JP4045968B2 - 排気ガスセンサの劣化診断装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気ガスの組成に関する情報を検出する排気ガスセンサの劣化を検出する劣化診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在の内燃機関においては燃料噴射制御・空燃比制御が行われており、大気に放出すべきでない物質の生成自体を低減したり、排ガス中に含まれるこうした物質の浄化を行うことがなされている。このような制御では、排気ガスの組成に関する情報を検出する各種の排気ガスセンサが用いられている。排気ガスセンサとしては、例えば、排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサやリニア(全域)空燃比センサ、排気ガス中に含まれる炭化水素を検出するHCセンサ、排気ガス中の窒素酸化物を検出するNOxセンサなどが挙げられる。そして、これらのセンサが劣化すると、上述した制御を正確に行えなくなるため、劣化を検出する劣化診断装置も利用されている。[特許文献1]には、空燃比センサ(酸素センサ)の劣化を診断する診断装置が記載されている。
【0003】
【特許文献1】
特許公報第3134698号
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
[特許文献1]に記載の装置では、空燃比をリーン側とリッチ側とに強制的に振動させ、そのときの空燃比センサ(酸素センサ)の出力値から劣化を診断する。即ち、空燃比センサ(酸素センサ)の出力値と予め設定された閾値との比較によって劣化を診断する。しかし、予め設定した閾値との比較では、内燃機関の運転履歴や運転状況が反映されにくく、更なる検出(診断)精度の向上が望まれていた。また、劣化診断に際しては空燃比を強制的に振動させなくてはならず、エンジンの運転に影響を与えてしまうものであった。
【0005】
従って、本発明の目的は、排気ガスセンサの劣化をより一層精度良く検出することのできる排気ガスセンサの劣化診断装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の排気ガスセンサの劣化診断装置は、内燃機関から排出される排気ガスの組成に関する情報を検出する排気ガスセンサの劣化を検出するもので、内燃機関から排出される排気ガス成分を推定又は検出して特定する成分特定手段と、成分特定手段によって特定された排気ガス成分に基づいて排気ガスセンサの出力予測値を算出する出力値算出手段と、排気ガスセンサの実出力値および出力値算出手段によって算出された出力予測値の比較に基づいて排気ガスセンサの劣化を診断する劣化診断手段とを備え、劣化診断手段は、実出力値と出力予測値との差が所定値以上である場合に、排気ガスセンサが劣化していると診断することを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の排気ガスセンサの劣化診断装置において、出力値算出手段が、成分特定手段によって特定された排気ガス成分に基づいて、排気ガスセンサ内部での現象をモデル化して該排気ガスセンサの出力予測値を算出することを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の排気ガスセンサの劣化診断装置において、排気センサが酸素センサであり、出力値算出手段が、排気ガスセンサの内部現象のモデル化を、コーティング層内での酸素の拡散、電極上での反応、及び、酸素イオンの濃度差による起電力発生の各段階に分けて行うことを特徴としている。
【0009】
