JP4043013B2 - 高純度炭酸バリウムの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ケーブル、ステッパー等の光学ガラスの原料として有用な高純度炭酸バリウムの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ガラス工業の分野では、従来から各種のバリウム化合物が使用されている。例えば炭酸バリウムは、カメラ、ビデオカメラ等を対象とする光学ガラスの原料として有用されている。この他、炭酸バリウムはファイバー用、電子回路焼き付け用のi線ステッパー(逐次移動式縮小投影露光装置)用レンズなどの高解像度が必要な用途に用いられており、この場合には特に高純度品が要求される。
【0003】
ファイバ−用の場合には、可視光(450 〜650nm )の透過率の高い(>99.8%)ことが条件であり、またステッパー用レンズの場合はi線(365nm )の透過率が高いことが条件で、g線(436nm )で既に達成されている99.8%の透過率が目標値となっている。いずれの場合も用いる炭酸バリウム中に存在する数ppmオーダーの有色7 元素(Fe,Cr,Co,Ni,Cu,Mn,Ti)あるいは異物が悪影響を及ぼすため、これらの不純物を極限まで除去した原料が必要となる。特に、高解像ガラスに使用する場合は、Feを指標として100ppb以下の不純物含有量とすることが必要である。
【0004】
こうした光学ガラス用炭酸バリウムの製造方法として、例えば、バリウム塩と炭酸塩との反応において、バリウム塩原料として再結晶又はキレート剤の存在下で有機溶媒により抽出し精製したものを用い、反応温度40〜90℃の範囲で、Ba/CO3のモル比を0.90〜1.10の範囲に調整しながらバリウム塩と炭酸塩を同時に添加して晶出させて嵩密度の高い炭酸バリウムを得る方法(特開平08−295511号公報)、炭酸アンモニウム溶液と塩化バリウム溶液とを反応させて炭酸バリウムを製造方法する方法において、原料の塩化バリウムの溶液に酸化剤を添加し、更に精密濾過をした後、次いで該溶液と炭酸アンモニウム溶液とを反応させて炭酸バリウムを得る方法(特開平06−345423号公報)等が提案されている。また、米国特許第3947553号明細書には、硝酸存在下に硝酸バリウム水溶液から硝酸バリウムを析出させて得られる精製硝酸バリウムの製造方法が記載され、更に、これと炭酸アンモニウムとを反応させて炭酸バリウムを得ることが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平08−295511号公報の製造方法では、原料や反応処理過程で混入する不純物を除去する対策を採っていないことから、製品中にFe分を100ppb以下まで除去することは困難である。また、特開平06―345423号公報の製造方法で得られる炭酸バリウムでは、出発原料として塩化バリウムを用いているため、塩素が必然的に製品中に混入する。このためこのような塩素含有量が高い炭酸バリウムを光学用原料として用いた製品において結晶の歪みを発生し、このため光の分散を高次元でコントロールすることが困難になりやすいと言う問題がある。また、米国特許第3947553号明細書の炭酸バリウムの製造方法では、Feを十分に除去しないままで精製硝酸バリウムをそのまま用いて炭酸アンモニウムと従来法に基づいて単に反応させているため、Ca、Sr等の不純物は10ppm程度まで除去することができるが、Fe分を100ppb以下まで除去したものを得ることは困難である。
【0006】
従って、本発明の目的は、アルカリ金属、遷移金属、特にSr、Ca、Cl等が数ppm以下で、且つFeが100ppb以下まで低減された光ケーブル、ステッパー等の光学ガラスの原料として有用な高純度炭酸バリウムの製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、特定の精製工程を経て得られる精製硝酸バリウムをアルカリ性下で二酸化炭素と反応させて得られる炭酸バリウムは、アルカリ金属、遷移金属、特にSr、Ca、Cl等が数ppm以下、Feが100ppb以下まで低減された光学ガラス用原料として好適な高純度炭酸バリウムとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、粗製硝酸バリウム、粗製硝酸バリウムに対して0.1ppm以上の過酸化水素及び粗製硝酸バリウム水溶液がpH9以上となるような添加量のアンモニアを水に溶解し、次いで、0.5時間以上攪拌下に熟成する第一工程、第一工程で得られる粗製硝酸バリウム水溶液から、孔径1μm以下の濾過材を用いて濾過し、不溶分を除去する第二工程、第二工程で得られる不溶分除去後の水溶液を冷却して、あるいは、該不溶分除去後の水溶液中の水分を蒸発させて、あるいは、該不溶分除去後の水溶液に硝酸を添加した後、冷却して、硝酸バリウムを析出させて精製硝酸バリウムを得る第三工程、第三工程で得られる精製硝酸バリウムを、pHが7未満とならない条件下で、二酸化炭素と反応させ炭酸バリウムを析出させて高純度炭酸バリウムを得る第四工程、を含むことを特徴とする高純度炭酸バリウムの製造方法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態における高純度炭酸バリウムの製造方法について、第一工程から第四工程までを順を追って説明する。
