるまでの時間を短縮して、短時間で超音波成形を完了することができる。
【0029】
また、成形例4と成形例5の比較、および成形例2と成形例6の比較から判るように、固体化の初期に大きな全振幅で加振すると、固体化する金属結晶の緻密度が向上すること、ガスが抜けやすくなること等によって、成形体の品質をさらに向上させることができる。
【0030】
なお、上記成形例では固体化の初期まで超音波加振を行った後に加振を停止したが、さらに固体化が進行するまで加振を継続してもよい。この場合、固体化の進行につれて全振幅を徐々にあるいは段階的に小さくすることが好ましい。また、型から成形体を離型するときは、型に加える超音波振動の全振幅を大きくするほど離型を早く確実に行うことができる。
溶湯から引き上げた上型を下型と型合わせするまでの間は、上型を溶湯から引き上げるときの全振幅と同等以上の全振幅を維持することが好ましい。上型を溶湯から引き上げた後に全振幅を増大させることにより、上型に付着して引き上げられた溶湯からガスを抜く効果を高めることができる。
【0031】
固体(上型)を液体材料に沈めておくときに加える超音波のパワーの好ましい範囲は、液体材料の性状(例えば粘性、比重)等によって異なる。特に限定するものではないが、液体材料がマグネシウム合金(典型例としてはAZ91D)、アルミニウム合金(典型例としてはADC12)等の一般的な溶湯である場合には、共振周波数が例えば20kHz程度である場合、全振幅15μm以上(典型的には15〜50μm)で固体を超音波加振することにより、この固体を液体に沈めてから引き上げるまでに要する時間を短縮する効果が顕著に現れる。全振幅20μm以上(典型的には20〜50μm)で加振することによりさらに高い効果が得られる。固体に加える超音波振動の方向は特に限定されない。その超音波振動の周波数(共振周波数)は、一般に用いられている超音波の周波数でよく、たとえば3〜40kHzの範囲を用いることができる。
【0032】
以下の実験例1〜3では、超音波加振されている固体(金型等)を溶湯に沈めてから、沈めれられた固体の表面から酸化膜等が引き剥がされるまでの時間を測定することを試みた。
【0033】
<実験例1>
温度650℃に保持されたMg−Al−Zn系合金AZ91Dの溶湯を用意した。直径40mmの円柱状の金型を350℃に予熱し、共振周波数20kHz、全振幅16μmで超音波加振しながらその下端を溶湯に沈めた。金型と溶湯との接触界面付近の温度を連続的に測定し、その温度が大きく変化した時点で金型から酸化膜等が引き剥がされたものと判断した。本実験例では、金型を溶湯に沈めてから酸化膜等が引き剥がされるまでの時間は約1.6秒であった。
【0034】
<実験例2>
金型の予熱温度を400℃とした点以外は実験例1と同様にして酸化膜等が引き剥がされるまでの時間を測定した。本実験例では、酸化膜等が引き剥がされるまでの時間は約1.3秒であった。
【0035】
<実験例3>
金型の予熱温度を300℃とした点以外は実験例1と同様にして酸化膜等が引き剥がされるまでの時間を測定した。本実験例では、酸化膜等が引き剥がされるまでの時間は約5秒であった。
【0036】
実験例1〜3の結果は、超音波加振された固体(金型等)を液体(溶湯等)に沈めてから引き上げるまでに要する時間(この固体に付着して引き上げられる液体の組成や量を適正化するまでに要する時間)を、固体の予熱温度を高めることによって短縮し得ることを示している。液体に沈めた固体に加える全振幅を大きくすることに加えて、この固体の予熱温度を高くすることにより、超音波加振されている固体を液体に沈めてから引き上げるまでに要する時間をさらに短くすることができる。これにより、短時間で良質な成形体を作製することができる。
【0037】
なお、溶湯に金型を沈めたときに起こる事象は、例えば、図10に示すような時間−温度チャートから読み取ることができる。図10において、TMgは坩堝中に用意された溶湯(ここではAZ91D合金)の温度の推移を、Tmoldは金型の温度(ここでは400℃に予熱された金型を用いた)の推移を、Ts1.0は沈められた金型の端面(下面)から1mm下方にある溶湯の温度の推移を、Ts0.5は金型の端面(下面)から0.5mmの位置にある成形材料(付着溶湯)の温度の推移をそれぞれ示している。また、図10の横軸は、金型を溶湯に沈めた時間を0として、その前後の経過時間を秒単位で示している。ここでは、金型を溶湯に沈めてから引き上げるまでの時間(浸漬時間t1)を10秒間とした。また、金型は共振周波数20kHz、全振幅9.6μmの条件で超音波加振した。図10に示すように、超音波加振された金型を溶湯に沈めたときの各温度の推移から、酸化膜の破壊(a)、異物除去(b)、品質向上(溶湯清浄化)(c)の進行を読み取ることができる。
【0038】
<実験例4>
超音波加振された固体を液体に沈めたときの液体の状態を観察した。