また、請求項4に記載の排気ガスセンサの劣化診断装置は、内燃機関から排出される排気ガスの組成に関する情報を検出する排気ガスセンサの劣化を検出する劣化診断装置であって、内燃機関から排出される排気ガス成分を推定又は検出することで特定する成分特定手段と、成分特定手段によって特定された排気ガス成分に基づいて排気ガスセンサ内部での現象をモデル化して該排気ガスセンサの出力予測値を算出する出力値算出手段と、排気ガスセンサの実出力値および出力値算出手段によって算出された出力予測値の比較に基づいて排気ガスセンサの内部現象モデルのパラメータを修正するモデル修正手段と、モデル修正手段によるパラメータの修正量が所定以上となった場合に排気ガスセンサが劣化していると診断する劣化診断手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の劣化診断装置の一実施形態について以下に説明する。本実施形態の劣化診断装置を有する内燃機関の構成を図1に示す。本実施形態の劣化診断装置は、図1に示される酸素センサ1の劣化を診断するものである。そして、この診断機能は、エンジン2の制御を司っている電子制御ユニット(ECU)3の内部に組み込まれている。本実施形態の酸素センサ1は、排気通路4上に配設された排気浄化触媒5の上流側に配設されており、排気浄化触媒5に流入する排気ガス中の酸素濃度を検出している。
【0011】
酸素センサ1の構造を模式的に図2に示す。図2に示される構造は、酸素センサとして一般的なものである。酸素センサは、排気ガス中の酸素濃度を検出するもので、空燃比が理論空燃比に対して濃いか薄いかによってその出力をオン−オフ的に変化させるものである。図2に示されるように、酸素センサ1は、その内部に筒状の検出部100を有している。検出部100の一端側は閉じられており、検出部100の内部は大気と連通されている。一方、検出部100の外側は排気通路4内の排気ガスと接している。なお、検出部100のさらに外側には、金属(耐熱ステンレス)製のセンサカバー101が配設されている。センサカバー101は、検出部100を排気ガス中のゴミ・水滴などから保護するものである。
【0012】
検出部100の拡大断面(図2中の点線丸部)を図3に示す。検出部100は、ジルコニア固体電解質102の内外表面に白金電極103が形成されて構成されている。固体電解質102は、300度以上の高温で酸素イオン導電体として働く。白金電極103は、メッキなどの方法で多孔質白金層を固体電解質102の内外表面に形成させたものである。排気通路4側の白金電極103のさらに外側には、白金電極103の保護のための多孔質セラミックのコーティング層(オーバーコート層ともいう)104が形成されている。
【0013】
固体電解質102の内部は酸素イオンが自由に動ける状態であり、その両側に酸素濃度差(酸素分圧の差)があると、その濃度差を減らすように酸素イオンが一方側から他方側に移動する。その際、高濃度側の酸素は、多孔質白金電極103表面で受け取られて酸素イオン(O2-)となり、固体電解質102中を低濃度側に移動して反対側の白金電極103に到達する。この酸素イオンの移動現象は、電子e-の移動となり、一対の白金電極103間に起電力を発生させる。この起電力によって酸素センサ1の出力電圧が決定される。
【0014】
ここでは、この現象を物理則に従ってモデル化し、酸素センサ1が出力すると思われる値を演算によって算出する。算出した出力値と実際のセンサ出力値とを比較することで〔第一実施形態〕(あるいは算出した出力値に基づくモデルパラメータ修正量に基づいて〔第二実施形態〕)酸素センサ1の劣化を診断する。以下、この酸素センサ1の出力値をモデルによって算出する行程について詳しく説明する。
【0015】
なお、以下に説明するモデルの演算は、エンジン2に付随して設けられた電子制御ユニット(ECU)3によって行われる。ECUは、CPU・RAM・ROM(必要であればHDDやCD−ROMなどの記録媒体及びその読取ドライブ)などを有しており、以下の演算はROM(あるいはHDDや記録媒体)内に格納されたプログラムによって行われる。演算に必要なマップなどもROM(あるいはHDDや記録媒体)内に格納されている。また、ECU3には、後述する各種センサ類が接続されており、これに基づいてエンジン1の運転全体(点火時期制御や燃料噴射制御など)を司っている。
【0016】
まず、エンジン2から排出される排気ガス成分をエンジン回転数とエンジン負荷とから推定する。エンジン回転数は、エンジン2のクランクシャフトの回転数を検出する回転数センサによって検出される。エンジン負荷は、吸入空気量やスロットル開度から算出される。吸入空気量は、吸気通路上に設けた負圧センサやエアフロメータによって検出される。スロットル開度は、スロットルバルブに付随して設けられるスロットルポジショニングセンサによって検出される。