【0010】
(第一工程)
第一工程は粗製硝酸バリウム、酸化剤及びアルカリとを水に溶解する工程である。すなわち、この第一工程では、主として粗製硝酸バリウム中の可溶性の2価のFeを3価のFeへ酸化し、更に、アルカリにより該3価のFeを水酸化鉄として析出させる工程である。
【0011】
粗製硝酸バリウム、酸化剤及びアルカリを水に溶解する方法としては、特に制限されず、粗製硝酸バリウムをまず水に溶解し、この水溶液に酸化剤を添加し、次にアルカリを添加する方法、又は粗製硝酸バリウムをまず水に溶解し、この水溶液にアルカリを添加し、次に酸化剤を添加する方法が挙げられる。この中、粗製硝酸バリウム水溶液に酸化剤を添加し、次にアルカリを添加する方法で行うことが効率的に粗製硝酸バリウム中の可溶性の2価Fe分を3価に酸化し、この3価のFeを水酸化物とすることができることから好ましい。
【0012】
粗製硝酸バリウムは、第三工程で得られる精製硝酸バリウムの原料となるもので、如何なる製造方法で得られるものであってもよく、例えば、硫化バリウム水溶液と硝酸との反応により得られる粗製硝酸バリウム、塩化バリウム水溶液と硝酸ソーダとの反応により得られる粗製硝酸バリウム、炭酸バリウムと硝酸との反応により得られる粗製硝酸バリウム等が挙げられる。具体的には、粗製硝酸バリウムは、Fe分除去工程を経ていない硝酸バリウムであって、Fe分を100ppbを越える濃度で含有するものである。
【0013】
水溶液中の粗製硝酸バリウムの濃度は、飽和溶解度以下であれば特に制限はないが、硝酸バリウムの溶解度は溶解させる温度に強く依存することから、例えば、80℃の温度で溶解させるには18〜21重量%、好ましくは19〜20重量%とすることが好ましい。
【0014】
なお、粗製硝酸バリウムを溶解する水は、少なくとも逆浸透圧膜又は限外濾過膜のいずれかを通過させて、Na、K、Ca、Cl、SO4等の塩やイオン性不純物を除去した純水を用いることが、溶解する水に由来する不純物の混入を防止できる点で特に好ましい。なお、逆浸透圧膜又は限外濾過膜に通水される被処理水としては、例えば、工業用水、市水、河川水などの原水を凝集ろ過装置及び活性炭塔からなる前処理装置で処理し、原水中の懸濁物及び有機物の大半を除去したもの、あるいは、更に、イオン交換樹脂を用いる純水製造装置で処理されたものなどが用いられる。以下、第三工程〜第四工程において使用される純水も同様である。
【0015】
逆浸透膜は、市販の膜モジュールを用いることができ、操作条件等は特に制限はなく常法に従えばよい。具体的には、逆浸透圧膜の分画分子量は400〜100000、好ましくは1000〜10000であり、材質としては、例えば、酢酸セルロース系、ポリアミド系、架橋ポリアミン系、架橋ポリエーテル系、ポリスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリビニールアルコール等が適宜使用される。膜の形状は平板型、スパイラル型、中空糸型、チューブラー、ブリーフ型などの何れであってもよい。
【0016】
限外濾過膜は、市販の膜モジュールを用いることができ、操作条件等は特に制限はなく常法に従えばよい。具体的には、限外濾過膜の分画分子量は400〜100000、好ましくは1000〜10000であり、材質としては、再生セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、ポリビニールアルコール、燒結金属、セラミック、カーボン等が適宜使用される。膜の形状は平板型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型、ブリーツ型などの何れであってもよい。
【0017】