液体としては、フレーク状アルミニウム粉末をメタノールに分散させた分散液を用いた。実験例1〜3で用いたものと同じ金型の下端を、共振周波数約19.5kHz、全振幅6μmで超音波加振ながらこの分散液に沈めたところ、分散液には金型に向かう流れが生じ、先に金型との界面付近にあった分散液が後から流れ込む分散液によって外方へ押しやられる現象が観察された。図7の左半分はその様子を示す写真であり(フレーク状アルミニウム粉末が移動する様子が白い線状となって見えている)、右半分は分散液の流れを示す模式図である。このような分散液の流れによって金型が「洗われる」状態となり、金型と分散液との間に介在していた酸化膜等が除去されるものと推察される。
【0039】
<実験例5>
Mg−Al−Zn系合金AZ91Dにつき、溶湯の温度と付着量との関係につき検討した。
実験例1〜3で用いたものと同じ金型を673K(約400℃)に予熱し、共振周波数20kHz、全振幅15μmで超音波加振しながら、所定温度に保持された溶湯にその下端を10秒間沈めた。その後、全振幅15μmを維持しながら金型を溶湯から引き上げて、金型に付着して引き上げられた溶湯の質量を測定した。その結果得られた溶湯温度と付着量の関係を図8に示す。
【0040】
図8から判るように、溶湯温度が870K付近から高くなるにつれて付着量は増大し、923K(約650℃)付近で最大となる。さらに溶湯温度が高くなると付着量は若干低下するが、940K付近から上の温度域ではほぼ横ばいとなる。ここで用いたAZ91D合金の固液共存領域は、ほぼ870K程度以下の温度域(液相線温度871Kと固相線温度693〜708Kとの間の温度域)である。すなわち、この固液共存領域では、より低い温度域に比べてAZ91D合金の付着量が増大する。
【0041】
このAZ91D合金につき、金型の全振幅と、この金型に付着して引き上げられた溶湯の質量との関係を調べた。すなわち、上記と同じ金型を673K(約400℃)に予熱し、共振周波数20kHz、所定の全振幅で超音波加振しながら、923K(約650℃)に維持されたAZ91D合金の溶湯にその下端を10秒間沈めた。その後、溶湯に沈めたときと同じ全振幅を維持しながら金型を溶湯から引き上げて、金型に付着して引き上げられた溶湯の質量を測定した。その結果得られた全振幅と付着量の関係を図9に示す。
【0042】
図9から判るように、金型に付着した溶湯の量は、液体中から引き上げるときの固体に加えていた超音波のパワー(ここでは全振幅)に依存して決まる。その特性は、例えば図6と図8の概略形状に表れているように、液体(溶湯)の種類によって異なり得る。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の成形方法に用いられる成形装置の概略構成の一例を示す説明図である。
【図2】 上型を溶湯に沈めた状態を例示する説明図である。
【図3】 上型を溶湯から引き上げた状態を例示する説明図である。
【図4】 上型に付着した溶湯を成形空間に閉じ込めた状態を例示する説明図である。
【図5】 成形体を離型する状態を例示する説明図である。
【図6】 液体から引き上げるときに上型に加える超音波振動の全振幅と付着量との関係を示す特性図である。
【図7】 超音波加振された固体を液体に沈めたときの液体の流れを示す説明図である。
【図8】 溶湯の温度と付着量との関係を示す特性図である。
【図9】 金型に加える超音波パワーの全振幅と溶湯付着量との関係を示す特性図である。
【図10】 溶湯に金型を沈めたときの、各部の温度の推移を例示するチャートである。
【符号の説明】
10:超音波加振器
12:振動子
14:ホーン
16:超音波発振源
20:上型
30:下型
42:溶湯
Claims (3)
- 超音波加振されている第1の型を、熱溶融金属、熱溶融した熱可塑性樹脂、熱溶融したパラフィンワックス、熱溶融したガラス、反応硬化前の熱硬化性樹脂のいずれか1つからなる液体中に沈めてから引き上げることによって第1の型に前記液体を付着させる工程と、超音波加振を継続しながら第1の型を第2の型に型合わせし、両方の型の間に形成される成形空間に、第1の型に付着した液体を閉じ込めて液体を固体化する工程とを備えた超音波成形方法において、液体中に沈めた第1の型に加える超音波のパワーを減少させてから第1の型を液体中から引き上げることを特徴とする超音波成形方法。
- 液体の固体化工程において、固体化の初期に加える超音波のパワーを固体化の後期よりも大きくすることを特徴とする請求項1に記載の超音波成形方法。
- 第1の型を超音波加振して、液体が固体化した成形体を離型することを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波成形方法。
Priority Applications (1)
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