【0017】
このとき、エンジン回転数及びエンジン負荷に加えて、燃焼圧(筒内圧)を参照してもよい。燃焼圧は、エンジン2の燃焼室近傍に配設された燃圧センサによって検出される。燃料性状が軽質か重質かによって燃焼後の排ガス組成は変化する。そこで、燃料性状が軽質か重質かによって変化する燃焼圧(筒内圧)に基づいて燃料性状を判断し、排ガス組成の推定に反映させる。燃焼圧には、燃焼状況(完全燃焼か一部不完全燃焼か)も反映されるので、燃焼状況による排ガス組成変化も反映されると考えることもできる。このようにして、酸素センサ1の部分に流れてくる排気ガスの組成を推定したら、次に、この推定されたガス組成に基づいて、酸素センサ1の出力値をモデルを用いて算出する。
【0018】
ここでは、酸素センサ1が電圧を出力する行程を次の三段階に分解してモデル化している。
[1]コーティング層104内での酸素の拡散
[2]白金電極103上での反応
[3]酸素イオン濃度差による起電力発生
【0019】
まず[1]コーティング層104内での酸素の拡散について説明する。上述したように排気通路内部側の白金電極103上には多孔質セラミックからなるコーティング層104が形成されている。排気ガス中の酸素は、このコーティング層104内部の細孔内を拡散して白金電極103に達する。なお、コーティング層104は、その細孔内に酸素分子を保持し、白金電極103上での反応が安定的に行われるようにする役割も負っている。コーティング層104の断面を図4に示す。
【0020】
本実施形態では、酸素センサ1の出力電圧発生に関して、酸素O2の濃度のみではなく、他のガス種(H2O,CO,CO2,NO,H2,N2,CH4,NH3など)の濃度も考慮している。酸素O2濃度のみを考慮してセンサ出力値を推定することも可能であるが、これらの酸素O2以外のガス種によっても一対の白金電極103間に電子の移動を生じさせ得るので(負の電圧を生成するものもある)、本実施形態では精度向上のためにこれらのガス種についても同時に考慮している。
【0021】
ここで、図4に示されるように、時間T=Tkであるときのコーティング層104の排気ガス側ガス種iの濃度(モル分率)をxik、コーティング層104の白金電極103側ガス種iの濃度(モル分率)をxeikと表す。また、コーティング層104の厚さをLとする。コーティング層104内のガス種iの拡散は、これらのxik,xeik,Lによって決まる。時間T=Tkに対応する拡散後のガス種iの濃度をx'eikと表すこととする。さらに、時間T=Tkから単位時間Δt経過した後の時間をT(k+1)と表す。
【0022】
コーティング層104内部の細孔径はサブミクロン程度と比較的大きいので、細孔内拡散ではなく自由拡散として捉えることが可能である。そこで、拡散現象に関するFickの第一法則から、時間T=Tkにおける拡散に際しての流束Jik[mol・m/s]は下記式(1)によって得られる。また、下記式(1)中の有効拡散係数Dik,eff[m2/s]は下記式(2)によって得られる。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
上記式(1)中の「コーティング層104のガス種iの白金電極103側モル分率xeik」は、「白金電極103上のガス種iの平衡後モル分率の前回値x"ei(k-1)」に等しい。即ち、xeik=x"ei(k-1)である。また、x"eikの初期値は、任意の数値が与えられる。初期値が任意であっても、ここで説明するモデルの計算を継続して行うことでx"eikは正確な値に収束する。白金電極103上のガス種iの平衡後モル分率x"ei(k-1)については後述する。
【0026】