酸化剤としては、過酸化水素、過酸化ソーダ、過炭酸ソーダ等の過酸化物、硫酸銅等の金属塩、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ソーダ等の過マンガン酸アルカリ、三酸化クロム、重クロム酸ソーダ等の可溶性6価クロム化合物、ペルオクソニ硫酸、ペルオクソニ硫酸アンモニウム等のペルオクソ酸およびその塩、酸化銀等の酸化物、酸素、オゾン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上で用いられる。この中、過酸化水素が酸化剤自体による金属汚染を回避でき、且つ残存する酸化剤の分解が容易であるため特に好ましい。この酸化剤の添加量は、硝酸バリウムに対して0.1〜10ppm、好ましくは0.1〜1ppmである。
【0018】
アルカリとしては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、苛性ソーダ、苛性カリ、NaHCO3、Na2CO3、K2CO3、KHCO3、Ca(OH)2等の無機アルカリ、またはエタノールアミン等の有機アルカリ等が挙げられ、これらのアルカリは1種又は2種以上で用いることができるが、この中アンモニア水が金属による汚染を回避することができることから特に好ましい。このアルカリの添加量は、粗製硝酸バリウム水溶液がpH9以上、好ましくは10〜12となるような添加量でよく、通常、硝酸バリウムに対して0.01〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%である。本工程において粗製硝酸バリウム水溶液のpHが上記範囲内にあるとFe分等の可溶性金属を効率よく水酸化物として析出させることができる点でより好ましい。
【0019】
次いで、粗製硝酸バリウム、酸化剤及びアルカリを含有する水溶液を70〜90℃、好ましくは80〜85℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜2時間攪拌下に熟成することにより、水溶液中の可溶性Fe分を水酸化鉄として析出させる。これにより第一工程を終了する。
【0020】
(第二工程)
第二工程は、第一工程で得られる粗製硝酸バリウム水溶液から不溶分を除去する工程であり、該水溶液から不溶分を除去する手段は、特に制限はないが、孔径1μm以下、好ましくは0.2〜0.5μmの濾過材を用いて濾過する方法が挙げられる。濾過材としては、分離膜及び分離膜以外のフィルターなどが挙げられる。濾過材により不溶分を除去する方法としては、精密濾過により行うことが、不溶分を確実に除去でき、作業性に優れている点で特に好ましい。通常、濾過方法は、濾過される粒子の粒径によって分類され、精密濾過は0.02〜10μmの粒子径のものを濾過することができる。なお、限外濾過は1〜103nm(分子量103〜3×103)である。
【0021】
精密濾過で用いることができる精密濾過膜は、表面濾過作用を有するスクリーンフィルター、内部濾過作用を有するデプスフィルター等が挙げられるが、本発明において、表面濾過作用を有するスクリーンフィルターが効率よく、不溶分を除去することができる点で特に好ましい。精密濾過膜の公称孔径は0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.5μmであり、精密濾過膜の材質は、特に限定されるものではないが、例えばコロジオン、セロファン、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニリデンフロライド等の有機系の膜、あるいは黒鉛、セラミックス、多孔質ガラス等の無機系の膜が挙げられる。また、実験室規模であれば、PTFEメンブランフィルターが使用できる。
【0022】
スクリーンフィルターの形式は特に制限されるものではないが、カートリッジ式が操作性が容易である点で特に好ましい。これらの精密濾過は、市販の精密濾過装置を用いて、この精密濾過装置に第一工程後の水溶液を導入することにより実施することができる。この精密濾過操作は、減圧または加圧下でおこなうこともできるが、とくに限定されるものではなく、通常は、第一工程後の水溶液を送液ポンプにて、1〜30ml/min、好ましくは5〜15ml/minの流速で精密濾過装置に導入し0.1〜0.5MPa、好ましくは0.2〜0.3MPaの圧力で処理することが好ましい。なお、第二工程における濾過材による濾過操作は、水溶液から硝酸バリウムが析出しない温度下で濾過操作を行うことが好ましい。
【0023】
(第三工程)
第三工程は、第二工程で得られる不溶分除去後の水溶液から硝酸バリウムを析出させて精製硝酸バリウムを得る工程である。即ち、この第三工程を施すことにより得られる硝酸バリウムはFeだけでなくCa、Sr等を初めとする遷移金属が低減されたものとなる。
【0024】