また、上記式(2)で示される有効拡散係数Dik,effの値が大きいほど拡散しやすい。上記式(2)中のDijは、ガス種iのガス種jに対する相互拡散係数であり、ガス種iとガス種jとの組み合わせで固有の値である。即ち、Dij=Djiであり、ここでは、自己拡散(Dii)については考慮していない。このため、上記式(2)中の右辺分母(Σ)においては、i=jとなる場合を和に加えていない。即ち、上記式(2)中の右辺分母(Σ)は、ガス種i以外のすべてのガス種j毎に算出した[(ガス種jのモル分率)/(ガス種jとの相互拡散係数)]の総和である。なお、本実施形態では、空気及び排気ガス中の多くを窒素が占めていることを考慮して、各ガス種i毎に対する窒素N2との相互拡散係数(DiN2)のみを演算に用いることとしている。
【0027】
なお、相互拡散係数Dijは、温度依存性があるので温度に基づいてマップ化され、ECU3内のROMやRAMなどの記録部に格納されている。なお、このときに用いる温度は、温度センサを設けて検出してもよいが、通常の酸素センサ1は活性化温度への早期昇温のためのヒータを内蔵しているので、このヒータ温度を用いてもよい。次に、上述したように求めた流束Jikを用いて、排気ガス中のモル分率xikのガス種iがコーティング層104内に拡散した後のモル分率x'eikを下記式(3)によって算出する。このモル分率x'eikは、上述したガス種毎に算出される。
【0028】
【数3】
【0029】
このようにして、上述したステップ[1]の算出が終了する。そして、このステップ[1]で算出したx'eikが、次のステップ[2]の入力となる。次に、[2]白金電極103上での反応について説明する。白金電極103上では、白金の触媒作用によってモル分率x'eikのガス種iは平衡状態に達してモル分率x"eikとなる。白金電極103上での反応を各ガス種i毎に個別に算出することによって、平衡後のモル分率(濃度)x"eikを求める方法もあるが、これらの現象は複雑であるし、演算量も多くなることから、ここでは系全体のGibbsエネルギーGtを用いて平衡後のモル分率x"eikを求める。
【0030】
GibbsエネルギーGtを用いて平衡後のモル分率x"eikを求めるに際して、まず、平衡前のモル分率x'eikを各ガス種i毎に並べた行列X’と平衡後のモル分率x"eikを同様に各ガス種i毎に並べた行列X”を下記式(4),(5)のように規定する。また、各ガス種iの分子内の各元素数に注目して、各ガス種i分子の構成を示す行列Aも下記式(6)のように規定する。行列Aの各行は、行列X0,Xの各ガス種iに対応している。また、行列Aの各列は、左から、各ガス種i分子中の炭素C・水素H・酸素O・窒素Nの各元素数に対応している。
【0031】
【数4】
【0032】
【数5】
【0033】
【数6】
【0034】
ここで、炭素C・水素H・酸素O・窒素Nの各元素のモル濃度を示す行列をDとすれば、平衡の前後で各元素の総数は保存されるので下記式(7)が成立する。なお、行列ATは行列Aの転置行列である。また、系の全GibbsエネルギーGtは下記式(8)のように表される。下記式(8)中のμiはガス種iの化学ポテンシャルである。
【0035】
【数7】
【0036】
【数8】
【0037】
白金電極103上で平衡状態に達したということは、上記式(7)が成立し、かつ、上記式(8)で示される全Gibbsエネルギーが最小値を持つということに等しい。上述したように、上記式(7)は平衡前後で各元素総数が保存されることを示している。一方、上記式(8)で示される全Gibbsエネルギーが最小値を持つということは、反応が収束した、即ち、平衡状態に達したことを示す。即ち、上記式(7)を成立させ、かつ、上記式(8)の全Gibbsエネルギーが最小値を持つx"eikを求めることで、平衡後の各ガス種iの濃度(モル分率)を求めることとなり、これを演算によって算出する。
【0038】
なお、上述したように、この白金電極103上のガス種iの平衡後モル分率x"eikが、次回のコーティング層104のガス種iの白金電極103側モル分率xei(k+1)となる。このようにして、上述したステップ[2]の算出が終了する。そして、このステップ[2]で算出したx"eikを用いて、次のステップ[3]で酸素センサ1の出力を算出する。次に、[3]酸素イオン濃度差による起電力発生について説明する。
【0039】
上述したように、複数のガス種iによってそれぞれ起電力が生じ、それらを合算したものが酸素センサ1の出力電圧となる。そこで、まず、三相(白金電極103、固体電解質102、及び、これらの間に達した各ガス種iを含む排気ガス)の境界に吸着する各ガス種iの占有率θikを求める。占有率θikは、各ガス種i毎に異なり、Langmuirの吸着等温式によって下記式(9)のように計算される。なお、下記式(9)中のKiは吸着平衡定数であり、吸着のしやすさ(吸着・脱離平衡時)を表している。吸着平衡定数Kiは、ガス種i毎に異なり、温度依存性を持つ。このため、吸着平衡定数Kiは温度に基づいてマップ化され、ECU内のROMやRAMなどの記憶部に格納されている。このときに用いる温度は、上述したように酸素センサ1のヒータ温度を用いてもよい。
【0040】
【数9】
【0041】
下記式(9)の分母は、各ガス種i毎の吸着平衡定数Kiとモル分率x"eikとの積の総和に1を加えたものであり、分子は、当該ガス種iの吸着平衡定数Kiとモル分率x"eikとの積である。ここで用いているモル分率x"eikがステップ[2]で算出したモル分率である。各ガス種i毎の占有率θikを算出する一方で、各ガス種iによって発生される基準電位を算出する。ここでは、酸素O2に加えて、水素H2、一酸化炭素COが、酸素センサ1の出力電圧に影響を与えるガス種iとして考慮されている。酸素O2による基準電位は下記式(10)によって得られる。同様に、一酸化炭素COによる基準電位は下記式(11)、水素H2による基準電位は下記式(12)によって得られる。
【0042】
【数10】
【0043】
【数11】
【0044】
【数12】
【0045】
上記式(10)〜(12)中のV0 iは各ガス種i毎に定められる標準セルポテンシャルである。標準セルポテンシャルV0 iは、ガス種i毎に決定される定数で、あらかじめ実験等によって求められ、ECU内のROMやRAMなどの記憶部に格納されている。Rは気体定数、Tは絶対温度(上述したように酸素センサ1のヒータ温度を利用してもよい)である。また、xaiは、大気側の各ガス種iのモル分率であり、本実施形態では定数としてECU内のROMやRAMなどの記憶部に格納されている。
【0046】
そして最終的に、算出された各ガス種i毎の占有率θik及び基準電位Viを用いて、ノートンの定理により下記式(13)によって酸素センサ1の出力電圧V’を算出する。なお、本実施形態の場合、下記式(13)に対して適用するガス種iは、上述したように酸素O2、水素H2、一酸化炭素COのみである。
【0047】
【数13】
【0048】
なお、ここでは、各種センサやECU等が成分特定手段や出力値算出手段として機能している。以上説明したように、酸素センサ1の内部現象をモデル化し、このモデルを用いて算出した酸素センサ1の出力電圧(出力予測値)V’と酸素センサ1の実際の出力電圧(実出力値)Vとを比較し、その差が所定値以上である場合に、酸素センサ1が劣化したと判断する〔第一実施形態〕。所定値は、固定としてもよいし、各種条件(例えば空燃比)に応じて可変としてもよい。出力電圧(出力予測値)V’と酸素センサ1の実際の出力電圧(実出力値)Vとの間に所定値以上の開きがあるということは、酸素センサ1が予想される出力を出すことができない状態、即ち、劣化状態となっていると判断できる。
【0049】
このように、モデルを用いて算出した出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとを比較することで、より正確に劣化を診断することができる。従来のように、あらかじめ決められた所定値と酸素センサの実出力値とを比較する場合、あらかじめ決められた所定値には十分に内燃機関の状態が反映されないので精度に不満があった。しかし、本実施形態のように、モデルを用いて算出した、内燃機関の状態が十分に反映された出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとに基づいて劣化診断することで、精度を向上させることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、モデルを用いて算出した出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとの比較に際しては、両者の差分に基づいて診断を行ったが、両者の比などに基づいて診断を行ってもよい。ここでは、ECUなどが劣化診断手段として機能している。本実施形態では、出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとの比較し、これに基づいて酸素センサ1の劣化を直接診断したが、以下の第に実施形態のような診断方法を採ることもできる。