第三工程において、不溶分除去後の水溶液から硝酸バリウムを析出させて精製硝酸バリウムを得る方法としては、上記の不溶分を除去した水溶液をそのまま冷却して硝酸バリウムを析出させる方法、水溶液中の水分を除々に蒸発させる所謂蒸発析出法及び上記の不溶分を除去した水溶液に硝酸を添加した後、冷却して硝酸バリウムを析出させる方法が挙げられる。この中、不溶分を除去した水溶液に硝酸を添加した後、冷却して硝酸バリウムを析出させる方法が、精密濾過装置を通過した微細な水酸化物の混入を防止できる点で特に好ましい。
【0025】
具体的には、第二工程後の処理液に硝酸を処理液のpHが2以下、好ましくは1.5以下となるまで加えた後、20℃以下、好ましくは5〜10℃となるまで冷却し、硝酸バリウムの結晶を析出させ、固液分離して精製硝酸バリウムを得る。本工程において第二工程後の処理液のpHが上記範囲内にあると微細な水酸化物が硫酸バリウム結晶の発生核にならずに済むことからより好ましい。なお、この第三工程において、硝酸添加前、硝酸添加後から冷却するまでの間に一部硝酸バリウムが析出している場合には、加熱等の手段により硝酸バリウムを完全に溶解させた後、再び冷却し硝酸バリウムの結晶を析出させることが金属水酸化物の混入を防止できるため好ましい。
【0026】
次に、常法により固液分離して硝酸バリウムを回収し、所望により乾燥して精製硝酸バリウムを得る。なお、回収の際にリンス液、若しくは所望により精製硝酸バリウムを洗浄する洗浄水は純水を用いることが、洗浄水に含まれる不純物の混入を防止でき、不純物含有量が少ないことが要求される光学ガラス用の高純度炭酸バリウムを得ることができる点で特に好ましい。
【0027】
(第四工程)
第四工程は、第三工程で得られた精製硝酸バリウムをアルカリ性下で二酸化炭素と反応させて炭酸バリウムを析出させて高純度炭酸バリウムを得る工程である。第四工程では、まず、精製硝酸バリウムを水に溶解する。水溶液中の硝酸バリウムの濃度は、飽和溶解度以下であれば特に制限はないが、上記のとおり硝酸バリウムの溶解度は溶解させる温度に強く依存することから、例えば、80℃の温度で溶解させるには18〜21重量%、好ましくは19〜20重量%とすることが好ましい。なお、精製硝酸バリウムを溶解する水は純水を用いることが、溶解する水に由来する不純物の混入を防止し、光学ガラス用の高純度炭酸バリウムを得ることができる点で特に好ましい。
【0028】
次に、この精製硝酸バリウム水溶液に、アルカリを添加する。アルカリの種類としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、苛性ソーダ、苛性カリ、NaHCO3、Na2CO3、K2CO3、KHCO3、Ca(OH)2等の無機アルカリ、またはエタノールアミン等の有機アルカリ等が挙げられ、これらのアルカリは1種又は2種以上で用いることができるが、この中、アンモニア水が金属による汚染を回避できることから特に好ましい。アルカリの添加量は、得られる炭酸バリウムがpH7未満では溶解性を示すことから、生成炭酸バリウムに対して当量以上添加し、反応終了まで反応系内のpHが7未満とならないようにすることが好ましい。
【0029】
次に、精製硝酸バリウムとアルカリを溶解した水溶液に二酸化炭素を導入し炭酸バリウムを析出させる。二酸化炭素としては、特に制限されないが、予め、硫酸、硝酸等の酸水溶液中を通過させ、貯蔵タンク、調圧弁、配管等から混入する不純物を除いた二酸化炭素を用いることが高い透過度が要求されるため不純物含有量の少ないことが要求される光学ガラス用の高純度炭酸バリウムを得る上で特に好ましい。二酸化炭素の添加量は、精製硝酸バリウムに対するモル比で1.0〜5.0、好ましくは1.2〜3.5である。また、反応温度は、20〜60℃、好ましくは30〜40℃で、反応時間は、0.5〜6時間、好ましくは1〜3時間である。
【0030】
かかる反応は、連続式またはバッチ式いずれでも実施することができる。析出した炭酸バリウムは、常法により濾過洗浄し、乾燥し、所望により粉砕して製品とする。なお、洗浄で用いる水は純水を用いることが、高い透過度が要求されるため不純物含有量の少ないことが要求される光学ガラス用の高純度炭酸バリウムを得る上で特に好ましい。
【0031】
なお、必要により、二酸化炭素を導入する前に、アルカリ添加後の水溶液を、更に濾過等により不溶分を除去し、処理後のろ過液に二酸化炭素を導入し反応を行うことが高い透過度が要求されるため不純物の含有量の少ないことが要求される光学ガラス用の高純度炭酸バリウムを得る上で好ましい。
【0032】
前記水溶液から不溶分を除去する手段は、特に制限はないが、孔径1μm以下、好ましくは0.2〜0.5μmの分離膜により膜分離を行う方法等が挙げられる。分離膜により不溶分を除去する方法としては、精密濾過により行うことが、不溶分を確実に除去でき、作業性に優れている点で特に好ましい。この精密濾過で用いることができる精密濾過膜は、前記第二工程で用いたものと同じものを用いることができ、表面濾過作用を有するスクリーンフィルターが効率よく、不溶分を除去することができることから好ましく、また、このスクリーンフィルターの形式はカートリッジ式が操作性が容易である点で特に好ましい。この場合、フィルターの孔径は、0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.5μmとすることが特に原料であるアルカリ由来の不純物を有効に除去し得る点で好ましい。
【0033】
濾過操作は、減圧または加圧下でおこなうこともできるが、とくに限定されるものではないが、通常は、この水溶液を送液ポンプにて、1〜30ml/min、好ましくは5〜15ml/minの流速で精密濾過装置に導入し0.1〜0.5MPa、好ましくは0.2〜0.3MPaの圧力で処理することが好ましい。なお、このフィルター又は膜による濾過操作は、水溶液から硝酸バリウムが析出しない温度下で濾過操作を行うことが好ましい。
【0034】
なお、上記の本発明の高純度炭酸バリウムの製造方法における第一工程〜第四工程の一連の工程は、通常の雰囲気で行ってもよいし、また、クリーンルームで行ってもよく、特に制限されるものではない。
【0035】
かくして得られる高純度炭酸バリウムは、レーザー法により求められる平均粒径が0.3〜100μm、好ましくは3〜60μmで、BET比表面積が0.1〜15m2/g、好ましくは0.2〜1m2/gである。また、純度99.5%以上、好ましくは99.95%以上で、且つ、不純物含有量において、Liが1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Naが3ppm以下、好ましくは1ppm以下、Caが3ppm以下、好ましくは1ppm以下、Srが5ppm以下、好ましくは2ppm以下、Mnが1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Feが100ppb以下、好ましくは50ppb以下、Niが1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Cuが1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Znが1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Laが0.5ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Ceが0.5ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Ybが0.5ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Alが2ppm以下、好ましくは0.2ppm以下、Siが10ppm以下、好ましくは5ppm以下、Clが5ppm以下、好ましくは3ppm以下のものは、特に光ケーブル、ステッパー等の光学ガラスの原料として好適に用いることができる。
【0036】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。なお、本実施例においては、粗製硝酸バリウムとして市販の硝酸バリウムを使用した。この硝酸バリウム試料中の不純物含有量を表1に示す。なお、この不純物量は、ICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0037】
【表1】
───────────────────────
粗製硝酸バリウムの純度(%) 99.00
───────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 2.5
Ca含有量(ppm) 0.2
Sr含有量(ppm) 12.4
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 1500
Ni含有量(ppm) 0.1
Cu含有量(ppm) 0.8
Zn含有量(ppm) 0.2
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.9
Si含有量(ppm) 3.2
Cl含有量(ppm) 3
───────────────────────
【0038】
実施例1
<第一工程>