【0051】
第二実施形態でも、やはり上述したモデルを用いた手法によって酸素センサ1の出力電圧(出力予測値)V’を算出するとともに、出力電圧(実出力値)Vを検出する。そして、このモデルを用いて算出した出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとの比較に基づいて、モデルのパラメータ、ここでは上述した標準セルポテンシャルV0 iを補正している。
【0052】
この補正は、当然モデルの推定精度を向上させるように補正が行われる。具体的には、両者が一致するように、標準セルポテンシャルV0 iの値を増減させて補正している。あるいは、モデルを用いて算出した出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとの偏差(あるいは比でもよい)に基づいて増加分や減少分を算出することとしてもよいし、増加割合(例えば、標準セルポテンシャルV0 iの値を補正前に比べて110%とする)や減少割合で補正してもよい。ここでは、上述したECU3などがやはりモデル修正手段として機能している。
【0053】
そして、このときのパラメータの修正量(全く修正を行っていない初期値に対する修正量:修正量の積算値)が所定量以上となった場合に、酸素センサ1が劣化していると診断する〔第二実施形態〕。パラメータの修正量が所定値以上であるということは、モデルと実際との間にある程度の差が生じており、酸素センサ1が予想される出力を出すことができない状態、即ち、劣化状態となっていると判断できる。
【0054】
このように、モデルを用いて算出した出力電圧(出力予測値)V’と実際の出力電圧(実出力値)Vとの比較によりモデルのパラメータを修正し、その修正量に基づいて劣化診断を行うことで、より正確に診断を行うことができる。なお、本実施形態では、モデルのパラメータとして標準セルポテンシャルV0 iを補正したが、他のパラメータ、例えば、上述した吸着平衡定数Kiを補正してもよい。あるいは、いくつかのパラメータを補正し、それらのいずれかの補正量、あるいは、複数のパラメータの補正量の複合条件で酸素センサ1の劣化を診断するようであってもよい。
【0055】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態においては、排気ガスセンサが酸素センサであったが、排気ガスセンサがリニア(全域)空燃比センサ、HCセンサ、NOxセンサなどであってもよい。また、上述した実施形態では、エンジン2の排気通路4上に設置された排気浄化触媒5の上流側に配置された酸素センサ(排気ガスセンサ)1の劣化を診断するものであった。しかし、図5に示されるように、排気浄化触媒5の上流側と下流側とに酸素センサ(排気ガスセンサ)1a,1bが配設されるような場合に、下流側の酸素センサ(排気ガスセンサ)1bの劣化を診断するものに対しても本発明は適用し得る。
【0056】
この場合は、排気浄化触媒5の内部での現象をも物理則に従ってモデル化し(触媒モデル)、エンジン2から排出される燃焼後の排気ガスの排ガス組成に基づいて排気浄化触媒5から排出される排気ガスの排ガス組成を求め、これに基づいて上述した手法によって酸素センサ(排気ガスセンサ)1bの出力値を算出すればよい。そして、その後算出した出力値と実際のセンサ出力値とを比較することで、あるいは、算出した出力値に基づくモデルパラメータ修正量に基づいて、酸素センサ1bの劣化を診断することができる。
【0057】
また、上述した実施形態では、エンジン2から排出される排気ガスの排ガス組成をエンジン回転数及びエンジン負荷(さらに燃焼圧)に基づいて決定していた。しかし、吸入空気量や燃料噴射量、その他の燃焼条件(点火時期やバルブタイミング、吸気温、EGR量など)に基づいて、エンジン2内部での燃焼現象を物理則に従ってモデル化し(燃焼モデル)、このモデルによって算出された排ガス組成に基づいて上述した手法によって酸素センサ1の出力値を算出して酸素センサ1の劣化を診断してもよい。
【0058】
【発明の効果】
本発明の排気ガスセンサの劣化診断装置では、排気ガスセンサ内部の現象をモデル化して排気ガスセンサが出力すると思われる値を演算によって算出し、算出した出力値と実際のセンサ出力値とを比較することで、あるいは、算出した出力値に基づくモデルパラメータの修正量に基づいて、排気ガスセンサの劣化を診断する。このため、モデルを用いて算出した、内燃機関の状態が十分に反映された出力電圧(出力予測値)と実際の出力電圧(実出力値)とに基づいて劣化診断することになり、診断精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の劣化診断装置の一実施形態を有する内燃機関の構成図である。
【図2】酸素センサ(排気ガスセンサ)の構造を示す断面図である。
【図3】酸素センサ(排気ガスセンサ)の検出部を拡大して示す断面図である。
【図4】酸素センサ(排気ガスセンサ)のコーティング層を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明の劣化診断装置の他の実施形態を適用した内燃機関の構成図である。
【符号の説明】
1,1b…酸素センサ(排気ガスセンサ)、2…エンジン(内燃機関)、3…ECU(成分特定手段・出力値算出手段・劣化診断手段・モデル修正手段)、4…排気通路、5…排気浄化触媒、100…検出部、101…センサカバー、102…固体電解質、103…白金電極、104…コーティング層。
Claims (4)
- 内燃機関から排出される排気ガスの組成に関する情報を検出する排気ガスセンサの劣化を検出する劣化診断装置であって、
前記内燃機関から排出される排気ガス成分を推定又は検出することで特定する成分特定手段と、
前記成分特定手段によって特定された排気ガス成分に基づいて前記排気ガスセンサの出力予測値を算出する出力値算出手段と、
前記排気ガスセンサの実出力値および前記出力値算出手段によって算出された前記出力予測値の比較に基づいて前記排気ガスセンサの劣化を診断する劣化診断手段とを備え、
前記劣化診断手段は、前記実出力値と前記出力予測値との差が所定値以上である場合に、前記排気ガスセンサが劣化していると診断することを特徴とする排気ガスセンサの劣化診断装置。 - 前記出力値算出手段が、前記成分特定手段によって特定された排気ガス成分に基づいて、前記排気ガスセンサ内部での現象をモデル化して該排気ガスセンサの出力予測値を算出することを特徴とする請求項1に記載の排気ガスセンサの劣化診断装置。
- 前記排気センサが酸素センサであり、前記出力値算出手段が、前記排気ガスセンサの内部現象のモデル化を、コーティング層内での酸素の拡散、電極上での反応、及び、酸素イオンの濃度差による起電力発生の各段階に分けて行うことを特徴とする請求項2に記載の排気ガスセンサの劣化診断装置。
- 前記機関から排出される排気ガスの組成に関する情報を検出する排気ガスセンサの劣化を検出する劣化診断装置であって、
前記内燃機関から排出される排気ガス成分を推定又は検出することで特定する成分特定手段と、
前記成分特定手段によって特定された排気ガス成分に基づいて前記排気ガスセンサ内部での現象をモデル化して該排気ガスセンサの出力予測値を算出する出力値算出手段と、
前記排気ガスセンサの実出力値および前記出力値算出手段によって算出された前記出力予測値の比較に基づいて前記排気ガスセンサの内部現象モデルのパラメータを修正するモデル修正手段と、
前記モデル修正手段によるパラメータの修正量が所定以上となった場合に前記排気ガスセンサが劣化していると診断する劣化診断手段とを備えていることを特徴とする排気ガスセンサの劣化診断装置。
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