上記粗製硝酸バリウム1150gを純水3850gに90℃で溶解し水溶液を調製した。次に、この温度を維持したままこの水溶液に30%過酸化水素水溶液0.2gを加え、更に28%アンモニア水5gを加えた後、90℃で1時間攪拌下に熟成した。なお、純水はイオン交換樹脂を備えた純水製造装置で処理した水を限外濾過モジュール(旭化学工業社製、分画分子量6000)で処理したものであり、以下の実施例及び比較例で使用した純水も当該純水と同じ処理をしたものである。
<第二工程>
第一工程後の反応液を90℃のままで孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して濾過を行った。
<第三工程>
次に、第二工程後の処理液50000gに70%硝酸を3g添加してpH1.5とし、更に90℃で1時間攪拌した。次に、10℃まで冷却し、硝酸バリウムの結晶を析出させた。得られた結晶を常法により濾過、乾燥し精製硝酸バリウム893gを得た。得られた精製硝酸バリウムの不純物含有量を表2に示す。なお、この不純物量はICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0039】
【表2】
────────────────────────
精製硝酸バリウムの純度(%) 99.99
────────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 0.2以下
Ca含有量(ppm) 0.15
Sr含有量(ppm) 0.55
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 50
Ni含有量(ppm) 0.1以下
Cu含有量(ppm) 0.1以下
Zn含有量(ppm) 0.1以下
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.2以下
Si含有量(ppm) 0.5
Cl含有量(ppm) 2.0
────────────────────────
【0040】
<第四工程>
第三工程で得られた精製硝酸バリウム270gを純水3000gに60℃で溶解し、更に、これに28%アンモニア水140gを添加してpH13とし、更に60℃で1時間攪拌した。次に、45℃で孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して濾過を行った。反応系内の温度を45℃に調製し、次に、30%硫酸水溶液300mlを入れた洗気ビン(容積500ml、サイズ;たて7cm×横7cm×高さ15cm)を通過させた二酸化炭素を反応系内に流量200ml/minで100g導入した。次に60℃で1時間で攪拌下に反応を行った後、反応を終了した。次に、静置後、反応液を除き、更に、純水1000gを加えて洗浄処理を行い、常法によりろ過後、更に純水100gで洗浄後、乾燥し、粉砕して高純度炭酸バリウムを得た。得られた高純度炭酸バリウムの主物性を表3に示す。なお、この不純物量は、ICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0041】
【表3】
────────────────────────
レーザー法により求めた平均 4.06
粒径(μm)
────────────────────────
BET比表面積 1.25
(m2/g)
────────────────────────
高純度炭酸バリウムの純度(%) 99.99
────────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 0.2以下
Ca含有量(ppm) 0.4
Sr含有量(ppm) 0.5
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 20
Ni含有量(ppm) 0.1以下
Cu含有量(ppm) 0.1以下
Zn含有量(ppm) 0.1以下
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.2以下
Si含有量(ppm) 0.7
Cl含有量(ppm) 2.5
────────────────────────
【0042】
比較例1
本比較例は、第一工程〜第三工程を行わないものであり、具体的な工程は以下のとおりである。すなわち、上記粗製硝酸バリウム270gを純水3000gに60℃で溶解し、更に、これに28%アンモニア水140gを添加してpH13とし、更に60℃で1時間攪拌した。次に、45℃で孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して濾過を行った。反応系内の温度を45℃に調製し、次に、30%硫酸水溶液300mlを入れた洗気ビン(容積500ml、サイズ;たて7cm×横7cm×高さ15cm)を通過させた二酸化炭素を反応系内に流量200ml/minで100g導入した。次に60℃で1時間で攪拌下に反応を行った後、反応を終了した。次に、静置後、反応液を除き、更に、純水1000gを加えて洗浄処理を行い、常法によりろ過後、更に純水100gで洗浄後、乾燥し、粉砕して高純度炭酸バリウムを得た。得られた高純度炭酸バリウムの主物性を表4に示す。なお、この不純物量は、ICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0043】
【表4】
────────────────────────────
レーザー法により求めた平均粒径(μm) 4.75
────────────────────────────
BET比表面積 1.13
(m2/g)
────────────────────────────
高純度炭酸バリウムの純度(%) 99.90
────────────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 3.1
Ca含有量(ppm) 0.3
Sr含有量(ppm) 16.9
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 200
Ni含有量(ppm) 0.2
Cu含有量(ppm) 0.7
Zn含有量(ppm) 0.2
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.6
Si含有量(ppm) 1.1
Cl含有量(ppm) 2.5
────────────────────────────
【0044】
比較例2
本比較例は、第一工程及び第二工程を行わないものであり、具体的な工程は以下のとおりである。すなわち、上記粗製硝酸バリウム1150gを純水3850gに90℃で溶解し水溶液を調製した。次に、この水溶液に、70%硝酸を35g添加してpH0.7とし、更に90℃で1時間攪拌した。次に、10℃まで冷却し、硝酸バリウムの結晶を析出させた。得られた結晶を常法により濾過、乾燥し精製硝酸バリウム893gを得た。得られた精製硝酸バリウムの不純物含有量を表5に示す。なお、この不純物量は、ICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0045】
【表5】
────────────────────────
精製硝酸バリウムの純度(%) 99.90
────────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 0.2以下
Ca含有量(ppm) 0.62
Sr含有量(ppm) 0.62
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 500
Ni含有量(ppm) 0.1以下
Cu含有量(ppm) 0.1以下
Zn含有量(ppm) 0.1以下
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.2以下
Si含有量(ppm) 0.5
Cl含有量(ppm) 2.5
────────────────────────
【0046】
次に、実施例1の第四工程と同様な方法で高純度炭酸バリウムを得た。得られた高純度炭酸バリウムの主物性を表6に示す。なお、この不純物量は、ICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0047】
【表6】
──────────────────────────────
レーザー法により求めた平均粒径(μm) 4.71
──────────────────────────────
BET比表面積 1.11
(m2/g)
──────────────────────────────
高純度炭酸バリウムの純度(%) 99.90以上
──────────────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 3.3
Ca含有量(ppm) 0.7
Sr含有量(ppm) 1.1
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 400
Ni含有量(ppm) 0.1以下
Cu含有量(ppm) 0.1以下
Zn含有量(ppm) 0.1以下
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.7
Si含有量(ppm) 0.9
Cl含有量(ppm) 2.5
──────────────────────────────
【0048】
比較例3
本比較例は、第三工程を行わないものであり、具体的な工程は以下のとおりである。すなわち、上記粗製硝酸バリウム270gを純水3000gに60℃で溶解し水溶液を調製した。次に、この温度を維持したままこの水溶液に30%過酸化水素水溶液0.2gを加え、更に28%アンモニア水20gを加えた後、60℃で1時間攪拌下に熟成した。次に、この反応液を45℃で孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して濾過を行った。次に、この濾過液に、28%アンモニア水120gを添加してpH13とし、更に45℃で1時間攪拌した。次に、45℃で孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して濾過を行った。この濾過液の温度を45℃に調製し、次に、30%硫酸水溶液300mlを入れた洗気ビン(容積500ml、サイズ;たて7cm×横7cm×高さ15cm)を通過させた二酸化炭素を反応系内に流量200ml/minで100g導入した。次に60℃で1時間で攪拌下に反応を行った後、反応を終了した。次に、静置後、反応液を除き、更に、純水1000gを加えて洗浄処理を行い、常法によりろ過後、更に限外濾過モジュールを通した純水100gで洗浄後、乾燥し、粉砕して高純度炭酸バリウムを得た。得られた高純度炭酸バリウムの主物性を表6に示す。なお、この不純物量は、ICP発光分光分析法および比濁法によって求めた値である。
【0049】
【表7】
────────────────────────────
レーザー法により求めた平均粒径(μm) 5.20
────────────────────────────
BET比表面積 0.85
(m2/g)
────────────────────────────
高純度炭酸バリウムの純度(%) 99.90
────────────────────────────
Li含有量(ppm) 0.2以下
Na含有量(ppm) 0.2以下
Ca含有量(ppm) 1.1
Sr含有量(ppm) 1.9
Mn含有量(ppm) 0.1以下
Fe含有量(ppb) 110
Ni含有量(ppm) 0.1以下
Cu含有量(ppm) 0.1以下
Zn含有量(ppm) 0.2
La含有量(ppm) 0.1以下
Ce含有量(ppm) 0.1以下
Yb含有量(ppm) 0.1以下
Al含有量(ppm) 0.4
Si含有量(ppm) 0.8
Cl含有量(ppm) 2.5
────────────────────────────
【0050】
【発明の効果】
上記のとおり、本発明の高純度炭酸バリウムの製造方法によれば、アルカリ金属、遷移金属、特にSr、Ca、Cl等が数ppm以下で、Feが100ppb以下まで低減された高純度炭酸バリウムを製造することができ、この高純度炭酸バリウムは、特に光ケーブル、ステッパー等の光学ガラスの原料として有用である。

Claims (6)

  1. 粗製硝酸バリウム、粗製硝酸バリウムに対して0.1ppm以上の過酸化水素及び粗製硝酸バリウム水溶液がpH9以上となるような添加量のアンモニアを水に溶解し、次いで、0.5時間以上攪拌下に熟成する第一工程、第一工程で得られる粗製硝酸バリウム水溶液から、孔径1μm以下の濾過材を用いて濾過し、不溶分を除去する第二工程、第二工程で得られる不溶分除去後の水溶液を冷却して、あるいは、該不溶分除去後の水溶液中の水分を蒸発させて、あるいは、該不溶分除去後の水溶液に硝酸を添加した後、冷却して、硝酸バリウムを析出させて精製硝酸バリウムを得る第三工程、第三工程で得られる精製硝酸バリウムを、pHが7未満とならない条件下で、二酸化炭素と反応させ炭酸バリウムを析出させて高純度炭酸バリウムを得る第四工程、を含むことを特徴とする高純度炭酸バリウムの製造方法。
  2. 前記第三工程は、硝酸存在下に硝酸バリウムを析出させるものである請求項1記載の高純度炭酸バリウムの製造方法。
  3. 前記第四工程で用いる二酸化炭素は、予め、酸水溶液中を通過させたものである請求項1又は2のいずれか1項記載の高純度炭酸バリウムの製造方法。
  4. 前記第四工程は、精製硝酸バリウム及びアルカリを水に溶解した後に不溶分を除去した水溶液に二酸化炭素を導入し炭酸バリウムを析出させて高純度炭酸バリウムを得るものである請求項1乃至のいずれか1項記載の高純度炭酸バリウムの製造方法。
  5. 前記不溶分の除去は、孔径1μm以下の分離膜により行うものである請求項記載の高純度炭酸バリウムの製造方法。
  6. 前記第一工程又は第四工程で用いる水は、少なくとも逆浸透圧膜又は限外濾過膜のいずれかを通過させた純水を用いるものである請求項1乃至のいずれか1項記載の高純度炭酸バリウムの製造方法。
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